説明

酸性液の処理装置及び処理方法

【課題】非イオン性又はカチオン性の水溶性の有機物及び/又は窒素化合物を含有する酸性液を生物処理するに当たり、pH、塩類濃度の調整に、希釈水を用いることなく、或いは少ない希釈水量で生物処理可能な水に調整して生物処理に供する。
【解決手段】アニオン交換膜21によって原水室22とアルカリ溶液室23とに隔てられた中和透析装置2の原水室22に酸性液を通水すると共に、アルカリ溶液室23にアルカリ溶液を通水して該酸性液を中和及び脱塩した後、中和脱塩処理液を生物処理する。アニオン交換膜21及びアルカリ溶液を用いた中和透析処理で、非イオン性又はカチオン性の水溶性の有機物及び/又は窒素化合物を含有する酸性液の中和と脱塩を行うことができ、得られた中和脱塩処理液を生物処理に供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非イオン性又はカチオン性の水溶性の有機物及び/又は窒素化合物を含有する酸性液を、効率的に中和脱塩処理して生物処理する装置と方法に関する。詳しくは原子力発電所や火力発電所の復水脱塩装置の再生時に排出されるモノエタノールアミン含有希塩酸性液等の非イオン性又はカチオン性の水溶性の有機物及び/又は窒素化合物を含有する酸性液を、効率的かつ経済的に中和脱塩処理して生物処理する装置と方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電や火力発電の復水工程では、モノエタノールアミン(MEA)などのアミン類が蒸気生成ラインの防食剤として用いられている。通常、これらのアミン類は、ライン中に設けられた復水脱塩装置(以下「コンデミ」と称す場合がある。)のカチオン交換樹脂に捕捉され、復水脱塩装置の再生の際に再生廃液に含まれて排出される。排出されたアミン類は、COD源や富栄養化源となって河川や湖沼を汚染するため、これを処理する必要がある。
【0003】
一般に、排水処理において、有機物や窒素成分などの処理は、設備費や維持費が安いことから主に生物処理が採用され広く用いられている。しかし、生物処理は微生物の働きによる処理であるために、被処理排水が微生物の生存環境としてふさわしくない場合は、処理がうまくいかないか、あるいは微生物を死滅させてしまうことがある。その阻害因子としては、代表的なものに水温、pH、塩類濃度などがあるが、他に有害物質として酸化剤、還元剤、毒性物質などを含む場合も微生物の生存環境として適さない。このため、このような阻害因子を含む排水を生物処理に供する場合は、生物処理に先立ち適切な前処理を行うことで、微生物の生育環境を整える必要がある。
【0004】
特に、排水のpHが酸性やアルカリ性である場合は、pH調整によりpHを中性付近にする必要がある。しかし、排水にpH調整剤を添加してpH調整を行うと、排水の塩類濃度が高くなるために、一般に生物処理が可能とされる塩類濃度3重量%以下まで、さらに希釈する必要がある。この場合には、希釈により排水量が多くなるため、装置を大幅に大型化する必要があり、広い敷地面積が必要になったり、設備費が高くなる問題があった。
【0005】
近年、経済の高度化に伴う水需要の増大の一方で、環境保全への配慮から、工場廃水などを水回収する取り組みが盛んに行われている。世界的にも一部の地域においては水需要の逼迫により水の価格が高騰しており、廃水からの水回収率を高めることが求められている。こうした世の中の動向に鑑み、生物処理においても、希釈のための水を新たに加えずに、良好な処理環境が維持できることが望まれる。
【0006】
従来、このような技術として、排水を蒸発処理して塩類を濃縮し、凝縮水を生物処理する方法や、逆浸透膜で塩類を透過させて有機物を残す方式が提案されている。
【0007】
例えば、特許文献1には、生活排水を浄化処理して得られた清澄な処理水を塩類除去率の高い逆浸透膜により逆浸透処理して塩類及び有機物を濃縮すると共に中水として利用可能な透過水を得、塩類及び有機物が濃縮された非透過水を次いで塩類除去率の低い逆浸透膜により逆浸透処理して塩類の大部分を透過させ有機物を非透過成分として残す生活排水の高度処理方法が提案されている。
【0008】
特許文献2には、廃水中の固形物を乾燥処理する乾燥装置と、該乾燥装置で発生する蒸気を凝縮する復水器と、該復水器で生じた凝縮水を生物処理する生物処理装置とを有する廃水処理装置が提案されている。
【0009】
特許文献3には、新水もしくは排水を原水とし、これを処理する純水製造装置からの濃縮廃水を蒸発濃縮して得られる揮発性成分を含む凝縮水を生物処理し、その後固液分離する純水製造装置からの濃縮廃水の処理方法において、生物処理を、ミネラル含有水を添加した状態で行うと共に、固液分離後の処理水を前記原水と共に純水製造装置に供給する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平4−200684号公報
【特許文献2】特開平8−126881号公報
【特許文献3】特開2008−229484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献1のような塩類除去率の低い逆浸透膜による処理では、低分子の物質が同時に抜けてしまうので生物処理対象の物質がリークするという問題がある。また、特許文献2,3のような蒸発乾燥ないし濃縮処理では、水分を蒸発させるために大量の熱が必要であり、高温となった濃縮水中の塩類の影響で装置部材の腐食の影響が大きくなるという問題がある。
【0012】
本発明は、非イオン性又はカチオン性の水溶性の有機物及び/又は窒素化合物を含有する酸性液を生物処理するに当たり、pH、塩類濃度の調整に、希釈水を用いることなく、或いは少ない希釈水量で生物処理可能な水に調整して生物処理に供する処理装置と方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、アニオン交換膜及びアルカリ溶液を用いた中和透析処理で、非イオン性又はカチオン性の水溶性の有機物及び/又は窒素化合物を含有する酸性液の中和と脱塩を行うことができ、得られた中和脱塩処理液を生物処理に供することが可能となることを見出した。
【0014】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0015】
[1] 非イオン性又はカチオン性の水溶性の有機物及び/又は窒素化合物を含有する酸性液の処理装置であって、アニオン交換膜によって一方の室と他方の室とに隔てられた前記一方の室に該酸性液を通水すると共に、前記他方の室にアルカリ溶液を通水して該酸性液を中和及び脱塩する中和脱塩装置と、該中和脱塩装置で中和及び脱塩された中和脱塩処理液を生物処理する生物処理装置とを有することを特徴とする酸性液の処理装置。
【0016】
[2] [1]において、前記中和脱塩処理液の溶存物質濃度の測定手段と、測定された溶存物質濃度が設定値以下となるように該中和脱塩処理液の希釈を行う希釈手段とを備え、該希釈手段で希釈された中和脱塩処理液が前記生物処理装置に導入されることを特徴とする酸性液の処理装置。
【0017】
[3] [2]において、前記溶存物質濃度の測定手段が電気伝導率計であることを特徴とする酸性液の処理装置。
【0018】
[4] [1]ないし[3]のいずれかにおいて、前記生物処理装置に導入される中和脱塩処理液のpHが6〜8であることを特徴とする酸性液の処理装置。
【0019】
[5] 非イオン性又はカチオン性の水溶性の有機物及び/又は窒素化合物を含有する酸性液の処理方法であって、アニオン交換膜によって一方の室と他方の室とに隔てられた前記一方の室に該酸性液を通水すると共に、前記他方の室にアルカリ溶液を通水して該酸性液を中和及び脱塩する中和脱塩工程と、該中和脱塩工程で中和及び脱塩された中和脱塩処理液を生物処理する生物処理工程とを有することを特徴とする酸性液の処理方法。
【0020】
[6] [5]において、前記中和脱塩処理液の溶存物質濃度を測定し、測定された溶存物質濃度が設定値以下となるように該中和脱塩処理液を希釈した後前記生物処理工程に送給することを特徴とする酸性液の処理方法。
【0021】
[7] [6]において、前記溶存物質濃度の測定手段が電気伝導率計であることを特徴とする酸性液の処理方法。
【0022】
[8] [5]ないし[7]のいずれかにおいて、前記生物処理工程に導入される中和脱塩処理液のpHが6〜8であることを特徴とする酸性液の処理方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、非イオン性又はカチオン性の水溶性の有機物及び/又は窒素化合物を含有する酸性液(以下、非イオン性又はカチオン性の水溶性の有機物を「非イオン/カチオン性水溶性有機物」と称し、非イオン性又はカチオン性の水溶性の有機物及び/又は窒素化合物を含有する酸性液を「非イオン/カチオン性水溶性有機物・窒素化合物含有酸性液」又は「原水」と称す場合がある。)を、アニオン交換膜を介するアルカリ溶液による中和透析処理で、中和及び脱塩処理することにより、希釈を行うことなく、或いは少量の希釈水を添加するのみで、生物処理に適用可能な低塩類濃度かつほぼ中性の液に調整することができる(請求項1,5)。
【0024】
即ち、非イオン/カチオン性水溶性有機物・窒素化合物含有酸性液に直接アルカリを添加して中和すると、Naなどのアルカリ金属イオンが増加し、塩類濃度が高くなるが、本発明によるアニオン交換膜を用いる中和透析処理は、直接アルカリを添加して中和する方法とは異なり、中和処理液の総イオン量を上げることがない。
このため、生物処理可能な塩類濃度となるように中和処理液を希釈する必要がないか、或いは希釈を要する場合であっても、必要な希釈水量はごく少量で足りるようになる。
【0025】
本発明において、生物処理に供される中和脱塩処理液のpHは6〜8であることが好ましい(請求項4,8)。
【0026】
本発明においては、中和及び脱塩処理された中和脱塩処理液の溶存物質濃度を測定し、測定された溶存物質濃度が所定値以下となるように必要に応じて該中和脱塩処理液を希釈して生物処理に供するようにしてもよく、このようにすることにより、塩類濃度の高い中和脱塩処理液が生物処理に供されることによる生物処理阻害を確実に防止することができる(請求項2,6)。この場合、溶存物質濃度の測定手段としては、電気伝導率計を用いることができる(請求項3,7)。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の酸性液の処理装置の実施の形態を示す系統図である。
【図2】実施例1で採用した中和透析装置の構成を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に本発明の酸性液の処理装置及び処理方法の実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
【0029】
なお、本明細書では、本発明で処理する非イオン/カチオン性水溶性有機物・窒素化合物含有酸性液が、酸として塩酸(HCl)を含み、このような非イオン/カチオン性水溶性有機物・窒素化合物含有酸性液をアルカリ溶液として水酸化ナトリウム水溶液を用いて中和脱塩処理する場合を例示して、本発明を説明するが、本発明で処理対象とする非イオン/カチオン性水溶性有機物・窒素化合物含有酸性液に含まれる酸は、塩酸に限らず、硫酸等の他の酸であってもよい。非イオン/カチオン性水溶性有機物・窒素化合物含有酸性液に含まれる酸が硫酸等の他の酸の場合、以下の説明において、ClイオンはSO2−イオン等の酸のHの対となるアニオンであり、また、アルカリ溶液として水酸化ナトリウム水溶液以外のアルカリ溶液を用いた場合、以下の説明において、NaイオンはKイオン等のアルカリのOHの対となるカチオンである。
【0030】
図1は、本発明の酸性液の処理装置の実施の形態を示す系統図であり、この装置は、原水槽1、中和透析装置2、中継槽3、生物処理装置4及び処理水槽5で主に構成される。
【0031】
[非イオン/カチオン性水溶性有機物・窒素化合物含有酸性液]
本発明の処理対象となる非イオン/カチオン性水溶性有機物・窒素化合物含有酸性液としては、特に制限はないが、例えば、以下の(1)〜(3)が挙げられる。
(1) 窒素化合物含有酸性液
(2) 金属イオン含有酸性液
(3) 界面活性剤、洗浄剤含有酸性液
【0032】
(1)窒素化合物含有酸性液としては、例えば火力発電所や加圧水型原子力発電所などにおいて、防食剤としてモノエタノールアミン(MEA)やモルホリンなどの有機アミンを添加した復水の脱塩装置(コンデミ)に用いられるカチオン交換樹脂を再生した酸性廃液(以下「コンデミ再生酸性廃液」と称す場合がある。)を挙げることができる。
【0033】
カチオン交換樹脂の再生には、塩酸や硫酸等の酸が用いられるため、このコンデミ再生酸性廃液には脱着した有機アミン(正確には有機アミンの酸塩)と再生薬品としての塩酸や硫酸などの酸のほか、微量の銅イオン、鉄イオン、また有機アミンの分解物であるアンモニアなどが含まれている。
【0034】
このようなコンデミ再生酸性廃液の有機アミンやその他の水質成分の濃度やpHは、その廃液の種類によって異なるが、例えば以下のような水質である。
【0035】
【表1】

【0036】
(2)金属イオン含有酸性液としては、製鉄工場や金属材加工工場などにおける揮発性酸による酸洗工程から排出される金属溶解酸排液などが挙げられる。
【0037】
(3)界面活性剤、洗浄剤含有酸性液としては、例えば、半導体製造プラントから排出されるリンス排水などが挙げられる。
即ち、半導体製造プラントからは、pH2.5〜3.5、H濃度10〜30ppmで、TOC成分として界面活性剤、アセトン、イソプロパノール、酢酸等のカルボン酸などを1〜3ppm含有するリンス排水が排出される。従来、このような半導体リンス排水は、第1の活性炭吸着塔、弱塩基性アニオン交換樹脂塔、強酸性カチオン交換樹脂塔、強塩基性アニオン交換樹脂塔、逆浸透膜処理装置、高圧紫外線照射装置、第2の活性炭吸着塔、真空脱気塔、混床式イオン交換樹脂塔に順次通水して処理されているが、このような従来の半導体リンス排水の処理方法においては、pH2.5〜3.5の酸性のリンス排水を処理するため、第1の活性炭吸着塔の性能が経時により低下して、第1の活性炭吸着塔のH分解性能が低下し、活性炭吸着塔から流出したHが、弱塩基性アニオン樹脂塔の樹脂をHによる酸化で劣化させ、弱塩基性アニオン交換樹脂塔の性能を低下させる;第1の活性炭吸着塔のH分解性能が低下すると、リンス排水中の界面活性剤の吸着性能も低下し、後段の強塩基性アニオン交換樹脂塔の性能低下を引き起こす;といった問題があったが、本発明によれば、このような酸性液を効率的に処理することができる。
【0038】
[中和脱塩処理]
本発明においては、まず、アニオン交換膜によって一方の室と他方の室とに隔てられた一方の室に原水である非イオン/カチオン性水溶性有機物・窒素化合物含有酸性液を通水すると共に、他方の室にアルカリ溶液を通水して原水を中和及び脱塩する。
【0039】
この原水の中和脱塩処理に用いる装置としては、アニオン交換膜を用いた中和透析装置(拡散透析装置)2が好適に使用される。
【0040】
図1は、原水の中和脱塩処理に、中和透析装置(拡散透析装置)2を用いた例を示し、原水槽1内の原水は、ポンプPにより、プレフィルター11で微粒子成分が除去された後、内部がアニオン交換膜21で原水室22とアルカリ溶液室23とに仕切られた中和透析装置2の原水室22に導入される。ここでプレフィルター11は必要に応じて設けられるものである。一方、アルカリ溶液室23には、アルカリ溶液貯槽24から、ポンプPによりアルカリ溶液が導入される。
【0041】
このアルカリ溶液としては、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム等の溶解性アルカリ化合物の水溶液を用いることができる。
【0042】
一般に、コンデミに用いられる樹脂比率はアニオン交換樹脂よりもカチオン交換樹脂の方が高く、コンデミ再生廃液としてはカチオン交換樹脂の再生酸性廃液よりも、NaOHを含むアニオン交換樹脂の再生廃液(以下「コンデミ再生アルカリ廃液」と称す場合がある。)の方が過剰となっている。
コンデミにおいて、アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂との混床樹脂を分離するために、16重量%のNaOH水溶液を用いてアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂の比重差を利用して分離する技術を用いている現場では、別途、この分離に用いたアルカリ廃液が排出される。
このようにコンデミの再生現場では、アルカリ廃液が過剰に排出される場合があり、本発明においては、このようなコンデミ再生アルカリ廃液等のアルカリ廃液をアルカリ溶液として用いることもできる。
アルカリ溶液としては、更に他の施設から排出されるアルカリ廃液を用いてもよい。
【0043】
中和透析装置2では、原水室22に導入された原水中のClイオンがアニオン交換膜21を透過してアルカリ溶液室23に移動することにより脱塩され、一方、アルカリ溶液室23内のOHイオンがアニオン交換膜21を透過して原水室22に移動することにより原水が中和される。原水室22の流出液は原水槽1に返送され、原水は循環処理される。一方、アルカリ溶液室23からの流出液もアルカリ溶液貯槽24に返送されて循環される。
【0044】
このような中和透析装置2による中和脱塩処理においては、次のような態様を採用することが好ましい。
【0045】
(1) アニオン交換膜21としては、耐酸性、耐アルカリ性に優れた膜を用いる。また、中和透析装置2の接液面も、耐腐食性に優れた材料で構成されていることが好ましく、例えば、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂でライニングしたものが好ましい。
【0046】
(2) アニオン交換膜膜面には濃度分極層が形成され、これが物質の拡散律速となり、Clイオン、OHイオン及び水の透過移動速度が制限される。これを防止して透過移動速度を高めるために、アニオン交換膜面近傍の濃度分極を低減するべく、膜面流速を高めることが好ましく、具体的には、原水室22側及びアルカリ溶液室23側の膜面流速をそれぞれ0.1cm/sec以上、例えば1〜8cm/secとすることが好ましい。膜面流速が低いとClイオン及びOHイオンの移動速度を速くすることができず、所望の中和脱塩処理液を得るために長時間を要するようになる。ただし、膜面流速を過度に高くすることは、装置構成上現実的ではない。このような膜面流速を得るために、原水ポンプP及びアルカリ溶液ポンプPとしては、高流速送液が可能なダイヤフラムポンプ等を用いることが好ましい。
【0047】
(3) アルカリ溶液としては、中和に必要な酸消費の総量(mg−CaCO)が、原水のアルカリ消費の総量(mg−CaCO)の1倍以上のものを用いる。
なお、アニオン交換膜でのClとOHの移動速度は、極限モル伝導率で示されるイオンの移動のしやすさで決定され、ClとOHの極限モル伝導率はそれぞれ198.3Scm・mol−1、76.35Scm・mol−1である。したがって、OHはClの2.6倍移動しやすいことが分かる。このことより、酸性液からのClのアルカリ溶液側への移動速度を高く維持するには、アルカリ溶液のOH濃度は少なくとも酸性液のCl濃度の1/2.6倍以上とすることが望ましい。
アルカリ(NaOH)の濃度を高くするとアルカリ溶液の浸透圧が原水の浸透圧よりも高くなり、原水中の水がアニオン交換膜を透過してアルカリ溶液側へ移動し、原水が濃縮されるようになる。このような濃縮は、得られる中和脱塩処理液の塩類濃度が生物処理可能な塩類濃度を超えない範囲、例えば3重量%以下の範囲であれば原水量を減容化でき、好ましい。
【0048】
従って、前述のコンデミ再生アルカリ廃液等のアルカリ廃液をアルカリ溶液として用いる場合において、アルカリ濃度が不足する場合には、必要に応じてNaOH等のアルカリを添加してその濃度を調整することが好ましい。
【0049】
(4) 中和脱塩処理は、得られる中和脱塩処理液(原水室22からの流出液)のpHが中性、例えば6〜8程度になった時点で終了し、得られた中和脱塩処理液は次の生物処理に供することが好ましい。
この中和脱塩処理液のpHが6未満でも8を超えても、中和脱塩処理が不十分であり、後段の生物処理に不適当である。
【0050】
このpH管理の目的で、中和透析装置2の原水室22の流出配管に通液型pH計を設置して、原水室22の流出液のpHを監視し、このpH値が所定値に達したら、原水室22の流出液の送液を、原水槽1から生物処理装置4の中継槽3に切り換えるようにしても良い。
【0051】
アニオン交換膜21であってもカチオン成分を透過することは一般的に知られており、上述のような中和脱塩処理で、アルカリ溶液23側から原水室22へのカチオン成分(例えばNaOHのNaイオン)の移動が、また、原水室22側からアルカリ溶液室23へのカチオン成分の移動がある。
従って、原水の中和脱塩処理に使用されたアルカリ溶液(以下、「アルカリ廃液」と称す場合がある)は、原水から透析したClイオンを含み、原水の中和(原水室へのOHイオンの透析)でpHが低下した弱アルカリ性の液であると共に、原水室22からアニオン交換膜21を透過した若干量のカチオン性水溶性有機物や窒素化合物といったカチオン成分を含むものである。ただし、この透過したカチオン成分濃度は低いことから、このアルカリ廃液は、触媒酸化装置等でカチオン成分を分解した後、酸で中和して放流することができる。
【0052】
なお、中和透析装置2における原水室22の原水流通方向とアルカリ溶液室23のアルカリ溶液の流通方向は、並流であっても向流であってもよいが、酸性液のアルカリ消費量とアルカリ性液の酸消費量に差をつけて、出口水質を中性に近づけるには、図1に示すように向流通水であることが好ましい。
【0053】
また、原水及びアルカリ溶液は一過式で通水することも可能であるが、一般的には、一過式の通水では十分な中和透析を行えないことから、図1に示すような循環通水とすることが好ましい。
バッチ式ではなく、連続処理を行う場合には、原水槽1に原水を導入すると共に、中和透析装置2の原水室22から返送された中和脱塩処理液を原水槽1に受け、この原水槽1から槽内液の一部を取り出して次の濃縮処理に供することが好ましい。
【0054】
図1において、中和透析装置2には、1枚のアニオン交換膜21により原水室22とアルカリ溶液室23とがそれぞれ1室ずつ形成されているが、中和透析装置2の構成はこれに何ら限定されず、例えば、アルカリ溶液室/アニオン交換膜/原水室/アニオン交換膜/アルカリ溶液室/アルカリ交換膜/原水室/アニオン交換膜/アルカリ溶液室というように、複数枚のアニオン交換膜により、複数の原水室とアルカリ溶液室とが交互に形成されたものであってもよい。
【0055】
本発明によれば、このような中和透析装置を用いた中和脱塩処理により、原水を、前述の如く、pH6〜8(pH7程度)の中性に中和すると共に、好ましくはClイオン濃度が原水のClイオン濃度の30〜50%にまで低減した中和脱塩処理液を得ることができる。
【0056】
[希釈処理]
上述のような中和脱塩処理により、原水のpHが中性に中和され、塩類濃度も低減された中和脱塩処理液が得られるが、原水中のカチオン性水溶性有機物であるアミンなどの有機物や、アンモニア、ヒドラジンなどの窒素成分が高濃度の場合には、これらの成分により、中和脱塩処理後の中和脱塩処理液の塩類濃度が3重量%を超える場合があるため、このような場合には、生物処理に先立ち、この中和脱塩処理液を希釈することが好ましい。このような希釈を行う場合であっても、希釈水量は、原水に直接アルカリ液を添加することにより中和を行う場合に比べて極めて少なくて足りるため、総液量の増加も少なく、設備を大型化する必要は殆どない。
【0057】
この場合は、例えば、図1の中継槽3に電気伝導率計などの塩類濃度測定手段を設け、生物処理に供する水の塩類濃度が予め設定した値以下となるように、中継槽3に水を添加して希釈することが好ましい。
【0058】
この希釈には、工水、市水などを用いることができるが、塩類を含まない、その他の排水であってもよい。
【0059】
[生物処理]
必要に応じて希釈することにより、pH6〜8で、塩類濃度が3重量%以下、好ましくは1〜2重量%程度に低減された中和脱塩処理液は、中継槽3を経て次いで生物処理装置4に導入され生物処理される。
この生物処理には特に制限はなく、好気(有機物酸化)処理、嫌気処理、硝化処理、脱窒処理、アナモックスなどの処理方式があり、生物処理に供される中和脱塩処理液の有機物あるいは窒素濃度により適切な処理方式を単独であるいは複数種組み合わせて行うことができる。
【0060】
生物処理水は処理水槽5を経て、必要に応じて濾過、活性炭処理などの処理を施した後に系外へ排出される。
【実施例】
【0061】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0062】
なお、以下において、原水としては、復水脱塩装置のカチオン樹脂再生模擬排液を下記表2に示す組成に調整したもの(いか「模擬原水」と称す。)を用いた。
【0063】
【表2】

【0064】
また、以下において、中和透析装置による中和脱塩処理は、原水及びアルカリ溶液の全量を循環通水することによって行われているが、本発明における中和脱塩処理は何ら全量循環通水処理に限定されるものではなく、原水、アルカリ溶液の一部のみを循環通水するものであってもよく、また、全量を一過式で通水するものであってもよい。
【0065】
[実施例1]
模擬原水を、接液面がポリテトラフルオロエチレンでコーティングされた中和透析装置((株)アストム製)に通して中和脱塩処理した。
この中和透析装置の系統図を図2に示す。図2において、図1に示す部材と同一機能を奏する部材には同一符号を付してある。
【0066】
この中和透析装置では、原水槽1内の被処理液をポンプPで原水室22に導入した後、原水槽1に循環通水する一方で、アルカリ溶液貯槽24内のアルカリ溶液をアルカリ溶液室23に循環通水するように構成されている。
【0067】
中和透析は、以下のように実施した。
アニオン交換膜21としては、耐酸、耐アルカリ性に優れた(株)アストム製アニオン交換膜「ネオセプタAHA」を用いた。
模擬原水5Lを原水槽1に入れて原水室22に循環通水し、一方、アルカリ溶液としては、pH14のNaOH水溶液(NaOH濃度10重量%、模擬原水のHClモル濃度に対して約5.5倍)を1.1L準備し、中和透析装置2のアルカリ溶液室23に導入し、アルカリ溶液貯槽24を経て循環通水した。
【0068】
原水循環ポンプP及びアルカリ溶液循環ポンプPとしては、ダイヤフラムポンプを用い、原水室22及びアルカリ溶液室23の膜面流速がいずれも4cm/secとなるように通水した。
【0069】
原水ポンプPの出口側には、孔径10μmのプレフィルター(保安フィルター)11を設けて原水中の微粒子成分を除去した。
【0070】
この処理中に、原水槽1内の液pHを測定し、pHが7まで低下したときに、循環通水を停止し、得られた中和脱塩処理液を生物処理原水とした。この生物処理原水の水質及び水量を表4に示す。
【0071】
また、模擬原水と中和脱塩処理液の水質及び水量と、中和脱塩処理前後のアルカリ溶液(アルカリ廃液)の水質及び水量を表3に示した。
【0072】
【表3】

【0073】
[比較例1]
原水にアルカリ溶液を添加することによりpH調整を行って表4に示す水質及び水量としたpH調整水を生物処理原水とした。
【0074】
[比較例2]
原水にアルカリ溶液を添加することによりpH調整を行った後、実施例1で得られた中和脱塩処理液と同等の塩類濃度(TDS)になるように水道水で希釈して生物処理原水とした。この生物処理原水の水質及び水量を表4に示す。
【0075】
【表4】

【0076】
[考察]
実施例1では、中和透析により中和と脱塩が行われ、さらに脱水により生物処理原水の水量は3.6Lとなり、生物処理原水量は、模擬原水量の72%に減容化された。塩類濃度は生物処理可能な3重量%以下であった。
比較例1では、pH調整により中和が行われたが、アルカリ溶液の添加により塩類濃度が増加し、生物処理には不適当である。
比較例2では、pH調整と希釈により中和と塩類濃度の調整が行われ、塩類濃度も生物処理可能な3重量%であった。しかし、実施例1相当の塩類濃度に調整するのに多量の希釈水を必要とし、水量が8.6Lに増加し、模擬原水量の172%に増量した。
生物処理可能な塩類濃度は実施例1と比較例2であるが、比較例2は生物処理原水量が実施例1の2.4倍もあり、後段処理の生物処理、濾過、活性炭処理などの設備が大型化する。
実施例1では中和透析でアルカリ廃液が2.8L排出されるが、このアルカリ廃液はわずかに有機物などの透過成分を含むが、水量が少なく、pHがアルカリ性なので触媒酸化により小さい設備で効率よく処理が可能であり、また、他の施設にアルカリとして利用することも可能である。
【符号の説明】
【0077】
1 原水槽
2 中和透析装置
3 中継槽
4 生物処理装置
5 処理水槽
21 アニオン交換膜
22 原水室
23 アルカリ溶液室
24 アルカリ溶液貯槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非イオン性又はカチオン性の水溶性の有機物及び/又は窒素化合物を含有する酸性液の処理装置であって、
アニオン交換膜によって一方の室と他方の室とに隔てられた前記一方の室に該酸性液を通水すると共に、前記他方の室にアルカリ溶液を通水して該酸性液を中和及び脱塩する中和脱塩装置と、
該中和脱塩装置で中和及び脱塩された中和脱塩処理液を生物処理する生物処理装置と
を有することを特徴とする酸性液の処理装置。
【請求項2】
請求項1において、前記中和脱塩処理液の溶存物質濃度の測定手段と、測定された溶存物質濃度が設定値以下となるように該中和脱塩処理液の希釈を行う希釈手段とを備え、該希釈手段で希釈された中和脱塩処理液が前記生物処理装置に導入されることを特徴とする酸性液の処理装置。
【請求項3】
請求項2において、前記溶存物質濃度の測定手段が電気伝導率計であることを特徴とする酸性液の処理装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記生物処理装置に導入される中和脱塩処理液のpHが6〜8であることを特徴とする酸性液の処理装置。
【請求項5】
非イオン性又はカチオン性の水溶性の有機物及び/又は窒素化合物を含有する酸性液の処理方法であって、
アニオン交換膜によって一方の室と他方の室とに隔てられた前記一方の室に該酸性液を通水すると共に、前記他方の室にアルカリ溶液を通水して該酸性液を中和及び脱塩する中和脱塩工程と、
該中和脱塩工程で中和及び脱塩された中和脱塩処理液を生物処理する生物処理工程と
を有することを特徴とする酸性液の処理方法。
【請求項6】
請求項5において、前記中和脱塩処理液の溶存物質濃度を測定し、測定された溶存物質濃度が設定値以下となるように該中和脱塩処理液を希釈した後前記生物処理工程に送給することを特徴とする酸性液の処理方法。
【請求項7】
請求項6において、前記溶存物質濃度の測定手段が電気伝導率計であることを特徴とする酸性液の処理方法。
【請求項8】
請求項5ないし7のいずれか1項において、前記生物処理工程に導入される中和脱塩処理液のpHが6〜8であることを特徴とする酸性液の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−196626(P2012−196626A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62804(P2011−62804)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】