説明

酸素イオン伝導体およびそれを備える電気化学セルならびに電気化学装置

【課題】 随伴ガスを効率よく分解することができる酸素イオン伝導体およびそれを備える電気化学セルならびに電気化学装置を提供する。
【解決手段】 イオン伝導部と電子伝導部とが隣接して配置されてなり、イオン伝導部は酸化カルシウム,酸化ガリウムおよび希土類酸化物の少なくとも1種を安定化剤とする酸化ジルコニウムを含んでなり、電子伝導部は、チタン,バナジウム,マンガン,鉄およ
びコバルトの少なくともいずれか1種が固溶したランタンクロマイト系のペロブスカイト酸化物を含んでなる酸素イオン伝導体である。さらには酸素イオン伝導体を備える電気化学セルならびに電気化学装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素イオン伝導性を有する酸素イオン伝導体およびこれを用いた電気化学セルならびに電気化学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、石油の産出時に随伴して産出されるガス(以下、随伴ガスという。)は、主に燃焼されることで処理されており、近年の環境問題において、例えば、随伴ガスを高圧コンプレッサーで地下に戻す方法や、この随伴ガスを発電所向けの燃料として用いる方法など、随伴ガスを燃焼以外の方法で処理する方法が検討されている。
【0003】
そして、酸素を用いて随伴ガスを分解して炭化水素ガスを生成する方法も多数提案されており、例えば特許文献1には、炭化水素ガスを生成するための酸素イオン輸送複合体要素として、酸素イオンと電子を輸送するための緻密層と、層状構造体を機械的に支持する多孔支持層とを備える層状構造体を備え、緻密層が、混合伝導体、イオン伝導体、及び金属を含む混合物で形成され、混合伝導体及びイオン伝導体が混合物中に緻密層を通して酸素イオン伝導を行える量で存在し、混合伝導体と金属が混合物中に緻密層を通して電子伝導を行える量で存在し、多孔支持層が酸化物分散強化金属、金属強化金属間合金、ホウ素ドープMoSi系金属間合金又はこれらの組合せで形成される、酸素イオン輸送複合体要素が提案されている。
【0004】
また、上記混合伝導体が、La0.2Sr0.8Fe0.6Ti0.4、又は、La0.2Sr0.8Fe0.8Cr0.2であって、イオン伝導体が、ガドリウムドープセリア、サマリウムドープセリア、イットリア安定化ジルコニア、セリア、ジルコニア、スカンジウム安定化ジルコニア、ランタン・ストロンチウム・ガリウム・マグネシウム酸化物、又は式MBiOx(Mはイットリア、モリブデン又はタングステンである)により表されるドープされたビスマス酸化物であることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2007−527468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述のような酸素イオン伝導体がLaとZrとを含んでなる場合に、これらの成分が反応してランタンジルコネートが生成される場合があり、この場合に、酸素イオン伝導体の酸素イオン伝導性および電子伝導性が低下し、性能が低下するおそれがある。
【0007】
それゆえ、本発明はこのような課題に鑑み、ランタンジルコネートの生成を抑制することで、酸素イオン伝導性および電子伝導性がともに高い酸素イオン伝導体およびこれを用いた電気化学セルならびに電気化学装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の酸素イオン導電体は、イオン伝導部と電子伝導部とが隣接して配置されてなり、前記イオン伝導部は酸化カルシウム,酸化ガリウムおよび希土類酸化物の少なくとも1種を安定化剤とする酸化ジルコニウムを含んでなり、前記電子伝導部は、チタン,バナジウム,マンガン,鉄およびコバルトの少なくともいずれか1種が固溶したランタンクロマ
イト系のペロブスカイト酸化物を含んでなることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の電気化学セルは、第1電極と、該第1電極を覆うように設けられた上記の酸素イオン伝導体と、該酸素イオン伝導体を覆うように設けられた第2電極とを備えることを特徴とする。
【0010】
さらに、本発明の電気化学装置は、上記電気化学セルを複数個備えてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の酸素イオン伝導体によれば、イオン伝導部と電子伝導部とが隣接して配置されてなり、前記イオン伝導部は酸化カルシウム,酸化ガリウムおよび希土類酸化物の少なくとも1種を安定化剤とする酸化ジルコニウムを含んでなり、前記電子伝導部は、チタン,バナジウム,マンガン,鉄およびコバルトの少なくともいずれか1種が固溶したランタン
クロマイト系のペロブスカイト酸化物を含んでなることから、隣接して配置されたイオン伝導部と電子伝導部との成分が反応することを抑制でき、イオン伝導性および電子伝導性の特性を高く維持することができる。
【0012】
また、本発明の電気化学セルによれば、第1電極と、該第1電極を覆うように設けられた酸素イオン伝導体と、該酸素イオン伝導体を覆うように設けられた第2電極とを備えることから、随伴ガスを効率よく分解することができる。
【0013】
さらに、本発明の電気化学装置によれば、上記の電気化学セルを複数個備えてなることから、随伴ガスを効率よく分解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態の電気化学セルの一例を示し、(a)は長手方向に垂直な断面における断面図、(b)は一部を抜粋して示す斜視図である。
【図2】図1に示す電気化学セルの他の一例を、一部を抜粋して概略的に示し、(a)は長手方向に垂直な断面における断面図、(b)はイオン伝導部および電子伝導部の配置の一例を示す平面図である。
【図3】(a)〜(g)は本実施形態の酸素イオン伝導体を構成するイオン伝導部および電子伝導部の配置の他の例を示す、平面視した模式図である。
【図4】本実施形態の電気化学セルの他の一例を、一部を抜粋して概略的に示し、(a)は長手方向に垂直な断面における断面図、(b)はイオン伝導部および電子伝導部の配置の他の一例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は本実施形態の電気化学セルの一例を示し、(a)は長手方向に垂直な断面における断面図、(b)は一部を抜粋して示す斜視図である。
【0016】
図1に示す例の電気化学セル1は、一対の対向する平坦部nと両端の弧状部mとからなる柱状の支持基体2の全周を覆うように第1電極である燃料極層3が設けられており、燃料極層3を覆うように酸素イオン伝導体である導電層4が設けられ、導電層4を覆うように、第2電極である空気極層5が設けられている。また、支持基体2の内部には、複数のガス流路6が設けられており、随伴ガスがこの内部を流れる。このような構成により、柱状の電気化学セル1が形成される。
【0017】
なお、図1においては、中空で断面扁平状の支持基体1上に第1電極である燃料極層3を設けた構成の電気化学セル1を示しているが、例えば支持基体2が第1電極を兼ねるものとしてもよく、また第1電極を空気極層とし第2電極を燃料極層とすることもでき、さ
らに例えば全体として円筒状や、平板状の電気化学セルとすることもできる。
【0018】
以下に、図1において示す電気化学セル1を構成する各部材について説明する。なお、導電層4については、図2において説明する。
【0019】
支持基体2は、ガス流路6を流れる随伴ガスを第1電極である燃料極層3まで透過させるためにガス透過性であることから、例えば、鉄族金属成分と特定の希土類酸化物とにより形成されることが好ましい。
【0020】
鉄族金属成分としては、鉄族金属単体、鉄族金属酸化物、鉄族金属の合金もしくは合金酸化物等が挙げられる。より詳細には、例えば、鉄族金属としてはFe(鉄)、Ni(ニッケル)およびCo(コバルト)が挙げられ、特に安価であることから、鉄族成分としてNiおよび/またはNiOを含有することが好ましい。
【0021】
特定の希土類酸化物とは、支持基体2の熱膨張係数を、後述する導電層4の熱膨張係数に近づけるために使用されるものであり、Y(イットリウム)、Lu(ルテチウム)、Yb、Tm(ツリウム)、Er(エルビウム)、Ho(ホルミウム)、Dy(ジスプロシウム)、Gd(ガドリニウム)、Sm(サマリウム)、Pr(プラセオジム)からなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む希土類酸化物が、NiおよびNiOのうち少なくとも一方との組み合わせで使用することができる。このような希土類酸化物の具体例としては、Y、Lu、Yb、Tm、Er、Ho、Dy、Gd、Sm、Prを例示することができ、NiおよびNiOのうち少なくとも一方との固溶反応が殆どなく、また、熱膨張係数が導電層とほとんど同程度であり、かつ安価であるという点から、Y、Ybが好ましい。
【0022】
また、支持基体2は良好な導電率を維持し、かつ熱膨張係数を導電層4と近似させるという点で、焼成−還元後における体積比率が、Ni:希土類酸化物(例えば、Ni:Y)が35:65〜65:35(Ni/(Ni+Y)がモル比で65〜86mol%)の範囲にあることが好ましい。なお、支持基体2中には、要求される特性が損なわれない限りの範囲で、他の金属成分や酸化物成分を含有していてもよい。また、支持基体2は、ガス透過性を有していることが必要であるため、気孔率が30%以上、特に35〜50%の範囲にあることが好ましい。なお気孔率は、アルキメデス法を用いて求めることができる。気孔率がこの範囲にあることで、電気化学セル1を構成する支持基体2として求められる機械的特性およびガス透過性を兼ね備えることができる。
【0023】
なお、支持基体2の大きさは、用途に応じて適宜設定することが可能であるが、例えば主面nの長さ(支持基体2のガス流路6の配列方向に沿った長さ)を15〜35mm、側面mの長さ(弧の長さ)を2〜8mm、支持基体2の厚み(主面n間の厚み)を1.5〜5mmとし、ガスが流れる方向の長さを800〜1200mmとすることができる。
【0024】
図1に示す電気化学セル1において、第1電極である燃料極層3は、鉄族金属であるNiおよびNiOのうち少なくとも一方と、希土類元素が固溶したZrOとから形成することができる。なお、希土類元素としては、支持基体2において例示した希土類元素(Y等)を用いることができる。
【0025】
燃料極層3において、NiおよびNiOのうち少なくとも一方と、希土類元素が固溶したZrOの含有量は、焼成−還元後における体積比率が、Ni:希土類元素が固溶したZrO(例えば、NiO:YSZ)が35:65〜65:35の範囲にあるのが好ましい。さらに、この燃料極層3の気孔率は、15%以上、特に20〜40%の範囲にあるのが好ましく、その厚みは、1〜30μmであるのが好ましい。例えば、燃料極層3の厚み
があまり薄いと、性能が低下するおそれがあり、またあまり厚いと、導電層4と燃料極層3との間で熱膨張係数差等による剥離やクラックを生じるおそれがある。
【0026】
また、図1に示す電気化学セル1において、第2電極である空気極層5は、ガス透過性を有する必要があり、従って、空気極層5を形成するセラミックス(ペロブスカイト型酸化物)は、気孔率が20%以上、特に30〜50%の範囲にあることが好ましい。さらに、空気極層5の厚みは、30〜100μmであることが好ましい。
【0027】
空気極層5を構成するセラミックスとしては、いわゆるABO型のペロブスカイト型複合酸化物を主成分とする焼結体からなるセラミックスにより形成されるのが好ましく、遷移金属ペロブスカイト型酸化物、特にAサイトにSr(ストロンチウム)とLa(ランタン)が共存するLaSrCoFeO系酸化物(例えばLaSrCoFeO)、LaMnO系酸化物(例えばLaSrMnO)、LaFeO系酸化物(例えばLaSrFeO)、LaCoO系酸化物(例えばLaSrCoO)の少なくとも1種が好ましく、600〜1000℃程度の作動温度での電気伝導性が高いという点からLaSrCoFeO系酸化物が特に好ましい。なお、上記ペロブスカイト型酸化物においては、Bサイトに、Co(コバルト)とともにFe(鉄)やMn(マンガン)が存在しても良い。
【0028】
図2は、図1に示す電気化学セル1の他の一例を概略的に示し、(a)は長手方向に垂直な断面における断面図、(b)はイオン伝導部および電子伝導部の配置の一例を示す平面図である。
【0029】
図2に示すように、本実施形態の電気化学セル1において、導電層4は、酸素イオンを伝導するイオン伝導部4aと、電子を伝導する電子伝導部4bとが隣接して配置されている。
【0030】
それにより、第2電極である空気極層5側に供給される空気から酸素イオンがイオン伝導部4aを通じて第1電極である燃料極層3側に伝導され、燃料極層3側で生じた電子が電子伝導部4bを通じて空気極層5側に供給される。それにより、この電気化学セル1においては、第1電極および第2電極において下記の反応を生じ、メタンガスを効率よく分解することができる。
燃料極層:CH+O → 2H+CO+2e
空気極層:1/2O+2e → O
ここで、図2に示す電気化学セル1においては、酸素イオン伝導体である導電層4をイオン伝導性物質と電子伝導性物質を混合して構成するのではなく、イオン伝導性の層であるイオン伝導部4aと電子伝導性の層である電子伝導部4bとを隣接して配置することにより、これら物質を混合して導電層を設ける場合に比べて、効率よく導電性を有することができる。
【0031】
本実施形態の酸素イオン伝導体は、上述したとおり、イオン伝導部4aと電子伝導部4bとが隣接して配置されてなり、イオン伝導部4aは酸化カルシウム,酸化ガリウムおよび希土類酸化物の少なくとも1種を安定化剤とする酸化ジルコニウム(以下、酸化カルシウム,酸化ガリウムおよび希土類酸化物の少なくとも1種を安定化剤とする酸化ジルコニウムを安定化ジルコニアという。なお、安定化ジルコニアには部分安定化ジルコニアも含むものとする。)を含んでなり、電子伝導部4bは、チタン,バナジウム,マンガン,鉄
およびコバルトの少なくともいずれか1種が固溶したランタンクロマイト系のペロブスカイト酸化物(以下、ランタンクロマイト系のペロブスカイト型酸化物をランタンクロマイトという。)を含んでなることが重要である。
【0032】
酸素イオン伝導体が、ランタンクロマイトと、安定化ジルコニアと、を含んでいると、
密度を十分高くすることができるので、酸素イオン伝導性および電子伝導性をともに高くすることができる。
【0033】
そして、ランタンクロマイトに、チタン,バナジウム,マンガン,鉄およびコバルトの
少なくともいずれか1種を固溶させることにより、酸素イオン伝導性および電子伝導性を低下させるランタンジルコネートの生成を抑制できる。それにより、酸素イオン伝導性および電子伝導性をいずれも高く維持することができる。なお、ランタンジルコネートの生成が抑制される理由について、詳細は分からないが、チタン,バナジウム,マンガン,鉄
およびコバルトがランタンクロマイトのペロブスカイト型構造のBサイトに固溶することで、ランタンの拡散を抑制することができるものと考えられる。
【0034】
特に、ランタンクロマイトは、電子伝導部4b中に50〜70mol%有されていることが好適である。それにより、電子伝導部4bにおける高い導電率を確保することができる。
【0035】
また本実施形態において、ランタンクロマイトは、組成式が、例えば、La(Cr1―(x+y)(Mはマグネシウムおよびカルシウムの少なくともいずれか1種であり、Nはカルシウム,ストロンチウム,チタン,バナジウム,マンガン,鉄およ
びコバルトの少なくともいずれか1種である。また、xおよびyは、いずれも0より大きく0.3以下であって、zは0.9以上1以下である。)である。
【0036】
ここで、チタン,バナジウム,マンガン,鉄およびコバルトの少なくともいずれか1種
が固溶しているランタンクロマイトは、エネルギー分散形X線分光器を装着した透過型電子顕微鏡を用いて、その化学量論的組成および含有量を求めることができる。
【0037】
また、本実施形態の電子伝導部4bは、酸化マグネシウムを含むことが好適である。電子伝導部4bが酸化マグネシウムを含むときには、酸化マグネシウムは線膨張係数が大きいので、例えば、電子伝導部4bを金属部材に接合したり、電気化学セルを構成する第1電極と、第2電極との間に配置したりする場合に、金属部材,第1電極および第2電極の線膨張係数に近づけることができ、高温に曝されても、信頼性が容易に損なわれにくくなる。
【0038】
特に、酸化マグネシウムは、ランタンクロマイト100質量%に対する含有量が4質量%以上6質量%以下であることが好適で、この範囲であると、金属部材,第1電極および第2電極の線膨張係数にさらに近づけることができ、信頼性が向上する。
【0039】
電子伝導部4bに含まれる酸化マグネシウムは、X線回折法を用いて同定することができるとともに、その含有量は、蛍光X線分析法またはICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析法によってマグネシウムの含有量を求め、酸化マグネシウムに換算すればよい。但し、ランタンクロマイトが、その組成式にマグネシウムを含む場合には、まず、エネルギー分散形X線分光器を装着した透過型電子顕微鏡を用い、ランタンクロマイトの化学量論的組成を特定する。そして、マグネシウムの含有量から化学量論的組成が特定されたランタンクロマイトを構成するマグネシウムの含有量を除いた含有量を求め、酸化マグネシウムに換算すればよい。
【0040】
一方、イオン伝導部4aに含まれる安定化ジルコニアは、X線回折法を用いて同定することができる。また、安定化ジルコニアの含有量は、蛍光X線分析法またはICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析法によってジルコニウムおよび安定化剤を構成するカルシウム、ガリウムおよび希土類元素のそれぞれの含有量を求め、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、酸化ガリウムおよび前記希土類元素の酸化物に換算することにより、
それぞれの酸化物の含有量を算出し、その合計が安定化ジルコニアの含有量となる。
【0041】
ここで、安定化剤は、例えば、3〜15モル%のY(イットリウム)、Sc(スカンジウム)、Yb(イッテルビウム)等の希土類元素の酸化物であることが好ましい。また、希土類元素としては、安価であるという点からYが好ましい。また、イオン伝導部4aは、ガス流路6を流れる随伴ガスの透過を防止するという点から、相対密度(アルキメデス法による)が93%以上、特に95%以上の緻密質であることが望ましく、かつその厚みが5〜100μmであることが好ましい。なお、上記以外であっても、酸素イオンを伝導することができるものを適宜用いることができ、例えば、Sm(サマリウム)やGd(ガドリニウム)等の希土類元素が固溶したCeO等も用いることができる。
【0042】
なお、電子伝導部4bの厚みは、その上に配置する空気極層5との接続を考慮して、イオン伝導部4aと同じ厚みとすることが好ましい。なお、イオン伝導部4aおよび電子電度部4bは、それぞれ100μm以下の厚みとすることが好ましい。
【0043】
また、本実施形態の酸素イオン伝導体である導電層4は、図2に示すように、イオン伝導部4aと電子伝導部4bとが縞状に設けられていることが好適である。
【0044】
このような構成であると、支持基体2がどのような形状であっても、イオン伝導部4aおよび電子伝導部4b間に隙間が生じにくく、酸素イオンおよび電子を効率的に移動させることができる。
【0045】
図3は、本実施形態の酸素イオン伝導体を構成するイオン伝導部および電子伝導部の配置の他の例を示す、平面視した模式図である。
【0046】
図3に示す例のイオン伝導部4aおよび電子伝導部4bは、それぞれ(a)がいずれも三角形状を、(b)がいずれも四角形状を、(c)がいずれも平行四辺形状を、(d)が六角形状と三角形状を、(e)が八角形状と四角形状とを隣接して配置した酸素イオン伝導体である。また、図3(g)に示す例の酸素イオン伝導体は、円状の電子伝導部4bと電子伝導部4bの周囲を囲む円状のイオン伝導部4aとの組み合わせからなり、図3(g)に示すように、電子伝導部4bとイオン伝導部4aとは同心円として配置されていることが好適である。また、図3(f)に示す例の酸素イオン伝導体は、四角形状の電子伝導部4bと電子伝導部4bの周囲を囲んだイオン伝導部4aとの組み合わせからなる。
【0047】
図4は、本実施形態の酸素イオン伝導体および電気化学セルの他の一例を概略的に示し、(a)は断面図、(b)はイオン伝導部および電子伝導部の配置の他の一例を示す平面図である。
【0048】
上述のように、例えばイオン伝導部4aをYが固溶したZrOであるYSZから作製し、電子伝導部4bをランタンクロマイトから作製した場合において、YSZとランタンクロマイトとを比較すると、ランタンクロマイトの導電率がYSZの導電率よりも高いこととなる。
【0049】
それゆえ、図4に示すように、導電層4の断面において、電子伝導部4bの面積の合計を、イオン導電部4aの面積の合計よりも小さくすることにより、空気極層5側から燃料極層3側に伝導する酸素イオンと、燃料極層3側から空気極層5側に伝導する電子とのバランスを保つことができ、効率よく随伴ガスの分解を行なうことができる。
【0050】
特に、イオン伝導部4aの面積の合計に対する電子伝導部4bの面積の合計の比率が、1%以上4%以下であることが好適であり、比率がこの範囲であると、酸素イオン伝導性
および電子伝導性をともにより高く維持することができる。
【0051】
なお、この場合において、イオン伝導部4aと電子伝導部4bとの間での電子の移動を行なうため、支持基体2が導電性を有することが好ましい。それゆえ、図1,2,4に示す電気化学セルにおいては、支持基体2をNiおよびNiOのうち少なくとも一方と、Yとを含んでなる構成とするとともに、導電性を有する構成としている。なお、支持基体2の導電率は、50S/cm以上、より好ましくは300S/cm以上、特に好ましくは440S/cm以上とすることがよい。
【0052】
以下に、図2で示した電気化学セル1の作製方法について説明する。
【0053】
先ず、NiおよびNiOの少なくとも一方の粉末と、Yなどの希土類酸化物の粉末と、有機バインダーと、溶媒とを混合して坏土を調製し、この坏土を用いて押出成形法により支持基体成形体を作製し、これを乾燥する。なお、支持基体成形体として、支持基体成形体を900〜1000℃にて2〜6時間仮焼した仮焼体を用いてもよい。
【0054】
次に、例えば所定の調合組成に従いNiO、Yが固溶したZrO(YSZ)の素原料を秤量、混合する。この後、混合した粉体に、有機バインダーおよび溶媒を混合して第1電極である燃料極層用スラリーを調製し、ドクターブレード等の方法により成形してシート状の燃料極層成形体を作製する。
【0055】
続いて、電子伝導部用材料(ランタンクロマイトの粉末と、チタン,バナジウム,マンガン,鉄およびコバルトの少なくともいずれか1種からなる粉末)、有機バインダーおよ
び溶媒を混合してスラリーを調製し、スクリーン印刷にて、上記シート状の燃料極層成形体上に塗布して、電子伝導部成形体を作製する。
【0056】
続いて、電子伝導部成形体が設けられた燃料極層成形体のシートを、燃料極層成形体が支持基体成形体側となるようにして巻きつけて、900〜1000℃にて2〜6時間仮焼する。
【0057】
次に、上記電子伝導部成形体をマスキングした後、酸化カルシウム,酸化ガリウムおよび希土類酸化物の少なくとも1種を安定化剤として含む安定化ジルコニアの粉末に、トルエン、バインダー、市販の分散剤等を加えてスラリーを調整し、該スラリーに浸漬して、電子伝導部成形体間にイオン伝導部成形体を作製する。なお、イオン伝導部成形体と電子伝導部成形体の作製順序を逆としてもよい。また、イオン伝導部成形体と電子伝導部成形体とが一部重なるように成形してもよい。
【0058】
次いで、上記の積層体成形体を脱バインダー処理し、酸素含有雰囲気中、1400℃〜1600℃にて2〜6時間、同時焼結(同時焼成)する。
【0059】
次いで、空気極層用材料(例えば、LaSrCoFeO系酸化物粉末)、溶媒および造孔剤を含有するスラリーをディッピング等により、イオン伝導部4aおよび電子伝導部4b上に塗布し、1000〜1300℃で、2〜6時間焼き付けることにより、図2に示す構造の電気化学セル1を製造できる。なお、電気化学セル1は、その後、内部に水素ガスを流し、支持基体2および燃料極層3の還元処理を行なう。その際、例えば750〜1000℃にて5〜20時間還元処理を行なうのが好ましい。
【0060】
以上のようにして作製された電気化学セル1は、酸素イオン伝導性および電子伝導性が低下するランタンジルコネートの生成を抑制でき、酸素イオン伝導性および電子伝導性をいずれも高く維持することができる酸素イオン導電体である導電層4を備えるため、効率
よく随伴ガスを分解することができる。
【0061】
あわせて、電気化学セル1は、イオン伝導部4aと電子伝導部4bとが隣接して設けられてなる導電層4と、導電層4の一方の面を覆うように設けられた第1電極(空気極層)3と、導電層4の他方の面を覆うように設けられた第2電極(燃料極層)5とを備えること、また、多孔質の支持基体2上に、第1電極(空気極層)3、導電層4、第2電極(燃料極層)5がこの順に積層されていることから、効率よく随伴ガスを分解することができる。
【0062】
そして、上述した電気化学セルを複数個備えることで、随伴ガスを効率よく分解することが可能な電気化学装置とすることができる。このような電気化学装置としては、例えば、上述した電気化学セルに随伴ガスを供給するための随伴ガスタンクに電気化学セルの一端を固定し、随伴ガスを分解して生じる水素ガスタンクに電気化学セルの他端を固定することで、効率よく随伴ガスを分解できるとともに、分解により生じた水素ガスを効率よく回収することができる。
【0063】
以上、本発明について詳細に説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更、改良等が可能である。
【0064】
例えば、上述の例において、支持基体2として導電性の支持基体2を用いる例を説明したが、支持基体2の表面に導電性を有する層が設けられている場合には、支持基体2を絶縁性とすることもできる。
【0065】
また、上述の例において、支持基体2上に、第2電極である燃料極層3の1層を設ける構成について説明したが、第1電極である燃料極層3と第2電極である空気極層5とでの電子やイオンの伝導をより効率よく行うにあたり、第1電極である燃料極層3と支持基体2との間に、より導電性を有する材料からなる層を設けることもできる。
【0066】
また電気化学セル1を円筒型や平板型とする場合には、適宜公知の方法により、第1電極と、該第1電極を覆うように設けられイオン伝導部と電子伝導部とが隣接して設けられてなる導電層と、該導電層を覆うように設けられた第2電極とを備える構成とすればよい。
【符号の説明】
【0067】
1:電気化学セル
2:支持基体
3:第1電極(燃料極層)
4:導電層
4a:イオン伝導層
4b:電子伝導層
5:第2電極(空気極層)
6:ガス流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン伝導部と電子伝導部とが隣接して配置されてなり、前記イオン伝導部は酸化カルシウム,酸化ガリウムおよび希土類酸化物の少なくとも1種を安定化剤とする酸化ジルコニウムを含んでなり、前記電子伝導部は、チタン,バナジウム,マンガン,鉄およびコバ
ルトの少なくともいずれか1種が固溶したランタンクロマイト系のペロブスカイト酸化物を含んでなることを特徴とする酸素イオン伝導体。
【請求項2】
前記イオン伝導部と前記電子伝導部とが縞状に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の酸素イオン伝導体。
【請求項3】
平面視において、前記電子伝導部の面積の合計が、前記イオン伝導部の面積の合計よりも小さいことを特徴とする請求項1または2に記載の酸素イオン伝導体。
【請求項4】
第1電極と、該第1電極を覆うように設けられた請求項1乃至3のうちいずれかに記載の酸素イオン伝導体と、該酸素イオン伝導体を覆うように設けられた第2電極とを備えることを特徴とする電気化学セル。
【請求項5】
多孔質の支持基体上に、前記第1電極、前記酸素イオン伝導体、前記第2電極がこの順に積層されていることを特徴とする請求項4に記載の電気化学セル。
【請求項6】
請求項4または5に記載の電気化学セルを複数個備えてなることを特徴とする電気化学装置。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−43161(P2013−43161A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184914(P2011−184914)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】