説明

酸素吸収剤

【課題】高水分活性の食品への使用に適した、有機系の酸素吸収剤を提供する。
【解決手段】アスコルビン酸および/またはその塩、アルカリ性化合物、反応促進物、水および平均粒子径120〜250μm、平均細孔径2000〜4000Åの多孔質シリカを含有することを特徴とする酸素吸収剤、および該酸素吸収剤と水分活性0.9〜1.0を有する食品とをガスバリヤ性フィルム製の袋内へ密封することを特徴とする高水分活性食品の保存方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高水分活性の食品に使用した場合にも酸素吸収速度が低下することが無い、有機系の酸素吸収剤に関する。
【背景技術】
【0002】
食品包装体中に封入して食品の変性、変色、酸化等による劣化を防止するための酸素吸収剤が広く用いられている。従来からよく用いられている代表的な酸素吸収剤には鉄を主剤とする無機系のものとアスコルビン酸を主剤とする有機系のものとがあり、食品の種類や目的によってこれらの酸素吸収剤が使い分けられている。
【0003】
無機系の酸素吸収剤は酸素吸収速度が速いという特徴を有する反面、水分活性が0.9を超えるような高水分活性食品に使用した場合には錆が発生し易く、錆のしみ出しにより食品が汚染されるという問題を有していた。一方、アスコルビン酸を主剤とする酸素吸収剤は高水分下でも錆の発生が無いため、高水分活性食品への利用が拡大しつつある。
【0004】
しかしながら、例えば特許文献1に記載されるような従来のアスコルビン酸を主剤とする酸素吸収剤は、比較的水分活性の低い食品に対しては酸素吸収能力に優れるが、高水分下では酸素吸収速度の低下や内容物のしみ出しによる食品汚染が発生する傾向にあり、高水分下においても内容物のしみ出しがなく、優れた酸素吸収能力を有する酸素吸収剤の開発が望まれていた。
【0005】
シリカは従来より酸素吸収剤に配合されていたが、従来の酸素吸収剤では十分な流動性を提供するため、小粒径のシリカ(特許文献1では12nm)が使用されていた。特許文献1ではまた、シリカとしては内部に細孔を有さないシリカが好ましい旨が記載されており、実施例でも気相法によって得られた細孔を有さないシリカが用いられている。
【0006】
【特許文献1】特許第2701999号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、高水分活性食品に使用した場合でも、優れた酸素吸収能力を有し、且つ内容物のしみ出しによる食品汚染が抑制された酸素吸収剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、アスコルビン酸を主剤とする酸素吸収剤において、鋭意検討の結果、特定の粒子径および細孔径の多孔質シリカを配合することにより上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本発明においては従来の酸素吸収剤では使用されていなかった大粒径で細孔径が特定の範囲にある多孔質シリカを用いることにより、高水分下でも内容物のしみ出しが無く、優れた酸素吸収能力を発揮することは驚くべきことであった。
【0010】
すなわち本発明は、アスコルビン酸および/またはその塩、アルカリ性化合物、反応促進物、水および平均粒子径10〜250μm、且つ平均細孔径2000〜4000Åの多孔質シリカを含有することを特徴とする酸素吸収剤に関する。
【0011】
なお、本明細書および請求の範囲において、「平均粒子径」はレーザー回折散乱法で測定される値の体積平均を言うものとする。「平均細孔径」は水銀圧入法で測定される値の体積平均を言うものとする。
【0012】
本発明はまた、前記酸素吸収剤と水分活性0.9〜1.0を有する食品とをガスバリヤ性フィルム製の袋に密封することを特徴とする高水分活性食品の保存方法も提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明において多孔質シリカとしては、平均粒子径が120〜250μm、平均細孔径が2000〜4000Åの多孔質シリカが用いられる。酸素吸収剤と高水分活性食品とを密封すると高水分活性食品から発生した水分が酸素吸収剤と接触し、水分量が過剰となって酸素吸収速度の低下やしみ出しが発生するが、前記条件を満たすシリカを用いることにより、高水分下においても酸素吸収速度を低下させることなく、内容物のしみ出しも抑制される。
【0014】
シリカの平均粒子径は120〜250μmのものが好ましく、150〜220μmのものが内容物のしみ出し抑制、酸素吸収速度の点で優れるため、より好ましい。シリカの平均粒子径を120μm以上と比較的大きなものを用いることにより、製造時の飛散が抑制できる。また、平均粒径が120μm未満の場合、高水分活性の食品に用いると内容物のしみ出しが顕著となり好ましくない。一方、平均粒径が250μmを超える場合、酸素吸収速度が著しく低下する。
【0015】
シリカの平均細孔径は2000〜4000Å、より好ましくは2500〜3500Åである。平均細孔径が2000Å未満の場合、酸素吸収速度が低下し、4000Åを超える場合、内容物のしみ出しが発生するため好ましくない。
【0016】
本発明に用いられる多孔質シリカは公知の方法で得ることができる。例えばケイ酸ナトリウムの酸による分解等の液相法によって製造される液相製シリカゲルが例示される。
【0017】
シリカの使用量は、酸素吸収剤全量の5〜50重量%が好ましく、10〜30重量%がより好ましく、15〜25重量%がさらに好ましい。シリカの使用量が5重量%未満の場合には流動性が低下する傾向があり、50重量%を超える場合には飛散性が激しくなる傾向がある。
【0018】
本発明においてアスコルビン酸はL−アスコルビン酸の他、D−iso−アスコルビン酸(エリソルビン酸)を用いることができる。D−iso−アスコルビン酸は通常、L−アスコルビン酸よりかなり安価であるがその立体障害のため、L−アスコルビン酸に比べその酸素吸収能が十分に発現されない傾向があったが、本発明のごとくシリカと併用するとその効果がL−アスコルビン酸より早く発現するので、本発明にとっては特に好ましいものである。もちろんL−アスコルビン酸とD−iso−アスコルビン酸は併用してもよい。アスコルビン酸は未中和物も使用できるが、適当なアルカリ、例えばアルカリ金属、アルカリ土類金属等で完全にあるいは部分的に中和されていてもよい。特に好ましい塩はナトリウム、カリウム、カルシウム等である。
【0019】
アスコルビン酸および/またはその塩の割合は、酸素吸収剤全量の10〜60重量%が好ましく、15〜50重量%がより好ましい。アスコルビン酸および/またはその塩の割合が10重量%未満の場合には酸素吸収剤全体量が過大となり、60重量%を超える場合には、その分他の成分の割合を減少させることとなるため、全体のバランスが崩れ、酸素吸収速度が低下する傾向がある。
【0020】
本発明において好適なアルカリ性化合物は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属、アルミニウム等の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、有機酸、例えば酢酸、乳酸、クエン酸、りんご酸、オキザロ酢酸等のアルカリ金属塩等であり、特に炭酸塩、炭酸水素塩は酸素吸収に対応して、系中に炭酸ガスを放出するため、その炭酸ガスの作用により、食品等の保存性をより向上させることができ、また食品包装内部の圧力を一定に保つことができるため好ましいものである。具体的には炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムが好ましい。
【0021】
アルカリ性化合物の割合は酸素吸収剤全量の1〜60重量%が好ましく、5〜50重量%がより好ましい。アルカリ性化合物の割合が1重量%未満あるいは60重量%を超える場合、いずれも酸素吸収能が不十分となる傾向がある。
【0022】
本発明において反応促進物はアスコルビン酸および/またはその塩の酸素吸収剤としての作用を発現するための触媒として作用するものを意味する。これを用いない場合、酸素吸収効率、特に酸素吸収速度が低下する傾向にある。反応促進物としては活性炭、鉄、銅、亜鉛、すずなどの遷移金属またはその塩などが用いられるが、その作用の発現性及び安全性から特に活性炭あるいは鉄を含む化合物(以下、鉄化合物という)が好ましい。 鉄化合物としては第一鉄塩、第二鉄塩いずれであってもよく、あるいは有機酸との鉄塩であってもよい。具体的には硫酸塩、塩酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩等、特に水溶性の鉄化合物が好ましい。特に好ましい鉄化合物としては、硫酸第一鉄、塩化第一鉄、硫酸第二鉄、塩化第二鉄等が例示される。これら反応促進物は2種以上を併用してもよい。
【0023】
反応促進物の割合はアスコルビン酸および/またはその塩100重量部に対し、1〜200重量部が好ましく、5〜100重量部がより好ましい。反応促進物の量が1重量部未満あるいは200重量部を超える場合には酸素吸収能が不十分となる傾向がある。
【0024】
本発明において、水はアスコルビン酸および/またはその塩の酸素吸収作用を発現させる上で重要な役割をはたすが、この水はどのような形で存在していてもよい。例えば、各成分を混合する時にそのまま添加してもよいし、予め他の成分と混合した状態で添加してもよい。例えば、バーミキュライト、ゼオライト等の保水材に吸着ないし含浸させた形で添加することも可能である。また、他の成分中の結晶水という状態で存在させてもよいし、対象の食品等から蒸散される水蒸気という状態で存在させてもよい。好ましい適用としては、酸素吸収の速度あるいは適応食品の広範さから、水を何らかの方法で別途添加するのがよい。この場合の水の使用量は酸素吸収剤全量の5〜50重量%が好ましく,10〜35重量%がより好ましい。水の量が5重量%未満の場合、酸素吸収能が低下する傾向にあり、特に乾燥食品に対しては効果が不十分となる傾向がある他、飛散性が増大し、製造性が悪化する傾向がある。また、50重量%を超える場合には流動性が悪化する傾向がある。
【0025】
本発明は上記各成分の他、例えばアスコルビン酸固有の匂いを除去するため、活性炭等の脱臭剤、あるいは酸素吸収剤自体の水分活性を調整するための水溶性塩類、アルコールなどの水混和性溶媒等を適宜配合してもよい。
【0026】
本発明の酸素吸収剤を製造する方法としては、各成分を単に混合してもよいが、例えば、反応促進物の水溶液あるいは分散液を予めシリカに均一に混合した後、これにアスコルビン酸および/またはその塩の粉末およびアルカリ性化合物の粉末を混合してあるいは別々に、添加し均一に混合してもよい。もちろんこれらに限定されるものではない。得られた酸素吸収剤はこれを適当量通気性の小袋に包装する。
【0027】
通気性小袋の材質としては、プラスチック、紙、不織布等が挙げられるが、その中でもプラスチック包材が耐油性の点で好ましい。
【0028】
本発明の酸素吸収剤は、水分活性が0.9〜1.0を有する食品と共にガスバリア性フィルム製の袋に密封することにより、速やかに袋内の酸素を吸収し、優れた保存効果を発揮する。特に水分活性が0.96以上となるような、極めて水分活性の高い食品に対しても適用可能であるため、これらの食品への適用は特に好ましい。
【0029】
本発明の酸素吸収剤が対象とする食品としては、水分活性が0.9〜1.0を有する食品であれば特に限定されず、様々な食品に用いることができる。水分活性が0.9〜1.0である食品の例としては、浅漬けなどの漬物、かまぼこ、ちくわ、はんぺん、魚肉ソーセージ、生干し、魚開きなどの水産製品、コロッケ、トンカツ、フライドチキン、魚フライ、唐揚げなどのフライ製品、ハンバーグ、肉団子、餃子、シュウマイ、ソーセージなどの食肉惣菜、餅、白玉等の餅系食品、生麺、生パン粉、ピザクラスト、パン、蒸饅頭、荒削節、佃煮等が挙げられる。
【0030】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに説明する。
【0031】
実施例1および比較例1〜3
使用シリカ:
表1に示すシリカ粒子を用いた
【表1】

*無孔質シリカ
なお、上記シリカの平均粒子径はマスターサイザー2000(MALVERN社製)、平均細孔径および細孔容積はPascal440(株式会社アムコ製)にて測定したものである。
【0032】
酸素吸収剤の調製:
表2に示す組成の酸素吸収剤(内剤重量:1.54g,外形:4.5cm×5.0cm,包材:積層フィルム(PET/洋紙/PE))を調製した。
【0033】
【表2】

【0034】
得られた各酸素吸収剤を下記試験に供し、内剤のしみ出しの有無を比較した。なお、下記において「PET」はポリエチレンテレフタレート、「PE」はポリエチレンの略である。
【0035】
暴露試験
秤量皿に脱イオン水5mlをしみ込ませた脱脂綿(5cm×5cm)を入れ(水分活性:1.0)、その上に調製した酸素吸収剤1個を置き、上から軽く押さえた。同じものを各18個製造し、それぞれKON/PE(ポリ塩化ビニリデンコートナイロンとポリエチレンのラミネート)製の袋に入れ密封した後、40℃で2週間保管した。
2週間後、袋を開封し、酸素吸収剤のしみ出しの有無を観察したところ、実施例1の酸素吸収剤は18個全てにおいてしみ出しは観察されず、水分活性1.0の条件下でしみ出しが発生しないことが確認された。一方、比較例1〜3の酸素吸収剤は、表面が黒色に変化し、内剤のしみ出しが確認された。しみ出しが確認された酸素吸収剤の個数を表3に示す。
【0036】
【表3】

【0037】
酸素吸収性能(酸素吸収時間、酸素吸収量)試験
(1)酸素吸収時間の測定
KON/PE製の袋に、表2に示す酸素吸収剤、脱イオン水1mlをしみ込ませた濾紙(φ110mm)および空気250mlを投入し(水分活性:1.0)、封入した後、25℃で保管し、袋内の酸素濃度を微量酸素濃度計(IS−300:飯島電子工業(株)製)にて経時的に測定して酸素濃度が0.100%以下となるまでの時間を求めた。その結果、実施例1の酸素吸収剤は比較例1〜3の酸素吸収剤に比べ酸素吸収時間が短く、酸素吸収速度が速かった。
【0038】
(2)酸素吸収量の測定
KON/PE製の袋に、表2に示す酸素吸収剤、脱イオン水1mlをしみ込ませた濾紙(φ110mm)および空気1500mlを投入し(水分活性:1.0)、密封した後、25℃で保管し、1日後、3日後および7日後の袋内の酸素濃度を微量酸素濃度計(IS−300:飯島電子工業)にて測定した。また、3日後の酸素濃度の測定値を用いて下記計算式にて酸素吸収量を算出した。実施例1の酸素吸収剤は比較例1〜3のものに比べ、酸素吸収量が多く、高水分下でも酸素吸収能力が低下しなかった。結果を表4に示す。
【0039】
酸素吸収量(ml)=[(大気中酸素濃度−酸素濃度)/100]×1500
※大気中酸素濃度は20.6として算出した。
【0040】
【表4】

【0041】
生パン粉による実装試験
市販の生パン粉(水分活性:0.968)30gと表2記載の酸素吸収剤をKON/PE製の袋に入れ、脱気した後、空気(250ml)を袋内に注入した。同じものを18個製造し、25℃で1ヶ月間保管し、1週間毎にしみ出しが発生した酸素吸収剤の個数を確認した。尚、生パン粉の水分活性はアクアラブCX−3TE(アイネクス(株)製)にて測定した。
また袋内の酸素濃度が0.100%以下となるまでの時間を求めた。酸素濃度は微量酸素濃度計(IS−300:飯島電子工業社製)にて測定した。
【0042】
実施例1の酸素吸収剤は実際に高水分活性食品に適用した場合でもしみ出しが確認されなかった。一方、比較例1の酸素吸収剤は保存期間が長期間になるにしたがって、しみ出しの発生数が増加し、4週間後には全ての酸素吸収剤から内剤のしみ出し(表面が黒色に変色)が確認された。比較例2の酸素吸収剤はしみ出しは発生しなかったものの、酸素吸収時間が長く、酸素吸収速度が遅かった。比較例3の酸素吸収剤は1週間経過後に全ての酸素吸収剤から内剤のしみ出しが確認された。結果を表5に示す。
【0043】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスコルビン酸および/またはその塩、アルカリ性化合物、反応促進物、水、および平均粒子径120〜250μm、平均細孔径2000〜4000Åの多孔質シリカを含有することを特徴とする酸素吸収剤。
【請求項2】
多孔質シリカの平均粒子径が150〜200μmである、請求項1記載の酸素吸収剤。
【請求項3】
多孔質シリカの平均細孔径が2500〜3500Åである請求項1または2記載の酸素吸収剤。
【請求項4】
水分活性0.9〜1.0を有する食品の保存に用いるためのものである、請求項1〜3いずれかに記載の酸素吸収剤。
【請求項5】
請求項4に記載の酸素吸収剤と水分活性0.9〜1.0を有する食品とをガスバリヤ性フィルム製の袋内へ密封することを特徴とする高水分活性食品の保存方法。
【請求項6】
食品の水分活性が0.96〜1.0である請求項5記載の保存方法。

【公開番号】特開2008−229407(P2008−229407A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−68353(P2007−68353)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【出願人】(000189659)上野製薬株式会社 (76)
【Fターム(参考)】