説明

酸性液の処理装置及び処理方法

【課題】原子力発電所や火力発電所の復水脱塩装置の再生時に排出されるモノエタノールアミン含有希塩酸廃液等の非イオン/カチオン性水溶性化合物を効率的かつ経済的に処理する。
【解決手段】アニオン交換膜によって原水室とアルカリ溶液室とに隔てられた中和透析装置10の原水室に非イオン/カチオン性水溶性化合物を通水すると共に、アルカリ溶液室にアルカリ溶液を通水して該酸性液を中和及び脱塩処理する。アルカリ溶液の酸消費量と酸性液のアルカリ消費量とに基いて、アルカリ溶液のアルカリ濃度を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非イオン性又はカチオン性の水溶性化合物を含有する酸性液を、効率的に中和脱塩又は中和脱塩減容化する処理装置と方法に関する。詳しくは原子力発電所や火力発電所の復水脱塩装置の再生時に排出されるモノエタノールアミン含有希塩酸性液等の非イオン性又はカチオン性の水溶性化合物を含有する酸性液を、効率的かつ経済的に中和脱塩又は中和脱塩減容化する処理装置と処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電や火力発電の復水工程では、モノエタノールアミン(MEA)などのアミン類が蒸気生成ラインの防食剤として用いられている。通常、これらのアミン類は、ライン中に設けられた復水脱塩装置(以下「コンデミ」と称す場合がある。)のカチオン交換樹脂に捕捉され、復水脱塩装置の再生の際に再生廃液に含まれて排出される。排出されたアミン類は、COD源や富栄養化源となって河川や湖沼を汚染するため、これを処理する必要がある。
【0003】
このコンデミ再生廃液は、COD及び窒素負荷の高い液であるため、一般に熱分解又は液中燃焼などにより処理されているが、コンデミ再生廃液をそのまま熱分解又は液中燃焼装置に供するには、廃液量が多く処理コストが高くつくことから、その減容化が望まれる。
【0004】
本出願人は、先に、コンデミ再生廃液等の酸性液を効率的かつ経済的に処理する技術として、次の(1),(2)を提案した。
(1) 窒素化合物を含有する酸性液を、アニオン交換膜によって一方の室と他方の室とに隔てられた前記一方の室に通水すると共に、前記他方の室にアルカリ溶液を通水して該酸性液を中和及び脱塩処理し、得られた中和脱塩処理液中の窒素化合物を濃縮する方法及び装置(特許文献1)。
(2) 非イオン性又はカチオン性の水溶性化合物を、アニオン交換膜によって一方の室と他方の室とに隔てられた該一方の室に該酸性液を通水するとともに、該他方の室に該酸性液よりも浸透圧の高いアルカリ溶液を通水して該酸性液を中和脱塩及び減容化する方法及び装置(特許文献2)。
【0005】
特許文献1,2の処理技術であれば、コンデミ再生廃液等の酸性液を経済的かつ効率的に処理することができる。
【0006】
この処理においては、アルカリ溶液として、後述の如く、コンデミ再生アルカリ廃液等の廃アルカリ溶液を用いることもでき、その場合には、アルカリ剤の薬品費を低減することができる。
【0007】
特許文献1,2の処理方法において、処理効率を高く維持するためには、処理に用いるアルカリ溶液の濃度は、例えば、被処理酸性液が、液中の酸の対になるアニオンとしてClを主成分として含むものである場合(即ち、酸性液中の酸がHClである場合)、以下の理由により、アルカリ液の酸消費量(mg−CaCO/L)が、被処理酸性液のアルカリ消費量(mg−CaCO/L)の1/2.6倍以上である必要がある。
【0008】
アニオン交換膜でのClイオンとOHイオンの移動は、イオンの移動のしやすさで決定される。イオンの移動は極限モル伝導率で示され、ClイオンとOHイオンは下記の数値が示されている。
<極限モル伝導率>
OHイオン:198.3 λ/Scm・mol−1
Clイオン:76.35 λ/Scm・mol−1
【0009】
これによると、OHイオンはClイオンの2.6倍移動し易いことから、酸性液からのClイオンのアルカリ溶液側への移動速度を高く維持するには、アルカリ溶液のOHイオン濃度が酸消費量として、酸性液のアルカリ消費量の少なくとも1/2.6倍以上であることが望ましいことが分かる。
【0010】
しかし、特許文献1,2の処理方法においては、処理を継続することにより、酸性液側よりClイオンなどのアニオンと水がアニオン交換膜を透過してアルカリ溶液側に移動するために、アルカリ溶液の酸消費量(mg−CaCO/L)の低下がおこり、経時的にアニオンの移動速度が低下し、処理効率が悪化する。実際には、アルカリ溶液はその使用中に混入した不純物等による影響で、酸消費量は更に低くなっている場合があり、この場合には、処理効率は大幅に低下する。
【0011】
また、アルカリ溶液として、廃アルカリ溶液を再使用しようとした場合、この廃アルカリ溶液はアルカリ濃度が低くなっていたり、アルカリ濃度が一定していなかったりするために、所期の処理効率を達成し得ない。
【0012】
そこで、使用中のアルカリ溶液や、再利用する廃アルカリ溶液に、別途調製した高濃度アルカリ溶液を添加して、濃度調整することが考えられるが、高濃度アルカリ溶液の添加による濃度調整が不適切であると、所期の処理効率を達成し得ず、また、徒に大量の高濃度アルカリ溶液を準備する必要があったり、使用中のアルカリ溶液や廃アルカリ溶液の流量制御も適当でないために、大容量のアルカリ溶液貯槽を必要とするなどの問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特願2010−262511
【特許文献2】特願2010−262506
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、特許文献1,2に記載される中和脱塩或いは中和脱塩減容化処理におけるアルカリ溶液のアルカリ濃度の調整を的確に行って、アニオンの移動速度を高く維持して効率的な処理を行う酸性液の処理装置及び処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記課題を解決すべく種々検討した結果、酸性液のアルカリ消費量に基いて、アルカリ溶液のアルカリ濃度を調整すること、より具体的には、酸性液のpH又はアルカリ消費量の測定値と、廃アルカリ溶液又は使用中のアルカリ溶液のpH又は酸消費量の測定値に基いて、廃アルカリ溶液又は使用中のアルカリ溶液に高濃度アルカリ溶液を添加してアルカリ濃度を調整することにより、上記課題を解決することができることを見出した。
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0016】
[1] 非イオン性又はカチオン性の水溶性化合物を含有する酸性液の処理装置であって、アニオン交換膜によって一方の室と他方の室とに隔てられた前記一方の室に該酸性液を通水すると共に、前記他方の室にアルカリ溶液を通水して該酸性液を中和及び脱塩する中和脱塩装置と、該酸性液のアルカリ消費量に基いて、該アルカリ溶液のアルカリ濃度を調整する調整手段とを有することを特徴とする酸性液の処理装置。
【0017】
[2] 非イオン性又はカチオン性の水溶性化合物を含有する酸性液の処理装置であって、アニオン交換膜によって一方の室と他方の室とに隔てられた前記一方の室に該酸性液を通水すると共に、前記他方の室に該酸性液よりも浸透圧の高いアルカリ溶液を通水して、該酸性液を中和脱塩及び減容化する中和脱塩減容化装置と、該酸性液のアルカリ消費量に基いて、該アルカリ溶液のアルカリ濃度を調整する調整手段とを有することを特徴とする酸性液の処理装置。
【0018】
[3] [1]又は[2]において、前記調整手段は、前記アルカリ溶液のpH又は酸消費量の測定手段と、該測定手段の測定値に基いて、前記アルカリ溶液に高濃度アルカリ溶液を添加する手段とを有することを特徴とする酸性液の処理装置。
【0019】
[4] [3]において、前記調整手段は、更に前記酸性液のpH又はアルカリ消費量の測定手段を有し、該酸性液のpH又はアルカリ消費量の測定値と前記アルカリ溶液のpH又は酸消費量の測定値に基いて、前記アルカリ溶液に高濃度アルカリ溶液を添加することを特徴とする酸性液の処理装置。
【0020】
[5] [1]ないし[4]のいずれかにおいて、前記調整手段は、OHイオンの極限モル伝導率Aと、前記酸性液中の酸のHの対になるアニオンの極限モル伝導率BとからOHイオンの該アニオンに対する移動しやすさの比A/Bを求め、前記アルカリ溶液の酸消費量(mg−CaCO/L)が前記酸性液のアルカリ消費量(mg−CaCO/L)に対してB/A倍以上となるように前記アルカリ溶液のアルカリ濃度を調整することを特徴とする酸性液の処理装置。
【0021】
[6] アニオン交換膜によって一方の室と他方の室とに隔てられた前記一方の室に、非イオン性又はカチオン性の水溶性化合物を含有する酸性液を通水すると共に、前記他方の室にアルカリ溶液を通水して該酸性液を中和及び脱塩する酸性液の処理方法であって、該酸性液のアルカリ消費量に基いて、該アルカリ溶液のアルカリ濃度を調整することを特徴とする酸性液の処理方法。
【0022】
[7] アニオン交換膜によって一方の室と他方の室とに隔てられた前記一方の室に、非イオン性又はカチオン性の水溶性化合物を含有する酸性液を通水すると共に、前記他方の室に該酸性液よりも浸透圧の高いアルカリ溶液を通水して、該酸性液を中和脱塩及び減容化する酸性液の処理方法であって、該酸性液のアルカリ消費量に基いて、該アルカリ溶液のアルカリ濃度を調整することを特徴とする酸性液の処理方法。
【0023】
[8] [6]又は[7]において、前記アルカリ溶液のpH又は酸消費量を測定し、該測定値に基いて、前記アルカリ溶液に高濃度アルカリ溶液を添加することにより、該アルカリ溶液のアルカリ濃度を調整することを特徴とする酸性液の処理方法。
【0024】
[9] [8]において、更に前記酸性液のpH又はアルカリ消費量を測定し、該酸性液のpH又はアルカリ消費量の測定値と前記アルカリ溶液のpH又は酸消費量の測定値に基いて、前記アルカリ溶液に高濃度アルカリ溶液を添加することにより、該アルカリ溶液のアルカリ濃度を調整することを特徴とする酸性液の処理方法。
【0025】
[10] [6]ないし[9]のいずれか1項において、前記調整手段は、OHイオンの極限モル伝導率Aと、前記酸性液中の酸のHの対になるアニオンの極限モル伝導率BとからOHイオンの該アニオンに対する移動しやすさの比A/Bを求め、前記アルカリ溶液の酸消費量(mg−CaCO/L)が前記酸性液のアルカリ消費量(mg−CaCO/L)に対してB/A倍以上となるように前記アルカリ溶液のアルカリ濃度を調整することを特徴とする酸性液の処理方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、非イオン性又はカチオン性の水溶性化合物を含有する酸性液(以下、非イオン性又はカチオン性の水溶性化合物を「非イオン/カチオン性水溶性化合物」と称し、これを含有する酸性液を「非イオン/カチオン性水溶性化合物含有酸性液」又は「原水」又は単に「酸性液」と称す場合がある。)の中和脱塩或いは中和脱塩減容化処理において、酸性液のアルカリ消費量に基いて、アルカリ溶液のアルカリ濃度を調整すること、より具体的には、酸性液のpH又はアルカリ消費量の測定値と廃アルカリ溶液のpH又は酸消費量の測定値に基いて、アルカリ溶液として再利用する廃アルカリ溶液に別途調製した高濃度アルカリ溶液を添加してアルカリ濃度を調整して用いることにより、処理に用いる廃アルカリ溶液を最大限に有効再利用した上で、アルカリ溶液のアルカリ濃度の調整を的確に行って、アニオンの移動速度を高く維持して効率的な処理を行うことができる。
また、使用中のアルカリ溶液についても、同様に高濃度アルカリ溶液の添加でアルカリ濃度を調整することにより、アニオンの移動速度を高く維持して効率的な処理を行うことができる。
また、このように、アルカリ溶液の濃度調整を的確に行うことができることから、アルカリ溶液、廃アルカリ溶液、高濃度アルカリ溶液の各貯槽に大量の液を保持する必要がなく、貯槽を小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の酸性液の処理装置及び方法の実施の形態を示す系統図である。
【図2】実施例1及び比較例1における模擬原水のアルカリ消費量の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に本発明の酸性液の処理装置及び処理方法の実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
【0029】
なお、本明細書では、本発明で処理する非イオン/カチオン性水溶性化合物含有酸性液が、酸として塩酸(HCl)を含み、このような酸性液をアルカリ溶液として水酸化ナトリウム水溶液を用いて中和脱塩及び減容化処理する場合を例示して、本発明を説明するが、本発明で処理対象とする酸性液に含まれる酸は、塩酸に限らず、硫酸等の他の酸であってもよい。非イオン/カチオン性水溶性化合物含有酸性液に含まれる酸が硫酸等の他の酸の場合、以下の説明において、ClイオンはSO2−イオン等の酸のHの対となるアニオンであり、また、アルカリ溶液として水酸化ナトリウム水溶液以外のアルカリ溶液を用いた場合、以下の説明において、NaイオンはKイオン等のアルカリのOHの対となるカチオンである。
【0030】
図1は、本発明の実施の形態を示す系統図であり、図1の装置は、中和透析用アルカリ溶液貯槽1、原水貯槽2、廃アルカリ溶液貯槽3、高濃度アルカリ溶液貯槽4、アニオン交換膜10Aを備える中和透析装置10、制御機器20、酸消費量計21で主に構成される。
【0031】
[非イオン/カチオン性水溶性化合物含有酸性液]
本発明の処理対象となる非イオン/カチオン性水溶性化合物含有酸性液としては、特に制限はないが、例えば、以下の(1)〜(3)が挙げられる。
(1) 窒素化合物含有酸性液
(2) 金属イオン含有酸性液
(3) 界面活性剤、洗浄剤含有酸性液
【0032】
(1)窒素化合物含有酸性液としては、例えば火力発電所や加圧水型原子力発電所などにおいて、防食剤としてモノエタノールアミン(MEA)やモルホリンなどの有機アミンを添加した復水の脱塩装置(コンデミ)に用いられるカチオン交換樹脂を再生した酸性廃液(以下「コンデミ再生酸性廃液」と称す場合がある。)を挙げることができる。
【0033】
カチオン交換樹脂の再生には、塩酸や硫酸等の酸が用いられるため、このコンデミ再生酸性廃液には脱着した有機アミン(正確には有機アミンの酸塩)と再生薬品としての塩酸や硫酸などの酸のほか、微量の銅イオン、鉄イオン、また有機アミンの分解物であるアンモニアなどが含まれている。
【0034】
このようなコンデミ再生酸性廃液の有機アミンやその他の水質成分の濃度やpHは、その廃液の種類によって異なるが、例えば以下のような水質である。
【0035】
【表1】

【0036】
(2)金属イオン含有酸性液としては、製鉄工場や金属材加工工場などにおける揮発性酸による酸洗工程から排出される金属溶解酸排液などが挙げられる。
【0037】
(3)界面活性剤、洗浄剤含有酸性液としては、例えば、半導体製造プラントから排出されるリンス排水などが挙げられる。
即ち、半導体製造プラントからは、pH2.5〜3.5、H濃度10〜30ppmで、TOC成分として界面活性剤、アセトン、イソプロパノール、酢酸等のカルボン酸などを1〜3ppm含有するリンス排水が排出される。従来、このような半導体リンス排水は、第1の活性炭吸着塔、弱塩基性アニオン交換樹脂塔、強酸性カチオン交換樹脂塔、強塩基性アニオン交換樹脂塔、逆浸透膜処理装置、高圧紫外線照射装置、第2の活性炭吸着塔、真空脱気塔、混床式イオン交換樹脂塔に順次通水して処理されているが、このような従来の半導体リンス排水の処理方法においては、pH2.5〜3.5の酸性のリンス排水を処理するため、第1の活性炭吸着塔の性能が経時により低下して、第1の活性炭吸着塔のH分解性能が低下し、活性炭吸着塔から流出したHが、弱塩基性アニオン樹脂塔の樹脂をHによる酸化で劣化させ、弱塩基性アニオン交換樹脂塔の性能を低下させる;第1の活性炭吸着塔のH分解性能が低下すると、リンス排水中の界面活性剤の吸着性能も低下し、後段の強塩基性アニオン交換樹脂塔の性能低下を引き起こす;といった問題があったが、本発明によれば、このような酸性液を効率的に処理することができる。
【0038】
[中和脱塩処理又は中和脱塩減容化処理]
本発明に係る中和脱塩処理においては、アニオン交換膜によって一方の室と他方の室とに隔てられた一方の室に原水である非イオン/カチオン性水溶性化合物含有酸性液を通水すると共に、他方の室にアルカリ溶液を通水して原水を中和及び脱塩する。
また、アルカリ溶液として非イオン/カチオン性水溶性化合物含有酸性液よりも浸透圧の高いアルカリ溶液を用いた場合には、中和及び脱塩と共に、更に減容化を行うことができる。
【0039】
この原水の中和脱塩処理又は中和脱塩減容化処理に用いる装置としては、アニオン交換膜10Aを用いた中和透析装置(拡散透析装置)10が好適に使用される。
【0040】
図1では、原水貯槽2内の原水は、ポンプPにより、内部がアニオン交換膜10Aで原水室とアルカリ溶液室とに仕切られた中和透析装置10の原水室に導入され、一方、アルカリ溶液室には、アルカリ溶液貯槽1から、ポンプPによりアルカリ溶液が導入される。
【0041】
コンデミにおいて、アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂との混床樹脂を分離するために、16重量%のNaOH水溶液を用いてアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂の比重差を利用して分離する技術を用いている現場では、別途、この分離に用いたアルカリ廃液が排出される。
このようにコンデミの再生現場では、アルカリ廃液が過剰に排出される場合があり、本発明においては、このようなコンデミ再生アルカリ廃液等のアルカリ廃液をアルカリ溶液として用いることもできる。
アルカリ溶液としては、更に他の施設から排出されるアルカリ廃液を用いてもよい。
本発明による高濃度アルカリ溶液を用いたアルカリ濃度の的確な調整による効果を有効に得る上で、本発明は特に、アルカリ溶液としてこのような廃アルカリ溶液を用いる場合に有効である。
【0042】
中和透析装置10では、原水室に導入された原水中のClイオンがアニオン交換膜10Aを透過してアルカリ溶液室に移動することにより脱塩され、一方、アルカリ溶液室内のOHイオンがアニオン交換膜10Aを透過して原水室に移動することにより原水が中和される。原水室の流出液は原水貯槽2に返送され、原水は循環処理される。一方、アルカリ溶液室からの流出液もアルカリ溶液貯槽1に返送されて循環される。
【0043】
このような中和透析装置10による中和脱塩処理においては、次のような態様を採用することが好ましい。
【0044】
(1) アニオン交換膜10Aとしては、耐酸性、耐アルカリ性に優れた膜を用いる。また、中和透析装置10の接液面も、耐腐食性に優れた材料で構成されていることが好ましく、例えば、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂でライニングしたものが好ましい。
【0045】
(2) アニオン交換膜膜面には濃度分極層が形成され、これが物質の拡散律速となり、Clイオン、OHイオン及び水の透過移動速度が制限される。これを防止して透過移動速度を高めるために、アニオン交換膜面近傍の濃度分極を低減するべく、膜面流速を高めることが好ましく、具体的には、原水室側及びアルカリ溶液室側の膜面流速をそれぞれ0.1cm/sec以上、例えば1〜8cm/secとすることが好ましい。膜面流速が低いとClイオン及びOHイオンの移動速度を速くすることができず、所望の中和脱塩処理液を得るために長時間を要するようになる。ただし、膜面流速を過度に高くすることは、装置構成上現実的ではない。このような膜面流速を得るために、原水ポンプP及びアルカリ溶液ポンプPとしては、高流速送液が可能なダイヤフラムポンプ等を用いることが好ましい。
【0046】
(3) アルカリ溶液としては、酸消費の総量(mg−CaCO)が、原水の中和に必要なアルカリ消費の総量(mg−CaCO)の1倍以上のものを用いる。
なお、前述の如く、アニオン交換膜でのClとOHの移動速度は、極限モル伝導率で示されるイオンの移動のしやすさで決定され、ClとOHの極限モル伝導率はそれぞれ198.3Scm・mol−1、76.35Scm・mol−1である。したがって、OHはClの2.6倍移動しやすいことが分かる。このことより、酸性液からのClのアルカリ溶液側への移動速度を高く維持するには、アルカリ溶液のOH濃度は少なくとも酸性液のCl濃度の1/2.6倍以上とすることが望ましい。
なお、アルカリ(NaOH)の濃度を高くするとアルカリ溶液の浸透圧が原水の浸透圧よりも高くなり、原水中の水がアニオン交換膜を透過してアルカリ溶液側へ移動し、原水が濃縮されるようになる。
【0047】
従って、前述のコンデミ再生アルカリ廃液等のアルカリ廃液をアルカリ溶液として用いる場合において、アルカリ濃度が不足する場合には、必要に応じてNaOH等のアルカリを添加してその濃度を調整することが好ましい。
【0048】
(4) 中和脱塩処理は、得られる中和脱塩処理液(原水室からの流出液)のpHが中性、例えば5〜9程度になった時点で終了し、得られた中和脱塩処理液は次の濃縮処理に供することが好ましい。
この中和脱塩処理液のpHが3未満では、中和脱塩処理が不十分であり、中和脱塩処理効果を十分に得ることができない。中和脱塩処理液のpHを過度に上げると、アルカリ溶液室側からアニオン交換膜10Aを透過して原水室側に移行するNaイオン量が増え(アニオン交換膜であっても若干量のカチオン成分の透過がある。)、後工程で濃縮処理を行う場合、総イオン量が増加して非効率である。
【0049】
このpH管理の目的で、中和透析装置10の原水室の流出配管に通液型pH計を設置して、原水室の流出液のpHを監視し、このpH値が所定値に達したら、原水室の流出液の送液を、原水貯槽2から次工程へ切り換えるようにしても良い。
【0050】
なお、中和透析装置10における原水室の原水流通方向とアルカリ溶液室のアルカリ溶液の流通方向は、並流であっても向流であってもよいが、酸性液のアルカリ消費量とアルカリ性液の酸消費量に差をつけて、出口水質を中性に近づけるには、図1に示すように向流通水であることが好ましい。
【0051】
また、原水及びアルカリ溶液は一過式で通水することも可能であるが、一般的には、一過式の通水では十分な中和透析を行えないことから、図1に示すような循環通水とすることが好ましい。
【0052】
なお、前述の如く、中和透析装置10において、アルカリ溶液として、非イオン/カチオン性水溶性化合物含有酸性液よりも浸透圧の高いアルカリ溶液を用いて非イオン/カチオン性水溶性化合物含有酸性液の中和脱塩処理と共に減容化処理を行うこともできる。
【0053】
[アルカリ溶液のアルカリ濃度の調整]
本発明においては、処理する非イオン/カチオン性水溶性化合物含有酸性液のアルカリ消費量に基いて、中和脱塩又は中和脱塩減容化処理に用いるアルカリ溶液のアルカリ濃度の調整を行う。
【0054】
図1に示す装置では、アルカリ溶液として廃アルカリ溶液と高濃度アルカリ溶液とを用い、まず、廃アルカリ溶液貯槽3内の廃アルカリ溶液をポンプPで中和透析用アルカリ溶液貯槽1に送給し、酸消費量計21でこの廃アルカリ溶液の酸消費量を測定する。この測定値に応じて、制御機器20により、濃度既知のアルカリ濃度調整用高濃度アルカリ溶液を高濃度アルカリ溶液貯槽4からポンプPより中和透析用アルカリ溶液貯槽1に送給し、必要に応じて更に廃アルカリ溶液を中和透析用アルカリ溶液貯槽1に追加送給して廃アルカリ溶液と高濃度アルカリ溶液とを混合し、原水貯槽2内の非イオン/カチオン性水溶性化合物含有酸性液のアルカリ消費量に見合うアルカリ濃度のアルカリ溶液を調製する。
【0055】
具体的には、中和透析用アルカリ溶液貯槽1内のアルカリ溶液の酸消費量(mg−CaCO/L)が原水貯槽2内の非イオン/カチオン性水溶性化合物含有酸性液のアルカリ消費量(mg−CaCO/L)に対して、1/2.6倍以上となるように、また、中和透析用アルカリ溶液貯槽1内のアルカリ溶液の酸消費量の総量(mg−CaCO)が、原水貯槽2内の非イオン/カチオン性水溶性化合物含有酸性液のアルカリ消費量の総量(mg−CaCO)に対して1倍以上となるようにアルカリ濃度を調整する。このようにアルカリ濃度を調整することにより、非イオン/カチオン性水溶性化合物含有酸性液中のClイオンのアルカリ溶液側への移動速度を高く維持して効率的な脱塩処理を行うと共に、非イオン/カチオン性水溶性化合物含有酸性液のアルカリ消費量がほぼ0になるまで脱塩処理することが可能となる。
【0056】
なお、酸性液のアルカリ消費量(mg−CaCO/L)に対して、アルカリ溶液の酸消費量(mg−CaCO/L)が1/2.6倍以上となるようにアルカリ濃度の調整を行うのは、前述のように、非イオン/カチオン性水溶性化合物含有酸性液内の酸がHClを主体とする場合であり、一般的には、OHイオンの極限モル伝導率Aと、酸性液中の酸のHの対になるアニオンの極限モル伝導率BとからOHイオンのアニオンに対する移動しやすさの比A/Bを求め、アルカリ溶液の酸消費量(mg−CaCO/L)が酸性液のアルカリ消費量(mg−CaCO/L)に対してB/A倍以上となるようにアルカリ溶液のアルカリ濃度を調整する。
【0057】
なお、図1は、原水の非イオン/カチオン性水溶性化合物含有酸性液のアルカリ消費量が既知の場合に適用される装置であって、図1の原水貯槽2内の非イオン/カチオン性水溶性化合物含有酸性液のアルカリ消費量を求めるために原水貯槽2にpH計又はアルカリ消費量計を設け、原水貯槽2に導入された非イオン/カチオン性水溶性化合物含有酸性液のpH又はアルカリ消費量を測定してアルカリ消費量を求めるようにしてもよい。アルカリ消費量は酸消費量計を簡易に改造することにより測定することができる。アルカリ溶液のpH又は酸消費量を測定する計器はアルカリ溶液貯槽1に設ける他、アルカリ溶液貯槽1にアルカリ溶液を送給する配管に設けてもよい。また、非イオン/カチオン性水溶性化合物含有酸性液のpH又はアルカリ消費量を測定する計器についても、原水貯槽2に設ける他、原水貯槽2に非イオン/カチオン性水溶性化合物含有酸性液を送給する配管に設けてもよい。
【0058】
本発明によるアルカリ溶液のアルカリ濃度の調整は、後述の実施例のように、処理の開始に当たり、中和透析用アルカリ溶液貯槽1に送給する廃アルカリ溶液と高濃度アルカリ溶液との送液量を決定するために実施する他、処理途中のアルカリ濃度調整にも利用することができる。すなわち、処理途中の中和透析用アルカリ溶液貯槽1内のアルカリ溶液のpH又は酸消費量を測定すると共に、原水貯槽2内の非イオン/カチオン性水溶性化合物含有酸性液のpH又はアルカリ消費量を測定し、アルカリ溶液貯槽1内のアルカリ溶液が、原水貯槽2内の非イオン/カチオン性水溶性化合物含有酸性液を効率的に中和脱塩又は中和脱塩減容化処理できるように、アルカリ溶液濃度を調整するために、この中和透析用アルカリ溶液貯槽1内のアルカリ溶液の一部を引き抜き、系外へ排出し、高濃度アルカリ溶液を添加してアルカリ濃度を調整することもできる。このように処理途中でアルカリ濃度の調整を行うことにより、中和脱塩又は中和脱塩減容化処理でアルカリ濃度が低下することによる非イオン/カチオン性水溶性化合物含有酸性液からのアニオンの移動速度の低下を、処理途中のアルカリ溶液のアルカリ濃度を高めることにより防止して、処理効率を高く維持することができる。
【実施例】
【0059】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0060】
なお、以下において、復水脱塩装置のカチオン樹脂再生排液を下記表2に示す組成に調整したものを原水(以下「模擬原水」と称す。)として用い、この模擬原水5Lを原水貯槽2に入れた。
【0061】
【表2】

【0062】
また、廃アルカリ溶液としては、酸消費量が12,500mg−CaCO/Lの復水脱塩装置のアニオン交換樹脂の再生排液23Lを用い、高濃度アルカリ溶液としてNaOH濃度48重量%のNaOH水溶液を0.5L準備し、それぞれ廃アルカリ溶液貯槽3、高濃度アルカリ溶液貯槽4に入れた。
【0063】
[実施例1]
図1に示す装置により、模擬原水の中和脱塩処理を行った。制御機器20では、アルカリ溶液の酸消費量が22.5mg−CaCO/L(酸性液のアルカリ消費量は57mg−CaCO/Lで、その1/2.6倍は約22mg−CaCO/L)、酸消費量の総量が285mg−CaCO(酸性液のアルカリ消費量の総量は285mg−CaCO(=57mg−CaCO/L×5L))となるように設定した。
【0064】
まず、廃アルカリ溶液貯槽3から廃アルカリ溶液を中和透析用アルカリ溶液貯槽1に送液し、酸消費量計21により廃アルカリ溶液の酸消費量を測定した。この測定値に基いて、ポンプPによる廃アルカリ溶液の送液量とポンプPによる高濃度アルカリ溶液の送液量を制御機器20により制御し、中和透析用アルカリ溶液貯槽1中のアルカリ溶液の酸消費量が上記設定条件となるようにした。
【0065】
その後、中和透析装置10に原水貯槽2内の模擬原水と中和透析用アルカリ溶液貯槽1内の濃度調整したアルカリ溶液をそれぞれ循環通水し、原水貯槽2内の模擬原水のアルカリ消費量の経時変化を調べ、結果を図2に示した。
【0066】
[比較例1]
実施例1において、廃アルカリ溶液を濃度調整することなく用いたこと以外は同様に処理を行い、原水貯槽2内の模擬原水のアルカリ消費量の経時変化を調べ、結果を図2に示した。
【0067】
実施例1のアルカリ溶液は、模擬原水のアルカリ消費量に応じて廃アルカリ溶液と高濃度アルカリ溶液を適切なアルカリ濃度となるように、処理開始前に濃度調整したため、効率的に処理が行われた。これに対して、比較例1の場合は、模擬原水のアルカリ消費量に対し廃アルカリ溶液の酸消費量が低いために、アニオンの移動速度が遅く、模擬原水のアルカリ消費量をゼロにするのに、実施例1に対し2倍程度処理時間が必要であった。
これらの結果から、本発明により、希薄な廃アルカリ溶液を利用しても効率的な処理を行うことが可能となることが分かる。
【符号の説明】
【0068】
1 中和透析用アルカリ溶液貯槽
2 原水貯槽
3 廃アルカリ溶液貯槽
4 高濃度アルカリ溶液貯槽
10 中和透析装置
10A アニオン交換膜
20 制御機器
21 酸消費量計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非イオン性又はカチオン性の水溶性化合物を含有する酸性液の処理装置であって、
アニオン交換膜によって一方の室と他方の室とに隔てられた前記一方の室に該酸性液を通水すると共に、前記他方の室にアルカリ溶液を通水して該酸性液を中和及び脱塩する中和脱塩装置と、
該酸性液のアルカリ消費量に基いて、該アルカリ溶液のアルカリ濃度を調整する調整手段とを有することを特徴とする酸性液の処理装置。
【請求項2】
非イオン性又はカチオン性の水溶性化合物を含有する酸性液の処理装置であって、
アニオン交換膜によって一方の室と他方の室とに隔てられた前記一方の室に該酸性液を通水すると共に、前記他方の室に該酸性液よりも浸透圧の高いアルカリ溶液を通水して、該酸性液を中和脱塩及び減容化する中和脱塩減容化装置と、
該酸性液のアルカリ消費量に基いて、該アルカリ溶液のアルカリ濃度を調整する調整手段とを有することを特徴とする酸性液の処理装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記調整手段は、前記アルカリ溶液のpH又は酸消費量の測定手段と、該測定手段の測定値に基いて、前記アルカリ溶液に高濃度アルカリ溶液を添加する手段とを有することを特徴とする酸性液の処理装置。
【請求項4】
請求項3において、前記調整手段は、更に前記酸性液のpH又はアルカリ消費量の測定手段を有し、該酸性液のpH又はアルカリ消費量の測定値と前記アルカリ溶液のpH又は酸消費量の測定値に基いて、前記アルカリ溶液に高濃度アルカリ溶液を添加することを特徴とする酸性液の処理装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記調整手段は、OHイオンの極限モル伝導率Aと、前記酸性液中の酸のHの対になるアニオンの極限モル伝導率BとからOHイオンの該アニオンに対する移動しやすさの比A/Bを求め、前記アルカリ溶液の酸消費量(mg−CaCO/L)が前記酸性液のアルカリ消費量(mg−CaCO/L)に対してB/A倍以上となるように前記アルカリ溶液のアルカリ濃度を調整することを特徴とする酸性液の処理装置。
【請求項6】
アニオン交換膜によって一方の室と他方の室とに隔てられた前記一方の室に、非イオン性又はカチオン性の水溶性化合物を含有する酸性液を通水すると共に、前記他方の室にアルカリ溶液を通水して該酸性液を中和及び脱塩する酸性液の処理方法であって、
該酸性液のアルカリ消費量に基いて、該アルカリ溶液のアルカリ濃度を調整することを特徴とする酸性液の処理方法。
【請求項7】
アニオン交換膜によって一方の室と他方の室とに隔てられた前記一方の室に、非イオン性又はカチオン性の水溶性化合物を含有する酸性液を通水すると共に、前記他方の室に該酸性液よりも浸透圧の高いアルカリ溶液を通水して、該酸性液を中和脱塩及び減容化する酸性液の処理方法であって、
該酸性液のアルカリ消費量に基いて、該アルカリ溶液のアルカリ濃度を調整することを特徴とする酸性液の処理方法。
【請求項8】
請求項6又は7において、前記アルカリ溶液のpH又は酸消費量を測定し、該測定値に基いて、前記アルカリ溶液に高濃度アルカリ溶液を添加することにより、該アルカリ溶液のアルカリ濃度を調整することを特徴とする酸性液の処理方法。
【請求項9】
請求項8において、更に前記酸性液のpH又はアルカリ消費量を測定し、該酸性液のpH又はアルカリ消費量の測定値と前記アルカリ溶液のpH又は酸消費量の測定値に基いて、前記アルカリ溶液に高濃度アルカリ溶液を添加することにより、該アルカリ溶液のアルカリ濃度を調整することを特徴とする酸性液の処理方法。
【請求項10】
請求項6ないし9のいずれか1項において、前記調整手段は、OHイオンの極限モル伝導率Aと、前記酸性液中の酸のHの対になるアニオンの極限モル伝導率BとからOHイオンの該アニオンに対する移動しやすさの比A/Bを求め、前記アルカリ溶液の酸消費量(mg−CaCO/L)が前記酸性液のアルカリ消費量(mg−CaCO/L)に対してB/A倍以上となるように前記アルカリ溶液のアルカリ濃度を調整することを特徴とする酸性液の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−210611(P2012−210611A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78704(P2011−78704)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】