説明

酸濃度計測装置

【課題】酸を含む溶液の酸濃度の計測精度を向上させること。
【解決手段】酸濃度計測装置100aは、計測対象溶液Lが通過する配管1に接続されて、計測対象溶液Lを分岐させる分岐管21と、分岐管21に設けられる入口側弁装置22と、分岐管21に接続されて、計測対象溶液Lを一時的に溜めておく溶液槽23と、溶液槽23と配管1の分岐管21よりも下流とを接続して、溶液槽23内の計測対象溶液Lを配管1内に戻す溶液戻し管24と、溶液戻し管24に設けられる出口側弁装置25と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液の酸濃度を計測することに関する。
【背景技術】
【0002】
核燃料再処理施設においては、一般に原子力発電プラントから回収したリサイクル燃料を硝酸溶液で溶解し、U(ウラン)あるいはプルトニウム(Pu)等の有用物質を分離してから回収する。前記有用物質を分離する工程及び回収する工程は、各種の化学反応に基づくプロセスに基づいており、前記化学反応を安全に進行させるため、各工程でチェックを行うこととしている。具体的には、各工程のチェックポイントで処理溶液をサンプリングし、サンプリングした処理溶液の試料を分析施設へ移送して試料分析を行う。そして、その分析結果に基づいてプロセスを管理している。例えば、特許文献1には、予め溶液のウラン、プルトニウム濃度を変動パラメータとする該溶液の酸濃度と該溶液中での超音波伝搬速度との相関を求めておいて、再処理工程液中での超音波伝搬速度を測定し、ボルタンメトリーでインライン測定した該再処理工程液のウラン、プルトニウム濃度を用いて、そのウラン、プルトニウム濃度における酸濃度と超音波伝搬速度との相関から酸濃度をインラインで測定するインライン酸濃度測定方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−239289号公報(段落0007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
溶液の酸濃度を計測する場合、溶液中に気泡が含まれたり、溶液に流れがあったりすると、酸濃度の計測精度が低下する。特許文献1は、この点について考慮されておらず、酸濃度の計測精度の向上には改善の余地がある。本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、酸濃度の計測精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、計測対象溶液が通過する配管に接続されて、前記計測対象溶液を分岐させる分岐管と、前記分岐管に設けられる入口側弁装置と、前記分岐管に接続されて、前記計測対象溶液を一時的に溜めておくとともに、前記計測対象溶液の酸濃度を計測するための計測手段の検出部が内部に配置される溶液槽と、前記溶液槽と前記配管の前記分岐管よりも下流とを接続して、前記溶液槽内の前記計測対象溶液を前記配管内に戻す溶液戻し管と、前記溶液戻し管に設けられる出口側弁装置と、を含むことを特徴とする酸濃度計測装置である。
【0006】
配管内を流れる計測対象溶液は、気泡及び流れに起因する酸濃度の不均一があるため、これをそのまま計測すると酸濃度の計測精度が低下する。この酸濃度計測装置は、配管内を流れる計測対象溶液を抜き出して溶液槽に導き、溶液槽内の計測対象溶液の酸濃度に関する指標を計測する。このため、計測手段によって計測される計測対象溶液は、配管内の計測対象溶液の影響を受けないので、配管内を流れる計測対象溶液の気泡及び流れに起因する計測精度を向上させることができる。
【0007】
本発明の望ましい態様として、さらに、前記溶液槽内の前記計測対象溶液を撹拌する撹拌手段を有することが好ましい。溶液槽内の計測対象溶液を撹拌することにより、計測対象溶液に含まれる気泡を除去できるとともに、計測対象溶液の酸濃度の分布を一様にすることができる。その結果、この酸濃度計測装置は、酸濃度の計測精度をさらに向上させることができる。
【0008】
本発明の望ましい態様として、さらに、計測対象溶液の酸濃度に関する指標を計測する複数の計測手段と、予め求めた、前記計測対象溶液の酸濃度に対する複数の前記酸濃度に関する指標の関係式に、それぞれの前記計測手段が計測した前記酸濃度に関する指標を与えて、前記計測対象溶液の酸濃度を求める酸濃度演算手段と、を含み、前記溶液槽の内部には、それぞれの前記計測手段の検出部が配置されることが好ましい。
【0009】
この酸濃度計測装置は、例えば、多変量解析により計測対象溶液の酸濃度と複数の酸濃度に関する指標との関係式を予め求めておく。そして、酸濃度計測装置は、複数の前記計測手段が計測した計測対象溶液の酸濃度に関する指標を用いて、計測対象溶液の酸濃度を求める。このように、この酸濃度計測装置は、前記関係式に酸濃度に関する指標を入力するのみで酸濃度を求めることができるので、迅速かつ簡易に酸濃度を求めることができる。また、この酸濃度計測装置は、複数の計測手段の計測結果から計測対象溶液の酸濃度を求めるので、酸濃度の計測精度を向上させることができる。なお、計測精度の向上という観点からは、計測手段を3以上とすることが好ましい。
【0010】
本発明の望ましい態様として、複数の前記計測手段のうち一つは、前記計測対象溶液中に存在する放射性元素の吸収スペクトルから、前記酸濃度に関する指標として前記放射性元素の濃度を求め、他の1つは、ボルタンメトリー装置により前記酸濃度に関する指標として前記放射性元素の濃度を求めることが好ましい。計測原理の異なる複数の計測手段を組み合わせることにより、1つの計測手段がある誤差要因によって計測精度に影響を受けても、他の計測手段は前記誤差要因によっては計測精度に影響を受けないようにすることができる。このように、この酸濃度計測装置は、ある誤差要因が計測精度に与える影響を分散させることができる。その結果、この酸濃度計測装置は、計測精度をより効果的に向上させることができる。
【0011】
本発明の望ましい態様として、さらに、計測対象溶液の電気伝導度を前記計測対象溶液の酸濃度に関する指標として計測する第1の計測手段と、ボルタンメトリー装置により前記計測対象溶液中に存在する放射性元素の濃度を、前記酸濃度に関する指標として計測する第2の計測手段と、アンペロメトリー装置、クーロメトリー装置、吸光スペクトル計測装置、粘度計測装置、蛍光スペクトル計測装置、ラマンスペクトル計測装置、比熱計測装置、密度計測装置から選択される少なくとも1つにより、前記酸濃度に関する指標を計測する第3の計測手段と、予め求めた前記計測対象溶液の酸濃度に対する、前記電気伝導度及び前記放射性元素の濃度及び前記酸濃度に関する指標の関係式に、前記第1の計測手段が計測した電気伝導度と、前記第2の計測手段が計測した放射性元素の濃度と、前記第3の計測手段が計測した前記酸濃度に関する指標とを与えて、前記計測対象溶液の酸濃度を求める酸濃度演算手段と、を含み、前記溶液槽の内部には、前記第1の計測手段の検出部と、前記第2の計測手段の検出部と、前記第3の計測手段の検出部とが配置されることが好ましい。
【0012】
この酸濃度計測装置は、例えば、多変量解析により計測対象溶液の酸濃度と複数の酸濃度に関する指標との関係式を予め求めておく。そして、酸濃度計測装置は、第1、第2、第3の計測手段が計測した計測対象溶液の酸濃度に関する指標を用いて、計測対象溶液の酸濃度を求める。このように、この酸濃度計測装置は、前記関係式に酸濃度に関する指標を入力するのみで酸濃度を求めることができるので、迅速かつ簡易に酸濃度を求めることができる。また、この酸濃度計測装置は、複数の計測手段の計測結果から計測対象溶液の酸濃度を求めるので、酸濃度の計測精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、酸濃度の計測精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本実施形態に係る酸濃度計測装置の装置構成を示す模式図である。
【図2】図2は、溶液の酸濃度を計測する計測手段が有する検出部の一例を示す斜視図である。
【図3】図3は、本実施形態に係る酸濃度計測装置が計測対象溶液の酸濃度を求める手法を説明するための図である。
【図4】図4は、本実施形態の変形例に係る酸濃度計測装置の装置構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。以下においては、原子力発電プラントから回収したリサイクル燃料を硝酸溶液で溶解し、U(ウラン)あるいはプルトニウム(Pu)等の有用物質を分離してから回収する、いわゆる核燃料の再処理に本発明を適用した例を説明する。本発明は、これに限定されるものではなく、溶液中に含まれる酸の濃度を計測する場合に適用できる。
【0016】
図1は、本実施形態に係る酸濃度計測装置の装置構成を示す模式図である。図2は、溶液の酸濃度を計測する計測手段が有する検出部の一例を示す斜視図である。酸濃度計測装置100は、核燃料の再処理工程中において、計測対象溶液L中の酸濃度を計測する装置である。酸濃度計測装置100は、複数の計測手段(本実施形態では、第1の計測手段5、第2の計測手段6、第3の計測手段7)と、酸濃度演算手段としての演算装置10と、を含む。
【0017】
核燃料の再処理工程において、リサイクル燃料を溶解した硝酸溶液は、計測対象溶液Lとして、配管1内を流れる。計測対象溶液Lは、配管1内を図1の矢印Fで示す方向に流れる(以下の例でも同様)。本実施形態において、配管1は、一部に孔1Hを有している。配管1の外側における孔1Hの開口部には、フランジ2が設けられている。フランジ2には、前記複数の計測手段のそれぞれの計測部を一体にした検出部集合体3が取り付けられる。図2に示すように、検出部集合体3は、検出部5P、6P、7Pと、取付部材4とを有している。検出部集合体3の取付部材4が配管1のフランジ2に取り付けられて、検出部5P、6P、7Pが孔1Hを通って配管1の内部の計測対象溶液Lと接触する。このような検出部集合体3を用いることにより、それぞれの検出部5P、6P、7Pを別個に配管1へ取り付ける必要がないので、検出部5P、6P、7Pの取り扱いが容易になる。
【0018】
前記計測手段は、計測対象溶液Lの酸濃度に関する指標を計測する。酸濃度に関する指標(以下、必要に応じて酸濃度指標という)とは、計測対象溶液Lの酸濃度と対応関係を有しており、酸濃度に変換することができる特性値である。例えば、酸濃度指標は、計測対象溶液Lの酸濃度そのものの他、計測対象溶液Lの電気伝導度、吸光スペクトル、計測対象溶液Lに含まれる放射性元素(U、Pu、Am、Pr、Np等)等がある。
【0019】
前記複数の計測手段としての第1の計測手段5、第2の計測手段6、第3の計測手段7は、それぞれ、電気伝導時計、ボルタンメトリー装置、吸光スペクトル計測装置である。第3の計測手段7は、吸光スペクトル計測装置に限定されるものではなく、アンペロメトリー装置、クーロメトリー装置、吸光スペクトル計測装置、粘度計測装置、蛍光スペクトル計測装置、ラマンスペクトル計測装置、比熱計測装置、密度計測装置から選択される少なくとも1つであればよい。また、前記計測手段は、2以上あればよい。
【0020】
第1の計測手段5は、検出部5Pと信号処理部5Cとを有し、第2の計測手段6は、検出部6Pと信号処理部6Cとを有し、第3の計測手段7は、検出部7Pと信号処理部7Cとを有する。それぞれの検出部5P、6P、7Pは、計測対象溶液Lに接触している。それぞれの検出部5P、6P、7Pは、電極あるいはセンサ等である。検出部5Pは、計測対象溶液Lの電気伝導度を検出し、検出部6Pは、計測対象溶液Lの固有のエネルギー(電位)における反応量(電流)を検出し、検出部7Pは、計測対象溶液Lの吸光スペクトルを検出する。そして、検出部5P、6P、7Pは、検出した情報を、それぞれ電気信号の形で信号処理部5C、6C、7Cに出力する。信号処理部5C、6C、7Cは、取得した電気信号を増幅したり演算装置10が取り扱うことのできる形に変換したりしてから、演算装置10に出力する。第1の計測手段5、第2の計測手段6、第3の計測手段7が計測した情報が、酸濃度指標である。
【0021】
演算装置10は、第1の計測手段5、第2の計測手段6、第3の計測手段7が計測した酸濃度指標から、計測対象溶液Lの酸濃度を求める。演算装置10は、例えば、コンピュータであり、入出力部13と、処理部11と、記憶部12とを備える。演算装置10は、いわゆるパーソナルコンピュータを利用してもよいし、CPU(Central Processing Unit)とメモリとを組み合わせてもよい。
【0022】
第1の計測手段5の信号処理部5C、第2の計測手段6の信号処理部6C、第3の計測手段7の信号処理部7Cの出力(酸濃度指標)は、演算装置10の入出力部13に入力される。なお、演算装置10の入出力部13には、第1〜第3の計測手段5、6、7の信号処理部5C、6C、7Cの他に、表示手段であるディスプレイ15が接続される。演算装置10が求めた計測対象溶液Lの酸濃度は、必要に応じてディスプレイ15に表示される。
【0023】
酸濃度指標は、電気信号の形で演算装置10の入出力部13へ送られる。処理部11は、入出力部13から酸濃度指標を取得し、酸濃度指標に基づき、計測対象溶液Lの酸濃度を求める。処理部11は、例えば、CPUであり、記憶部12上に存在するプログラム(コンピュータプログラム)と呼ぶ命令列を順に読み込み、解釈し、その結果に従ってデータを移動したり加工したりする。
【0024】
なお、処理部11は、専用のハードウェアによって実現されるものであってもよい。また、処理部11の機能を実現するためのコンピュータプログラムをコンピュータが読み取り可能な記録媒体に記録し、この記録媒体に記録されたコンピュータプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより本実施形態に係るプラント状態監視方法の処理手順を実行してもよい。ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器などのハードウェアを含むものとする。
【0025】
「コンピュータが読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROMなどの可搬媒体、あるいはコンピュータシステムに内蔵されるハードディスクのような記録装置のことをいう。さらに、「コンピュータが読み取り可能な記録媒体」とは、インターネットや電話回線等の通信回線を介してコンピュータプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にコンピュータプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間コンピュータプログラムを保持しているものを含むものとする。また、上記コンピュータプログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているコンピュータプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
【0026】
本実施形態において、計測対象溶液Lの酸濃度を計測する方法(酸濃度計測方法)は、予め用意されたコンピュータプログラムをパーソナルコンピュータやワークステーションなどのコンピュータで実行することによって実現できる。このコンピュータプログラムは、インターネット等の通信回線を介して配布することができる。また、このコンピュータプログラムは、ハードディスク、フレキシブルディスク(FD)、CD−ROM、MO、DVD等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録され、コンピュータによって前記記録媒体から読み出されることによって実行されるようにしてもよい。
【0027】
処理部11は、予め求めた、計測対象溶液Lの酸濃度に対する複数の酸濃度指標の関係に、それぞれの計測手段が計測した酸濃度指標を与えて、計測対象溶液Lの酸濃度を求める。本実施形態では、予め求めた計測対象溶液Lの酸濃度に対する、電気伝導度及び放射性元素の濃度及び酸濃度指標の関係に、第1の計測手段5が計測した電気伝導度と、第2の計測手段6が計測した放射性元素の濃度と、第3の計測手段7が計測した酸濃度に関する指標とを与えて、計測対象溶液Lの酸濃度を求める。
【0028】
演算装置10の記憶部12は、例えば、RAM(Random Access Memory)のような揮発性のメモリ、ROM(Read Only Memory)のような不揮発性のメモリ、ハードディスク装置、光磁気ディスク装置、CD−ROM等のような読み出しのみが可能な記憶媒体、あるいはこれらを組み合わせて構成することができる。記憶部12には、本実施形態に係る酸濃度計測方法を実現するためのコンピュータプログラム及びデータ等が格納されている。処理部11は、これらのコンピュータプログラム及びデータ等を用いて、本実施形態に係る酸濃度計測方法を実行する。次に、演算装置10が、複数の計測手段が求めた酸濃度指標から計測対象溶液Lの酸濃度を求める手法を説明する。
【0029】
図3は、本実施形態に係る酸濃度計測装置が計測対象溶液の酸濃度を求める手法を説明するための図である。演算装置10は、計測対象溶液Lの酸濃度を求めるにあたって、複数の計測手段(本実施形態では第1、第2、第3の計測手段5、6、7)から酸濃度指標を取得する。第1の計測手段5は、酸濃度指標として計測対象溶液Lの電気伝導度xaを計測する。電気伝導度は抵抗の逆数であり、希薄溶液では電気伝導度はイオン濃度と比例関係にある。そのため、酸濃度は、計測対象溶液の溶質の濃度(溶質濃度)、電気伝導度及び計測対象溶液の温度の3変数関数として表される。これを利用して、計測対象溶液Lの電気伝導度から計測対象溶液Lの酸濃度を求めることができる。
【0030】
第2の計測手段6は、酸濃度指標として計測対象溶液Lに含まれる放射性元素(本実施形態ではU及びPu)の濃度xb、xcをボルタンメトリー法により計測する。ボルタンメトリー法は、計測対象溶液Lに含まれる放射性元素(本実施形態ではU、Pu)の各々固有の酸化還元電位において放射性元素の量に依存する電流値を計測することにより、計測対象溶液Lに含まれる放射性元素の量(又は濃度)を求める方法である。第3の計測手段7は、酸濃度指標として計測対象溶液Lに含まれる放射性元素(本実施形態ではU及びPu)の吸光スペクトルを計測する。前記吸光スペクトルと計測対象溶液Lに含まれる放射性元素の種類及び濃度とは互いに相関があるので、前記吸光スペクトルから、計測対象溶液Lに含まれる放射性元素の種類及び濃度を求めることができる。演算装置10は、前記吸光スペクトルを取得し、計測対象溶液Lに含まれるU及びPuの濃度xd、xeに変換する。なお、第3の計測手段7は、計測した前記吸光スペクトルを計測対象溶液Lに含まれるU及びPuに変換してから演算装置10に出力してもよい。
【0031】
計測対象溶液Lの酸濃度を求めるにあたり、まず、既知の酸濃度D1、D2、・・・Dn(nは自然数、以下同様)と、既知の酸濃度D1、D2、・・・Dnに対する電気伝導度xa、濃度xb、xc、xd、xeとを求める。電気伝導度xa、濃度xb、xc、xd、xeは、酸濃度指標である。濃度xb、xcは、第2の計測手段6がボルタンメトリー法によって求めた、計測対象溶液L中の放射性元素(本実施形態では、U及びPu)の濃度である。濃度xd、xeは、第3の計測手段7が計測した吸光スペクトルに基づいて求められた、計測対象溶液L中の放射性元素(本実施形態では、U及びPu)の濃度である。
【0032】
既知の酸濃度D1、D2、・・・Dnと、酸濃度指標xa、xb、xc、xd、xeとの対応関係は、図3に示すようになる。この対応関係から、多変量解析により計測対象溶液Lの酸濃度Dと酸濃度指標xa、xb、xc、xd、xeとの関係式(式(1)参照)を求める。式(1)のa、b、c、d、e、α、β、γ、δ、εは定数である。
D=a×xaα+b×xbβ+c×xcγ+d×xdδ+e×xeε・・・(1)
【0033】
演算装置10の記憶部12は、上述のようにして求めた酸濃度Dと酸濃度指標xa、xb、xc、xd、xeとの関係式(酸濃度算出手段)を保存する。本実施形態において、計測対象溶液Lの酸濃度を求めるにあたり、演算装置10の処理部11は、第1、第2、第3の計測手段5、6、7から酸濃度指標xa、xb、xc、xd、xeを取得する。次に、処理部11は、記憶部12から前記酸濃度算出手段を読み出す。そして、処理部11は、取得した酸濃度指標xa、xb、xc、xd、xeを前記酸濃度算出手段に与え、酸濃度Dを求める。この酸濃度Dが、計測対象溶液Lの酸濃度Dである。処理部11は、求めた酸濃度Dを記憶部12に保存したり、図1に示すディスプレイ15に表示したりする。
【0034】
本実施形態は、計測対象溶液Lの酸濃度と複数の酸濃度指標との関係式(酸濃度算出手段)を予め求めておき、前記複数の酸濃度指標を計測する複数の計測手段が計測した計測対象溶液Lの酸濃度指標を用いて、計測対象溶液Lの酸濃度Dを求める。このように、複数の計測手段の計測結果から計測対象溶液Lの酸濃度Dを求めるので、酸濃度Dの計測精度を向上させることができる。
【0035】
また、本実施形態では、計測原理の異なる複数の計測手段を組み合わせることにより、ある誤差要因(例えば、イオン強度の分布等)が計測精度に与える影響を分散させることができる。例えば、ボルタンメトリー装置は、計測対象溶液Lのイオン強度等の影響により、放射性元素の濃度の計測精度が影響を受けるが、吸光スペクトル計測装置による放射性元素の濃度計測は、計測対象溶液Lのイオン強度等による影響をほとんど受けない。このため、ボルタンメトリー装置と吸光スペクトル計測装置とを組み合わせて計測対象溶液Lに含まれる放射性元素の濃度を計測することにより、計測精度をより効果的に向上させることができる。
【0036】
(変形例)
図4は、本実施形態の変形例に係る酸濃度計測装置の装置構成を示す模式図である。酸濃度計測装置100aは、演算装置10に加え、複数の計測手段が計測対象溶液Lを計測するために配管1内を流れる計測対象溶液Lを取り出す溶液取り出し部20を有する。溶液取り出し部20は、分岐管21と、入口側弁装置22と、溶液槽23と、溶液戻し管24と、出口側弁装置25と、を含む。
【0037】
分岐管21は、計測対象溶液Lが通過する配管1に接続されて、計測対象溶液Lを分岐させる。分岐管21は、配管1の内壁面1iに開口する開口部21hから、配管1内の計測対象溶液Lが流入する。入口側弁装置22は、分岐管21に設けられる。溶液槽23は、分岐管21に接続されて、配管1から分岐され、内部23Iに導入された計測対象溶液Lを一時的に溜めておくとともに、複数の計測手段の検出部が内部23Iに配置される。本実施形態では、第1の計測手段5の検出部5Pと、第2の計測手段6の検出部6Pと、第3の計測手段7の検出部7Pとが内部23Iに配置される。なお、単独の計測手段を用いて計測対象溶液Lの酸濃度を求める場合、溶液槽23内に配置される検出部は、単数であってもよい。
【0038】
溶液戻し管24は、溶液槽23と配管1の分岐管21よりも下流とを接続して、溶液槽23内の計測対象溶液Lを配管1内に戻す。出口側弁装置25は、溶液戻し管24に設けられる。溶液戻し管24は、配管1の内壁面1iに開口する開口部24hから、溶液槽23内の計測対象溶液Lが配管1の内部へ流入する。入口側弁装置22及び出口側弁装置25は、いずれも酸濃度計測装置100aが有する演算装置10によってそれぞれの動作が制御される。
【0039】
酸濃度計測装置100aが計測対象溶液Lの酸濃度Dを計測しない場合、演算装置10の処理部11は、入口側弁装置22及び出口側弁装置25を開いておく。このようにすることで、配管1内の計測対象溶液Lは、分岐管21を通って溶液槽23に流入し、溶液槽23の内部23Iを通って溶液戻し管24から配管1内へ戻される。酸濃度計測装置100aが計測対象溶液Lの酸濃度Dを計測する場合、処理部11は、入口側弁装置22及び出口側弁装置25を閉じる。酸濃度計測装置100aが計測対象溶液Lの酸濃度Dを計測しない場合に入口側弁装置22及び出口側弁装置25を開いておくことで、溶液槽23の内部23Iには、配管1内を流れる計測対象溶液Lが流入することになる。このため、計測対象溶液Lの酸濃度Dを計測する場合、入口側弁装置22及び出口側弁装置25を閉じるだけでよいので、計測の準備にはほとんど時間を要さない。なお、本実施形態においては、酸濃度計測装置100aが計測対象溶液Lの酸濃度Dを計測しない場合に入口側弁装置22及び出口側弁装置25を閉じておき、計測時に両者を開いて溶液槽23に計測対象溶液Lを導入した後、両者を閉じるようにしてもよい。
【0040】
入口側弁装置22及び出口側弁装置25が閉じられた後、溶液槽23内の計測対象溶液Lが静定したら、処理部11は、第1、第2、第3の計測手段5、6、7から、それぞれの検出部5P、6P、7Pが検出した酸濃度指標を取得する。処理部11は、例えば、入口側弁装置22及び出口側弁装置25を閉じた後、所定の時間が経過してから、酸濃度指標を取得することにより、溶液槽23内の計測対象溶液Lが静定した状態で酸濃度指標を取得することができる。また、処理部11は、取得した酸濃度指標のばらつきが予め定めた所定の範囲内になった後に取得した酸濃度指標を用いて、計測対象溶液Lの酸濃度Dを求めてもよい。
【0041】
このようにすることで、計測対象溶液Lの気泡及び流れに起因する計測精度の低下を抑制することができる。酸濃度指標を取得した処理部11は、上述した手法により、複数の酸濃度指標から計測対象溶液Lの酸濃度Dを求める。酸濃度Dが求められたら、処理部11は、入口側弁装置22及び出口側弁装置25を開く。このように、酸濃度計測装置100aは、計測対象溶液Lの酸濃度Dを計測するにあたり、溶液取り出し部20の溶液槽23に計測対象溶液Lを導くことにより、計測対象溶液Lの気泡及び流れの影響を低減することができるので、酸濃度Dの計測精度を向上させることができる。
【0042】
本変形例において、酸濃度計測装置100aは、溶液槽23内の計測対象溶液Lを撹拌する撹拌手段26を有していてもよい。撹拌手段26は、撹拌羽根26Fと、撹拌羽根26Fを回転させる駆動手段(例えば、電動機)26Dとを有する。撹拌手段26は、演算装置10によってその動作が制御される。酸濃度計測装置100aが撹拌手段26を有する場合、演算装置10の処理部11は、入口側弁装置22及び出口側弁装置25を閉じた後、撹拌手段26を動作させて溶液槽23内の計測対象溶液Lを撹拌しながら、第1、第2、第3の計測手段5、6、7から酸濃度指標を取得する。このように、計測対象溶液Lを撹拌することにより、計測対象溶液Lに含まれる気泡を除去できるとともに、計測対象溶液Lの酸濃度の分布を一様にすることができる。その結果、撹拌手段26を有する酸濃度計測装置100aは、酸濃度Dの計測精度をさらに向上させることができる。
【符号の説明】
【0043】
1 配管
1H 孔
1i 内壁面
2 フランジ
3 検出部集合体
4 取付部材
5 第1の計測手段
6 第2の計測手段5P 検出部
7 第3の計測手段
5C、6C、7C 信号処理部
5P、6P、7P 検出部
10 演算装置
11 処理部
12 記憶部
20 溶液取り出し部
21h、24h 開口部
21 分岐管
22 入口側弁装置
23I 内部
23 溶液槽
24 溶液戻し管
25 出口側弁装置
26 撹拌手段
26D 駆動手段
26F 撹拌羽根
100、100a 酸濃度計測装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測対象溶液が通過する配管に接続されて、前記計測対象溶液を分岐させる分岐管と、
前記分岐管に設けられる入口側弁装置と、
前記分岐管に接続されて、前記計測対象溶液を一時的に溜めておくとともに、前記計測対象溶液の酸濃度に関する指標を計測する検出部が内部に配置される溶液槽と、
前記溶液槽と前記配管の前記分岐管よりも下流とを接続して、前記溶液槽内の前記計測対象溶液を前記配管内に戻す溶液戻し管と、
前記溶液戻し管に設けられる出口側弁装置と、
を含むことを特徴とする酸濃度計測装置。
【請求項2】
さらに、前記溶液槽内の前記計測対象溶液を撹拌する撹拌手段を有する請求項1に記載の酸濃度計測装置。
【請求項3】
さらに、
計測対象溶液の酸濃度に関する指標を計測する複数の計測手段と、
予め求めた、前記計測対象溶液の酸濃度に対する複数の前記酸濃度に関する指標の関係式に、それぞれの前記計測手段が計測した前記酸濃度に関する指標を与えて、前記計測対象溶液の酸濃度を求める酸濃度演算手段と、を含み、
前記溶液槽の内部には、それぞれの前記計測手段の検出部が配置される請求項1又は2に記載の酸濃度計測装置。
【請求項4】
複数の前記計測手段のうち一つは、前記計測対象溶液中に存在する放射性元素の吸収スペクトルから、前記酸濃度に関する指標として前記放射性元素の濃度を求め、他の1つは、ボルタンメトリー装置により前記酸濃度に関する指標として前記放射性元素の濃度を求める請求項3に記載の酸濃度計測装置。
【請求項5】
さらに、
計測対象溶液の電気伝導度を前記計測対象溶液の酸濃度に関する指標として計測する第1の計測手段と、
ボルタンメトリー装置により前記計測対象溶液中に存在する放射性元素の濃度を、前記酸濃度に関する指標として計測する第2の計測手段と、
アンペロメトリー装置、クーロメトリー装置、吸光スペクトル計測装置、粘度計測装置、蛍光スペクトル計測装置、ラマンスペクトル計測装置、比熱計測装置、密度計測装置から選択される少なくとも1つにより、前記酸濃度に関する指標を計測する第3の計測手段と、
予め求めた前記計測対象溶液の酸濃度に対する、前記電気伝導度及び前記放射性元素の濃度及び前記酸濃度に関する指標の関係式に、前記第1の計測手段が計測した電気伝導度と、前記第2の計測手段が計測した放射性元素の濃度と、前記第3の計測手段が計測した前記酸濃度に関する指標とを与えて、前記計測対象溶液の酸濃度を求める酸濃度演算手段と、を含み、
前記溶液槽の内部には、前記第1の計測手段の検出部と、前記第2の計測手段の検出部と、前記第3の計測手段の検出部とが配置される請求項1に記載の酸濃度計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−154698(P2012−154698A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−12361(P2011−12361)
【出願日】平成23年1月24日(2011.1.24)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】