説明

酸性排水から製造した複水層状水酸化物様吸着剤とその製造方法

【課題】排水処理などによって発生する中和汚泥を廃棄せずに原料として利用し、有害重金属の吸着剤として再生することによって有償化する技術を提供する。
【解決手段】アルミニウム、マグネシウム、鉄、希土類を含む酸性排水にマグネシウム化合物を添加して生成したハイドロタルサイトを含有する汚泥からなることを特徴とする吸着剤であり、アルミニウムおよびマグネシウムを含む酸性排水にマグネシウム化合物を、好ましくはAl:Mgモル比が1:1〜1:6になるように添加し、アルミニウム含有量10〜90質量%およびマグネシウム含有量10〜90質量%の汚泥を生成させ、該汚泥を回収し乾燥することを特徴とする吸着剤の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性排水を原料にして製造した吸着剤に関し、より詳しくは、排水に含まれる元素を廃棄せずに原料として利用し、有害物質の吸着剤として再生することによって高付加価値化する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
酸性排水は、これを放流すると環境汚染になるので、通常は中和処理して放流している。この中和処理によって生じる汚泥(中和汚泥と云う)は一般に廃棄物として埋め立て処理されるが、費用がかかり、これが排水処理のコストを増加させる大きな要因になっている。
【0003】
また、重金属を含有する廃水にアルカリを添加して重金属を含む中和汚泥を生成させ、この中和汚泥を固液分離して廃水を浄化する一方、該中和汚泥の一部または全部をアルカリ添加工程に返送して再利用する処理方法が従来から知られている。また、その改良方法として、返送する中和汚泥にアルカリを添加した返送汚泥とアルカリ未添加の返送汚泥とを混合して使用する処理方法が知られている(特許文献1:特開平08−229571号公報)。この処理方法によれば懸濁度の低い清澄な処理水が得られる利点があるが、中和汚泥の利用は処理系内に限られる。
【0004】
この他、スラリー状の中和汚泥に固化剤を混和して固液分離し、回収した汚泥を養生し、養生汚泥の固まりをほぐした後に堆積場に搬入し、整形、転圧して堆積する処理方法が知られている(特許文献2:特開平10−314800号公報)。この処理方法によれば汚泥容積が小さくなるが、中和汚泥を再利用するものではない。
【0005】
一方、廃水等に含まれている重金属が有害なイオンとして溶出するのを防止する方法として、ハイドロタルサイトなどの陰イオン交換性を有する粘土鉱物とベントナイトなどの陽イオン交換性を有する粘土鉱物を混合して使用する難溶化処理方法が知られている(特許文献3:特開2001−269664号公報)。
【0006】
この方法は、陰イオンの砒素(AsO43-)、六価クロム(CrO42-)、セレン(SeO42-)、フッ素(F-)、硝酸(NO3-)、リン酸(PO43-)、硫酸(SO42-)などをハイドロタルサイトに取り込み、陽イオンのカドミウム(Cd2+)、鉛(Pb2+)、水銀(Hg2+)などをベントナイトに取り込んで難溶化しているが、ハイドロタルサイトやベントナイトなどを予め用意する必要があり、従来、ハイドロタルサイトなどは試薬を原料として製造しているため、薬剤コストが製造の負担になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平08−229571号公報
【特許文献2】特開平10−314800号公報
【特許文献3】特開2001−269664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、中和汚泥について、従来の処理方法における上記問題を解決したものであり、排水に含まれる元素を廃棄せずに原料として利用し、有害物質の吸着剤として再生することによって高付加価値化する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の構成からなる吸着剤とその製造方法に関する。
〔1〕アルミニウム、マグネシウムを含む酸性排水にマグネシウム化合物を添加して生成した複水層状水酸化物を含有する汚泥からなることを特徴とする吸着剤。
〔2〕アルミニウム含有量10〜90質量%、およびマグネシウム含有量10〜90質量%であって、Al:Mgモル比が1:1〜1:6である上記[1]に記載する吸着剤。
〔3〕アルミニウムおよびマグネシウムと共に鉄および希土類を含む酸性排水にマグネシウム化合物を添加して生成した複水層状水酸化物を含有する汚泥からなる上記[1]または上記[2]に記載する吸着剤。
〔4〕アルミニウムおよびマグネシウムを含む酸性排水にマグネシウム化合物を、Al:Mgモル比が1:1〜1:6になるように添加し、アルミニウム含有量10〜90質量%およびマグネシウム含有量10〜90質量%の汚泥を生成させ、該汚泥を回収し乾燥することを特徴とする吸着剤の製造方法。
〔5〕アルミニウムおよびマグネシウムを含む酸性排水にマグネシウム化合物を添加して該酸性排水を中和し、次いでアルカリを加えて該排水のpHを7〜10に調整して複水層状水酸化物を含有する汚泥を生成させる上記[4]に記載する吸着剤の製造方法。
〔6〕アルミニウムおよびマグネシウムと共に鉄および希土類を含む酸性排水にマグネシウム化合物を添加して複水層状水酸化物を含む汚泥を生成させる上記[4]または上記[5]に記載する吸着剤の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の吸着剤は、排水に含まれる元素を廃棄せずに原料として利用し、有害物質の吸着剤として再生したものであるので、汚泥を有償化して廃棄物を低減化でき、排水の処理費用は大幅に低減することができる。
【0011】
本発明の吸着剤は、複水層状水酸化物を含有しており、複水層状水酸化物は陰イオンの吸着化合物であるので、これが有害物質である六価クロム、フッ素、ホウ素、ヒ素、セレンなどの陰イオンを吸着することができる。
【0012】
また、本発明の吸着剤は、中和汚泥が希土類を含むものは、希土類が水酸化物を形成しており、水酸化物イオンと陰イオンの交換反応によって希土類に陰イオンが吸着される。さらに、排水に鉄を含むものは、鉄が3価水酸化物として存在するので、鉄の共沈効果により有害物質が除去される。これらの複合的な作用により、複合汚染に対応することができる。
【0013】
本発明の吸着剤は重金属類やフッ素およびホウ素などを吸着する性質が優れていることを利用して土壌や排水の浄化剤として用いることができる。これらの有害物質が含まれている排水や土壌に本発明の吸着剤を投入すれば、有害物質を吸着して排水や土壌を浄化することができる。
【0014】
本発明の吸着剤は、排水に含まれているアルミニウムおよびマグネシウムを原料として利用し、複水層状水酸化物の形成に不足しているマグネシウム化合物とアルカリを補給すればよく、このマグネシウム化合物として酸化マグネシウムや水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、塩化マグネシウム、ドロマイト、軽焼ドロマイトなどの一般的な材料を用いることができる。アルカリとしては水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムなどがあるが、好ましくはアルカリの役割を果たすマグネシウム化合物が良い。これらは、原料費が安価であり、製造コストを低く抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1〜3の汚泥成分の粉末X線回折分析を示すグラフ。
【図2】実施例5の汚泥成分の粉末X線回折分析を示すグラフ。
【図3】実施例7の汚泥成分の粉末X線回折分析を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。
本発明の吸着剤は、アルミニウムおよびマグネシウムを含む酸性排水にマグネシウム化合物を添加して生成したハイドロタルサイトを含有する汚泥からなることを特徴とする吸着剤であり、例えば、アルミニウム含有量10〜90質量%、およびマグネシウム含有量10〜90質量%であって、Al:Mgモル比が1:1〜1:6の吸着剤である。
【0017】
また、本発明の吸着剤は、アルミニウムとマグネシウム、好ましくは、アルミニウムおよびマグネシウムと共に鉄および希土類を含む酸性排水にマグネシウム化合物を添加して生成した複水層状水酸化物を含む汚泥からなる吸着剤である。
【0018】
アルミニウムおよびマグネシウムを含む酸性排水としては、例えば、アルミナ担持廃触媒から白金族金属を浸出した液から白金族金属を回収した残液である。また、この残液にはアルミニウムおよびマグネシウムと共に鉄および希土類が含まれている。また、アルミニウム鉱山の排水、アルミニウム金属加工工場からの排水、アルミニウム金属の製錬工場からの排水などを用いることができる。
【0019】
これらの酸性排水を原料として利用し、マグネシウムを追加すれば、複水層状水酸化物を形成することができる。本発明は中和剤としてマグネシウム化合物を使用することによって、複水層状水酸化物を含む汚泥を生成させる。
【0020】
複水層状水酸化物は一般式[1]で表される。代表的なものは次式[2]で表されるように、アルミニウムおよびマグネシウムを主体とするものがある。
【0021】
〔M2+(1-x)3+x(OH)2〕〔An-x/n・yH2O〕(M:陽イオン、A:陰イオン)…〔1〕
Mg6Al2(CO3)(OH)16・4H2O … 〔2〕
【0022】
上記式[2]に示されるように、汚泥のAl:Mgモル比が概ね1:1〜1:6の範囲において複水層状水酸化物が形成されるので、汚泥のAl:Mgモル比が上記範囲になるように、マグネシウム化合物を酸性排水に添加して中和し、複水層状水酸化物を含む汚泥を生成させる。
【0023】
マグネシウム化合物としては、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、塩化マグネシウム、ドロマイト、軽焼ドロマイト、軽焼マグネサイト、マグネサイトなどを使用することができる。
【0024】
アルミニウムおよびマグネシウムを含む酸性排水にマグネシウム化合物をAl:Mgモル比が上記範囲になるように添加して排水を中和する。次いで、この排水にアルカリを添加し、pH7〜11に調整して中和汚泥を生成させる。アルカリは酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムなどを用い、またはこれらの水溶液やスラリーを用いればよい。
【0025】
汚泥生成後、脱水して排水と汚泥に分離し、汚泥を回収する。排水は逆中和してpH7に調整した後に放流すればよい。回収した汚泥は、スラリー状態、湿潤状態、または乾燥状態などの状態で使用することができる。乾燥する場合は100℃〜300℃に乾燥し、好ましくは100〜120℃に乾燥する。なお、減圧乾燥すれば乾燥温度を室温〜90℃程度に下げることができる。乾燥後、使用目的により数十マイクロメートルから数ミリメートルの粒径に粉砕分級して使用してもよい。粉砕分級した粒子を圧縮成形して使用してもよい。
【0026】
このように粉砕分級された粒子または粒子を成型して得られるペレットを吸着剤として使用することができる。これらを有害物質で汚染された水に添加すると、水中の有害物質を吸着する。また、土壌に有害物質が含まれているときは、土壌に約1〜10%程度の吸着剤を混ぜて良く混合すると、土壌中の有害物質を吸着し、有害物質は不溶化される。
【実施例】
【0027】
本発明の実施例を以下に示す。
pHの測定はpH電極を用い、予め校正したpHメータで測定を行った。結晶構造は乾燥させた汚泥を粉砕して粉末にした後に粉末X線回折装置(RIGAKU製)を用いてX線回
折パターンを測定した。試験液中のフッ素以外の有害物質の濃度はICP発光分光分析装置(島津製作所製)を用いて測定した。フッ素の濃度はフッ素濃度測定用の電極を用い、予め校正したイオンメータで測定を行った。
【0028】
〔実施例1〕
アルミニウム、マグネシウム、鉄、および希土類を含む塩酸酸性排水(含有量:Al15〜25g/L、Mg4〜6g/L)に、酸化マグネシウム20g/Lを添加し、20時間攪拌した。さらに消石灰80g/Lを添加してpHを9に調整した後、中和液をブフナーロートで濾過した。濾紙上に残った汚泥を水洗し、この汚泥を105℃で20時間乾燥した。乾燥した汚泥を粉砕し、粉末X線回折分析を行って化学種の同定を行った。この結果を表1、および図1に示す。回収した汚泥(吸着剤)の収率は115g-dry/Lである。
【0029】
【表1】

【0030】
〔実施例2〕
酸化マグネシウムの添加量40g/L、消石灰の添加量75g/Lとした以外は実施例1と同様にして汚泥を生成させて回収し乾燥した。この汚泥を粉砕し、粉末X線回折分析を行って化学種の同定を行った。この結果を図1に示す。回収した汚泥(吸着剤)の収率は138g-dry/Lである。
【0031】
〔実施例3〕
酸化マグネシウムの添加量80g/L、消石灰の添加量70g/Lとした以外は実施例1と同様にして汚泥を生成させて回収し乾燥した。この汚泥を粉砕し、粉末線X回折分析を行って化学種の同定を行った。この結果を図1に示す。回収した汚泥(吸着剤)の収率は169g-dry/Lである。
【0032】
〔実施例4〕
実施例1〜3で調製した乾燥汚泥を用いて有害物質の吸着試験を実施した。乾燥汚泥を100メッシュ以下に粉砕したものを吸着剤として用いた。有害物質はカドミウム、鉛、六価クロム、フッ素、ホウ素、砒素、セレンとし、これらの元素濃度がおのおの200mg/Lの模擬水溶液を調製した。この模擬水溶液に対して1wt%になるように吸着剤を添加して24時間攪拌した。所定時間後、試験液を濾過し、吸着剤を試験水から取り除いた後、試験水中の有害物質の濃度をICP発光分光分析にて測定し、吸着剤に吸着された有害物質の吸着量(mg/g)を算出した。フッ素については、イオンメータを用いてフッ素濃度を測定した。この結果を表2に示す。表2に示すように、実施例1〜3で回収した汚泥は有害物質の吸着効果に優れており、有害物質の吸着剤として用いることができる。
【0033】
【表2】

【0034】
〔実施例5〕
実施例1と同様の排水に、軽焼マグネサイト50g/Lを添加し、20時間攪拌した。消石灰88g/Lを添加してpHを9に調整した後、中和液をブフナーロートで濾過した。濾紙上に残った汚泥を水洗し、この汚泥を105℃で20時間乾燥した。乾燥した汚泥を粉砕し、粉末X線回折分析を行って、化学種の同定を行った。この結果を図2に示す。回収した汚泥(吸着剤)の収率は157g-dry/Lである。
【0035】
〔実施例6〕
実施例5で調製した乾燥汚泥を用いて有害物質の吸着試験を実施した。乾燥汚泥を100メッシュ以下に粉砕したものを吸着剤として用いた。有害物質はカドミウム、鉛、六価クロム、フッ素、ホウ素、砒素、セレンとし、これらの元素濃度がおのおの50mg/L、100mg/L、200mg/Lの模擬水溶液を調製した。この模擬水溶液に対して1%になるように吸着剤を添加して24時間攪拌した。所定時間後、試験液を濾過し、吸着剤を試験水から取り除いた後、試験水中の有害物質の濃度をICP発光分光分析にて測定し、吸着剤に吸着された有害物質の吸着量(mg/g)を算出した。フッ素についてはイオンメータにて測定した。この結果を表3に示す。表3に示すように、実施例5で回収した汚泥は有害物質の吸着効果に優れている。
【0036】
【表3】

【0037】
〔実施例7〕
実施例1と同様の排水に、軽焼マグネサイト90g/Lを添加し、20時間攪拌した。消石灰10g/Lを添加してpHを9に調整した後、中和液をブフナーロートで濾過した。濾紙上に残った汚泥に水を加えて濾過し、汚泥を洗浄した。この汚泥を105℃で20時間乾燥した。乾燥した汚泥を粉砕し、粉末X線回折分析を行って、化学種の同定を行った。この結果を図3に示す。回収した汚泥(吸着剤)の収率は125g-dry/Lである。
【0038】
〔実施例8〕
軽焼ドロマイトの添加量を60g/Lとし、消石灰の添加量を12g/Lとした以外は実施例6と同様にして汚泥を生成させて回収し乾燥した。この汚泥を粉砕し、粉末線回折分析を行って化学種の同定を行った。この結果を図1に示す。回収した汚泥(吸着剤)の収率は107g-dry/Lである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム、マグネシウムを含む酸性排水にマグネシウム化合物を添加して生成した複水層状水酸化物を含有する汚泥からなることを特徴とする吸着剤。
【請求項2】
アルミニウム含有量10〜90質量%、およびマグネシウム含有量10〜90質量%であって、Al:Mgモル比が1:1〜1:6である請求項1に記載する吸着剤。
【請求項3】
アルミニウムおよびマグネシウムと共に鉄および希土類を含む酸性排水にマグネシウム化合物を添加して生成した複水層状水酸化物を含有する汚泥からなる請求項1または請求項2に記載する吸着剤。
【請求項4】
アルミニウムおよびマグネシウムを含む酸性排水にマグネシウム化合物を、Al:Mgモル比が1:1〜1:6になるように添加し、アルミニウム含有量10〜90質量%およびマグネシウム含有量10〜90質量%の汚泥を生成させ、該汚泥を回収し乾燥することを特徴とする吸着剤の製造方法。
【請求項5】
アルミニウムおよびマグネシウムを含む酸性排水にマグネシウム化合物を添加して該酸性排水を中和し、次いでアルカリを加えて該排水のpHを7〜11に調整して複水層状水酸化物を含有する汚泥を生成させる請求項4に記載する吸着剤の製造方法。
【請求項6】
アルミニウムおよびマグネシウムと共に鉄および希土類を含む酸性排水にマグネシウム化合物を添加して複水層状水酸化物を含む汚泥を生成させる請求項4または請求項5に記載する吸着剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−213673(P2012−213673A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78877(P2011−78877)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】