説明

酸窒化ケイ素膜の形成方法

【課題】本発明は、反射防止膜の中間屈折率膜として用いられる、屈折率1.5〜2.0を示す酸窒化ケイ素膜を形成する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、スパッタリング法により、基材上に希ガス及び反応性ガスからなる混合ガス雰囲気の真空チャンバー内で酸窒化ケイ素膜を形成する方法であり、前記反応性ガスに酸素及び窒素を含む時の放電電圧Vと、前記反応性ガスに窒素を含み酸素を含まない時の放電電圧Vとが、(V/V)>0.9となるように、前記混合ガスに含まれる希ガスを50〜70体積%とし、屈折率が1.5〜2.0の酸窒化ケイ素膜を得ることを特徴とする酸窒化ケイ素膜の形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止膜に関するものであり、特に屈折率1.5〜2.0を示す酸窒化ケイ素膜の形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラやカメラ付き携帯電話等の光学機器には、光を屈折させて発散または集束させるための光学素子である光学レンズが用いられており、通常は透明なガラス板や樹脂板等の両側面を球面と球面、又は球面と平面と成型したもの、球面収差の除去が容易な非球面のもの等が用いられている。近年、上記のような光学レンズは高画質化技術への要求が高まっており、例えばデジタルカメラの場合、写真の画質低下の一因となるフレアやゴーストといった現象を抑制するために、光学レンズ表面の反射率を低減させる反射防止膜が該光学レンズ表面に形成されている。
【0003】
上記の反射防止膜は、光学レンズとは異なる屈折率を示す光学薄膜を該光学レンズ表面に設け、該光学レンズ表面からの反射光と該光学薄膜からの反射光との干渉作用によって反射率が低減するように設計された膜である。上記の光学薄膜は、基材の種類や膜構成の違いで屈折率が異なり、広く使用されている光学薄膜の材料としては、屈折率が1.5未満を示す(以下、低屈折率膜と記載することもある)酸化ケイ素、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、屈折率が1.5以上、2.0未満を示す(以下、中間屈折率膜と記載することもある)酸化亜鉛、酸化アルミニウム、屈折率が2.0以上を示す(以下、高屈折率膜と記載することもある)酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、窒化ケイ素、等が挙げられ、単一膜又は積層膜として使用されている。
【0004】
上記の反射防止膜を形成する際、生産性の点から積層する光学薄膜の層数や種類は極力少なくすることが望ましい。近年、基材上に中間屈折率膜、高屈折率膜、低屈折率膜、と順次積層した3層構成の反射防止膜が提案されており、例えば、中間屈折率膜と高屈折率膜とを屈折率の異なる酸化チタンで構成した反射防止膜(特許文献1)が開示されている。
【0005】
同一の金属種でありながら屈折率が異なる光学薄膜として、上記の酸化チタン膜以外に前述した窒化ケイ素膜と酸化ケイ素膜が挙げられ、窒化ケイ素膜は2.05程度、酸化ケイ素膜は1.46程度の屈折率を示す。さらに、窒化ケイ素膜と酸化ケイ素膜の間の屈折率を示す中間屈折率膜として、Siの酸窒化物膜(以下、酸窒化ケイ素膜と記載することがある)が知られており(特許文献2)、酸素と窒素との組成比の変化により屈折率を系統的に変化させ、所望の屈折率を示す光学薄膜を設計する方法が開示されている(非特許文献1)。
【0006】
上記以外の方法としては、例えば、スパッタリング法により、不活性ガス、酸素ガス、窒素ガスを用い、酸素ガスと窒素ガスとの比率を変えて、1.54〜1.60及び1.64〜1.76の屈折率を示す酸窒化ケイ素膜を得る方法(特許文献3)や、反応性ガスの活性種を発生させるラジカル源を使用することにより、酸素ガスと窒素ガスとの供給比率を変えて、1.47〜1.99の屈折率を示す酸窒化ケイ素膜を得る方法(特許文献4)等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−279515号公報
【特許文献2】特開平6−067019号公報
【特許文献3】特開2003−262750号公報
【特許文献4】特開2008−015234号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】F Rebib、E Tomasella、J P Gaston、C Eypert、J Cellier、M Jacquet、Journal of physics:Conference Series 100(2008)082033
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述した光学レンズはカメラ付き携帯電話やデジタルカメラ等に組み込まれ、該光学レンズの需要が高まりつつある。それに伴い、反射防止膜を量産化する技術が要求されている。また一方で、光学レンズとして使用されるレンズは軽量化やコンパクト化を目的として、ガラスレンズ以外にもアクリル等の樹脂レンズが用いられており、光学干渉により反射率を低減させるためには、レンズの種類によって異なる屈折率に対応できる反射防止膜が求められる。
【0010】
前述した酸窒化ケイ素膜は、酸化ケイ素膜の屈折率(1.46)と窒化ケイ素膜の屈折率(2.05)との間の屈折率をとり得る膜であり、上記の反射防止膜の中間屈折率膜(屈折率が1.50〜2.00)として使用することが期待されるが、一方で上記の中間屈折率を示す酸窒化ケイ素膜を設計した通りに得ることが難しいという問題があった。
【0011】
スパッタリング法を用いて光学薄膜を得る場合、反応性ガスの供給量に依存してスパッタリングターゲットの表面状態が変化し、スパッタリングターゲットのケイ素がそのままスパッタされるメタルモード、スパッタリングターゲット表面が酸化や窒化された状態でスパッタされる酸化物モード及び窒化物モード、メタルモードと酸化物モードや窒化物モードの2つのモード間を遷移する遷移領域があることが知られている。上記のメタルモードであっても、十分な量の反応性ガスが存在していれば完全な酸化物膜や窒化物膜、酸窒化物膜を得ることは可能であり、通常、屈折率が1.5〜2.0である酸窒化ケイ素膜はメタルモードもしくは窒化物モード雰囲気下で得られる。
【0012】
しかし一方で、成膜中は様々な要因によりスパッタリングターゲット表面のガス環境が変わり易く、特に上記の酸窒化ケイ素膜は該スパッタリングターゲット表面の反応性ガス量等のわずかな変化により得られる膜の屈折率が大きく変わることがあり、成膜を開始してから成膜を終了するまでの間に形成される酸窒化ケイ素膜の屈折率が変わるという問題があった。また、真空チャンバー内に供給する酸素ガスの供給量が多いほど屈折率が変わり易く、中間屈折率膜を成膜する目的で、ガス等のスパッタリング条件を最適化したとしても、得られる酸窒化ケイ素膜の屈折率は1.5未満になり易いという問題があった。
【0013】
例えば特許文献3では酸素ガスの流量を約1sccm増減させるだけで屈折率が2.0以上から1.5程度まで変化することが開示されており、容易に所望の酸窒化ケイ素膜を得られるとは言い難かった。
【0014】
また、特許文献4に記載されているように、一度薄いケイ素膜を形成した後、酸素及び窒素のラジカルを発生させ、酸窒化物膜を得る方法が開示されているが、所望の膜厚を得るまでケイ素膜の成膜工程とラジカルを発生させる工程を繰り返し行う必要があり、量産化という面で適した方法とは言えなかった。
【0015】
かくして本発明は、反射防止膜の中間屈折率膜として用いられる、屈折率1.5〜2.0を示す酸窒化ケイ素膜を形成する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者が上記課題に対して検討を行った結果、屈折率が1.5〜2.0の酸窒化ケイ素膜を形成する際、成膜時の放電電圧が窒化ケイ素膜を形成する際の放電電圧と同程度以上であれば、成膜中の屈折率変化を抑制できることがわかった。また、本発明者が検討を進めたところ、真空チャンバー内に導入する希ガスの量を調整することにより、屈折率が1.5〜2.0の酸窒化ケイ素膜が得られることがわかった。
【0017】
すなわち、本発明は、スパッタリング法により、基材上に希ガス及び反応性ガスからなる混合ガス雰囲気の真空チャンバー内で酸窒化ケイ素膜を形成する方法であり、前記反応性ガスに酸素及び窒素を含む時の放電電圧Vと、前記反応性ガスに窒素を含み酸素を含まない時の放電電圧Vとが、(V/V)>0.9となるように、前記混合ガスに含まれる希ガスを50〜70体積%とし、屈折率が1.5〜2.0の酸窒化ケイ素膜を得ることを特徴とする酸窒化ケイ素膜の形成方法である。
【0018】
前記酸窒化ケイ素膜では図1のように光電子分光法(以下、XPSと記載することもある)を用いて得られるグラフより、酸素及び窒素が確認できる。
【0019】
また、前記の放電電圧とはスパッタリング時にターゲットに印加される負極性の電圧である。前記Vは、反応性ガスに酸素を含まない混合ガスを用いた時の放電電圧であり、この時、窒化ケイ素膜又は酸窒化ケイ素膜が形成される。なお、上記の「酸素を含まない」は、スパッタリングの際に影響しない程度を指すものであり、微量の酸素を含んでいても差し支えない。VとVとを用いて(V/V)を算出するとき、真空チャンバー内に供給する希ガスの供給量を同じにした条件下で成膜したときの放電電圧の値を用いるのが望ましい。
【0020】
前記のV/Vが0.9を超える場合、メタルモードもしくは窒化物モードでありながら屈折率が1.5〜2.0の酸窒化ケイ素を安定して形成することが可能となり、さらに(V/V)が1.0以上である場合、酸素の供給量を多くしても屈折率の変化量を小さく維持できるため好ましい。
【0021】
前記真空チャンバー内に供給する希ガスの割合を高くすると、スパッタリングターゲットの表面が、該希ガスイオンによって衝撃される頻度が高くなるため、反応性ガスを供給してもスパッタリングターゲット表面が酸化や窒化され難くなる。一方で該真空チャンバー内に反応性ガスが十分存在していれば、該スパッタリングターゲットからスパッタされたケイ素は酸化や窒化され、酸窒化ケイ素膜が形成される。前記混合ガスに含まれる希ガスが50体積%未満だと、スパッタリングターゲットが容易に酸化や窒化され易く、また、70体積%を超えると、スパッタされるケイ素に対して酸素や窒素が不足するため、着色膜となることがある。
【0022】
また本発明は、前記反応性ガスが酸素ガス及び窒素ガスからなるものであり、前記混合ガス中の希ガスに対して酸素ガスを10〜35体積%含むことを特徴とする。酸素ガスを希ガスに対して10〜35体積%とすることにより、特に屈折率が1.52〜1.95の酸窒化ケイ素膜を安定的に得ることが可能である。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、屈折率が1.5〜2.0の酸窒化ケイ素膜を安定して形成することができる。また、本発明により、反射防止膜の中間屈折率膜として利用可能な酸窒化ケイ素膜を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】酸窒化ケイ素膜のXPSにより得られるグラフである。
【図2】本発明の形成に用いるスパッタリング装置の概略図である。
【図3】真空チャンバー内に供給する酸素ガス流量に対するV/Vを示すグラフである。
【図4】本発明の実施例及び比較例にて形成した酸窒化ケイ素膜、酸化ケイ素膜及び窒化ケイ素膜の酸素ガス流量に対する屈折率を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例及び比較例にて形成した酸窒化ケイ素膜、酸化ケイ素膜及び窒化ケイ素膜のアルゴンガスと酸素ガス流量の比に対する屈折率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明はスパッタリング法により、前記反応性ガスに酸素及び窒素を含む時の放電電圧Vと、前記反応性ガスに窒素を含み酸素を含まない時の放電電圧Vとが、(V/V)>0.9となるように、希ガスを50〜70体積%含む混合ガス雰囲気の真空チャンバー内で酸窒化ケイ素膜を形成する方法である。
【0026】
本発明は、スパッタリング法を用いて形成されるものであり、生産性を考慮すると、図2に示されるようなスパッタリング装置を用いることが好ましい。図2については、後述の実施例で詳細に説明する。なお、マグネトロンスパッタリング、バイアススパッタリング等、公知のスパッタリング方式が適応可能である。
【0027】
前記希ガスは、スパッタリング時にターゲットから生じるスパッタ原子と反応しないガスであればよく、特にアルゴンは汎用的に使用されている。
【0028】
前記反応性ガスは、スパッタリングターゲットより発生したスパッタ原子と酸化や窒化等の反応をすることにより、酸化物膜や窒化物膜を形成することが可能なガスであり、通常、酸化物膜ならば酸素原子、窒化物膜ならば窒素原子を含む。該反応性ガスとして用いられるガスとしては、酸素ガス、二酸化炭素ガス、一酸化炭素ガス、窒素ガス、アンモニアガス等が挙げられ、これらのガスを適宜選択し、混合して使用する。特に、酸素ガスと窒素ガスを用いる場合、形成される酸窒化ケイ素膜に含まれる不純物が少なくなるため好ましい。
【0029】
また、上記のスパッタリングターゲットはSiターゲット、Siの亜酸化ターゲットや亜窒化ターゲットなどを用いてもよく、さらに、PやB等の異種元素を添加したターゲットでもよい。
【0030】
前記基材は、光学レンズ等に使用されるガラス板や樹脂板、あるいは該光学レンズ上に貼り付ける高分子フィルム等を用いることが可能である。
【0031】
本発明の好適な実施形態のひとつを以下に記載する。まず、スパッタリング装置内に、スパッタリングターゲット(以下、ターゲットと記載することもある)としてBドープSiターゲット及び基材を設置する。ターゲット及び基材の設置後に、装置内のメインバルブを開放し、真空ポンプを用いて真空チャンバー内を排気する。
【0032】
なお、上記基材は基板ホルダーに保持し、該基板ホルダーは移動可能な構造となっていることから、基板ホルダーの移動速度を調節することにより、形成される膜の膜厚を変えることが可能である。
【0033】
次に、真空チャンバー内にガス導入管より、アルゴンガス、酸素ガス及び窒素ガスからなる混合ガスをマスフローコントローラーにより供給する。アルゴンガスは該混合ガスに対して50〜70体積%供給し、酸素ガスと窒素ガスは屈折率が1.5〜2.0となるように供給量を決定すればよい。例えば、前述したようにアルゴンガスに対して酸素ガスを10〜35体積%供給することにより、屈折率が1.52〜1.95の酸窒化ケイ素膜を得ることが可能となる。
【0034】
前記混合ガスを供給した後、プラズマを発生させてスパッタリングを行う。この時、真空チャンバー内の圧力を0.1〜2.0Paに維持することにより、成膜中の放電を安定させることが可能である。またこの時、スパッタリング装置より放電電圧を確認することができる。
【0035】
また、前述したように、(V/V)が0.9を超える場合、ターゲット表面の酸化が抑制されることから、酸窒化物膜を形成する速度が(V/V)が0.9以下のときよりも高くなる。
【0036】
本発明により形成される酸窒化ケイ素膜は、反射防止膜を始めとして、増反射膜、波長選択フィルター等に使用することができる。
【実施例】
【0037】
以下に本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。
【0038】
実施例1
基材3上に、酸窒化ケイ素膜を図2に示すようなスパッタリング装置を用いて形成した。このとき、真空チャンバー8内にアルゴンガス、窒素ガス及び酸素ガスを、アルゴンガスが65体積%となるように供給し混合ガスとした。基材には厚さ1.1mmのソーダライムガラスを用いた。
【0039】
図2は、該装置を上方から観察したときの要部を示すものである。ターゲット1にSiターゲットを用い、基材3を基材ホルダー2に保持させた後、真空チャンバー8内を、真空ポンプ5を用いて排気した。
【0040】
次に、真空チャンバー8内の雰囲気ガスに、ガス導入管7より上記の混合ガスを供給し、成膜中の真空チャンバー8内の圧力を、開閉バルブ6により0.3Paに調節した。更に、DCパルス電源の出力電力を2.0kW、周波数を20kHzとした。基材ホルダー2は、搬送ロール12上を搬送され、ターゲット1の横を通過させ、屈折率が1.50〜2.0を示す酸窒化ケイ素膜を得た。なお、このとき酸素ガスと窒素ガスの供給量をそれぞれ表1に示すような条件下で成膜を行った。
【0041】
実施例2
真空チャンバー内に供給する混合ガスを、アルゴンガスが56体積%となるように供給し、酸素ガスと窒素ガスの供給量をそれぞれ表1に示すような条件とした以外は、実施例1と同様の手順で酸窒化ケイ素膜を得た。
【0042】
比較例1
真空チャンバー内に供給する混合ガスを、アルゴンガスが65体積%となるように供給し、反応性ガスとして酸素ガス又は窒素ガスのみを用いた以外は、実施例1と同様の手順でスパッタリングを行い、酸化ケイ素膜又は窒化ケイ素膜を得た。
【0043】
比較例2
真空チャンバー内に供給する混合ガスを、アルゴンガスが56体積%となるように供給し、酸素ガスと窒素ガスの供給量をそれぞれ表1に示すような条件とした以外は、実施例2と同様の手順でスパッタリングを行い、酸窒化ケイ素膜、酸化ケイ素膜又は窒化ケイ素膜を得た。
【0044】
比較例3
真空チャンバー内に供給する混合ガスを、アルゴンガスが30体積%となるように供給し、酸素ガスと窒素ガスの供給量をそれぞれ表1に示すような条件とした以外は、実施例1と同様の手順でスパッタリングを行い、酸窒化ケイ素膜を得た。
【0045】
比較例4
真空チャンバー内に供給する混合ガスを、アルゴンガスが74体積%となるように供給し、酸素ガスと窒素ガスの供給量をそれぞれ表1に示すような条件とした以外は、実施例1と同様の手順でスパッタリングを行い、酸窒化ケイ素膜を得た。なお、得られた酸窒化ケイ素膜には明らかな着色が認められたため、各種特性の評価は実施しなかった。
【0046】
(光学特性の評価)
得られた膜の透過率、膜面反射率、ガラス面反射率を、300nm〜2500nmの波長範囲で、分光光度計(日立製作所製、U−4000)を用いて測定し、得られた値から光学シミュレーションによって屈折率及び消衰係数を評価した。なお、このとき消衰係数は実施例1、実施例2、及び比較例1〜3のすべての膜で0.001以下であった。
【0047】
実施例及び比較例の波長550nmにおける屈折率、放電電圧の比(V/V)、基材の搬送速度と膜厚の積から算出した成膜速度を表1に示した。なお、各実施例及び比較例のVの値は、供給したアルゴンガスの体積%が同じであり、かつ酸素ガスが0体積%である条件で成膜した時の放電電圧を用いた。
【0048】
【表1】

【0049】
反応性ガスに含まれる酸素の供給量に対する放電電圧の比を図3、屈折率の値を図4に示した。また、アルゴンに対する酸素の供給量と屈折率との関係を図5に示した。
【0050】
図3より、アルゴンの供給量がいずれの場合でも、酸素の供給量を増加させると上記の放電電圧の比が0.9以下となることがわかる。該アルゴンの供給量が多くなるほど、酸素の供給量を多くしても放電電圧の比が0.9以下となり難くなることが示された。
【0051】
図4より、アルゴンガスの供給量がいずれの場合でも、酸素ガスの供給量を増加させると屈折率が1.5に近付き、該アルゴンガスの供給量が多くなるほど、酸素ガスの供給量を同じにしたときの屈折率が高くなることがわかった。また、屈折率が1.5付近になると、どの条件でもほぼ一定の屈折率となった。一方で、屈折率が1.5未満となっているものを図3と比較すると、いずれも放電電圧の比が0.9以下となっている。以上より、放電電圧の比が0.9を超えるとき、屈折率1.5〜2.0の酸窒化ケイ素膜が得られることが示された。
【0052】
また一方で、表1より実施例は成膜速度が高い状態で酸窒化ケイ素膜を成膜できることがわかった。前述したように、スパッタリングターゲットの表面が酸化されるほど成膜速度が低くなる傾向にあることから、アルゴンガスの供給量を50体積%以上とすることにより、スパッタリングターゲット表面の酸化が抑制され、高い成膜速度が実現できることが示された。
【0053】
図5には、アルゴンガスの供給量に対する酸素ガスの供給量と、屈折率の値との関係を示している。図5より、所望の屈折率を得るためには、アルゴンガスに対して酸素ガスを1〜40体積%供給すれば良く、また、10〜35体積%とすることにより、通常では得難い屈折率が1.52〜1.95の酸窒化ケイ素膜を得られることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0054】
1 ターゲット
2 基材ホルダー
3 基材
4 カソードマグネット
5 真空ポンプ
6 開閉バルブ
7 ガス導入管
8 真空チャンバー
9 電源コード
10 DC電源
11 バッキングプレート
12 搬送ロール
13 誘電体膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタリング法により、基材上に希ガス及び反応性ガスからなる混合ガス雰囲気の真空チャンバー内で酸窒化ケイ素膜を形成する方法であり、前記反応性ガスに酸素及び窒素を含む時の放電電圧Vと、前記反応性ガスに窒素を含み酸素を含まない時の放電電圧Vとが、(V/V)>0.9となるように、前記混合ガスに含まれる希ガスを50〜70体積%とし、屈折率が1.5〜2.0の酸窒化ケイ素膜を得ることを特徴とする酸窒化ケイ素膜の形成方法。
【請求項2】
前記反応性ガスが酸素ガス及び窒素ガスからなるものであり、該酸素ガスを前記混合ガス中の希ガスに対して10〜35体積%とすることを特徴とする請求項1に記載の酸窒化ケイ素膜の形成方法。
【請求項3】
スパッタリングターゲットとしてSiターゲットを用いることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の酸窒化ケイ素膜の形成方法。
【請求項4】
基材上に反射防止膜を形成する反射防止膜の形成方法であり、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の酸窒化ケイ素膜の形成方法を中間屈折率膜の形成方法として用いることを特徴とする反射防止膜の形成方法。
【請求項5】
請求項4に記載の反射防止膜の形成方法を用いて形成された反射防止膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−132044(P2012−132044A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−283064(P2010−283064)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】