説明

酸性タイプ液状経腸栄養剤

【課題】液状経腸栄養剤を酸性にしてもカゼイン加水分解物と特定の乳化剤を使用して調製することにより、製造工程中の均質化処理や加熱殺菌処理後も乳化安定性が良好に確保され、粘度が低く、チューブ流動性に優れ、栄養補給を必要とする高齢者や患者などへの栄養補給の際に摂取できるようにした酸性タイプ液状経腸栄養剤を提供すること。
【解決手段】たんぱく質が平均分子量500〜10000ダルトンのカゼイン加水分解物を使用し、乳化剤が有機酸モノグリセライドを0.2〜1重量%配合し、加熱殺菌後の経腸栄養剤の粘度が3〜30mPa・sである酸性タイプ液状経腸栄養剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は経管投与または経口摂取で栄養補給を必要とする高齢者や患者などに対して、効率的にたんぱく質、脂質、糖質、ビタミン、ミネラルなどの補給ができる液状経腸栄養剤に関する。
更に詳しくは、栄養価の高い良質のたんぱく質として乳たんぱく質であるカゼイン加水分解物を使用し、油脂を特定の乳化剤で乳化し、pH3〜4の酸性域において加熱殺菌後も乳化安定性が良好で、粘度が低く、チューブ流動性に優れ、チューブに詰まらない酸性タイプ液状経腸栄養剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
経腸栄養法は経静脈栄養法に比べて生理的で、小腸粘膜の機能を維持し、バクテリアルトランスロケーションを予防することが可能な方法で、合併症の予防、在院日数の短縮が可能になるなど有用性が高い。経腸栄養法に用いられる液状の経腸栄養剤は、体に必要な各種の栄養素であるたんぱく質、脂質、糖質、ビタミン、ミネラルなどが十分量、バランスよく配合されており、通常の食事などを摂取できない手術前後の患者、高齢者などに栄養補給を行い、その体力などの回復や治癒を促進させるものとして欠かせないものである。
経腸栄養法で使用される経腸栄養剤は、たんぱく質成分として、乳たんぱく質や大豆たんぱく質などが使用されているが、たんぱく質成分の多くは、酸性側に等電点を有するため、酸性域では、たんぱく質と分散媒との静電的相互作用が損なわれ、たんぱく質は凝集、沈殿、相分離などが生じやすい。また、このような栄養組成物は、苛酷な均質化処理や加熱殺菌処理を施すため、たんぱく質−脂質複合体の構造変化が引き起こされ、乳化安定性が損なわれてしまい、消費者に供するに十分な栄養組成物が調製されるには至っていない。このため、現在市場に出回っている経腸栄養剤の多くはpH6.0〜7.5程度の中性タイプのものである。
従来から使用されている中性タイプの経腸栄養剤は、チューブを介して胃中に投与すると、たんぱく質成分が胃液と接触した際、凝集する傾向にあり、そのため、チューブ先端にたんぱく質の凝集ができ、チューブ詰まりが生じることがあった。このため、経腸栄養剤のpHをあらかじめ酸性域で調製し、たんぱく質を安定して分散させることができれば、たんぱく質成分が胃液と接触しても、たんぱく質成分が凝集し難くなり、チューブ詰まりを抑制することが可能となる。
【0003】
このように、これまでの経腸栄養剤は、上述のような課題点を有しており、市場では、たんぱく質、脂質、糖質、ビタミン、ミネラルなどが十分量、バランスよく配合され、さらに、乳化安定性が良好で、粘度が低く、チューブ流動性に優れ、チューブに詰まらない液状経腸栄養剤が望まれていた。
上記のような課題に対して、例えば、たんぱく質を含有する酸性タイプの飲料組成物については、既に文献に記載されており、すなわち、HLB9以上のポリグリセリン脂肪酸エステル、及び0.1〜5.0w/w%のたんぱく質を含有する、pH3.0〜4.2の酸性飲料(特許文献1参照)やホエーたんぱく質濃縮物、糖アルコール及び高甘味度甘味料を含有し、ホエーたんぱく質の含有量が0.8〜5w/v%、pHが3.2〜3.8の低カロリー酸性たんぱく飲料(特許文献2参照)がある。しかし、たんぱく質濃度を3.5w/v%以上に調製した場合、たんぱく質の分散安定性が著しく低下し、加熱殺菌時の加熱などによって、たんぱく質が凝集・沈殿したり、ゲル化したりする傾向にあり、貯蔵安定性や流動性が劣るものであった。また、たんぱく質濃度が高く、貯蔵安定性や流動性に優れた酸性タイプの飲料組成物などの酸性液状経腸栄養剤は、これまで知られていなかった。
【0004】
また、ゲル化剤を使用した方法として、例えば、発酵乳などの蛋白食品に果汁、有機酸などが添加された酸性下において、蛋白質粒子の凝集、沈殿、相分離などが生じるのを防止することができる酸性蛋白安定化剤として、紅藻から抽出される硫酸多糖類を含有することを特徴とする酸性蛋白安定化剤(特許文献3参照)がある。しかし、この酸性たんぱく食品は、紅藻から抽出される硫酸多糖類をたんぱく質安定化剤として用いるので、汎用性に乏しく、また、粘度が高くなるという課題があった。
さらに、タンパク質の安定性に優れ、低pHにおいても調製可能な酸乳ゲル組成物として、ジェランガム、寒天または大豆多糖類を含有することを特徴とする酸乳ゲル組成物(特許文献4参照)がある。しかし、この技術は、たんぱく質安定化剤として汎用されている大豆食物繊維やペクチンを用いて乳たんぱく成分を安定化する技術であるが、たんぱく質やたんぱく加水分解物の含有量が多い酸性飲食品には必ずしも適さない場合り、また、粘度が高くなる課題を有していた。
【0005】
従って、栄養価の高い良質のたんぱく質として乳たんぱく質を使用し、栄養素が十分量、バランスよく配合され、加熱殺菌処理しても乳化安定性が良好で、粘度が低く、チューブ流動性に優れ、チューブに詰まらない酸性タイプ液状経腸栄養剤が待望されていた。
【0006】
【特許文献1】特開平5−184341号公報
【特許文献2】特開平11−123069号公報
【特許文献3】特開2002−125587号公報
【特許文献4】特開2002−153219号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上述の状況を鑑みてなされたもので、液状経腸栄養剤を酸性にしてもカゼイン加水分解物と特定の乳化剤を使用して調製することにより、製造工程中の均質化処理や加熱殺菌処理後も乳化安定性が良好に確保され、粘度が低く、チューブ流動性に優れ、栄養補給を必要とする高齢者や患者などへの栄養補給の際に摂取できるようにした酸性タイプ液状経腸栄養剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の分子量のカゼイン加水分解物と特定の乳化剤を使用して調製することにより、たんぱく質、脂質、糖質、ビタミン、ミネラルなどが十分量、バランスよく配合され、加熱殺菌後も乳化安定性が良好で、粘度が低く、チューブ流動性に優れ、チューブに詰まらない酸性タイプ液状経腸栄養剤を得られることを見出し、この知見に基づき本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(4)に示したものである。
(1)たんぱく質、脂質、糖質、ビタミン、ミネラルを含有し、pHが3〜4の範囲の酸性タイプ液状経腸栄養剤において、たんぱく質が平均分子量500〜10000ダルトンのカゼイン加水分解物を使用し、乳化剤が有機酸モノグリセライドを0.2〜1重量%配合し、加熱殺菌後の経腸栄養剤の粘度が3〜30mPa・sである酸性タイプ液状経腸栄養剤。
(2)有機酸モノグリセライドがコハク酸モノグリセライドまたはジアセチル酒石酸モノグリセライドから選ばれる少なくとも1種の乳化剤である上記(1)に記載の酸性タイプ液状経腸栄養剤。
(3)カゼイン加水分解物の含有量が2〜8重量%である上記(1)または(2)に記載の酸性タイプ液状経腸栄養剤。
【発明の効果】
【0009】
以上述べたように、本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤は、特定の分子量のカゼイン加水分解物と特定の乳化剤を使用して調製することにより、たんぱく質、脂質、糖質、ビタミン、ミネラルなどが十分量、バランスよく配合され、製造工程中の均質化処理や加熱殺菌処理後も乳化安定性が良好で、粘度が低く、チューブ流動性に優れ、チューブに詰まらず、栄養補給を必要とする高齢者や患者などへの栄養補給の際に摂取できるようにした酸性タイプ液状経腸栄養剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤を詳細に説明する。
本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤で使用するたんぱく質原料としては、平均分子量が500〜10000ダルトン、好ましくは1000〜7500ダルトンのカゼイン加水分解物であれば、特に限定されるものではない。また、前記平均分子量の範囲内であれば、異なる平均分子量のカゼイン加水分解物を組み合わせて使用しても良い。なお、本発明において平均分子量とは、重量平均分子量を意味する。
カゼイン加水分解物の平均分子量が500ダルトンより小さいと、脂質を乳化し、加熱殺菌した際の乳化安定性を保持できなくなるため、好ましくない。また、カゼイン加水分解物の平均分子量が10000ダルトンより大きいと、経腸栄養剤のpHを4以下にすると、不溶性の凝集物や沈殿物を生じ、液状でなくなるので、経管投与の際にチューブ閉塞の原因となり、投与が困難となるため、好ましくない。
本発明に使用することのできる具体的なカゼイン加水分解物としては、HCP102(タツア・ジャパン株式会社)、エマルアップやC800(森永乳業株式会社)が挙げられる。
【0011】
本発明において、カゼイン加水分解物の平均分子量を求める方法は、当該技術分野における慣用技術ならびに知識がそのまま、もしくは適宜変更を加えた形で適用され、代表的にはゲルろ過クロマトグラフィーが挙げられる。すなわち、高速液体クロマトグラフィー装置に紫外可視分光検出器を連結し、カゼイン加水分解物をゲルろ過カラムに供し、溶離液を流すことによって溶離したカゼイン加水分解物を分析する方法である。この方法を用いた場合、カゼイン加水分解物の平均分子量は、紫外可視分光検出器の感度から高速液体クロマトグラフィーのデータ処理装置に従って計算することにより、求めることができる。
本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤のカゼイン加水分解物の含有量は、2〜8重量%、好ましくは3〜6重量%の範囲内である。カゼイン加水分解物の含有量が2重量%より少ないと、窒素源として栄養学的に不十分となるため、好ましくない。また、カゼイン加水分解物の含有量が8重量%より多いと、窒素源として過剰摂取となるため、好ましくない。
【0012】
本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤には、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で、従来から食品に慣用されるたんぱく質加水分解物を配合してもよい。たんぱく質加水分解物の由来としては、カゼイン以外に、乳清、トータル・ミルク・プロテイン(TMP)、ミルク・プロテイン・コンセントレート(MPC)などの乳蛋白、卵白、コラーゲン、プロタミンなどの動物性蛋白、大豆、小麦、とうもろこしなどの植物性蛋白などから製造されるものが挙げられる。
【0013】
本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤に用いる乳化剤は、有機酸モノグリセライドであり、コハク酸モノグリセライド、ジアセチル酒石酸モノグリセライド、クエン酸モノグリセライド、酢酸モノグリセライド、乳酸モノグリセライドなどが挙げられる。その中でも、コハク酸モノグリセライド、ジアセチル酒石酸モノグリセライドが好ましい。
本発明に使用することのできる具体的な乳化剤としては、ポエムB−10やポエムW−10(理研ビタミン株式会社)、サンソフトNo.681NUやサンソフトNo.641D(太陽化学株式会社)が挙げられる。
本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤に配合される乳化剤の配合量は、0.2〜1重量%、好ましくは0.3〜0.5重量%の範囲である。
乳化剤の配合量が、0.2重量%より少ないと、乳化剤の効果が十分発揮できず、保存中に乳化状態を保持できなくなるため、好ましくない。また、1重量%を越えると、乳化剤の風味が強くなるため、食品として好ましくない。
【0014】
なお、本発明の目的を逸脱しない範囲において、有機酸モノグリセライド以外の汎用される乳化剤、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルなどを追加して使用することができる。
【0015】
本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤に用いる脂質としては、従来使用されているものはいずれも可能であり、例えば、アマニ油、エゴマ油、オリーブ油、ごま油、米ぬか油、サフラワー油、シソ油、大豆油、とうもろこし油、ナタネ油、胚芽油、パーム油、パーム核油、ひまわり油、綿実油、やし油、落花生油等の植物性油脂、魚油、乳脂等の動物性油脂、中鎖脂肪酸、高度不飽和脂肪酸などが挙げられる。これらは1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。また、その他にDHA、EPA、ジアシルグリセロールなどの加工製剤も添加することができる。
本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤に配合される脂質の配合量は、1〜3重量%好ましくは1.5〜2.5重量%の範囲である。
【0016】
本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤で使用する糖類としては、従来から、食品に慣用されるものでよく、例えば、澱粉、デキストリンやブドウ糖および果糖などの単糖類、マルトースおよび乳糖などの二糖類、砂糖、グラニュー糖、水飴、還元水飴、はちみつ、異性化糖、転化糖、オリゴ糖(イソマルトオリゴ糖、還元キシロオリゴ糖、還元ゲンチオオリゴ糖、キシロオリゴ糖、ゲンチオオリゴ糖、ニゲロオリゴ糖、テアンデオリゴ糖、大豆オリゴ糖など)、粉飴、トレハロース、糖アルコール(マルチトール、エリスリトール、ソルビトール、パラチニット、キシリトール、ラクチトールなど)、砂糖結合水飴(カップリングシュガー)などが挙げられる。これらは1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
また、従来公知もしくは将来知られうる甘味成分も糖類の代わりに用いることができる。具体的には、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、アリテーム、ネオテーム、カンゾウ抽出物(グリチルリチン)、サッカリン、サッカリンナトリウム、ステビア抽出物、ステビア末などの甘味成分を用いても良い。
【0017】
本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤を製造する際には、製品の種類に応じて通常用いられる適当なビタミンやミネラルなどの成分を配合することが出来る。
本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤に用いるビタミンとしては、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビオチン、ビタミンC、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンKなどが挙げられ、これら複数をできる限り組み合わせて配合するのが好ましい。ビタミンとして、ビタミン誘導体を使用してもよい。
【0018】
ビタミンの配合量としては、酸性タイプ液状経腸栄養剤100mLあたり、下記の範囲が適当である。
ビタミンB1 0.1〜40mg、好ましくは0.3〜25mg
ビタミンB2 0.1〜20mg、好ましくは0.33〜12mg
ビタミンB6 0.1〜60mg、好ましくは0.3〜10mg
ビタミンB12 0.1〜100μg、好ましくは0.60〜60μg
ナイアシン 1〜300mg、好ましくは3.3〜60mg
パントテン酸 0.1〜55mg、好ましくは1.65〜30mg
葉酸 10〜1000μg、好ましくは60〜200μg
ビオチン 1〜1000μg、好ましくは14〜500μg
ビタミンC 10〜2000mg、好ましくは24〜1000mg
ビタミンA 0〜3000μg、好ましくは135〜600μg
ビタミンD 0.1〜50μg、好ましくは1.5〜5.0μg
ビタミンE 1〜800mg、好ましくは2.4〜150mg
ビタミンK 0.5〜1000μg、好ましくは2〜700μg
【0019】
本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤に用いるミネラルとして、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、鉄、銅、亜鉛、マンガン、セレン、ヨウ素、クロムおよびモリブデンなどが挙げられ、これら複数をできる限り組み合わせて配合するのが好ましい。これらは、無機電解質成分として配合されていても良いし、有機電解質成分、として配合されていてもよい。無機電解質成分としては、例えば、塩化物、硫酸化物、炭酸化物、リン酸化物などのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩類が挙げられる。また、有機電解質成分としては、有機酸、例えばクエン酸、乳酸、アミノ酸(例えば、グルタミン酸、アスパラギン酸など)、アルギン酸、リンゴ酸またはグルコン酸と、無機塩基、例えばアルカリ金属またはアルカリ土類金属との塩類が挙げられる。例えば、塩化カルシウム、クエン酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、水酸化カルシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアロイル乳酸カルシウム、炭酸カルシウム、乳酸カルシウム、ピロリン酸二水素カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、未焼成カルシウム、塩化マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、リン酸三マグネシウム、塩化第二鉄、クエン酸第一鉄ナトリウム、クエン酸鉄、クエン酸鉄アンモニウム、グルコン酸第一鉄、乳酸鉄、ピロリン酸第二鉄、硫酸第一鉄、グルコン酸亜鉛、硫酸亜鉛、グルコン酸銅、硫酸銅などが挙げられる。また、ヨウ素、セレン、クロム、モリブデン、マンガンなどは、高濃度の微量元素化合物を含有する培地内で培養して得られる微量元素蓄積性を有する微生物由来の微量元素含有微生物菌体を用いても良い。
【0020】
ミネラルの配合量としては、酸性タイプ液状経腸栄養剤100mLあたり、下記の範囲が適当である。
ナトリウム 5〜6000mg、好ましくは10〜3500mg
カリウム 1〜3500mg、好ましくは25〜1800mg
マグネシウム 1〜740mg、好ましくは25〜300mg
カルシウム 10〜2300mg、好ましくは250〜600mg
リン 1〜3500mg、好ましくは25〜1500mg
鉄 0.1〜55mg、好ましくは1〜10mg
銅 0.01〜10mg、好ましくは0.1〜6mg
亜鉛 0.1〜30mg、好ましくは1〜15mg
マンガン 0.01〜11mg、好ましくは0.1〜4mg
セレン 0.1〜450μg、好ましくは1〜35μg
クロム 0.1〜40μg、好ましくは1〜35μg
ヨウ素 0.1〜3000μg、好ましくは1〜150μg
モリブデン 0.1〜320μg、好ましくは1〜25μg
【0021】
本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤の1mLあたりの熱量としては、特に限定されるものではないが、0.5〜2.0kcal、好ましくは0.75〜1.5kcalである。酸性タイプ液状経腸栄養剤の1mLあたりの熱量が0.5kcalより低いと、栄養学的に十分な熱量が得られない。酸性タイプ液状経腸栄養剤の1mLあたりの熱量が、2.0kcalより高いと、酸性タイプ液状経腸栄養剤の加熱殺菌後の粘度が高くなる。
【0022】
以上、本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではなく、必要に応じて、他の成分類や添加剤などを添加してもよい。例えば、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、グリセリン、プロピレングリコール、アラビアゴム、色素、香料、保存剤など、通常の食品原料として使用されている添加剤などを適宜添加してもよい。
本発明において製造に際しては上記に説明した組成範囲に基づいて更に、後述の実施例や栄養組成物の製造法として従来から知られている方法、もしくは今後新しく提供される方法を利用すれば、本発明で目的とする乳清たんぱく栄養組成物を製造することができる。
【0023】
本発明における均質化とは、水と油とを含む混合液をエマルションとし、さらにエマルションの液滴を微粒化することである。均質化の一つの方法としては、例えば、回転羽を有する攪拌機、高速回転するディスクやローターと固定ディスクを有するコロイドミル、超音波式乳化機、一種の高圧ポンプである均質機(ホモジナイザー)等が挙げられる。
【0024】
本発明における酸性タイプ液状経腸栄養剤は、容器等に充填された状態にあるものも含まれ、その場合、製剤を予め加熱滅菌した後に無菌的に容器に充填する方法(例えばUHT殺菌法とアセプティック充填法を併用する方法)、あるいは容器に充填した後に容器と一緒に加熱滅菌する方法(レトルト殺菌法、ボイル殺菌法)を採用することができる。なお、UHT殺菌法では飲料に直接水蒸気を吹き込むスチームインジェクション式や飲料を水蒸気中に噴射して加熱するスチームインフュージョン式等の直接加熱方式、プレートやチューブ等、表面熱交換機器を用いる間接加熱方式等の公知の方法で行うことができる。いずれの殺菌方式においても130〜150℃、2〜120秒程度の加熱処理が好ましい。レトルト殺菌の場合、110〜125℃、4〜30分程度の加熱処理が好ましい。また、ボイル(高温常圧)殺菌の場合、液状経腸栄養剤のpHが4.6以下で70〜95℃、5〜20分程度の加熱処理が好ましい。
【0025】
本発明で得られた酸性タイプ液状経腸栄養剤を収容する容器としては特に限定されないが、患者が摂取しやすい形態であることが好ましい。例えば、プラスチックボトル、ペットボトルやカート缶、テトラパックなどの紙製容器、または、アルミパウチ、もしくは、金属缶などが挙げられる。
使用する容器としては、軟質合成樹脂(例えば可塑化塩化ビニル樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエチレン(PE)系樹脂、ポリプロピレン(PP)系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−α−オレフィン共重合体等の各種ポリオレフィン系樹脂、ポリフルオロカーボン、ポリイミド等)により形成された密閉型であり、加熱殺菌可能な軟質容器が好適である。また、紙にアルミ箔、更に容器の内表面側に合成樹脂(例えばポリエチレン)をラミネートした素材により形成された容器等も使用することができ、このラミネート容器は、アセプティック包装法に好適である。
その他にも、医療用容器等に使用されている樹脂を適宜使用することができる。ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、エチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリエステル等のガスバリア性樹脂層や、アルミ箔、アルミ蒸着フィルム、酸化珪素皮膜、酸化アルミ被膜等のガスバリア性を有する層を、なお、容器に透明性を要求されるときはこれらのうち透明なものを選んで、上記した軟質合成樹脂に必要により適宜組み合わせて、フィルムの層成分として用いることが好ましい。
【0026】
本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤の加熱殺菌後の粘度としては、3〜30mPa・s、好ましくは3〜20mPa・s、より好ましくは5〜15mPa・sである。酸性タイプ液状経腸栄養剤の加熱殺菌後の粘度が、30mPa・sより高いと、経管栄養を実施する際、チューブ流動性が悪くなり、酸性タイプ液状経腸栄養剤の投与が困難となる。一方、3mPa・s以上であれば、水の粘度に近く、チューブ流動性に問題なく、チューブの閉塞はない。
粘度の測定は、第7版食品添加物公定書 B.一般試験法 28.粘度測定法 第2法 回転粘度計法で行う。例えば、RB80L形粘度計(東機産業株式会社)を用いて測定した値をいう。
【0027】
このようにして得られた酸性タイプ液状経腸栄養剤は、たんぱく質、脂質、糖質、ビタミン、ミネラルなどが十分量、バランスよく配合され、乳化安定性が良好で、粘度が低く、チューブ流動性に優れ、チューブに詰まらず、栄養補給を必要とする高齢者や患者などへの栄養補給の際に摂取できるようにすることができる。
【実施例】
【0028】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
表1に示す配合に基づき、後述する調製法1の方法により調製し、本発明の酸性タイプ液状経腸栄養剤を得た。得られた酸性タイプ液状経腸栄養剤の粘度は20mPa・sであり、溶出試験第1液と混合しても凝集物が認められず、40℃に30日間保存した後でも、乳化状態は良好であった。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
(調製法1)
65℃の温水6kgを攪拌しながら、リン酸二水素ナトリウム、クエン酸三カリウム、カゼイン加水分解物としてエマルアップ(平均分子量4600ダルトン、森永乳業株式会社)を少しずつ加え、十分に溶解させた後、デキストリンとしてサンデック#150(三和澱粉工業株式会社)、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、グルコン酸カルシウムを加えて十分に攪拌し水相とした。加温した大豆油に乳化剤としてコハク酸モノグリセライドであるコハク酸グリセリンモノステアレート(サンソフトNo.681NU、太陽化学株式会社)を投入し、溶解させて油相とした。水相に油相を混合し、プロペラ攪拌機により5分間の予備乳化を行った後、pH3.8となるようにクエン酸を加え、さらに、ミネラルミックス、ビタミンミックスを加えて十分に攪拌した。その後、水を加えて全量を10kgとし、原料溶液を得た。該原料溶液を高圧均質機により、50MPaの圧力で均質化処理し、これを200mL容チアーパックST(登録商標、株式会社細川洋行)に200mLずつ充填し、密封し、90℃で10分間のボイル殺菌処理を実施し、酸性タイプ液状経腸栄養剤を得た。
【0033】
(評価法1)
前述の実施例1、後述する実施例2から5と比較例1から6の液状経腸栄養剤の粘度をRB80L形粘度計(東機産業株式会社)を用いて測定した。結果を表4に示す。
(評価法2)
塩化ナトリウム2.0gを塩酸7.0mLおよび水に溶かして1000mLとした第十五改正日本薬局方溶出試験第1液20mLと実施例1から5と比較例1から6の液状経腸栄養剤10mLを混合した後、100号ふるいを通した際のふるい上に残った凝集物の有無を目視により観察した。結果を表4に示す。
○:凝集物なし。
×:凝集物あり。
(評価法3)
実施例1から5と比較例1から6の液状経腸栄養剤の調製直後および40℃に30日間保存した後の状態を目視により観察した。結果を表4に示す。
○:調製直後および40℃に30日間保存後ともに乳化状態は良好であった。
△:調製直後の乳化状態は良好であったが、40℃に30日間保存した後に油相分離が発生した。
×:調製直後に油相分離が発生した。
【0034】
【表4】

【0035】
(比較例1)
実施例1において、カゼイン加水分解物であるエマルアップをカゼインナトリウムであるALANATE180(フォンテラ ジャパン株式会社)に変えた以外は、実施例1と全く同じ調製法を繰り返して経腸栄養剤を得た。得られた経腸栄養剤の粘度は95mPa・sであった。
(比較例2)
実施例1において、カゼイン加水分解物であるエマルアップを乳清たんぱく質であるユニフィックスWT(日本新薬株式会社)に変えた以外は、実施例1と全く同じ調製法を繰り返して経腸栄養剤を得た。得られた経腸栄養剤は殺菌処理後に凝集物を発生した。
(比較例3)
実施例1において、カゼイン加水分解物であるエマルアップを乳清たんぱくペプチドであるLACPRODAN DI−3065(平均分子量1015ダルトン、アーラフーズイングレディエンツジャパン株式会社)に変えた以外は、実施例1と全く同じ調製法を繰り返して経腸栄養剤を得た。得られた経腸栄養剤は調製直後に油相分離が発生した。
(比較例4)
実施例1において、カゼイン加水分解物であるエマルアップを平均分子量470ダルトンのカゼイン加水分解物であるHCP301(タツア・ジャパン株式会社)に変えた以外は、実施例1と全く同じ調製法を繰り返して経腸栄養剤を得た。得られた経腸栄養剤は調製直後に油相分離が発生した。
(比較例5)
実施例1において、カゼイン加水分解物であるエマルアップを平均分子量11670ダルトンのカゼイン加水分解物であるHCP105(タツア・ジャパン株式会社)に変えた以外は、実施例1と全く同じ調製法を繰り返して経腸栄養剤を得た。得られた経腸栄養剤は溶出試験第1液と混合すると、凝集物が認められた。
【0036】
(実施例2)
実施例1において、乳化剤であるコハク酸モノグリセライドをジアセチル酒石酸モノグリセライド(ポエムW−10、理研ビタミン株式会社)に変えた以外は、実施例1と全く同じ調製法を繰り返して酸性タイプ液状経腸栄養剤を得た。得られた酸性タイプ液状経腸栄養剤の粘度は28mPa・sであり、溶出試験第1液と混合しても凝集物が認められず、40℃に30日間保存した後でも、乳化状態は良好であった。
(実施例3)
実施例2において、乳化剤であるジアセチル酒石酸モノグリセライド40gを25gに変えた以外は、実施例2と全く同じ調製法を繰り返して酸性タイプ液状経腸栄養剤を得た。得られた酸性タイプ液状経腸栄養剤の粘度は24mPa・sであり、溶出試験第1液と混合しても凝集物が認められず、40℃に30日間保存した後でも、乳化状態は良好であった。
【0037】
(比較例6)
実施例2において、乳化剤であるジアセチル酒石酸モノグリセライド40gを15gに変えた以外は、実施例2と全く同じ調製法を繰り返して経腸栄養剤を得た。得られた経腸栄養剤の粘度は21mPa・sであり、溶出試験第1液と混合しても凝集物が認められなかったが、40℃に30日間保存した後に油相分離が発生した。
(比較例7)
実施例2において、乳化剤であるジアセチル酒石酸モノグリセライドを蒸留モノグリセライド(エマルジーMS、理研ビタミン株式会社)に変えた以外は、実施例2と全く同じ調製法を繰り返して経腸栄養剤を得た。得られた経腸栄養剤の粘度は19mPa・sであり、溶出試験第1液と混合しても凝集物が認められなかったが、40℃に30日間保存した後に油相分離が発生した。
【0038】
(比較例8)
実施例2において、組成を乳化剤であるジアセチル酒石酸モノグリセライドをポリグリセリン脂肪酸エステル(サンソフトQ−17S、太陽化学株式会社)に変え、以下の調製法2の方法により調製し、液状経腸栄養剤を得た。得られた経腸栄養剤は調製直後に油相分離が発生した。
(調製法2)
65℃の温水6kgを攪拌しながら、リン酸二水素ナトリウム、クエン酸三カリウム、カゼイン加水分解物としてエマルアップを少しずつ加え、十分に溶解させた後、乳化剤、デキストリンとしてサンデック#150、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、グルコン酸カルシウムを加えて十分に攪拌し水相とした。加温した大豆油を水相に混合し、プロペラ攪拌機により5分間の予備乳化を行った後、pH3.8となるようにクエン酸を加え、さらに、ミネラルミックス、ビタミンミックスを加えて十分に攪拌した。その後、水を加えて全量を10kgとし、原料溶液を得た。該原料溶液を高圧均質機により、50MPaの圧力で均質化処理し、これを200mL容チアーパックST(株式会社細川洋行)に200mLずつ充填し、密封し、90℃で10分間のボイル殺菌処理を実施し、経腸栄養剤を得た。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、特定の分子量のカゼイン加水分解物と特定の乳化剤を使用して調製することにより、たんぱく質、脂質、糖質、ビタミン、ミネラルなどが十分量、バランスよく配合され、製造工程中の均質化処理や加熱殺菌処理後も乳化安定性が良好で、粘度が低く、チューブ流動性に優れ、チューブに詰まらず、栄養補給を必要とする高齢者や患者などへの栄養補給の際に摂取できるようにした酸性タイプ液状経腸栄養剤に関するものであって、産業上十分に利用できるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
たんぱく質、脂質、糖質、ビタミン、およびミネラルを含有し、pHが3〜4の範囲の酸性タイプ液状経腸栄養剤において、たんぱく質が平均分子量500〜10000ダルトンのカゼイン加水分解物であり、さらに乳化剤が有機酸モノグリセライドを0.2〜1重量%含有し、加熱殺菌後の粘度が3〜30mPa・sである酸性タイプ液状経腸栄養剤。
【請求項2】
前記有機酸モノグリセライドがコハク酸モノグリセライドまたはジアセチル酒石酸モノグリセライドから選ばれる少なくとも1種の乳化剤である請求項1に記載の酸性タイプ液状経腸栄養剤。
【請求項3】
前記カゼイン加水分解物の含有量が2〜8重量%である請求項1または2に記載の酸性タイプ液状経腸栄養剤。

【公開番号】特開2010−83774(P2010−83774A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−252242(P2008−252242)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】