説明

酸素インジケーター

【課題】酵素を用いた酸素インジケーターであって、より安定的に、酸素の有無を明確に判別できる酸素インジケーターを提供すること。
【解決手段】基質が酸素の存在下に酵素の触媒作用を介して光吸収スペクトル変化する反応を用いて、発色性基質、酸化還元酵素を少なくとも含む酸素感応性溶液(pH緩衝剤、還元剤を含んでもよい)からなる酵素を用いた酸素インジケーターであって、酸素感応性溶液のpHが特定の範囲内にあり、酸素検知前の酸素感応性溶液の酵素活性Mが0.1U/ml以上である酸素インジケーター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素を用いた酸素インジケーターに関する。
【背景技術】
【0002】
スーパーマーケットなどで食材を購入し、各家庭でその購入した食材を調理して食べるという従来の形態に加え、最近では共働きのため調理の時間がない、自分の趣味の時間を多く取りたい等の理由により、家事を簡便に行いたいという意向から、調理に関してはスーパーマーケット等のバックヤードやセントラルキッチンなどで調理された調理済み食品等を購入し、家庭で食す形態が増えてきている。
一方、スーパーマーケットやコンビニエンスストアの調理済食品においては、調理済食品の利便性を売りに個々の食品の味、量等、好みに合わせた商品開発が活発になされ、多種類の食品が市場に投入されている。また、スーパーマーケットやコンビニエンスストア等の惣菜販売者は、消費者の強いニーズである素材そのもののおいしさの提供および安心・安全・健康志向に応えるため、食品保存料等を削減した惣菜等の提供を模索しているが、食品保存料を削減すると食品の腐敗開始が早くなるため、食品の安全対策が必須となっている。また、食品の腐敗に関する研究から、空気中の酸素の影響が重要であることが広く知られている。そのため、包装体内を無酸素状態で包装する種々の方法が検討されている。食品の腐敗を防止する目的で、包装体内を無酸素状態に保つ方法として、包装体内を真空状態で包装する真空包装したり、包装体内に酸素吸収剤を用いて無酸素包装したり、包装体内を所望のガスにて密封するガス置換包装する方法等が挙げられる。
【0003】
例えば、真空包装の場合、包装体内を真空状態にするため、酸素による食品の酸化等の腐敗を防止でき、さらに、包装体内が真空で保たれているかを判別する際は、包装体内に空気の流入があるかどうかを目視確認することで、比較的容易に判別できる。また、保管、陳列スペースの点において有利であり、比較的長期の保存が必要な場合に多用されている。しかしながら、包装体内を真空にするため、食品が該包装体を包装しているフィルム等によって大気圧によって密着した包装形態になり、ボリューム感を与えることができない他、食品の形態がいびつになってしまうため美粧性の観点で、問題が残る。
一方、包装体内に酸素吸収剤を用いたり、酸素吸収層を有する包装材で包装する場合や包装体内を所望のガスにて密封するガス置換包装する方法では、食品を大気圧によって押しつぶすこと無く、食品を作ったままの形状でディスプレイできるため、商品をおいしく見せられる等のいわゆるディスプレイ効果による商品差別化が図れる点で優れている。そのため、賞味期限が数日から1ヶ月以内の比較的短期間の商品については酸素吸収による無酸素包装やガス置換包装の検討が主として行われている。
【0004】
また、近年、スーパーマーケットやコンビニエンスストア等の惣菜販売者は素材そのもののおいしさを提供したいために、食品保存料等を削減した健康志向の惣菜等の提供を模索しているが、食品保存料を削減すると食品の腐敗開始が早く、食品の安全対策が必須となるため、食品保存料等の添加物を添加しないで食品の保存性を高める手段としてガス置換包装による検討がなされている。ガス置換包装とは、不活性気体である窒素、アルゴン等で包装体内を密封して食品の酸素による酸化劣化を抑制する手法であるが、食品の微生物的な汚染防止の観点からこのガス置換技術に加え、微生物等の繁殖抑制・殺菌を目的として他の気体を不活性気体に混合することがよく知られている。微生物等の繁殖抑制に使用される気体や殺菌に使用される気体の例として、低コスト・食品安全の観点から二酸化炭素やアルコール等が挙げられる。二酸化炭素は主として微生物の繁殖を抑制する静菌作用等を有し、アルコールは主として微生物の殺菌作用等を有している。近年のガス置換包装には不活性気体、二酸化炭素等の微生物繁殖抑制気体、アルコール等の微生物殺菌気体等を混合したガス組成を用いることが食品の安全性の観点より多用されている。
【0005】
しかしながら、酸素吸収によって無酸素包装したり、包装体内を所望のガスにて密封するガス置換包装する方法では、包装体内のガス環境を目視して包装体内が適したガス雰囲気下で保存されているかどうかの判断をすることは難しく、包装体内のガス雰囲気が適性であるかどうかを判別する方法が模索されている。そこで、不活性気体、二酸化炭素等の微生物繁殖抑制気体、アルコール等の微生物殺菌気体の混合組成でも使用でき、食品腐敗に大きな影響を与える酸素の有無を検知できる酸素インジケーターの開発が望まれている。
このような、酸素インジケーターとして、特許文献1には酵素反応を利用した酸素インジケーターが開示されている。
【0006】
ガス置換包装された包装体内の酸素濃度を判別するために、該酸素インジケーターを使用する場合、種々の要因により酸素感応性溶液のpHが変化して、酵素の活性が低下し、酸素検知により発色する際、発色しなかったり、色彩変化が緩慢であったり、発色濃度が薄く容易に判別し難い等の問題が生じる場合がある。pH変化の要因としては、置換ガスに含まれるアルコールや二酸化炭素が酸素インジケーターの酸素感応性溶液に溶解すること、酸素感応性溶液に還元剤を含む場合に、還元剤の添加又は還元剤と酸素との反応によるもの、発色性基質と酸素との反応によるもの等が挙げられる。
そこで、これらの要因に影響されず、より安定的に、良好に発色して、酸素の有無を明確に判別できる酸素インジケーターが望まれる。
【特許文献1】特表2001−503358号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、酵素を用いた酸素インジケーターであって、より安定的に、酸素の有無を明確に判別できる酸素インジケーターを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討した結果、本発明をなすに至った。
すなわち、本発明は下記の通りである。
(1)発色性基質、酸化還元酵素、pH緩衝剤を少なくとも含む酸素感応性溶液からなる酸素インジケーターであって、酸素感応性溶液のpHがx1〜x2の範囲内にあること及びpH緩衝剤の緩衝能βをpH緩衝剤濃度c規定(N)で割った値β/cが0.2以上であることを特徴とする酸素インジケーター。
x1、x2:上記酵素のpH安定性において、その残存率が25%以上であるpH範囲をx1〜x2(x1<x2)とする。
(2)pH緩衝剤が酸性度指数pKa値を2つ以上持ち、任意の二つのpKa(pKa(i)、pKa(j))が下式(1)〜(3)を同時に満たすpH緩衝剤を酸素感応性溶液に含むこと及び酸素感応性溶液のpHがx1〜x3の範囲内にあることを特徴とする(1)に記載の酸素インジケーター。
x1−1<pKa(i)<pKa(j)<x2+1 (1)
pKa(i)<(x1+x3)/2<pKa(j) (2)
0<pKa(j)−pKa(i)<2.0 (3)
x3:上記酸素感応性溶液の酵素活性Mを各pHについて測定し、pH−酵素活性M関係において、酵素活性Mが最大を示すpHよりも高い領域において、最大値の10%となるpHをx3(x1<x3)とする。
(3)酸素検知前の酸素感応性溶液の酵素活性Mが0.1U/ml以上であることを特徴とする請求項1〜2に記載の酸素インジケーター。
【発明の効果】
【0009】
本発明の酸素インジケーターは、酵素を用いた酸素インジケーターであって、より安定的に、酸素の有無を明確に判別できる効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明について、特にその好ましい形態を中心に、以下具体的に説明する。本発明の酸素インジケーターは、発色性基質、酸化還元酵素、pH緩衝剤を少なくとも含む酸素感応性溶液からなり、還元剤をさらに含んでもよく、これらの組み合わせにより、所望の酸素濃度を閾値として酸素の有無を判別するものである。詳しくは、常圧、常温の通常の条件下で無酸素状態もしくは低酸素状態から酸素が増加したことを検知するものである。
本発明が特許文献1の従来技術と最も相違するところは、従来技術では、酵素自体の安定性に関しては全く考慮されておらず、酸素感応性溶液のpH範囲及び酵素活性を規定していないのに対し、本発明は、pH範囲及び酵素活性を規定している点である。その効果は、従来技術では、ガス置換包装における置換ガスの溶解、還元剤や発色性基質の反応等による酸素感応性溶液のpH変化により、酵素の活性が低下し、酸素検知による発色の際、発色しなかったり、色彩変化が緩慢であったり、発色濃度が薄い等の問題を生じる場合がある。これに対して、上記の影響を受けずに、酵素を安定化させ、良好に発色して、酸素の有無を明確に、より安定的に判別できる点である。
【0011】
また、従来の酵素反応を用いる診断薬の分野における一般的な反応では、反応時間が数分から数十分といった短時間であるため、反応中のpHの変動、酵素の安定性や活性の変化については、あまり問題にならず、酵素活性の方が重要視され、酵素活性の高いpH域で反応させている。pHに対して酵素の活性と安定性はトレードオフの関係にある場合がよくある。これに対して、本発明の用途における酸素インジケーターでは、反応時間は数時間から数十時間といった長時間であるため、良好に発色して、酸素の有無を明確に判別するためには、反応中のpHの変動抑制、酵素の安定化、酵素活性の維持が重要であり、酵素活性の高さよりも酵素の安定性が高いpH域で反応させる点が従来技術と大きく相違する。一方で酵素活性は酵素の添加量を増やすことで補っている。
【0012】
本発明で用いられる酸化還元酵素とは、EC1群の中から選ばれ、酸素分子の存在下に酸素とは別の発色性基質を化学的に変化させる反応に対して触媒作用を示すものであり、酵素的または非酵素的な酸素との酸化反応による生成物と発色性基質との反応において触媒作用を示すもの等である。前者の酸化還元酵素としては、具体的に例示するとオキシダーゼ系、フラビンモノオキシゲナーゼ系、銅ヒドロモノオキシゲナーゼ系、鉄モノオキシゲナーゼ系、リブロース2リン酸オキシゲナーゼ系、ジオキシゲナーゼ系等が挙げられ、カテコールオキシダーゼ(EC1.10.3.1)、ラッカーゼ(EC1.10.3.2)、ビリルビンオキシダーゼ(EC1.3.3.5)、アスコルビン酸オキシダーゼ(EC1.10.3.3)、3−ヒドロキシアントラニル酸オキシダーゼ(EC1.10.3.5)、アルコールオキシダーゼ(EC1.1.3.13)、コレステロールオキシダーゼ(EC1.1.3.6)、グルコースオキシダーゼ(EC1.1.3.4)などが好ましい具体例として挙げられる。
【0013】
後者の酸化還元酵素としては、例えばペルオキシダーゼ系などが挙げられる。この反応を具体的に例示すると、酵素的又は非酵素的な反応により生成した過酸化水素を用いて、ペルオキシダーゼ(EC1.11.1.7)の触媒作用によって、発色性基質を呈色反応させたり、発色性基質として水素供与体と色原体を組み合わせて用いてカップリングして呈色反応させるなどが挙げられる。なお、これら呈色反応は、特に限定されるものではなく、例えば「高阪著,酵素的測定法、p.49〜55、医学書院(1982)」に記載のペルオキシダーゼ共役呈色反応が用いられる。
本発明では、使用する発色性基質などとの組み合わせによって、これら酸化還元酵素の中から適宜選択したものを単独で使用してもよいし、複数組み合わせて使用してもよい。上記酸化還元酵素のうち、汎用性、コスト的な観点からビリルビンオキシダーゼ(EC1.3.3.5)やアスコルビン酸オキシダーゼ(EC1.10.3.3)がより好ましく、酵素安定性の観点からアクレモニウム属(Acremonium species)由来のアスコルビン酸オキシダーゼが最も好ましい。
【0014】
本発明でいう酵素活性とは、一定の反応速度の化学変化を触媒する酵素の量を意味しており、単位はU(1分間に1マイクロモルの基質を変化させる活性の量)を用いて、酵素活性(U/ml)=単位重量当りの酵素活性(U/mg)×酵素添加量(mg/ml)で表される。本発明でいう酵素活性S(U/ml)は酵素自身が持つ酵素活性の単位体積当たりの濃度を意味する。酵素活性Sの測定は、酸化還元酵素をpH緩衝剤で溶解した酵素溶液を発色性基質とpH緩衝剤からなる活性測定用の基質溶液に少量混合し、その混合液の吸光度測定により求められる。活性測定用基質溶液中の発色性基質濃度は、酸化反応速度が発色性基質濃度の影響を受けないように、発色性基質過剰状態に設定する。つまり、事前に発色性基質濃度と酸化反応速度の関係図を作成し、酸化反応速度が平衡状態となっている領域の発色性基質濃度範囲内から適宜設定すればよい。酵素活性M(U/ml)は、酸素インジケーターに使用する酸素感応性溶液の酵素活性の濃度を意味しており、発色性基質、酸化還元酵素、pH緩衝剤を混合した酸素感応性溶液の酵素活性である。さらに還元剤を含んでも良い。還元剤を含む場合、酵素活性に対する還元剤の影響を含めた酵素活性である。一方、酵素活性Sは還元剤を含まないため、酵素活性に対する還元剤の影響がない。酵素活性Mの測定は酸素感応性溶液をpH緩衝剤で希釈した酵素溶液を発色性基質とpH緩衝剤からなる活性測定用の基質溶液に少量混合し、その混合液の吸光度測定により求められる。
【0015】
本発明では酸素検知前の酸素感応性溶液の酵素活性Mが0.1U/ml以上であることが好ましく、1.5U/ml以上がさらに好ましい。この範囲においては、酸素インジケーターが酸素検知により発色する際、速やかに色が変化し、かつ十分な発色濃度を有し、容易に酸素の有無を判別できる。酵素活性Mの上限は特に限定されるものではないが、一定量を超えると、それ以上効果が無いので無駄であり、コスト的な負担の問題から10000U/ml以下が好ましい。
本発明でいう酵素の熱安定性Tとは、酸化還元酵素をpH緩衝剤に溶解させた溶液を種々の温度で10分保持する前後に酵素活性Sを測定し、その残存率を求め、得られる温度−酵素活性Sの残存率関係図において残存率が50%に低下する温度を意味している。本発明で用いられる酸化還元酵素は熱安定性T(℃)が上限は特に限定されるものではないが、50〜100℃であることが好ましく、60〜100℃がさらに好ましい。100℃以下であれば、水溶液であるpH緩衝剤の水の蒸発を防ぐことができる。この範囲においては、夏場などの高温度雰囲気下で酸素インジケーターを使用しても、酵素活性を維持し、酸素検知による発色過程で速やかに色が変化し、十分な発色濃度を示すため酸素の有無を容易に判別できる。
【0016】
酸素感応性溶液中の酸化還元酵素の添加量は、単独で使用する場合や複数組み合わせて使用する場合に関わらず、0.01μg/ml〜100mg/mlの範囲が好ましい。一般に酸化還元酵素は水に溶解させると希薄溶液ほど酵素活性が低下し易く、また他原料と比較して高価である。従って、本発明では該濃度がこの範囲にあれば、使用する酸化還元酵素にもよるが、比較的安定した保存安定性を確保することができるとともに、コスト的な負担が問題にならない。該濃度は、使用する酸化還元酵素の種類や性質、使用する発色性基質など他の原料の濃度との組み合わせ、原料として使用する酸化還元酵素の活性、又は酸素インジケーターとしたときに検知される酸素濃度閾値や検知に要する時間などを調整する目的で上記範囲から適宜選択される。酵素自体の保存安定性やコスト的な観点から1〜1000μg/mlがより好ましい。
【0017】
本発明では、発色性基質とは、酵素の触媒作用を受ける基質のうち、酸素とは別の基質として該酵素の反応によって光吸収スペクトルが変化し酸素の検知に用いられる化合物を指す。
本発明でいう発色とは、物質の光吸収スペクトルの変化を指し、酸化還元酵素の触媒作用により発色性基質が酸化されて化学構造や性質が変化することに起因して、光学的な波長吸収領域が変化することをいう。利用することができる光吸収スペクトルの波長域は、変化した吸光度を測定又は検出することができればどの領域の波長でも利用することができる。例えば、UV領域に変化域があればUV測定装置などを用いて光吸収スペクトルの変化を検出すればよく、可視光域(400nm〜600nm)であれば波長を測定する機械を用いることなく色彩の変化を目視で識別できる。
本発明でいう光吸収スペクトル変化反応とは、発色性基質が酸素の存在下に酸化還元酵素の触媒作用を介して光吸収スペクトルが変化する反応をいう。
光吸収スペクトルが変化する発色性基質の化学構造や性質の変化としては、具体的に例示すると水酸基やアミノ基等からの水素引き抜き、二重結合の形成、基質同士の会合やカップリング、電子移動に伴う電荷の非局在化など様々な変化が挙げられる。本発明では使用する発色性基質を種々選択することによって所望の色で酸素の有無を検知することができる。
【0018】
このような発色性基質としては、水酸基、アミノ基、シアノ基、カルボニル基等の活性の比較的高い官能基を有する化合物、酸化還元試薬であるフェノ−ル誘導体、アニリン誘導体、トルイジン誘導体、安息香酸誘導体等が好ましい。具体的に例示するとヒドロキノン、ポリフェノール、p−フェニレンジアミン、シアニン色素、アミノフェノール、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、2,4−ジクロロフェノ−ル、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン(DAOS)、N−エチル−N−スルホプロピル−3,5ジメチルアニリン(MAPS)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメチルアニリン(MAOS)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−m−トルイジン(TOOS)、N−エチル−N−スルホプロピル−m−アニシジン(ADPS)、N−エチル−N−スルホプロピルアニリン(ALPS)、N−エチル−N−スルホプロピル−3,5−ジメトキシアニリン(DAPS)、N−スルホプロピル−3,5−ジメトキシアニリン(HDAPS)、N−エチル−N−スルホプロピル−m−トルイジン(TOPS)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−m−アニシジン(ADOS)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)アニリン(ALOS)、N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン(HDAOS)、N−スルホプロピル−アニリン(HALPS)、o−ジアニシジン、o−トリジン、3,3−ジアミノベンジジン、3,3,5,5−テトラメチルベンジジン、N−(カルボキシメチルアミノカルボニル)−4,4−ビス(ジメチルアミノ)ビフェニルアミン(DA64)、10−(カルボキシメチルアミノカルボニル)−3,7−ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン(DA67)、3,5−ジニトロ安息香酸、5−アミノサリチル酸、3−ヒドロキシアントラニル酸、3,5−ジアミノ安息香酸等、4−アミノアンチピリン、o−フェニレンジアミン、1−アミノ−2−ナフト−ル−4−スルホン酸、1−フェニル−3−メチル−5−ピラゾロン、2−アミノ−8−ナフトール−6−スルホン酸、3−メチル−2−ベンゾチアゾリノンヒドラゾン、2−アミノ−フェノ−ル−4−スルホン酸、2,6−ジブロモ−4−アミノフェノ−ル、2,2’−アジノ−ル(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)ジアンモニウム塩、2,2’−アジノビス (3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)アンモニウム塩(ABTS)、2,6−ジクロロインドフェノール、カテコ−ル、タンニン、エピカテキン、エピガロカテキン等が挙げられる。なお、さらに蛍光的に観察したい場合には、酸化によって蛍光を発する化合物、例えばホモバニリン酸、4−ヒドロキシフェニル酢酸、チラミン、パラクレゾ−ル、ジアセチルフルオレスシン誘導体等、化学発光的に観察したい場合にはピロガロ−ル等も挙げられる。ここに示した物質は一例に過ぎず、酵素の触媒作用により、蛍光を発する反応が顕著に促進される物質は全てこれに含まれる。また、複数の化合物をカップリングして光吸収スペクトルが変化するものでも良い。例えば、4−アミノアンチピリン、2,6−ジブロモ−4−アミノフェノール、ABTSなどと、フェノール誘導体、アニリン誘導体、4−ヒドロキシ安息香酸誘導体などとの組合せが挙げられる。
【0019】
本発明では、使用する酸化還元酵素などとの組み合わせによって、これら発色性基質の中から適宜選択したものを単独で使用してもよいし、複数組み合わせて使用してもよい。上記発色性基質のうち、汎用性、発色性基質自体の安定性、コスト的な観点などから、安息香酸誘導体、2,2’−アジノビス (3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)アンモニウム塩(ABTS)、1,2−ジオキシベンゼン誘導体、3−ヒドロキシアントラニル酸誘導体が好ましく、水への溶解性など取り扱いの観点から、2,2’−アジノビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)アンモニウム塩(ABTS)が最も好ましい。
【0020】
酸素感応性溶液中の発色性基質の濃度は、単独で使用する場合や複数組み合わせて使用する場合に関わらず、合計で0.01〜1000mg/mlの範囲が好ましい。本発明では、該濃度がこの範囲にあれば、使用する発色性基質にもよるが、明確に光吸収スペクトルの変化を認識することができるとともに、コスト的な負担が問題にならない。該濃度は、使用する発色性基質の種類や性質、使用する酸化還元酵素など他の原料の濃度との組み合わせ、原料として使用する酸化還元酵素の吸光度係数、又は酸素インジケーターとしたときの検知する酸素濃度閾値や検知に要する時間、検知する際の色彩、色差変化などを調整する目的で、上記範囲から適宜選択される。酸素インジケーターとした場合、酸素検知の認識のし易さやコスト的な観点から、該濃度は0.1〜50mg/mlの範囲がより好ましい。
【0021】
本発明で用いる発色性基質はモル吸光係数が200L/mol/cm以上であることが好ましく、2000L/mol/cm以上がより好ましい。上限は特に限定されるものではないが、酸素検知における酸素濃度閾値や検知に要する時間、検知する際の色彩、色差変化などの調整し易さの観点から、1000000L/mol/cm以下が好ましい。この範囲においては、明確に光吸収スペクトルの変化を認識することができる。
本発明では酸素感応性溶液の著しいpH変化を抑制して酵素活性の変動を防ぎ、より長期的に安定して酸素検知を行う方法のひとつとして、該溶液にpH緩衝剤を含む方法がある。pH緩衝剤としては、例えば、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、リンゴ酸緩衝液、リン酸緩衝液など、一般にpH緩衝剤として使用されているものが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、使用する酸化還元酵素に適したものを適宜選択すればよい。pH緩衝剤は適宜選択したものでもよいし、複数組み合わせて使用してもよい。
【0022】
本発明でいうpHの特定値であるx1、x2、x3について述べる。酸素感応性溶液をpH緩衝剤で希釈した希釈液を様々なpHについて調製し、各液の酵素活性Mを測定する。得られたpH−酵素活性M曲線(上に凸な形状)において、酵素活性Mが最大を示すpHよりも高い領域において、最大値の10%となるpHをx3とする。さらに、30℃×24時間保持後の酵素活性M(U/ml)を測定し、保持前後の残存率を求め、得られるpH−残存率曲線(pH安定性)(上に凸な形状)において、残存率が最大値に対して25%となる二つのpHをx1、x2(x1<x2、x1<x3)とする。ここで、pH安定性評価における、保持条件(30℃×24時間)は、ガス置換包装における酸素インジケーターの使用環境を想定して設定しており、保持温度を30℃としている。また、本発明の用途では、反応時間は数時間から数十時間といった長時間であるため、保持時間を24時間といった長時間に設定している。x3決定に際して、使用するpH緩衝剤により設定可能なpH上限(又は下限)においても、酵素活性Mが最大値の10%より高い場合は、最大値と曲線の最端点(設定可能なpH上限又は下限)を結ぶ直線により、曲線を補間延長し、最大値の10%となるpHを求め、これをx3とする。また、x2の決定に際して、使用するpH緩衝剤により設定可能なpH上限においても、残存率が最大値の25%より高い場合は、pH−残存率曲線の形状を、該pH上限を境に線対称であると近似して、残存率が最大値の25%となるpHをx2とする。
【0023】
本発明で用いる酸素感応性溶液のpH範囲はx1〜x2である。好ましくはx1〜x3(ここで、x2>x3)。この範囲においては、酵素の安定性と活性の両者を高い状態に維持することができるため、酸素インジケーターを保管又は酸素検知に使用する際に、酵素活性が低下することなく、酸素検知による発色の際、速やかに色彩変化し、かつ十分な発色濃度を有し、酸素の有無を明確に判別できる。また、本発明では、好ましいpH範囲を維持するための手段は、緩衝能の高い緩衝液を選定することである。以下にその詳細を述べる。
【0024】
本発明でいう緩衝能β(N)はpH緩衝剤の緩衝作用の大きさ尺度であり、緩衝液に添加された塩基または酸の量dB(N)と、溶液のpH変化dpHの比で示される量である。酸を添加した場合には、dBに負の符号をつける。緩衝能βは緩衝液に一定のpH変化を起こすために加えねばならない酸または塩基の量を表しており、この値が大きいほど緩衝作用が大きいということになる。また、pH緩衝剤の濃度が高いほど緩衝能が高くなる(生化学辞典、p.335、東京化学同人(1998))。pH緩衝剤濃度c(N)の影響を排除して緩衝能を評価するためには、β/cを用いればよい。緩衝能βはここではpH緩衝剤を構成する酸または塩基による適定曲線において、pH域x1〜x3部分を直線近似した際の傾きの逆数を意味しており、下式(4)により計算される。
β/c=dB/dpH/c (pH域x1〜x3において) (4)
B:pH緩衝剤に添加された塩基または酸の量(N)
c:pH緩衝剤濃度(N)
【0025】
本発明で用いるpH緩衝剤は緩衝能β/cが0.2以上であり、0.5以上が好ましい。さらに本発明で用いるpH緩衝剤は、pKa値を2つ以上持ち、任意の二つのpKa(pKa(i)、pKa(j))が下式(1)〜(3)を同時に満たすものが好ましい。緩衝能はpH=pKa±1の範囲で高いため、二つのpKaが下式(3)を満たすような近いpH域に存在する場合、最適なpH域x1〜x3を含む広いpH域で高い緩衝能を示すことが期待できる。
x1−1<pKa(i)<pKa(j)<x2+1 (1)
pKa(i)<(x1+x3)/2<pKa(j) (2)
0<pKa(j)−pKa(i)<2.0 (3)
【0026】
上記範囲においては、緩衝能が高いため、ガス置換包装における置換ガスの溶解、還元剤や発色性基質の反応等による酸素感応性溶液のpHへの影響を受けずに、酸素感応性溶液のpHを適切な範囲x1〜x2、好ましくはx1〜x3に制御することができ、酵素活性Mを維持でき、酸素検知により発色する際、速やかに色彩変化し、かつ十分な発色濃度を有し、酸素の有無を容易に判別できる。本発明では、本発明の効果である、より安定的に酸素の有無を明確に判別できる効果を示すためには、緩衝能の高い緩衝液を選定することが好ましい。また、pKa値を2つ以上持つpH緩衝剤としては、クエン酸緩衝液、リンゴ酸緩衝液、リン酸緩衝液、酒石酸緩衝液などが挙げられる。緩衝能β/cの上限は特に限定されるものではないが、一定値を超えると、それ以上効果がほとんど変らないので、コスト的負担の問題から1000以下が好ましい。
酸素感応性溶液中のpH緩衝剤の濃度は酸素感応性溶液中の他物質の濃度に応じて適宜選択すればよいが、具体的には、単独で使用する場合や複数組み合わせて使用する場合に関わらず、酸素感応性溶液中の緩衝作用を効果的に発揮するためには少なくとも10mM以上であることが好ましい。pH緩衝剤の濃度の上限は、溶解性やコスト的な観点から1M以下が好ましい。
【0027】
本発明では、所望の酸素濃度を閾値として酸素の有無を判別する方法のひとつとして、酸素感応性溶液に還元剤を添加し、還元剤の添加量を調整する方法がある。このような還元剤を具体的に例示する。酸化によりジスフィルド基を生成するメルカプト基含有化合物としては、グルタチオン、システイン、N−アセチルシステインなどのシステイン誘導体、メルカプトエタノール、ジチオスレイトール、チオグリセロールなどが挙げられる。その他、アルカリ性物質とグルコース、フルクトース等の還元糖類、フェロシアン化カリウム、亜ジチオン酸塩、チオ硫酸塩、亜硫酸塩、アスコルビン酸、エリソルビン酸、シュウ酸、マロン酸、及びこれら有機酸の金属塩等が挙げられる。本発明では、使用する酸化還元酵素などとの組み合わせによって、上記還元剤の中から適宜選択したものを単独で使用してもよいし、複数組み合わせて使用してもよい。上記還元剤のうち、汎用性、コスト的な観点などから、グルタチオン、システイン塩酸塩、N−アセチルシステイン、チオグリセロール、アスコルビン酸、エリソルビン酸、シュウ酸、マロン酸、及びこれら有機酸の金属塩が好ましく、安全衛生の観点からアスコルビン酸やエリソルビン酸、及びこれらの金属塩がより好ましい。
【0028】
本発明でいう還元剤の安定性R(%)とは、上記のpHの値であるx1、x3を用いて表されるpH=(x1+x3)/2のpH緩衝剤に還元剤を溶解した液を、37℃で7日間保持した後の還元剤の残存率を意味する。本発明で用いる還元剤は、その安定性Rが50〜100%であることが好ましく、70〜100%であることがより好ましい。
上記還元剤の濃度は、所望の酸素濃度を閾値として酸素の有無を判別するために使用する酸化還元酵素や発色性基質の濃度に応じて調整した濃度とすればよいが、溶解性やコスト的な観点から、0.1〜500mMが好ましい。
一般に生化学の分野において、酵素は熱やpHなどの影響により反応活性が低下し易いという認識があり、酵素の種類にもよるが、酵素を長期保管する場合には溶液状態ではなく乾燥状態のまま冷凍保管しているのが通常である。ところが、酵素を酸素インジケーターとして利用する場合には、上記の酸素検知反応を行うにあたって溶液状態の酸素感応性溶液にする必要がある。
【0029】
本発明では、溶液状態でも酵素の反応活性が著しく劣化することなく、製品として長期的に安定して酸素検知を行う目的で、酸素感応性溶液に酵素安定化剤を添加してもよい。
本発明で用いられる酵素安定化剤としては、用いる酵素によって適切なものを選択することが好ましい。具体的には、マンニトール等の糖類、ゼラチンや牛血清アルブミン等のタンパク類等、エチレンジアミン四酢酸塩(EDTA)やアスパラギン酸等、水溶性ポリマー等が挙げられる。水溶性ポリマーとしては、具体的に例示すると、ポリビニルアルコールや部分ケン化ポリビニルアルコールなどのポリビニルアルコール類、ポリグリセリン、メチルセルロースやヒドロキシプロピルメチルセルロースやカルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体などのうち水溶性であるものが挙げられる。
【0030】
更に、本発明では、酸素インジケーターに酸素吸収剤としての性能を兼備させる目的、酸素インジケーターの酸素検知を遅延させるなど検知時間の調整をする目的、酸素による光吸収スペクトル変化反応を酸素濃度にある閾値から劇的に変化させる目的、又は酸素インジケーターとして酸素検知感度を調整する目的等で、発色性基質が酸素の存在下に酸化還元酵素の触媒作用を介して光吸収スペクトルが変化する反応と競合して酸素と反応する化合物、又は酸素を吸着する化合物を酸素感応性溶液等に含有させてもよい。このような競合化合物としては、酵素的反応であれば、用いる酵素が高い基質選択性を示す化合物、例えば、アスコルビン酸オキシダーゼにおけるアスコルビン酸、ビリルビンオキシダーゼにおけるビリルビンなどが挙げられ、非酵素的反応であれば、一酸化窒素などが挙げられる。一方、吸着化合物としては、ヘモグロビン、コバルト2価錯体、サレン錯体、フルオロカーボン化合物などが挙げられる。該化合物は、これらに限定されるものではく、目的に応じて、適したものを適宜選択すれば、単独で使用してもよいし、複数組み合わせて使用してもよい。酸素感応性溶液中の該化合物の濃度は、酸素感応性溶液中の他物質の濃度に応じて適宜設定すればよい。
【0031】
本発明では、上記目的のために酸素インジケーターの酸素検知性能を調整するために、上記化合物の他に、酵素の阻害剤、基質アナローグ、包接化合物などを共存させることにより、光吸収スペクトル変化反応を遅くするか、あるいは感度を低下させることができる。阻害剤としては例えば、アザイド、ジエチルジチオカルバミン酸、チオ硫酸塩、フッ化物、シアン化物、PCMB、EDTA、2価や3価の金属類など基質アナローグとしては使用する酵素により、適宜選定される化合物、包接化合物としてはシクロデキストリンなどが挙げられる。ここに挙げたものは一例に過ぎず、本発明を限定するものではなく、使用する酵素や基質を勘案し目的に応じて種類や濃度を適宜組み合わせて使用すればよい。
【0032】
本発明でいう酵素を利用した光吸収スペクトル変化反応は、通常溶媒中で進行する溶液反応であり、溶液中に溶解した酸素と発色性基質が酵素の存在下において酸化還元反応を起こすものである。溶媒としては、上記反応を阻害せず、かつ、酸素が溶存する溶媒であればどのような溶媒を使用しても良い。食品包装の酸素インジケーターとして用いる場合には、水、又は水を主体(50wt%超過)とした水とエタノールの混合液等が取り扱いや食品衛生上の観点より好ましい。
【0033】
本発明の酸素インジケーターは、その製造時や、酸素モニタリングをする前の保管時において、酸素感応性溶液を酸素と接触させない構造、即ち酵素と発色性基質が酸素と隔離された構造とすることが好ましい。具体的には、酸素濃度0.05%未満の低酸素状態が好ましく、より好ましくは無酸素状態において、酸素感応性溶液を酸素ガスバリア性フィルムにて包装して保存し、使用時に酸素ガスバリア性フィルムを除去又は破袋することによって雰囲気酸素と接触させて酸素を検知する方法等が挙げられる。或いは、酵素溶液と発色性基質溶液の各々を酸素と隔離された状態で、各々酸素ガスバリア性フィルムにて包装して保存し、使用時に酸素ガスバリア性フィルムを除去又は破袋することによって、酵素溶液と発色性基質溶液が混合されると共に、雰囲気酸素と接触して酸素を検知する方法等が挙げられる。その際、酸素感応性溶液と雰囲気酸素との間に酸素透過性フィルムを存在させる場合には、適度な酸素透過性を持つフィルムを選択することにより、酸素検知時間を制御することもできる。
【0034】
本発明においては、酸化発色性溶液を液体状のまま使用するよりも、酸素感応性溶液を支持体に含浸又は含有させて使用する方がハンドリングの観点から好ましい。用いられる支持体としては、プラスチック、金属、セラミック、結晶性セルロース、無機粒子、ゲル、紙等が挙げられ、前記の光吸収スペクトル変化反応を阻害せず、そのまま又は加工して固形状態となるものであれば何れも使用することができる。これら支持体への含浸又は含有の方法は、例えば、これらに塗布する、表面コーティングする、浸漬するなどが挙げられる。具体的には、プラスチック、金属、セラミック等からなる多孔性成形品、不織布、紙、織布などに酸素感応性溶液を含浸させたもの、アビセル(商品名、旭化成(株))などの結晶性セルロース、珪藻土などの無機粒子に含有させて打錠成型したもの、ゼラチンや寒天等のゲルに包括させたものなどを、適度な酸素透過性を有するフィルムや容器で被覆する等の構造体が挙げられる。
【0035】
なお、本発明においては、上記支持体及び被覆材等としてプラスチックを用いる場合には、焼却時の燃焼カロリーの低さや土中分解等を考慮して生分解性プラスチックを用いることが好ましい。生分解性プラスチックとしては、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリ酪酸、ポリ吉草酸、これらの共重合体などのヒドロキシカルボン酸からなる脂肪族ポリエステル類、エチレングリコールとアジピン酸などの多価アルコール類と多価カルボン酸類の重縮合体からなる脂肪族ポリエステル類、及びこれらにテレフタル酸などの芳香族多価化合物を共重合させた脂肪族芳香族共重合ポリエステル類、デンプン系やセルロース系などの天然高分子類などが挙げられ、生分解性プラスチックの規格、例えば日本における生分解性プラスチック研究会が定める規格、米国におけるASTM D−6400、ドイツにおけるDIN V−54900などに適合するものが挙げられる。
【0036】
本発明の酸素インジケーターは、その形状が小袋状、ラベル状、テープ状、錠剤状、キャップ状などの構造体に加工されて用いることができる。例えば、バターなど酸化劣化し易い油脂を含有する菓子などを無酸素包装する場合やハムなどの加工食品を真空包装する場合には、本発明の酸素感応性溶液を含浸させた吸水性紙等を酸素透過性フィルムで被覆した小袋形状の構造体とし、これを本発明の酸素インジケーターとして包装体内に入れること等によって、包装体内の酸素の有無を検知することができる。また、コントロールドアトモスフィア包装された惣菜や弁当の容器において、小袋では子供や老人が間違って小袋を食べてしまう恐れがある場合には、容器の内側に粘着ラベル形状に加工した本発明の酸素インジケーターを貼り付けて用いたり、包装容器内のガス置換を行う目的で形成された該容器の開孔部を塞ぐように貼り付けて用いるのが良い。
【0037】
なお、本発明でいうコントロールドアトモスフィア包装とは、モディファイドアトモスフィア包装、ガス充填包装、ガス置換包装等ともいわれる包装技術である。一般に、包装内容物に応じて適宜容器包装又は袋内のガス組成が調整され、通常は容器又は袋内のガス成分としては、不活性ガスである窒素やアルゴン等によりガス置換がされる。菌類の繁殖を抑制する目的では、容器又は袋内のガス組成が無酸素であることが好ましく、更に静菌作用がある二酸化炭素のガス組成が3〜100%であることがより好ましく、更に殺菌作用があるエタノールのガス組成が0.5〜97%であることが最も好ましい。更に飲料においては天面の透明なキャップの内側に本発明の酸素インジケーターを設ける形状とすることによって、炭酸飲料など二酸化炭素の存在する場合のように従来のメチレンブルーを用いた酸素インジケーターでは使用することできなかった用途においても、酸素の有無を色彩などの変化により確認することができる。
【0038】
本発明の酸素インジケーターは、上記の食品包装分野以外にも密封空間内の酸素の有無を確認する必要のあるところであればいずれの用途に使用しても良い。例えば、精密機械部品包装やネジ等の金属部品包装や電子基板等の電機部品包装、医薬品、化粧品等の包装への使用が挙げられる。本発明の包装体としては、例えば、袋状、容器状のものなど一般に包装材として使用されている形態であれば、如何なる形態のものでもよい。用いられる材質は、包装体内を真空に保つために、ガスバリア性を有しているものが好ましい。包装体の材質としては、プラスチック、金属、木材、紙、ガラスなどの単体又はこれらの積層材などが挙げられる。そのガスバリア性は、包装体内のガス組成の変動を、用いるガス各々に対し標準状態(23℃、50%RH)で10%未満の変動に抑えられることが好ましい。なお、ここでいう容器とは、受け容器及び蓋からなる形態を持ち、内容物を入れるための器を指し、例えば、容器と蓋の一辺がヒンジ部を介して接合されたいわゆるフードパックでもよい。
【0039】
いずれの場合も、本発明の酸素インジケーターは、酸素の有無を判別するものであり、モニタリングする前、特に保管時は、光吸収スペクトル変化反応が起こらないように、又は極僅かしか起こらないように、酸素と隔離しておく為にガスバリア性の材質による包装でガス置換包装されていることが好ましい。例えば、金属、ガラス等の酸素ガスバリア性の高い容器を用いたり、酸素ガスバリア性フィルムによる袋包装を施しての保存等が挙げられる。また、より好ましくは保存環境内の極少量の酸素および酸素ガスバリア性保存袋を透過して侵入した酸素を捕捉するため、これら保存袋内などに脱酸素剤等の酸素捕捉剤を入れても良い。
【0040】
本発明の酸素インジケーターについて、その具体例を図1に示す。図1は、片面に粘着層を有する酸素ガスバリア性粘着ラベル5の粘着面上に、低酸素状態で濾紙2を貼付け、酸化発色性溶液1を含浸して、その上から酸素透過性フィルム3により濾紙2を覆い酸素ガスバリア性粘着ラベル5の粘着力により貼合し、酸素透過性フィルム3の上から酸素ガスバリア性テープ4により覆い酸素ガスバリア粘着ラベル5の粘着力により貼合した構造の斜視図と、そのE−E’面で切断した断面図である。
【実施例】
【0041】
実施例および比較例によって本発明を説明するが、これらは具体例の一部であって発明の範囲を限定するものではない。まず、以下に実施例と比較例で実施した測定方法と評価について説明する。
[測定方法]
(1)酵素活性S、酵素活性M
酵素活性Sは、酸素感応性溶液と同じ緩衝剤種、pH、濃度のpH緩衝剤と発色性基質からなる活性測定用基質溶液に、酵素をpH緩衝剤で溶解した酵素溶液を添加し、所定の反応時間における吸光度変化ΔAを分光光度計により測定し、下式(5)により求められる。測定波長は最大吸収波長又は溶液濃度変化に対して吸収強度変化が大きい波長にて測定すればよい。酵素活性Mの測定の際は、酵素溶液として該酸素感応性溶液をpH緩衝剤で希釈した溶液を添加すればよい。
酵素活性(U/ml)=ΔA/(tεL)・Vt/Ve (5)
ΔA:吸光度変化(−)
t :反応時間(min)
ε :モル吸光係数(L・mol−1・cm−1
L :測定セルの光路長(cm)
Vt:総液量(ml)
Ve:添加した酵素溶液量(ml)
【0042】
(2)x1、x2、x3
酸素感応性溶液をpH緩衝剤で希釈した希釈液について各々調製する。調整するpH域は使用するpH緩衝剤により変わるが、例えばpH緩衝剤として酢酸緩衝液を使用する場合には、pH2.5〜7.0、リンゴ酸緩衝液を使用する場合は、pH2.0〜7.0の範囲について調整する。各pHの希釈液の酵素活性Mを測定し、pH−酵素活性M曲線を得る。ここで、酵素活性Mが最大を示すpHよりも高い領域において、酵素活性Mが最大値の10%となるpHをx3として求められる。さらに、上記の各pHの酵素溶液を30℃×24時間保持後の酵素活性Mを測定し、保持前後での残存率を求める。これよりpH−残存率曲線(上に凸な曲線)が得られる。ここで、残存率が最大値に対して25%となる二つのpHをx1、x2(x1<x2)として求められる。
【0043】
(3)緩衝能β/c
pH緩衝剤を構成する酸(又は塩基)に塩基(又は酸)水溶液を少量づつ添加し、添加量とpHを測定し、塩基(又は酸)添加量−pHの関係(適定曲線)を得る。この適定曲線のpH域x1〜x3の部分について、曲線の傾きを直線近似し、その逆数dB/dpHを緩衝能β(N)として、これをpH緩衝剤濃度cで割ることにより求めた(式(4))。
β/c=dB/dpH/c (pH域x1〜x3において) (4)
B:pH緩衝剤に添加された塩基または酸の量(N)
c:pH緩衝剤濃度(N)
【0044】
[実施例1]
酸化還元酵素(アスコルビン酸オキシダーゼ(AAO)、EC1.10.3.3、旭化成社製、商品名:ASOM)と酵素安定化剤(ケン化度80mol%のポリビニルアルコール(PVA)、和光純薬工業社製試薬特級)0.05wt%を事前に調整しておいたpH緩衝剤と共に蒸留水に溶解して、酵素溶液(E)を調整した。発色性基質としてABTS(東京化成工業社製高品質分析試薬)、還元剤とPVA0.05wt%を事前に調整しておいたpH緩衝剤と共に蒸留水に溶解して、発色性基質溶液(K)を調整した。
ここで、酵素溶液(E)と発色性基質溶液(K)の混合液である酸素感応性溶液(EK)中の酸化還元酵素AAOの添加量、ABTSの添加量、pH緩衝剤の種類と量、還元剤の種類と量、酵素安定化剤の種類と量、混合後のpHが以下に記す処方となるように、酵素溶液(E)と発色性基質溶液(K)を調整した。すなわち、酸化還元酵素AAO(熱安定性T=65℃)を200μg/ml、発色性基質ABTS(モル吸光係数=29000L/mol/cm)を4mg/ml、pH緩衝剤としてリンゴ酸緩衝液(pKa1=3.40、pKa2=5.26)(緩衝能β/c=0.70)を200mM、還元剤としてL−アスコルビン酸(AsA)(和光純薬工業社製試薬特級)(安定性R=88%)を120mM、酵素安定化剤としてPVAを0.05wt%、混合後pH=3.7である。ここで使用した酸化還元酵素の熱安定性T、発色性基質のモル吸光係数、pH緩衝剤の緩衝能β/c、還元剤の安定性Rはいずれも、好ましい範囲内にあった。
【0045】
ここで酸化還元酵素AAOの熱安定性Tの測定は、以下の方法で行った。酸化還元酵素を蒸留水又はpH緩衝剤により溶解した溶解液を所定温度で10分保持する前後で酵素活性Sを測定し、保持後の残存率を求める。これを、各温度について行うことで保持温度−残存率の関係が得られ、これより残存率が50%に低下する温度が求め、これを酵素の熱安定性Tとした。
また、AsAの安定性Rの測定は、以下の方法で行った。pH=(x1+x3)/2のpH緩衝剤で溶解又は希釈した還元剤溶液を37℃で7日間保持し、その前後で還元剤の定量を行い、保持後の残存率を求める。還元剤の定量は、各還元剤に応じた、定量方法により定量すればよい。AsAの定量はDCIP(2,6−Dichloroindophenol Sodium Salt)法により行った。また、NAC、チオグリセロールの定量は5−ニトロ−2−PDS(Dithiodipyridine)によるSH基定量法により行った。
【0046】
これらの酵素溶液(E)と発色性基質溶液(K)を、各々逆止弁付き容器内にて大気に触れない状況下で窒素バブリングして溶存酸素濃度が0.00 mg/l(メトラートレード社製溶存酸素計、商品名:MO128で測定)とした後、各々マイクロポンプにより等量づつをミキサーに送液して、連続的に該酵素溶液(E)と該発色性基質溶液(K)を混合した酸化発色性溶液(EK)(酵素活性M=2.7U/ml)を調整した。この酸素感応性溶液の、x1、x3、x2を測定した結果、x1=3.2、x3=4.2、x2=10.5であり、pHの適正範囲は3.2〜4.2であった。
【0047】
該酸素感応性溶液(EK)の一部を、酸素濃度30ppmの低酸素環境下で、図1に示すように片面に粘着層を有する酸素ガスバリア性粘着ラベル(サトウシール社製PET75μm厚)の粘着面上に貼り付けた濾紙(ワットマン社製、商品名:クロマトグラフィーペーパー3MMChr)に含浸し、その上から酸素透過性フィルム(旭化成社製、商品名:OPSフィルム25μm厚)により該濾紙を覆い酸素ガスバリア性粘着ラベルの粘着力により貼合し、酸素透過性フィルムの上から酸素ガスバリア性テープにより覆い酸素ガスバリア粘着ラベルの粘着力により貼合して、酸素インジケーターを作製した。さらに低酸素状態を保ったまま、得られた酸素インジケーターを、酸素吸収剤と共に酸素ガスバリア性フィルム(旭化成パックス社製、商品名:飛竜シリーズ規格袋)で作製した袋にて包装した。酸素感応性溶液(EK)の一部をサンプル瓶に移し、同様に低酸素状態を保ったまま、酸素吸収剤と共に酸素ガスバリア性フィルムで作製した袋にて包装した。包装した酸素インジケーター及び酸素感応性溶液(EK)を5℃で20日間保管した。
【0048】
保管後の酸素感応性溶液(EK)のpHを測定した結果、3.6であり、適正範囲内であった。酵素活性Mは2.6U/mlであった。次いで、測定環境内を炭酸ガス、窒素ガス及び窒素と酸素の混合ガスを用いて、炭酸ガスの成分50vol%とし、酸素のガス成分を所定濃度(0.5、1.0vol%、ダンセンサー社製、商品名:チェックポイントで測定)に調整した。保管後の酸素インジケーターを20℃下で測定環境内において、外側の酸素ガスバリア性フィルムで作成した袋を破袋し、酸素ガスバリア性テープを除去することによって酸素の有無を検知させた。その結果、酸素濃度0.5%では透明、酸素濃度1.0%では明確に青緑色に発色した。発色した酸素インジケーターの発色部分を色差計 (日本電色工業株式会社製簡易型分光色差計、商品名:NF333)によりΔE値(ハンターLabにおける色差)を測定することにより発色濃度を求めた。以下の実施例、比較例も同様。その結果、発色濃度=40であった。以上より、酸素濃度1%を閾値として酸素の存在を鋭敏に示し、酸素の有無を明確に判別できる酸素インジケーターが得られた。
【0049】
[実施例2]
実施例1に対して、リンゴ酸緩衝液濃度を100mM、混合後のpHを4.0とした以外は、全て同じ液組成の酸素感応性溶液(EK)(酵素活性M=4.9U/ml)と酸素インジケーターを実施例1と同様にして作成し、5℃で20日間保管した。保管前にx1、x3、x2を測定した結果、x1=3.3、x3=4.2、x2=10.4、pH適正範囲は3.3〜4.2であった。保管後の酸素感応性溶液(EK)のpHは3.5であり、適正範囲内となっていた。酵素活性Mは4.8U/mlであった。保管後の酸素インジケーターを実施例1と同じ測定環境内において酸素の有無を検知させた結果、酸素濃度0.5%では透明、酸素濃度1.0%では明確に青緑色に発色(発色濃度=46)し、酸素濃度1%を閾値として酸素の存在を鋭敏に示し、酸素の有無を明確に判別できる酸素インジケーターが得られた。
【0050】
[実施例3]
実施例1に対して、AAO添加量を100μg/ml、還元剤としてAsAの代わりにN−アセチルシステイン(NAC)(和光純薬工業社製試薬特級)(安定性R=55%)を40mM、混合後のpHを4.0とした以外は、全て同じ液組成の酸素感応性溶液(EK)(酵素活性M=1.1U/ml)と酸素インジケーターを実施例1と同様にして作成し、5℃で20日間保管した。ここでNACの安定性Rを測定する際のNACの定量はSH基定量方法(SH基比色定量試薬として5−ニトロ−2−PDSを使用)により行った。保管前にx1、x3、x2を測定した結果、x1=3.2、x3=4.3、x2=10.5、pH適正範囲は3.2〜4.3であった。保管後の酸素感応性溶液(EK)のpHは4.0であり、適正範囲内となっていた。酵素活性Mは1.1U/mlであった。保管後の酸素インジケーターを実施例1と同じ測定環境内において酸素の有無を検知させた結果、酸素濃度0.5%では透明、酸素濃度1.0%では明確に青緑色に発色(発色濃度=43)し、酸素濃度1%を閾値として酸素の存在を鋭敏に示し、酸素の有無を明確に判別できる酸素インジケーターが得られた。
【0051】
[実施例4]
実施例1に対して、AAO添加量を100μg/ml、還元剤としてAsAの代わりにチオグリセロール(和光純薬工業社製試薬特級)(安定性R=94%)を80mM、混合後のpHを3.8とした以外は、全て同じ液組成の酸素感応性溶液(EK)(酵素活性M=1.7U/ml)と酸素インジケーターを実施例1と同様にして作成し、5℃で20日間保管した。ここでチオグリセロールの安定性Rの測定は、実施例3と同様にして、SH基定量方法により行った。保管前にx1、x3、x2を測定した結果、x1=3.2、x3=4.1、x2=10.6、pH適正範囲は3.2〜4.1であった。保管後の酸素感応性溶液(EK)のpHは3.8であり、適正範囲内となっていた。酵素活性Mは1.7U/mlであった。保管後の酸素インジケーターを実施例1と同じ測定環境内において酸素の有無を検知させた結果、酸素濃度0.5%では透明、酸素濃度1.0%では明確に青緑色に発色(発色濃度=47)し、酸素濃度1%を閾値として酸素の存在を鋭敏に示し、酸素の有無を明確に判別できる酸素インジケーターが得られた。
【0052】
[実施例5]
実施例1と同じ液組成の酸素感応性溶液(EK)(酵素活性M=2.2U/ml、混合後pH3.7)と酸素インジケーターを実施例1と同様にして作成し、5℃で20日間保管した。ただし、酸素インジケーターを作成する低酸素濃度環境を酸素濃度30ppm以下の変わりに500ppmとして、意図的に酸素を微量混入させた。保管前にx1、x3、x2を測定した結果、x1=3.3、x3=4.2、x2=10.5、pH適正範囲は3.3〜4.2であった。保管後の酸素感応性溶液(EK)のpHは3.5であり、適正範囲内となっていた。酵素活性Mは1.7U/mlであった。保管後の酸素インジケーターを実施例1と同じ測定環境内において酸素の有無を検知させた結果、酸素濃度0.5%では透明、酸素濃度1.0%では明確に青緑色に発色(発色濃度=41)し、酸素濃度1%を閾値として酸素の存在を鋭敏に示し、酸素の有無を明確に判別できる酸素インジケーターが得られた。
【0053】
[比較例1]
実施例1に対して、AAO添加量を100μg/ml、pH緩衝剤としてリンゴ酸緩衝液の代わりに酢酸緩衝液(緩衝能β/c=0.13)を50mM、混合後のpHを3.1とした以外は、全て同じ液組成の酸素感応性溶液(EK)(酵素活性M=1.3U/ml)と酸素インジケーターを実施例1と同様にして作成し、5℃で20日間保管した。保管前にx1、x3、x2を測定した結果、x1=3.2、x3=4.2、x2=10.5、pH適正範囲は3.2〜4.2であった。保管後の酸素感応性溶液(EK)のpHは3.0であり、適正範囲外となっていた。酵素活性Mは0.05U/mlであった。保管後の酸素インジケーターを実施例1と同じ測定環境内において酸素の有無を検知させた結果、酸素濃度0.5%では透明、酸素濃度1.0%では僅かに青緑色に発色(発色濃度=21で実施例1〜4に比べて小さい)し、酸素濃度1%を閾値として酸素の存在を鋭敏に示したが、発色濃度が不十分であった。
【0054】
[比較例2]
実施例1に対して、AAO添加量を15μg/ml、混合後のpHを3.7とした以外は、全て同じ液組成の酸素感応性溶液(EK)(酵素活性M=0.18U/ml)と酸素インジケーターを実施例1と同様にして作成し、5℃で20日間保管した。保管前にx1、x3、x2を測定した結果、x1=3.3、x3=4.1、x2=10.5、pH適正範囲は3.3〜4.1であった。保管後の酸素感応性溶液(EK)のpHは3.6であり、適正範囲内となっていた。酵素活性Mは0.07U/mlであった。保管後の酸素インジケーターを実施例1と同じ測定環境内において酸素の有無を検知させた結果、酸素濃度0.5%では透明、酸素濃度1.0%では僅かに青緑色に発色(発色濃度=16で実施例1〜4に比べて小さい)し、酸素濃度1%を閾値として酸素の存在を鋭敏に示したが、発色濃度が不十分であった。
【0055】
[比較例3]
実施例3に対して、pH緩衝剤としてリンゴ酸緩衝液の代わりに酢酸緩衝液(緩衝能β/c=0.13)を100mM、混合後のpHを2.5とした以外は、全て同じ液組成の酸素感応性溶液(EK)(酵素活性M=0.05U/ml)と酸素インジケーターを実施例1と同様にして作成し、5℃で20日間保管した。保管前にx1、x3、x2を測定した結果、x1=3.3、x3=4.1、x2=10.4、pH適正範囲は3.3〜4.1であった。保管後のpHは2.5であり、適正範囲外となっていた。酵素活性Mは0.05U/mlであった。保管後の酸素インジケーターを実施例1と同じ測定環境内において酸素の有無を検知させた結果、酸素濃度0.5、1.0%の全てが未発色であり、酸素の存在を検知できなかった。
【0056】
[比較例4]
実施例1、5に対して、AAO添加量を100μg/ml、pH緩衝剤としてリンゴ酸緩衝液の代わりに酢酸緩衝液(緩衝能β/c=0.13)を50mM、混合後のpHを3.5とした以外は、全て同じ液組成の酸素感応性溶液(EK)(酵素活性M=1.3U/ml)と酸素インジケーターを実施例1と同様にして作成した。ただし、実施例5と同様に、酸素インジケーターを作成する低酸素濃度環境を酸素濃度30ppm以下の変わりに500ppmとして、意図的に酸素を微量混入させた。その後、5℃で20日間保管した。保管前にx1、x3、x2を測定した結果、x1=3.2、x3=4.2、x2=10.4、pH適正範囲は3.2〜4.2であった。保管後の酸素感応性溶液(EK)のpHは3.0であり、適正範囲外となっていた。酵素活性Mは0.05U/mlであった。保管後の酸素インジケーターを実施例1と同じ測定環境内において酸素の有無を検知させた結果、酸素濃度0.5%では透明、酸素濃度1.0%では僅かに青緑色に発色(発色濃度=23で実施例1〜4に比べて小さい)し、酸素濃度1%を閾値として酸素の存在を鋭敏に示したが、発色濃度が不十分であった。
【0057】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の酸素インジケーターは、酸素の存在を忌避するガス置換包装の分野で好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の酸素インジケーターの例を示す概念斜視図とそのE−E’断面図。
【符号の説明】
【0060】
1 酸化発色性溶液
2 多孔性成形品、不織布のような枚様体、結晶性セルロースや無機粒子等を用いた打錠
成型品、ゼラチンや寒天等のゲル、吸水性濾紙などの小片
3 酸素透過性フィルム
4 酸素ガスバリア性テープ
5 片面に粘着層を有する酸素ガスバリア性粘着ラベル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発色性基質、酸化還元酵素、pH緩衝剤を少なくとも含む酸素感応性溶液からなる酸素インジケーターであって、酸素感応性溶液のpHがx1〜x2の範囲内にあること及びpH緩衝剤の緩衝能βをpH緩衝剤濃度c規定(N)で割った値β/cが0.2以上であることを特徴とする酸素インジケーター。
x1、x2:上記酵素の30℃×24時間保持におけるpH安定性において、その残存率が25%以上であるpH範囲をx1〜x2(x1<x2)とする。
【請求項2】
pH緩衝剤が酸性度指数pKa値を2つ以上持ち、任意の二つのpKa(pKa(i)、pKa(j))が下式(1)〜(3)を同時に満たすpH緩衝剤を酸素感応性溶液に含むこと及び酸素感応性溶液のpHがx1〜x3の範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載の酸素インジケーター。
x1−1<pKa(i)<pKa(j)<x2+1 (1)
pKa(i)<(x1+x3)/2<pKa(j) (2)
0<pKa(j)−pKa(i)<2.0 (3)
x3:上記酸素感応性溶液の酵素活性Mを各pHについて測定し、pH−酵素活性M関係において、酵素活性Mが最大を示すpHよりも高い領域において、最大値の10%となるpHをx3(x1<x3<x2)とする。
【請求項3】
酸素検知前の酸素感応性溶液の酵素活性Mが0.1U/ml以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の酸素インジケーター。

【図1】
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【公開番号】特開2006−64602(P2006−64602A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−249437(P2004−249437)
【出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【出願人】(303046266)旭化成ライフ&リビング株式会社 (64)
【出願人】(303046299)旭化成ファーマ株式会社 (105)
【Fターム(参考)】