説明

酸洗浄用腐食抑制剤組成物

【課題】本発明の目的は、高濃度酸などによる過酷な酸洗条件下であっても、鉄鋼に対しては勿論、その他の金属に対しても極めて高い腐食抑制効果を示す酸洗浄用腐食抑制剤組成物、当該組成物を含む金属腐食抑制性酸洗浄液、および当該酸洗浄液を用いる金属の洗浄方法を提供することにある。
【解決手段】本発明に係る金属腐食抑制剤組成物は、ロジンアミン、および、無機リン酸塩または有機ホスホン酸塩の少なくとも1種を含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属表面の錆やスケールなどの酸化物皮膜を除去するための酸洗浄液に添加して金属自体の腐食を抑制するための組成物、当該金属腐食抑制剤組成物を含む酸洗浄液、および当該酸洗浄液を用いる金属の洗浄方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、金属表面に付着している錆やスケールなどの酸化皮膜を除去するために、無機酸や有機酸などが用いられてきた。これら酸は金属酸化物を溶解し、金属素地を露出させる。
【0003】
しかし、錆などの除去に酸のみを用いると、錆などにとどまらず金属素地にも腐食、水素脆性、孔食生成などの弊害をもたらす。そこで、かかる弊害を抑制ないし防止する目的で、アミン化合物、硫黄化合物、アセチレンアルコール類など様々な腐食抑制剤が併用されている。
【0004】
このような酸洗浄用腐食抑制剤のうちアミン化合物としては、例えば、特許文献1〜2に記載のものが知られている。その他、鉄鋼の酸洗浄に用いられる腐食抑制剤として、ハーキュレス社のロジンアミンDが市販されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−96272号公報
【特許文献2】特開2003−166089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、酸による金属の洗浄時に用いられる腐食抑制剤として、アミン化合物など様々なものが開発されている。
【0007】
しかし、アミン化合物を含む腐食抑制剤は鉄鋼の酸洗浄には効果的であるが、亜鉛や亜鉛合金、アルミニウム合金などに対する腐食抑制効果は高いものではない。また、鉄鋼の腐食抑制剤へ一般的に配合される界面活性剤である第四級アンモニウム塩も、亜鉛やアルミニウム、それらの合金に対する腐食抑制効果は全く十分ではない。
【0008】
一方、金属の種類によらず腐食を抑制できるものであれば洗浄すべき金属に応じて腐食抑制剤の組成を変更する必要は無く洗浄効率はより高まるので、そのような腐食抑制剤やそれを含む酸洗浄液の製品価値は極めて高い。
【0009】
そこで本発明の目的は、高濃度酸などによる過酷な酸洗条件下であっても、鉄鋼に対しては勿論、その他の金属に対しても極めて高い腐食抑制効果を示す酸洗浄用腐食抑制剤組成物、当該組成物を含む金属腐食抑制性酸洗浄液、および当該酸洗浄液を用いる金属の洗浄方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、ロジンアミンに加え、リン酸やホスホン酸自体ではなくその塩を併用すれば、金属一般に対して高い腐食抑制効果が得られることを見出して、本発明を完成した。
【0011】
本発明に係る金属腐食抑制剤組成物は、ロジンアミン、および、無機リン酸塩または有機ホスホン酸塩の少なくとも1種を含有することを特徴とする。
【0012】
ロジンアミンとしては、デヒドロアビエチルアミン、ジヒドロアビエチルアミン、テトラヒドロアビエチルアミン、およびこれらのアルキレンオキサイド付加物から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。また、有機ホスホン酸塩としては、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリメチレンホスホン酸、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)から選ばれる少なくとも1種の塩を挙げることができる。
【0013】
本発明に係る金属腐食抑制剤組成物としては、さらに、非イオン界面活性剤および/または分子内にポリアルキレンオキサイド部分を有するアミン化合物を含有するものが好ましい。ロジンアミンは酸溶液に溶解し難い場合があるところ、これらを配合することにより、ロジンアミンの酸溶液への溶解性が向上する。
【0014】
本発明に係る金属腐食抑制剤組成物は、塩酸、硫酸、リン酸、スルファミン酸の中から選択される少なくとも1種の水溶液中で使用することにより、金属表面の錆やスケールなどの酸化物を除去しつつ、金属自体を保護してその腐食を抑制できるという高い効果を示す。
【0015】
本発明に係る金属腐食抑制剤組成物の効果は、特にアルミニウム、亜鉛、およびこれら金属のうち少なくとも1種を含む合金に対して有効である。従来、鉄鋼の酸洗浄における腐食抑制剤組成物はよく研究されているが、上記金属に対する従来の腐食抑制剤組成物の腐食抑制効果は十分なものではなかった。それに対して本発明に係る金属腐食抑制剤組成物は、これら金属に対しても優れた腐食抑制効果を発揮することができる。
【0016】
本発明に係る金属腐食抑制性酸洗浄液は、上記金属腐食抑制剤を含有することを特徴とする。
【0017】
本発明に係る金属の洗浄方法は、上記金属腐食抑制性酸洗浄液を金属表面に吹き付けるか、または上記金属腐食抑制性酸洗浄液に金属を浸漬する工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る腐食抑制剤組成物を酸溶液に添加して金属を洗浄すれば、金属自体の腐食を抑制しつつ錆やスケールなどの酸化物の除去が可能になる。特に、従来、鉄鋼の酸洗浄に用いることができる腐食抑制剤は存在するものの、銅やアルミニウム、さらには酸性溶液中で腐食し易いマグネシウム、亜鉛、銅を多く含んだアルミニウム合金、また、亜鉛やこれを含む真鍮などの亜鉛合金の酸洗浄時の腐食までも有効に抑制できるものはなかった。それに対して本発明に係る腐食抑制剤組成物は、鉄鋼は勿論のこと、上記のアルミニウム合金などの腐食も効果的に抑制することができる。
【0019】
よって本発明は、酸洗浄の対象金属に応じて成分を調整する必要がなく、様々な金属の酸洗浄において効率的かつ有効に腐食を抑制できるものとして、産業上極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る金属腐食抑制剤組成物は、ロジンアミン、および、無機リン酸塩または有機ホスホン酸塩の少なくとも1種を含有することを特徴とする。
【0021】
ロジンアミンとは、マツ科植物から得られる樹脂油から揮発成分を除去した残留樹脂(ロジン)に含まれるアミン化合物であり、ロジンの主成分であるアビエチン酸のアミン誘導体である。具体的には、以下のデヒドロアビエチルアミン、ジヒドロアビエチルアミン、テトラヒドロアビエチルアミン、およびこれらのアルキレンオキサイド付加物から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。
【0022】
【化1】

【0023】
上記アルキレンオキサイド付加物とは、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、1,2−ブチレンオキサイド、イソブチレンオキサイドまたは2,3−ブチレンオキサイドが上記アミンのアミノ基に付加した化合物をいう。
【0024】
本発明において、ロジンアミンは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0025】
鉄鋼、銅、アルミニウムなどの金属に対してはロジンアミン単独でも腐食抑制効果が得られるが、特にマグネシウム、亜鉛、銅を多く含んだアルミニウム合金、亜鉛またはこれを含んだ合金に対する酸溶液中での腐食抑制効果は十分ではない。そこで本発明では、ロジンアミンに無機リン酸塩または有機ホスホン酸塩を添加し、これら金属に対する腐食抑制効果を顕著に改善せしめている。
【0026】
本発明に係る腐食抑制剤組成物に添加する無機リン酸塩は、式:HP(=O)(OH)2で表される無機リン酸の塩である。また、有機リン酸塩は、式:RP(=O)(OH)2(式中、Rは特定されない有機基を示す)で表される有機リン酸の塩である。
【0027】
有機リン酸塩としては、特に限定されないが、例えば、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリメチレンホスホン酸、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)から選ばれる少なくとも1種の塩を挙げることができる。
【0028】
無機リン酸の塩または有機ホスホン酸の塩としては、特に制限されないが、例えば、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩を挙げることができる。アルカリ金属塩を構成するアルカリ金属イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンを挙げることができる。また、アミン塩を構成するアミンとしては、特に制限されないが、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミンなどのアルカノールアミン;ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、2−アミノ−2−メチル−プロパノールアミンなどのアルカノールアルキルアミン;化学式:R1NH2(式中、R1は炭素数8以上、20以下の炭化水素基を示す)で表わされるモノアルキル1級アミン;化学式:R2NH(CH23NH2(式中、R2は炭素数5以上、17以下の炭化水素基を示す)で表わされるアルキルジアミノプロパンなどが挙げられる。
【0029】
無機リン酸塩および有機リン酸塩は、いずれか1種を単独で使用してもよいし、両者を併用してもよいし、それぞれ2種以上を混合して使用してもよい。
【0030】
本発明に係る腐食抑制剤組成物におけるロジンアミンと無機リン酸塩または有機ホスホン酸塩の割合は、特に制限されず適宜調整すればよいが、例えば、ロジンアミンに対する無機リン酸塩および有機ホスホン酸塩の合計量を1質量部以上、10質量部以下とすることができる。当該割合としては、3質量部以上が好ましく、4質量部以上がより好ましく、また、8質量部以下が好ましく、7質量部以下がより好ましく、5質量部以下がさらに好ましい。
【0031】
ロジンアミンを酸溶液中に添加すると経時的に濁りや不溶物を生じるなど安定性に欠けることがあるため、好ましくは金属腐食抑制剤組成物に非イオン界面活性剤および/または分子内にポリアルキレンオキサイド部分を有するアミン化合物を添加することが好ましい。これら成分を添加することにより、酸溶液中においてロジンアミンの溶解性が向上する。また、組成物の金属表面への浸透性を向上させる作用も有すると考えられる。さらに、これら自身が金属腐食抑制効果を示すこともあり得る。
【0032】
上記アミン化合物が有するアルキレンオキサイドとしては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、1,2−ブチレンオキサイド、イソブチレンオキサイドまたは2,3−ブチレンオキサイドなどのC2-4アルキレンオキサイドを挙げることができる。
【0033】
上記アミン化合物としては、例えば、化学式1で表わされるアミンポリアルキレンオキサイド付加物;
【0034】
【化2】

【0035】
(式中、R1は、炭素数8以上、20以下の飽和炭化水素基、炭素数8以上、20以下の不飽和炭化水素基、または炭素数8以上、20以下のアルカノイル基を示し;R3〜R6はそれぞれ独立して水素原子、メチル基またはエチル基を示し;x1とy1はそれぞれ独立して1以上、10以下の整数を示す)
および、化学式2で表わされるジアミンポリアルキレンオキサイド付加物などを挙げることができる。
【0036】
【化3】

(式中、R2は、炭素数5以上、30以下の飽和炭化水素基、炭素数5以上、30以下の不飽和炭化水素基、炭素数5以上、30以下のアルカノイル基、または−(CR78CR910O)z2H基を示し;R7〜R10はそれぞれ独立して水素原子、メチル基またはエチル基を示し;x2、y2およびz2はそれぞれ独立して1以上、10以下の整数を示し;w2は1以上、6以下の整数を示す)
【0037】
非イオン界面活性剤としては、例えば、ロジンエトキシレートや高級アルコールに酸化エチレンを付加重合させてなるポリオキシエチレンアルキルエーテルを挙げることができる。その具体例としては、特に制限されないが、例えばポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテルなどを挙げることができる。また、非イオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、脂肪酸ジエタノールアミド、脂肪酸ソルビタンエステル、脂肪酸ポリオキシエチレンソルビタンエステルなどを用いることも可能である。
【0038】
上記非イオン界面活性剤および上記アミン化合物は、いずれか1種を用いてもよいし、両者を併用してもよいし、それぞれ2種以上を混合して用いてもよい。特に上記アミン化合物は、2種以上の混合物を用いてもよい。
【0039】
本発明に係る腐食抑制剤組成物における上記非イオン界面活性剤および上記アミン化合物の割合は特に制限されず適宜調整すればよいが、例えば、ロジンアミンに対して0.1質量部以上、10質量部以下とすることができる。当該割合としては、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましく、また、5質量部以下が好ましく、4質量部以下がより好ましく、2質量部以下がさらに好ましい。
【0040】
本発明に係る金属腐食抑制剤組成物には、上記以外の成分を添加してもよい。例えば、溶媒、上記以外の界面活性剤、上記以外の金属腐食抑制剤などを配合することができる。
【0041】
溶媒としては、水の他、例えばロジンアミンの溶解性を向上するために水混和性有機溶媒を用いてもよい。かかる水混和性有機溶媒としては、例えば、メタノールやエタノールなどのアルコール溶媒;テトラヒドロフランやジエチレングリコールモノブチルエーテルなどのエーテル溶媒;ジメチルホルムアミドやジメチルアセトアミドなどのアミド溶媒;ジメチルスルホキシドなどを挙げることができる。
【0042】
上記以外の金属腐食抑制剤は特に制限されないが、例えば、他の腐食抑制剤と併用しても良い。併用する他の腐食抑制剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、イミダゾール類などの複素環窒素化合物;繊維の柔軟仕上げ剤やシャンプーリンス剤として使用され人体の安全性が比較的良好な4級カチオン剤;アルキルアミン、ポリアミン、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、エチレンジアミンエチレンオキサイド/プロピレンオキサイド付加物(旭電化社製のプルロニックTRシリーズ)、ケイ皮アルデヒド、ヒダントイン、5,5−ジメチルヒダントイン、アラントイン、グリオキシル酸や、亜リン酸、次亜リン酸、ジエチルヒドロキシアミン、L−ソルビン酸、L−アスコルビン酸などの還元剤などが挙げられる。
【0043】
上記のその他の腐食抑制剤の割合は特に制限されず適宜調整すればよいが、例えば、ロジンアミンに対して0.1質量部以上、10質量部以下とすることができる。当該割合としては、0.2質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましく、また、5質量部以下が好ましく、3質量部以下がより好ましく、2質量部以下がさらに好ましい。
【0044】
本発明に係る金属腐食抑制剤組成物の製造方法は特に制限されず、上記成分を単に混合するのみでもよいし、上記成分を溶解可能な程度の溶媒に溶解して高濃度溶液としておき、使用時に適度に希釈してもよい。混合や溶解の順番は特に制限されず、溶媒に全ての上記成分を添加するのみでもよいし、順番に、また、少量ずつ添加していってもよい。溶解を促進するために、加熱してもよい。
【0045】
本発明に係る金属腐食抑制剤組成物は、金属を洗浄するための酸溶液に添加することによって、金属自体の腐食を抑制することができる。
【0046】
金属洗浄用の酸溶液における金属腐食抑制剤組成物の含有割合は適宜調整すればよいが、例えば、酸を含む洗浄剤全体に対する割合でロジンアミンが0.001質量%以上、10質量部以下となるように配合することができる。当該割合が0.001質量%以上であれば、より確実に金属の腐食抑制効果が発揮される。一方、当該割合が10質量%を超えると金属の腐食抑制効果が飽和してコストの問題が生じるので、当該割合としては10質量%以下が好ましい。当該割合としては、0.01質量%以上がより好ましく、また、1質量%以下がより好ましい。
【0047】
金属を洗浄すべき酸洗浄剤に添加すべき酸は、洗浄対象である金属の表面酸化物を溶解できるものであれば特に制限されないが、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、スルファミン酸などの無機酸を挙げることができる。また、これら無機酸に加えて、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フタル酸、マレイン酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸などの有機酸を併用してもよい。本発明に係る酸洗浄液に添加する酸の濃度は適宜調整すればよいが、例えば、5質量%以上、30質量%以下程度とすることができる。
【0048】
本発明に係る金属腐食抑制性酸洗浄液は、通常の金属洗浄液と同様に用いることができる。例えば、本発明の金属腐食抑制性酸洗浄剤を洗浄すべき金属の表面に吹き付けてもよいし、本発明の金属腐食抑制性酸洗浄剤に洗浄すべき金属を浸漬してもよい。
【0049】
通常、強い酸を用いて金属を洗浄する場合には、金属自体も腐食されてしまう。洗浄すべき金属が鉄鋼である場合には、かかる腐食を抑制しつつ洗浄するための洗浄剤がよく研究されているが、特に酸に腐食され易いマグネシウムや亜鉛を多く含んだアルミニウム合金、亜鉛、亜鉛合金などに対しても十分な腐食抑制効果を示す洗浄剤は開発されていない。それに対して本発明に係る金属腐食抑制剤組成物は、上記合金などに対しても優れた腐食抑制効果を示すため、これを含む酸洗浄剤によれば、腐食を抑制しつつ金属全般を効率的に洗浄することが可能になる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0051】
製造例1 酸洗浄用金属腐食抑制剤組成物の製造
表1に示す配合割合(質量%)でイオン交換水に各成分を溶解し、実施例1〜5および比較例1〜8の酸洗浄用金属腐食抑制剤組成物を調製した。なお、ロジンアミンとしては理化ファインテク社製のC−RAMを用い、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとしては、三洋化成工業社製のナロアクティCL−95を用いた。
【0052】
【表1】

【0053】
製造例2 金属腐食抑制性酸洗浄液の製造
上記実施例1〜5および比較例1〜8の酸洗浄用金属腐食抑制剤組成物を2質量%の割合で10%塩酸に添加して金属腐食抑制性酸洗浄液を150mL調製した。
【0054】
試験例1
得られた各洗浄液を容量200mLのガラス瓶に入れ、温度を20℃に調整した。
【0055】
別途、金属試験片として、#240エメリーペーパーで研磨・脱脂処理したJIS G 3141 SPCC鋼板、JIS G 3101 SS−400鋼板、#320耐水性エメリーペーパーで研磨・脱脂処理した銅版JIS H 3100 C1100P、亜鉛板、アルミニウム板JIS H 4000 A1050P、JIS H 4000 A5052P(Mg:2.2〜2.8%)、JIS H 4000 A5083P(Mg:4.0〜4.9%)を準備した。金属試験片の寸法は、60×40×1.0mm(表面積:50cm2)とし、事前に質量を測定した。
【0056】
これら各金属試験片を各洗浄液に30分間浸漬した。次いで、イオン交換水でよく洗浄してから乾燥した後、質量を測定した。浸漬処理前後における金属試験片の質量差を求め、表面積に対する腐食量を算出した。結果を表2に示す。
【0057】
【表2】

【0058】
上記結果のとおり、腐食抑制剤を含まない比較例1の洗浄剤を用いた場合では金属全般に腐食が起こり、特に亜鉛やアルミニウムでの腐食程度が大きかった。
【0059】
比較例2〜3は、腐食抑制剤としてロジンアミンのみを含む洗浄液の例である。かかる洗浄液は、SPCC鋼板とSS−400鋼板のみならず、銅や純アルミニウムに対しても高い腐食抑制効果を示した。しかし、マグネシウムを多く含んだアルミニウム合金(A5083P)や亜鉛板に対する腐食抑制効果は全く十分ではなかった。
【0060】
比較例4は、ロジンアミンに加え、実施例1〜3でも使用したアミノトリメチレンホスホン酸を中和無しで用いた例であり、比較例5は、ロジンアミンに加え、実施例3〜4で用いた有機ホスホン酸のオクチルアミン塩の代わりにクエン酸のオクチルアミン塩を用いた例である。これらも、亜鉛板やアルミニウム合金に対する腐食抑制効果は乏しかった。
【0061】
比較例6〜8は、鉄系腐食抑制剤として一般的に用いられる4級アンモニウム塩の塩化ベンザルコニウムや1−ドデシル−2−メチル−3−ベンジルイミダゾリウムクロライド、Β−アラニン型両性界面活性剤を添加した例である。これらは、やはり鋼板や銅に対して腐食抑制効果を示したが、その他の金属に対する腐食抑制効果は低いものであった。
【0062】
上記比較例に対して、ロジンアミンと共に有機ホスホン酸塩を含む本発明に係る実施例1〜5を用いた場合には、鉄鋼は勿論のこと、酸に腐食され易い亜鉛、アルミニウム、また、マグネシウムを含むアルミニウム合金に対しても優れた腐食抑制効果を示すことが実証された。なお、ロジンアミンと併用する別の腐食抑制剤成分として、実施例1ではアミノトリメチレンホスホン酸(ATMP)のナトリウム塩、実施例2ではATMPのトリエタノールアミン塩、実施例3ではATMPのオクチルアミン塩、実施例4では1−ヒドロキシエチリデン1,1−ジホスホン酸(HEDP)のオクチルアミン塩、実施例5ではリン酸のオクチルアミン塩を添加した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロジンアミン、および、無機リン酸塩または有機ホスホン酸塩の少なくとも1種を含有することを特徴とする金属腐食抑制剤組成物。
【請求項2】
ロジンアミンが、デヒドロアビエチルアミン、ジヒドロアビエチルアミン、テトラヒドロアビエチルアミン、およびこれらのアルキレンオキサイド付加物から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の金属腐食抑制剤組成物。
【請求項3】
有機ホスホン酸塩が、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリメチレンホスホン酸、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)から選ばれる少なくとも1種の塩である請求項1または2に記載の金属腐食抑制剤組成物。
【請求項4】
さらに、非イオン界面活性剤を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の金属腐食抑制剤組成物。
【請求項5】
さらに、分子内にポリアルキレンオキサイド部分を有するアミン化合物を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の金属腐食抑制剤組成物。
【請求項6】
塩酸、硫酸、リン酸、スルファミン酸の中から選択される少なくとも1種の水溶液中で使用される請求項1〜5のいずれかに記載の金属腐食抑制剤組成物。
【請求項7】
対象金属が、アルミニウム、亜鉛、または、これら金属のうち少なくとも1種を含む合金であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の金属腐食抑制剤組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の金属腐食抑制剤組成物および酸を含有することを特徴とする金属腐食抑制性酸洗浄液。
【請求項9】
請求項8に記載の金属腐食抑制性酸洗浄液を金属表面に吹き付けるか、または請求項8に記載の金属腐食抑制性酸洗浄液に金属を浸漬する工程を含むことを特徴とする金属の洗浄方法。

【公開番号】特開2013−1963(P2013−1963A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134487(P2011−134487)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(596148629)中部キレスト株式会社 (31)
【出願人】(592211194)キレスト株式会社 (30)
【Fターム(参考)】