説明

酸成分含有水溶液の処理・乾燥方法

【課題】 生石灰の消化反応を利用することにより蒸発機器や乾燥機器を不要にする水溶液の乾燥方法及び同時に機能性成分を含有する粉体状の消石灰の製造方法を提供する。
【解決手段】 酸成分含有水溶液と生石灰を、ニーダーミキサー等の反応装置により混合して反応させ、発生する消化熱及び中和熱を利用して過剰の水分を蒸発させ、当該酸成分のカルシウム塩を含む消石灰を粉体状で得る操作を行う。使用する生石灰は酸成分含有水溶液中の酸成分の中和に必要な当量を超えて添加することが好ましい。酸成分としては、リン酸、硫酸、硝酸、塩酸及びフッ酸等であり、また、酸成分含有水溶液中には、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、鉄、銅、亜鉛、アルミニウム、チタン、ホウ素、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、スズ等が含有されており、これらは有用なミネラル成分として粉体状の消石灰中に回収される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生石灰の消化反応を利用することにより乾燥機器や蒸発機器を不要にする水溶液の乾燥方法及びその結果得られる機能性成分を含有する粉体状の消石灰に関する。
【背景技術】
【0002】
消石灰は、食品添加用、肥料用、酸性土壌改良用、農業用、制酸剤等の医薬用、サラシ粉製造原料、カセイ化剤、海水マグネシア製造等各種化学用、難燃剤、排ガス処理用、廃水処理用、ホルマリン吸収用等の公害防止・環境分野用、飲料水等の水処理用等の種々の分野で有用なものである。
【0003】
従来、粉体状の消石灰の工業的な製造方法しては、混合機を備えたニーダータイプの消化反応装置に、原料である生石灰及び、その1.5倍当量〜2.5倍当量程度の水を投入・添加して、消化反応を行わしめるものである。消化反応により、多量の消化熱が発生し、過剰の水は水蒸気として蒸発・飛散するので、特に乾燥機器による乾燥工程を実施することなく、そのまま含水率が1%以下程度の粉体状の消石灰が得られる(例えば、特許文献1〜3を参照。)。
【0004】
また、粉体状消石灰について、その比表面積を大きくするために、消化のための水(消化水)に、極く少量の、メタノール等のアルコール、ジメチルアミン等のアミン、界面活性剤、糖類等を溶解したものを用い、原料の生石灰と水との濡れを向上させようとすることは公知である(例えば、特許文献1〜3を参照。)。
【0005】
【特許文献1】特開平10−25112号公報(特許請求の範囲(請求項1〜8)、〔0002〕)
【特許文献2】特開平10−167775号公報(〔0002〕〜〔0008〕、〔0025〕)
【特許文献3】特開2004−168595号公報(〔0002〕〜〔0003〕)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、酸成分含有水溶液を、生石灰と反応させることより、例えばリン酸等の酸成分のカルシウム塩と、有用なミネラル成分等が当該粉体中に回収された有用なミネラル成分を有用成分又は機能性成分として含有する粉体状の消石灰を得ることである。
【0007】
また、本発明の目的は、生産現場で発生する処理が必要とされる酸成分含有水溶液等の排液を、環境上問題となる、多くの熱エネルギーや電気エネルギーを投入することなく、当該水溶液の消化反応により発生する消化熱等を利用して処理・乾燥し、粉体状の消石灰を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に従えば、以下の酸成分含有水溶液の処理・乾燥方法が提供される。
〔1〕
酸成分含有水溶液と生石灰を混合して反応せしめ、発生する消化熱及び中和熱を利用して水分を蒸発させ、当該酸成分のカルシウム塩を含む消石灰を粉体状で得ることを特徴とする酸成分含有水溶液の処理・乾燥方法。
【0009】
〔2〕
前記生石灰を当該酸成分含有水溶液中の酸成分の中和に必要な当量を超えて添加する上記〔1〕に記載の酸成分含有水溶液の処理・乾燥方法。
【0010】
〔3〕
前記酸成分がリン酸、硫酸、硝酸、塩酸及びフッ酸から選択される少なくとも一種である上記〔1〕又は〔2〕に記載の酸成分含有水溶液の処理・乾燥方法。
【0011】
〔4〕
酸成分含有水溶液が、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、鉄、銅、亜鉛、アルミニウム、チタン、ホウ素、炭素、ケイ素、ゲルマニウム及びスズから選択される少なくとも一種の元素またはその化合物を、ミネラル成分としてさらに含有する上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の酸成分含有水溶液の処理・乾燥方法。
【0012】
また本発明に従えば、以下の有用成分を含有する粉体状の消石灰が提供される。
〔5〕
上記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の方法によって得られたことを特徴とする少なくとも前記酸成分のカルシウム塩を含有するか、または、当該酸成分のカルシウム塩とともにさらにミネラル成分を含有する消石灰。
【発明の効果】
【0013】
以下に詳述するように、本発明によれば、例えばリン酸等の酸成分含有水溶液と生石灰を反応させることより、当該リン酸等の酸成分のカルシウム塩と、有用なミネラル成分等が回収された機能性成分を含有する消石灰を得ることができる。
【0014】
また、本発明によれば、生産現場で発生する処理が必要とされる酸成分含有水溶液等の排液を、環境上問題となる、多くの熱エネルギーや電気エネルギーの投入を必要とする乾燥機器や蒸発機器による乾燥処理を行うことなく、そのまま発生する消化熱等により処理・乾燥し、粉体状の消石灰を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
(酸成分含有水溶液)
本発明においては、酸成分含有水溶液と生石灰を混合して消化反応せしめることを特徴とする。すなわち、従来の水を主体とする消化水の代わりに、酸成分を含有する酸性水溶液により、生石灰を消化せしめることを特徴の一つとするものである。
【0016】
酸成分としては、特に限定するものではなく、無機酸または有機酸が使用可能であるが、好ましくは、リン酸、硫酸、硝酸、塩酸及びフッ酸から選択される少なくとも一種の無機酸であり、最も好ましくはリン酸である。以下、主としてリン酸を例として説明する。
【0017】
リン酸の代表的な工業的な製造方法の一つとしては、リン鉱石を硫酸、塩酸、硝酸等の強酸で分解する湿式法によるものが実施されている。リン鉱石は、火成性、または堆積性の鉱石が主であるが、そのいずれも、リンはもちろん、マグネシウム、アルミニウム、鉄、ケイ素その他の多種のミネラル成分を含むものである。例えばリン鉱石を硫酸で分解してリン酸を製造する湿式リン酸の製造方法においては、当該分解溶液中からリン酸を、副生する石膏と分離する工程を有するが、リン酸を分離したあとに強酸性の分離残液が水溶液として発生する。当該残液はリン酸を主体として含有し、通常さらに、リン鉱石の分解に使用した硫酸を含んでいて強酸性であるため、当然のことながらそのままでは廃棄できず、なんらかの処理が必要となる。
【0018】
本発明においては、酸成分含有水溶液として、例えば上記したような湿式リン酸製造時に発生するリン酸等を含有する酸性の分離残液を使用する。このように、当該強酸性の水溶液を生石灰で処理することによって、分離残液中のリン酸成分がそのカルシウム塩として回収されるとともに、さらに当該水溶液中のマグネシウム、アルミニウム等のミネラル成分も、粉体状で得られる消石灰中に、有効成分(機能性成分)として回収されるので、当該強酸性の分離残液の処理方法として極めて有効なものである。
【0019】
本発明の対象とする酸成分含有水溶液中の酸成分の濃度は、特に限定するものではないが、例えばリン酸含有水溶液の場合は、リン酸濃度は、1〜50質量%、好ましくは2〜30質量%、さらに好ましくは3〜20質量%程度である。
【0020】
なお、本発明における上記リン酸水溶液等の酸成分含有水溶液には、析出物、沈殿物や未分解物などに起因する不溶解分が含まれていることがあるが、本発明の方法においては、これらの存在は、その有効性に実質的に問題になるものではない。これらの不溶解分にも機能性の成分が含まれていることが多く本発明に有用に作用するものであるからである。
以上、湿式リン酸製造工程から発生する水溶液の処理を例にとって説明したが、本発明はこの例にとらわれるものではない。
【0021】
(生石灰)
本発明で用いる生石灰としては、特に限定するものではなく、原料石灰石をロータリーキルン、メルツ型焼成炉、ベッケンバッハ型焼成炉等の加熱炉により1000℃程度で焼成し、振動ミル、ボールミル等で乾式粉砕して得たものを好適に用いることができる。なお、当該石灰石中には、石灰石、炭酸カルシウム、さらには消石灰等の夾雑物を含有していてもかまわない。
【0022】
(反応装置)
本発明においては、上記のごとき酸成分含有水溶液と生石灰を混合して反応せしめ、発生する消化熱及び中和熱を利用して過剰な水分を蒸発させる。
反応装置としては、酸性分含有水溶液(液体)と生石灰(粉体)とからなる固液系の反応を良好に遂行させるため、この両者を互いに十分に混合・分散し、当該固液系の異相系反応を実施できる混合又は捏和機能を備えた混合装置が好ましく、例えばニーダーミキサー、パドルスクリューミキサー、リボンブレンダー、インターナルミキサー、ポニーミキサーなど通常の混合機器を有効に利用できる。この場合、液体である酸性分含有水溶液を当該装置に仕込んでおき、これに粉体である生石灰を添加してもよいが、大量の熱発生を伴う操作の制御のし易さや安全面からは、粉体である生石灰に、酸性分含有水溶液を添加する方式が好ましい。当該操作は、回分混合式、半回分混合式、または連続混合式のいずれで実施することも可能である。
【0023】
これら混合機器の材質としては、生石灰を主たる処理剤とするので、基本的には通常の鋼材で十分であるが、リン酸や硫酸等の強酸に対し、耐酸性があり、耐磨耗性に優れたステンレススチールやハステロイなどの材料を用いることがさらに好ましい。
【0024】
(仕込み比)
本発明においては、酸成分含有水溶液中の水量は、基本的に、従来のいわゆる乾式消化法を実施する場合に準じた量を使用することが好ましい。すなわち、生石灰に対して、1.3〜3.0倍当量、好ましくは1.4〜2.5倍当量、さらに好ましくは1.5〜2.0倍当量程度の水を使用する。
【0025】
また、生石灰の必要量については、当然のことながら、酸成分含有水溶液の酸濃度に支配されるが、供給する生石灰の当量が、例えばリン酸等の水溶液中の酸成分の中和に必要な当量を超えることが好ましい。このようにして、生石灰は、水分と反応する消化反応により消石灰を生成すると同時に、アルカリ成分として酸を中和する反応を起こすので、酸性分含有水溶液の処理剤として有効的に作用する。なお、生石灰中には、石灰石、消石灰などもアルカリ成分としてこれら酸成分と反応して発熱反応を生起するので、本発明においては、これら夾雑物を含んでいてもよい。本発明において、消化反応や中和反応の反応速度自体は極めて大きいので、反応時間は、通常1〜60分、好ましくは2〜30分、さらに好ましくは5〜20分程度である。また、反応終了後に同程度の熟成反応を行って、生成する消石灰の比表面積等の粉体物性を調整することも好ましい。
【0026】
以上のごとくして、混合機器型の反応装置に仕込まれた、酸成分含有水溶液と生石灰は、混合・分散されるとともに、消化反応及び中和反応が行われる。これらは強度の発熱反応であるため、反応装置系内は強烈に加熱され、当該発生する消化熱及び中和熱により、過剰の水分は、蒸発・飛散し、乾燥されるので、得られる消石灰は、特に乾燥することなく、粉体状として得られるのである。当該消石灰中の水分含量は、通常0.01〜3質量%、好ましくは0.1〜1%程度である。
【0027】
(本発明の作用)
このようにして、上記酸成分含有水溶液と生石灰を反応させることより得られた、粉体状の消石灰は、少なくとも、例えばリン酸等の酸成分のカルシウム塩を含有するものであり、さらにまた、当該リン酸カルシウム等の当該酸成分のカルシウム塩とともに、当該酸成分含有水溶液中の、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、鉄、銅、亜鉛、アルミニウム、チタン、ホウ素、炭素、ケイ素、ゲルマニウム及びスズから選択される少なくとも一種の元素またはその化合物が、ミネラル成分として当該粉体中に回収され、有用な機能性成分を含有する消石灰となる。
【0028】
かかる有用成分(機能性成分)としては、具体的には、例えば、園芸植物や農産物に対するものとしては、リンやカリウムなどの肥料成分、ミネラル成分として、マグネシウムのようにクエン酸溶解性(ク溶性)の肥料成分の植物吸収性能を改善する成分などである。
【0029】
また、一般的に、生産現場では厄介な処理が必要とされる各種の酸成分含有水溶液が排液として発生するが、原材料やエネルギーコストの高い昨今ではこれらの処理に多大の費用がかかり、問題となっていたものを、本発明による処理により、環境上問題となる、多くの熱エネルギーや電気エネルギーを必要とする乾燥機器等の使用を不要とすることができる。
【0030】
このように、本発明は、実質的に乾燥機器や蒸発機器を使用することなく、酸成分含有水溶液の乾燥処理を行い、かつ、当該酸成分水溶液中の有効成分を回収し、機能性成分を含有する粉体状の消石灰の製造を行うことができるという、作用効果を奏するものである。
【0031】
以下、実施例をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲がこれに限定されるものではない。なお、実施例において、得られた粉体状消石灰中の水分含量(付着水量)は、雰囲気中の二酸化炭素の吸収を避けるため、セフィールド管を用い、窒素ガスでパージしながら、秤量した粉体状消石灰を100℃で5時間加熱したあとの減量分(%)を付着水量とした。なお、以下で%とあるものは、とくに断りなき限り、質量%である。
【0032】
〔実施例1〕
生石灰(重安石灰社製、JIS R9001、特号、純度93.0%以上)2kgをニーダーミキサー型混練機に加えて混練しつつ、酸成分含有水溶液として苦土(マグネシア)入りリン酸液(下関三井化学社製、湿式リン酸由来のリン酸、H3PO4濃度5.0%濃度、Mg、Al、Feをそれぞれ2〜8%程度含有する。)1kgを約10分間で添加し、添加後、さらに20分間混練を継続し、消化反応及びリン酸の中和反応を行わせた。混練中に反応熱により混練機内は加熱されて、過剰の水は蒸発し、特に乾燥機による乾燥を行うことなく、混練終了後、リン(リン酸カルシウム)及び、マグネシウム、アルミニウム、鉄を含有する粉体状の消石灰(付着水量:0.08%、CaO:64.7%、P25:1.4%、MgO:2.5%、 Al23:0.66%、Fe23:0.84%)2.7kgが得られた。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明によれば、処理が必要な酸成分含有水溶液を、生石灰と反応させることより、例えばリン酸等の酸成分のカルシウム塩を含有する消石灰を生成せしめるものであるが、さらにまた、当該リン酸カルシウム等の当該酸成分のカルシウム塩とともに、当該酸成分含有水溶液中の有用なミネラル成分を当該粉体中に回収したミネラル成分を含有する消石灰を得ることかができる。
【0034】
かかる有用成分としては、例えば、園芸植物や農産物に対する、リンやカリウムなどの肥料成分、ミネラル成分であるマグネシウムのようにクエン酸溶解性(ク溶性)の肥料成分等である。本発明において得られるリン酸、マグネシウム等の成分を含有する消石灰は一般的な消石灰の用途はもちろん、これに加えて、特に、園芸用、花卉栽培、農産物栽培など植物栽培に有用なものである。
【0035】
また、本発明によれば、湿式リン酸製造装置等の生産現場で発生する処理が必要とされる各種の酸成分含有水溶液を、多くの熱エネルギーや電気エネルギーの投入が必要な乾燥機器や蒸発機器を使用することなく、これに生石灰を添加して消化反応させ、発生する消化反応の高熱エネルギーを利用して乾燥し、粉体状の消石灰とするものである。
【0036】
このように、本発明によれば、実質的に乾燥機器や蒸発機器を設置・使用することなく、酸成分含有水溶液の乾燥処理を行い、かつ、当該酸成分水溶液中の有効成分を回収し、機能性を有する粉体状の消石灰の製造を行うことができるという作用効果を奏するものであるから、その産業上の利用可能性はきわめて大きいと言わざるを得ない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸成分含有水溶液と生石灰を混合して反応せしめ、発生する消化熱及び中和熱を利用して水分を蒸発させ、当該酸成分のカルシウム塩を含む消石灰を粉体状で得ることを特徴とする酸成分含有水溶液の処理・乾燥方法。
【請求項2】
前記生石灰を当該酸成分含有水溶液中の酸成分の中和に必要な当量を超えて添加する請求項1に記載の酸成分含有水溶液の処理・乾燥方法。
【請求項3】
前記酸成分がリン酸、硫酸、硝酸、塩酸及びフッ酸から選択される少なくとも一種である請求項1又は2に記載の酸成分含有水溶液の処理・乾燥方法。
【請求項4】
前記酸成分含有水溶液が、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、鉄、銅、亜鉛、アルミニウム、チタン、ホウ素、炭素、ケイ素、ゲルマニウム及びスズから選択される少なくとも一種の元素またはその化合物を、ミネラル成分としてさらに含有する請求項1〜3のいずれかに記載の酸成分含有水溶液の処理・乾燥方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の方法によって得られたことを特徴とする少なくとも前記酸成分のカルシウム塩を含有するか、または、当該酸成分のカルシウム塩とともにさらにミネラル成分を含有する消石灰。

【公開番号】特開2007−84371(P2007−84371A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−273626(P2005−273626)
【出願日】平成17年9月21日(2005.9.21)
【出願人】(505356479)重安石灰株式会社 (1)
【Fターム(参考)】