説明

酸性糖鎖捕捉用基材

【課題】
糖鎖を捕捉するための基材の一つであって、酸性糖を基材表面に固定化可能で、かつ捕捉酸性糖以外の物質の非特異吸着を抑制することで酸性糖のみを安定的に基材表面に捕捉可能な基材を構築する。
【解決手段】
基材の一方の面側に、親水性基を有するモノマーと、前記酸性糖を捕捉可能な官能基を有するモノマーと、環状アルキル基により疎水性基を有するモノマーの共重合体で構成される樹脂層を、基材表面に形成したことにより酸性糖固定基材を作製できた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸性糖類を基材に捕捉する方法、および前記基材を含む。
【背景技術】
【0002】
生体内において糖タンパク質、糖ペプチドは、細胞膜表面に存在して細胞膜受容体として働いたり、血清などの体液中に分泌されたり、また細胞外マトリックスの構成物として存在している。近年、こうした糖鎖が、生体活動に重要な役割を果たしていることが明らかにされて来ている。
このような糖鎖と細胞の分化増殖、細胞認識、免疫反応及び細胞癌化との関係が明確にされれば、この糖鎖と、細胞工学あるいは臓器工学とを密接に関連させ、新たな糖鎖工学の展開を図ることが期待される。
生体内に最も豊富に存在する糖類はグリコサアミノグリカン(GAG)類であり、それらは、植物には存在せず、動物にのみ存在する分子で、生体のあらゆる結合組織中に存在することが知られている。
【0003】
GAG類は、ヘパリン、ヘパラン硫酸、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸などが存在しており、主に動物の結合組織に多数存在し、また、ヘパリンは抗血液凝固剤として有名であり、医薬品に利用されている。
GAG類は、生体内で種々のタンパク質と特異的な相互作用をしており、それにより生体機能を調整していることが知られている。
GAG類は、硫酸基が付加した二糖の繰り返し構造から形成されており、多数の硫酸基が含まれていることから負に帯電した分子であり、酸性糖であることが良く知られている。
従ってこうした酸性糖とタンパク質との相互作用を調べ、機能の調整を検証することは学術的な意味だけではなく、医学の発展に重要なテーマである。
これを調べるには、まず、それぞれの酸性糖分子を基材表面に固定化し、それに対しどのようなタンパク質が結合するかを調べることが重要である。
【0004】
その特性を利用して基材表面にGAG類を固定化する方法が、特許文献1に記されている。特許文献1では、GAG類を捕捉するために、アミノ基を持つモノマーを基材表面にプラズマ重合し、正電化の豊富な基材表面を構成させ、それに対してGAG類を静電相互作用で固相化させる方法が記載されている。一度の反応で表面に正電荷を持つ基材を構築することが可能であり、この方法によると簡便に基材表面に正電荷を導入することが可能である。しかしながら、該方法においては、静電相互作用のみでなく基材本体への非特異的吸着も同時に発生するため、ブロッキング操作が必要となる。
【0005】
また、特許文献2においては、糖鎖を還元させて作成したアルデヒドにH2N−X−SH(式中、Xは炭素数1〜3のアルキレン基またはフェニレン基)等からなるリンカー化合物と反応させることにより固体表面に糖鎖を固定化する。さらに特許文献2では、糖類とタンパク質との相互作用を破断力で測定する方法にも言及されている。しかしながら、この方法では、糖鎖を還元させているので糖鎖構造の一部は変化しておりその状態で固体表面に徒弟させているので、糖鎖本来の機能を発揮しているのか疑問である。また、相互作用を破断力で測定することは方法の一つであり、それのみで糖鎖の機能を測ることは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2006−504822
【特許文献2】特開2008−105978
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
酸性糖を基材表面に固定化し、かつ非特異吸着を抑制することで酸性糖のみを安定的に基材表面に捕捉可能な基材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的は、下記(1)〜(10)に記載の本発明により達成される。
【0009】
(1)酸性糖を捕捉するための酸性糖捕捉基材であって、
親水性基を有するモノマーと、
前記酸性糖を捕捉可能な官能基を有するモノマーと、
疎水性基を有するモノマーの共重合体で構成される樹脂層が、
形成されていることを特徴とする酸性糖捕捉基材。
(2)前記酸性糖を捕捉可能な官能基を有するモノマーの官能基が、一級アミノ基である(1)に記載の酸性糖捕捉基材。
(3)前記一級アミノ基が、アミノオキシル基である(2)に記載の酸性糖捕捉基材。
(4)前記共重合体が、下記一般式〔1〕で表される共重合体からなる(1)に記載の酸性糖捕捉基材。
【化1】

(式中R1、R2、R3は水素原子またはメチル基を、R4は疎水性基を示す。Xは炭素数1〜10のアルキレンオキシ基を示し、pは1〜20の整数を示す。pが2以上20以下の整数である場合、繰り返されるXは、同一であっても、または異なっていてもよい。Yはアルキレングリコール残基を含むスペーサーであり、Zは酸素原子である。l、m、nは自然数である。)
(5)前記親水性を保持するためのモノマーがホスホリルコリン基を含む(4)に記載の酸性糖捕捉基材。
(6)前記疎水性基、R4が環状アルキル基である(4)に記載の酸性糖捕捉基材。
(7)前記環状アルキル基がシクロヘキシル基である(6)に記載の酸性糖捕捉基材。
(8)前記酸性糖が、グリコサアミノグリカン、ヘパリン、ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸、ヒアルロン酸から選択される少なくとも一つの酸性糖である(1)−(7)いずれか記載の酸性糖捕捉基材。
(9)(1)−(8)いずれか記載の捕捉基材であって、
(a)固相表面に官能基を含む高分子物質をコートする工程
(b)酸性糖を有する物質を正電荷と反応させて、表面に固相化する工程
からなる、酸性糖捕捉方法。
(10)(9)に記載の捕捉方法であって、酸性糖を捕捉後、乾燥させる工程を含む酸性糖捕捉方法
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、酸性糖を効率よく簡単に固相担体に捕捉することが可能となり、また、夾雑物や、該酸性糖と反応する別の物質の非特異吸着を効果的に抑制する事から、簡便かつハイスループットな検査容器やバイオチップの作製と評価が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、酸性糖を捕捉するための方法として、
(a)酸性糖を捕捉可能な官能基と親水性を同時に有する高分子物質を基材に導入し
(b)前記官能基を介して酸性糖を捕捉する
ものであり、更に、
(c)親水性により、非特異吸着を抑制すること、を特徴としている。
【0012】
具体的には、親水性を獲得するために、ホスホリルコリン残基を有するエチレン系不飽和重合モノマーと、官能基を有するエチレン系不飽和重合性モノマーと、疎水性基を有するモノマーを共重合して得られる高分子物質を使用する。
本発明の高分子化合物に含まれる親水性のユニットはホスホリルコリン基に代表されるもので、特に構造を限定するものではないが、下記一般式〔1〕のユニットは、構成単位の左部の構成単位で示されように、(メタ)アクリル残基とホスホリルコリン基が炭素数1〜10のアルキレンオキシ基Xの連鎖を介して結合した構造であることが最も好ましい。中でもXはエチレンオキシ基であることが最も最も好ましい。式中のアルキレンオキシ基の繰り返し数は1〜20の整数であり、繰り返し数2以上20以下の場合は、繰り返されるアルキレンオキシ基の炭素数は同一であっても、異なっていてもよい。lは本来自然数であるが、各構成成分の組成割合として標記される場合がある。
【0013】
【化1】

本発明の高分子化合物に含まれるホスホリルコリン基を有するユニットの組成割合は(l,m,nの和に対するlの比率)は、高分子の全ユニットに対して、5〜98mol%が好ましくより好ましくは10〜80mol%、最も好ましくは、10〜80%である。組成比が下限値を下回ると親水性が弱くなり非特異吸着が多くなる。一方、上限値を上回ると水溶性が高まり、アッセイ中に高分子化合物が溶出してしまう可能性がある。
【0014】
本発明の高分子化合物に含まれる疎水性基を有するユニットの組成割合は(l,m,nの和に対するmの比率)は、高分子の全ユニットに対して、10〜90mol%が好ましくより好ましくは10〜80mol%、最も好ましくは、20〜80%である。上限値を上回ると非特異吸着が増加する恐れが出てくる。
【0015】
本発明の高分子化合物に含まれる一級アミノ基を有するユニットは、特に構造を限定されるものではないが、前記一般式〔1〕の構成単位の右部の構成単位で表されるように、(メタ)アクリル残基とオキシルアミノ残基を含むスペーサーYを解した構造であることが好ましい。オキシルアミノ基の場合、Zは酸素原子を、ヒドラジド基の場合、ZはNHを示す。nは本来自然数であるが、各成分の組成割合として標記される場合がある。アルキレングリコール残基を含むスペーサーYの構造は、特に制限されるものではないが、下記一般式〔2〕または〔3〕であることが好ましく、より好ましくは〔2〕である。qまたはrは自然数であり、1〜20であることが好ましい。
【0016】
【化2】

【化3】

各成分の組成割合は(l,m,nの和に対するnの比率)は、高分子化合物の全ユニットに対して、1〜94mol%が好ましくより好ましくは2〜90mol%、最も好ましくは、20〜40mol%である。組成値が下限地を下回ると糖、糖鎖、および/またはこれらを有する生理活性物質を十分量固定化できなくなる。また、上限値を上回ると非特異吸着が増加する。
【0017】
本発明の高分子化合物の合成方法は、特に限定されるものではないが、合成の容易さから、少なくともホスホリルコリン基を有するモノマー、疎水性基を有するモノマー、一級アミノ基を予め保護基にて保護したモノマーをラジカル共重合する工程、該工程により得られた高分子化合物から保護基を除去する工程、を含む製造方法が好ましい。あるいは、少なくともホスホリルコリン基を有するモノマー、疎水性基を有するモノマー、および一級アミノ基を導入しうる官能基を有するモノマーをラジカル共重合する工程、該工程により得られた高分子化合物に一級アミノ基を導入する工程、を含む製造方法が好ましい。
【0018】
ホスホリルコリン基を有する単量体としては、特に構造を限定しないが、例えば2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、2−(メタ)アクリロイルオキシエトキシエチルホスホリルコリン、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルホスホリルコリン、10−(メタ)アクリロイルオキシエトキシノニルホスホリルコリン、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルホスホリルコリン等を挙げられるが、入手性から2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンが好ましい。
【0019】
疎水性基を有するモノマーの具体的な例としては、n−ブチル(メタ)アクリレート、i s o−ブチル(メタ)アクリレート、s e c−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−ネオペンチル(メタ)アクリレート、i s o−ネオペンチル(メタ)アクリレート、s e c−ネオペンチル(メタ)アクリレート、ネオペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、i s o−ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、i s o−オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、i s o−ノニル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、is o−デシル(メタ)アクリレート、n−ドデシル(メタ)アクリレート、i s o−ドデシル(メタ)アクリレート、n−トリデシル(メタ) アクリレート、i s o−トリデシル(メタ)アクリレート、n−テトラデシル(メタ) アクリレート、i s o−テトラデシル(メタ)アクリレート、n−ペンタデシル(メタ)アクリレート、i s o−ペンタデシル(メタ)アクリレート、n−ヘキサデシル(メタ)アクリレート、i s o−ヘキサデシル(メタ)アクリレート、n−オクタデシル(メタ)アクリレート、i s o−オクタデシル(メタ)アクリレート、イソボニル( メタ) アクリレートなどが挙げられる。
【0020】
これらのなかで特に好ましいのが、シクロヘキシル(メタ)アクリレートに代表される環状ポリオレフィン群であり、最も好ましいのが、シクロヘキシル(メタ)アクリレートである。
【0021】
一級アミノ基を予め保護基にて保護したモノマーについては、特に構造を限定しないが、下記一般式[ 4 ] ( 式中、R 3 は水素原子またはメチル基、Y はアルキレングリコール残基を含
むスペーサー、Z は酸素原子またはN H 、W は保護基を示す。) で表されるように、( メタ) アクリル基と、オキシルアミノ基またはヒドラジド基が、アルキレングリコール残基を含むスペーサーY を介した構造であることが好ましい。
【0022】
【化4】

保護基W としてはアミノ基を保護基できるものであれば何ら制限を受けるものではなく、任意に用いることができる。なかでもt―ブトキシカルボニル基(Boc基)やベンジロキシカルボニル基(Z基、Cbz基) 、9−フルオレニルメトキシカルボニル基(Fmoc基) などが好適に用いられる。
【0023】
具体的なモノマーの例としては、下記式で表されるようなものである。
【0024】
【化5】

【0025】
脱保護化は、トリフルオロ酢酸や塩酸、無水フッ化水素を用いれば、一般的な条件で行うことができる。
【0026】
一方、高分子化合物を重合した後に一級アミノ基を導入する方法としては、何ら制限を受けるものではないが、少なくともホスホリルコリン基を有するモノマー、疎水性基を有するモノマー、およびアルコキシ基を有するモノマーをラジカル共重合した後に、該高分子化合物に導入されたアルコキシ基とヒドラジンを反応させて、ヒドラジド基を生成する方法が簡便で好ましい。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、t−ブトキシ基等が好適である。
【0027】
具体的なアルコキシ基を有するモノマーの例としては、下記式で表されるようなものである。
【0028】
【化6】

【0029】
本発明の高分子化合物の合成溶媒としては、それぞれの単量体が溶解するものであればよく、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブチルアルコール、n−ペンタノール等アルコール類、ベンゼン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジクロロメタン、クロロホルム、シクロヘキサノン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等を挙げることができる。これらの溶媒は、単独または2 種以上の組み合わせで用いられる。
【0030】
重合開始剤としては通常のラジカル開始剤ならいずれでもよく、例えば、2,2 ’−アゾビスイソブチルニトリル( 以下「AIBN」という) 、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル) 等のアゾ化合物、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウリル等の有機過酸化物等を挙げることができる。
【0031】
本発明の高分子化合物の分子量は、高分子化合物と未反応の単量体との分離精製が容易になることから、数平均分子量は5000以上が好ましく、10000以上がより好ましい。
【0032】
脱保護は前述のトリフルオロ酢酸や塩酸、無水フッ化水素を用いれば、一般的な条件で行うことができるが、脱保護の時期に関しては、以下の通りである。
通常は重合が完了し、高分子化合物が作製できた段階で行うことが一般的であり、本発明の高分子化合物を得るには、重合終了後に脱保護を行いうことで該高分子物質を得ることができる。
【0033】
一方、本発明においては、基材表面に該高分子化合物を被覆することにより生理活性物質の非特異的吸着を抑制する性質、及び生理活性物質を固定化する性質を容易に付与することが可能であることを示している。
【0034】
この場合、脱保護を行った一級アミノ基を持つ高分子化合物を被覆することも可能であるが、反応性の高い一級アミノ基を持つ高分子材料を溶液にして皮膜することは、場合によっては作業中に一級アミノ基が反応して不活化することも考えられる。
従って、脱保護する直前で高分子化合物を精製し、基材表面を皮膜して後に、脱保護の反応を行い、基材表面上に一級アミノ基が存在する状態を形成することが望ましい。
【0035】
基材表面への高分子化合物の被覆は、例えば有機溶剤に高分子化合物を0.05〜50重量%濃度になるように溶解した高分子溶液を調製し、浸漬、吹きつけ等の公知の方法で基材表面に塗布した後、室温下ないしは加温下にて乾燥させることにより行われる。
【0036】
有機溶剤としてはエタノール、メタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブチルアルコール、n−ペンタノール、シクロヘキサノール等アルコール類、ベンゼン、トルエン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジクロロメタン、クロロホルム、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、シクロヘキサノン等を挙げることができる。これらの溶媒は、単独または2 種以上の組み合わせで用いられる。中でも、エタノール、メタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブチルアルコール、n−ペンタノールシクロヘキサノール等アルコール類がプラスチック基材を変性させず、乾燥させやすいため好ましい。
【0037】
(基材の材質、形状)
本発明において、共重合体を塗布する基材の材質は、ガラス、プラスチック、金属その他を用いることができるが、本発明に使用する基材としては、表面処理の容易性、量産性の観点からプラスチックが好適である。例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリペンテン等の直鎖状ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアミド、飽和環状ポリオレフィンを用いることがより好ましい。本発明に使用する基材の形状はスライドガラスに代表される板状の基板、96穴や384穴に代表されるマルチウェルプレート状、またはビーズ状のもの、あるいはそれらの複合体が挙げられる。プラスチック製基板の具体例としては、ポリスチレン、シクロオレフィンポリマー、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリサルフォン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレートを素材とした基板などがあげられる。
【0038】
(酸性糖の捕捉)
本発明において酸性糖を捕捉する方法としては、前記のようにして準備した基材に対して、酸性糖を含む溶液を加え、基材上に構築した一級アミンと酸性糖をイオン結合で配位することで達成することができる。
【0039】
前記酸性糖鎖としては、グリコサアミノグリカン、ヘパリン、ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸、ヒアルロン酸が挙げられる。それら一種類、または複数種類の組み合わせからなる酸性糖鎖を同時に捕捉してもよい。
【0040】
この際に使用する溶液は、特に限定するものではないが、例えば、生理食塩水、リン酸緩衝液、炭酸緩衝液、HEPES緩衝液、MOPS緩衝液、Tris塩酸緩衝液などを用いることができる。
溶液の種類は限定しないが、基材の一級アミノ基と酸性糖との相互作用は、溶液のpH値に対して依存性を示しており、溶液pHが低い方が一級アミノ基と酸性糖との相互作用は、有利である。具体的には、pH6以下が好ましく、より好ましくはpH4以下である。
【0041】
また、本特許の捕捉基材による酸性糖の捕捉は、酸性糖捕捉後に基材に酸性糖が捕捉された状態で乾燥させることで基材と酸性糖の結合が強まる。この効果は、例えば、糖鎖アレイ等を作製する際に有効な手段となりうる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0043】
<実施例1> 酸性多糖の固定化(96ウェルプレート)
(糖鎖捕捉基材の作製)
酸性糖鎖捕捉高分子材料を表面に形成させる基材として、96ウェルプレートを使用した。該96ウェルプレートは住友ベークライトにおいて環状ポリオレフィン樹脂で成形したものを使用した。
【0044】
酸性糖鎖捕捉高分子化合物として2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン−ブチルメタクリレート−N-[2-[2-[2-(t-ブトキシカルボニルアミノオキシ−アセ チルアミノ)エトキシ]エトキシ]エチル]-メタクリルアミド共重合体を用い、該高分子化合物の1.0重量%エタノール溶液150uLを96ウェルプレートの各ウェルに分注して30分静置した後に溶液を抜き取り乾燥、溶媒を蒸散させて基材表面に塗布した。
【0045】
乾燥後、2M HClを分注し、37℃で2時間処理してBoc基を脱保護し酸性糖鎖捕捉高分子化合物を表面に持つ96ウェルプレートを作製した。
【0046】
(酸性糖鎖固定化)
ヘパリン由来オリゴ糖(Iduron社 HO16)を300mMの酢酸ナトリウムバッファー(pH5.0)で10μg/mLに調製し、酸性多糖溶液を調製した。作製した溶液を、前記の糖鎖捕捉用96ウェルプレートに100μL分注し、室温で2時間反応させた。反応後、純水で洗浄し未反応の酸性多糖を除去した。
【0047】
(固定糖鎖の検出)
ヘパリンと結合する事が報告されているFGF2(Peprotech社、100−18B)を下記の溶媒で25ng/mLに調製した。
溶媒:50mM Tris・HCl(pH7.5)、100mM NaCl、1mM CaCl2、MnCl2、MgCl2、0.05%Tween20。
【0048】
酸性糖鎖を固定化したウェルと固定化していないウェルとそれぞれに100μLづつ分注して室温で2時間反応させた。
反応後、下記洗浄液で3回、ウェル内を洗浄し、未反応のFGF2を除去した。
【0049】
洗浄液:50mM Tris・HCl(pH7.5)、100mM NaCl、
1mM CaCl2、MnCl2、MgCl2、
0.05%TritonX−100
【0050】
抗FGF2抗体(Peprotech社、500−M38)を下記の溶媒で2μg/mLに調製した。
溶媒:50mM Tris・HCl(pH7.5)、100mM NaCl、1mM CaCl2、MnCl2、MgCl2、0.05%Tween20。
【0051】
抗体溶液100μLを各ウェルに分注し室温で1時間反応させた。反応終了後、洗浄液で各ウェルを3回洗浄した。
【0052】
HRP標識された抗マウスIgG抗体(DakoCytomation社、P0260)を下記の溶媒で1.3μg/mLに調製した。
溶媒:50mM Tris・HCl(pH7.5)、100mM NaCl、1mM CaCl2、MnCl2、MgCl2、0.05%Tween20。
【0053】
抗体溶液100μLを各ウェルに分注し室温で1時間反応させた。反応終了後、洗浄液で各ウェルを3回洗浄した。
【0054】
固相化されたぺルオキシダーゼ量を測定する為、TMB(Bio−Rad、172−1067)で15分発色し、マイクロプレートリーダー(TECAN社製Infinit200)で測定波長450nmの吸光度を測定した。
結果を下表に示す。
【表1】

【0055】
<実施例2> 酸性多糖の固定化方法
(糖鎖捕捉基材の作製)
酸性糖鎖捕捉高分子材料を表面に形成させる基材として、96ウェルプレートを使用した。該96ウェルプレートは住友ベークライトにおいて環状ポリオレフィン樹脂で成形したものを使用した。
【0056】
酸性糖鎖捕捉高分子化合物として2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン−ブチルメタクリレート−N-[2-[2-[2-(t-ブトキシカルボニルアミノオキシ−アセ チルアミノ)エトキシ]エトキシ]エチル]-メタクリルアミド共重合体を用い、該高分子化合物の1.0重量%エタノール溶液150uLを96ウェルプレートの各ウェルに分注して30分静置した後に溶液を抜き取り乾燥、溶媒を蒸散させて基材表面に塗布した。
乾燥後、2M HClを分注し、37℃で2時間処理してBoc基を脱保護し酸性糖鎖捕捉高分子化合物を表面に持つ96ウェルプレートを作製した。
【0057】
(酸性糖鎖固定化)
コンドロイチン硫酸(生化学バイオビジネス社、400650)を2種類の方法で固定化した。まずコンドロイチン硫酸を300mMの酢酸ナトリウムバッファー(pH5.0)で50μg/mLに調製し、96ウェルプレートに100μL分注して室温で2時間反応させた。次にコンドロイチン硫酸を2%AcOH/CH3CN:水=75:25の溶液で50μg/mLに調製し、別のウェルに100μL分注して80℃で1時間反応させた。
反応後、純水で洗浄し未反応の酸性多糖を除去した。
【0058】
(固定糖鎖の検出)
抗コンドロイチン硫酸抗体(生化学バイオビジネス社、370710)を下記の溶媒で125ng/mLに調製した。
溶媒:50mM Tris・HCl(pH7.5)、100mM NaCl、1mM CaCl2、MnCl2、MgCl2、0.05%Tween20。
【0059】
抗体溶液100μLを各ウェルに分注し室温で1時間反応させた。反応終了後、洗浄液で各ウェルを3回洗浄した。
【0060】
洗浄液:50mM Tris・HCl(pH7.5)、100mM NaCl、
1mM CaCl2、MnCl2、MgCl2、
0.05%TritonX−100
【0061】
HRP標識された抗マウスIgM抗体(SANTA CRUZ社、SC−2973)を下記の溶媒で200ng/mLに調製した。
溶媒:50mM Tris・HCl(pH7.5)、100mM NaCl、1mM CaCl2、MnCl2、MgCl2、0.05%Tween20。
【0062】
抗体溶液100μLを各ウェルに分注し室温で1時間反応させた。反応終了後、洗浄液で各ウェルを3回洗浄した。
【0063】
固相化されたぺルオキシダーゼ量を測定する為、TMB(Bio−Rad、172−1067)で15分発色し、マイクロプレートリーダー(TECAN社製Infinit200)で測定波長450nmの吸光度を測定した。
【0064】
結果を下表に示す。
【表2】

【0065】
<実施例3> 酸性多糖の固定化(マイクロアレイ)
(糖鎖捕捉基材の作製)
マイクロアレイの作製には住友ベークライト製、環状ポリオレフィン樹脂製のスライドガラス形状のプラスチックス基板を使用した。
【0066】
2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン−シクロヘキシルメタクリレート−N-[2-[2-[2-(t-ブトキシカルボニルアミノオキシアセチルアミノ)エトキシ]エトキシ]エチル]-メタクリルアミド共重合体の1.0重量%エタノール溶液にスライドを浸漬して高分子化合物を塗布した。
塗布後、2M HClで37℃、2時間処理し、Boc基を脱保護した。
【0067】
(糖鎖の固定化)
分子量の異なる3種類のヘパリン(Iduron社、HO16、HO30、HEP001)を下記溶液で100ug/mLに調製し、基板にスポッティングし、80℃、1時間反応させて基板に酸性糖鎖を固定化した。
溶液:100mM NaOAc buffer(pH5.0)+界面活性剤(0.01%TritonX−100、0.01%PVA(重合度=1500))
固定化後、純水で洗浄し、未反応の酸性多糖を除去した。
【0068】
(固定糖鎖の検出)
ヘパリンと結合する事が報告されているFGF2(Peprotech社、100−18B)を下記の溶媒で100ng/mLに調製した。
溶媒:50mM Tris・HCl(pH7.5)、100mM NaCl、1mM CaCl2、MnCl2、MgCl2、0.05%Tween20。
【0069】
基板上に溶液を反応させ、室温で2時間反応した。
反応後、洗浄液で基板を洗浄し、未反応のFGF2を除去した。
洗浄液:50mM Tris・HCl(pH7.5)、100mM NaCl、
1mM CaCl2、MnCl2、MgCl2、
0.05%TritonX−100
【0070】
抗FGF2抗体(Peprotech社、500−M38)を下記の溶媒で2μg/mLに調製した。
溶媒:50mM Tris・HCl(pH7.5)、100mM NaCl、1mM CaCl2、MnCl2、MgCl2、0.05%Tween20。

基板上に溶液を反応させ、室温で1時間反応した。
反応後、洗浄液で基板を洗浄し、未反応の抗体を除去した。
【0071】
Cy3標識された抗マウスIgG抗体(GEヘルスケア、PA43002)を下記溶液で2ug/mLに調製した。
溶液:50mM Tris・HCl(pH7.5)、100mM NaCl、
1mM CaCl2、MnCl2、MgCl2、0.05%Tween20
【0072】
基板上に溶液を反応させ、室温で1時間反応した。
反応後、洗浄液で基板を洗浄し、未反応の抗体を除去した。
【0073】
X−100マイクロアレイリーダー、ScanArrayLite(PerkinElmer製)を用いてCy3の蛍光強度を測定した。(Laser=90、PMT=60)
【0074】
結果を下表に示す。
【表3】

【0075】
<比較例1>
(酸性糖鎖固定化)
市販の酸性多糖固定化用基材(Iduron社、H/G Plates)を準備した。ヘパリン由来オリゴ糖(Iduron社 HO16)を下記溶液で10μg/mLに調製した。作製した溶液を、酸性多糖固定化用96ウェルプレートに100μL分注し、室温で一晩反応させた。反応後、下記溶液で洗浄し未反応の酸性多糖を除去した。
洗浄後、1%のBSAを含むPBSを書くウェルに150μL分注し、室温で1時間ブロッキング操作を行った。
1時間後、下記溶液で洗浄した。
【0076】
溶液:100mM NaCl、50mM Sodium acetate、0.2% v/v Tween20、pH7.2
【0077】
(固定糖鎖の検出)
ヘパリンと結合する事が報告されているFGF2(Peprotech社、100−18B)を下記の溶媒で25ng/mLに調製した。
溶媒:50mM Tris・HCl(pH7.5)、100mM NaCl、1mM CaCl2、MnCl2、MgCl2、0.05%Tween20。
【0078】
酸性糖鎖を固定化したウェルと固定化していないウェルとそれぞれに100μLづつ分注して室温で2時間反応させた。
反応後、下記洗浄液で3回、ウェル内を洗浄し、未反応のFGF2を除去した。
【0079】
洗浄液:溶液:100mM NaCl、50mM Sodium acetate、0.2% v/v Tween20、pH7.2
【0080】
抗FGF2抗体(Peprotech社、500−M38)を下記の溶媒で2μg/mLに調製した。
溶媒:50mM Tris・HCl(pH7.5)、100mM NaCl、1mM CaCl2、MnCl2、MgCl2、0.05%Tween20。
【0081】
抗体溶液100μLを各ウェルに分注し室温で1時間反応させた。反応終了後、洗浄液で各ウェルを3回洗浄した。
【0082】
HRP標識された抗マウスIgG抗体(DakoCytomation社、P0260)を下記の溶媒で1.3μg/mLに調製した。
溶媒:50mM Tris・HCl(pH7.5)、100mM NaCl、1mM CaCl2、MnCl2、MgCl2、0.05%Tween20。
【0083】
抗体溶液100μLを各ウェルに分注し室温で1時間反応させた。反応終了後、洗浄液で各ウェルを3回洗浄した。
【0084】
固相化されたぺルオキシダーゼ量を測定する為、TMB(Bio−Rad、172−1067)で15分発色し、マイクロプレートリーダー(TECAN社製Infinit200)で測定波長450nmの吸光度を測定した。
【0085】
結果を下表に示す。
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明によれば、酸性糖を効率よく簡単に固相担体に結合する事が可能となり、また、該酸性糖と反応する別の物質の非特異吸着を効果的に抑制する事から、酸性糖結合タンパク質やその他の酸性糖結合分子の解析に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性糖を捕捉するための酸性糖捕捉基材であって、
親水性基を有するモノマーと、
前記酸性糖を捕捉可能な官能基を有するモノマーと、
疎水性基を有するモノマーの共重合体で構成される樹脂層が、
形成されていることを特徴とする酸性糖捕捉基材。
【請求項2】
前記酸性糖を捕捉可能な官能基を有するモノマーの官能基が、一級アミノ基である請求項1に記載の酸性糖捕捉基材。
【請求項3】
前記一級アミノ基が、アミノオキシル基である請求項2に記載の酸性糖捕捉基材。
【請求項4】
前記共重合体が、下記一般式〔1〕で表される共重合体からなる請求項1に記載の酸性糖捕捉基材。
【化1】


(式中R1、R2、R3は水素原子またはメチル基を、R4は疎水性基を示す。Xは炭素数1〜10のアルキレンオキシ基を示し、pは1〜20の整数を示す。pが2以上20以下の整数である場合、繰り返されるXは、同一であっても、または異なっていてもよい。Yはアルキレングリコール残基を含むスペーサーであり、Zは酸素原子である。l、m、nは自然数である。)
【請求項5】
前記親水性を保持するためのモノマーがホスホリルコリン基を含む請求項4に記載の酸性糖捕捉基材。
【請求項6】
前記疎水性基、R4が環状アルキル基である請求項4に記載の酸性糖捕捉基材。
【請求項7】
前記環状アルキル基がシクロヘキシル基である請求項6に記載の酸性糖捕捉基材。
【請求項8】
前記酸性糖が、グリコサアミノグリカン、ヘパリン、ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸、ヒアルロン酸から選択される少なくとも一つの酸性糖である請求項1−7いずれか記載の酸性糖捕捉基材。
【請求項9】
請求項1−8いずれか記載の捕捉基材であって、
(a)固相表面に官能基を含む高分子物質をコートする工程
(b)酸性糖を有する物質を正電荷と反応させて、表面に固相化する工程
からなる、酸性糖捕捉方法。
【請求項10】
請求項9に記載の捕捉方法であって、酸性糖を捕捉後、乾燥させる工程を含む酸性糖捕捉方法

【公開番号】特開2011−195744(P2011−195744A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65682(P2010−65682)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】