説明

酸洗槽鉄皮の異常箇所特定方法

【課題】酸洗槽における酸液漏洩による異常箇所の事前予測を可能にし、それによりオンラインで異常個所を特定して計画的な保全を可能とする、酸洗槽鉄皮の異常箇所特定方法を提供すること。
【解決手段】酸液漏洩による異常の疑われる領域41を含む、オンラインの酸洗槽の鉄皮外面をドライアイスで冷却し、その表面温度の回復速度を観測して、他の部分より回復速度の速い部分42を異常個所として特定することを特徴とする酸洗槽鉄皮の異常箇所特定方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板の表面酸化膜を除去する酸洗槽の鉄皮の異常個所をオンラインで特定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板の製造過程では、鋼板の表面酸化膜を除去する酸洗処理が行われている。この処理は、図1に示したように、ペイオフリール11からコイルを払出して供給される鋼板12を、酸液の入った酸洗槽13を連続的に通過させ、表面酸化膜を除去するものである。酸洗槽13から引き出した、表面酸化膜を除去した鋼板14は、テンションリール15に巻取られる。図1に示した酸洗装置において、ペイオフリール11からの鋼板は溶接機16でコイル繋ぎされ、酸洗槽13を通過した鋼板はサイドトリマー17でエッジカットされる。
【0003】
図2は、酸洗槽の断面構成を示す図であり、酸洗槽は、外側から、鉄皮21、耐酸ゴムライニング22、ライニング保護用のレンガ23の3層構造になっており、レンガ23の内側に酸液24が充満している。酸洗槽内の酸液24がレンガ23の目地部又はクラック部を通り、ゴムライニング22に達して、ゴムライニング22の劣化した部分やピンホールを通り抜けて鉄皮21にまで達すると、鉄皮21が腐食して、図2に示したように孔あき部Aが生じる。
【0004】
従来は、鉄皮にこのような孔あき部を見つけると、槽内の酸液を全て抜き取り、洗浄後、槽内側から孔あき部より大きめにレンガを取り出し、更にゴムライニングを取り外してから、鉄皮を溶接補修していた。そしてその後、ゴムライニングを現場加硫にて取付け、レンガ積み施工を行い、最後に養生を行って、孔あき部の補修を完了していた。
【0005】
このように、上述の従来法は酸洗槽の内側から補修を行うため、工程数が多く、補修に長時間を要し、費用も大きいという欠点があった。この欠点を解消して、少ない工程数で短時間のうちに、しかも安価に鉄皮孔あき部の補修を可能にする方法が、特許文献1により提案された。
【0006】
特許文献1により提案された方法では、まず、酸洗槽内の酸液24(図2)の液面を孔あき部A(図2)より、例えば300mm程度下げる。次に、図3に示したように、金属製シリンダーチューブ31を、その一端面が孔あき部Aを包囲するように、鉄皮21上に位置させ、鉄皮21に溶接固定する。その後、チューブ31内にペースト状のゴムライニング材32を充填する。充填完了後、チューブ31内にピストン33を装入し、そしてこのピストン33を駆動するジャッキボルト34を有する蓋35を、チューブ31の開放端面に装着し、ジャッキボルト34の回転によりピストン33を移動させて、ペースト状ゴムライニング材32を鉄皮孔あき部Aに圧入し、自然放置する。
【0007】
圧入されたゴムライニング材は、酸洗槽のゴムライニング22の微細な酸液通過孔や鉄皮21とゴムライニング22との間に流入し、完全硬化後に酸液の流出を防止する。こうして補修を完了後、チューブ31と蓋35は、新たな鉄皮を構成する。
【0008】
【特許文献1】特開平2−97689号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1により提案された方法によって、酸洗槽鉄皮孔あき部の補修は、例えば12時間程度の酸洗ラインの停止で行えるようになり、それまでの酸洗槽内の酸液を完全に抜いて行う補修に比べ、補修に要する時間はずっと短縮された。しかし、この場合にも、本来連続運転される酸洗ラインの一時的な停止は免れず、それに伴い生産計画の変更なども余儀なくされる。
【0010】
本発明は、酸洗槽における酸液漏洩による異常箇所の事前予測を可能にし、それによりオンラインで異常個所を特定して計画的な保全を可能とする、酸洗槽鉄皮の異常箇所特定方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者は、酸洗槽における酸液漏洩による異常箇所の事前予測を可能にする手法について検討を重ねた結果、オンラインの酸洗槽の鉄皮外面をドライアイスで冷却し、その表面温度の回復状況を調べることにより、鉄皮肉厚が他の部分より薄く、酸液漏洩につながる可能性の高い部位を容易に特定できるとの知見を得て、それに基づいて本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明による酸洗槽鉄皮の異常箇所特定方法は、オンラインの酸洗槽の鉄皮外面をドライアイスで冷却し、その表面温度の回復速度を観測して、他の部分より回復速度の速い部分を異常個所として特定することを特徴とする。
【0013】
好ましくは、鉄皮の異常箇所の存在が疑われる領域を予め特定し、その領域をドライアイスで冷却するようにする。
また、表面温度回復速度の観測は、例えば、赤外線熱画像装置を使用して行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、酸液による腐食に起因する酸洗槽鉄皮の異常箇所を、極めて短時間で、しかも酸洗処理を中段することなく、容易に特定することができる。特定した異常箇所は、やはり酸洗処理を中断することなく、補修することができることから、設備の運転停止に伴う生産ロスを防ぎ、且つ生産計画の乱れを予防することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
酸洗槽がオンラインにあるとき、槽内には高温(80〜90℃程度)の酸液(一般に塩酸溶液)が充満している。この酸液と酸洗槽外側の鉄皮との間に介在するレンガ層とゴムライニングの断熱効果によって、鉄皮外表面の温度は、通常、内部の酸液の温度より低く保たれている。レンガとライニングを通し酸液が鉄皮内側に達するようになった異常箇所では、鉄皮の腐食が進むにつれ、その部分の肉厚は周囲の腐食のない部分より薄くなり、且つ、酸液に直接さらされていることから、腐食のない部分より高温になると考えられる。
【0016】
この考えに基づき、オンラインの酸洗槽の側壁を赤外線熱画像装置(赤外線サーモグラフィとも呼ばれる)で観測したところ、予想どおり局所的な高温領域が見つかり、その領域について鉄皮の厚みを測定すると、他部位より薄くなっている部位のあることが判明した。
【0017】
ところが、このように赤外線熱画像装置を利用して見いだした鉄皮外面の局所的高温部について鉄皮の厚みを測定する方法では、大まかに高温部をとらえてから、その部分の様々な箇所の厚みを個別に測定し(例えば超音波厚み測定器を使用して)、減肉箇所を特定するまでに、1m2当たり8時間程度かかり、非効率的であることも分かった。
【0018】
そこで、更に検討を重ねた末に、鉄皮外表面をドライアイスで急冷し、鉄皮外表面温度が平常時の温度に回復する過程を赤外線熱画像装置で観測したところ、他部位より速い回復速度が鮮明に認められる部位が見いだされ、そこの厚みを測定すると、他部位より減肉していることが判明した。この方法の場合、ドライアイスで急冷した領域の全体を赤外線熱画像装置により同時に観測することが可能であり、酸液での腐食により鉄皮の減肉した部位における温度の回復速度が他部位より明らかに速い部位を検出でき、それにより腐食による減肉部位を特定することができた。
【0019】
本願発明に従ってこのようにドライアイスによる急冷を利用する場合、鉄皮の全体に対してそれを適用してもよい。とは言え、赤外線熱画像装置などによって、酸液での腐食により鉄皮が減肉した部位が存在する領域を前もって大まかに把握しておくのが好ましい。こうして特定した鉄皮の減肉の疑われる部分について、ドライアイスで急冷してから赤外線熱画像装置で異常箇所を特定するまでに要する時間は、ほぼ5分以内である。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例に基づき詳しく説明する。
【0021】
(比較例)
稼働中の酸洗槽(鉄皮厚さ9mm)の側壁を赤外線熱画像装置(日本アビオニクス社製TVS−200)により観測して、図4(a)に模式的に示したように、周囲より高い温度が認められ鉄皮の減肉が疑われるおよそ縦300mm×横700mmの領域41を見いだした。この領域について接触子の直径が10mmの超音波厚み測定器(帝通電子研究所社製超音波厚さ計)により鉄皮肉厚を次々に測定して、図4(b)に模式的に示したように、直径約30mmの3つの異常箇所42(平均肉厚約5.3mm)を見いだした。肉厚測定に要した合計時間は約2時間であった。
【0022】
(実施例)
上記の比較例で見いだした領域41(図4(a))に、ドライアイスを入れた布袋をこすりつけて、鉄皮のその部分を急冷した。続いて、この急冷部分の温度の回復(上昇)の様子を赤外線熱画像装置で観測したところ、先の比較例で鉄皮の減肉が認められなかった正常箇所では温度の回復速度がおよそ3.3℃/minであったのに対し、比較例で鉄皮の減肉が認められた異常箇所42の温度の回復速度はおよそ1.3℃/minであり、回復速度に明らかな違いが認められた。温度の回復速度の観測により異常箇所を特定するのに要した時間はおよそ5分であった。
【0023】
この結果は、ドライアイスによる急冷を利用することにより、酸液による腐食に起因する酸洗槽鉄皮の異常箇所を、極めて短時間で、しかも酸洗槽の運転を止めることなく、突き止められることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】鋼板の表面酸化膜を除去する酸洗処理を説明する図である。
【図2】酸洗槽の断面構成を示す図である。
【図3】酸洗槽の鉄皮孔あき部を補修する従来技術を説明する図である。
【図4】比較例及び実施例で観測した鉄皮の減肉が疑われる領域と、特定された減肉部位を説明する模式図である。
【符号の説明】
【0025】
13 酸洗槽
21 鉄皮
22 耐酸ゴムライニング
23 レンガ
24 酸液
41 鉄皮の減肉が疑われる領域
42 特定された異常箇所
A 鉄皮孔あき部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オンラインの酸洗槽の鉄皮外面をドライアイスで冷却し、その表面温度の回復速度を観測して、他の部分より回復速度の速い部分を異常個所として特定することを特徴とする酸洗槽鉄皮の異常箇所特定方法。
【請求項2】
鉄皮の異常箇所の存在が疑われる領域を予め特定し、その領域をドライアイスで冷却することを特徴とする、請求項1記載の酸洗槽鉄皮の異常箇所特定方法。
【請求項3】
表面温度回復速度の観測を赤外線熱画像装置を使用して行うことを特徴とする、請求項1又は2記載の酸洗槽鉄皮の異常箇所特定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−266730(P2008−266730A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−111853(P2007−111853)
【出願日】平成19年4月20日(2007.4.20)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】