酸素同位体の濃縮方法
【課題】レーザ光照射によるオゾン分解によって、目的酸素同位体が濃縮された酸素を得る際に、オゾン分解時における目的酸素同位体含有オゾンの濃度を迅速に測定でき、この測定値に基づいてオゾン分解反応を制御できるようにすることにある。
【解決手段】線幅が0.05nm以下の分解用レーザ光を用いて前記目的酸素同位体を含むオゾンを選択的に分解すると同時に、残存する目的酸素同位体を含むオゾンの濃度を線幅が0.05nm以下の測定用レーザ光によって測定し、この測定値に基づいて前記分解用レーザ光によるオゾンの光分解を制御する。測定用レーザ光による測定が、正弦波で変調された注入電流により発振された測定用レーザ光を用い、受光器で光電変換された電気信号をロックインアンプに入力し、前記正弦波を参照信号として二次微分処理を行うものである。
【解決手段】線幅が0.05nm以下の分解用レーザ光を用いて前記目的酸素同位体を含むオゾンを選択的に分解すると同時に、残存する目的酸素同位体を含むオゾンの濃度を線幅が0.05nm以下の測定用レーザ光によって測定し、この測定値に基づいて前記分解用レーザ光によるオゾンの光分解を制御する。測定用レーザ光による測定が、正弦波で変調された注入電流により発振された測定用レーザ光を用い、受光器で光電変換された電気信号をロックインアンプに入力し、前記正弦波を参照信号として二次微分処理を行うものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、オゾンにレーザ光を照射し、天然存在比の小さな酸素同位体17O、18Oが濃縮された酸素ガスを得る酸素同位体の濃縮方法に関し、レーザ光の照射を効率的に行えるようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
化学や医学の分野で、トレーサーとして利用されている酸素同位体の17Oや18Oは、自然界における存在比が極めて小さいため、使用に際しては、これらを濃縮する必要がある。
酸素同位体の濃縮方法として、蒸留を用いた方法がある(特許文献1〜3)。これらの方法は、レーザ光を利用した光反応によるオゾンの分解反応を利用して、存在比が極めて小さな酸素の安定同位体である17Oや18Oを選択的に濃縮するものである。
【0003】
特許文献3で開示されている酸素同位体の濃縮方法および装置に関する発明は、オゾンをガスで希釈した後、希ガスが固化してしまう条件下でもオゾン濃度を小さく保ち、酸素の同位体17Oおよび18Oを含むオゾンを安定して選択的に光分解して酸素とすることで、効率的かつ連続的に、この酸素中に17Oおよび18Oを濃縮する方法および装置に関するものである。
【0004】
特許文献3では、オゾン光分解工程において、CF4とオゾンの混合ガスに光を照射し、このオゾン中に含まれる、特定の酸素同位体を含むオゾンのアイソトポマーを選択的に酸素に分解する。得られた混合ガスを捕集工程にて捕集した後、酸素同位体濃縮工程において低温蒸留等により、この混合ガス中の酸素を、未分解のオゾンおよびCF4から分離し、分離した酸素ガス中に前記酸素同位体を濃縮するものである。
【0005】
ところで、レーザ光を使って目的酸素同位体を含むオゾンを選択的に分解し、酸素として取り出す方法においては、レーザ光の照射時間に応じて分解反応が進むので、レーザ光の照射時間を長くすれば、目的酸素同位体を含むオゾンを多く分解できる。しかし、単位時間当たりの分解量は低下してゆき、照射時間を無駄に長くすることになるので望ましくない。
【0006】
一方、レーザ光の照射時間が不十分な場合は、分解が不十分なまま混合ガスを次工程に移ってしまうため、原料のオゾン(酸素)が大量に必要になるばかりではなく、収率も落ちてしまう。さらに処理ガス量も多くなるため、分離のための蒸留塔も大きなものが必要になるので、イニシアルコストも高くなる。よって、収率を向上させるためには、照射時間を最適化する必要がある。
【0007】
また、光分解セルに導入するガスのオゾン濃度は、なるべく高いほうが目的酸素同位体が多く含まれることになるので望ましいが、オゾンは自己分解性をもつため、あまり高濃度状態で運転することは望ましくない。
このように、レーザ光分解による酸素同位体の濃縮方法においては、適切なレーザ光の照射時間を決めたり、オゾン濃度を管理したりするために、適切にオゾン濃度を測定する必要がある。
【0008】
オゾン濃度の測定には紫外線吸収式の濃度計が広く使用されているが、この紫外光はオゾンを無選択に分解してしまい、レーザ光を用いた酸素同位体の濃縮プロセスにおいては、製品酸素に含まれる目的酸素同位体の濃度を下げてしまうという問題があった。
また、他のオゾン濃度の測定方法として、特許文献4にはレーザ光で測定する方法が開示されている。この方法ではレーザ光をパルス発信させて測定を行うが、オゾン同位体の吸収スペクトルのシフト量は小さいため、当該レーザ光では測定することができない。
【0009】
さらに別の方法として、フーリエ変換赤外分光計(FTIR)を使用したオゾン同位体の測定の報告(非特許文献1)もあるが、測定時間を10〜20時間も必要とするため、プロセス制御のように連続的な測定を必要とする場合には不適であり、さらに赤外線の照射によりオゾンを非選択的に分解してしまうため、適用できない。
【0010】
このように、従来技術においては、酸素同位体の濃縮において、レーザ光照射中に、プロセスに支障なく流体中のオゾンの濃度を測定する手段がなかったため、トライアンドエラー方式により運転パラメータを設定するしかなかった。このような設定方法では、運転条件の最適化は難しかった。
【特許文献1】特開2004−261776号公報
【特許文献2】特開2005−40668号公報
【特許文献3】特開2006−272090号公報
【特許文献4】特許第4001797号
【非特許文献1】A.J.Bouvierら Spectrochimica Acta Part A 57(2001) 561−579
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
よって、本発明における課題は、レーザ光照射によるオゾン分解によって、目的酸素同位体が濃縮された酸素を得る際に、オゾン分解時における目的酸素同位体含有オゾンの濃度を迅速に測定でき、この測定値に基づいてオゾン分解反応を制御できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる課題を解決するため、
請求項1にかかる発明は、目的の酸素同位体を含むオゾンにレーザー光を照射して光分解したのち、オゾンと前記目的酸素同位体を含む酸素とを分離して目的酸素同位体が濃縮された酸素を得る方法において、
線幅が0.05nm以下の分解用レーザ光を用いて前記目的酸素同位体を含むオゾンを選択的に分解すると同時に、目的酸素同位体を含むオゾンの濃度を線幅が0.05nm以下の測定用レーザ光によって測定し、
この測定値に基づいて前記分解用レーザ光によるオゾンの光分解を制御するようにし、
前記測定用レーザ光による測定が、正弦波で変調された注入電流により駆動される半導体レーザからの測定用レーザ光を用い、受光器で光電変換された電気信号をロックインアンプに入力し、このロックインアンプにおいて、前記正弦波を参照信号として二次微分処理を行うものであることを特徴とする酸素同位体の濃縮方法である。
【0013】
請求項2にかかる発明は、前記測定用レーザ光の波長が、800〜1300nmであることを特徴とする請求項1記載の酸素同位体の濃縮方法である。
【0014】
請求項3にかかる発明は、前記測定用レーザ光の波長を変えることで、目的酸素同位体を含むオゾンの濃度を測定するとともに、全オゾン濃度も測定することを特徴とする請求項1または2記載の酸素同位体の濃縮方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、目的酸素同位体を含むオゾンの濃度を検知しながら分解用レーザ光の照射が可能になるため、分解用レーザ光の照射を効率的に実施でき、かつ原料ガスの消費量も最適化できる。
また、全体のオゾン濃度も測定できるため、安全管理が容易になり、かつ紫外線式オゾン濃度計を使用しないことで紫外線によるオゾンの非選択的分解がない。
さらに、市販のオゾン濃度計のように測定濃度の制限がないので、オゾン濃度が20%を超えるプロセスでも実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1および図2は、本発明の酸素同位体濃縮方法を実施するための最良の形態を示すものである。
原料となる酸素ガス(O2)をオゾナイザ1に導入して、酸素の一部をオゾンに変換し、テトラフルオロメタンなどの希釈ガスとともに低温蒸留塔などの第1分離装置2に導入する。
第1分離装置2では、酸素と、オゾン+希釈ガスとに分離され、酸素は原料酸素として回収され、光反応セル3にオゾンと希釈ガスの混合ガスを導入する。
【0017】
光反応セル3には、線幅が0.05nm以下の分解用レーザ光が照射される。この分解用レーザ光は、濃縮する目的の同位体酸素原子(例えば17O)を含むオゾン(以下、「ターゲットオゾン」と記載することがある。)を選択的に分解する波長のレーザ光であって、図2に示すように、分解用レーザ光源8から発振されるものである。
この分解用レーザ光源8には、分解用レーザドライバー10からの直流の注入電流により一定の波長でレーザ発振する半導体レーザが用いられる。
【0018】
分解用レーザ光の線幅が0.05nmを越えると、ターゲットオゾンのみを選択的に光分解することができない。
分解用レーザ光により分解されたオゾンは目的の酸素同位体を含む酸素ガスとなる。光反応セル3内のガスは、酸素、オゾン、希釈ガスの混合ガスとなる。
【0019】
光反応セル3から導出した混合ガス(酸素+オゾン+希釈ガス)は、液化昇圧装置4で液化、昇圧されたのち、低温蒸留塔などの第2分離装置5に供給され、酸素と、オゾン+希釈ガスとに分離される。第2分離装置5から得られる酸素は、目的の酸素同位体原子が濃縮された製品酸素ガスとなる。
【0020】
第2分離装置5から排出されたオゾン+希釈ガスは、オゾン分解装置6に導入してオゾンを完全に分解したのち、低温蒸留塔など第3分離装置7に導入し、酸素と希釈ガスとに分離する。
分離された酸素は、濃縮する目的の酸素同位体原子の濃度が減少しているので、廃棄する。希釈ガスは再利用するため、第1分離装置2への希釈ガス導入経路へ戻す。
【0021】
上述のように、光反応セル3では、導入されたオゾンのうちターゲットオゾンのみをレーザ光により酸素へと分解する。効率よい分解のため、ターゲットオゾンを分解する分解用レーザ光源8を複数個設けておくとよい。
【0022】
このとき、図2に示すように、分解用レーザ光源8とは別に測定用レーザ光源9を設ける。この測定用レーザ光源9は、分解用レーザ光と同じ波長帯(800〜1300nm)で、線幅0.05nm以下であって連続発振の測定用レーザ光を発振するもので、測定用レーザドライバー11からの注入電流によってレーザ発振する半導体レーザが用いられる。
【0023】
測定用レーザ光の線幅が0.05nmを越えると吸収スペクトルが測定できない可能性が高い。また、波長800〜1300nmの範囲には、オゾンの吸収バンドが存在し、この波長域では、オゾン濃度を測定することができる。
【0024】
測定用レーザ光は、吸収スペクトルを測定するため、波長掃引される。このため、測定用レーザドライバー11から測定用レーザ光源9である半導体レーザの注入電流を変化させるか、外部共振器を調整する圧電素子への入力電圧を変化させて、発振波長を変化させるようになっている。
【0025】
この際、測定用レーザドライバー11には、波形発生器14で発生した、例えば1kHzの正弦波(交流)が入力され、この正弦波により注入電流が直接変調され、測定用レーザ光源9では、この直接変調された注入電流により直接変調された測定用レーザ光が発振され、この測定用レーザ光が光反応セル3に照射されるように構成されている。
また、この測定用レーザ光は、その波長がターゲットオゾンの分解を行うものではなく、ターゲットオゾンの濃度を測定できるものが選択されてもよい。
【0026】
光反応セル3に入射された測定用レーザ光は、セル3内に対向して配置されている反射鏡(図示略)間で複数回反射されたのち、フォトダイオードなどの受光器12で受光され電気信号に変換される。この電気信号は、ロックインアンプ13に入力される。
ロックインアンプ13には、別途前記波形発生器14からの正弦波が入力され、ロックインアンプ13では、この正弦波を参照信号として、変調周波数の二次高調波成分を取りだして二次微分処理が行われ、ターゲットオゾンに由来する微小な吸光度を測定する。この吸光度からランベルト・ベールの法則に基づいて、ターゲットオゾンの濃度を知ることができる。
【0027】
このターゲットオゾンの濃度測定値は、制御装置15に送られる。制御装置15では、この濃度に基づいて、光反応セル3のガス出口に設けられた開閉弁25の開度を調節する信号を出力する。開閉弁25は、これにより開度が制御され、光反応セル3内に流入する混合ガスの流量が調節され、ターゲットオゾンの分解反応を制御することができる。
【0028】
このようなターゲットオゾン濃度の測定方法を採用することで、吸収スペクトルの同位体シフト(吸収波長のずれ)はわずかであり、吸収断面積も小さいターゲットオゾンの濃度を迅速にかつ正確に測定することができる。
このため、光反応セル3での分解用レーザ光によるターゲットオゾンの光分解の進行度合を随時知ることができるので、光反応セル3に流すオゾンと希釈ガスの混合ガスの流量を調整したり、分解用レーザ光の強度を調整したりすることで、ターゲットオゾンの光分解反応を制御することが可能になる。
【0029】
また、測定用レーザ光の波長を変化させることで、セル3中のターゲットオゾンだけではなく、混合ガス中に多く含まれる16O3を測定することもできる。
このようにして、光反応セル3内の混合ガス中に含まれるターゲットオゾンや、その他のオゾンの濃度もリアルタイムに測定することができるので、ターゲットオゾンの流量コントロールによる分解反応の制御の他に、光反応セル3内の全オゾン濃度の測定も可能なので、プロセスの安全管理が可能となる。
【0030】
(連続流通方式)
10%のオゾンを含む混合ガスを光反応セル12に連続的に供給する連続流通方式について、図1および図2を用いて、さらに詳細に説明する。
第1分離装置2から光反応セル3に10vol%のオゾンと90vol%の希釈ガスとの混合ガスが導入される。光反応セル3において、ターゲットオゾンを分解する波長に設定した分解用レーザ光でレーザ光照射を行う。
【0031】
分解用レーザ光ではターゲットオゾンの濃度を測定しないので、分解用レーザ光源8は、直流で駆動し、分解用レーザ光の波長を一定に保つようにする。
光反応セル3に導入された混合ガスは、セル3内を微少速度で通過する。この間に分解用レーザ光の照射によって、混合ガス中のターゲットオゾンの分解が徐々に進む。
測定用レーザ光をセル3に照射する。光反応セル3を通過した測定用レーザ光は、フォトダイオードなどの受光器12により受光されて電気信号となり、前述のようにして、ロックインアンプ13によりターゲットオゾンの濃度を計測する。
【0032】
測定用レーザ光の波長は分解用レーザ光の波長と同じでも良いが、オゾンによる吸収の大きい波長を使用したほうが測定値の正確性が増すので、他の吸収ピークの大きい(吸収断面積の大きな)波長にあわせることが望ましく、800〜1300nmの範囲から選択される。
分解用レーザ光の照射前に、10vol%オゾンを含む混合ガス中のターゲットオゾンの濃度を測定用レーザ光で測定しておけば、分解用レーザ光の照射中に、ターゲットオゾンの濃度を測定することにより、その分解反応率がわかる。
【0033】
この分解反応率は照射時間に依存するので、セル3内を流れる混合ガスの流量を調整することで変化する。
測定用レーザ光でターゲットオゾンの濃度を測定し、適正な反応率、例えば、照射前の50%の吸収強度になるようにセル12内を通過するガス流量を調整する。
【0034】
光反応セル3出口に設置した開閉弁25の開度を調整し、ターゲットオゾンの吸収強度の測定結果、すなわち濃度に基づいて流量を制御することで照射時間を変更し、適正な反応量にすることが可能となる。
【0035】
測定用レーザ光源9、測定用レーザドライバー11および受光器12からなる測定セット以外に別の同様の測定セットを新たに用意するか、同一の測定用レーザ光源9からの測定用レーザ光の測定波長を一時的に変更することにより、セル3内のオゾンのほとんどを占める16O3の濃度も、ターゲットオゾンの測定と同様に行うことができ、光反応セル3内の全オゾン濃度が測定できる。これにより装置の安全管理や原料オゾンを発生するオゾナイザ1の運転管理に使用することができる。
【0036】
光反応セル3内の16O3を分解すると、目的とする酸素同位体濃縮製品酸素濃度を薄めてしまうので、16O3の測定は微弱なレーザパワーで実施することが望ましい。また、測定も連続で実施しないほうがよい。微弱なパワーでも16O3は濃度が高いため、測定は十分可能である。
【0037】
光反応セル3に、原料として酸素同位体濃度が天然存在比のオゾンを、濃度10vol%、圧力14kPa、流量100NL/h で導入し、ターゲットオゾンを16O16O17O として、反応分解率50%、レーザ出力10Wで反応させた場合を想定して計算すると、製品となる酸素ガス中の17O濃度は16%となり、1.5kg/年の生産量が得られることがわかった。
【0038】
(分解用レーザ光源と測定用レーザ光源を兼用した連続流通方式)
次に、分解用レーザ光源と測定用レーザ光源とを兼用する場合の連続流通式について説明する。
前述の測定用レーザ光源9を分解用レーザ光源8と別個に設けることをせず、分解用レーザ光源8からのレーザ光を上述のように正弦波により一時的に変調させることで、分解用レーザ光源8を測定用レーザ光源に兼用させることが可能である。測定用レーザ光源9、測定用レーザドライバー11を設置しないことでイニシアルコストを低減することが可能となる。
【0039】
分解用レーザ光は、オゾン分解照射時には直流注入電流を分解用レーザ光源に流すことで一定波長に固定されるが、吸収スペクトルを測定する際には、注入電流やレーザ共振器調整電圧を直接変調することにより、吸収スペクトルを測定することができる。
分解用レーザ光は高出力のものが使用されるため、測定用レーザ光として照射する場合には、受光器に光学フィルタを設置して適正な入力光強度にまで減衰させることが好ましい。光反応セル3内の混合ガスの流速は非常に遅いので、ターゲットオゾンの濃度を間欠的に測定しても支障は生じない。
【0040】
さらに、分解用レーザ光の波長を短時間だけ変更すれば16O3の濃度測定も可能であり、上述のように、安全管理などに利用することができる。このとき、ターゲットオゾン以外のオゾンの分解を避けるため、レーザ強度を低下させて測定を行うことが好ましい。
【0041】
(バッチ(切り替え)方式)
連続流通方式では光反応セル3内の混合ガスの流速を小さくすることでレーザによる照射時間を長くすることができるが、確実に分解反応させるためにバッチ式を採用することもできる。
【0042】
図3に、複数(この例では2個)の光反応セル31、32を用い、それぞれの光反応セル31、32に混合ガスを導入し、セルのガス入口およびガス出口にそれぞれ設けた開閉弁25、25、26、26を操作し、内部に混合ガスを封入しきった状態でレーザ光を照射を行い、セルを切り替えながらターゲットオゾンの分解と濃度測定を実施する場合の装置構成を示す。
【0043】
まず、光反応セル31に第1分離装置2からの濃度10vol%のオゾンと90vol%の希釈ガスとの混合ガスを導入する。
光反応セル31に混合ガスを封入したのち、混合ガスの導入を光反応セル32に切替える。光反応セル31で分解用レーザ光と測定用レーザ光を照射し、照射と濃度測定が完了したら分解反応後の混合ガスを液化昇圧装置4へ送る。その後、混合ガスの導入を行い、以降、同じ操作を繰り返す。
【0044】
光反応セル32に封入した混合ガスに対して同様にして分解用レーザ光と測定用レーザ光とを照射し、ターゲットオゾンの分解と濃度測定を行う。
この時、各光反応セル31、32のそれぞれ入射窓および出射窓に可動ミラー16、17、18、19、20、21、22、23を設け、この可動ミラー16・・・を回転させて、分解用レーザ光および測定用レーザ光の光軸を切り替え、各セルに交互に分解用レーザ光および測定用レーザ光が入射され、出射されるように構成されており、このような構成を採用することで、高価なレーザ光源や測定装置を複数用意する必要がなくなる。
【0045】
ターゲットオゾンの濃度測定は、前述のように、二次微分吸収スペクトルを測定することで求められる。これにより、ターゲットオゾンの分解反応時間の設定を、ターゲットオゾンの濃度の減少を確認しながら行うことが可能となる。
【0046】
このように複数の光反応セルを並列に接続することで、ターゲットオゾンを全量近く光分解させることも可能であり、レーザ光の投入光量と原料酸素ガスの最適値を考慮して、光反応セルを切り替えると良い。光反応セル31での分解反応が終了したら、光反応セル32へ照射に切り替え、切り替えを連続して行うことで連続的な製品の生産が可能となる。セルの数に制限はない。切り替え方式においても同一条件において製品の仕様は同様になる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の方法を実施するための装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】本発明におけるターゲットオゾンの分解および濃度測定のための装置の一例を示す概略構成図である。
【図3】本発明におけるターゲットオゾンの分解および濃度測定のための装置の他の例を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0048】
1・・・オゾナイザ、2・・・第1分離装置、3・・・光反応セル、4・・・液化昇圧装置、5・・・第2分離装置、6・・・オゾン分解装置、7・・・第3分離装置、8・・・分解用レーザ光源、9・・・測定用レーザ光源、10・・・分解用レーザドライバー、11・・・測定用レーザドライバー、12・・・受光器、13・・・ロックインアンプ、14・・・波形発生器、15・・・制御装置、31、32・・・光反応セル、16、17、18、19、20、21、22、23・・・可動ミラー
【技術分野】
【0001】
この発明は、オゾンにレーザ光を照射し、天然存在比の小さな酸素同位体17O、18Oが濃縮された酸素ガスを得る酸素同位体の濃縮方法に関し、レーザ光の照射を効率的に行えるようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
化学や医学の分野で、トレーサーとして利用されている酸素同位体の17Oや18Oは、自然界における存在比が極めて小さいため、使用に際しては、これらを濃縮する必要がある。
酸素同位体の濃縮方法として、蒸留を用いた方法がある(特許文献1〜3)。これらの方法は、レーザ光を利用した光反応によるオゾンの分解反応を利用して、存在比が極めて小さな酸素の安定同位体である17Oや18Oを選択的に濃縮するものである。
【0003】
特許文献3で開示されている酸素同位体の濃縮方法および装置に関する発明は、オゾンをガスで希釈した後、希ガスが固化してしまう条件下でもオゾン濃度を小さく保ち、酸素の同位体17Oおよび18Oを含むオゾンを安定して選択的に光分解して酸素とすることで、効率的かつ連続的に、この酸素中に17Oおよび18Oを濃縮する方法および装置に関するものである。
【0004】
特許文献3では、オゾン光分解工程において、CF4とオゾンの混合ガスに光を照射し、このオゾン中に含まれる、特定の酸素同位体を含むオゾンのアイソトポマーを選択的に酸素に分解する。得られた混合ガスを捕集工程にて捕集した後、酸素同位体濃縮工程において低温蒸留等により、この混合ガス中の酸素を、未分解のオゾンおよびCF4から分離し、分離した酸素ガス中に前記酸素同位体を濃縮するものである。
【0005】
ところで、レーザ光を使って目的酸素同位体を含むオゾンを選択的に分解し、酸素として取り出す方法においては、レーザ光の照射時間に応じて分解反応が進むので、レーザ光の照射時間を長くすれば、目的酸素同位体を含むオゾンを多く分解できる。しかし、単位時間当たりの分解量は低下してゆき、照射時間を無駄に長くすることになるので望ましくない。
【0006】
一方、レーザ光の照射時間が不十分な場合は、分解が不十分なまま混合ガスを次工程に移ってしまうため、原料のオゾン(酸素)が大量に必要になるばかりではなく、収率も落ちてしまう。さらに処理ガス量も多くなるため、分離のための蒸留塔も大きなものが必要になるので、イニシアルコストも高くなる。よって、収率を向上させるためには、照射時間を最適化する必要がある。
【0007】
また、光分解セルに導入するガスのオゾン濃度は、なるべく高いほうが目的酸素同位体が多く含まれることになるので望ましいが、オゾンは自己分解性をもつため、あまり高濃度状態で運転することは望ましくない。
このように、レーザ光分解による酸素同位体の濃縮方法においては、適切なレーザ光の照射時間を決めたり、オゾン濃度を管理したりするために、適切にオゾン濃度を測定する必要がある。
【0008】
オゾン濃度の測定には紫外線吸収式の濃度計が広く使用されているが、この紫外光はオゾンを無選択に分解してしまい、レーザ光を用いた酸素同位体の濃縮プロセスにおいては、製品酸素に含まれる目的酸素同位体の濃度を下げてしまうという問題があった。
また、他のオゾン濃度の測定方法として、特許文献4にはレーザ光で測定する方法が開示されている。この方法ではレーザ光をパルス発信させて測定を行うが、オゾン同位体の吸収スペクトルのシフト量は小さいため、当該レーザ光では測定することができない。
【0009】
さらに別の方法として、フーリエ変換赤外分光計(FTIR)を使用したオゾン同位体の測定の報告(非特許文献1)もあるが、測定時間を10〜20時間も必要とするため、プロセス制御のように連続的な測定を必要とする場合には不適であり、さらに赤外線の照射によりオゾンを非選択的に分解してしまうため、適用できない。
【0010】
このように、従来技術においては、酸素同位体の濃縮において、レーザ光照射中に、プロセスに支障なく流体中のオゾンの濃度を測定する手段がなかったため、トライアンドエラー方式により運転パラメータを設定するしかなかった。このような設定方法では、運転条件の最適化は難しかった。
【特許文献1】特開2004−261776号公報
【特許文献2】特開2005−40668号公報
【特許文献3】特開2006−272090号公報
【特許文献4】特許第4001797号
【非特許文献1】A.J.Bouvierら Spectrochimica Acta Part A 57(2001) 561−579
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
よって、本発明における課題は、レーザ光照射によるオゾン分解によって、目的酸素同位体が濃縮された酸素を得る際に、オゾン分解時における目的酸素同位体含有オゾンの濃度を迅速に測定でき、この測定値に基づいてオゾン分解反応を制御できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる課題を解決するため、
請求項1にかかる発明は、目的の酸素同位体を含むオゾンにレーザー光を照射して光分解したのち、オゾンと前記目的酸素同位体を含む酸素とを分離して目的酸素同位体が濃縮された酸素を得る方法において、
線幅が0.05nm以下の分解用レーザ光を用いて前記目的酸素同位体を含むオゾンを選択的に分解すると同時に、目的酸素同位体を含むオゾンの濃度を線幅が0.05nm以下の測定用レーザ光によって測定し、
この測定値に基づいて前記分解用レーザ光によるオゾンの光分解を制御するようにし、
前記測定用レーザ光による測定が、正弦波で変調された注入電流により駆動される半導体レーザからの測定用レーザ光を用い、受光器で光電変換された電気信号をロックインアンプに入力し、このロックインアンプにおいて、前記正弦波を参照信号として二次微分処理を行うものであることを特徴とする酸素同位体の濃縮方法である。
【0013】
請求項2にかかる発明は、前記測定用レーザ光の波長が、800〜1300nmであることを特徴とする請求項1記載の酸素同位体の濃縮方法である。
【0014】
請求項3にかかる発明は、前記測定用レーザ光の波長を変えることで、目的酸素同位体を含むオゾンの濃度を測定するとともに、全オゾン濃度も測定することを特徴とする請求項1または2記載の酸素同位体の濃縮方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、目的酸素同位体を含むオゾンの濃度を検知しながら分解用レーザ光の照射が可能になるため、分解用レーザ光の照射を効率的に実施でき、かつ原料ガスの消費量も最適化できる。
また、全体のオゾン濃度も測定できるため、安全管理が容易になり、かつ紫外線式オゾン濃度計を使用しないことで紫外線によるオゾンの非選択的分解がない。
さらに、市販のオゾン濃度計のように測定濃度の制限がないので、オゾン濃度が20%を超えるプロセスでも実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1および図2は、本発明の酸素同位体濃縮方法を実施するための最良の形態を示すものである。
原料となる酸素ガス(O2)をオゾナイザ1に導入して、酸素の一部をオゾンに変換し、テトラフルオロメタンなどの希釈ガスとともに低温蒸留塔などの第1分離装置2に導入する。
第1分離装置2では、酸素と、オゾン+希釈ガスとに分離され、酸素は原料酸素として回収され、光反応セル3にオゾンと希釈ガスの混合ガスを導入する。
【0017】
光反応セル3には、線幅が0.05nm以下の分解用レーザ光が照射される。この分解用レーザ光は、濃縮する目的の同位体酸素原子(例えば17O)を含むオゾン(以下、「ターゲットオゾン」と記載することがある。)を選択的に分解する波長のレーザ光であって、図2に示すように、分解用レーザ光源8から発振されるものである。
この分解用レーザ光源8には、分解用レーザドライバー10からの直流の注入電流により一定の波長でレーザ発振する半導体レーザが用いられる。
【0018】
分解用レーザ光の線幅が0.05nmを越えると、ターゲットオゾンのみを選択的に光分解することができない。
分解用レーザ光により分解されたオゾンは目的の酸素同位体を含む酸素ガスとなる。光反応セル3内のガスは、酸素、オゾン、希釈ガスの混合ガスとなる。
【0019】
光反応セル3から導出した混合ガス(酸素+オゾン+希釈ガス)は、液化昇圧装置4で液化、昇圧されたのち、低温蒸留塔などの第2分離装置5に供給され、酸素と、オゾン+希釈ガスとに分離される。第2分離装置5から得られる酸素は、目的の酸素同位体原子が濃縮された製品酸素ガスとなる。
【0020】
第2分離装置5から排出されたオゾン+希釈ガスは、オゾン分解装置6に導入してオゾンを完全に分解したのち、低温蒸留塔など第3分離装置7に導入し、酸素と希釈ガスとに分離する。
分離された酸素は、濃縮する目的の酸素同位体原子の濃度が減少しているので、廃棄する。希釈ガスは再利用するため、第1分離装置2への希釈ガス導入経路へ戻す。
【0021】
上述のように、光反応セル3では、導入されたオゾンのうちターゲットオゾンのみをレーザ光により酸素へと分解する。効率よい分解のため、ターゲットオゾンを分解する分解用レーザ光源8を複数個設けておくとよい。
【0022】
このとき、図2に示すように、分解用レーザ光源8とは別に測定用レーザ光源9を設ける。この測定用レーザ光源9は、分解用レーザ光と同じ波長帯(800〜1300nm)で、線幅0.05nm以下であって連続発振の測定用レーザ光を発振するもので、測定用レーザドライバー11からの注入電流によってレーザ発振する半導体レーザが用いられる。
【0023】
測定用レーザ光の線幅が0.05nmを越えると吸収スペクトルが測定できない可能性が高い。また、波長800〜1300nmの範囲には、オゾンの吸収バンドが存在し、この波長域では、オゾン濃度を測定することができる。
【0024】
測定用レーザ光は、吸収スペクトルを測定するため、波長掃引される。このため、測定用レーザドライバー11から測定用レーザ光源9である半導体レーザの注入電流を変化させるか、外部共振器を調整する圧電素子への入力電圧を変化させて、発振波長を変化させるようになっている。
【0025】
この際、測定用レーザドライバー11には、波形発生器14で発生した、例えば1kHzの正弦波(交流)が入力され、この正弦波により注入電流が直接変調され、測定用レーザ光源9では、この直接変調された注入電流により直接変調された測定用レーザ光が発振され、この測定用レーザ光が光反応セル3に照射されるように構成されている。
また、この測定用レーザ光は、その波長がターゲットオゾンの分解を行うものではなく、ターゲットオゾンの濃度を測定できるものが選択されてもよい。
【0026】
光反応セル3に入射された測定用レーザ光は、セル3内に対向して配置されている反射鏡(図示略)間で複数回反射されたのち、フォトダイオードなどの受光器12で受光され電気信号に変換される。この電気信号は、ロックインアンプ13に入力される。
ロックインアンプ13には、別途前記波形発生器14からの正弦波が入力され、ロックインアンプ13では、この正弦波を参照信号として、変調周波数の二次高調波成分を取りだして二次微分処理が行われ、ターゲットオゾンに由来する微小な吸光度を測定する。この吸光度からランベルト・ベールの法則に基づいて、ターゲットオゾンの濃度を知ることができる。
【0027】
このターゲットオゾンの濃度測定値は、制御装置15に送られる。制御装置15では、この濃度に基づいて、光反応セル3のガス出口に設けられた開閉弁25の開度を調節する信号を出力する。開閉弁25は、これにより開度が制御され、光反応セル3内に流入する混合ガスの流量が調節され、ターゲットオゾンの分解反応を制御することができる。
【0028】
このようなターゲットオゾン濃度の測定方法を採用することで、吸収スペクトルの同位体シフト(吸収波長のずれ)はわずかであり、吸収断面積も小さいターゲットオゾンの濃度を迅速にかつ正確に測定することができる。
このため、光反応セル3での分解用レーザ光によるターゲットオゾンの光分解の進行度合を随時知ることができるので、光反応セル3に流すオゾンと希釈ガスの混合ガスの流量を調整したり、分解用レーザ光の強度を調整したりすることで、ターゲットオゾンの光分解反応を制御することが可能になる。
【0029】
また、測定用レーザ光の波長を変化させることで、セル3中のターゲットオゾンだけではなく、混合ガス中に多く含まれる16O3を測定することもできる。
このようにして、光反応セル3内の混合ガス中に含まれるターゲットオゾンや、その他のオゾンの濃度もリアルタイムに測定することができるので、ターゲットオゾンの流量コントロールによる分解反応の制御の他に、光反応セル3内の全オゾン濃度の測定も可能なので、プロセスの安全管理が可能となる。
【0030】
(連続流通方式)
10%のオゾンを含む混合ガスを光反応セル12に連続的に供給する連続流通方式について、図1および図2を用いて、さらに詳細に説明する。
第1分離装置2から光反応セル3に10vol%のオゾンと90vol%の希釈ガスとの混合ガスが導入される。光反応セル3において、ターゲットオゾンを分解する波長に設定した分解用レーザ光でレーザ光照射を行う。
【0031】
分解用レーザ光ではターゲットオゾンの濃度を測定しないので、分解用レーザ光源8は、直流で駆動し、分解用レーザ光の波長を一定に保つようにする。
光反応セル3に導入された混合ガスは、セル3内を微少速度で通過する。この間に分解用レーザ光の照射によって、混合ガス中のターゲットオゾンの分解が徐々に進む。
測定用レーザ光をセル3に照射する。光反応セル3を通過した測定用レーザ光は、フォトダイオードなどの受光器12により受光されて電気信号となり、前述のようにして、ロックインアンプ13によりターゲットオゾンの濃度を計測する。
【0032】
測定用レーザ光の波長は分解用レーザ光の波長と同じでも良いが、オゾンによる吸収の大きい波長を使用したほうが測定値の正確性が増すので、他の吸収ピークの大きい(吸収断面積の大きな)波長にあわせることが望ましく、800〜1300nmの範囲から選択される。
分解用レーザ光の照射前に、10vol%オゾンを含む混合ガス中のターゲットオゾンの濃度を測定用レーザ光で測定しておけば、分解用レーザ光の照射中に、ターゲットオゾンの濃度を測定することにより、その分解反応率がわかる。
【0033】
この分解反応率は照射時間に依存するので、セル3内を流れる混合ガスの流量を調整することで変化する。
測定用レーザ光でターゲットオゾンの濃度を測定し、適正な反応率、例えば、照射前の50%の吸収強度になるようにセル12内を通過するガス流量を調整する。
【0034】
光反応セル3出口に設置した開閉弁25の開度を調整し、ターゲットオゾンの吸収強度の測定結果、すなわち濃度に基づいて流量を制御することで照射時間を変更し、適正な反応量にすることが可能となる。
【0035】
測定用レーザ光源9、測定用レーザドライバー11および受光器12からなる測定セット以外に別の同様の測定セットを新たに用意するか、同一の測定用レーザ光源9からの測定用レーザ光の測定波長を一時的に変更することにより、セル3内のオゾンのほとんどを占める16O3の濃度も、ターゲットオゾンの測定と同様に行うことができ、光反応セル3内の全オゾン濃度が測定できる。これにより装置の安全管理や原料オゾンを発生するオゾナイザ1の運転管理に使用することができる。
【0036】
光反応セル3内の16O3を分解すると、目的とする酸素同位体濃縮製品酸素濃度を薄めてしまうので、16O3の測定は微弱なレーザパワーで実施することが望ましい。また、測定も連続で実施しないほうがよい。微弱なパワーでも16O3は濃度が高いため、測定は十分可能である。
【0037】
光反応セル3に、原料として酸素同位体濃度が天然存在比のオゾンを、濃度10vol%、圧力14kPa、流量100NL/h で導入し、ターゲットオゾンを16O16O17O として、反応分解率50%、レーザ出力10Wで反応させた場合を想定して計算すると、製品となる酸素ガス中の17O濃度は16%となり、1.5kg/年の生産量が得られることがわかった。
【0038】
(分解用レーザ光源と測定用レーザ光源を兼用した連続流通方式)
次に、分解用レーザ光源と測定用レーザ光源とを兼用する場合の連続流通式について説明する。
前述の測定用レーザ光源9を分解用レーザ光源8と別個に設けることをせず、分解用レーザ光源8からのレーザ光を上述のように正弦波により一時的に変調させることで、分解用レーザ光源8を測定用レーザ光源に兼用させることが可能である。測定用レーザ光源9、測定用レーザドライバー11を設置しないことでイニシアルコストを低減することが可能となる。
【0039】
分解用レーザ光は、オゾン分解照射時には直流注入電流を分解用レーザ光源に流すことで一定波長に固定されるが、吸収スペクトルを測定する際には、注入電流やレーザ共振器調整電圧を直接変調することにより、吸収スペクトルを測定することができる。
分解用レーザ光は高出力のものが使用されるため、測定用レーザ光として照射する場合には、受光器に光学フィルタを設置して適正な入力光強度にまで減衰させることが好ましい。光反応セル3内の混合ガスの流速は非常に遅いので、ターゲットオゾンの濃度を間欠的に測定しても支障は生じない。
【0040】
さらに、分解用レーザ光の波長を短時間だけ変更すれば16O3の濃度測定も可能であり、上述のように、安全管理などに利用することができる。このとき、ターゲットオゾン以外のオゾンの分解を避けるため、レーザ強度を低下させて測定を行うことが好ましい。
【0041】
(バッチ(切り替え)方式)
連続流通方式では光反応セル3内の混合ガスの流速を小さくすることでレーザによる照射時間を長くすることができるが、確実に分解反応させるためにバッチ式を採用することもできる。
【0042】
図3に、複数(この例では2個)の光反応セル31、32を用い、それぞれの光反応セル31、32に混合ガスを導入し、セルのガス入口およびガス出口にそれぞれ設けた開閉弁25、25、26、26を操作し、内部に混合ガスを封入しきった状態でレーザ光を照射を行い、セルを切り替えながらターゲットオゾンの分解と濃度測定を実施する場合の装置構成を示す。
【0043】
まず、光反応セル31に第1分離装置2からの濃度10vol%のオゾンと90vol%の希釈ガスとの混合ガスを導入する。
光反応セル31に混合ガスを封入したのち、混合ガスの導入を光反応セル32に切替える。光反応セル31で分解用レーザ光と測定用レーザ光を照射し、照射と濃度測定が完了したら分解反応後の混合ガスを液化昇圧装置4へ送る。その後、混合ガスの導入を行い、以降、同じ操作を繰り返す。
【0044】
光反応セル32に封入した混合ガスに対して同様にして分解用レーザ光と測定用レーザ光とを照射し、ターゲットオゾンの分解と濃度測定を行う。
この時、各光反応セル31、32のそれぞれ入射窓および出射窓に可動ミラー16、17、18、19、20、21、22、23を設け、この可動ミラー16・・・を回転させて、分解用レーザ光および測定用レーザ光の光軸を切り替え、各セルに交互に分解用レーザ光および測定用レーザ光が入射され、出射されるように構成されており、このような構成を採用することで、高価なレーザ光源や測定装置を複数用意する必要がなくなる。
【0045】
ターゲットオゾンの濃度測定は、前述のように、二次微分吸収スペクトルを測定することで求められる。これにより、ターゲットオゾンの分解反応時間の設定を、ターゲットオゾンの濃度の減少を確認しながら行うことが可能となる。
【0046】
このように複数の光反応セルを並列に接続することで、ターゲットオゾンを全量近く光分解させることも可能であり、レーザ光の投入光量と原料酸素ガスの最適値を考慮して、光反応セルを切り替えると良い。光反応セル31での分解反応が終了したら、光反応セル32へ照射に切り替え、切り替えを連続して行うことで連続的な製品の生産が可能となる。セルの数に制限はない。切り替え方式においても同一条件において製品の仕様は同様になる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の方法を実施するための装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】本発明におけるターゲットオゾンの分解および濃度測定のための装置の一例を示す概略構成図である。
【図3】本発明におけるターゲットオゾンの分解および濃度測定のための装置の他の例を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0048】
1・・・オゾナイザ、2・・・第1分離装置、3・・・光反応セル、4・・・液化昇圧装置、5・・・第2分離装置、6・・・オゾン分解装置、7・・・第3分離装置、8・・・分解用レーザ光源、9・・・測定用レーザ光源、10・・・分解用レーザドライバー、11・・・測定用レーザドライバー、12・・・受光器、13・・・ロックインアンプ、14・・・波形発生器、15・・・制御装置、31、32・・・光反応セル、16、17、18、19、20、21、22、23・・・可動ミラー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的の酸素同位体を含むオゾンにレーザー光を照射して光分解したのち、オゾンと前記目的酸素同位体を含む酸素とを分離して目的酸素同位体が濃縮された酸素を得る方法において、
線幅が0.05nm以下の分解用レーザ光を用いて前記目的酸素同位体を含むオゾンを選択的に分解すると同時に、目的酸素同位体を含むオゾンの濃度を線幅が0.05nm以下の測定用レーザ光によって測定し、
この測定値に基づいて前記分解用レーザ光によるオゾンの光分解を制御するようにし、
前記測定用レーザ光による測定が、正弦波で変調された注入電流により駆動される半導体レーザからの測定用レーザ光を用い、受光器で光電変換された電気信号をロックインアンプに入力し、このロックインアンプにおいて、前記正弦波を参照信号として二次微分処理を行うものであることを特徴とする酸素同位体の濃縮方法。
【請求項2】
前記測定用レーザ光の波長が、800〜1300nmであることを特徴とする請求項1記載の酸素同位体の濃縮方法。
【請求項3】
前記測定用レーザ光の波長を変えることで、目的酸素同位体を含むオゾンの濃度を測定するとともに、全オゾン濃度も測定することを特徴とする請求項1なたは2に記載の酸素同位体の濃縮方法。
【請求項1】
目的の酸素同位体を含むオゾンにレーザー光を照射して光分解したのち、オゾンと前記目的酸素同位体を含む酸素とを分離して目的酸素同位体が濃縮された酸素を得る方法において、
線幅が0.05nm以下の分解用レーザ光を用いて前記目的酸素同位体を含むオゾンを選択的に分解すると同時に、目的酸素同位体を含むオゾンの濃度を線幅が0.05nm以下の測定用レーザ光によって測定し、
この測定値に基づいて前記分解用レーザ光によるオゾンの光分解を制御するようにし、
前記測定用レーザ光による測定が、正弦波で変調された注入電流により駆動される半導体レーザからの測定用レーザ光を用い、受光器で光電変換された電気信号をロックインアンプに入力し、このロックインアンプにおいて、前記正弦波を参照信号として二次微分処理を行うものであることを特徴とする酸素同位体の濃縮方法。
【請求項2】
前記測定用レーザ光の波長が、800〜1300nmであることを特徴とする請求項1記載の酸素同位体の濃縮方法。
【請求項3】
前記測定用レーザ光の波長を変えることで、目的酸素同位体を含むオゾンの濃度を測定するとともに、全オゾン濃度も測定することを特徴とする請求項1なたは2に記載の酸素同位体の濃縮方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図2】
【図3】
【公開番号】特開2009−233492(P2009−233492A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−79417(P2008−79417)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】
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