説明

酸性染毛料用前処理剤

【課題】
酸性染毛料による染毛処理の前に毛髪に適用し処理することにより、酸性染毛料による毛髪の染色性および染毛後の色持ちを向上させることができ、しかも、毛髪に対してダメージを与えたり、皮膚に対してかぶれを引き起こしたりすることなく安全性に優れた酸性染毛料用前処理剤を提供する。
【解決手段】
芳香族アルコール0.01〜20重量%と、セリシン加水分解物0.01〜15重量%とを含有することを特徴とする酸性染毛料用前処理剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸性染毛料用前処理剤に関する。詳しくは、酸性染毛料による染毛処理の前に毛髪に適用し処理することにより、酸性染毛料による毛髪の染色性および染毛後の色持ちを向上させることができる酸性染毛料用前処理剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、毛髪を所望の色に染めることが、ファッションの一部として人気を集めている。ヘアカラーリング剤は、薬事法で、染毛剤(医薬部外品)と染毛料(化粧品)に大別される。従来、ヘアカラーリング剤の主流は、ジアミン系の酸化染料を主成分とし、染毛力や染毛後の色持ち(堅牢度)に優れた酸化染毛剤(ヘアカラー、ヘアダイなどと呼ばれる)であった。酸化染毛剤は、過酸化水素などの酸化剤により毛髪中のメラニン色素を酸化分解するとともに、酸化染料を毛髪内部で酸化重合させて、発色させるものである。また、酸化剤を活性化するために用いられるアルカリ剤が、毛髪表面を膨潤させ、酸化染料を毛髪内部に浸透させる効果も有する。しかしながら、アルカリ性の条件下で酸化剤を毛髪に作用させるため、毛髪に対するダメージが大きく、毛髪の触感を損ねたり、また反応性の高い酸化染料を用いるため、皮膚に対してかぶれを引き起こしたりする虞があった。
【0003】
このため、近年、毛髪や皮膚に対する影響が少なく、手軽に使用できるヘアカラーリング剤として、酸性染料(タール色素に分類される)を着色成分とする酸性染毛料(ヘアマニキュアと呼ばれる)が注目されている。酸性染毛料は、毛髪のごく浅い部分に酸性染料をイオン結合させて、毛髪を染色するものである。これは、酸性染料の分子径が大きく、毛髪内部にまで浸透することができないことによる。しかしながら、このようなメカニズムの違いにより、酸化染毛剤と比較して染毛力が低く、かつ、染毛後の色持ちが悪い(日常的なシャンプーやトリートメント剤、整髪料などの使用により、3週間程度で明らかな色落ちが見られる)という問題があった。
【0004】
このような問題に対し、ベンジルアルコール、2−ベンジルオキシエタノール、尿素などの浸透促進剤を添加した酸性染毛料が提案されているが、いずれも効果の点で満足のいくものではなかった(例えば、特許文献1および2)。
【0005】
また、酸性染毛料による染毛処理の前に毛髪に適用される前処理剤も提案されている。このような酸性染毛料用前処理剤としては、例えば、アルカリ剤と有機溶剤(好ましくは芳香族アルコール)を含有するもの(特許文献3)や、ポリエチレンイミン(アルカリ剤の1種)またはその誘導体と尿素を含有するもの(特許文献4)、尿素とベンジルアルコールを含有するもの(特許文献5)などが報告されている。しかしながら、特許文献3や特許文献4に記載のものはアルカリ剤を含有し、毛髪に対してダメージを与える虞があった。また、特許文献5に記載のものは、効果の点で十分とはいえないものであった。
【0006】
ところで、毛髪に良好な触感や艶を付与したり、損傷した毛髪を修復したり、あるいはスタイリング性を向上させたりすることを目的に、天然由来のタンパク質、特にコラーゲンやケラチン、カゼイン、絹などの動物性タンパク質を加水分解して得られるペプチドやその誘導体を毛髪化粧料に含有させることが従来行われている。また、有機溶剤で毛髪を膨潤させることにより上記ペプチド成分を毛髪内部に浸透させ、毛髪内部から改善をはかる方法も報告されている(例えば、特許文献6)。しかしながら、これらは、酸性染毛料による毛髪の染色性および染毛後の色持ちに配慮するものではない。
【0007】
このように、従来の酸性染毛料による染毛処理の利点を損なうことなく、毛髪の染色性および染毛後の色持ちを向上させる手段が依然として求められている。
【0008】
【特許文献1】特公平6−86371号公報
【特許文献2】特開平9−278636号公報
【特許文献3】特開2000−169344号公報
【特許文献4】特許第3762967号公報
【特許文献5】特開2007−126384号公報
【特許文献6】特許第3245274号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたもので、酸性染毛料による染毛処理の前に毛髪に適用し処理することにより、酸性染毛料による毛髪の染色性および染毛後の色持ちを向上させることができ、しかも、毛髪に対してダメージを与えたり、皮膚に対してかぶれを引き起こしたりすることなく安全性に優れた酸性染毛料用前処理剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定量の芳香族アルコールと特定量のセリシン加水分解物とを組み合わせて毛髪に適用し処理することにより、毛髪や皮膚に対して悪影響を及ぼすことなく、その後の酸性染毛料による染毛処理において、毛髪の染色性および染毛後の色持ちをともに向上させることができることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させるに到った。
【0011】
すなわち、本発明は第1に、芳香族アルコール0.01〜20重量%と、セリシン加水分解物0.01〜15重量%とを含有することを特徴とする酸性染毛料用前処理剤である。
前記芳香族アルコールは、ベンジルアルコールであることが好ましい。
前記前処理剤は、さらに、尿素を0.01〜20重量%含有することが好ましい。
前記前処理剤のpHは、2〜10であることが好ましい。
【0012】
本発明は第2に、酸性染毛料による染毛処理の前に、前記酸性染毛料用前処理剤を毛髪に適用し所定時間放置することにより、酸性染毛料による毛髪の染色性および染毛後の色持ちを向上させることを特徴とする、毛髪処理方法である。
本発明は第3に、前記酸性染毛料用前処理剤を毛髪に適用し所定時間放置した後、酸性染毛料を毛髪に適用し染毛処理を行うことを特徴とする、染毛方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の酸性染毛料用前処理剤によれば、酸性染毛料による染毛処理の前に毛髪に適用し処理することにより、酸性染毛料による毛髪の染色性および染毛後の色持ちを向上させることができる。また、本発明の酸性染毛料用前処理剤による処理は、毛髪に対してダメージを与えたり、皮膚に対してかぶれを引き起こしたりすることがなく、安全性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の酸性染毛料用前処理剤は、芳香族アルコールとセリシン加水分解物とを必須成分として含有する組成物である。芳香族アルコールは、毛髪に対する浸透促進剤として広く用いられる有機溶剤で、疎水性である毛髪の表面に作用して、共存するセリシン加水分解物の毛髪内部への浸透を高めることができる。一方、毛髪内部に浸透したセリシン加水分解物は、セリン、スレオニンなど、親水性官能基を有するアミノ酸を豊富に含むため、毛髪を構成するケラチンとの間で強固で安定な水素結合を形成し、毛髪内部に留まることができる。親水性高分子であるセリシン加水分解物を内部に保持する毛髪は、その緻密な構造が押し広げられ、酸性染料により染まり易くなるとともに、酸性染料のセリシン加水分解物への染着も生じるため、染色性が向上し、同時に染毛後の色持ちも向上すると考えられる。
【0015】
以下、酸性染毛料用前処理剤を、単に「前処理剤」という場合がある。
本発明において芳香族アルコールは、上記の通り、毛髪に対する浸透促進剤として用いられる。食品、化粧品、医薬部外品、医薬品などに用いられているような、人体、特に毛髪や皮膚に対して作用が穏和な、安全性の高いものが好ましく用いられる。このような芳香族アルコールとして具体的には、例えば、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、γ−フェニルプロピルアルコール、桂皮アルコール、アニスアルコール、p−メチルベンジルアルコール、α−ジメチルフェネチルアルコール、α−フェニルエタノール、フェノキシエタノール、フェノキシイソプロパノール、2−ベンジルオキシエタノールなどを挙げることができる。これらは、1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、浸透促進効果の点から、ベンジルアルコールが好ましい。
【0016】
前処理剤における芳香族アルコールの含有量は、0.01〜20重量%であることが求められる。含有量が0.01重量%未満であると、毛髪に対する効果、具体的には、セリシン加水分解物の毛髪内部への浸透を高める効果が十分に得られない。20重量%を超えて含有させても、それ以上の効果が望めないばかりか、製剤化した際の組成物の安定性が低下する。含有量は0.1〜15重量%であることが好ましく、0.3〜10重量%であることがより好ましい。
【0017】
本発明において用いられるセリシン加水分解物は、繭糸に含まれる天然の絹タンパク質セリシンに由来するもので、蚕繭、生糸などの原料を、例えば、塩酸、硫酸、リン酸などを使用した酸加水分解法、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムなどを使用したアルカリ加水分解法、または、微生物や植物由来のプロテアーゼを使用した酵素分解法に付すことにより、原料中のセリシンを部分加水分解して溶出し、得ることができる。これを公知のタンパク質分離精製手法に従って精製することによって、高純度のセリシン加水分解物の水溶液を得ることができる。さらに、熱風乾燥、減圧乾燥、または凍結乾燥などの処理に付して乾燥させ、固体としてもよい。
【0018】
セリシン加水分解物の重量平均分子量は、1,000〜100,000であることが好ましく、3,000〜50,000であることがより好ましく、5,000〜40,000であることがさらに好ましい。重量平均分子量が1,000未満であると、ペプチド鎖が短いために分子間の相互作用が弱く、毛髪を構成するケラチンとの間の水素結合の強度が低く、毛髪内部に留まることができず、毛髪に対する効果、具体的には、酸性染毛料による毛髪の染色性を向上させる効果が十分に得られない虞がある。重量平均分子量が100,000を超えると、毛髪内部への浸透が阻害されるため十分な効果が得られなかったり、水溶性が低下するため製剤化した際の組成物の安定性が低下したりする虞がある。
【0019】
セリシン加水分解物はさらに、アミノ酸組成としてセリン、スレオニンなど、親水性官能基を有するアミノ酸の割合が20モル%以上であることが好ましい。親水性官能基を有するアミノ酸の割合が20モル%未満であると、水素結合を形成する能力が低下し、毛髪に対する効果が十分に得られない虞がある。
【0020】
前処理剤におけるセリシン加水分解物の含有量は、0.01〜15重量%であることが求められる。含有量が0.01重量%未満であると、ペプチド分子間の相互作用が弱く、毛髪に対する効果が十分に得られない。含有量が15重量%を超えると、毛髪に塗布した際に、べたつき感やごわつき感などの好ましくない触感を与えてしまう。含有量は0.05〜10重量%であることが好ましく、0.1〜5重量%であることがより好ましい。
【0021】
なお、本発明の前処理剤における前記成分の残部は水である。
【0022】
本発明の前処理剤は、以上に説明した芳香族アルコールとセリシン加水分解物とを必須成分とし、これらを水に溶解させてなる組成物であるが、任意成分として、タンパク質変性剤を含有させることが好ましい。タンパク質変性剤は、毛髪内部の水素結合を効率的に切断して、毛髪を膨潤させることができるため、セリシン加水分解物の毛髪内部への浸透を高めることができる。すなわち、タンパク質変性剤は、浸透促進剤あるいは浸透助剤として作用する。このようなタンパク質変性剤として具体的には、例えば、尿素、塩酸グアニジンなどを挙げることができる。なかでも、尿素は、化粧品や医薬部外品において実績ある安全性の高い成分であるとともに、芳香族アルコールの溶解度を高めることができるため、好ましい。
【0023】
前処理剤におけるタンパク質変性剤の含有量は、0.01〜20重量%であることが好ましく、0.3〜15重量%であることがより好ましく、0.5〜10重量%であることがさらに好ましい。含有量が0.01重量%未満であると、毛髪に対する効果が十分に得られない虞がある。20重量%を超えて含有させても、それ以上の効果が望めないばかりか、皮膚に対して刺激を与える虞がある。
【0024】
また、本発明の前処理剤には、芳香族アルコールの水への溶解度を高めるために、極性有機溶剤を含有させることが好ましい。このような極性有機溶剤として具体的には、例えば、エタノール等の一価のアルコールや、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコールなどを挙げることができる。これらは、1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、皮膚に対する刺激が少なく、かつ製剤化した際の組成物の安定性が高いという点から、1,3−ブチレングリコールが好ましい。
【0025】
前処理剤における極性有機溶剤の含有量は、0.01〜50重量%であることが好ましく、0.5〜30重量%であることがより好ましい。含有量が0.01重量%未満であると、芳香族アルコールの水への溶解度を高める効果が十分に得られない虞がある。含有量が50重量%を超えると、親水性高分子であるセリシン加水分解物の溶解度が低下し、製剤化した際の組成物の安定性が低下する虞がある。
【0026】
前処理剤のpHは、毛髪や皮膚に対する影響を低減するため、酸性〜弱アルカリ性、具体的には2〜10であることが好ましく、4〜9であることがより好ましい。pHが2に満たず酸性側であると、皮膚に対して刺激を与える虞がある。pHが10を超えてアルカリ性側であると、毛髪を構成するケラチンが加水分解され易くなり、毛髪に対して大きなダメージを与える虞がある。
【0027】
pHを前記範囲に調整するためのpH調整剤としては、例えば、アンモニア水、モノエタノールアミン、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム等のアルカリ剤や、クエン酸、リンゴ酸等の有機酸、塩酸、リン酸等の無機酸などを挙げることができる。これらは、1種単独でまたは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0028】
本発明の前処理剤には、本発明の効果を損なわない範囲内で必要に応じてさらに、通常の化粧料などに用いられる他の成分、例えば、ペプチド類(セリシン加水分解物以外)、シリコーン類、カチオン性高分子、キレート剤、増粘剤、界面活性剤、香料、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤などを含有させてもよい。
【0029】
本発明の前処理剤は、常法に従い調製することができる。その剤型は、液状、乳液状、クリーム状、ゲル状など、毛髪に適用できる性状のものである限り特に限定されない。また、専用の容器に収容することで、ミスト状、泡状(エアゾール)として毛髪に適用してもよい。
【0030】
次に、本発明の酸性染毛料用前処理剤を用いて、毛髪を処理する方法について説明する。
本発明の毛髪処理方法は、酸性染毛料による染毛処理の前に、本発明の前処理剤を毛髪に適用し所定時間放置することにより、酸性染毛料による毛髪の染色性および染毛後の色持ちを向上させる方法である。
【0031】
このとき処理する毛髪は、乾燥した状態でも、洗髪などにより湿った状態でもよい。
前処理剤の毛髪への適用方法は特に限定されるものでなく、前処理剤の剤型に応じて適宜選択すればよい。すなわち、前処理剤に毛髪を浸漬させてもよいし、前処理剤を毛髪に噴霧、塗布などしてもよい。また、前処理剤は直接毛髪に適用してもよいし、手や塗布具に一度付着させてから適用してもよい。そして、毛髪に適用した前処理剤を、手や塗布具、ブラシなどで毛髪全体に延ばすことにより、前処理剤を毛髪全体に馴染ませることができる。
【0032】
毛髪に適用する前処理剤の量は特に限定されるものでなく、剤型や処理すべき毛髪の量に応じて適宜調整すればよい。例えば、前処理剤が液状である場合には、20cm程度の長さの全頭の毛髪に対し、10〜100mlであることが好ましく、20〜80mlであることがより好ましい。
【0033】
放置時間は3〜30分であることが好ましく、5〜20分であることがより好ましい。このとき、セリシン加水分解物の毛髪内部への浸透を高める目的で、前処理剤、毛髪、またはその双方を、室温以上、好ましくは25〜80℃、より好ましくは30〜60℃に加温してもよい。前処理剤や毛髪は、あらかじめ加温しておいてもよいし、前処理剤を毛髪に適用後に加温してもよい。加温方法は特に限定されるものでなく、例えば、超音波、赤外線、電磁波などを照射したり、電子レンジ、オーブン、アイロン、ドライヤー、コテなどの加熱機能を備える電気器具や、蛍光灯、白熱灯などの照明器具、温熱シート、発熱ジェルなどの発熱体を用いたりする方法を挙げることができる。また、毛髪にヘアキャップを被せるだけでも加温効果が得られる。
【0034】
以上のように処理された毛髪は、酸性染毛料による染色性が向上し、同時に染毛後の色持ちも向上している。本発明の前処理剤による処理は、毛髪に対してダメージを与えたり、皮膚に対してかぶれを引き起こしたりすることがなく、安全性に優れている。
【0035】
その後、毛髪に付着している前処理剤を水で洗い流した後、あるいは洗い流すことなく直接、酸性染毛料を毛髪に適用し染毛処理を行う。洗い流す場合は、必要に応じてドライヤーなどで毛髪を乾燥させてもよい。また、前処理剤の効果を高めるために、前処理剤による処理を複数回繰り返してもよい。
【0036】
用いられる酸性染毛料は特に限定されるものでなく、従来、用いられているものを用いることができる。また、染毛処理方法も、従来の方法に従えばよい。
【0037】
本発明の酸性染毛料用前処理剤は、染毛力が低く、かつ、染毛後の色持ちが悪い酸性染毛料による染毛処理の前処理剤として特に顕著な効果を発揮するが、酸化染毛剤による染毛処理の前処理剤として使用することを妨げるものではない。
【実施例】
【0038】
以下に本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
[実施例1および比較例1、2]
表1に示す組成の液状の酸性染毛料用前処理剤を調製した。
表1中の水酸化ナトリウムの含有量を示す適量とは、前処理剤のpHを7.4に調整するために必要な量であり、精製水の含有量を示す残量とは、合計を100重量%とするために必要な量である。
【0040】
なお、セリシン加水分解物の調製は、以下の方法に従った。すなわち、生糸からなる絹織物を、0.2重量%炭酸ナトリウム水溶液(pH11〜12)に浸漬して95℃にて2時間処理し、セリシンを部分加水分解して抽出した。得られた抽出液を平均孔径0.2μmのフィルターで濾過し、凝集物を除去した後、濾液を透析膜(分画分子量5,000)により脱塩し、濃度0.2重量%のセリシン加水分解物精製液を得た。この精製液を、エバポレーターを用いて濃度約2重量%まで濃縮した後、凍結乾燥して、セリシン加水分解物の粉末を得た。得られたセリシン加水分解物の分子量分布は5,000〜70,000、重量平均分子量は30,000で、アミノ酸組成としてセリンを35モル%含有していた。
得られた前処理剤について、以下の方法により使用試験を行った。
【0041】
[使用試験]
人毛白髪(株式会社ビューラックス製)を用いて、重さ0.4g、長さ10cmの毛束を作製した。この毛束を実施例または比較例の前処理剤10mlに浸漬し、45℃の恒温器中で15分間振とうした後、毛束を水道水で2分間すすぎ、ドライヤーで乾燥させた(前処理)。
次いで、前処理後の毛束を酸性染毛料(後述する)10mlに浸漬し、25℃の恒温器中で10分間振とうした後、毛束を水道水で2分間すすぎ、ドライヤーで乾燥させた(染毛処理)。
さらに、染毛処理後の毛束を、市販のシャンプー(シルティア、セーレン株式会社製)の20重量%溶液15mlに浸漬し、40℃の恒温器中で30分間振とうした後、毛束を水道水で2分間すすぎ、ドライヤーで乾燥させた(褪色処理)。
これらの試験サンプルについて、以下の方法により、酸性染毛料による毛髪の染色性、および染毛後の色持ちを評価した。
結果を表1に示した。
【0042】
なお、試験で用いた酸性染毛料の組成は、以下の通りである。
精製水 68.95(重量%)
乳酸 5.0
エタノール 20.0
ベンジルアルコール 5.0
紫401号 0.05
(pH2.8)
【0043】
酸性染毛料による毛髪の染色性
前処理を行うことなく、染毛処理のみを行ったものの着色度を比較対照とし、染毛処理後の試験サンプルの着色度を、5名の専門パネラーにより以下の基準に従って採点評価し、その平均値を採用した。
<評価基準>
4点:比較対照よりも着色度がたいへんよい
3点:比較対照よりも着色度がややよい
2点:比較対照と同等の着色度である
1点:比較対照よりも着色度がわるい
【0044】
染毛後の色持ち
前処理を行うことなく、染毛処理および褪色処理を行ったものの色持ちを比較対照とし、褪色処理後の試験サンプルの色持ちを、5名の専門パネラーにより以下の基準に従って採点評価し、その平均値を採用した。
<評価基準>
4点:比較対照よりも色持ちがたいへんよい
3点:比較対照よりも色持ちがややよい
2点:比較対照と同等の色持ちである
1点:比較対照よりも色持ちがわるい
【0045】
【表1】

【0046】
実施例1の前処理剤で処理した毛髪では、酸性染毛料による毛髪の染色性、および染毛後の色持ちが、大幅に向上することが確認された。また、毛髪の触感が損なわれたり、皮膚に対してかぶれを引き起こしたりすることもなかった。
【0047】
[実施例2、3および比較例3、4、5]
表2に示す組成の液状の酸性染毛料用前処理剤を調製した。得られた前処理剤について、前記同様の方法により使用試験を行い、酸性染毛料による毛髪の染色性、および染毛後の色持ちを評価した。
結果を表2に示した。
【0048】
【表2】

【0049】
実施例2の前処理剤で処理した毛髪では、酸性染毛料による毛髪の染色性、および染毛後の色持ちが向上することが確認された。さらに尿素を含有する実施例3の前処理剤で処理した毛髪では、染毛後の色持ちがより向上することが確認された。また、毛髪の触感が損なわれたり、皮膚に対してかぶれを引き起こしたりすることもなかった。
【0050】
[参考例1]
実施例1の前処理剤を、酸化染毛剤による染毛処理の前処理剤として使用した場合の、酸化染毛剤による毛髪の染色性、および染毛後の色持ちを評価した。
すなわち、前記同様の方法で前処理後の毛束に、市販の酸化染毛剤(メンズビューティーターンカラー、ホーユー株式会社製)を2g塗布し、25℃の恒温器中に15分間静置した後、毛束を水道水で2分間すすぎ、ドライヤーで乾燥させた(染毛処理)。
さらに、染毛処理後の毛束を、ラウリル硫酸ナトリウムの1重量%溶液15mlに浸漬し、40℃の恒温器中で30分間振とうした後、毛束を水道水で2分間すすぎ、ドライヤーで乾燥させた(褪色処理)。
得られた試験サンプルについて、前記同様の方法により、酸化染毛剤による毛髪の染色性、および染毛後の色持ちを評価した。
【0051】
この結果、実施例1の前処理剤で処理した毛髪では、酸化染毛剤による毛髪の染色性が向上することが確認された。また、染毛後の色持ちの大幅な向上は確認されなかった。これは、酸化染毛剤が、もともと、染毛力が高く、染毛後の色持ちも優れることに起因するものである。
【0052】
次に、本発明の前処理剤の他の処方例を示す。
【0053】
処方例1:ジェル状前処理剤
セリシン加水分解物 3.0(重量%)
モノエタノールアミン 適量
ジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウム 0.1
ヒドロキシエチルセルロース 1.0
ケラチン加水分解物 0.5
1,3−ブチレングリコール 12.0
ベンジルアルコール 3.0
デシルグルコシド 1.0
パラオキシ安息香酸エステル 0.1
精製水 残量
香料 適量
(pH7.6)
【0054】
処方例2:液状前処理剤
セリシン加水分解物 1.5(重量%)
モノエタノールアミン 適量
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム 0.1
ケラチン加水分解物 0.3
ダイズタンパク質加水分解物 0.1
グリセリン 5.0
エタノール 10.0
ベンジルアルコール 2.5
デシルグルコシド 1.0
パラオキシ安息香酸エステル 0.05
精製水 残量
香料 適量
(pH7.0)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族アルコール0.01〜20重量%と、セリシン加水分解物0.01〜15重量%とを含有することを特徴とする酸性染毛料用前処理剤。
【請求項2】
前記芳香族アルコールがベンジルアルコールであることを特徴とする請求項1に記載の酸性染毛料用前処理剤。
【請求項3】
さらに、尿素を0.01〜20重量%含有することを特徴とする請求項1または2に記載の酸性染毛料用前処理剤。
【請求項4】
pHが2〜10であることを特徴とする請求項1〜3いずれか一項に記載の酸性染毛料用前処理剤。
【請求項5】
酸性染毛料による染毛処理の前に、請求項1〜4いずれか一項に記載の酸性染毛料用前処理剤を毛髪に適用し所定時間放置することにより、酸性染毛料による毛髪の染色性および染毛後の色持ちを向上させることを特徴とする、毛髪処理方法。
【請求項6】
請求項1〜4いずれか一項に記載の酸性染毛料用前処理剤を毛髪に適用し所定時間放置した後、酸性染毛料を毛髪に適用し染毛処理を行うことを特徴とする、染毛方法。

【公開番号】特開2009−263239(P2009−263239A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−111158(P2008−111158)
【出願日】平成20年4月22日(2008.4.22)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】