説明

酸性糖鎖試料調製方法

【課題】酸性糖鎖を回収、精製し、必要に応じて標識化合物による標識を実施でき、簡便に酸性糖鎖を提供することを目的とする。
【解決手段】酸性糖鎖を含有する溶液から酸性糖鎖を調製する方法で、酸性糖鎖を含有する溶液を、糖鎖固相担体と接触させて酸性糖鎖を捕捉する工程と、前記酸性糖鎖を捕捉した糖鎖固相担体より前記酸性糖鎖を切り出し、該酸性糖鎖を回収する工程とを有する調製方法で、簡便に酸性糖鎖を回収、精製し、必要に応じて標識化合物による標識を実施できた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性糖鎖の試料調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生化学分野において、近年、核酸、タンパク質に続く第三の鎖として糖鎖分子が注目されている。特に細胞の分化や癌化、免疫反応や受精などのかかわりが研究され、新たな医薬や医療材料を創製しようとする試みが続けられている。
また、糖鎖は多くの毒素、ウィルス及びバクテリアなどの病原性外来因子受容体であり、また、癌のマーカーとしても注目されており、こちらの分野においても、同様に新たな医薬や医療材料を創製しようとする試みが続けられている。
生体内において糖タンパク質、糖ペプチドは、細胞膜表面に存在して細胞膜受容体として働いたり、血清などの体液中に分泌されたり、また細胞外マトリックスの構成物として存在している。近年、こうした糖鎖が、生体活動に重要な役割を果たしていることが明らかにされて来ている。
このような糖鎖と細胞の分化増殖、細胞認識、免疫反応及び細胞癌化との関係が明確にされれば、この糖鎖と、細胞工学あるいは臓器工学とを密接に関連させ、新たな糖鎖工学の展開を図ることが期待される。
【0003】
グリコサミノグリカン(GAG)類は動物の結合組織を中心にあらゆる組織に普遍的に存在する。動物のみが産生し、植物からの単離の報告はない。
GAG類は、ヘパリン、ヘパラン硫酸、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸などが存在しており、主に動物の結合組織に多数存在し、また、ヘパリンは抗血液凝固剤として有名であり、医薬品に利用されている。
GAG類は、生体内で種々のタンパク質と特異的な相互作用をしており、それにより生体機能を調製していることが知られている。
【0004】
GAG類は、硫酸基が付加した2糖の繰り返し構造からなる。うち1つはアミノ糖( ガラクトサミン、ガラクトサミン、グルコサミン、グルコサミン)であり、もう1つはウロン酸(グルクロン酸、イズロン酸)または ガラクトースである。GAG類は多数の硫酸基とカルボキシル基を持つ酸性糖鎖である。これら酸性糖鎖は様々な細胞増殖因子や細胞外マトリックス成分と相互作用し,細胞接着,移動,増殖,分化,形態形成といった細胞活動を制御したり,炎症や癌細胞の転移などの病的な現象にも関わったりしている。従ってこうした酸性糖鎖とタンパク質との相互作用を調べ、機能の調製を検証することは学術的な意味だけではなく、医学の発展に重要なテーマである。
【0005】
しかし、生体試料中には酸性糖鎖以外の物質も多数含まれており、酸性糖鎖を分離精製する方法について非特許文献1に詳細に記されているが、有機溶媒を大量に使用したり大量の塩類を使用したりと煩雑な作業となる(特開2010−124811号)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−124811号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】生物化学実験講座20「多糖の分離・精製法」、松田和雄、学会出版センター、1987年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、簡便に酸性糖鎖を回収、精製しる酸性糖鎖の調製方法であり、該酸性糖鎖を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的は、下記(1)〜(21)に記載の本発明により達成される。
(1)酸性糖鎖を含有する溶液から酸性糖鎖を調製する方法であって、
酸性糖鎖を含有する溶液を、糖鎖固相担体と接触させて酸性糖鎖を捕捉する工程と、
前記酸性糖鎖を捕捉した糖鎖固相担体より前記酸性糖鎖を切り出し、該酸性糖鎖を回収する工程と、を有する酸性糖鎖の調製方法
(2)前記酸性糖鎖を回収する工程において、前記酸性糖鎖を切り出し、次いで該酸性糖鎖を標識化合物で標識し、標識化された酸性糖鎖を回収する(1)記載の酸性糖鎖の調製方法
(3)前記酸性糖鎖が、コンドロイチン硫酸、ヘパラン硫酸、ヒアルロン酸、コンドロイチン、およびヘパリン中から選ばれる1以上の酸性多糖である(1)または(2)記載の酸性糖鎖の調製方法。
(4)前記酸性多糖を構成する単糖、または前記酸性糖鎖を構成する二糖以上のオリゴ糖、または前記酸性多糖の断片糖鎖である(3)記載の酸性糖鎖の調製方法。
(5)前記糖鎖固相担体が、乾燥重量1mgあたり1μmol以上のヒドラジド基を有するポリマー粒子である(1)記載の酸性糖鎖の調製方法。
(6)前記糖鎖固相担体が下記の(式1)で表される構造を有するポリマー粒子である(1)または(4)記載の酸性糖鎖の調製方法。
【化1】

(R1,R2は−O−,−S−,−NH−,−CO−,−CONH−が挿入されてもよい炭素数1〜20の炭化水素鎖,R3,R4,R5はH,CH3,または炭素数2〜5の炭化水素鎖を示す。)
(7)前記固相担体が下記の(式2)で表される構造を有するポリマー粒子である(1)ないし(6)いずれか1項に記載の酸性糖鎖の調製方法。
【化2】

(8)(1)ないし(7)いずれか1項に記載の酸性糖鎖の精製方法で
(a)酸性多糖から酵素処理により断片糖鎖を作製する工程と、
(b)該酸性糖鎖と糖鎖固相担体をヒドラゾン結合により結合させる工程と、
(c)糖鎖を固相担体から切り離した後、アミノ基を有する化合物を作用させて、還元的アミノ化反応により前記化合物に結合させる工程を含む酸性糖鎖の調製方法。
(9)前記アミノ基を有する化合物が紫外可視吸収特性又は蛍光特性を有するものである(8)記載の酸性糖鎖の調製方法。
(10)前記アミノ基を有する化合物が、
8-Aminopyrene-1,3,6-trisulfonate, 8-Aminonaphthalene-1,3,6-trisulphonate, 7-Amino-1,3-naphtalenedisulfonic acid, 2-Amino9(10H)-acridone,5-Aminofluorescein,Dansylethylenediamie, 2-Aminopyridine, 7-Amino-4-methylcoumarine, 2-Aminobenzamide, 2-Aminobenzoic acid, 3-Aminobenzoic acid, 7-Amino-1-naphthol, 3-(Acethylamino)-6-aminoacridine, 2-Amino-6-cyanoethylpyridine,Ethyl p-aminobenzoate, p-Aminobenzonitrile, 及び7-aminonaphothalene-1,3-disulfonic acid
から選ばれる少なくとも1つである(8)又は(9)記載の酸性糖鎖の調製方法。
(11)前記(1)ないし(10)いずれか1項に記載の酸性糖鎖の調製方法により調製した酸性糖鎖試料。
(12)(1)ないし(7)いずれか1項に記載の酸性糖鎖の調製方法で
(a)酸性多糖から酵素処理により断片糖鎖を作製する工程と、
(b)該酸性糖鎖と糖鎖固相担体をヒドラゾン結合により結合させる工程と、
(c)ヒドラジド基を有する化合物、またはアミノオキシ基を有する化合物を作用させて、ヒドラゾン−オキシム交換反応により糖鎖を固相担体から切り離しつつ、前記化合物に結合させる工程を含む酸性糖鎖の調製方法。
(13)(a)工程が、前記酸性多糖を糖鎖分解酵素で処理し前記酸性多糖を構成する単糖、二糖以上のオリゴ糖である断片糖鎖を作製する工程である(8)又は(12)に記載の酸性糖鎖の調製方法。
(14)前記糖鎖分解酵素が、コンドロイチナーゼ、ヒアルロニダーゼ、ヘパリナーゼ、ヘパリチナーゼ、ケラタナーゼからなる酵素の少なくとも1種である(8)、(12)または(13)いずれか1項に記載の酸性糖鎖の調製方法。
(15)(b)工程が、前記酸性糖鎖を含有する溶液と前記糖鎖固相担体と混合してインキュベートする(8)又は(12)記載の酸性糖鎖の調製方法。
(16)前記インキュベートが4℃以上90℃以下の条件で、5分以上24時間以下の時間行われる(15)記載の酸性糖鎖の調製方法。
(17)前記インキュベートが50℃以上90℃以下の条件で、15分以上120分以下の時間行われる(15)または(17)記載の酸性糖鎖の調製方法。
(18)(c)工程のヒドラジド基を有する化合物が下記から選ばれた物質またはその塩である(12)記載の酸性糖鎖の調製方法。
5-Dimethylaminonaphthalene-1-sulfonyl hydrazine (Dansylhydrazine); 2-hydrazinopyridine;9-fluorenylmethyl carbazate (Fmoc hydrazine);benzylhydrazine;4,4-difluoro-5,7-dimethyl-4-bora-3a,4a-diaza-s-indacene-3-propionoc acid, hydrazide;2-(6,8-difluoro-7-hydroxy-4-methylcoumarin)acetohydrazide;7-diethylaminocoumarin-3-carboxylic acid, hydrazide (DCCH);phenylhydrazine;1-Naphthaleneacethydrazide;2-hydrazinobenzoic acid;biotin hydrazide;phenylacetic hydrazide.
(19)(c)工程のアミノオキシ基を有する化合物が下記から選ばれた物質またはその塩である(12)記載の酸性糖鎖の調製方法。
O-benzylhydroxylamine;O-phenylhydroxylamine; O-(2,3,4,5,6-pentafluorobenzyl)hydroxylamine; O-(4-nitrobenzyl)hydroxylamine; 2-aminooxypyridine; 2-aminooxymethylpyridine; 4-[(aminooxyacetyl)amino]benzoic acid methyl ester; 4-[(aminooxyacetyl)amino]benzoic acid ethyl ester; 4-[(aminooxyacetyl)amino]benzoic acid n-butyl ester;N-aminooxyacetyl-tryptophyl(arginine methyl ester)
(20)前記アミノオキシ基を有する化合物がアルギニン残基、トリプトファン残基、フェニルアラニン残基、チロシン残基、システイン残基およびこれら誘導体の少なくとも一つからなる部分を含む(19)記載の酸性糖鎖の調製方法。
(21)前記アミノオキシ基を有する化合物が下記(式3)で表される構造を有する(19)または(20)記載の酸性糖鎖の調製方法。
【化3】



【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、生体由来材料のような夾雑物混在状態から酸性糖鎖を簡便に精製した酸性糖鎖を調製することが可能となる。また、必要に応じて、酸性糖鎖を標識した試料を簡便に調製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の工程フローチャート
【図2】実施例で得られた標準二糖の混合物(2AB標識)のHPLC分析結果である。
【図3】実施例で得られたヘパラン硫酸分解物(2AB標識)のHPLC分析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に述べるところの酸性糖鎖含有溶液中から酸性糖鎖を精製させる方法は、図1に示すように、酸性糖鎖を含有する溶液を、糖鎖固相担体と接触させて酸性糖鎖を捕捉する工程と前記酸性糖鎖を捕捉した糖鎖固相担体より酸性糖鎖を切り出し、酸性糖鎖を回収する工程による酸性糖鎖試料調製方法である。
切り出しの際に、標識化合物で標識し、標識された酸性糖鎖として回収してもよい。
【0013】
酸性糖鎖含有溶液とは、酸性糖鎖を含む溶液であり、その由来は、生体由来物質、有機合成物、または酵素合成物である場合が多い。生体由来物質の場合は、組織由来、動物細胞由来や血液などの体液由来物質であり、また、有機合成物の場合は、反応触媒や反応中間体を含み、酵素合成物の場合は、合成酵素を含んでいる。
【0014】
本発明における酸性糖鎖とは、糖鎖を構成する糖中に硫酸基あるいは、カルボキシル基の酸性基を有する糖を含む糖鎖を示し、具体的には、コンドロイチン硫酸、ヘパラン硫酸、ヒアルロン酸、コンドロイチン、またはヘパリンである酸性多糖のうちの少なくとも1種、または、前記酸性多糖を構成する単糖、二糖以上のオリゴ糖、または前記酸性多糖を糖鎖分解酵素で処理した断片糖鎖である。オリゴ糖は、単糖類同士がグリコシド結合によって結合した化合物の中で、多糖類というほどは分子量が大きくない糖類のことであり、通常は、二糖以上の糖鎖構造物を示し、分子量としては3百−3千程度のものを指す。
【0015】
(糖鎖精製用担体)
当該糖鎖精製担体は、糖鎖を捕捉するための反応性の一級アミノ基をその表面に有する担体であり、該一級アミノとしてオキシルアミノ基またはヒドラジド基を有することが望ましい。これは、酵素やカップリング試薬などの非存在下においても糖鎖還元末端であるアルデヒド基と反応し結合可能であるから好適である。
【0016】
前記糖鎖精製用担体は、下記一般式〔1〕で表される構造が好ましい。
【化1】

(R1,R2は−O−,−S−,−NH−,−CO−,−CONH−が挿入されてもよい炭素数1〜20の炭化水素鎖,R3,R4,R5はH,CH3,または炭素数2〜5の炭化水素鎖を示す。m,nはモノマーユニット数を示す。)
【0017】
また、前記担体は、水溶液や有機溶媒に不溶性の担体であることがのぞましく、材質は特に限定するものではないが、ガラスや耐有機溶剤性に優れた樹脂、例えばシリコン、ポリスチレン、エチレン−無水マレイン酸共重合物、ポリメタクリル酸メチル等を選ぶことができる。
【0018】
前記担体は、下記一般式〔2〕の構造を有する架橋ポリマー構造を有するポリマーマトリックスで構成される粒子であることが好ましい。
【化2】

【0019】
前記糖鎖精製用担体の形態は、特に限定するものではないが、粒子またはプレート状の形態であることが好ましい。糖鎖ライブラリーを作製するためには、同時に多数の試料を処理する可能性があり、その際には、カラムに粒子を充填したものを使用する事で連続的な処理が可能である。また、マルチウェルプレートであれば同時に多検体を処理することが可能である。マルチウェルプレートとしては、6、12、24,48、96,384ウェルなどのマルチウェルプレートを適宜使用することが出来る。
【0020】
式〔2〕の担体以外では、粒子として無機物質を用いることができる。該担体としては、粒子状のものを用いることができ、例えばシリカ粒子、アルミナ粒子、ガラス粒子、金属粒子などが挙げられる。また、有機高分子物質としては、アガロース、セファロースに代表される多糖類ゲル、ビニル化合物の重合体であるポリマーを粒子状にしたものを使用することが出来る。
また、粒子としたときの形状は球であることが好ましく、平均粒径0.1μm以上500μm以下の粒子である。この場合の平均粒径は光学顕微鏡視野において観察される各粒子の直径を計測することにより求めたものである。このような範囲の粒径を有する担体の粒子は、遠心分離、 フィルターなどによる回収が容易であり、かつ、充分な表面積を有しているために糖鎖との反応効率も高いと考えられる。粒径が上記の範囲よりも大幅に大きい場合、表面積が小さくなるために糖鎖との反応効率が低くなることがある。また、粒径が上記の範囲よりも大幅に小さい場合、特にフィルターによる粒子の回収が難しくなることがある。さらに、粒子をカラムに充填して用いる場合、粒径が過小であると通液の際の圧力損失が大きくなってしまうことがある。
【0021】
(酸性多糖前処理)
前記酸性多糖から酸性糖鎖を得るには酵素処理により得ることができる。
ここで用いる酵素は、糖鎖分解酵素であり、具体的にはコンドロイチナーゼ、ヒアルロニダーゼ、ヘパリナーゼ、ヘパリチナーゼ、ケラタナーゼからなる酵素の少なくとも1種類であるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0022】
具体的な処理方法としては、例えば、グリコサミノグリカン約1μg含まれる試料を用いた場合、まず試料を凍結乾燥し緩衝液に再溶解する。酵素活性量として1〜5mU程度の酵素(コンドロイチナーゼ、ヘパリナーゼ、ヘパリチナーゼなど)を加え、37℃で数時間反応させる。
なお、この酸性多糖前処理工程は、使用する酸性多糖の精製度などの状況により省略することも可能である。
【0023】
(酸性糖鎖捕捉)
前記糖鎖精製担体で末端還元糖鎖と一級アミノ基の結合反応の条件の一具体例は、pHが2〜7、反応温度が50〜100℃、好ましくは60〜90℃、より好ましくは70〜85℃、反応時間が15〜120分である。最も好ましい条件はpH3〜6、反応温度が80℃、反応時間が1時間である。
pHが3未満、または7を越える場合は、中間体であるイミン体の生成が遅くなるため、捕捉効率が落ちる。反応温度は、50℃未満の場合、反応効率が著しく悪化する場合があり、糖鎖を十分に捕捉することができない。反応は、開放系で行って溶媒を完全に蒸発させることが好ましい。これは、溶媒が蒸発するにつれで溶液濃度が無限濃縮されることにより十分な反応をおこさせることが目的である。
また、90℃を超える場合は、酸性糖鎖自身に悪影響を及ぼすと共に、担体がプラスチックの場合は種類によって変形、溶融を発生することがある。
反応時間が30分より短い場合は十分な結合反応が得られない場合があり、糖鎖を十分に捕捉することが出来ない。また90分を超えた反応は、更なる糖鎖の捕捉は見られず時間をかけただけの効果がない。
【0024】
(夾雑物の除去)
糖鎖を捕捉した状態の糖鎖精製担体は、夾雑物を取り除くために洗浄する必要がある。
ここで、洗浄液に用いられる溶液としては、メタノール、エタノールなどのアルコール類;水および水性緩衝液などが使用される。ここで、洗浄に水溶液が用いられる場合、この水溶液のpHは中性付近であることが好ましく、そのpHは4〜10、より好ましくは6〜8である。
前期糖鎖捕捉した担体は、洗浄により、精製原料中の糖鎖以外の夾雑物を簡単に除去することが可能で、糖鎖のみを担体ごと回収することができる。
洗浄方法としては、粒子の場合は、洗浄液に浸漬し、洗浄液の交換を繰り返すことで洗浄することができる。
【0025】
例えば、遠心チューブ内に粒子を入れ、洗浄液を加え、粒子を自然沈降、または、遠心分離により強制的に沈降させた後、上清を除去する操作を繰り返すことで洗浄することができる。前記洗浄操作は3〜6回行うことが好ましい。
プレートの場合は、各ウェル内に洗浄液を分注、吸引除去を繰り返すことで簡便に洗浄することができる。また、必要に応じてプレートを遠心可能な遠心分離機を用いても良い。
【0026】
また、チューブ状の容器であって、底面部に、液体透過可能で該粒子が不透過な孔径を有するフィルターを装着するフィルターチューブを用いることも可能である。該フィルターチューブに粒子を入れて使用することで、洗浄に要した洗浄液を、フィルターを介して除去することが可能となり、前記の遠心操作後の上清除去の工程が必要なくなり、作業性の向上を図ることができる。
また、6〜384穴のマルチウェルプレートの底部が前記フィルターを装着したものが各種市販されており、これらのプレートを用いることでハイスループット化することが可能である。特に96穴マルチウェルプレートは、溶液分注機器、吸引除去システム、およびプレートの搬送システム等が開発されており、ハイスループット化に最適である。
【0027】
なお、前記洗浄工程は、当初の生体試料の状態、例えば糖鎖以外の物質の混在の程度によっては行わなくても構わない。
【0028】
(酸性糖鎖分離、精製)
次のステップとして、担体ごと回収した酸性糖鎖を担体から遊離させ、酸性糖鎖試料として回収することについて以下に述べる。
このステップは、担体ごと回収した酸性糖鎖を担体から遊離させると同時に標識する方法と、酸性糖鎖を担体から遊離させた後に、標識する2つの方法がある。
【0029】
遊離操作の基本は、担体ごと回収した糖鎖を酸性溶媒中、加熱反応を行うことで糖鎖を担体から切り出すことができる。
具体的な方法を以下に示す。
【0030】
反応を行う溶媒は、酸と水が反応に必要であることから、酸と水と有機溶媒の混合溶媒が好ましい。酸と水と有機溶媒の混合溶媒の場合、水の含有率は好ましくは0.1%〜90%、より好ましくは0.1%〜80%、さらに好ましくは0.1%〜50%である。水の代わりに水性緩衝液を含有しても良い。混合前の緩衝液の濃度は好ましくは0.1mM〜1M、より好ましくは0.1mM〜500mM、さらに好ましくは1mM〜100mMである。反応溶液のpHは好ましくは2〜9、より好ましくは2〜7であり、さらに好ましくは2〜6である。使用する酸は例えば、酢酸、ギ酸、トリフルオロ酢酸、塩酸、クエン酸、リン酸、硫酸が好ましく、より好ましくは酢酸、ギ酸、トリフルオロ酢酸、リン酸、さらに好ましくは酢酸、トリフルオロ酢酸である。
【0031】
反応温度に関しては4〜90℃が好ましく、好ましくは25〜90℃で、さらに好ましくは50〜90℃である。反応時間は、5分間〜24時間、好ましくは10分間〜8時間、より好ましくは15分間〜120分間である。反応は、開放系で行って溶媒を完全に蒸発させることが好ましい。これは、溶媒が蒸発するにつれで溶液濃度が無限濃縮されることにより十分な反応をおこさせることが目的である。
【0032】
pH2の酸性から中性付近で、糖鎖切り出し反応を行うことができるため、従来の強酸性処理、たとえば10%トリフルオロ酢酸処理による切出しのような強酸の存在下での切出し反応に比べて、シアル酸残基の脱離など糖鎖の加水分解などを引き起こすことを抑制することができるようになる。
【0033】
また、担体ごと回収した糖鎖を遊離させ、さらに、高速液体クロマトグラフィーなどの方法で分画・分析をする場合には、糖鎖を蛍光標識する必要がある。酸性糖鎖の遊離ならびに蛍光標識について以下に記載する。また、MALDI−TOF MSやESI−MSによる検出感度を向上させるために、糖鎖を化合物で標識する必要がある。
【0034】
この化合物で標識する方法としては、担体ごと回収した酸性糖鎖を担体から遊離させた後に標識する方法と、酸性糖鎖を担体から遊離させると同時に標識する、2つの方法がある。
【0035】
酸性糖鎖を糖鎖捕捉担体から切り出して後に標識する方法としては、アミノ基を有する標識化合物を作用させて、還元アミノ化反応により酸性糖鎖を前記標識化合物に結合させることができる。
【0036】
この方法は、連続的に行うことができるため、酸性糖鎖の回収、精製から検出までの自動化が可能となる。
【0037】
まず、糖鎖捕捉担体から切り出す操作を行う。遊離操作の基本は、前記のように担体ごと回収した糖鎖を酸性溶媒中、加熱反応を行うことで糖鎖を担体から切り出すことである。用いる試薬や反応条件は前記の通りである。
【0038】
続いて、回収した酸性糖鎖を、溶液中でアミノ基を含む還元アミノ化反応により標識化合部と結合させる。
【0039】
前記のアミノ基を含む化合物は、具体的には蛍光物質またはUV吸収基を有する化合物が、下記のアミノ基を含む物質からなる群から選ぶことが、好ましい。
8-Aminopyrene-1,3,6-trisulfonate, 8-Aminonaphthalene-1,3,6-trisulphonate, 7-Amino-1,3-naphtalenedisulfonic acid, 2-Amino9(10H)-acridone,5-Aminofluorescein,Dansylethylenediamie, 2-Aminopyridine, 7-Amino-4-methylcoumarine, 2-Aminobenzamide, 2-Aminobenzoic acid, 3-Aminobenzoic acid, 7-Amino-1-naphthol, 3-(Acethylamino)-6-aminoacridine, 2-Amino-6-cyanoethylpyridine,Ethyl p-aminobenzoate, p-Aminobenzonitrile, 及び7-aminonaphothalene-1,3-disulfonic acid
【0040】
(還元アミノ化反応による標識方法)
具体的には、2-Aminobenzamideによる標識の場合、担体から酸性糖鎖を遊離後、反応容器に0.35 M 2-Aminobenzamid, 1 M sodium cyanoborohydride, 30% 酢酸水溶液を加え、60℃で数時間反応する事で達成される。
【0041】
一方、酸性糖鎖を糖鎖捕捉担体から切り出すと同時に標識する方法としては、ヒドラジド基、またはアミノオキシ基を有する標識化合物を作用させて、ヒドラゾン−ヒドラゾンあるいはヒドラゾン−オキシム交換反応により酸性糖鎖を固相担体から切り離しすると同時に前記標識化合物に結合させることで可能である。
【0042】
この方法は、連続的に行うことができるため、酸性糖鎖の回収、精製から検出までの自動化が可能となる。
【0043】
ヒドラジド基を含む標識化合物の作製方法としては、上記糖鎖を遊離する工程において、ヒドラジド基を含有しており、蛍光物質またはUV吸収基を有する化合物を接触させ糖鎖を遊離させると同時に蛍光物質またはUV吸収物質で糖鎖を標識する方法がある。反応の溶媒、反応温度、時間の詳細は前記の通りであるが、アルデヒド基を含む化合物、例えば糖鎖に対して10等量以上の化合物を添加することで達成できる。
【0044】
前記ヒドラジド基を含む物質、具体的には蛍光物質またはUV吸収基を有する化合物が、下記のヒドラジド基を含む物質である群から選ぶことができる。
5-Dimethylaminonaphthalene-1-sulfonyl hydrazine (Dansylhydrazine); 2-hydrazinopyridine;9-fluorenylmethyl carbazate (Fmoc hydrazine);benzylhydrazine;4,4-difluoro-5,7-dimethyl-4-bora-3a,4a-diaza-s-indacene-3-propionoc acid, hydrazide;2-(6,8-difluoro-7-hydroxy-4-methylcoumarin)acetohydrazide;7-diethylaminocoumarin-3-carboxylic acid, hydrazide (DCCH);phenylhydrazine;1-Naphthaleneacethydrazide;2-hydrazinobenzoic acid;biotin hydrazide;phenylacetic hydrazide.
【0045】
アミノオキシ基を含む標識化合物としては、アミノオキシ基含有の蛍光物質またはUV吸収基を有する化合物を接触させ糖鎖を遊離させると同時に蛍光物質またはUV吸収基を有する化合物で糖鎖を標識する方法である。反応の溶媒、反応温度、時間の詳細は前記の通りであるが、アミノ基を含む化合物、例えば糖鎖に対して10等量以上の化合物を添加することで達成できる。
【0046】
上記アミノオキシ化合物が下記の化合物から選ばれる事が望ましい。
O-benzylhydroxylamine;O-phenylhydroxylamine; O-(2,3,4,5,6-pentafluorobenzyl)hydroxylamine; O-(4-nitrobenzyl)hydroxylamine; 2-aminooxypyridine; 2-aminooxymethylpyridine; 4-[(aminooxyacetyl)amino]benzoic acid methyl ester; 4-[(aminooxyacetyl)amino]benzoic acid ethyl ester; 4-[(aminooxyacetyl)amino]benzoic acid n-butyl ester.
【0047】
前記アミノオキシ基を有する化合物がアルギニン残基、トリプトファン残基、フェニルアラニン残基、チロシン残基、システイン残基およびこれら誘導体の少なくとも一つからなる部分を含む化合物であることが好ましく、下記(式3)で表される構造を有した化合物であることが好ましい。
【化3】

【0048】
(酸性糖鎖試料保存方法)
前記の方法により得られた標識された酸性糖鎖は溶液状態で試料として回収される。この溶液状の酸性糖鎖試料は、目的に応じて、すぐに使用してもよいし、必要時まで保存しておいてよい。保存方法は、そのまま市販の蓋付きチューブなど、密閉容器に移し冷凍保存することが好ましい。さらに好ましくは凍結乾燥させてから冷凍保存する方法である。冷凍保存の温度は、−20℃以下が好ましく、より好ましくは−80℃以下である。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0050】
(実施例1)
(グリコサミノグリカンの分解)
1mg/mLとなるよう10mMリン酸バッファーにヘパラン硫酸ナトリウム塩(ウシ腎臓由来、生化学工業株式会社)を溶解させた溶液4μLとα-MEM(インビトロジェン社製、)に10%ウシ胎児血清(BSA,インビトロジェン社製、)を加えた培地100μLと超純水(超純水製造装置MilliQにて製造、ミリポア社製)400μLを混合した溶液を限外濾過膜Amicon Ultra 10K、0.5mL(ミリポア社製、UFC501096)を用いて25℃、14000Gで30分間遠心分離をかけた。再度水480μLを加えて25℃、14000Gで40分間遠心分離をかけた後、回収した溶液25μLのうち10μLに消化用バッファー(10mM酢酸ナトリウム三水和物、ナカライテスク株式会社、31115−05)、10nM酢酸カルシウム一水和物(ナカライテスク株式会社、06717−92、pH = 7.0に調製)6μLと0.1%BSA(Equitech−bio inc社製、BAC65−0010)水溶液に溶解したヘパリナーゼ(生化学工業株式会社、100700)溶液5μL、0.1%BSA水溶液に溶解したヘパリチナーゼ(生化学工業株式会社、100703)溶液5μLを加え、全量が30μLとなるよう超純水を加えて、37℃で1時間インキュベートした。
【0051】
(グリコサミノグリカン分解物(二糖)の回収、標識)
糖鎖捕捉用の担体であるヒドラジド基を有する粒子5mg(BlotGlyco(R))、住友ベークライト株式会社製、BS−45601S、式2の構造を有し、モノマー仕込み比がm:n=20:1のポリマー)が入ったディスポカラムに上記グリコサミノグリカン分解溶液20μLおよび180μLの2%酢酸/アセトニトリル溶液を加え、80℃で1時間反応させた。反応は開放系で行い、溶媒が完全に蒸発し粒子が乾固した状態であることを目視で確認した。グアニジン溶液、水、メタノール、トリエチルアミン溶液にて粒子を洗浄後、10%無水酢酸/メタノールを添加し、室温で30分間反応させ、未反応のヒドラジド基をキャッピングした。キャッピング後、メタノール、塩酸水溶液、水にて粒子を洗浄した。
【0052】
続いて、粒子の入ったディスポカラムに超純水20μLおよび2%酢酸/アセトニトリル溶液180μLを加え、80℃で1.5時間反応させた。反応は開放系で行い、溶媒が完全に蒸発し粒子が乾固した状態であることを目視で確認した。
2−aminobenzamide(2−AB、和光純薬、574−92441)による標識を行った。粒子の入ったディスポカラムに、2−ABおよびシアノ水素化ホウ素ナトリウムの終濃度がそれぞれ0.35M、1Mになるように30%酢酸/ジメチルスルホシキド(DMSO)混合溶媒に溶解させて調製した溶液50μLを添加し、60℃で2時間反応させた。
【0053】
反応溶液50μLを回収し、アセトニトリルで10倍に希釈した後、シリカカラム (BlotGlycoキット付属品)に添加してシリカゲルに標識糖鎖を吸着させた。アセトニトリルにてカラムを洗浄後、超純水50μLにて標識糖鎖を回収した。
【0054】
(標準二糖の作製)
不飽和ヘパラン/へパリン-二糖キット(生化学工業株式会社)の6種類の標準二糖溶液20μL(100μM)を用いて、2−aminobenzamide(2−AB、和光, 574−92441)による標識を行った。2−ABおよびシアノ水素化ホウ素ナトリウムの終濃度がそれぞれ0.35M、1Mになるように30%酢酸/DMSO混合溶媒に溶解させて調製した溶液50μLを添加し、60℃で2時間反応させた。反応後は、アセトニトリルで10倍に希釈した後、シリカカラム (BlotGlycoキット付属品)に添加してシリカゲルに標識糖鎖を吸着させた。アセトニトリル、アセトニトリル/水混合溶液(95:5)にてカラムを洗浄後、超純水50μLにて標識糖鎖を回収した。6種類の糖鎖とは、以下の通りである。2-acetamido-2-deoxy-4-O-(4-deoxy-α-L-threo-hex-enopyranosyluronic acid)-D-glucose、2-deoxy-2-sulfamino-4-O-(4-deoxy-α-L-threo-hex-4-enopyranosyluronic acid)-D-glucose、2-acetamido-2-deoxy-4-O-(4-deoxy-α-L-threo-hex-4-enopyranosyluronic acid)-6-O-sulfo-D-glucose、2-deoxy-2-sulfamino-(4-deoxy-α-L-threo-hex-4-enopyranosyluronic acid)-6-O-sulfo-D-glucose、2-deoxy-2-sulfamino-(4-deoxy-2-O-sulfo-α-L-threo-hex-4-enopyranosyluronc acid)-D-glucose、2-deoxy-2-sulfamino-(4-deoxy-2-O-sulfo-α-L-threo-hex-4-enopyranosyluronc acid)-6-O-Sulfo-D-glucoseである。
【0055】
(グリコサミノグリカン鎖由来2糖の検出)
回収した糖鎖水溶液5μLを、高速液体クロマトグラフ(LaChrom Elite、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)にて解析した。カラムは、順相クロマトグラフィーカラム(TSK−GEL Amide−80、東ソー株式会社)を用い、移動相には50mM ギ酸アンモニウム水溶液(pH4.4)とアセトニトリルを使用した。移動相は、50mM ギ酸アンモニウム水溶液(pH4.4)が20%から41.7%に80分かけて変化するように勾配をつけ、流速0.4mL/min、カラム温度30℃で流し、蛍光(励起波長330 nm、蛍光波長420 nm)にて検出した。得られたHPLCチャートを比較した結果、標準二糖のピークの溶出時間と一致する時間にグリコサミノグリカン分解物のピークも得られた(図2、3)。本手法により、生体試料中からグリコサミノグリカン糖鎖由来のピークが精製、標識できる事を確認した。
(実施例2)
(グリコサミノグリカンの分解)
実施例1と同様の方法にて処理を行った。
【0056】
(グリコサミノグリカン分解物(二糖)の回収、標識)
糖鎖捕捉用の担体であるヒドラジド基を有する粒子5mg(BlotGlyco(R))、住友ベークライト株式会社製、BS−45601S、式2の構造を有し、モノマー仕込み比がm:n=20:1のポリマー)が入ったディスポカラムに上記グリコサミノグリカン分解溶液20μLおよび180μLの2%酢酸/アセトニトリル溶液を加え、80℃で1時間反応させた。反応は開放系で行い、溶媒が完全に蒸発し粒子が乾固した状態であることを目視で確認した。グアニジン溶液、水、メタノール、トリエチルアミン溶液にて粒子を洗浄後、10%無水酢酸/メタノールを添加し、室温で30分間反応させ、未反応のヒドラジド基をキャッピングした。キャッピング後、メタノール、塩酸水溶液、水にて粒子を洗浄した。
【0057】
続いて、粒子の入ったディスポカラムに20mM 2−aminobenzhydrazide(2ABh、Aldrich、565490)水溶液20μLおよび2%酢酸/アセトニトリル溶液180μLを加え、70℃で1.5時間反応させた。反応は開放系で行い、溶媒が完全に蒸発し粒子が乾固した状態であることを目視で確認した。
【0058】
水50μLを添加し、2ABhで標識された糖鎖を回収し、アセトニトリルで10倍に希釈した後、シリカカラム (BlotGlycoキット付属品)に添加してシリカゲルに標識糖鎖を吸着させた。アセトニトリルにてカラムを洗浄後、超純水50μLにて標識糖鎖を回収した。
【0059】
(グリコサミノグリカン鎖由来2糖の検出)
回収した糖鎖水溶液5μLを、高速液体クロマトグラフ(LaChrom Elite、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)にて解析した。カラムは、順相クロマトグラフィーカラム(TSK−GEL Amide−80、東ソー株式会社)を用い、移動相には50mM ギ酸アンモニウム水溶液(pH4.4)とアセトニトリルを使用した。移動相は、50mM ギ酸アンモニウム水溶液(pH4.4)が20%から41.7%に80分かけて変化するように勾配をつけ、流速0.4mL/min、カラム温度30℃で流し、蛍光(励起波長330 nm、蛍光波長420 nm)にて検出した。2ABhで標識された糖鎖由来のピークが検出された。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明により、簡便に酸性糖鎖を回収、精製し、必要に応じて標識化合物による標識を実施でき、該酸性糖鎖を提供することが可能となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性糖鎖を含有する溶液から酸性糖鎖を調製する方法であって、
酸性糖鎖を含有する溶液を、糖鎖固相担体と接触させて酸性糖鎖を捕捉する工程と、
前記酸性糖鎖を捕捉した糖鎖固相担体より前記酸性糖鎖を切り出し、該酸性糖鎖を回収する工程と、を有する酸性糖鎖の調製方法
【請求項2】
前記酸性糖鎖を回収する工程において、前記酸性糖鎖を切り出し、次いで該酸性糖鎖を標識化合物で標識し、標識化された酸性糖鎖を回収する請求項1記載の酸性糖鎖の調製方法
【請求項3】
前記酸性糖鎖が、コンドロイチン硫酸、ヘパラン硫酸、ヒアルロン酸、コンドロイチン、およびヘパリン中から選ばれる1以上の酸性多糖である請求項1または2記載の酸性糖鎖の調製方法。
【請求項4】
前記酸性多糖を構成する単糖、または前記酸性糖鎖を構成する二糖以上のオリゴ糖、または前記酸性多糖の断片糖鎖である請求項3記載の酸性糖鎖の調製方法。
【請求項5】
前記糖鎖固相担体が、乾燥重量1mgあたり1μmol以上のヒドラジド基を有するポリマー粒子である請求項1記載の酸性糖鎖の調製方法。
【請求項6】
前記糖鎖固相担体が下記の(式1)で表される構造を有するポリマー粒子である請求項1または4記載の酸性糖鎖の調製方法。
【化1】

(R1,R2は−O−,−S−,−NH−,−CO−,−CONH−が挿入されてもよい炭素数1〜20の炭化水素鎖,R3,R4,R5はH,CH3,または炭素数2〜5の炭化水素鎖を示す。)
【請求項7】
前記固相担体が下記の(式2)で表される構造を有するポリマー粒子である請求項1ないし6いずれか1項に記載の酸性糖鎖の調製方法。
【化2】

【請求項8】
請求項1ないし7いずれか1項に記載の酸性糖鎖の調製方法で
(a)酸性多糖から酵素処理により断片糖鎖を作製する工程と、
(b)該酸性糖鎖と糖鎖固相担体をヒドラゾン結合により結合させる工程と、
(c)糖鎖を固相担体から切り離した後、アミノ基を有する化合物を作用させて、還元的アミノ化反応により前記化合物に結合させる工程を含む酸性糖鎖の調製方法。
【請求項9】
前記アミノ基を有する化合物が紫外可視吸収特性又は蛍光特性を有するものである請求項8記載の酸性糖鎖の調製方法。
【請求項10】
前記アミノ基を有する化合物が、
8-Aminopyrene-1,3,6-trisulfonate, 8-Aminonaphthalene-1,3,6-trisulphonate, 7-Amino-1,3-naphtalenedisulfonic acid, 2-Amino9(10H)-acridone,5-Aminofluorescein,Dansylethylenediamie, 2-Aminopyridine, 7-Amino-4-methylcoumarine, 2-Aminobenzamide, 2-Aminobenzoic acid, 3-Aminobenzoic acid, 7-Amino-1-naphthol, 3-(Acethylamino)-6-aminoacridine, 2-Amino-6-cyanoethylpyridine,Ethyl p-aminobenzoate, p-Aminobenzonitrile, 及び7-aminonaphothalene-1,3-disulfonic acid
から選ばれる少なくとも1つである請求項8又は9記載の酸性糖鎖の調製方法。
【請求項11】
前記請求項1ないし10いずれか1項に記載の酸性糖鎖の調製方法により調製した酸性糖鎖試料。
【請求項12】
請求項1ないし7いずれか1項に記載の酸性糖鎖の調製方法で
(a)酸性多糖から酵素処理により断片糖鎖を作製する工程と、
(b)該酸性糖鎖と糖鎖固相担体をヒドラゾン結合により結合させる工程と、
(c)ヒドラジド基を有する化合物、またはアミノオキシ基を有する化合物を作用させて、ヒドラゾン−オキシム交換反応により糖鎖を固相担体から切り離しつつ、前記化合物に結合させる工程を含む酸性糖鎖の調製方法。
【請求項13】
(a)工程が、前記酸性多糖を糖鎖分解酵素で処理し前記酸性多糖を構成する単糖、二糖以上のオリゴ糖である断片糖鎖を作製する工程である請求項8又は12に記載の酸性糖鎖の調製方法。
【請求項14】
前記糖鎖分解酵素が、コンドロイチナーゼ、ヒアルロニダーゼ、ヘパリナーゼ、ヘパリチナーゼ、ケラタナーゼからなる酵素の少なくとも1種である請求項8、12または13いずれか1項に記載の酸性糖鎖の調製方法。
【請求項15】
(b)工程が、前記酸性糖鎖を含有する溶液と前記糖鎖固相担体と混合してインキュベートする請求項8又は12記載の酸性糖鎖の調製方法。
【請求項16】
前記インキュベートが4℃以上90℃以下の条件で、5分以上24時間以下の時間行われる請求項15記載の酸性糖鎖の調製方法。
【請求項17】
前記インキュベートが50℃以上90℃以下の条件で、15分以上120分以下の時間行われる請求項15または17記載の酸性糖鎖の調製方法。
【請求項18】
(c)工程のヒドラジド基を有する化合物が下記から選ばれた物質またはその塩である請求項12記載の酸性糖鎖の調製方法。
5-Dimethylaminonaphthalene-1-sulfonyl hydrazine (Dansylhydrazine); 2-hydrazinopyridine;9-fluorenylmethyl carbazate (Fmoc hydrazine);benzylhydrazine;4,4-difluoro-5,7-dimethyl-4-bora-3a,4a-diaza-s-indacene-3-propionoc acid, hydrazide;2-(6,8-difluoro-7-hydroxy-4-methylcoumarin)acetohydrazide;7-diethylaminocoumarin-3-carboxylic acid, hydrazide (DCCH);phenylhydrazine;1-Naphthaleneacethydrazide;2-hydrazinobenzoic acid;biotin hydrazide;phenylacetic hydrazide.
【請求項19】
(c)工程のアミノオキシ基を有する化合物が下記から選ばれた物質またはその塩である請求項12記載の酸性糖鎖の調製方法。
O-benzylhydroxylamine;O-phenylhydroxylamine; O-(2,3,4,5,6-pentafluorobenzyl)hydroxylamine; O-(4-nitrobenzyl)hydroxylamine; 2-aminooxypyridine; 2-aminooxymethylpyridine; 4-[(aminooxyacetyl)amino]benzoic acid methyl ester; 4-[(aminooxyacetyl)amino]benzoic acid ethyl ester; 4-[(aminooxyacetyl)amino]benzoic acid n-butyl ester;N-aminooxyacetyl-tryptophyl(arginine methyl ester)
【請求項20】
前記アミノオキシ基を有する化合物がアルギニン残基、トリプトファン残基、フェニルアラニン残基、チロシン残基、システイン残基およびこれら誘導体の少なくとも一つからなる部分を含む請求項19記載の酸性糖鎖の調製方法。
【請求項21】
前記アミノオキシ基を有する化合物が下記(式3)で表される構造を有する請求項19または20記載の酸性糖鎖の調製方法。
【化3】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−158729(P2012−158729A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21313(P2011−21313)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】