説明

酸素化物合成用の触媒、酸素化物の製造装置及び酸素化物の製造方法

【課題】生成物である酸素化物中のアルコールの比率を高めて、アルコールを効率的に合成できる酸素化物合成用の触媒を提供する。
【解決手段】水素と一酸化炭素とを含む混合ガスから酸素化物を合成する酸素化物合成用の触媒において、(A)成分:ロジウム、(B)成分:マンガンと、(C)成分:アルカリ金属と、(D)成分:鉄とを含むことよりなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素化物合成用の触媒、酸素化物の製造装置及び酸素化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオエタノールは、石油代替燃料としての普及が進められている。バイオエタノールは、主にサトウキビやトウモロコシの糖化及び発酵によって製造されている。近年、食料や飼料と競合しない、廃木材や稲わら等の作物の未利用部分等の木質系及び草本系バイオマス(セルロース系バイオマスともいう)からバイオエタノールを製造する技術が開発されている。
セルロース系バイオマスを原料とし、従来のエタノール発酵法を用いてバイオエタノールを製造するためには、セルロースを糖化させる必要がある。糖化方法としては、濃硫酸糖化法、希硫酸・酵素糖化法、水熱糖化法等があるが、安価にバイオエタノールを製造するためにはいまだ多くの課題が残されている。
【0003】
一方、セルロース系バイオマスを水素と一酸化炭素とを含む混合ガスに変換した後、この混合ガスからエタノールを合成する方法がある。この方法により、エタノール発酵法の適用が難しいセルロース系バイオマスから、効率的にバイオエタノールを製造する試みがなされている。加えて、この方法によれば、木質系・草本系バイオマスに限らず、動物の死骸や糞等由来の動物バイオマス、生ゴミ、廃棄紙、廃繊維といった多様なバイオマスを原料に用いることができる。
さらに、水素と一酸化炭素との混合ガスは、天然ガス、石炭等の石油以外の資源からも得られるため、混合ガスから酸素化物を合成する方法は、石油依存を脱却する技術として研究されている。
水素と一酸化炭素との混合ガスからアルコール、アルデヒド化合物、カルボン酸等の酸素化物を得る方法としては、例えば、ロジウム、アルカリ金属及びマンガンを含む触媒に混合ガスを接触させる方法が知られている(例えば、特許文献1〜2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−36730号公報
【特許文献2】特開昭61−36731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の酸素化物合成用の触媒は、アルコール以外の酸素化物の生成量が多く、アルコールを単離する工程に多くの時間やエネルギーが必要になるという問題があった。
そこで、本発明は、生成物である酸素化物中のアルコールの比率を高めて、アルコールを効率的に合成できる酸素化物合成用の触媒を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の酸素化物合成用の触媒は、水素と一酸化炭素とを含む混合ガスから酸素化物を合成する酸素化物合成用の触媒において、(A)成分:ロジウムと、(B)成分:マンガンと、(C)成分:アルカリ金属と、(D)成分:鉄とを含むことを特徴とする。
本発明の酸素化物合成用の触媒は、下記(I)式で表される触媒であることが好ましい。
aA・bB・cC・dD ・・・・(I)
[(I)式中、Aは(A)成分を表し、Bは(B)成分を表し、Cは(C)成分を表し、Dは(D)成分を表し、a、b、c及びdはモル分率を表し、
a+b+c+d=1、
a=0.064〜0.98、
b=0.00074〜0.67、
c=0.00069〜0.51、
d=0.0024〜0.93である。]
【0007】
本発明の酸素化物の製造装置は、本発明の前記の酸素化物合成用の触媒が充填された反応管と、前記混合ガスを前記反応管に供給する供給手段と、前記反応管から生成物を排出する排出手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
本発明の酸素化物の製造方法は、本発明の前記の酸素化物合成用の触媒に、水素と一酸化炭素とを含む混合ガスを接触させて酸素化物を得ることを特徴とする。
【0009】
本稿において酸素化物は、酢酸、エタノール、アセトアルデヒド、メタノール、プロパノール、蟻酸メチル、蟻酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル等、炭素原子と水素原子と酸素原子からなる分子を意味する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の酸素化物合成用の触媒は、生成物である酸素化物中のアルコールの比率を高めて、アルコールを効率的に合成できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態にかかる酸素化物の製造装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(酸素化物合成用の触媒)
本発明の酸素化物合成用の触媒(以下、単に触媒ということがある)は、(A)成分:ロジウムと、(B)成分:マンガンと、(C)成分:アルカリ金属と、(D)成分:鉄とを含むものである。(A)〜(D)成分を含むことで、生成物である酸素化物中のアルコールの比率を高められる。
【0013】
(C)成分は、アルカリ金属である。(C)成分としては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)等が挙げられ、中でも、副生成物の発生を低減し、CO転化率を高め、酸素化物をより効率的に合成できる観点から、リチウムが好ましい。なお、「CO転化率」とは、「混合ガス中のCOのモル数のうち、消費されたCOのモル数が占める百分率」を意味する。
【0014】
(D)成分は、鉄である。触媒は、(D)成分を含むことで、高い選択率でアルコールを合成し、酸素化物中のアルコールの比率を高められる。
(D)成分を含むことで酸素化物中のアルコールの比率が高まる機構については明らかではないが、(D)成分により水素化反応がより促進されるためと推測される。
なお、「選択率」とは、混合ガス中の消費されたCOのモル数のうち、特定の酸素化物へ変換されたCのモル数が占める百分率である。例えば、下記(α)式によれば、酸素化物であるエタノールの選択率は100モル%である。一方、下記(β)式によれば、酸素化物であるエタノールの選択率は50モル%であり、酸素化物であるアセトアルデヒドの選択率も50モル%である。
4H+2CO→CHCHOH+HO ・・・(α)
7H+4CO→COH+CHCHO+2HO ・・・(β)
【0015】
本発明の触媒は、下記(I)式で表される組成であることが好ましい。
aA・bB・cC・dD ・・・・(I)
(I)式中、Aは(A)成分を表し、Bは(B)成分を表し、Cは(C)成分を表し、Dは(D)成分を表し、a、b、c及びdはモル分率を表し、a+b+c+d=1である。
(I)式中のaは、0.064〜0.98が好ましく、0.23〜0.81がより好ましく、0.28〜0.7がさらに好ましい。上記下限値未満であると(A)成分の含有量が少なすぎて、酸素化物の合成効率が十分に高まらないおそれがあり、上記上限値超であると(B)〜(D)成分の含有量が少なくなりすぎて、酸素化物の合成効率が十分に高まらないおそれがある。
(I)式中のbは、0.00074〜0.67が好ましく、0.035〜0.58がより好ましく、0.0074〜0.45がさらにこのましい。上記下限値未満であると(B)成分の含有量が少なすぎて、酸素化物の合成効率が十分に高まらないおそれがあり、上記上限値超であると(A)成分、(C)成分、(D)成分の含有量が少なくなりすぎて、酸素化物の合成効率が十分に高まらないおそれがある。
(I)式中のcは、0.00069〜0.51が好ましく、0.028〜0.42がより好ましく、0.065〜0.33がさらに好ましい。上記下限値未満であると(C)成分の含有量が少なすぎて、酸素化物の合成効率が十分に高まらないおそれがあり、上記上限値超であると(A)成分、(B)成分、(D)成分の含有量が少なくなりすぎて、酸素化物の合成効率が十分に高まらないおそれがある。
(I)式中のdは、0.0024〜0.93が好ましく、0.016〜0.43がより好ましく、0.021〜0.39がさらに好ましい。上記下限値未満であると(D)成分の含有量が少なすぎて、酸素化物の合成効率が十分に高まらないおそれがあり、上記上限値超であると(A)〜(C)成分の含有量が少なくなりすぎて、酸素化物の合成効率が十分に高まらないおそれがある。
【0016】
本発明の触媒は、(A)〜(D)成分がそれぞれ独立して存在していてもよいし、(A)〜(D)成分が合金を形成していてもよい。
本発明の触媒は、(A)〜(D)成分の集合物であってもよいし、(A)〜(D)成分が担体に担持された担持触媒であってもよく、担持触媒であることが好ましい。担持触媒とすることで、(A)〜(D)成分と混合ガスとの接触効率が高まり、酸素化物の生成量を高めると共に、アルコールをより効率的に合成できる。
担体としては、金属触媒の担体として周知のものを用いることができ、例えば、シリカ、チタニア、アルミナ、セリア等が挙げられ、中でも、触媒反応の選択率を高める観点、CO転化率を高める観点、比表面積や細孔径が異なる種々の製品が市場で調達できることから、シリカが好ましい。
【0017】
担体としては、比表面積が10〜1000m/gであり、かつ1nm以上の細孔径を有するものが好ましい。
加えて、担体は、粒子径の分布が狭いものが好ましい。担体の平均粒子径は、特に限定されないが、0.5〜5000μmが好ましい。
本発明の触媒を担持触媒とする場合、担体100質量部に対する(A)〜(D)成分の合計量は、0.01〜10質量部が好ましく、0.1〜5質量部がより好ましい。上記下限値未満では、酸素化物の合成効率が低下するおそれがあり、上記上限値超では、(A)〜(D)成分が均一かつ高分散な状態となりにくく、酸素化物の合成効率が低下するおそれがある。
【0018】
本発明の触媒は、従来公知の貴金属触媒の製造方法に準じて製造される。触媒の製造方法としては、例えば、含浸法、浸漬法、イオン交換法、共沈法、混練法等が挙げられ、中でも含浸法が好ましい。含浸法を用いることで、得られる触媒は、(A)〜(D)成分がより均一に分散され、混合ガスとの接触効率がより高められ、酸素化物の生成量を高められると共に、アルコールをより効率的に合成できる。
触媒調製に用いられる(A)〜(D)成分の原料化合物としては、酸化物、塩化物、硝酸塩、炭酸塩等の無機塩、シュウ酸塩、アセチルアセトナート塩、ジメチルグリオキシム塩、エチレンジアミン酢酸塩等の有機塩又はキレート化合物、カルボニル化合物、シクロペンタジエニル化合物、アンミン錯体、アルコキシド化合物、アルキル化合物等、(A)〜(D)成分の化合物として、各種触媒を調製する際に用いられるものが挙げられる。
【0019】
含浸法について説明する。まず、(A)〜(D)成分の原料化合物を水、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ヘキサン、ベンゼン、トルエン等の溶媒に溶解し、得られた溶液(含浸液)に担体を浸漬する等して、含浸液を担体に付着させる。担体として多孔質体を用いる場合には、含浸液を担体の細孔内に十分浸透させた後、溶媒を蒸発させて触媒とする。
含浸液を担体に含浸させる方法としては、全ての原料化合物を溶解した溶液を担体に含浸させる方法(同時法)、各原料化合物を別個に溶解した溶液を調製し、逐次的に担体に各溶液を含浸させる方法(逐次法)等が挙げられ、中でも、逐次法が好ましい。逐次法で得られた触媒は、酸素化物中のアルコールの比率をより高められる。
【0020】
逐次法としては、例えば、(D)成分を含む溶液(一次含浸液)を担体に含浸させ(一次含浸工程)、これを乾燥して(D)成分を担体に担持させた一次担持体を得(一次担持工程)、次いで(A)〜(C)成分を含む溶液(二次含浸液)を一次担持体に含浸させ(二次含浸工程)、これを乾燥する(二次担持工程)方法が挙げられる。このように、(D)成分を担体に担持させ、次いで(A)〜(C)成分を担体に担持させることで、触媒は(A)〜(D)成分がより高分散なものとなり、酸素化物をより効率的に合成できる。
【0021】
一次担持工程は、例えば、一次含浸液が含浸された担体を乾燥し(一次乾燥操作)、これを任意の温度で加熱して焼成する(一次焼成操作)方法が挙げられる。
一次乾燥操作における乾燥方法は特に限定されず、例えば、一次含浸液が含浸された担体を任意の温度で加熱する方法が挙げられる。一次乾燥操作における加熱温度は、一次含浸液の溶媒を蒸発できる温度であればよく、溶媒が水であれば、80〜120℃とされる。一次焼成操作における加熱温度は、例えば、300〜600℃とされる。一次焼成操作を行うことで、(D)成分の原料化合物に含まれていた成分の内、触媒反応に寄与しない成分を十分に揮散し、触媒活性をより高められる。
【0022】
二次担持工程は、例えば、二次含浸液が含浸された一次担持体を乾燥し(二次乾燥操作)、さらに任意の温度で加熱して焼成する(二次焼成操作)方法が挙げられる。
二次乾燥操作における乾燥方法は特に限定されず、例えば、二次含浸液が含浸された一次担持体を任意の温度で加熱する方法が挙げられる。二次乾燥操作における加熱温度は、二次含浸液の溶媒を蒸発できる温度であればよく、溶媒が水であれば、80〜120℃とされる。二次焼成操作における加熱温度は、例えば、300〜600℃とされる。二次焼成操作を行うことで、(A)〜(C)成分の原料化合物に含まれていた成分の内、触媒反応に寄与しない成分を十分に揮散し、触媒活性をより高められる。
【0023】
上述の方法によって調製された触媒は、通常、還元処理が施されて活性化され、酸素化物の合成に用いられる。還元処理としては、水素を含む気体に、触媒を接触させる方法が簡便で好ましい。この際、処理温度は、ロジウムが還元される程度の温度、即ち100℃程度であればよいが、好ましくは200〜600℃とされる。加えて、(A)〜(D)成分を十分に分散させる目的で、低温から徐々にあるいは段階的に昇温しながら水素還元を行ってもよい。また、例えば、一酸化炭素と水との存在下、又はヒドラジン、水素化ホウ素化合物もしくは水素化アルミニウム化合物等の還元剤の存在下で、触媒に還元処理を施してもよい。
還元処理における加熱時間は、例えば、1〜10時間が好ましく、2〜5時間がより好ましい。上記下限値未満では、(A)〜(D)成分の還元が不十分となり、酸素化物の製造効率が低下するおそれがある。上記上限値超では、(A)〜(D)成分における金属粒子が凝集し、酸素化物の合成効率が低下したり、還元処理におけるエネルギーが過剰になり経済的な不利益が生じたりするおそれがある。
【0024】
一次担持工程の後で二次含浸工程の前に、一次担持体にアルカリ水溶液を接触させて表面処理を施す表面処理工程が設けられていてもよい。表面処理工程を設けることで、一次担持体の表面の一部を水酸化物とし、(A)成分を含む金属粒子の分散性がより向上するものと推察される。
表面処理工程に用いられるアルカリ水溶液は、担体の種類等を勘案して決定でき、例えば、アンモニア水溶液等が挙げられる。アルカリ水溶液の濃度は、(D)成分の種類や担体の種類等を勘案して決定でき、例えば、0.1〜3モル/Lとされる。
一次担持体にアルカリ水溶液を接触させる方法は、特に限定されず、例えば、アルカリ水溶液に一次担持体を浸漬する方法、アルカリ水溶液を一次担持体に噴霧等により塗布する方法等が挙げられる。
【0025】
(酸素化物合成用の製造装置)
本発明の酸素化物合成用の製造装置(以下、単に製造装置ということがある)は、本発明の触媒が充填された反応管と、混合ガスを反応管内に供給する供給手段と、反応管から生成物を排出する排出手段とを備えるものである。
【0026】
本発明の製造装置の一例について、図1を用いて説明する。図1は、本発明の一実施形態にかかる製造装置10を示す模式図である。製造装置10は、触媒が充填されて反応床2が形成された反応管1と、反応管1に接続された供給管3と、反応管1に接続された排出管4と、反応管1に接続された温度制御部5と、排出管4に設けられた圧力制御部6とを備えるものである。
【0027】
反応管1は、原料ガス及び合成された酸素化物に対して不活性な材料が好ましく、100〜500℃程度の加熱、又は10MPa程度の加圧に耐え得る形状のものが好ましい。反応管1としては、例えば、ステンレス製の略円筒形の部材が挙げられる。
供給管3は、混合ガスを反応管1内に供給する供給手段であり、例えば、ステンレス製等の配管が挙げられる。
排出管4は、反応床2で合成された酸素化物を含む合成ガス(生成物)を排出する排出手段であり、例えば、ステンレス製等の配管が挙げられる。
温度制御部5は、反応管1内の反応床2を任意の温度にできるものであればよく、例えば、電気炉等が挙げられる。
圧力制御部6は、反応管1内の圧力を任意の圧力にできるものであればよく、例えば、公知の圧力弁等が挙げられる。
また、製造装置10は、マスフロー等、ガスの流量を調整するガス流量制御部等の周知の機器を備えていてもよい。
【0028】
(酸素化物の製造方法)
本発明の酸素化物の製造方法は、混合ガスを触媒に接触させるものである。本発明の酸素化物の製造方法の一例について、図1の製造装置を用いて説明する。
まず、反応管1内を任意の温度及び任意の圧力とし、混合ガス20を供給管3から反応管1内に流入させる。
【0029】
混合ガス20は、水素と一酸化炭素とを含むものであれば特に限定されず、例えば、天然ガス、石炭から調製されたものであってもよいし、バイオマスをガス化して得られるバイオマスガス等であってもよい。バイオマスガスは、例えば、粉砕したバイオマスを水蒸気の存在下で加熱(例えば、800〜1000℃)する等、従来公知の方法で得られる。
混合ガス20として、バイオマスガスを用いる場合、混合ガス20を反応管1内に供給する前に、タール分、硫黄分、窒素分、塩素分、水分等の不純物を除去する目的で、ガス精製処理を施してもよい。ガス精製処理としては、例えば、湿式法、乾式法等、当該技術分野で知られる各方式を採用できる。湿式法としては、水酸化ナトリウム法、アンモニア吸収法、石灰・石膏法、水酸化マグネシウム法等が挙げられ、乾式法としては、圧力スイング吸着(PSA)法等の活性炭吸着法、電子ビーム法等が挙げられる。
【0030】
混合ガス20は、水素と一酸化炭素とを主成分とするもの、即ち混合ガス20中の水素と一酸化炭素との合計が、50体積%以上であることが好ましく、80体積%以上であることがより好ましく、90体積%以上であることがさらに好ましく、100体積%であってもよい。水素と一酸化炭素との含有量が多いほど、酸素化物の生成量をより高められ、酸素化物をより効率的に製造できる。
水素/一酸化炭素で表される体積比(以下、H/CO比ということがある)は、0.1〜10が好ましく、0.5〜3がより好ましく、1.5〜2.5がさらに好ましい。上記範囲内であれば、混合ガスから酸素化物が生成される反応において、化学量論的に適正な範囲となり、酸素化物をより効率的に製造できる。
なお、混合ガス20は、水素及び一酸化炭素の他に、メタン、エタン、エチレン、窒素、二酸化炭素、水等を含んでいてもよい。
【0031】
混合ガス20と触媒とを接触させる際の温度(反応温度)、即ち反応管1内の温度は、例えば、150〜450℃が好ましく、200〜400℃がより好ましく、250〜350℃がさらに好ましい。上記下限値以上であれば、触媒反応の速度を十分に高め、酸素化物の生成量を高めると共に、アルコールをより効率的に製造できる。上記上限値以下であれば、酸素化物の合成反応を主反応とし、アルコールをより効率的に製造できる。
【0032】
混合ガス20と触媒とを接触させる際の圧力(反応圧力)、即ち反応管1内の圧力は、例えば、0.5〜10MPaが好ましく、1〜7.5MPaがより好ましく、2〜5MPaがさらに好ましい。上記下限値以上であれば、触媒反応の速度を十分に高め、酸素化物の生成量を高めると共に、アルコールをより効率的に製造できる。上記上限値以下であれば、酸素化物の合成反応を主反応とし、アルコールをより効率的に製造できる。
【0033】
流入した混合ガス20は、反応床2の触媒と接触しながら流通し、その一部が酸素化物となる。
混合ガス20は、反応床2を流通する間、例えば、下記(1)〜(5)式で表される触媒反応により酸素化物を生成する。
3H+2CO→CHCHO+HO ・・・(1)
4H+2CO→CHCHOH+HO ・・・(2)
+CHCHO→CHCHOH ・・・(3)
2H+2CO→CHCOOH・・・(4)
2H+CHCOOH→CHCHOH+HO ・・・(5)
【0034】
そして、この酸素化物を含む合成ガス22は、排出管4から排出される。合成ガス22は、エタノール等の炭素数1〜3のアルコールを含むものであり、酢酸等のカルボン酸、アセトアルデヒド等のアルデヒド化合物を含んでいてもよい。合成ガス中に含まれるアルコールとしては、エタノールが好ましい。エタノールの製造方法において、本発明の触媒の効果が顕著なためである。
【0035】
混合ガス20の供給速度は、例えば、反応床2における混合ガスの空間速度(単位時間当たりガスの供給量を触媒量(体積換算)で除した値)が標準状態換算で10〜100000L/L−触媒/hとなるように調節されることが好ましい。空間速度は、目的とするアルコールの種類に適した反応圧力、反応温度、及び原料である混合ガスの組成を勘案して、適宜調整される。
【0036】
必要に応じ、排出管4から排出された合成ガス22を気液分離器等で処理し、未反応の混合ガス20と酸素化物とを分離してもよい。
【0037】
本実施形態では、固定床の反応床2に混合ガスを接触させているが、例えば、触媒を流動床又は移動床等、固定床以外の形態とし、これに混合ガスを接触させてもよい。
【0038】
本発明では、得られた酸素化物を蒸留等によって、必要成分毎に分離してもよい。
また、本発明では、エタノール以外の生成物(例えば、酢酸、アセトアルデヒド等、エタノールを除くC2化合物)を水素化してエタノールに変換する工程(エタノール化工程)を設けてもよい。エタノール化工程としては、例えば、アセトアルデヒド、酢酸を含む酸素化物を水素化触媒に接触させてエタノールに変換する方法が挙げられる。
ここで、水素化触媒としては、当該技術分野で知られる触媒が使用でき、銅、銅−亜鉛、銅−クロム、銅−亜鉛−クロム、鉄、ロジウム−鉄、ロジウム−モリブデン、パラジウム、パラジウム−鉄、パラジウム−モリブデン、イリジウム−鉄、ロジウム−イリジウム−鉄、イリジウム−モリブデン、レニウム−亜鉛、白金、ニッケル、コバルト、ルテニウム、酸化ロジウム、酸化パラジウム、酸化白金、酸化ルテニウム等が挙げられる。これらの水素化触媒は、本発明の触媒に用いられる担体と同様の担体に担持させた担持触媒であってもよく、担持触媒としては、銅、銅−亜鉛、銅−クロム又は銅−亜鉛−クロムをシリカ系担体に担持させた銅系触媒が好適である。担持触媒である水素化触媒の製造方法としては、本発明の触媒と同様に同時法又は逐次法が挙げられる。
【0039】
上述したように、本発明の触媒を用いることで、生成物である酸素化物中のアルコールの比率を高めて、アルコールを効率的に合成できる。
【実施例】
【0040】
以下に、実施例を示して本発明を説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
硝酸鉄九水和物(Fe(NO・9HO)0.0362gを含む水溶液(一次含浸液)1.08mLを、シリカゲル(比表面積:310m/g、平均細孔径:14nm、細孔容量:1.1cm/g)1.0gに滴下して含浸させた(一次含浸工程)。これを110℃にて3時間乾燥し(一次乾燥操作)、さらに450℃にて3時間焼成して一次担持体とした(一次焼成操作,以上、一次担持工程)。塩化ロジウム(RhCl)0.061gと、塩化リチウム(LiCl)0.0017gと、塩化マンガン四水和物(MnCl・4HO)0.0159gとを含む水溶液(二次含浸液)1.08mLを一次担持体に滴下して含浸させ(二次含浸工程)、110℃にて3時間乾燥し(二次乾燥操作)、さらに450℃にて3時間焼成して触媒を得た(二次焼成操作,以上、二次担持工程)。得られた触媒は、ロジウム担持率=3質量%/SiO、Rh:Mn:Li:Fe=0.590:0.162:0.082:0.166(モル比)であった。表中、本例における触媒の製造方法を「逐次法」と記載する。
【0042】
(比較例1)
塩化ロジウム0.061gと、塩化リチウム0.0017gと、塩化マンガン四水和物0.0159gとを含む水溶液1.08mLを、シリカゲル1gに滴下して含浸させ、110℃にて3時間乾燥し、さらに450℃にて3時間焼成して触媒を得た。得られた触媒は、ロジウム担持率=3質量%/SiO、Rh:Mn:Li=0.708:0.194:0.098(モル比)であった。表中、本例における触媒の製造方法を「同時法」と記載する。
【0043】
(評価方法)
各例の触媒0.1gを直径2mm、長さ15cmのステンレス製の円筒型の反応管に充填して反応床を形成した。反応床に、常圧で水素を空間速度1200L/L−触媒/hで流通させながら、320℃で2.5時間加熱し、触媒に還元処理を施した。
次いで、反応温度300℃、反応圧力2MPaの条件下で、混合ガス(H/CO比=2)を表1に示す空間速度で反応床に流通させて、酸素化物を含む合成ガスの製造を行った。
混合ガスを反応床に3時間流通させ、得られた合成ガスを回収し、ガスクロマトグラフィーにより分析した。
得られたデータからCO転化率(モル%)、エタノール及びアセトアルデヒドの選択率(モル%)、エタノール及びアセトアルデヒドの生成量(g/L−触媒/h)を算出し、これらの結果を表1に示す。なお、エタノール及びアセトアルデヒドの生成量は、単位時間当たりの単位触媒体積当たりの質量として表した値である。
【0044】
【表1】

【0045】
表1に示すように、本発明を適用した実施例1は、エタノールの選択率が42モル%であり、エタノールの生成量が118g/L−触媒/hであった。
これに対し、(D)成分を含まない比較例1は、エタノールの選択率が23.2モル%であり、エタノールの生成量が58g/L−触媒/hであった。
これらの結果から、本発明を適用することで、酸素化物中のアルコールの比率を特異的に高められ、アルコールを効率的に製造できることが判った。
【符号の説明】
【0046】
1 反応管
2 反応床
3 供給管
4 排出管
5 温度制御部
6 圧力制御部
10 製造装置
20 混合ガス
22 合成ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素と一酸化炭素とを含む混合ガスから酸素化物を合成する酸素化物合成用の触媒において、
(A)成分:ロジウムと、(B)成分:マンガンと、(C)成分:アルカリ金属と、(D)成分:鉄とを含むことを特徴とする酸素化物合成用の触媒。
【請求項2】
下記(I)式で表されることを特徴とする請求項1に記載の酸素化物合成用の触媒。
aA・bB・cC・dD ・・・・(I)
[(I)式中、Aは(A)成分を表し、Bは(B)成分を表し、Cは(C)成分を表し、Dは(D)成分を表し、a、b、c及びdはモル分率を表し、
a+b+c+d=1、
a=0.064〜0.98、
b=0.00074〜0.67、
c=0.00069〜0.51、
d=0.0024〜0.93である。]
【請求項3】
請求項1又は2に記載の酸素化物合成用の触媒が充填された反応管と、前記混合ガスを前記反応管内に供給する供給手段と、前記反応管から生成物を排出する排出手段とを備えることを特徴とする酸素化物の製造装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の酸素化物合成用の触媒に、水素と一酸化炭素とを含む混合ガスを接触させて酸素化物を得ることを特徴とする酸素化物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−49023(P2013−49023A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189054(P2011−189054)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】