説明

酸素吸収性樹脂組成物及び多層構造体

【課題】酸素吸収の効率が良好な酸素吸収性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明にかかる酸素吸収性樹脂組成物は、末端アミノ基濃度が40eq/106g以下のポリアミド系樹脂にジエン系樹脂を反応させた反応生成物と、遷移金属触媒と、を含んで構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素吸収性を有する酸素吸収性樹脂組成物及びその酸素吸収性樹脂組成物を酸素吸収層として積層した多層構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)は、ガスバリア性に優れているため、EVOHは、食品、化粧品、工業薬品などの分野において、酸素を嫌う商品の包装用フィルムあるいは容器等の材料として広く使用されている。しかし、EVOHは、酸素を完全に遮断するわけではなく、酸素を吸収する作用を有していないため、若干の酸素の透過は避けられない。
【0003】
食品分野では、透過した酸素に加えて、密封時に既に容器の内部に存在している酸素、あるいは、蓋の開閉時に新たに進入する酸素の除去が問題視されている。このため、従来からEVOHと酸素吸収性能を有する樹脂組成物(酸素吸収性樹脂組成物)とを組み合わせた包装材料の開発が行われている。
【0004】
この種の酸素吸収性樹脂組成物として、ポリアミド樹脂と、ポリブタジエン系樹脂と、を組み合わせたものがある(例えば、特許文献1:特許第4026417号公報)。
【0005】
上記特許文献1では、末端アミノ基濃度が40eq/106g以上のポリアミド樹脂と、水酸基末端ポリブタジエンと、を組み合わせたものを用いることで、ポリアミド樹脂の酸化劣化を抑制しつつ、水酸基末端ポリブタジエンによる酸素吸収を選択的に行わせることを可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4026417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
なお、酸素吸収性樹脂組成物に使用するポリアミド系樹脂の末端アミノ基濃度が高い場合(例えば、末端アミノ基濃度が40eq/106gより大きい場合)は、ポリアミド系樹脂に反応させたジエン系樹脂の分散性が悪くなるため、結果として、ジエン系樹脂による酸素吸収の効率が悪くなる。このため、末端アミノ基濃度が低いポリアミド系樹脂を使用し、ジエン系樹脂の分散性を良くし、ジエン系樹脂による酸素吸収の効率を良好にさせる必要がある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、酸素吸収の効率が良好な酸素吸収性樹脂組成物及び多層構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するために、本発明は以下の特徴を有することとする。
【0010】
本発明にかかる酸素吸収性樹脂組成物は、
末端アミノ基濃度が40eq/106g以下のポリアミド系樹脂にジエン系樹脂を反応させた反応生成物と、遷移金属触媒と、を含んで構成することを特徴とする。
【0011】
本発明にかかる多層構造体は、
上記記載の酸素吸収性樹脂組成物からなる酸素吸収層を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、酸素吸収の効率が良好な酸素吸収性樹脂組成物及び多層構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態の酸素吸収性樹脂組成物の実施例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<酸素吸収性樹脂組成物>
まず、本実施形態の酸素吸収性樹脂組成物の構成例について説明する。
【0015】
本実施形態の酸素吸収性樹脂組成物は、末端アミノ基濃度が40eq/106g以下のポリアミド系樹脂にジエン系樹脂を反応させた反応生成物と、遷移金属触媒と、を含んで構成する。
【0016】
本実施形態の酸素吸収性樹脂組成物は、末端アミノ基濃度が40eq/106g以下のポリアミド系樹脂で構成することで、ポリアミド系樹脂に反応させたジエン系樹脂の分散性を良好にすることができる。その結果、ジエン系樹脂による酸素吸収の効率を良好にすることができる。
【0017】
本実施形態の酸素吸収性樹脂組成物に適用可能なポリアミド系樹脂としては、全体として末端アミノ基濃度が40eq/106g以下となれば特に限定せず、任意のポリアミド系樹脂が適用可能である。例えば、ポリカプロアミド(ナイロン-6)、ポリウンデカンアミド(ナイロン-11)、ポリラウロラクタム(ナイロン-12)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン-6,6)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン-6,10)等の脂肪族ポリアミド単独重合体、カプロラクタム/ラウロラクタム共重合体(ナイロン-6/12)、カプロラクタム/アミノウンデカン酸共重合体(ナイロン-6/11)、カプロラクタム/ω−アミノノナン酸共重合体(ナイロン-6/9)、カプロラクタム/ヘキサメチレンアジパミド共重合体(ナイロン-6/6,6)、カプロラクタム/ヘキサメチレンアジパミド/ヘキサメチレンセバカミド共重合体(ナイロン-6/6,6/6,10)等の脂肪族ポリアミド共重合体、ポリメタキシリレンアジパミド(MX-ナイロン)、ヘキサメチレンテレフタラミド/ヘキサメチレンイソフタラミド共重合体(ナイロン-6T/6I)等の芳香族ポリアミドの中から適宜選択し、全体として末端アミノ基濃度が40eq/106g以下となるようにすれば良い。即ち、単体で末端アミノ基濃度が40eq/106g以下のポリアミド系樹脂を適用しても良く、複数のポリアミド系樹脂を適用して全体として末端アミノ基濃度が40eq/106g以下となるようにすることも可能である。なお、本実施形態の酸素吸収性樹脂組成物は、異なる2種類以上のポリアミド系樹脂を用いて、全体として末端アミノ基濃度が40eq/106g以下となるようにすることが好ましい。これにより、単体のポリアミド系樹脂よりも引張弾性率を低くし、成形性を良好にすることができる。また、ナイロン6のポリアミド系樹脂を用いることが好ましい。これにより、ポリアミド系樹脂自体が酸素吸収性を有しないため、酸化劣化を生じさせないようにすることができる。
【0018】
ポリアミド系樹脂に反応させるジエン系樹脂としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ブチルゴム、天然ゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴムなどが適用可能である。ジエン系樹脂をポリアミド系樹脂に反応させるためには、酸変性されたものであれば特に限定せず、エポキシ官能化ポリブタジエン、エポキシ官能化ポリイソプレン、無水マレイン酸グラフト又は共重合化ポリブタジエン、無水マレイン酸グラフト又は共重合化ポリイソプレンなどが適用可能である。
【0019】
なお、ジエン系樹脂には、酸化防止剤を予め混合しておくことも可能である。この場合は、融点が80℃以下の酸化防止剤を用いて液状として混合することが好ましい。これは、融点が100℃を超えるものでは流動性が低く、酸素吸収性樹脂組成物の製造工程において液状として用いることが困難となる。また、液状で流動性の高い酸化防止剤を予めジエン系樹脂に混合することで、溶融混練の際に酸化劣化してゲル、ブツの発生原因となるジエン系樹脂が優先的に安定化され、その分解が抑制されるという効果を奏することができる。
【0020】
遷移金属触媒としては、鉄、コバルト、ニッケル等の周期律表第VIII族金属成分が適用可能である。また、銅、銀等の第I族金属、錫、チタン、ジルコニウム等の第IV族金属、バナジウム等の第V族、クロム等のVI族、マンガン等のVII族の金属成分も適用可能である。遷移金属触媒としては、酸素吸収速度が大きいコバルトが好ましい。
【0021】
本実施形態の酸素吸収性樹脂組成物は、酸素吸収性、透明性、成形性等の樹脂の特性に影響を与えない範囲において、着色剤、耐熱・耐候安定剤、帯電防止剤、滑剤等の公知の添加剤を配合することも可能である。
【0022】
本実施形態の酸素吸収性樹脂組成物は、末端アミノ基濃度が40eq/106g以下のポリアミド系樹脂を含んで構成することで、ポリアミド系樹脂に反応させたジエン系樹脂の分散性を良好にすることができる。その結果、ジエン系樹脂による酸素吸収の効率を良好にすることができる。また、酸素吸収性樹脂組成物を構成する樹脂の流動性が良好となるため、単層でフィルム或いはシートとして使用することができる。
【0023】
なお、本実施形態の酸素吸収性樹脂組成物は、異なる2種類以上のポリアミド系樹脂で構成することが好ましい。これは、異なる2種類以上のポリアミド系樹脂で構成することで、単体のポリアミド系樹脂よりも引張弾性率を低くし、成形性を良好にすることができるためである。
【0024】
また、本実施形態の酸素吸収性樹脂組成物は、ポリアミド系樹脂としてナイロン6を用いることが好ましい。これは、MXD-ナイロンなどの酸素吸収性を有するポリアミドでは末端アミノ基濃度が低いため、酸化劣化を生じてしまうが、ナイロン6を用いることで、ポリアミド系樹脂自体が酸素吸収性を有しないため、酸化劣化が生じないためである。
【0025】
なお、本実施形態の酸素吸収性樹脂組成物は、EVOH等の酸素バリア性に優れている樹脂からなるバリア層と組み合わせて使用することができる。
【0026】
例えば、本実施形態の酸素吸収性樹脂組成物を酸素吸収層とし、その内側及び外側にバリア層を設けた3層構成のフィルム若しくはシートであり、実用性の観点から好ましい例は、当該3層構成のフィルムの内側にヒートシール層を設けた、内側より、ヒートシール層/接着層/内側バリア層/酸素吸収層/外側バリア層からなる5層構成のフィルム若しくはシートであり、より好ましくは、さらに外側に耐湿性樹脂層を設けたヒートシール層/接着層/内側バリア層/酸素吸収層/外側バリア層/接着層/耐湿性樹脂層からなる7層構成のフィルム若しくはシートである。このヒートシール層及び耐湿性樹脂層に用いる樹脂としては特に制限はなく、通常用いられている公知の樹脂が適用可能である。
【実施例】
【0027】
次に、本実施形態の酸素吸収性樹脂組成物の実施例について説明する。なお、以下に示す実施例は一例であり、本実施形態の酸素吸収性樹脂組成物は以下の実施例に限定するものではない。なお、以下に示すポリアミド系樹脂は、全てナイロン6を用いている。
【0028】
(実施例1)
末端アミド基濃度が35eq/106gの樹脂Aと、無水マレイン化ポリブタジエン(ライコン 131MA5:サートマー社製)と、コバルトと、を使用した。なお、樹脂Aは、引張弾性率が2421MPa、MFRが2g/10min、密度が1.13g/cm3、融点が222℃のものである。コバルトの添加量は、0.2wt%とし、無水マレイン化ポリブタジエンの添加量は、4.0wt%とした。
引張弾性率(MPa)は、JIS K7113に準拠して測定して得られた値である。
MFR(g/10min)は、温度250℃、荷重2.16Kgの下でJIS K7210に準拠して測定して得られた値である。
密度は、ISO 1183に準拠して測定して得られた値である。
融点は、ISO 11357に準拠して測定して得られた値である。
なお、以下の実施例、比較例で記載した値も上記と同様の規格に準拠して測定して得られた値である。
【0029】
まず、樹脂Aにブレンダーを用いてコバルトを混合し、混合物Aを調製した。
【0030】
次に、バレルに液注ポンプと真空ベントとを備えた2軸押出機(φ26mm,L/D32)を用いて、フィード口を窒素シールしながら混合物Aを所定量フィードした。次に、液状の無水マレイン化ポリブタジエンを液注ポンプから所定量フィードし、スクリューで混練しながら、ポリアミド系樹脂と無水マレイン化ポリブタジエンとを反応させて、ストランドとして酸素吸収性樹脂組成物をダイより押し出した。
【0031】
次に、ダイから押し出された酸素吸収性樹脂組成物を冷却し、ペレタイズした後、乾燥し、アルミ防湿袋に包装した。
【0032】
(実施例2)
末端アミド基濃度が28eq/106gの樹脂Bを使用した以外は、実施例1と同様の方法により酸素吸収性樹脂組成物を得た。樹脂Bは、引張弾性率が2484MPa、MFRが22g/10min、密度が1.13g/cm3、融点が220℃のものである。
【0033】
(実施例3)
末端アミド基濃度が64eq/106gの樹脂Cと、末端アミド基濃度が28eq/106gの樹脂Bと、を使用し、その混合割合を樹脂C:樹脂B=1:2とし、末端アミド基濃度が40eq/106のポリアミド系樹脂とした以外は、実施例1と同様の方法により酸素吸収性樹脂組成物を得た。樹脂Cは、引張弾性率が2148MPa、MFRが12g/10min、密度が1.13g/cm3、融点が223℃のものである。
【0034】
(実施例4)
末端アミド基濃度が35eq/106gの樹脂Aと、末端アミド基濃度が28eq/106gの樹脂Bと、を使用し、その混合割合を樹脂A:樹脂B=1:1とし、末端アミド基濃度が31eq/106のポリアミド系樹脂とした以外は、実施例1と同様の方法により酸素吸収性樹脂組成物を得た。
【0035】
(比較例1)
末端アミド基濃度が64eq/106gの樹脂Cを使用した以外は、実施例1と同様の方法により酸素吸収性樹脂組成物を得た。樹脂Cは、引張弾性率が2148MPa、MFRが12g/10min、密度が1.13g/cm3、融点が223℃のものである。
【0036】
(比較例2)
末端アミド基濃度が70eq/106gの樹脂Dを使用した以外は、実施例1と同様の方法により酸素吸収性樹脂組成物を得た。樹脂Dは、引張弾性率が2195MPa、MFRが3g/10min、密度が1.13g/cm3、融点が220℃のものである。
【0037】
(比較例3)
末端アミド基濃度が35eq/106gの樹脂Aと、末端アミド基濃度が70eq/106gの樹脂Dと、を使用し、その混合割合を樹脂A:樹脂D=1:1とし、末端アミド基濃度が52eq/106のポリアミド系樹脂とした以外は、実施例1と同様の方法により酸素吸収性樹脂組成物を得た。
【0038】
(測定結果)
実施例1〜4、比較例1〜3において得られた酸素吸収性樹脂組成物の測定結果を図1に示す。図1には、各酸素吸収性樹脂組成物の分散性、酸素吸収性を示す。
【0039】
酸素吸収性は、酸素吸収性樹脂組成物を充分乾燥させてペレット(試料)を生成し、そのペレットをサンプル瓶に1週間封入し、瓶内部の酸素量の減少をガスクロマトグラフィーで測定した。酸素吸収性が20cc/g以上のものを○とし、酸素吸収性が20cc/g未満のものを×とした。
【0040】
図1に示す測定結果から明らかなように、末端アミド基濃度が40eq/106g以下のポリアミド系樹脂で構成する酸素吸収性樹脂組成物は、酸素吸収性が良好であることが判明した。また、単体のポリアミド系樹脂で酸素吸収性樹脂組成を構成するよりも、複数のポリアミド系樹脂を混合させて酸素吸収性樹脂組成物を構成する方が、引張弾性率が低いことが判明した。
【0041】
このため、本実施例のように、末端アミノ基濃度が40eq/106g以下のポリアミド系樹脂を含んで構成することで、ポリアミド系樹脂に反応させたジエン系樹脂の分散性を良好にすることができる。その結果、ジエン系樹脂による酸素吸収の効率を良好にすることができる。また、酸素吸収性樹脂組成物を構成する樹脂の流動性が良好となるため、単層でフィルム或いはシートとして使用することができる。
【0042】
また、異なる2種類以上のポリアミド系樹脂で構成することで、単体のポリアミド系樹脂よりも引張弾性率を低くし、成形性を良好にすることができる。
【0043】
なお、上述した実施形態及び実施例は、本発明の好適な実施形態及び実施例であり、上記実施形態及び実施例のみに本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更を施した形態での実施が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
末端アミノ基濃度が40eq/106g以下のポリアミド系樹脂にジエン系樹脂を反応させた反応生成物と、遷移金属触媒と、を含んで構成することを特徴とする酸素吸収性樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリアミド系樹脂は、異なる2種類以上のポリアミド系樹脂で構成されていることを特徴とする請求項1記載の酸素吸収性樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリアミド系樹脂は、ナイロン6であることを特徴とする請求項1または2記載の酸素吸収性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1項に記載の酸素吸収性樹脂組成物からなる酸素吸収層を有することを特徴とする多層構造体。

【図1】
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【公開番号】特開2013−57035(P2013−57035A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197308(P2011−197308)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(000104674)キョーラク株式会社 (292)
【Fターム(参考)】