説明

酸素により制御される種子のプライミング

本発明は、植物種子、好ましくは作物の種子をプライミングする方法、組成物および装置、並びに前記方法、組成物および装置によって得られる種子であって、発芽に必要な代謝活性が水分によって制御されるのではなく、酸素分圧および/または二酸化炭素分圧によって制御される種子に関する。本発明の方法において、酸素分圧または二酸化炭素分圧は、酸素/二酸化炭素感受性蛍光色素によって測定することができる。本発明は、植物種のプライミングされた種子ロットを製造するためのプロセス、および酸素分圧が臨界酸素圧未満の雰囲気下でプライミングされた種子を含む容器にさらに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物種子、好ましくは作物の種子をプライミングする方法、組成物および装置、並びに前記方法、組成物および装置によって得られる種子であって、プライミング処理を制御するために水分ではなく酸素分圧が使用される、種子に関する。
【0002】
発明の背景
現代の作物生産システムは、作物の定着において高度の精密さが要求され、その点において種子品質は重要な因子である。種子品質は、複数の遺伝的因子と環境条件との相互作用によって決定される複雑な形質である。そのため種子品質を改良するための現代的アプローチでは、古典的遺伝学、植物分子生物学並びに多様な環境条件下の田畑において均一で高品質な農産物を生育させるための生理的品質、活力および同時性を向上させる様々な種子技術を組み合わせる。
【0003】
最適な種子の発芽性能に対する商業的な必要性により、当技術分野において「種子プライミング」としての接合体種子で知られているプロセスが開発された。種子プライミングは、阻害制御および予備発芽代謝の誘導(「活性化」)を可能にするが、それによって幼根の出現を妨げる水和処理であってもよい。水和処理は、耐乾燥性が失われる前に停止させる。種子は、貯蔵、流通および播種のために再度乾燥することができる。プライミングは、種子の発芽速度および同時性を向上させ、種子活力を増加させる(「活性化」時間が短いまたは無い)。さらに、種子プライミングによって、より広範囲の発芽温度、休眠解除およびより速やかで均一な実生の発生が達成される。これにより、良好な植生および高い収量をもたらす。
【0004】
種子プライミングを達成するために、現在4つの技術が商業的に使用されている。それらは、オスモプライミング、ハイドロプライミング、マトリクスプライミングおよび予備発芽である。オスモプライミング(オスモコンディショニング)は、標準的なプライミング技術である。種子を、十分に通気された溶液中で低い水分ポテンシャルでインキュベートし、その後洗浄および乾燥する。溶液の低い水分ポテンシャルは、マンニトール、ポリエチレングリコール(PEG)のような浸透質またはKCl若しくはKNOのような塩を添加することによって達成することができる。ハイドロプライミング(ドラムプライミング)は、限定量の水を種子へ連続的または継続的に添加することによって達成される。この目的のためにドラムが使用され、水分もまた湿潤空気によって塗布することができる。マトリクスプライミング(マトリクスコンディショニング)は、固形状の不溶性マトリクス(バーミキュライト、珪藻土、架橋された高吸水性ポリマー)の存在下で限定量の水を用いた種子のインキュベーションである。この方法は緩やかな吸水をもたらす。最後に、予備発芽種子技術は、少数の種でのみ可能である。伝統的なプライミングとは対照的に、種子は幼根が突出してもよい。この後に、特定の段階による選別、耐乾燥性を再誘導する処理、および乾燥が続く。予備発芽種子を使用すると、吸水時の速やかで均一な実生の発生が得られる。種子のプライミング中、例えば、植物ホルモン(例えば、ジベレリン、エチレンなど)、種子休眠打破化合物、殺真菌剤などの(生)化学化合物をさらに添加してもよい。
【0005】
従来技術の種子プライミング技術は、いくつかの技術的なおよび物流上の困難に遭遇している。例えば、浸透溶液は連続通気を必要とし、一般に、種子量当たり大量のプライミング溶液が必要とされる。液体中への浸漬は酸素吸収を制限し、特に、溶液中のPEGが比較的高濃度であると、溶液の粘性が増し、酸素の溶解および拡散速度を減少させる。さらに、大量の種子のプライミングは、大量の浸透(例えば、PEG)溶液を必要とし、これにより、特に殺真菌剤を添加した場合に処理問題を引き起こす恐れがある。無機塩類の使用により実生発生率の減少が報告されている。さらに、マトリクスプライミングは、マトリクス(例えば、バーミキュライト)からプライミングされた種子を分離することが困難であると報告されている。また、未処理の乾燥種子と比較すると、プライミングされた種子の貯蔵性が低下することが報告されている。これまでの当技術分野において利用可能な種子プライミングのための方法は全て、種子のプライミングを制御するための種子の水和レベル、すなわち、水分ポテンシャルの調節に依存するという共通点を有する。こうした水分制御による方法に共通する重要な問題は、適当な時機にプライミング処理を停止させることであり、この時機は種および種子バッチによって異なる。
【0006】
本発明の目的は、種子のプライミングを制御するために水分ではなく酸素分圧が使用される方法、組成物および装置を提供することによって上記の問題に取り組むことである。
【0007】
発明の説明
定義
科学文献において、発芽という用語は漠然と使用されることが多いが、本明細書において発芽という用語は、種子による水分の吸い上げ(吸水)によって開始され、胚軸、通常は幼根の伸長開始で終了するプロセスを意味すると理解されたい。これは、例えば、タンパク質水和、細胞下構造の変化、呼吸、巨大分子合成、および細胞伸長などの非常に多くの事象を含むが、これら自体は発芽に特有ではない。しかし、これらの複合的な効果は、脱水状態の休眠代謝を有する生物を、活性な代謝を有する生物に変え、成長に至らせるものである。したがって厳密な意味では、発芽は、発芽終了時に開始する実生の成長を含まない。したがって、発芽は実生が目視可能になる前に終了することがあるので、例えば、発芽を土壌からの実生発生と同等とみなすのは不正確である。種子検査員は、農学的に価値のある活発な植物の苗立ちをモニタリングすることに関心があるので、この意味で発芽と称することが多い。一方、生理学者は発芽という用語のそのような定義を勧めないが、種子技術者による広範な使用を一般に認めている。しかしながら本明細書において、本発明者らは、発芽は吸水から開始して胚軸の伸長開始で終了するという、より明確な定義を使用するとする。主要な貯蔵物質の流動化などの初期の実生において起こるプロセスもまた、発芽の一部ではなく、これらは発芽後の事象である。
【0008】
発芽プロセスが起こっていない種子は、本明細書において休止していると理解される。休止している種子は休眠組織であり、一般に水分含量が低く(5〜15%)代謝活性はほとんど停止している。種子の注目すべき性質は、この状態でしばしば何年にもわたって生き続けることができ、その後正常な、高レベルの代謝を再開することである。発芽が起こるために、休止している種子は一般に、例えば、適温および酸素の存在など代謝を促進する条件下で水和されることだけを必要とする。
【0009】
しかしながら発芽プロセスの構成要素は、幼根の出現を達成しない種子において起こる場合がある。条件が、吸水、呼吸、核酸およびタンパク質の合成、並びに多くの他の代謝事象が全て進行するような、発芽にとって明らかに有利な場合であっても、まだほとんど解明されていない理由のために、細胞伸長に至ることはなく、このような種子は休眠を示す。既に発芽完了への障害を包含している親株から撒かれた種子は、一次休眠を示す。ある環境条件を経験する場合に、発芽の障害(単数または複数)が水和された成熟種子において生じることがあり、このような種子は誘導休眠または二次休眠を示す。発芽の障害を無効にするがそれ自体は発芽プロセス中に必要とされない、光刺激または低温若しくは変温期間などの、ある「プライミング」処理によって、休眠種子は発芽可能な種子に変換される(すなわち、休眠が打破される)。
【0010】
当技術分野において種子のプライミングは、発芽に必要な代謝活性は起こり得るが、胚軸の伸長、すなわち、通常は幼根の出現が起こらないように種子内の水和レベルを制御することと定義されている。種子内の異なる生理的活性は、異なる水分レベルで起こる(LeopoldおよびVertucci、1989年、種子中の生理的反応の調節因子としての水分(Moisture as a regulator of physiological reactions in seeds)、P.C. StanwoodおよびM.B. McDonald編、Seed Moisture、CSSA Special Publication Number 14、Madison、WI: Crop Science Society of America、51〜69頁;Taylor、1997年、種子の貯蔵、発芽および品質(Seed storage, germination and quality)、H.C. Wien編、The Physiology of Vegetable Crops、Wallingford、U.K.: CAB International、1〜36頁)。発芽において最後の生理的活性は幼根の出現である。幼根の発生の開始には高い種子水分含量が必要である。種子水分含量を制限することによって、幼根の発生という不可逆的な作用を伴わずに、発芽に必要な全ての代謝段階が起こり得る。幼根の発生の前は、種子は耐乾燥性であると考えられ、したがってプライミングされた種子の水分含量は乾燥によって減少させることができる。乾燥後、プライミングされた種子は播種時まで貯蔵可能である。
【0011】
本発明では、発芽する種子の代謝を制御するために水和レベルではなく酸素分圧が使用される。したがって本明細書において、本発明者らはプライミングのより一般的な定義を使用する。よって本明細書において、種子のプライミングは、発芽に必要な代謝活性は起こり得るが胚軸の伸長、すなわち、通常は幼根の出現が起こらないように種子内の酸素および水和レベルを制御することと定義される。発芽がどの程度進行したかは、例えば、水分の吸い上げまたは呼吸を測定することによって、おおよそ決定できるが、こうした測定は発芽プロセスがどの段階に達したかの非常に大まかな目安にしかならない。発芽の進行についての普遍的に有用な生化学的マーカーは発見されていない。比較的正確に時間を計ることができる唯一の発芽段階は、発芽の終了である。発芽が完了まで進むと、種子からの軸(通常は幼根)の出現は通常確認することができるが、周囲の組織を貫通する前に軸が成長する場合は、発芽完了は生体重の持続的な上昇が開始する時点と決定することができる。
【0012】
発明の詳細な説明
第1の側面において本発明は、発芽する種子の代謝活性を制御するために種子の水和レベルが使用される通常の方法ではなく、発芽に必要な代謝活性が酸素分圧および/または二酸化炭素分圧を調節することによって制御される、種子をプライミングする方法に関する。
【0013】
成熟した「乾燥」種子(通常の水分含量:10〜15%)の呼吸は当然、成長しているまたは発芽している種子と比較した場合極めて弱く、混入した微生物叢の存在により正確な測定が困難であることが多い。乾燥種子を水に入れると、すぐに気体の放出が認められる。このいわゆる「ウェッティングバースト(wetting burst)」は、数分間続くことがあり、呼吸には関係しないが、水が吸収されるときにコロイド吸着から放出される気体である。この気体はまた、枯れた種子またはその内容物、例えば、デンプンなどが吸収されるときにも放出される。
【0014】
多くの種子のO消費は基本的なパターンに従うが、胚の消費パターンは貯蔵組織の消費パターンとは最終的に異なる。植物種子の呼吸は以下の3つまたは4つの相を含むと考えられる。
【0015】
第1相
まずO消費が急増し、これはクエン酸回路および電子伝達系に関与するミトコンドリア酵素の活性化および水和に一部起因する可能性がある。第1相の間の呼吸は、組織の水和度に伴い直線的に増加する。
【0016】
第2相
この相は、O取り込みが安定するか、または緩やかに増加するのみであるときの呼吸のラグによって特徴付けられる。種子部分の水和はこの時点で完了し、全ての既存の酵素が活性化される。おそらく、この第2相中の呼吸酵素またはミトコンドリア数はそれ以上ほとんど増加しない。吸水した胚または貯蔵組織へのO取り込みを皮または他の周囲の構造が制限して、部分的な嫌気条件を一時的に導くことが一因で、誘導期を生じる種子もある。例えば、エンドウ種子から種皮を除去すると、容易に感知できるほど誘導期が減少する。このラグについて別の考えられる理由は、発芽中の解糖経路の活性化が、ミトコンドリアの発生よりも早いことである。このことにより、クエン酸回路または酸化的リン酸化(電子伝達系)における欠陥のために、ピルビン酸の蓄積を引き起こす可能性があり、したがって、一部のピルビン酸がOを必要としない発酵経路へ一時的に回されることになる。
【0017】
胚の第2相および第3相の間に、幼根は周囲の構造を貫通し、発芽が完了する。
【0018】
第3相
今度は第2の呼吸バーストが起こる。胚において、これは、成長している軸の増殖細胞中の新たに合成されたミトコンドリアおよび呼吸酵素の活性増加に起因すると考えることができる。貯蔵組織中のミトコンドリア数もまた、しばしば貯蔵物質の流動化を伴って増加する。両種子部分における呼吸増加の別の寄与因子は、既に破裂した種皮(または他の周囲構造)によるO供給の増加である可能性がある。
【0019】
第4相
この相は貯蔵組織においてのみ起こり、貯蔵物質枯渇後の老化と一致する。
【0020】
このように本発明の好ましい方法において、種子を取り扱うに際して種子に損傷が生じる危険性が高い点を超える、根およびシュートの少なくとも1つの伸長を妨げる時点およびレベルでの酸素分圧の減少および/または二酸化炭素分圧の増加が起こる。種子に損傷が生じる危険性が高いとは、本明細書において、生存能力、実生発生の均一性、それらの活力および均一性、並びに作物収量のうちの少なくとも1つに関する種子ロットの品質の顕著な低下(例えば、10、20または50%超)と理解されたい。より好ましい本発明の方法において、胚軸の伸長または幼根の発生という不可逆的な作用を妨げる時点およびレベルでの酸素分圧の減少および/または二酸化炭素分圧の増加が起こる。酸素分圧の減少および/または二酸化炭素分圧の増加のタイミングは、種子に対する損傷の深刻な危険性なしでは種子を取り扱うことができない程度を超える、根およびシュートの少なくとも1つの伸長、より好ましくは、幼根の発生という不可逆的な作用を伴わずに、発芽に必要な全ての代謝段階を起こさせるようなものであることが好ましく、この幼根の発生の前、種子は耐乾燥性であると考えられ、したがってプライミングされた種子の水分含量は乾燥によって減少させることができる。したがって本発明の方法は、(a)種子を十分量の水および十分量の酸素と接触させて、種子の発芽に必要な代謝活性を起こさせる接触ステップと、(b)種子を取り扱うに際して種子に損傷が生じる危険性が高い点を超える、根およびシュートの少なくとも1つの伸長、より好ましくは種子における胚軸の伸長または幼根の発生を妨げる時点およびレベルでの
(i)酸素分圧の減少、および
(ii)二酸化炭素分圧の増加
の少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0021】
本発明の方法において、種子は十分量の任意の形態の水分と接触させてよいことが理解される。水分は、例えば、純水、PEG、KCl、KNO、マンニトールおよび他の化合物を含有する溶液などの種子プライミングに使用される周知の溶液を含むがこれらに限定されない水溶液のような液体形態で塗布してもよく、および/または水分は、例えば、種子を相対湿度の高い気体混合物(例えば、空気)と接触させることにより、気体形態で塗布してもよい。気体混合物は、少なくとも80、90、または95%の相対湿度を有することが好ましく、気体混合物は飽和蒸気圧であることがより好ましい。種子を水分と接触させる種々の方法および手段が、当技術分野において利用可能である。このような手段および方法は、例えば、ドラム壁に送られるまたは種子および/若しくはドラム壁に噴霧される液体水が表面被膜を生成するときに、ドラム壁で霧に凝結する蒸気として導入される水分による回転ドラム中での連続的水和(例えば、US5,119,589を参照されたい);半透膜装置(例えば、US5,873,197を参照されたい);固形状マトリクス中での水分による処理(例えば、EP0 309 551 B1に開示されている)を含む。
【0022】
本発明の方法において、種子は十分量の任意の形態の酸素、すなわち、任意の酸素含有気体および/または液体と接触させてよいことがさらに理解される。使用できる酸素含有気体混合物は、例えば、空気、窒素、ヘリウム、ネオン若しくはアルゴンなどの希ガス、二酸化炭素、CO、NO、NO、NO、エチレン、エタノールおよび/またはこれらの1つまたは複数の混合物を含んでもよい。
【0023】
本発明の好ましい方法において、酸素分圧は、代謝的に活性な種子の呼吸により減少される。本態様において、種子および任意選択で他の呼吸細胞は、限定量の酸素を有し、それにより幼根の発生直前に幼根の発生を妨げるレベルまで酸素が呼吸により消費されるような酸素量になる、密閉された空間(容器であってもよい)中に置かれることが好ましい。種子は、プライミング手順の全てまたは一部において密閉された空間に置いてもよい。代替として、空間をプライミング手順の全てまたは一部において密閉してもよい。密閉された空間中の酸素レベルは、酸素感受性蛍光色素を使用する酸素プローブまたは任意の他の酸素測定装置によってモニターすることができる。手順開始時に密閉された空間中に存在する酸素の必要量は、例えば、Q2技術の使用(WO01/63264)または任意の他の酸素測定装置によって、プライミング中、幼根の発生直前までに種子に使用される酸素量を測定することによって決定および計算することができる。
【0024】
別の好ましい態様において、酸素分圧は、酸素の化学的および/または物理的除去により減少される。酸素は、酸素反応性化学物質を、プライミングしている種子を入れている空間中に導入し、および好ましくは空間を密閉して新鮮な酸素が入るのを避けることによって、化学的に除去することができる。ある化学反応によってどれほどの量の酸素が使用されるのか、および密閉された容器中の酸素レベルの結果がどの様になるかは、計算することができる。プライミング処理開始時に種子を入れている容器中の特定の酸素レベルを達成するための、無機化合物または酵素および有機基質などの酸素反応性化学物質の必要量を、容器に入れてもよい。この具体的な形態は、種子を入れている密閉された空間における制御火炎による酸素除去であってもよい。酸素は、種子を入れている空間中の酸素含有気体相を特定量の酸素を含有する気体または液体と置換することによって、物理的に除去してもよい。このような気体混合物は、特定体積の酸素、窒素、および空気などの異なる純気体を混合する気流混合装置を使用することによって調製することができる。代替として、種子を、そのような気体、気体混合物または液体で満たされた空間に置いてもよい。
【0025】
本発明の方法において、種子に対する損傷の深刻な危険性なしでは種子を取り扱うことができない程度を超える、根およびシュートの少なくとも1つの伸長、より好ましくは幼根の発生を妨げる酸素分圧レベルは、臨界酸素圧未満であることが好ましい。本明細書において「臨界酸素圧(COP、critical oxygen pressure)」は、それ未満では代謝(この場合には種子代謝)が阻害されるpOを意味すると理解される。臨界酸素圧は、Biochem. Biophys. Acta. 3:593〜606頁(1949年)においてBerry L. J. およびNorris W. Eによって定義される。代替として、根出現は、二酸化炭素レベルを増加させることによって阻止してもよい。二酸化炭素レベルの上昇は、植物の呼吸を減少させることが知られている(例えば、Qiら、1994年、New Phytologist、128:435〜442頁;ReuveniおよびGale、1985年、Plant Cell and Environment 8:623〜628頁;Bunce、1990年、Annals of Botany、65:637〜642頁;Kerbelら、1988年、Plant Physiol. 86;1205〜1209頁;Amthorら、1992年、Plant Physiol. 98:757〜760頁)。一般に、呼吸を減少させる二酸化炭素量は、植物種および植物組織に依存する。使用されるレベルは600〜1200ppmまで異なり、場合によってはさらに高いこともある。本発明の方法において、種子に対する損傷の深刻な危険性なしでは種子を取り扱うことができない程度を超える、根およびシュートの少なくとも1つの伸長、より好ましくは幼根の発生を妨げる二酸化炭素分圧レベルは、少なくとも約300、600、1000、1200、1500、または2000ppmであることが好ましい。
【0026】
本発明の方法において、酸素分圧および/または二酸化炭素分圧は、酸素または二酸化炭素にそれぞれ感受性の蛍光色素によって測定できる。酸素または二酸化炭素による蛍光化合物の蛍光消光に基づく最適な方法が、WO01/69243において記載されている。適した蛍光化合物は、Bambotら、1994年、Biotechnology and Bioengineering、43:1139〜1145頁;CoxおよびBunn、1985年、Applied Optics、24、2114〜2120頁;Holst、1995年、Sensor and Actuators B29:231〜239頁;Meierら、1995年、Sensor and Actuators B29: 240〜245頁;およびMarazueleら、1998年、Appl. Spectrocospy 52:1314〜1320頁に記述されている。これらの方法は、好ましくは容器を開けずに、容器の内側の酸素レベルを測定可能にする。試料は、経時的に何度も繰り返して再度測定することができ、破壊されない。酸素感受性蛍光消光を有する蛍光色素は、例えば、ルテニウムビピリジル錯体またはトリス−Ru2+4,7ビフェニル1,10フェナントロリンなどを含む。同様に、本発明の方法において、二酸化炭素分圧は、二酸化炭素に感受性の蛍光色素によって測定できる。二酸化炭素感受性蛍光消光を有する適した蛍光色素は、例えば、トリス[2−(2−ピラジニル)チアゾール]ルテニウムIIである(Marazueleら、1998年、上記)。
【0027】
別の好ましい態様において、本発明の方法は、幼根の生育を一時停止させるが生存能力の喪失はもたらさない条件下でおよび水分含量まで、種子を乾燥させるステップをさらに含んでもよい。種子は、例えば、湿度の低い気体を種子上に通過させることによって乾燥させてもよい。代替として、種子は、本明細書中の実施例に示すように、濾紙で表面を乾燥させおよび/または乾燥濾紙中に包装してもよい。種子を乾燥させるステップ中、酸素分圧および/または二酸化炭素分圧は幼根の発生を妨げるレベルに保たれることが好ましい。しかしながら、いったん種子を、幼根の発生を一時停止させる水分含量まで乾燥させれば、種子は貯蔵することができ、それによりa)酸素分圧、b)種子の水分含量、およびc)二酸化炭素分圧の少なくとも1つは幼根の生育を妨げるレベルに保たれる。種子は、播種に使用されるまでこれらの条件下で長期間(例えば、少なくとも1または複数の週間、月または年)貯蔵してもよい。
【0028】
本発明の方法はまた、耐乾燥性でない種子、すなわち、耐乾燥性種子以外の種子に有利に適用することもできる。そのような場合には、種子の乾燥を避けることが好ましく、本方法は、幼根の発生を妨げる酸素分圧および/または二酸化炭素分圧で種子を貯蔵するステップをさらに含むものとする。
【0029】
別の側面において、本発明は、植物種のプライミングされた種子ロットを製造するプロセスに関する。プライミングされた種子ロットを製造するプロセスにおいて、本明細書中に定義されている本発明に従う種子をプライミングする方法が適用されることが好ましい。
【0030】
さらなる側面において、本発明は、酸素分圧が臨界酸素圧未満の雰囲気下でプライミングされた種子を含む容器に関する。容器に含まれる種子は水和された種子であることが好ましい。本明細書において水和された種子は、酸素分圧および/または二酸化炭素分圧が幼根の発生を許容するレベルである場合には、幼根の発生を可能にするであろう水分含量を有する種子であると理解される。容器中の雰囲気は、99%を超える、窒素、ヘリウム、ネオン若しくはアルゴンなどの希ガス、二酸化炭素、CO、NO、NO、NO、エチレン、エタノールおよび/またはこれらの1つまたは複数の混合物を含むことが好ましい。臨界酸素圧未満の酸素分圧を維持しながら種子周辺の空間を満たす他の手段も、本発明から除外されない。これらの手段は、水分、水溶液並びに/または油またはさらに固体並びに気体、液体および/若しくは固体の組み合わせを含み得る。
【0031】
特定の種子のCOPを含む種子の生理的、種子の化学的および種子の処理上のパラメータに関連する酸素濃度および特定の酸素レベルは、密閉容器中の代謝率を測定するための非侵襲的な蛍光酸素測定技術(EP1134583;W00169243;US2004033575;CA2403253;およびDE60108480T)に基づくQ酸素センシング技術、または種子への酸素消費を測定できる任意の別の技術によって、(前記)プライミングされた種子を製造するプロセスにおいて、測定することができる。Qは、例えば、酸素濃度および/または種子への酸素暴露時間を制御および/または最適化するため、および/または種子をプライミングする酸素濃度を決定するために使用してもよい。Q技術は、プライミング装置に一体型アダプタを備えることによって酸素プライミング処理に沿って実施することができる。特に、この技術は、WO01/63264およびWO01/69243に記載の通り、酸素および気体混合物を用いるプライミング手段に使用される部屋または容器または他の設備に固定されたまたは独立型の構成部分として機能することができ、それにより入口を光が通過でき、酸素レベルをセンサおよび酸素感受性蛍光色素により検出することができる。
【0032】
本文書においておよびその特許請求の範囲において、「含む(to comprise)」という動詞およびその活用形は、非限定を意味するものであって、当該語に続く事項が含まれるが具体的に記載されていない事項も除外されないことを意味するものとして用いられる。加えて、不定冠詞「1つの(a)」または「1つの(an)」によって示された要素は、当該要素が文脈上明らかに1つだけであると解される場合を除き、2つ以上の要素が存在する可能性を除外しない。したがって、不定冠詞「1つの(a)」または「1つの(an)」は通常「少なくとも1つの」を意味する。
【0033】
本明細書において引用された全ての参考特許および参考文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0034】
以下の実施例は例示のみを目的として示され、決して本発明の範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】Q2技術(WO01/63264)を用いて測定した、吸水した種子を入れている密閉された区画中の経時的酸素レベルを示す図である。時間=0で区画は密閉され、種子のいかなる酸素使用も区画中の酸素レベルの減少をもたらす。したがって、曲線の一次導関数は酸素消費速度である。これらの曲線は、記載されている発明に従って種子をプライミングする手順を決定するために使用される、種子の生理学的性質に関する有益な情報を含んでいる。この点において、このような曲線から導かれる重要なパラメータは、とりわけ、呼吸促進が起こる時点、呼吸促進時まで使用された酸素の総量、呼吸促進時までの酸素消費速度、臨界酸素圧(COP)、および最大酸素消費速度(曲線の最大勾配)である。
【図2】プライミング中の、異なる水分レベル(示すように水分30、32、35、37および40%)で、それぞれ5個の種子を入れている密閉容器中の経時的(y軸)な相対酸素レベル(x軸)を示す図である。これらの種子の最良のプライミングは37%の水分含量である。提示されたデータより、これらの種子のプライミングに適した酸素消費速度を、37%の水分含量を有する種子から得られた曲線から計算することができる。
【図3】この場合には容器当たり1個の種子を用いたことを除外すれば、図2に記載したものと同様の実験を示す図である。
【図4】3%酸素中での対照および酸素によりプライミングされたテンサイ種子の発芽を示す図である。「プライミング」で示されたものは、プライミング処理中に種子蓋を落とした種子を示す。「プライミング」で示されたものは、プライミング後に対照種子と形態学的に識別できなかった種子を示す。
【図5】3%酸素中での対照および酸素によりプライミングされたテンサイ種子の発芽を示す図である。図示したプライミングされた種子は、図4に示す全てのプライミングされた種子の合計である。
【図6】1%酸素中での対照並びに4および5日間酸素によりプライミングされたテンサイ種子の発芽を示す図である。
【0036】

例1:通常の発芽中の酸素消費曲線による、プライミング中に使用される酸素パラメータの決定
図1はこのような決定の結果を示す。吸水した種子(この場合はキャベツ種子)を入れている密閉された区画中の経時的酸素レベル。例えば、国際公開特許第01/63264号パンフレットに記載の酸素測定法を使用して、酸素レベルを測定した。発芽プロセスの進行中、酸素レベルは経時的に徐々に減少する。グラフに、呼吸促進時点を示す(この時点で酸素消費速度は増加する)。加えて、COP(臨界酸素圧)を示す。この時点で、区画中の酸素の欠乏のために酸素消費速度は減少する。
【0037】
プライミング中、呼吸促進は避けるべきである(この時点で発芽進行はもはや後退させることができない)。これは、酸素レベルをCOP値未満に設定することにより種子の酸素利用度を制御することによって達成することができる。代替として、存在する酸素の総量は、呼吸促進時点に達するために必要な使用された酸素から計算してもよい。プライミング中は、この量を超えない酸素を添加するべきである。
【0038】
例2:プライミング中の酸素消費曲線による、プライミング中に使用される酸素パラメータの決定
図2および3はこのような決定の結果を示す。種子のプライミング中、エゾギク種子を入れている密閉された区画中の経時的相対酸素レベル(相対スケールを示す)を、例1において使用された同様の方法を用いて測定した。図2では区画当たり5個の種子が存在し、図3では区画当たり1個の種子が存在する。異なる曲線は、異なるプライミング条件(異なる水分含量の種子)を示す。最良のプライミングは32%〜35%の水分含量で得られた。この曲線から、この条件での呼吸速度を計算することができる。最適なプライミング処理のために、対照種子はプライミング処理中、例えば、制限された酸素レベルの適用によって、この呼吸速度に制限するべきである。
【0039】
例3:テンサイ種子の酸素プライミング(I)
本実験において、発芽が比較的緩やかな、および発芽率の低いテンサイ種子を使用した。発芽中の種子の臨界酸素圧(COP)値は、Q2技術(WO01/63264)を使用して酸素消費速度発芽実験により測定した場合、約4%であった。
【0040】
プライミング処理において、3%の酸素を含有する高湿度の(種子の乾燥を防ぐため)空気の連続流下で、箱中の湿った濾紙上で344個の種子に吸水させた。この処理を3日間、20℃で暗所にて続けた。3日後、種子を箱から回収した。これらの種子は全く1つも発芽しなかったが、83個の種子の種子蓋が落ち、これらのうちいくつかにおいて、ルートの一部分が目視可能であった。これらの種子を、インタクトな種子から分離した。全ての種子を、濾紙で表面を乾燥させ、次いでさらなる3日間の乾燥のために乾燥濾紙中に包装した。3日間の乾燥後、種子を、96ウェルプレートにおいて(ウェル当たり1個の種子)アガロース表面上で(プレート当たり15mlの0.5%アガロース)20℃で、発芽について試験した。プライミングされた種子に加えて、対照種子(192個)もまた発芽した。
【0041】
図4および5は、3つの種子集団の発芽曲線を示す。プライミングされた種子は対照種子と比較して、より速やかで完全な発芽を示すことをはっきりと見ることができる。
【0042】
例4:テンサイ種子の酸素プライミング(II)
本実験において、発芽が比較的緩やかな、および発芽率の低いテンサイ種子を使用した。発芽中の種子の臨界酸素圧(COP)値は、Q2技術(WO01/63264)を使用して酸素消費速度発芽実験により測定した場合、約4%であった。
【0043】
プライミング処理において、1%の酸素を含有する高湿度の(種子の乾燥を防ぐため)空気の連続流下で、箱中の湿った濾紙上で344個の種子に吸水させた。この処理を4日間または5日間、20℃で暗所にて続けた。4日(175個の種子)または5日(171個の種子)後、種子を箱から回収した。種子は1つも発芽しなかった。全ての種子を、濾紙で表面を乾燥させ、次いでさらなる4〜5日間の乾燥のために乾燥濾紙中に包装した。4〜5日間の乾燥後、種子を、96ウェルプレートにおいて(ウェル当たり1個の種子)アガロース表面上で(プレート当たり15mlの0.5%アガロース)20℃で、発芽について試験した。プライミングされた種子に加えて、対照種子(192個)もまた発芽した。
【0044】
図6は、3つの種子集団の発芽曲線を示す。プライミングされた種子は対照種子と比較して、より速やかで完全な発芽を示すことが明確に理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
種子の発芽に必要な代謝活性が、
(i)酸素分圧の減少、および
(ii)二酸化炭素分圧の増加、
の少なくとも1つにより制御される、種子をプライミングする方法。
【請求項2】
a)種子を十分量の水および十分量の酸素と接触させて、種子の発芽に必要な代謝活性を誘起せしめること、ならびに
b)根およびシュートの少なくとも1つの伸長を妨げる時点およびレベルでの
(i)酸素分圧の減少、および
(ii)二酸化炭素分圧の増加
の少なくとも1つにより、根およびシュートの少なくとも1つの伸長が、種子を取り扱うに際して種子に損傷が生じる危険性が高い点を超えるのを妨げること、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
a)種子を十分量の水および十分量の酸素と接触させて、種子の発芽に必要な代謝活性を誘起せしめること、ならびに
b)
(i)酸素分圧の減少、および
(ii)二酸化炭素分圧の増加、
の少なくとも1つにより種子における幼根の発生を妨げることであって、上記(i)および(ii)は、幼根の発生を妨げる時点およびレベルで行われるもの、
を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
酸素分圧が、代謝的に活性な種子の呼吸により減少し、好ましくは密閉された空間において減少する、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
酸素分圧が、酸素の化学的または物理的除去により減少する、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
幼根の発生を妨げる酸素分圧レベルが臨界酸素圧未満である、請求項3〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
酸素感受性蛍光色素によって酸素分圧を測定するステップを含む、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
幼根の生育を一時停止させるが生存能力の喪失はもたらさない水分含量に種子を乾燥させることをさらに含み、好ましくは乾燥中に酸素分圧及び二酸化炭素分圧の少なくとも1つを幼根の出現を妨げるレベルに保つ、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
種子を貯蔵するステップをさらに含み、それにより
a)酸素分圧、
b)種子の水分含量、および
c)二酸化炭素分圧
の少なくとも1つが幼根の発生を妨げるレベルに保たれる、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
種子が耐乾燥性ではなく、幼根の発生を妨げる酸素および二酸化炭素の少なくとも1つの分圧で種子を貯蔵することをさらに含む、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の種子をプライミングする方法を用いる、植物種のプライミングされた種子ロットを製造する方法。
【請求項12】
酸素分圧が臨界酸素圧未満である雰囲気下で水和されプライミングされた種子を含む容器。
【請求項13】
容器中の雰囲気が、下記の少なくとも1つまたは複数を99%超含む、請求項11に記載の容器:
窒素、たとえばヘリウム、ネオンまたはアルゴンのような希ガス、二酸化炭素、CO、NO、NO、NO、エチレン、およびエタノール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−528675(P2010−528675A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−512098(P2010−512098)
【出願日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際出願番号】PCT/NL2008/050370
【国際公開番号】WO2008/153388
【国際公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(509341433)
【Fターム(参考)】