説明

酸性ポリマーを用いた燃料電池の電解質膜

酸性ポリマーおよび低揮発性の酸によって電解質膜を形成するが、その低揮発性の酸は、フッ素化されており、実質的に塩基性基を有さず、オリゴマーまたは非ポリマーのいずれかである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池などの電気化学装置における電解質膜に関する。具体的には、本発明は、プロトン伝導性を維持すると共に、高温で動作されたときに安定である電解質膜に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素などの燃料と酸素などの酸化剤との触媒される組合わせによって、有用な電気を発生させる電気化学装置である。内燃機関発電機などの従来の発電装置とは対称的に、燃料電池は燃焼を利用するものではない。したがって、燃料電池は、有害な排出物をほとんど発生しない。燃料電池は水素燃料と酸素を直接電気に変換するものであり、内燃機関発電機と比較して、より高度な効率で動作させることができる。
【0003】
プロトン交換膜(PEM)燃料電池などの燃料電池は、典型的には、膜電極アセンブリ(MEA)を含有し、その膜電極アセンブリは、一対のガス拡散層の間に設けられた触媒被覆膜によって形成されている。触媒被覆膜自体は、典型的には、一対の触媒層の間に設けられた電解質膜を含む。電解質膜の各側は、陽極部分および陰極部分と呼ばれる。典型的なPEM燃料電池において、水素燃料は陽極部分内に導入され、その陽極部分において、水素が反応しプロトンとエレクトロンに分離する。電解質膜は、プロトンを陰極部分に移動させる一方で、エレクトロンの流れを、外部回路を通じて陰極部分へと流動させて、電力を供給することを可能にしている。酸素は、陰極部分に導入され、プロトンおよびエレクトロンと反応して水と熱を生じる。また、MEAは水を保持して、層間の、特に電解質膜におけるプロトン伝導度を維持することが望ましい。層間のプロトン伝導度が低下すると、それに応じて燃料電池の電気出力が低下する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
燃料電池に伴う共通の問題には、触媒層の一酸化炭素被毒があり、この一酸化炭素被毒によって触媒層の効果が低下する。この低下に対処するためには、電気出力の有効レベルを実現するように、より高い触媒濃度が必要となる。これによって、燃料電池を製造するための材料費がそれに応じて増加する。一酸化炭素被毒を減じるための1つの技法には、燃料電池をより高い温度(例えば100℃超)で動作させることが挙げられる。しかしながら、温度が上昇することにより、MEAに保持されている水が蒸発し、それによって層内および層間におけるプロトン伝導度が低下する。したがって、高温で動作する一方でプロトン伝導度を保つ電気化学装置が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、酸性ポリマーと酸とを含む電解質膜に関するが、その酸は、フッ素化された、実質的に塩基性基のない低揮発性酸であり、オリゴマーかまたは非ポリマーのいずれかである。結果として、その電解質膜は、プロトン伝導性を保ちながらも高い動作温度で使用することができる。本発明はさらに、その電解質膜を形成する方法およびその電解質膜を含む電気化学装置に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
図1は、外部電気回路12と共に使用したMEA10の図であり、MEA10は、本発明の電解質膜14を含む。MEA10は、PEM燃料電池などの電気化学電池において使用するのに好適であり、陽極部分16、陰極部分18、触媒層20および22、並びにガス拡散層24および26をさらに含む。陽極部分16および陰極部分18は、一般に、MEA10の陽極側および陰極側を指す。
【0007】
電解質膜14が触媒層20と22との間に設けられており、電解質膜14並びに触媒層20および22は、触媒被覆膜であってもよい。電解質膜14は熱的に安定であり、良好なプロトン伝導度を示す一方で、触媒層20および22の一酸化炭素被毒を低下させるために、高温(例えば、150℃まで)で動作させることができる。
【0008】
触媒層20が、電解質膜14とガス拡散層24との間に設けられており、ガス拡散層24は、MEA10の陽極部分16に位置する。同様に、触媒層22が、電解質膜14とガス拡散層26との間に設けられており、ガス拡散層26は、MEA10の陰極部分18に位置する。ガス拡散層24および26はそれぞれ、炭素繊維組織体(例えば、炭素繊維織布および不織布組織体)など、任意の好適な導電性多孔性基材であってもよい。またガス拡散層24および26は、疎水性を増加または付与するように処理されてもよい。
【0009】
MEA10の動作中、水素燃料(H)が、陽極部分16でガス拡散層24に導入される。あるいは、MEA10は、メタノール、エタノール、ギ酸、および改質ガスなどの他の燃料源を使用してもよい。燃料は、ガス拡散層24を通過して触媒層20の上に達する。触媒層20において、燃料は水素イオン(H)およびエレクトロン(e)に分離される。電解質層14は、水素イオンのみを通過させて、触媒層22およびガス拡散層24に到達させる。エレクトロンは、電解質膜14を通過することはできない。したがって、エレクトロンは、電流の形で外部電気回路12を循環する。この流れは、電動モータなどの電気負荷に給電すること、または充電式電池などのエネルギー蓄積装置に向けることもできる。酸素(O)が、陰極部分18においてガス拡散層26に導入される。酸素は、ガス拡散層26を通過して触媒層22の上に達する。触媒層22において、酸素、水素イオン、およびエレクトロンが結合して、水と熱が生じる。
【0010】
本発明の電解質膜14は、酸性ポリマーおよび酸を組成的に含む。「酸性ポリマー」および「酸」という用語は、本明細書においては異なる構成成分を定義するために使用されており、互換的に使用されてはいない(すなわち、「酸」という用語は酸性ポリマーを指すものではなく、また「酸性ポリマー」という用語は酸を指すものではない)。酸性ポリマーは熱的に安定であり、固定されたアニオン性官能基を含み、したがって界面アニオン性官能基の対イオンがプロトンである場合、結果として生じる酸性ポリマーは約5未満のpKaを有する。電解質膜14において使用するのに好適な酸性ポリマーの例には、酸性基を末端に有するペンダント基を有するフルオロポリマーが挙げられる。フルオロポリマーに好適なペンダント基には、式−RSOYを有するスルホン酸基が挙げられるが、式中、Rは、1個〜15個の炭素原子および0個〜4個の酸素原子を含む分枝状もしくは非分枝状のペルフルオロアルキル基、ペルフルオロアルコキシ基、またはペルフルオロエーテル基であり、Yは水素イオン、陽イオン、またはこれらの組合わせである。好適なペンダント基の例には、−OCFCF(CF)OCFCFSOY、−O(CFSOY、およびこれらの組合わせが挙げられる。
【0011】
また、フルオロポリマーは、式−SOYを有するスルホニル末端基など、1個以上の酸性末端基を含んでもよい。-酸性ポリマーの主鎖は、部分的にまたは完全にフッ素化されていてもよい。主鎖における好適なフッ素濃度には、主鎖の全質量を基準とした約40質量%以上が挙げられる。本発明の一実施形態において、フルオロポリマーの主鎖は過フッ素化されている。
【0012】
電解質膜14における酸性ポリマーの好適な濃度の例は、約50質量%〜約95質量%であるが、特に好適な濃度は約60質量%〜約80質量%である。酸性ポリマーの質量パーセントは、電解質膜14の全質量を基準としており、電解質膜14において使用されるいかなる補強母材(以下で論じる)も含んでいない。
【0013】
酸は、フッ素化されており、オリゴマーかまたは非ポリマーのいずれかであり、付加的なプロトン伝導度をもたらす低揮発性の酸である。酸が低揮発性であることにより、酸が高温のMEA10で蒸発することが防止される。低揮発性でない場合、酸は蒸発し、水素および酸素ガス流と共にMEA10から抜け出る。「低揮発性の酸」とは、本明細書においては、1℃から200℃に10℃/分の昇温速度で加熱され、次いで5分以内に120℃に冷却された後、24時間にわたって120℃に維持される間、酸の初期質量を基準として約6質量%以下の累積質量損失を有する酸として定義されるが、その累積質量損失は、その24時間の間に測定されるものである。累積質量損失は、熱質量分析器(TGA)で測定されてもよい。本発明の一実施形態において、酸は、濃縮された(例えば95質量%〜98質量%)硫酸の揮発性よりも低い揮発性を呈する。
【0014】
酸に対する「オリゴマー」とは、本明細書においては、20個以下の酸性官能基、および10,000未満の分子量を有する酸性分子として定義される。酸は、望ましくは分子1個当たり10個以下の酸性官能基、より望ましくは分子1個当たり5個以下の酸性官能基、さらにより望ましくは分子1個当たり2個の酸性官能基を含む。
【0015】
複数の酸性官能基(すなわち多官能価)を有することに加えて、酸はまた、ペルフルオロビス酸(perfluorinated bis-acid)のように、熱安定性を向上させるために全フッ素化されてもよい。酸が非ポリマーであることおよび多官能価であることが相まって、分子1個当たりの酸性官能基の密度が増加する。これによって、電解質膜14のプロトン伝導度は、ポリマー酸のみで達成可能なレベルを超えて増加する。
【0016】
本発明の一実施形態において、酸はまた、芳香族の複素環基などの塩基性基を実質的に有さないが、この塩基性基によってプロトン伝導度が不所望に損なわれることがある。例えば、窒素ヘテロ原子は、それ以外の場合にはプロトン輸送に利用可能なプロトンを消費する塩基である。また、芳香族の複素環基を有する酸は高価な材料であり、そのため、電解質膜14を製造するための材料費が増加する。
【0017】
電解質膜14において使用するのに好適な酸の例には、スルホン酸、イミド酸、メチド酸、およびこれらの組合わせが挙げられる。電解質膜14において使用するのに特に好適な酸の例には、ペルフルオロスルホン酸、ペルフルオロイミド酸、およびこれらの組合わせが挙げられる。好適なペルフルオロスルホン酸の例には、式HOS(CFSOHを有する酸が挙げられるが、式中、「n」は1〜10の範囲である(例えば、式HOS(CFSOHを有するジスルホン酸があり、このジスルホン酸を本明細書においては二硫酸塩または二硫酸と呼ぶ)。好適なペルフルオロイミド酸の例には、式C2m+1SONHSO(CFSONHSO2m+1を有する酸が挙げられるが、式中、「m」は1〜8の範囲である(例えば、式CFSONHSO(CFSONHSOCFを有するCビスイミド、および式CSONHSO(CFSONHSOを有するCビスイミドがある)。
【0018】
好適なペルフルオロスルホン酸およびペルフルオロイミド酸のさらなる例には、上述の酸が挙げられるが、(CF基およびC2m+1基は、窒素、酸素、およびこれらの組合わせなどのヘテロ原子を含む。加えて、好適なペルフルオロスルホン酸およびペルフルオロイミド酸のさらなる例には、上述の酸が挙げられるが、(CF基およびC2m+1基は、分枝状、直鎖状、環状、およびこれらの組合わせである。
【0019】
電解質膜14における酸の好適な濃度の例は、約5質量%〜約55質量%の範囲であるが、特に好適な濃度は約20質量%〜約35質量%である。酸の質量パーセントは、電解質膜14の全質量を基準としており、電解質膜14において使用されるいかなる補強母材(以下で論じる)も含んでいない。
【0020】
また電解質膜14は、望ましくは、リン酸の低い濃度を呈する。リン酸は燃料電池の白金触媒層を被毒させるが、それによって白金触媒の効果が減少する。リン酸を使用するときの被毒を克服する典型的な解決策は、白金触媒層の濃度を、白金の少なくとも約2ミリグラム/平方センチメートルに増加させることを含む。しかしながら、この白金濃度は、望ましい白金濃度の約10倍〜20倍であり、実質的に、燃料電池を製造するための原料費を増加させる。それゆえに、電解質膜14は望ましくは、約60質量%未満のリン酸を含有する。より望ましくは、電解質膜14は、約25質量%未満のリン酸を含有する。さらにより望ましくは、電解質膜14は、リン酸を実質的に有さない。
【0021】
電解質膜14はまた、プロトン伝導性の無機添加物などの無機添加物を含んでいてもよい。そのような添加物により、電解質膜14は、より低い濃度の酸で良好なプロトン伝導度を呈することが可能となる。これは有益なことであるが、それは、酸の流失が電解質膜14における酸の濃度に比例するから、および無機添加物が酸の残留をさらに促進するからである。酸はまた、柔軟性を維持するように酸性ポリマーを可塑化し、粒子状の無機添加物の場合には、無機添加物の間に伝導性架橋をもたらす。このことは、ポリマーと無機添加物を混合することによって作られる従来の膜とは対称的であり、従来の膜は、適切なプロトン伝導度に必要な濃度では脆くなることがある。
【0022】
無機添加物は粒子であってもよいし、または電解質膜14中で分子的に分散または溶解していてもよい。好適な無機添加物の例には、シリカ(例えば、非晶質ヒュームドシリカおよびシリカジェル)、ジルコニア、シランカップリングしたスルホン酸基を有するシリカ、シランカップリングしたスルホン酸基を有するジルコニア、硫酸化ジルコニア、リン酸ジルコニウム、ホスホン酸ジルコニウム、リン酸ジルコニウムスルホフェニレンホスホネート、複合金属酸化物ジェル(例えば、シリカ−カルシア−リン酸化ジェル)、複合金属酸化物ガラス、超プロトン伝導体(例えば、セシウムの硫酸水素塩およびリン酸水素塩)、ヘテロポリ酸、およびこれらの組合わせなどの金属酸化物粒子が挙げられる。粒子形状は、球状、針状、分枝状、板状、または繊維状であってもよい。
【0023】
市販されている好適な無機添加物の例には、イリノイ州タスコラ(Tuscola)のキャボット・コーポレーション(Cabot Corp.)から商標表記「CAB−O−SIL」として入手可能な非晶質ヒュームドシリカ、マサチューセッツ州ワードヒル(Ward Hill)のアルファ・エイサー(Alfa Aesar)から入手可能な非晶質ヒュームドシリカおよびシリカゲル(例えば、カタログ番号42737、41502、および42729)、並びに酸安定化され名目上陰イオンを有さない、イリノイ州ネーパービル(Naperville)のナルコ(Nalco)から商標表記「NALCO 1042」として入手可能であるシリカゾルが挙げられる。
【0024】
粒子状の無機添加物に好適な平均粒径の例は、約1ナノメートル〜約10マイクロメートルの範囲であるが、特に好適な平均粒径は、約5ナノメートル〜約1マイクロメートルの範囲であり、さらにより好適な平均粒径は、約10ナノメートル〜500ナノメートルの範囲である。粒子状の無機添加物はまた、界面活性剤を用いた合成(STS)によってもたらされるものなどの、メソ多孔性を有していてもよい。また、以下で論じるように、安定化する対イオンを有さない、酸性ポリマーの溶剤中に輸送される金属酸化物ゾルを使用してもよい。
【0025】
電解質膜14における無機添加物の好適な濃度の例は、約1質量%〜約60質量%の範囲であるが、特に好適な濃度は約10質量%〜約40質量%の範囲である。無機添加物の質量パーセントは、電解質膜14の全質量を基準としており、電解質膜14において使用されるいかなる補強母材(以下で論じる)も含んでいない。
【0026】
また電解質膜14は、酸化安定剤を含んでいてもよい。電解質膜14において使用するのに好適な酸化安定剤の例には、アスカベ(Asukabe)らの米国特許第6,335,112号、ウェッセル(Wessel)らの米国特許出願公報第2003/0008196号、およびチッポリーニ(Cipollini)らの米国特許出願公報第2004/0043283号に開示されているものが挙げられる。
【0027】
また、電解質膜14は、織布または不織布などの補強母材を使用して機械的に補強してもよく、その補強材は、高温における酸性条件および酸化条件に耐性を有する材料でできている。好適な補強母材の例には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、フッ化エチレンプロピレン(FEP)、ポリビニリデンジフルオリド、PTFEとヘキサフルオロプロピレンとフッ化ビニリデンのターポリマー(THV)、液晶ポリエステル、およびガラス、並びに酸性環境において安定な他のセラミックスなどのポリマーが挙げられる。また、より低い動作温度では、超高分子量のポリエチレンなどの補強母材を使用してもよい。
【0028】
補強母材は望ましくは、約0.01マイクロメートルを超える平均孔径を呈する。電解質膜14が無機添加物を含む場合、補強母材は、その無機添加物を滞りなく通過させるように、大きな平均孔径を呈することが望ましい。補強母材に対する好適な平均孔径の例には、無機添加物の平均粒径の少なくとも10倍を超える寸法が挙げられる。補強母材に対する特に好適な平均孔径の例には、最大の無機添加物の寸法の少なくとも20倍を超える寸法が挙げられる。これによって、補強母材を均一に充填することが可能となる。
【0029】
より小さい孔径を有する好適な補強母材の例には、延伸ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルスルホンなど、150℃までの温度における高度な酸性および酸化条件下で適切な熱および化学安定性を有するポリマー、並びに芳香族主鎖またはフッ化主鎖(fluorinated backbone)を有する他のポリマーが挙げられる。また、超高分子量のポリエチレンを使用してもよい。
【0030】
電解質膜14は、まず酸性ポリマー、酸、および所望により無機添加物をブレンドすることによって形成することができる。ブレンド前に、酸性ポリマーを液体中に溶解または分散させて、酸性ポリマーの溶液/分散液を形成してもよく、その使用される液体は、酸性ポリマーによって異なってもよい。好適な液体の例には、1−メチル−2−ピロリジノン、ジメチルアセトアミド、メタノール、メタンスルホン酸、n−プロパノール、水、およびこれらの組合わせが挙げられる。酸性ポリマー用の少量の他の液体を使用して、他の構成成分を溶解または分散させたり、無機添加物の懸濁液を安定に維持したりしてもよい。酸を酸性ポリマー用の同じ液体に溶解させて、酸溶液を形成してもよい。次いで、酸性ポリマー溶液/分散液および酸溶液を互いにブレンドして、ブレンド溶液または分散液を形成することができるが、さらにそのブレンド溶液または分散液からガス抜きして、混入した気泡を除去することができる。
【0031】
無機添加物は、酸性ポリマー溶液/分散液、酸溶液と共に、または酸性ポリマー溶液/分散液と酸溶液の双方と共に分散させることができる。無機添加物は、酸性ポリマー溶液/分散液中に無機添加物を分散させるのに十分なせん断力をもたらす標準的な分散技術を使用して、酸性ポリマー溶液/分散液中に分散させることができる。加えて、分散技術によって、無機添加物の粒径を減少させて分散プロセスを支援することもできる。好適な分散技術の例は、テンプル・C・パットン(Temple C. Patton)著の「塗料の流動と顔料分散(Paint Flow and Pigment Dispersion)」第2版(John Wiley & Sons、1979年)に開示されている。また、水は一般に酸性ポリマーに対しては非溶剤となるため、分散プロセス中の雰囲気水の吸着が望ましく最小化される。
【0032】
有機溶液中の無機材料のゾルは、ブレンド前の酸性ポリマー溶液/分散液もしくは酸溶液のいずれかと共に分散させること、またはブレンドした溶液/分散液中に分散させることができる。例えば、シリカおよびジルコニアのゾルは、1−メチル−2−ピロリジノンおよびn−プロパノールをそのゾルに添加することによって、元の水性溶媒から1−メチル−2−ピロリジノンに移動させることができる。次いで、そのゾルは、酸性ポリマー溶液/分散液または酸溶液とブレンドすることができる。
【0033】
ブレンド後、ブレンドした混合物を、次いで表面(例えばガラス板)に塗布し乾燥させて、電解質膜14を形成することができる。これは、ブレンドした混合物を表面に塗布し、ブレンドした混合物を広げることによって実施することができる。次いでそのコーティングをオーブン中で乾燥させて、溶媒を除去することができる。オーブンから取り出した後、結果として生じた電解質膜14を開放空気中で立てかけて冷却することができる。
【0034】
本発明の一実施形態において、電解質膜14はまた、光化学的技術、熱的技術、および電子ビーム技術など、種々の架橋技術を使用して架橋させてもよい。好適な架橋技術の例には、電子ビーム架橋、赤外線架橋、および紫外線架橋が挙げられる。架橋は、1つ以上の架橋剤の存在下で実施してもよい。本発明のフルオロポリマーと共に使用するのに好適な架橋剤には、多官能アルケンおよび他の不飽和架橋剤などの多官能化合物が挙げられる。架橋剤は、フッ素化されていなくても、低レベルでフッ素化されていても、高度にフッ素化されていても、またより好ましくは過フッ素化されていてもよい。架橋剤は、任意の従来方式によって電解質膜14の組成物に導入してもよい。架橋剤を導入するための好適な技術には、架橋剤と電解質膜14の組成物とを、その組成物で膜を形成する前にブレンドすることが挙げられる。あるいは、架橋剤は、電解質膜14を架橋剤の溶液中に浸漬させることなどによって、電解質膜14に付けてもよい。
【0035】
また電解質膜14は、電解質膜14を母材の片側または両側に押圧すること、コーティングすること、充填すること、または積層すること(またはそれらの組合わせ)によって、補強母材に挿入してもよい。補強母材を押圧するかまたは充填する場合、補強母材は望ましくは、約25マイクロメートルを超える孔径を呈する。好適な孔径は一般に、ポリマー融体の粘度および押圧条件に依存する。好適な押圧条件の例には、6.9メガパスカル(約1000ポンド/平方インチ)〜約34.5メガパスカル(約5000ポンド/平方インチ)の範囲の圧力で約5分間にわたって押圧することが挙げられる。電解質膜14の構成成分(例えば延伸PTFE)の溶液を浸透させていない補強母材に充填する場合、補強母材は、補強母材に完全に浸透する、電解質膜14の原重合体に好適な溶媒で予備充填してもよい。補強母材により、MEA10において使用するための電解質膜14の構造一体性が向上する。
【0036】
上述のように、電解質膜14は、低水準の給湿下において良好なプロトン伝導度を呈する。理論に束縛されるものではないが、電解質膜を通じたプロトン伝導度は、給湿の水準が上昇するにつれて増加すると考えられている。給湿の水準が、100℃を超える動作温度における蒸発などによって低下する場合、プロトン伝導度は減少する。これによって、電気化学装置の総合的な電気出力が対応して低下する。電気化学装置内の望ましい湿度水準を維持するための1つの一般的な技法は、入口ガス流に給湿することである。しかしながら、入口ガス流に給湿すると、反応性ガスの濃度が低下し、またそれによって、電気化学装置の総合的な電気出力が低下する。さらに別の技法は、入口ガス流に加圧して電気化学装置内の相対湿度を上昇させることを含む。しかしながら、加圧により、ある程度の寄生電力の損失がもたらされ、またそれによって、総合的な電気出力が減少する。
【0037】
しかしながら、電解質膜14は、低水準の給湿下において良好なプロトン伝導性を呈する。これにより、MEA10は、ガス流にわずかに給湿して100℃を超える温度で動作することが可能となる。本発明の一実施形態において、MEA10は、大気圧において80℃以下の露点を有するガス流で動作することができるが、そのガス流では120℃で0.3%の相対湿度がもたらされる。このことにより、高濃度の反応性ガスをMEA10において使用する一方で、高い動作温度において電解質膜14を通じたプロトン伝導度を保つことが可能となる。
【0038】
また電解質膜14の組成物は、触媒インクにおいて使用するのに好適であり、その触媒インクを電解質膜14の上にコーティングして、触媒層20および22を形成してもよい。膜の組成物を上述と同じ方式で形成し、次いで水および/またはアルコールの搬送液体中に分散させてもよい。また、触媒粒子(例えば、炭素粒子および触媒金属)を、分散させた膜の組成物と結合させて、触媒インクを形成してもよい。次いで、触媒インクを電解質膜14上にコーティングし、搬送液体を除去して、触媒層20および22を電解質膜14上に形成してもよい(すなわち、触媒被覆膜)。結果として、触媒層20および22はそれぞれ、電解質膜14の上述した組成物を含むことができ、それに応じて熱的に安定となり、電気化学装置において使用するのに好適である良好なプロトン伝導性を呈する。
【実施例】
【0039】
本発明について以下の実施例でより具体的に説明するが、本発明の範囲内での多数の修正および変形が当業者には明らかとなるため、以下の実施例は例示のみを目的としたものである。特に注釈がない限り、以下の実施例において記載するすべての割合、百分率、および比率は質量を基準としたものであり、また、実施例において使用するすべての試薬は、ミズーリ州セントルイス(Saint Louis)のシグマ・アルドリッチ社(Sigma-Aldrich Company)など、一般的な化学薬品供給業者から得られたか、もしくは入手可能であるか、または従来の技法によって合成されてもよい。
【0040】
以下の組成物の略語を以下の実施例において用いる。
【0041】
3M PFSA:式CF=CFおよび分子量100.02を有する1000当量の気体のテトラフルオロエチレンコモノマー(TFE)と、式CF=CFO(CFSOFおよび分子量378.11を有するスルホニルフルオリドコモノマー(MV4S)とを有するペルフルオロスルホン酸コポリマーであり、MV4Sは、米国特許第6,624,328号に記載されたとおりに(加水分解されたスルホン酸の形で)調製されたものであり、また、ペルフルオロスルホン酸コポリマーは、米国特許出願第2004/0121210号に記載されたとおりに調製されたものであり、ミネソタ州セントポール(St. Paul)のスリーエム・コーポレーション(3M Corporation)によって製造されているものである。
【0042】
ナフィオン:60/40のn−プロパノール/水中に分散させた20%の酸性ポリマーであり、デラウェア州ウィルミントン(Wilmington)のデュポン・ケミカル(DuPont Chemcial)から商標表記「NAFION1000」(SE20092)として商業的に入手可能である。
【0043】
二硫酸塩:式HOS(CFSOH・4HOを有する二硫酸であり、以下で論じるように合成される。
【0044】
ビスイミド:式CFSONHSO(CFSONHSOCF・4HOを有するビスイミド酸であり、以下で論じるように合成される。
【0045】
ビスイミド:式CSONHSO(CFSONHSO・4HOを有するビスイミド酸であり、以下で論じるように合成される。
【0046】
二硫酸、Cビスイミド酸、およびCビスイミド酸の合成は、以下のように実施した。
【0047】
二硫酸
以下の実施例で使用する二硫酸は、以下の手法に従って合成した。126.1グラムのLiOH・HO、130.0グラムの脱イオン水、および130.0グラムのメタノールを、機械的攪拌器と、滴下漏斗と、クレイゼンアダプタ(Claisen adapter)と、還流凝縮器と、熱電対プローブとを備えた3.0リットルの3つ口フラスコに仕込んだ。その混合物を氷浴内で約0℃に冷蔵した。次いで、攪拌しながら、液体FSO(CFSOFを徐々に滴下漏斗から添加した。添加速度は、反応発熱による温度が56℃と75℃の間で制御されるように調整した。反応発熱が鎮まると、加水分解を完了させるために、加熱マントルを設置し、反応温度を終夜60℃に保った。
【0048】
室温に冷却した後、反応温度を30℃に制御する一方で、また過剰なLiOHを炭酸リチウムに変換させるように攪拌する一方で、反応溶液をドライアイスペレットで約1時間にわたって処理した。次いで、反応溶液を終夜冷却した。
【0049】
終夜冷却した後、攪拌しながら、反応溶液を5.6グラムのセライトで室温において処理した。次いで反応溶液を、セライトのパッドを通じた吸引によってろ過して、ろ液を回収した。ろ液を、2.67kPa(20mmHg)および100℃でロータリーエバポレーター上で蒸発乾燥固させると、白い固体を生じた。その白い固体を500ミリリットルの純粋な無水メタノール中に溶解して、濁った溶液を生成し、その濁った溶液を再び吸引によってろ過して、澄んだろ液を得た。その澄んだろ液を、2.67KPa(20mmHg)および100℃でロータリーエバポレーター上で蒸発乾燥固させると、白い固体が生じた。次いで、白い固体を840グラムの脱イオン水中に溶解し、結果として生じた澄んだ溶液を140グラムの部分8つに分けて、三菱(Mitsubishi)SKT10プロトン交換樹脂の新たに用意した34センチメートル×4センチメートルのカラム上で、プロトン交換にさらした。脱イオン水を溶離剤として使用した。プロトン交換カラムから収集したジスルホン酸の水溶液を2.67kPa(20mmHg)および100℃でロータリーエバポレーター上で蒸発乾燥固させると、収率92%(272グラム)で、HOSO(CFSOOH・4HOが、わずかに灰色がかった白い固体として生じた。その純度は、CDODにおける定量的なHおよび19F−NMR分析によれば99%を上回ることが示された。
【0050】
ビスイミド酸
以下の実施例で使用するCビスイミド酸は、以下の手法に従って合成した。305グラムの無水CSONH、221グラムの無水トリエチルアミン、および188グラムの液体FSO(CFSOFを、機械的攪拌器と、滴下漏斗と、クレイゼンアダプタ(Claisen adapter)と、水冷還流凝縮器と、加熱マントルと、熱電対プローブとを備えた2.0リットルの3つ口フラスコに仕込んだ。適度な反応性発熱により、反応溶液が80℃に自己発熱した。反応発熱が鎮まった後、攪拌しながら反応温度を92℃〜99℃(穏やかな還流)に逓減し、この温度を21時間にわたって保った。結果として生じたオレンジがかった茶色の反応溶液を、攪拌しながら室温に冷却した。次いで、その反応溶液を716グラムの塩化メチレンと組合わせた。
【0051】
粗製生成物の塩化メチレン溶液を分液漏斗に移し、800ミリリットルの脱イオン水で4回洗浄した。最後の水洗洗浄の後、下方の塩化メチレン相を2.0リットルの3つ口フラスコに排出し、1.0リットルの脱イオン水と組合わせた。フラスコに短経路の蒸留ヘッドをはめ込み、すべての塩化メチレンを、大気圧で機械的攪拌を行って蒸留により除去した。すべての塩化メチレンを除去した後、44.85グラムのLiOH・HOを、蒸留ポット内に残る内容物に、攪拌しながら加えた。次いで、蒸留を再開して、分離したトリエチルアミンと相当な量の水を除去し、ビスイミドのジリチウム塩を約50質量%に水中で濃縮した。結果として生じたジリチウムビスイミド塩の水溶液を室温に冷却した。
【0052】
次いで、その水溶液を、16グラムのDARCO G−60(ジョージア州アトランタのアメリカンノーリット社(American Norit Company, Inc.))脱色炭で、攪拌しながら処理し、次いでセライトパッドを通じた吸引によってろ過して、炭素および他の不溶性の粒子を除去した。回収したろ液は、質量が892グラムで48.2%の不揮発性の固体を含有する、濃い赤褐色の液体であった。この溶液を等しい質量の9つの部分に分割し、各部分を、新たに用意した三菱(Mitsubishi)SKT10プロトン交換樹脂の34センチメートル×4センチメートルのカラム上で、個別にプロトン交換にさらした。脱イオン水を溶離剤として使用した。プロトン交換カラムから収集したジイミド酸の水溶液を2.67kPa(20mmHg)および100℃でロータリーエバポレーター上で蒸発乾燥固させると、収率90%(409グラム)で、粗製CSONHSO(CFSONHSO・4HOが、薄茶色の固体として生じた。
【0053】
この粗製生成物を、水中で再融解させ、過剰量の水酸化カリウムで中和させて、ジカリウムジイミド塩の結晶化を発生させた。結晶の懸濁液を、焼結ガラスフリットを通じた0℃での吸引によってろ過し、水で洗浄した。回収した液体を、約26%が固体の温水からさらに2回再結晶化させて、全収率90%でジカリウム塩を、灰色がかった白色の結晶質固体として生成した。次いで、精製したジカリウム塩を、14.5%固体の50:50のメタノール/水中に溶解させ、この水溶液(255グラムの部分に分けた)を上述のプロトン交換クロマトグラフィーに、ただし今回は50:50のメタノール/水を溶離剤として使用してさらすことによって、再びジイミド酸に変換した。生成物の溶離したメタノール/水の水溶液を、2.67kPa(20mmHg)および100℃でロータリーエバポレーター上で蒸発乾燥固させて、精製されたCSON(H)SO(CFSON(H)SO・4HOを、灰色がかった白色の固体として80%の収率で生成した。その純度は、CDODにおける定量的なHおよび19F−NMR分析によれば99%を上回ることが示された。
【0054】
ビスイミド酸
以下の実施例で使用するCビスイミド酸は、無水CFSONHをCSONHの代わりに試薬として使用することを除き、Cビスイミド酸に対する上述の手法に従って調製した。最終的なジイミド酸の純度は、CDODにおける定量的なHおよび19F−NMR分析によれば94.3%であることが示された。
【0055】
(実施例1〜10)並びに比較例AおよびB
実施例1の電解質膜は、以下の手法に従って調製した。0.27グラムの二硫酸塩を10.00グラムの3M PFSAに添加した。3M PFSAは、70/30のn−プロパノール/水の溶媒中の20質量%の固体であった。その混合物を振とうして溶解させ、次いでガス抜きして気泡を除去した。次いで、その澄んだ粘稠な水溶液を、0.64mm(25ミル)間隔のステンレス鋼製の塗布具(ビックガードナー(BYK Gardner))を使用して、ガラス板に手でコーティングした。次いで、ぬれた状態のコーティングを80℃で10〜20分間にわたって乾燥させ、160℃〜200℃でさらに5〜10分間にわたって焼きなました。結果として生じた電解質膜は、二硫酸塩の10質量%の濃度を有し、澄んだ/明るい褐色を呈し、また、約1〜3ミル(約25〜76マイクロメートル)の厚さを有していた。
【0056】
実施例2および3の電解質膜は、二硫酸塩の添加量を増加させたことを除き、実施例1に対する上述の手法に従って調製した。同様に、実施例4〜9の電解質膜は、CビスイミドまたはCビスイミドを二硫酸塩の代わりに使用したことを除き、実施例1に関して上述した手法に従って調製した。比較例Aは、酸を添加していない3M PFSAを含んでいた。
【0057】
また、実施例10の電解質膜は、ナフィオンを3M PFSAの代わりに使用したことを除き、実施例1に対する上述の手法に従って調製した。比較例Bは、酸を添加していないナフィオンを含んでいた。表1は、実施例1〜10並びに比較例AおよびBの電解質膜に対する酸の構成成分および濃度(所与の電解質膜の全質量を基準とする)を示す。
【0058】
【表1】

【0059】
実施例1〜10並びに比較例AおよびBの伝導度試験
実施例1〜10並びに比較例AおよびBの電解質の伝導度を、以下の手法によって定量的に測定した。電解質膜の1センチメートル×3センチメートルの試料上で、べックテック(BekkTech)(コロラド州ラブランド(Loveland))による4点プローブ伝導度セルを使用して、ACインピーダンスを測定した。伝導度セルをポテンシオスタット(プリンストン・アプライド・リサーチ(Princeton Applied Research)のModel273)およびImpedance/Gain Phase Analyzer(シュルンベルジェ(Schlumberger)のSI1260)に電気的に接続した。まず試料を、セル内で5時間にわたり120℃で、および80℃の露点(0.3%未満の相対湿度)で調湿した。次いで、Zplot and Zviewソフトウェア(スクリブナー・アソシエーツ(Scribner Associates))を使用してACインピーダンス測定を実施した。
【0060】
次いで、一時間にわたる調湿の後、ACインピーダンス測定を様々な温度で実施した(すべて一定の80℃の露点において)。実施例1〜9および比較例Aの電解質膜は、80℃(100%の相対湿度)および120℃(0.3%未満の相対湿度)で測定した。実施例10および比較例Bの電解質膜は、110℃(1%未満の相対湿度)および120℃(0.3%未満の相対湿度)で測定した。各試料ごとに、イオン(この場合はプロトン)伝導度を、以下の式によって高周波における平均ACインピーダンスから計算したが、式中、「R」はACインピーダンスの測定値であり、「L」は試料の長さであり、「A」は試料の横断面積である。
【0061】
【数1】

【0062】
表2は、実施例1〜9および比較例Aの電解質膜に対する伝導度の結果を示し、表3は、実施例10および比較例Bの電解質膜に対する伝導度の結果を示すが、伝導度は、ミリジーメンス/センチメートル(mS/cm)の単位で記されている。
【0063】
【表2】

【0064】
【表3】

【0065】
表2および3に示すデータは、酸を電解質膜に添加する利点を説明するものである。例えば、80℃において、実施例1の電解質膜(10質量%の二硫酸塩)は、比較例A(酸なし)の電解質膜の伝導度よりも相当に高い伝導度を呈した。さらに、二硫酸塩は概して、CビスイミドまたはCビスイミドと比較して、より大きな伝導度を3M PFSAにもたらした。
【0066】
表2および3に示すデータはまた、低水準な給湿とより高い温度によって伝導度が相当に低下することを示している。例えば、実施例1〜9および比較例Aの電解質膜は、80℃(100%の相対湿度)において、120℃(0.3%未満の相対湿度)と比較して相当に高い伝導度を呈した。それにもかかわらず、120℃において、酸を含有する電解質膜は概して、比較例AおよびBの電解質膜、特に実施例7〜9の電解質膜よりも高い伝導度を呈した。
【0067】
実施例10および比較例BのACインピーダンス試験
実施例10および比較例Bの電解質膜のACインピーダンスを、以下の手法に従って時間の関数として定量的に測定した。電解質膜の1センチメートル×3センチメートルの試料上で、べックテック(BekkTech)(コロラド州ラブランド(Loveland))による4点プローブ伝導度セルを使用して、ACインピーダンスを測定した。伝導度セルをポテンシオスタット(プリンストン・アプライド・リサーチ(Princeton Applied Research)のModel273)およびImpedance/Gain Phase Analyzer(シュルンベルジェ(Schlumberger)のSI1260)に電気的に接続した。まず試料を、セル内で5時間にわたり120℃で、および80℃の露点(0.3%未満の相対湿度)で調湿した。次いで、Zplot and Zviewソフトウェア(スクリブナー・アソシエーツ(Scribner Associates))を使用してACインピーダンス測定を実施した。
【0068】
次いで、1時間、10時間、15時間、および20時間にわたる調湿の後、ACインピーダンス測定を様々な温度で実施した(すべて80℃の露点において)。実施例10の電解質膜は、80℃(100%の相対湿度)、90℃(39%の相対湿度)、および100℃(1%未満の相対湿度)で測定した。比較例Bの電解質膜は、110℃(1%未満の相対湿度)で測定した。表4は、実施例10および比較例Bの電解質膜に対するACインピーダンスの結果を示すが、ACインピーダンスの結果は、オームの単位で記されている。
【0069】
【表4】

【0070】
表4のデータは、時間が経過しても実施例10の電解質膜の伝導度が持続することを説明するものである。示すように、実施例10の電解質膜は概して、20時間にわたりすべての温度において、ほとんど変化を示さなかった。100%の相対湿度(80℃の温度)で測定した実施例10の電解質膜に対し、時間の経過に伴う抵抗率の増加は、二硫酸塩が電解質膜から浸出し始めたことを示唆している。それにもかかわらず、実施例10の電解質膜は、時間が経過しても依然として低い抵抗率を呈したが、このことから、本発明の電解質膜は、時間が経過しても依然として良好なプロトン伝導度を呈することが分かる。
【0071】
燃料電池の評価
燃料電池の条件下における、実施例1および比較例Aの電解質膜の評価を、以下の手法に従ってそれぞれ実施した。一対の触媒層と一対のガス拡散層との間に、図1で上述した同じ方式で設けた電解質膜を使用して、5層のMEAを製作した。MEAは、50平方センチメートルの有効表面積を有しており、また電解質膜の周りに対称的に設けた。電解質膜の範囲は100平方センチメートルとなるように切断し、したがって、電解質膜は、ガスシールを形成するように、ガスケットの上に構成可能であった。また電解質膜は、30.5マイクロメートルの層厚さを有していた。
【0072】
触媒層およびガス拡散層は、ベラマカンニ(Velamakanni)らの特許出願、米国特許出願公報第2004/0107869号に記載されているように、機械で被覆した1組みの触媒層として1巻きのガス拡散層上に設けた。触媒は、日本国のニッポン・エンゲルハード・キャタリスト・コーポレーション(Nippon Engelhard Catalyst Corporation)から販売されている、高表面積炭素上の50%白金触媒として商業的に入手可能なものであった。触媒の結合剤は、アイオノマーと炭素との比が0.8である1100当量のナフィオン(デラウェア州ウィルミントン(Wilmington)のデュポン(Dupont))からなるものであった。コーティングの質量荷重は、0.4ミリグラム/平方センチメートルの白金であった。ニューメキシコ州のフエル・セル・テクノロジーズ(Fuel Cells Technologies)から購入した50平方センチメートルのセルにMEAを組み付けた。ガスケットは、ミネソタ州のノット・コーポレーション(Nott Corporation)から商業的に入手可能なPTFE製ガラス繊維強化ガスケットであり、触媒被覆層の厚さの70%の厚さを有していたが、30%圧縮していたことになる。10分間にわたり132℃に加熱された圧盤間で907キログラム(すなわち1トン)の全圧で試料を押圧して、7つの層(すなわち、5つの層と2つのガスケット)を結合することによって、MEAを形成した。
【0073】
使用した流れ場は、標準的な、ニューメキシコ州のフエル・セル・テクノロジーズ(Fuel Cells Technologies)による50平方センチメートルの四角形の蛇紋石であった。セルは、149.1Nm(110フート・ポンド)のトルクレンチ設定で互いにボルト締めした。試験場は、流量を調節するための質量流量制御器(マサチューセッツ州のMKS)と、設定値のガス給湿を達成するためにエジェクタ中で蒸発された水を計量供給するためのHPLCポンプ(ペンシルバニア州のラブアライアンス社(Lab Alliance))と、温度調節器(インディアナ州のラブコントロールズ社(Love Controls))と、セルの電流電圧性能を測定し制御するための電子機器(カリフォルニア州のアジレント社(Agilent))とを有している。LabVIEWベースのソフトウェア(テキサス州オースティン(Austin)のナショナル・インスツルメンツ(National Instruments))を実行するコンピュータで、試験場とデータ収集を制御した。電気化学インピーダンス測定を使用して、試験中の試料のMEA抵抗率を測定した。高速フーリエ変換法を使用し、その高速フーリエ変換法において、方形波を燃料電池試験回路を介して送信したが、その燃料電池試験回路は、基準となるシャント抵抗を有していた。
【0074】
試料を試験するために使用したスクリプトは、3つの異なる段階、すなわち、温置、湿度検証、およびエージングからなるものであった。燃料電池を、乾性ガス流の下で20分間にわたって80℃に加熱した。この時点で、ガス流を70℃の露点に給湿し、温置を開始した。流れ状態は、周囲気圧の出口を有するH/空気(800/1800標準立方センチメートル)であった。温置を6時間にわたって持続し、次いで、分極走査を、0.9ボルトから0.3ボルトまで0.05ボルト刻みで、20秒間の滞留時間で行った。分極走査の間、セルを5分間にわたり0.5ボルトに保った。湿度検証を使用して、電解質膜間の性能を区別した。湿度検証は、セル温度のみを変化させた、一定のガス流と一定のガス給湿の下での一連の定電流0.5アンペア/平方センチメートルによる走査からなるものであった。ガス流状態は、一定の化学量論比1.5/2.5、80℃の露点、および周囲気圧の出口圧力を有するH/空気であった。セル温度は、85℃から100℃に3℃の刻みで増加させた。15分間の走査を3回、各温度で行ったが、その温度の測定値は、最後の走査の間に、その最後の走査の1分ごとに得たものであった。比較する値は、最後の走査で記録された電圧であった。
【0075】
図2は、実施例1および比較例Aの電解質膜の分極曲線を示すグラフである。このグラフは、変動する温度で燃料電池の評価中に記録された電圧、および各電解質膜ごとに記録された高周波抵抗(HFR)を示しており、その高周波抵抗は、電圧と同じY軸スケールを使用しているが、オーム/平方センチメールの単位で記録されている。
【0076】
図2のデータが示すところによれば、電池温度が増加するにつれて、実施例1および比較例Aの電解質膜のプロトン伝導度が減少している。しかしながら、94℃を超える温度で、比較例Aの電解質膜は、プロトン伝導性において、実施例1の電解質膜と比較してより大きな降下を呈した。同様に、91℃を超える温度で、比較例Aの電解質膜は、HFRにおいて、実施例1の電解質膜と比較してより大きな増加を呈した。実施例1の電解質膜が呈した、より高いプロトン伝導度およびより低いHFRは、二硫酸を添加したことによるものと考えられる。酸性ポリマーおよび酸を組み合わせることにより、実施例1の電解質膜は、高温において良好な伝導度を呈することが可能となった。
【0077】
本発明について、好ましい実施形態を参照して説明してきたが、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく形状および細部において変更をなし得ることが、当業者には理解されよう。
【0078】
上記の図面は、本発明のいくつかの実施形態を表しているが、説明において述べるように、他の実施形態も企図される。いかなる場合も、本開示は本発明を限定するのではなく、代表して提示するものである。本発明の原理の範囲および趣旨に含まれる多数の他の修正形態および実施形態が、当業者によって考案されうることを理解されたい。図は尺度通りに描かれていないことがある。同様の参照番号が、同様の部分を示すために複数の図を通じて使用されている。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】外部電気回路と共に使用した本発明の膜電極アセンブリの概略図。
【図2】本発明の例示的な電解質膜および比較用の電解質膜の分極曲線を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性ポリマーと、
塩基性基を実質的に有さないフッ素化された酸とを含む電解質膜であって、前記フッ素化された酸が、分子1個当たり20個以下の酸性官能基を含有し、10,000未満の分子量を有し、1℃から200℃に10℃/分の昇温速度で加熱され、次いで5分以内に120℃に冷却された後、24時間にわたって120℃に維持される間、前記フッ素化された酸の初期質量を基準として約6質量%以下の累積質量損失を呈し、前記累積質量損失が前記24時間の間に測定されるものであり、電解質膜が約60質量%未満のリン酸を含有する、電解質膜。
【請求項2】
前記酸性ポリマーが、ポリスルホン化フルオロポリマーを含む、請求項1に記載の電解質膜。
【請求項3】
前記酸性ポリマーが、高度にフッ素化された主鎖とペンダント基とを含み、前記ペンダント基が、−OCFCF(CF)OCFCFSOY、−O(CFSOYおよびこれらの組合わせからなる群から選択され、Yが、水素イオン、陽イオン、およびこれらの組合わせからなる群から選択される、請求項2に記載の電解質膜。
【請求項4】
前記フッ素化された酸がビス酸(bis-acid)を含む、請求項1に記載の電解質膜。
【請求項5】
前記フッ素化された酸が、イミド酸、スルホン酸、およびこれらの組合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の電解質膜。
【請求項6】
前記フッ素化された酸が、HOS(CFSOH、C2m+1SONHSO(CFSONHSO2m+1、これらの化合物であって(CF基が第1のヘテロ原子を含むもの、これらの化合物であってC2m+1基が第2のヘテロ原子を含むもの、およびこれらの組合わせからなる群から選択され、nが1〜10の範囲であり、mが1〜8の範囲であり、前記第1のヘテロ原子および前記第2のヘテロ原子がそれぞれ、酸素および窒素からなる群から選択される、請求項1に記載の電解質膜。
【請求項7】
前記電解質膜が約25質量%未満のリン酸を含有する、請求項1に記載の電解質膜。
【請求項8】
前記電解質膜がリン酸を実質的に有さない、請求項7に記載の電解質膜。
【請求項9】
無機添加物をさらに含む、請求項1に記載の電解質膜。
【請求項10】
前記無機添加物がメソ多孔性である、請求項9に記載の電解質膜。
【請求項11】
補強母材をさらに含む、請求項1に記載の電解質膜。
【請求項12】
ポリスルホン化フルオロポリマーと、
スルホン酸、イミド酸、およびこれらの組合わせからなる群から選択されたフッ素化された酸と
を含む電解質膜。
【請求項13】
前記酸性ポリマーが、高度にフッ素化された主鎖とペンダント基とを備え、前記ペンダント基が、−OCFCF(CF)OCFCFSOY、−O(CFSOY、およびこれらの組合わせからなる群から選択され、Yが、水素イオン、陽イオン、およびこれらの組合わせからなる群から選択される、請求項12に記載の電解質膜。
【請求項14】
前記フッ素化された酸がビス酸を含む、請求項12に記載の電解質膜。
【請求項15】
前記電解質膜がリン酸を実質的に有さない、請求項12に記載の電解質膜。
【請求項16】
無機添加物をさらに含む、請求項12に記載の電解質膜。
【請求項17】
補強母材をさらに含む、請求項12に記載の電解質膜。
【請求項18】
電解質膜を形成する方法であって、該方法が、
酸性ポリマーとフッ素化された酸とをブレンドする工程であり、前記フッ素化された酸が、塩基性基を実質的に有さず、分子1個当たり20個以下の酸性官能基を含有し、10,000未満の分子量を有し、前記フッ素化された酸が、1℃から200℃に10℃/分の昇温速度で加熱され、次いで5分以内に120℃に冷却された後、24時間にわたって120℃に維持される間、前記フッ素化された酸の初期質量を基準として約6質量%以下の累積質量損失を呈し、前記累積質量損失が、前記24時間の間に測定されるものである工程と、
前記ブレンドからフィルムを形成する工程と
を含む方法。
【請求項19】
前記酸性ポリマー、前記フッ素化された酸、または前記酸性ポリマーおよび前記フッ素化された酸が、溶媒中の溶液の状態でブレンド前に用意される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
無機添加物を、前記酸性ポリマー、前記フッ素化された酸、または酸性ポリマーと前記フッ素化された酸とのブレンドのうちの少なくとも1つの中に分散させる工程をさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記フッ素化された酸がビス酸を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記フッ素化された酸が、ペルフルオロスルホン酸、ペルフルオロイミド酸、およびこれらの組合わせからなる群から選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
前記酸性ポリマーが、ポリスルホン化フルオロポリマーを含む、請求項18に記載の電解質膜。
【請求項24】
前記フィルムを補強母材に挿入する工程をさらに含み、当該工程が、前記フィルムを前記補強母材に押圧すること、前記補強母材を前記フィルムでコーティングすること、前記補強母材を前記フィルムで積層すること、およびこれらの組合わせからなる群から選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項25】
電解質膜と、
第1の触媒層および第2の触媒層であって、その少なくとも一方が、
酸性ポリマーと、
塩基性基を実質的に有さないフッ素化された酸であって、分子1個当たり20個以下の酸性官能基を含有し、10,000未満の分子量を有し、1℃から200℃に10℃/分の昇温速度で加熱され、次いで5分以内に120℃に冷却された後、24時間にわたって120℃に維持される間、前記フッ素化された酸の初期質量を基準として約6質量%以下の累積質量損失を呈し、前記累積質量損失が前記24時間の間に測定される、フッ素化された酸と
を含む、第1の触媒層および第2の触媒層と
を含む、触媒被覆膜。
【請求項26】
前記酸性ポリマーが、ポリスルホン化フルオロポリマーを含む、請求項25に記載の触媒被覆膜。
【請求項27】
前記フッ素化された酸が、イミド酸、スルホン酸、およびこれらの組合わせからなる群から選択される、請求項25に記載の触媒被覆膜。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2009−509029(P2009−509029A)
【公表日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−533416(P2008−533416)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【国際出願番号】PCT/US2006/036058
【国際公開番号】WO2008/030246
【国際公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【Fターム(参考)】