説明

酸性水性アルミナゾルの製造方法

アルミン酸アルカリ水溶液と液状又は気体状二酸化炭素とを原料とする、電子顕微鏡観察によると、10〜40nmの一辺の大きさ及び2.5〜10nmの厚さを有する矩形板状1次粒子が面−面間で凝結することにより形成される、50〜400nmの長さを有する柱状2次粒子を含有する安定な酸性水性アルミナゾルの製造方法である。 得られた酸性水性アルミナゾルは、低粘度で、塩類に安定である。そして、そのゾルから得られる乾燥ゲルは、ポーラスでありながら、そのゲル構造が堅牢であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、電子顕微鏡観察によると、10〜40nmの一辺の長さと2.5〜10nmの厚さとを有する矩形板状1次粒子が面−面間で凝結することにより形成される、50〜400nmの長さを有する柱状2次粒子を含有する安定な酸性水性アルミナゾルの製造方法である。
【背景技術】
既に種々の製造方法で、種々のアルミナ水和物のコロイド粒子が製造されている。ここでコロイド粒子とは、1〜1000nmの粒子径、つまりコロイド次元の粒子径を有する粒子の総称である。これら製造されたコロイド粒子は、結晶構造としてベーマイト(boehmite)構造又は擬ベーマイト(pseudo boehmite)構造を有するアルミナ水和物、非晶質ともいわれる無定形のアルミナ水和物などがほとんどであり、そしてその形状としては、板状、リボン状、紡錘状、針状、繊維状などを有することが知られている。
特開昭57−111237号公報には、水溶性アルミニウム塩と二酸化炭素または炭酸塩とを反応させて得たアルミナ水和物を水熱処理した後乾燥するか、または該処理物を乾燥し、次いでこれと1価の酸とを混合することからなるアルミナゾルの製造方法が開示されている。
特開平02−243512号公報には、アルミン酸塩苛性アルカリ溶液を100℃より下の温度で、そのモル比を調節し、このアルカリ溶液を激しい攪拌を行いながら冷却して細かい大きさ及び板状のα−アルミニウム一水和物(ベーマイト構造を有するアルミナ水和物)の生成物を分離する方法が開示されている。
米国特許第4666614号明細書には、pH7.5〜10に調整した酸またはアルカリ反応液を60〜100℃で2時間から7時間反応させ、35質量%以上に乾燥させたα−アルミニウム一水和物の製造方法が開示されている。
特開昭57−111237号公報によると、アルミナ水和物の製造条件について、水可溶性アルミニウム塩としてアルカリ金属のアルミン酸塩を用いる場合、これにガス状二酸化炭素を吹き込む通常の製造方法を踏襲すればよく、反応系のpHが7近傍になるまで導入することが望ましく、そして次いで、製造されたアルミナ水和物に対し、不純物除去のために洗浄を行うことが記載されている。更に残存不純物の量はアルミナゾルの製造上、または用途上少ないほうが好ましいとしている。
特開平02−243512号公報によると、該発明のα−アルミニウム一水和物は顔料充填材として適度な大きさ(平均粒径0.4μm、又は粒径分布において90%以上が0.2〜0.8μmに存在する。)を持つ板状結晶であり、さらにアルミン酸ナトリウム溶液からのベーマイト析出最大速度は、NaO/Alのモル比が1.3の時に生じるとしている。
米国特許第4666614号明細書によると、アルミニウム化合物と酸またはアルカリとを反応させ、pH7.5〜10とした後、60〜100℃で加熱し、その後、中和によってできる副生成物を除去し、アルミナ水和物濃度10〜35質量%のゾルを得ている。
特開昭57−111237号公報及び特開平02−243512号公報に記載の製造方法では、アルカリと酸を用いた中和後に洗浄工程を入れる必要性を述べており、その洗浄は純水を用いて行うが、洗浄完了までに時間がかかる上、洗浄・濾別後の中間体の放置により水酸化アルミニウムの生成が起こり易い。この水酸化アルミニウムは、本来目的とする生成物(無定形アルミナゲル)の老化により生成する。そして、通常の温度では本来目的とするベーマイト構造を有するアルミナ水和物とならない。この老化の進行を防ぐために炭酸塩またはガス状二酸化炭素などを用いて添加反応が通常行われている。しかしながら、二酸化炭素は弱酸であるため中和に要する量が多く必要であり、pHを中性付近にすることは経済的に不利である。
また、特開平02−243512号公報で得られたアルミナは、顔料充填用のフィラーとして用いた場合、その用途によっては粒子の大きさが大きいため、充分な性能を発揮できない。そこで更に小さな粒子径を持つものが要求されている。
さらに、特開昭57−111237号公報及び米国特許第4666614号明細書に記載の製造方法では、中和工程のpH域で使用する酸またはアルカリの量が多く必要であり、コストアップになると共に、副生成物の洗浄に大量の純水または薬液と時間が必要であり、効率が良くないなどの問題点がある。
また、それぞれの用途に応じて水性アルミナゾルの粘度及び特有のチクソトロピー性の要求物性が異なっている。その用途により更に改良された水性アルミナゾルの提供が望まれている。
【発明の開示】
本発明は従来の水性アルミナゾルにはない粘度及びチクソトロピー性を有する粒子径の小さな水性アルミナゾルを、安価で簡易にかつ効率よく製造する方法を提供しようとするものである。具体的には、低粘度で、塩類に安定な酸性水性アルミナゾルを提供する。そして、そのゾルから得られる乾燥ゲルは、ポーラスでありながら、そのゲル構造が堅牢であることを特徴とする。
本発明の第一観点は、下記の(A)、(B)及び(C)工程を含む、
電子顕微鏡観察によると、10〜40nmの一辺の長さと2.5〜10nmの厚さとを有する矩形板状1次粒子が面−面間で凝結することにより形成される、50〜400nmの長さを有する柱状2次粒子を含有する安定な酸性水性アルミナゾルの製造方法である。
(A):5〜35℃の液温下、アルミン酸アルカリ水溶液に液状又は気体状二酸化炭素を添加することにより、10.5〜11.2のpHを有する反応混合物を生成させる工程、
(B):(A)工程で得られた当該反応混合物を110〜250℃の温度で水熱処理することにより、ベーマイト構造を有するアルミナ水和物を含有する水性懸濁液を生成させる工程、及び
(C):(B)工程で得られた当該水性懸濁液を、限外濾過法にて水と酸とを添加して脱塩処理することにより、3〜7のpHを有する酸性水性アルミナゾルを形成させる工程。
本発明の第二観点は、第一観点の製造方法において、(B)工程において、水熱処理する前に(A)工程で得られた反応混合物を2〜24時間の攪拌で前処理する安定な酸性水性アルミナゾルの製造方法である。
本発明の第三観点は、下記の(a)、(b)及び(c)工程を含む、
電子顕微鏡観察によると、10〜40nmの一辺の長さと2.5〜10nmの厚さとを有する矩形板状1次粒子が面−面間で凝結することにより形成される、50〜400nmの長さを有する柱状2次粒子を含有する安定な酸性水性アルミナゾルの製造方法である。
(a):5〜35℃の液温下、アルミン酸アルカリ水溶液に液状又は気体状二酸化炭素を添加することにより、10.5〜11.2のpHを有する反応混合物を生成させる工程、
(b):(a)工程で得られた当該反応混合物を110〜250℃の温度で水熱処理することにより、ベーマイト構造を有するアルミナ水和物を含有する水性懸濁液を生成させる工程、及び
(c):(b)工程で得られた当該水性懸濁液を、ケーク濾過法にて水と酸とを添加して脱塩処理することにより、3〜7のpHを有する酸性水性アルミナゾルを形成させる工程。
本発明の第四観点は、第三観点の製造方法において、(b)工程において、水熱処理する前に(a)工程で得られた反応混合物を2〜24時間の攪拌で前処理する安定な酸性水性アルミナゾルの製造方法である。
本発明の第五観点は、下記の(A’)、(B’)及び(C’)工程を含む、
電子顕微鏡観察によると、10〜40nmの一辺の長さと2.5〜10nmの厚さとを有する矩形板状1次粒子が面−面間で凝結することにより形成される、50〜400nmの長さを有する柱状2次粒子を含有する安定な酸性水性アルミナゾルの製造方法である。
(A’):5〜35℃の液温下、アルミン酸アルカリ水溶液に液状又は気体状二酸化炭素を添加することにより、10.5〜11.2のpHを有する反応混合物を生成させる工程、
(B’):(A’)工程で得られた当該反応混合物を110〜250℃の温度で水熱処理することにより、ベーマイト構造を有するアルミナ水和物を含有する水性懸濁液を生成させる工程、及び
(C’):(B’)工程で得られた当該水性懸濁液を、水素型陽性陽イオン交換樹脂と水酸型強塩基性陰イオン交換樹脂とを接触させることにより、3〜7のpHを有する酸性水性アルミナゾルを形成させる工程。
本発明の第六観点は、第五観点の製造方法において、(B’)工程において、水熱処理する前に(A’)工程で得られた反応混合物を2〜24時間の攪拌で前処理する安定な酸性水性アルミナゾルの製造方法である。
本発明の第七観点は、第一観点、第三観点又は第五観点の製造方法で得られる安定な酸性水性アルミナゾルを機械的分散処理後、濃縮することを特徴とする高濃度かつ安定な酸性水性アルミナゾルの製造方法である。
本発明の第八観点は、下記の(A)及び(B)工程を含む、
ベーマイト構造を有するアルミナ水和物を含有する水性懸濁液の製造方法である。
(A):5〜35℃の液温下、アルミン酸アルカリ水溶液に液状又は気体状二酸化炭素を添加することにより、10.5〜11.2のpHを有する反応混合物を生成させる工程、及び
(B):(A)工程で得られた当該反応混合物を110〜250℃の温度で水熱処理することにより、ベーマイト構造を有するアルミナ水和物を含有する水性懸濁液を生成させる工程。
本発明によって得られる安定な酸性水性アルミナゾル及び高濃度かつ安定な酸性水性アルミナゾルは、従来の水性アルミナゾルに比較すると、例えば市販のベーマイト構造を有するアルミナ水和物の分散性の高い六角板状粒子及び/又は矩形板状粒子を含有する水性アルミナゾルと、市販のベーマイト構造を有するアルミナ水和物のチクソトロピー性の高い繊維状粒子を含有する水性アルミナゾルとの中間的挙動をするため、種々の用途に従来得られなかった改良をもたらす。組成物をつくるために従来のアルミナゾルに加えられた成分は、本発明のアルミナゾルに対しても加えることができる。該成分としては、シリカゾル、アルキルシリケートの加水分解液、その他の金属酸化物ゾル、水溶性樹脂、樹脂エマルジョン、増粘剤、消泡剤、界面活性剤、耐火物粉末、金属粉末、顔料、カップリング剤などが挙げられる。
従来から用いられている種々の塗料成分と共に本発明のアルミナゾルを配合することにより、無機塗料、耐熱塗料、防食塗料、無機−有機複合塗料などを容易に調製することができる。本発明のアルミナゾルを含有する塗料から形成された乾燥塗膜にはピンホールが少なく、クラックも殆ど見られない。この理由は、塗膜形成において、アルミナゾルに含有される50〜400nmの柱状2次粒子は一般のコロイド粒子に見られるような塗膜中での偏析現象を起こさず、塗膜中内に2次粒子による堅牢な架橋構造を形成するためと考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の第一観点の(A)工程、第三観点の(a)工程、第五観点の(A’)工程及び第八観点の(A)工程は、5〜35℃の液温下、アルミン酸アルカリ水溶液に液状又は気体状二酸化炭素を添加することにより、10.5〜11.2のpHを有する反応混合物を生成させる工程である。
使用される原料のアルミン酸アルカリ塩又はその濃縮液におけるアルカリ種としては、Na、K、Mg、Zn、Fe、Ca、Ba、Be等が挙げられるが、これらのアルミン酸アルカリ塩又はその濃縮液は公知の方法により容易に得られ、また市販の工業薬品としても入手することができる。特に安価なアルミン酸ナトリウム塩又はその濃縮液が好ましい。通常、市販のアルミン酸ナトリウムとしては、高濃度の粉末品とAl濃度として10〜25質量%の濃縮液があるが、次工程の二酸化炭素添加時の均一な反応を考えると、濃縮液が扱いやすく好ましい。
本発明において液状又は気体状二酸化炭素の添加時において、アルミン酸アルカリ水溶液のAl濃度は、特に制限を受けないが、二酸化炭素添加時の均一な反応及び生産効率等を考えると、Al濃度として好ましくは1〜10質量%、より好ましくは2〜6質量%の濃度である。純水等で希釈したアルミン酸アルカリ水溶液を用いる。
この希釈したアルミン酸アルカリ水溶液は加水分解を受け易いため、希釈後速やかに本発明の工程に使用する必要がある。特に二酸化炭素添加前に50℃以上の高温で保持されたアルミン酸アルカリを希釈した水溶液を使用すると、目的の1次粒子が得られにくい。
希釈されたアルミン酸アルカリ水溶液は均一化のために当該業者に公知である機械的な方法で攪拌される。アルミン酸アルカリ塩又はその濃縮液の希釈のために行われる純水等の投入時に、部分的な攪拌が行われるが、機械的な攪拌を行わないとアルミン酸アルカリ水溶液の希釈液の不均一を生み、二酸化炭素による反応が不均一になるため好ましくない。
そして、この原料となるアルミン酸アルカリ塩又はその濃縮液には、アルミン酸アルカリのAl量100部に対してAl量5〜200部の塩基性アルミニウム塩及び/又はアルミニウム正塩を溶解さたせたアルミン酸アルカリも包含される。この混合溶液においても、本発明の目的が達成される。ここで用いられる塩基性アルミニウム塩及び/又はアルミニウム正塩は公知の製造方法により容易に得られ、市販の工業薬品としても入手することができる。塩基性アルミニウム塩としては、水溶性の塩基性アルミニウム塩として、塩基性塩化アルミニウム、塩基性硝酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウム及び塩基性乳酸アルミニウムなどが挙げられる。また用いられるアルミニウム正塩としては、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、及び酢酸アルミニウムなどが挙げられる。
塩基性アルミニウム塩及び/又はアルミニウム正塩の混合量比を増加さたせた水性アルミナゾルを使用することにより、水熱処理で得られるベーマイト構造を有するアルミナ水和物の1次粒子径を増加させることができる。同様に、本発明の目的が達成される限り、任意の成分、例えばアルミン酸アルカリの安定性を維持している陽イオンなども含有することができる。
本発明のアルミン酸アルカリ水溶液には、二酸化炭素が用いられる。装置の腐食、臭いなどの作業環境や価格などを考慮して好ましくはガス状二酸化炭素が用いられる。液状又は気体状の二酸化炭素はアルミン酸アルカリ水溶液に添加したときに大きな塊ができないような濃度としてから添加されるべきであり、添加される酸の濃度及び添加速度は添加時の攪拌の強さにより決定される。
アルミン酸アルカリ水溶液に二酸化炭素を添加して反応を行うと、中和熱により発熱を起こす。この発熱により、生成したアルミニウム反応生成物が老化を起こし、結晶性の水酸化アルミニウムとなり易くなる。この発熱によって出来た結晶性の水酸化アルミニウムは、後の工程で水熱処理を行った後も残るため、本発明の主目的であるベーマイト構造を有するアルミナ水和物の水性懸濁液のみを得ることができない。また本発明のベーマイト構造を有するアルミナ水和物の粒子形態は、矩形板状1次粒子が面−面間で凝結した2次粒子である。この際、反応時の温度が高いと1次粒子が面−面間の凝結が少なくなるため、柱状粒子である2次粒子が短くなる。そして、得られる酸性水性アルミナゾル中では、1次粒子が多くなる。従って、アルミン酸アルカリ水溶液への二酸化炭素の添加時の温度を低く保つことで結晶性の水酸化アルミニウムの生成を抑えることができ、目的の粒子形状と結晶構造をもったアルミナ水和物(コロイド状粒子)を得ることが出来る。ここで結晶性の水酸化アルミニウムとはX線回折による分析で明らかにピークが存在しているものを指す。
二酸化炭素の添加時の温度を低くする方法としては、アルミン酸アルカリ水溶液の温度を予め冷却した後に酸を添加する方法、更に添加する二酸化炭素の温度を予め低くして添加する方法、添加の最中に外部冷却装置などを用いて反応混合液を冷却する方法などが挙げられる。
最も好ましい方法は上記の温度制御方法をすべて行う方法である。しかし、これら方法をすべて採用すると、設備投資費用が嵩む。よって、この理由から、これら方法の1つ又は2つの方法を選択することもできる。
本発明においてアルミン酸アルカリ水溶液の反応温度としては5〜35℃、好ましくは10〜25℃が良い。5℃以下では反応に用いる二酸化炭素の量が多くなることや反応混合物(スラリー)の粘度が高くなるなどが起こり好ましくない。また、35℃を超えるとアルミナ水和物の1次粒子が所望の大きさより大きくなるため好ましくない。
アルミン酸アルカリ水溶液の二酸化炭素による反応に要する時間は、生成する水酸化アルミニウムの結晶化を防ぐために3時間以内が有効であり、好ましくは1.5時間以内が良い。
反応混合物(スラリー)のpHとしては10.5〜11.2の間が好ましい。10.5以下のpHを有する反応混合物では、次工程の水熱処理を実施しても目的とするベーマイト構造を有するアルミナ水和物を含有する水性アルミナゾルを得ることはできない。また、炭酸塩または二酸化炭素を使用して中和し、pHが10.5以下では、後の水熱合成後に針状のドーソナイト(dawsonite)が多量に生成し、ベーマイト構造を有するアルミナ水和物の生成効率が悪くなるため好ましくない。また、pHが11.2以上では、次工程の水熱処理を実施すると、ギブサイト(gibbsite)などの結晶性水酸化アルミニウムが生成するため好ましくない。ここで、水熱合成で最も効率的にベーマイト構造を有するアルミナ水和物が得られるのは、反応直後の反応混合液のpHが10.6〜10.8の場合である。
反応後に得られる反応混合物を50℃での減圧乾燥法で乾燥し、得られた乾燥物をX線回折にて分析すると特定のピークを示さない無定形のものであると観察される。このとき、水酸化アルミニウムのピークが観察されると後に行う水熱合成反応後も水酸化アルミニウムが残る。
反応後の反応混合物は、二酸化炭素の添加時における攪拌の方式及び攪拌強度によっては粗い粒子が混同する。粗い粒子が存在すると次工程の水熱処理時に不均一な反応を起こすため、より均一な細かい粒子が必要となる。ここでより細かい粒子とは目視で明らかな粒状の粒子が観察できない程度の粒子であり、特に数値で制限するものではない。この細かい粒子を得るためには攪拌及び分散が行われる。より均一な細かい粒子を得るために行われる攪拌及び分散方式は特に限定はされない。一例を挙げれば媒体ミル処理、コロイドミル処理、高速剪断攪拌処理及び高圧衝撃分散処理等が用いられる。攪拌及び分散は用いる装置の能力によって時間は異なるが、大きな塊がなくなるまで行えば良い。攪拌及び分散時間を長く行うほど反応混合物中の固形物は微細化・均一化するが、生産効率的に見ると2時間から24時間以内が好ましい。攪拌時の温度については特に限定しないが、通常5〜40℃であり、常温でよい。
本発明の第一観点の(B)工程、第三観点の(b)工程、第五観点の(B’)工程及び第八観点の(B)工程は、前工程で得られた当該反応混合物を110〜250℃の温度で水熱処理することにより、ベーマイト構造を有するアルミナ水和物を含有する水性懸濁液を生成させる工程である。
均一化した反応混合物の水熱処理を行うことによって、透過型電子顕微鏡による観察において、10〜40nmの一辺の長さと2.5〜10nmの厚さとを有する矩形板状1次粒子が面−面間で凝結することにより形成される柱状構造又は傾斜した柱状構造とベーマイト構造とを有するアルミナ水和物(2次粒子)の水性懸濁液が得られる。
この2次粒子の形態は、血液中で赤血球の凝結により形成される柱状構造(rouleax:仏語、long cylindrical and branched structures:英語)と類似している。
水熱処理の温度は110〜250℃で行うことができる。反応混合物を110℃未満の温度で水熱処理すると、水性懸濁液中において無定形アルミナ水和物からベーマイト構造を有するアルミナ水和物の矩形板状1次粒子への結晶構造の生成に長時間を要して、好ましくない。一方、250℃を超える温度での水熱処理では、装置的に急冷設備、超高圧容器などを必要とするので好ましくない。装置の腐食や耐圧構造による装置費用を考慮すると120〜160℃で行うのが好ましい。水熱処理において、より高温を選択することにより、水熱処理で得られるコロイドの1次粒子径及び粒子の厚みをより増加させることができる。
水熱処理装置としては、公知の装置である攪拌機付オートクレーブや流通式管状反応器などの高圧設備を使用する。水熱合成の時間は温度により異なるが、5〜24時間、好ましくは8〜20時間行う。
水熱処理で得られた当該水性懸濁液を限外濾過法やケーク濾過、またはイオン交換樹脂の接触法などによりアルカリ、アルカリ塩類の除去が行われる。
また、本発明の第一観点の(C)工程は、(B)工程で得られた当該水性懸濁液を、限外濾過法にて水と酸とを添加して脱塩処理することにより、3〜7のpHを有する酸性水性アルミナゾルを形成させる工程である。
限外濾過法にはその変法であるダイアフィルトレーション法(diafiltration process)を採用する。ダイアフィルトレーション法においては、水の添加によりアルカリ及びアルカリ塩類の除去ができる。尚、限外濾過法を用い、アルカリを限外濾過膜透過液側に抜くことで分離精製を行う場合、回分式操作では水性アルミナゾルに必ずアルカリが残ってしまう。そこで、採用するダイアフィルトレーション法では、水性アルミナゾル側に水と酸を添加して、3〜7のpHを有する酸性水性アルミナゾルを形成させながら、限外濾過膜の透過液量を増していくことによりアルカリの除去率を上げて、効率よく脱塩処理を進めることとなる。
使用する限外濾過膜は、市販の工業製品として得られる分画分子量が6千から20万の限外濾過膜が使用できる。また、クロスフローフィルトレーション法(cross−flow filtration process)にて利用される、精密濾過膜上にコロイド粒子からなるゲル層を形成させたダイナミック膜(限外濾過膜)も使用できる。
その脱塩処理は、酸性水性アルミナゾルのAl濃度が10質量%基準で、電気伝導度が1000μS/cm以下となるまで、好ましくは700〜100μS/cmとなるまで行う。目的とする酸性水性アルミナゾルのAl濃度が異なる場合、Al濃度と電気伝導度との相関は、上記Al濃度が10質量%基準の電気伝導度との相関に正比例するとして計算して良い。そして脱塩処理温度は、通常10〜60℃であり、常温でよい。
この工程では、酸として、硝酸、塩酸、硫酸、過塩素酸、酢酸、蟻酸、乳酸などを使用することができる。この工程では、ダイアフィルトレーション法の操作方式は回分式及び連続式を採用することができる。そして、ダイアフィルトレーション法の装置は、クロスフロー方式のものが好ましい。
そして、目的とするAl濃度が最大20質量%となるまで、ダイアフィルトレーション法及び/又は限外濾過法にて濃縮することができる。
本発明の第三観点の(c)工程は、(b)工程で得られた当該水性懸濁液を、ケーク濾過法にて水と酸とを添加して脱塩処理することにより、3〜7のpHを有する酸性水性アルミナゾルを形成させる工程である。
ケーク濾過法としては、クロスフローフィルトレーション法(cross−flow filtration process)を採用することが好ましい。
ケーク濾過法による脱塩処理では、水の添加を行いながら中和に使用した酸とアルミン酸アルカリにより生成した塩の脱塩処理を行う。また9〜12のpHを維持するために、アルカリを必要に応じて脱塩処理反応混合物に加えることもある。なお、ケーク濾過法を用い、アルカリをケーク濾過膜透過液側に抜くことで、分離精製を行う場合、回分式操作では反応混合物に必ず塩が残ってしまう。そこで、クロスフローフィルトレーション法では、反応混合物側に水とアルカリを添加して、9〜12のpHを有する脱塩処理混合物を形成させながら、ケーク濾過膜の透過液量を増していくことにより、塩の除去率を上げて、効率よく脱塩処理を進めることができる。
その脱塩処理は、脱塩処理混合物のAl濃度が4質量%基準で、電気伝導度が500μS/cm以下となるまで、好ましくは300〜100μS/cmとなるまで行う。目的とする脱塩処理混合物のAl濃度が異なる場合、Al濃度と電気伝導度との相関は、上記のAl濃度が4質量%基準の電気伝導度との相関に正比例するとして計算して良い。そして脱塩処理温度は、通常10〜60℃であり、常温でよい。
ケーク濾過法を用いた脱塩工程では、必要に応じて加えて良いアルカリとして、アルカリ金属水酸化物塩、アルカリ土類金属水酸化物塩、アルミン酸アルカリ金属塩、アルミン酸アルカリ土類金属塩、水酸化アンモニウム、水酸化第4級アンモニウム、水酸化グアニジン、アミン類などが挙げられる。アルカリ金属水酸化物塩としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び水酸化セシウムなどが好ましく、特に水酸化ナトリウムが好ましい。なお、脱塩処理反応混合物に副生成物として、不溶性塩を生成するアルカリは当然除かれる。
ケーク濾過法による脱塩工程では、クロスフローフィルトレーション法の操作方式は回分式及び連続式を採用することができる。好ましい工業的装置として、チェコスロバキア国立有機合成研究所で開発された連続式ロータリフィルタープレスが挙げられる。(詳しくは、K.Michel and V.Gruber,Chemie−Ingenieur−Technik,43,380(1971)及びF.M.Tiller,Filtration & Separation,15,204(1978)などに記載されている。)ケーク濾過には、公知の濾布が使用できる。濾布としては、精密濾過膜がより好ましい。その精密濾過膜としては、市販の工業製品として得られる公称孔径0.05μmから10μmの精密濾過膜が使用できる。
第五観点の(C’)工程は、(B’)工程で得られた当該水性懸濁液を、水素型酸性陽イオン交換樹脂と水酸型強塩基性陰イオン交換樹脂とを接触させることにより、3〜7のpHを有する酸性水性アルミナゾルを形成させる工程である。
イオン交換樹脂の接触法では、水熱処理工程で得られた当該水性懸濁液を、水素型酸性陽イオン交換樹脂及び水酸型強塩基性陰イオン交換樹脂にて接触処理する。この工程では、水素型酸性陽イオン交換樹脂の接触処理により原料アルミン酸アルカリ中のアルカリを除去する。そして水酸型強塩基性陰イオン交換樹脂の接触処理により、中和時に用いた酸の除去を行いながら酸性水性アルミナゾルの安定剤である酸の含有量を調整する。
用いる水素型酸性陽イオン交換樹脂としては、市販されている強酸性陽イオン交換樹脂及び/又は弱酸性陽イオン交換樹脂を酸にてイオン交換処理及び水洗処理して使用する。そして、除去しようとする原料アルミン酸アルカリ中のアルカリ量に対し、当量ではなく約3倍当量にあたる水素型酸性陽イオン交換樹脂量を使用するのが好ましい。その接触処理法は、通常樹脂を充填したカラムに被処理液を下向流若しくは上向流で通液する方法、又は被処理液中に樹脂を添加し攪拌保持した後、樹脂を濾別する方法が使用される。また接触処理液温度は、通常10〜60℃であり、常温でよい。
また用いる水酸型強塩基性陰イオン樹脂としては、市販されている強塩基性陰イオン樹脂を水酸化ナトリウム水溶液にてイオン交換処理及び水洗処理して使用する。その使用する樹脂量は、脱アルカリ処理された酸性水性アルミナゾル中の過剰の酸を除去するのが目的であり、3〜7のpHを有する酸性水性アルミナゾルが得られればよい。その接触処理方法は被処理液中に樹脂を添加し攪拌保持した後、樹脂を濾別する方法が簡便に使用される。また接触処理液温度は、通常10〜60℃であり、常温でよい。
以上、本発明の第一観点の(C)工程、第三観点の(c)工程及び第五観点の(C’)工程で得られた3〜7のpHを有する酸性水性アルミナゾルは、目的とするAl濃度として最大20質量%となるまで、公知の濃縮方法である減圧濃縮法、限外濾過法などにて濃縮することができ、安定な酸性水性アルミナゾルが得られる。
これらの工程では、酸として、硝酸、塩酸、硫酸、過塩素酸、酢酸、蟻酸、乳酸などが使用することができる。ここで、脱塩工程において、得られた3〜7のpHを有する酸性水性アルミナゾルの動的光散乱法粒径分布を測定すると、50〜400nmの流体力学的平均粒径を有する粒子群が認められる場合と、50〜400nmの流体力学的平均粒径を有する粒子群と600〜1400nmの流体力学的平均粒径を有する粒子群とが認められる場合がある。但し、この酸性水性アルミナゾル中では、600〜1400nmの流体力学的平均粒径を有する粒子群である2次粒子の高次構造凝集物の存在比率は小さい。
よって、酸添加及び脱塩処理により、2次粒子の高次構造凝集物が2次粒子(コロイド粒子)へと解膠したものと考えられる。また、この2次粒子は、その1次粒子の面−面間が凝結して、50〜300nmの柱状構造又は傾斜した柱状構造を形成している。粒子としては、比表面積が最も小さくなる2次粒子の形態をしているため、コロイド分散系(アルミナゾル)としてはより安定な系となっている。電解質(塩類等)の添加に対しても安定性が向上している。
本発明の第七観点では、前記の第一観点、第三観点又は第五観点の製造方法から得られる安定な酸性水性アルミナゾルを機械的分散処理後、濃縮することを特徴とする高濃度かつ安定な酸性水性アルミナゾルの製造方法である。
この方法では、得られた当該安定な酸性水性アルミナゾルを機械的分散処理することにより、酸性水性アルミナゾル中に微量存在する2次粒子の高次構造凝集物が破砕されとともに、2次粒子の面−面間の凝結により形成された柱状構造を有する粒子の結合が切断され2次粒子の伸長方向(柱状方向)の長さが短くなり、よりゾルの分散性が向上するため、高濃度かつ安定な酸性水性アルミゾルを得ることが可能となる。
機械的分散処理とは、媒体ミル処理、コロイドミル処理、高速剪断攪拌処理及び高圧衝撃分散処理が挙げられる。媒体ミル処理に使用される具体的装置としては、ボールミル、アトライター、サンドミル及びビーズミルなどが挙げられる。コロイドミル処理に使用される具体的装置としては、コロイドミル、ストーンミル、ケーデーミル及びホモジナイザーなどが挙げられる。高速剪断攪拌処理に使用される具体的装置としては、商品名としてハイスピードディスパーサー、ハイスピードインペラー及びデイゾルバーと呼ばれているものが挙げられる。高圧衝撃分散処理に使用される具体的装置としては、高圧ポンプを使用した高圧衝撃分散機及び超音波高圧衝撃分散機が挙げられる。また機械的分散処理液温度は、通常10〜60℃であり、常温でよい。
機械的分散処理した酸性水性アルミナゾルは、目的とするAl濃度として最大35質量%となるまで、公知の濃縮方法である減圧濃縮法、限外濾過法などにて濃縮することができ、高濃度かつ安定な酸性水性アルミナゾルが得られる。ここで、高濃度かつ安定な酸性水性アルミナゾルの動的光散乱法粒径分布を測定すると、50〜400nmの流体力学的平均粒径を有する粒子群が認められる場合と、10〜40nmの流体力学的平均粒径を有する粒子群と50〜400nmの流体力学的平均粒径を有する粒子群とが認められる場合がある。透過型電子顕微鏡の観察結果との対比より、10〜40nmの流体力学的平均粒径を有する粒子群は10〜40nmの一辺の長さを有する矩形板状1次粒子群である。50〜400mの流体力学的平均粒径を有する粒子群は、10〜40nmの一辺の長さを有する矩形板状1次粒子(コロイド粒子)が面−面間の凝結により形成される、50〜400nmの長さを有する柱状2次粒子群(コロイド粒子群)と判断される。
脱塩工程において、ベーマイト構造を有するアルミナ水和物を含有する水性懸濁液は酸の添加及び/又は懸濁液中のアルカリ由来の電解質を除去されることにより、安定な水性アルミナゾルとなる。そして、当該ゾルは、安定剤としての酸の添加によりpHを3〜7に、好ましくは3.5〜6.5に調整されることによりゾルとしての安定性が向上する。よって、Al濃度として最大20質量%迄の任意のAl濃度の安定な酸性水性アルミナゾルが得られる。このゾルは、密閉状態で50℃で1ヶ月の保存でもゲル化することなく安定である。
本発明の第七観点で得られた高濃度かつ安定な酸性水性アルミナゾルは、濃縮工程を経てAl濃度として最大35質量%迄のAl濃度を有する高濃度かつ安定な酸性水性アルミナゾルが得られる。このゾルは、密閉状態で50℃で1ヶ月の保存でもゲル化することなく安定である。本発明で得られるアルミナ水和物のコロイド粒子は、110℃で乾燥後1100℃迄の示差熱分析により、1.0〜1.2のHO/Alモル比を有することと、粉末X線回折法結果より、ベーマイト構造を有するアルミナ水和物のコロイド粒子と同定される。
本発明で得られる安定な酸性水性アルミナゾル及び高濃度かつ安定な酸性水性アルミナゾルは、透過型電子顕微鏡観察によると、10〜40nmの一辺の長さと2.5〜10nmの厚さとを有する矩形板状1次粒子が面−面間で凝結することにより形成される、50〜400nmの長さを有する柱状2次粒子である。
なお、本発明において採用した分析方法は下記の通りである。
(1)組成分析
(i)Al濃度 質量法(800℃焼成残分)
(ii)NaO濃度 原子吸光光度法(前処理は塩酸溶解処理)
(iii)酢酸濃度 中和滴定法。
(2)pH測定
pH計D−22((株)堀場製作所製)を用いて測定した。
(3)電気伝導度
電気伝導度計 ES−12((株)堀場製作所製)を用いて測定した。
(4)動的光散乱法粒径
動的光散乱法粒径測定装置 DLS−6000(登録商標)(大塚電子(株)製)を用いて測定した。測定解析法はキュムラント法を採用し、液中の流体力学的平均粒径を測定した。
(測定条件)溶媒 純水(25℃)。
(5)動的光散乱法粒径分布
動的光散乱法粒径測定装置DLS−6000(登録商標)(大塚電子(株)製)を用いて測定した。測定解析法は修正Marquadt法(ヒストグラム解析プログラム)を採用し、液中での流体力学的粒径分布を測定した。各々の粒子群(モード)における流体力学的平均径が測定結果として得られる。
(測定条件)溶媒 純水(25℃)。
(6)比表面積(BET法)
予め所定の条件で乾燥した試料を窒素吸着法比表面積計 MONOSORB MS−16型(QUANTACHROME社製)を用いて測定した。
(7)透過型電子顕微鏡観察
試料を純水で希釈後、銅メッシュ上の親水化処理済カーボン被膜コロジオン膜に試料を塗布して、乾燥させ観察試料を準備した。透過型電子顕微鏡 JEM−1010(日本電子(株)製)にて、その観察試料の電子顕微鏡写真を撮影して、観察した。
(8)示差熱分析
示差熱分析装置 TG/DTA320U(セイコー電子工業(株)製)を用いて測定した。
(測定条件)試料 16mg、リファレンス α−アルミナ16mg。
測定温度範囲 25〜1100℃
昇温速度 10℃/分。
(9)粉末X線回折
X線回折装置 XRD−6100((株)島津製作所製)を用いて、測定した。
【実施例】
【実施例1】
攪拌装置及びガス吹き込み管を装着したステンレス製容器に市販の液体アルミン酸ナトリウム1258g(AS−17、(株)北陸化成工業所製、Al濃度19.13質量%、NaO濃度19.46質量%)に水4758gを加え、強く攪拌した。このときの希釈したアルミン酸ナトリウム水溶液の液温は22℃であった。この水溶液中に液化二酸化炭素を気化させて得たガス状二酸化炭素を流速1.67L/分の速度で95分間導入した。ガス状二酸化炭素導入直後の反応混合物(スラリー)の液温は30℃、pHは10.63であった。その後引き続いて、この反応混合物を、室温下で4時間攪拌した。そして攪拌処理済み反応混合物(pH10.80、Al濃度4.0質量%)6000gを得た。
得られた反応混合物4000gをステンレス製オートクレーブ容器に仕込み、140℃で15時間水熱処理を行った。得られた水性懸濁液は、pH10.30、電気伝導度56.4mS/cmを示し、Al濃度4.0質量%であった。この水性懸濁液の動的光散乱法粒径分布を測定すると、182nmの流体力学的平均粒径(標準偏差23nm)を有する粒子群と920nmの流体力学的平均粒径(標準偏差115nm)を有する粒子群とが認められた。
この水性懸濁液を取り出した後、その水性懸濁液全量に純水5000gと酢酸14.8gとを加えて攪拌して、pH6.10に調製した後、限外濾過膜(分画分子量5万)を取り付けた攪拌機付自動連続加圧濾過装置にて、純水7000gを添加しながら脱塩し、その後、装置内で濃縮して酸性水性アルミナゾル1680gを得た。得られた酸性水性アルミナゾルはpH6.80、Al濃度9.5質量%、NaO濃度88質量ppm、電気伝導度104μS/cm、粘度25mPa・s、酢酸濃度0.18質量%であり、動的光散乱法粒径265nm、300℃で乾燥した粉体のBET法による比表面積108m/gを示した。
得られた酸性水性アルミナゾルの動的光散乱法粒径分布を測定すると、260nmの流体力学的平均粒径(標準偏差60nm)を有する粒子群のみが認められた。透過型電子顕微鏡観察によると、得られた酸性水性アルミナゾル中のアルミナ水和物の1次粒子は、10〜20nmの一辺の長さと2.5〜7.5nmの厚さとを有する矩形板状粒子であった。そして、その1次粒子が面−面間で凝結することにより形成される、50〜300nmの長さを有する柱状構造又は傾斜した柱状構造を有する2次粒子を形成していた。
この2次粒子の形態は、血液中で赤血球の凝結により形成される柱状構造(rouleax:仏語、long cylindrical and branched structures:英語)と類似している。
また、その酸性水性アルミナゾルを110℃で乾燥し、得られた粉体を1100℃迄熱分析すると、そのアルミナ水和物のコロイド粒子は1.09のHO/Alモル比を有すること及び前記粉体の粉末X線回折法結果(第1表)より、ベーマイト構造を有するアルミナ水和物と同定できた。この酸性水性アルミナゾルは、密閉状態で50℃で1ヶ月保持した後でもゲル化することはなく安定であった。

【実施例2】
攪拌装置及びガス吹き込み管を装着したステンレス製容器に市販の液体アルミン酸ナトリウム803g(AS−17、(株)北陸化成工業所製、Al濃度18.93質量%、NaO濃度19.42質量%)及び水2997.0gを加え、23℃の恒温水槽に容器ごと入れ、強く攪拌した。このときの希釈したアルミン酸ナトリウム溶液の液温は23℃であった。この希釈したアルミン酸ナトリウム水溶液中に液化二酸化炭素を気化させて得たガス状二酸化炭素を流速533mL/分の速度で92分間導入した。ガス状二酸化炭素導入直後の液温は28℃であり、反応混合物(スラリー)のpHは10.75であった。その後引き続いて、この反応混合物を、室温下で4時間攪拌し、そして攪拌処理済み反応混合物(pH10.94、Al濃度4.0質量%)3800gを得た。
この反応混合物3000gをステンレス製オートクレーブ容器に仕込み、150℃で10時間水熱処理を行った。得られた水性懸濁液は、pH10.43、電気伝導度55.6mS/cmを示し、Al濃度4.02質量%であった。この水性懸濁液の動的光散乱法粒径分布を測定すると、185nmの流体力学的平均粒径(標準偏差21nm)を有する粒子群と940nmの流体力学的平均粒径(標準偏差130nm)を有する粒子群とが認められた。
この水性懸濁液を取り出し、その水性懸濁液全量に純水6000gと酢酸11.0gとを加えて攪拌して、pH6.25に調製した後、限外濾過膜(分画分子量5万)を取り付けた攪拌機付自動連続加圧濾過装置にて、純水7000gを添加しながら脱塩し、その後、装置内で濃縮して酸性水性アルミナゾル1090gを得た。得られた酸性水性アルミナゾルはpH6.42、Al濃度11.0質量%、NaO濃度101質量ppm、電気伝導度125μS/cm、粘度30mPa・s、酢酸濃度0.20質量%であり、動的光散乱法粒径250nm、300℃で乾燥した粉体のBET法による比表面積110m/gを示した。
得られた酸性水性アルミナゾルの動的光散乱法粒径分布を測定すると、250nmの流体力学的平均粒径(標準偏差57nm)を有する粒子群のみが認められた。透過型電子顕微鏡観察によると、得られた酸性水性アルミナゾルに含有されるアルミナ水和物の1次粒子は、15〜30nmの一辺の長さと3.0〜8.0nmの厚さとを有する矩形板状粒子であった。そして、その1次粒子が面−面間で凝結することにより形成される、50〜350nmの長さを有する、柱状構造又は傾斜した柱状構造を有する2次粒子を形成していた。
また、その酸性水性アルミナゾルを110℃で乾燥し、得られた粉体を1100℃迄熱分析すると、そのアルミナ水和物のコロイド粒子は1.03のHO/Alモル比を有すること及び前記粉体の粉末X線回折法結果より、ベーマイト構造を有するアルミナ水和物と同定できた。この酸性水性アルミナゾルは、密閉状態で50℃で1ヶ月保持した後でもゲル化することはなく安定であった。
【実施例3】
実施例1で得られた酸性水性アルミナゾル1000gに酢酸を加えてpH6.10とした後、多連式超音波高圧衝撃分散機(UH−600SREX型超音波ホモジナイザー(商標)、(株)エスエムテー製)を用いて室温で400mL/分の流速で機械的分散処理を3回繰り返し行い、その後減圧濃縮して高濃度の酸性水性アルミナゾル378gを得た。
得られた酸性水性アルミナゾルはpH6.15、Al濃度25.1質量%、電気伝導度320μS/cm、粘度1200mPa・s、動的光散乱法粒径139nmであり、110℃で乾燥したもののBET法による比表面積は115m/g、300℃で乾燥したもののBET法による比表面積は108m/gを示した。得られた酸性水性アルミナゾルの動的光散乱法粒径分布を測定すると、19.3nmの流体力学的平均粒径(標準偏差5nm)を有する粒子群と142nmの流体力学的平均粒径(標準偏差32nm)を有する粒子群とが認められた。透過型電子顕微鏡観察によると、得られた酸性水性アルミナゾル中のアルミナ水和物の1次粒子は、10〜20nmの一辺の長さと2.5〜7.5nmの厚さとを有する矩形板状粒子であった。そして、その1次粒子が面−面間で凝結することにより形成される、50〜300nmの長さを有する、柱状構造又は傾斜した柱状構造を有する2次粒子を形成していた。
また、その酸性水性アルミナゾルを110℃で乾燥し、得られた粉体を1100℃迄熱分析すると、そのアルミナ水和物のコロイド粒子は1.09のHO/Alモル比を有すること及び前記粉体の粉末X線回折法結果(第1表)より、ベーマイト構造を有するアルミナ水和物と同定できた。この酸性水性アルミナゾルは、密閉状態で50℃で1ヶ月保持した後でもゲル化することはなく安定であった。
【実施例4】
実施例1と同様に反応混合物の調製を行い、攪拌処理済み反応混合物4200g(pH10.79、Al濃度4.0質量%)を得た。この反応混合物4150gをステンレス製オートクレーブ容器に仕込み、140℃で15時間水熱処理を行った。得られた水性懸濁液は、pH10.45、電気伝導度62.6mS/cm、Al濃度4.0質量%であった。
この水性懸濁液を取り出した後、その水性懸濁液に水4150gを加え、その後、水素型陽イオン交換樹脂(アンバーライトIR−120B(登録商標)、ローム・アンド・ハース社製)2739gを投入した。その後、更に20質量%の酢酸濃度を有する酢酸水溶液4.2gを加えてpH4.69に調製した後、減圧濃縮して酸性水性アルミナゾル1126gを得た。
得られた酸性水性アルミナゾルはpH5.34、Al濃度14.3質量%、電気伝導度529μS/cm、動的光散乱法粒径363nmであり、300℃で乾燥した粉体のBET法による比表面積は104m/gを示した。透過型電子顕微鏡観察によると、得られた酸性水性アルミナゾルに含有されるアルミナ水和物のコロイド粒子は10〜20nmの一辺の長さと2.5〜7.5nmの厚さとを有する矩形板状粒子であった。そして、その1次粒子が面−面間で凝結することにより形成される、50〜300nmの長さを有する柱状構造又は傾斜した柱状構造を有する2次粒子を形成していた。
また、この酸性水性アルミナゾルを密閉状態で50℃で1ヶ月保持した後でもゲル化することはなく安定であった。
【実施例5】
実施例1と同様に反応混合物の調製を行い、攪拌処理済み反応混合物4450g(pH10.79、Al濃度4.0質量%)を得た。この反応混合物4400gをステンレス製オートクレーブ容器に仕込み、140℃で15時間水熱処理を行った。得られた水性懸濁液は、pH10.45、電気伝導度62.6mS/cm、Al濃度4.0質量%であった。
この水性懸濁液に液量が一定になるように水を加えながら、公称孔径0.2μmの精密濾過膜を取り付けた攪拌機付自動連続加圧濾過装置を用いて循環しながら脱塩した。脱塩処理反応混合物はpH10.26、電気伝導度230μS/cm、Al濃度8.0質量%であった。
この脱塩処理反応混合物を取り出した後、その脱塩処理反応混合物全量に20質量%の酢酸濃度を有する酢酸水溶液6.7gを加えて攪拌して、pH5.50に調製した後、減圧濃縮して酸性水性アルミナゾル1141gを得た。
この得られた酸性水性アルミナゾルはpH6.00、電気伝導度700μS/cm、Al濃度14.8%、粘度12.3mPas、動的光散乱法粒径282nmであり、300℃で乾燥した粉体のBET法による比表面積は106m/gを示した。
透過型電子顕微鏡観察によると、得られた酸性水性アルミナゾルに含有されるアルミナ水和物のコロイド粒子は10〜20nmの一辺の長さと2.5〜7.5nmの厚さとを有する矩形板状粒子であった。そして、その1次粒子が面−面間で凝結することにより形成される、50〜300nmの長さを有する柱状構造又は傾斜した柱状構造を有する2次粒子を形成していた。
また、このゾルを密閉状態で50℃で1ヶ月保持した後でもゲル化することはなく安定であった。
比較例1
攪拌装置及びガス吹き込み管を装着したステンレス製容器に市販の液体アルミン酸ナトリウム1258g(AS−17、(株)北陸化成工業所製、Al濃度19.13質量%、NaO濃度19.46質量%)に水4758gを加え、強く攪拌した。このときの希釈したアルミン酸ナトリウム溶液の液温は22℃であった。このアルミン酸ナトリウム溶液中に液化二酸化炭素を気化させて得たガス状二酸化炭素を流速1.67L/分の速度で53分間導入した。導入直後の反応混合物(スラリー)の温度は26℃、pHは11.99であった。その後引き続いて、この反応混合物を4時間攪拌し、攪拌処理済み反応混合物(pH13.19、Al濃度4.0質量%)6000gを得た。
この反応混合物4000gをステンレス製オートクレーブ容器に仕込み、110℃で4時間水熱処理を行った。得られた水性懸濁液は、pH13.37、電気伝導度35.1mS/cmを示し、Al濃度は4.0質量%であった。この水性懸濁液の動的光散乱法粒径分布を測定すると、201nmの流体力学的平均粒径(標準偏差26nm)を有する粒子群と980nmの流体力学的平均粒径(標準偏差140nm)を有する粒子群とが認められた。
また、その水性懸濁液を110℃で乾燥した粉体の粉末X線回折法結果では、ベーマイト構造は認められず、ギブサイト構造を有するアルミナ水和物が同定できた。
【産業上の利用可能性】
本発明によって得られる安定な酸性水性アルミナゾル及び高濃度かつ安定な酸性水性アルミナゾルは、従来の水性アルミナゾルに比較すると、例えば市販のベーマイト構造を有するアルミナ水和物の分散性の高い六角板状粒子及び/又は矩形板状粒子を含有する水性アルミナゾルと、市販のベーマイト構造を有するアルミナ水和物のチクソトロピー性の高い繊維状粒子を含有する水性アルミナゾルとの中間的挙動をするため、種々の用途に従来得られなかった改良をもたらす。組成物をつくるために従来のアルミナゾルに加えられた成分は、本発明のアルミナゾルに対しても加えることができる。該成分としては、シリカゾル、アルキルシリケートの加水分解液、その他の金属酸化物ゾル、水溶性樹脂、樹脂エマルジョン、増粘剤、消泡剤、界面活性剤、耐火物粉末、金属粉末、顔料、カップリング剤などが挙げられる。
更に、従来から用いられている種々の塗料成分と共に本発明のアルミナゾルを配合することにより、無機塗料、耐熱塗料、防食塗料、無機−有機複合塗料などを容易に調製することができる。本発明のアルミナゾルを含有する塗料から形成された乾燥塗膜にはピンホールが少なく、クラックも殆ど見られない。この理由は、塗膜形成において、アルミナゾルに含有されるの50〜400nmの柱状2次粒子は一般のコロイド粒子に見られる塗膜中での偏析現象を起こさず、塗膜中内に2次粒子による堅牢な架橋構造を形成するためと考えられる。
本発明のアルミナゾルを含有するこれら塗料、接着剤などは、種々の基材、例えば、ガラス、セラミックス、金属、プラスチックス、木材、繊維、紙などの表面に適用することができる。本発明のアルミナゾルは、通常のガラス繊維、セラミック繊維、その他の無機繊維などのフェルト状物に含浸させることもできる。
本発明のアルミナゾルは2次粒子が50〜400nmの柱状構造を有するため、多層配線半導体デバイスにおける層間絶縁膜、及びアルミニウム、銅、タングステン又はそれらの合金のようなメタル配線の表面研磨、及び基材例えば磁気記録媒体用ディスクの上に設けられたNi−P等のメッキ層の表面研磨剤としても有用である。
本発明のアルミナゾルは、高い安定性を示し、その媒体の除去によって終局的にゲルに変わる性質を有するが、このゾルに含有される2次粒子は50〜400nmの柱状構造を有するので、このゾルがゲル化する際に、又は硬化後には、このゾルに由来する独特の性質を示す。上記用途の他にも種々の用途に有用であることは容易に理解されよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)、(B)及び(C)工程を含む、
電子顕微鏡観察によると、10〜40nmの一辺の長さと2.5〜10nmの厚さとを有する矩形板状1次粒子が面−面間で凝結することにより形成される、50〜400nmの長さを有する柱状2次粒子を含有する安定な酸性水性アルミナゾルの製造方法。
(A):5〜35℃の液温下、アルミン酸アルカリ水溶液に液状又は気体状二酸化炭素を添加することにより、10.5〜11.2のpHを有する反応混合物を生成させる工程、
(B):(A)工程で得られた当該反応混合物を110〜250℃の温度で水熱処理することにより、ベーマイト構造を有するアルミナ水和物を含有する水性懸濁液を生成させる工程、及び
(C):(B)工程で得られた当該水性懸濁液を、限外濾過法にて水と酸とを添加して脱塩処理することにより、3〜7のpHを有する酸性水性アルミナゾルを形成させる工程。
【請求項2】
(B)工程において、水熱処理する前に(A)工程で得られた反応混合物を2〜24時間の攪拌で前処理する請求の範囲第1項に記載の安定な酸性水性アルミナゾルの製造方法。
【請求項3】
下記の(a)、(b)及び(c)工程を含む、
電子顕微鏡観察によると、10〜40nmの一辺の長さと2.5〜10nmの厚さとを有する矩形板状1次粒子が面−面間で凝結することにより形成される、50〜400nmの長さを有する柱状2次粒子を含有する安定な酸性水性アルミナゾルの製造方法。
(a):5〜35℃の液温下、アルミン酸アルカリ水溶液に液状又は気体状二酸化炭素を添加することにより、10.5〜11.2のpHを有する反応混合物を生成させる工程、
(b):(a)工程で得られた当該反応混合物を110〜250℃の温度で水熱処理することにより、ベーマイト構造を有するアルミナ水和物を含有する水性懸濁液を生成させる工程、及び
(c):(b)工程で得られた当該水性懸濁液を、ケーク濾過法にて水と酸とを添加して脱塩処理することにより、3〜7のpHを有する酸性水性アルミナゾルを形成させる工程。
【請求項4】
(b)工程において、水熱処理する前に(a)工程で得られた反応混合物を2〜24時間の攪拌で前処理する請求の範囲第3項に記載の安定な酸性水性アルミナゾルの製造方法。
【請求項5】
下記の(A’)、(B’)及び(C’)工程を含む、
電子顕微鏡観察によると、10〜40nmの一辺の長さと2.5〜10nmの厚さとを有する矩形板状1次粒子が面−面間で凝結することにより形成される、50〜400nmの長さを有する柱状2次粒子を含有する安定な酸性水性アルミナゾルの製造方法。
(A’):5〜35℃の液温下、アルミン酸アルカリ水溶液に液状又は気体状二酸化炭素を添加することにより、10.5〜11.2のpHを有する反応混合物を生成させる工程、
(B’):(A’)工程で得られた当該反応混合物を110〜250℃の温度で水熱処理することにより、ベーマイト構造を有するアルミナ水和物を含有する水性懸濁液を生成させる工程、及び
(C’):(B’)工程で得られた当該水性懸濁液を、水素型酸性陽イオン交換樹脂と水酸型強塩基性陰イオン交換樹脂とを接触させることにより、3〜7のpHを有する酸性水性アルミナゾルを形成させる工程。
【請求項6】
(B’)工程において、水熱処理する前に(A’)工程で得られた反応混合物を2〜24時間の攪拌で前処理する請求の範囲第5項に記載の安定な酸性水性アルミナゾルの製造方法。
【請求項7】
請求の範囲第1項、第3項又は第5項に記載の製造方法で得られる安定な酸性水性アルミナゾルを機械的分散処理後、濃縮することを特徴とする高濃度かつ安定な酸性水性アルミナゾルの製造方法。
【請求項8】
下記の(A)及び(B)工程を含む、
ベーマイト構造を有するアルミナ水和物を含有する水性懸濁液の製造方法。
(A):5〜35℃の液温下、アルミン酸アルカリ水溶液に液状又は気体状二酸化炭素を添加することにより、10.5〜11.2のpHを有する反応混合物を生成させる工程、及び
(B):(A)工程で得られた当該反応混合物を110〜250℃の温度で水熱処理することにより、ベーマイト構造を有するアルミナ水和物を含有する水性懸濁液を生成させる工程。

【国際公開番号】WO2004/080898
【国際公開日】平成16年9月23日(2004.9.23)
【発行日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−503560(P2005−503560)
【国際出願番号】PCT/JP2004/003173
【国際出願日】平成16年3月11日(2004.3.11)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】