説明

酸素吸収性組成物

【課題】アルミニウムの単位質量あたりの酸素吸収能を大幅に向上できると共に、副反応による水素が発生しにくい酸素吸収性組成物を提案する。特に、酸素吸収剤として使用中に水素ガス濃度が上昇しにくい酸素吸収性組成物を提案する。
【解決手段】金属アルミニウム単位と、アルミニウム化合物単位と、白金族金属単位と、酸無水物の単位とを含有し、酸無水物は、23℃での水への溶解度が5%以下で、かつ融点または分解点が140℃以下のものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品等の包装時に同梱等され、内容物の酸化劣化を防止できる酸素吸収性組成物等に関する。特に、アルミニウムを酸素吸収の主剤とする酸素吸収性組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
食品等の包装体に小袋同梱等の形態で用いることで、包装体内部を無酸素状態に保ち、保存中の内容物の酸化劣化による変色、退色、味の変化やその他の性能変化等を防止できる酸素吸収剤が、近年多用されている。これらの酸素吸収剤は、例えば、鉄粉やシリコン微粉等の無機系酸素吸収性組成物を主剤としたものや、アスコルビン酸や不飽和脂肪酸等の有機系酸素吸収性組成物を主剤としたものが多い。
【0003】
ところで、アルミニウムは、鉄とは異なり磁気による金属検出器には検知されないため、アルミニウムを主体とした酸素吸収剤は、食品と共に密封したあとに食品の異物混入検査が可能となる利点を有する。また、アルミニウムは比較的安価で、一般に包装材料として多用されるアルミ箔やアルミ蒸着フィルムと同素材であるためゴミの分別廃棄が容易(易廃棄性)であるという利点も有する。さらに、酸素との反応活性も高い。これらのため、アルミニウムを酸素吸収剤の主剤として用いる提案もなされている。
【0004】
しかし、アルミニウムは酸化により表面に緻密な酸化被膜を形成し、この酸化被膜は酸素や水の透過性が低いことがよく知られている。つまり、酸素吸収が表面だけに限定される。そのため、アルミニウムに塩化ナトリウム等の塩類を加えたり(例えば、特許文献1参照)、アルミニウムとアルカリ金属酸化物および/又はアルカリ土類金属との混合物としたりすることで(例えば、特許文献2参照)、アルミニウムの酸素吸収量をわずかでも増加させようとする試みがなされてきた。しかし、いずれの場合も酸素吸収量は同当量の鉄と比較しても微々たるものにすぎず、アルミニウム粒子の形状や性状も酸素吸収の前後でほとんど変化がない。そのため、アルミニウムを主剤とする酸素吸収剤の実用化にはほど遠いのが実情である。
【0005】
また、アルミニウムの酸化は主に水の共存下において生じるため、アルミニウムを主剤とする酸素吸収剤では、アルミニウムが有酸素状態での水素が発生する副反応にも消費されてしまい、ただでさえ低いアルミニウムの酸素吸収への利用効率がさらに低下するという問題点があった。さらに、水素発生反応は、無酸素状態でもわずかながら生じることがあり、その場合は、酸素吸収剤として使用中に水素ガス濃度が上昇することになるため、対策が求められていた。
【特許文献1】特開平3−137935号公報
【特許文献2】特開平9−117660号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、アルミニウムの単位質量あたりの酸素吸収能を大幅に向上できると共に、副反応による水素が発生しにくい酸素吸収性組成物を提案することを課題とする。特に、酸素吸収剤として使用中に水素ガス濃度が上昇しにくい酸素吸収性組成物を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1は、金属アルミニウム単位と、アルミニウム化合物単位と、白金族金属単位と、酸無水物の単位とを含有し、前記酸無水物は、23℃での水への溶解度が5%以下で、かつ融点または分解点が140℃以下のものであることを特徴とする酸素吸収性組成物である。ここで、前記の酸無水物が、無水酢酸または無水安息香酸であることは好ましい。また、前記のアルミニウム化合物が、アルミニウム酸化物であることは好ましい。また、前記のアルミニウム化合物が、γ−アルミナであることは好ましい。また、前記のアルミニウム化合物が、ベーマイトであることは好ましい。
【0008】
発明の第2は、上記のいずれかの酸素吸収性組成物を、酸素透過可能に包含してなる酸素吸収剤である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の酸素吸収性組成物等は、高い酸素吸収能を有する。条件によっては、アルミニウムの理論吸収量の上限値に近づく値を得ることも可能となる。そのため、少ない金属量で必要な酸素吸収能を得ることができる。一方で、酸素吸収中の副反応による水素発生量が低減され、金属アルミニウムの酸素吸収への利用率が高い。特に、酸素吸収剤として使用中に、系内の酸素がなくなった状態においても水素発生量が低い状態を維持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について具体的に説明する。酸素吸収性組成物は、金属アルミニウム単位とアルミニウム化合物単位と白金族金属単位と特定の酸無水物の単位とをそれぞれ含有してなる混合物である。ここで単位とは、これら3種類の物質のそれぞれが、互いに独立した形態をなしていることを意味する。各単位は粉末などの粒子状や繊維状または多孔質体状でも良い。また、水溶液や水分散液としても良い。酸素吸収性組成物は、これら少なくとも4種類の単位の混合によって構成される。
【0011】
酸素吸収性組成物に含まれる金属アルミニウム単位は、酸素吸収の主剤であり、酸素分子と接触することにより酸化されて、結果的に酸素ガスを吸収する役割を担っている。金属アルミニウムは、表面に酸化被膜が生成されていないものでもよいが、製造時に空気中の酸素に触れて表面に薄い酸化被膜が自然に生じたものをそのまま用いてもよい。また、金属アルミニウムに含まれる他の金属等の不純物は、むしろ酸素吸収の妨げになる傾向があるので、アルミニウム純度は高い方がよい。望ましくは95質量%以上、より望ましくは99質量%以上である。
【0012】
金属アルミニウム単位の形態は特に制限されないが、質量の割に表面積が広くなる形態が望ましく、例えば、箔状、繊維状、粒子状、微粒子状、粉体状等とするのが望ましい。また、粒子や粉体等が集合した塊状のものでもよい。酸素吸収速度を大きくするには、金属アルミニウム1gあたりの表面積が広い形態が望ましいが、一定期間にわたって酸素吸収を安定して持続させる観点からは、表面に直接現れない体積部分もある程度確保しておくことが望ましい。製造の容易さの観点も加味すると、微粒子状とするのが望ましい。具体的には、アルミニウム粒子の平均粒径は、0.1μm以上1000μm以下とするのが好ましく、より好ましくは1μm以上300μm以下である。特に好ましくは3μm以上100μm以下である。
【0013】
金属アルミニウム単位の形態を粒子状、微粒子状、粉体状等とする場合、個々の金属アルミニウム粒子の形状は、球状、涙滴状、燐片状、針状、不定形のいずれでも良く、吸収速度、持続時間、使用アルミ量、製造の容易さ等を考慮して適宜選択すればよい。
【0014】
このような金属アルミニウム単位は、通常のアトマイズ法や破砕法等の各種の常法で得ることができる。また、金属アルミニウム単位には、反応活性をより向上させる目的で、酸やアルカリ、表面処理剤等による前処理を行ってもよいが、行わなくとも良い。
【0015】
金属アルミニウム単位は、後述するアルミニウム化合物(及び水分)の共存下における酸素吸収によって、全く意外にも、表面だけではなく金属アルミニウムの内部に至るまでほぼ完全に酸化されうる。そのため、当初の金属アルミニウム単位が一定の平均粒径を有する球形粒子だったとしても、十分な酸素吸収後は、ほぼ全体が、鉄の赤さびに類似した酸化アルミニウム粉体の集合物に変化する。この集合物は容易に崩れやすく、元の形状を留めることが困難である。従って、アルミニウム当量から計算した酸素吸収の理論値(上限値)に近いところまで酸化を生ぜしめることも可能であり、酸素吸収能(酸素吸収速度、酸素吸収量)が大幅に向上する。
【0016】
このような意外な現象が生じる原因は不明であるが、共存するアルミニウム化合物単位のなんらかの作用により、金属アルミニウム単位の表面酸化被膜が破壊されると共に、新たな被膜形成が阻害されているのではないかと推測している。
【0017】
次に、酸素吸収性組成物のアルミニウム化合物単位について説明する。本発明でいうアルミニウム化合物単位は、X線回折法によって検出可能な程度に結晶化したものである。金属アルミニウムにおいては、通常の空気酸化あるいは陽極酸化で生成する酸化皮膜の形態は無定形のAl23で、その中に数%の電解質アニオンや水を含有した構造であることが知られており(アルミニウム技術便覧編集会編、アルミニウム技術便覧、p.86、1996年カロス社出版)、これ等とアルミニウム化合物単位は区別される。アルミニウム化合物単位は、上記の通り、金属アルミニウム単位の酸化促進剤であり、水分との共存下で金属アルミニウム単位を表面のみならず内部まで酸化せしめる作用を有する。ここにいうアルミニウム化合物とは、アルミニウム元素と、アルミニウム元素等に結合しているその他の元素との質量比率が、1:9〜8:2の範囲内のものである。この範囲内で酸素吸収性組成物としたときの酸素吸収能が高くなる。より好ましくは2:8〜7:3である。さらに好ましくは3:7〜6:4であり、最も好ましくは3:7〜5.5:4.5である。アルミニウム化合物におけるアルミニウムの酸化数は1、2、3のいずれでも良いが、酸化数3のものが好ましい。
【0018】
好適なアルミニウム化合物としては、アルミニウムの酸化物、水酸化物、アルミン酸塩、アルミノケイ酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、ハロゲン化物、酢酸塩等が挙げられ、中でも、酸化物または水酸化物が好ましい。
【0019】
アルミニウムの酸化物または水酸化物としては、α−アルミナ、γ−アルミナ、η−アルミナ、δ−アルミナ、k−アルミナ、ρ−アルミナ等の無水アルミニウム化合物や、Al(OH)3またはAl23・3H2Oで表されるギブサイト、バイヤライト、ノルストランダイト等のアルミニウム化合物の3水和物や、AlO(OH)またはAl23・H2Oで表されるべーマイト、ダイアスポア等のアルミニウム化合物の1水和物や、さらにトーダイト(5Al2a・H2O)や、アルミナゲル(Al23・nH2O)等の単体やこれらを1種以上含む混合物が拳げられる。
【0020】
酸素吸収速度を大きくするには、無水酸化物の中ではγ−アルミナが好ましく、水和物の中では1水和物が好ましい。アルミニウム酸化物は、水和物とするのがより好ましく、最も好ましくはベーマイトである。
【0021】
また、アルミニウム化合物には、酸素吸収速度をより大きくするために、アルミニウム以外の元素としてイオン化傾向の高い金属元素を1種以上含んでいてよい。イオン化傾向が高い金属元素としては、例えば、カリウム、カルシウム、ナトリウム、マグネシウム、亜鉛、クロム、マンガン、鉄(II)等が挙げられる。
【0022】
アルミニウム化合物単位の形態は特に制限されないが、金属アルミニウム単位の表面との接触点が生じやすいように、表面積が大きく分散性が高い形態とするのがよい。例えば、繊維状、粒子状、微粒子状、粉体状等が挙げられ、さらに、粒子形状としては、球状、針状、燐片状、不定形状等が拳げられる。粒子形状とする場合の平均粒径は、0.01μm以上1000μm以下とするのが好ましく、より好ましくは0.05μm以上100μm以下である。特に好ましくは0.1μm以上10μm以下である。
【0023】
アルミニウム化合物単位は、金属アルミニウム単位との接触性を確保するために、アルミニウム化合物単位1gあたりの比表面積が1m2/g以上であることが好ましく、10m2/g以上であることがより好ましい。特に好ましくは50m2/g以上である。
【0024】
なお、アルミニウム化合物単位は、その1gを100ccの水に分散させたときのpHが、3〜11となるものであることが好ましい。このようなpHを示すように組成を調整したアルミニウム化合物単位を選択することで、アルミニウムと酸素との反応の副反応である水素発生反応がある程度は抑制される。より好ましくは4〜9である。
【0025】
アルミニウム化合物単位の製造は常法に従って行えばよく、例えば、乾式または湿式の化学反応を経て、必要により乾燥処理、焼成処理、精製処理、粉砕処理等を行って製造することができる。
【0026】
金属アルミニウム単位とアルミニウム化合物単位とを混合する質量比率は、1:99〜99:1の範囲で定めることができる。金属アルミニウム単位の比率が大きい場合は、吸収できる酸素量は多くなるが、一方で酸素吸収速度は小さくなり、特に吸収初期の吸収速度が小さくなる。アルミニウム化合物単位の比率が大きい場合はこの逆となる。混合する質量比率は、金属アルミニウム単位の表面積なども考慮しながら酸素吸収剤に求められるスペックに応じて適宜定めればよいが、通常、金属アルミニウム単位とアルミニウム化合物単位の質量比率は、30:70〜70:30程度とするのが好ましい。
【0027】
なお、アルミニウム化合物単位と水の共存下における金属アルミニウム単位の内部までの酸化作用は、金属アルミニウム単位とアルミニウム化合物単位とを薬さじで軽く混合するだけでも生じる。従って、金属アルミニウム単位の表面酸化被膜の破壊は、混合時の機械的作用によるものではないと考えられる。
【0028】
次に、酸素吸収性組成物の白金族金属単位について説明する。白金族金属単位は、金属アルミニウム単位の酸化反応の際の副反応による水素ガスの蓄積を効果的に抑制する。特に、アルミニウム化合物単位によって金属アルミニウム単位の反応性が高められているため、白金族金属単位の水素ガス蓄積抑制作用がより重要となる。具体的には、残存している酸素と副反応で生成した水素とを反応せしめて水とすることで、水素ガスの蓄積を防止していると考えられる。なお、「単位」なる用語の意味は上記と同じである。白金族金属としては、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金が挙げられるが、入手のしやすさの観点からは白金が好ましい。
【0029】
白金族金属は、そのままで微粒子などの単位として酸素吸収性組成物に用いてもよいが、担体に白金族金属を担持させた担持体とするのがより好ましい。担体材料としては、酸素吸収反応を阻害しない担体であれば特に制限はないが、例えば、α−アルミナ、活性炭素、コ−ディライトまたはムライト等の非吸着性セラミックスや金属、アルミニウムまたはアルミニウム層で覆われた金属等が挙げられる。これらは軽量で取り扱い易いので好ましい。担体の構造は、ハニカム状、波板状、板状、箔状、網状、ウール状等やそれらの組合せが挙げられ、目的に応じて選択できるが、水素蓄積抑制の観点より比表面積の大きい形状が好ましく、ハニカム構造であることが好ましい。
【0030】
白金族金属の担持方法としては、例えばスラリー法が挙げられ、この際のバインダーとしてはシリカゾル、アルミナゾル等の無機バインダーや、でんぷん、カゼイン、ゼラチン等の天然樹脂、セルロース、水溶性ポリアミド、4級アンモニウム塩等の各種水溶性高分子等が挙げられる。担持体における白金族金属の担持量は、コスト及び水素抑制の観点より、0.001〜20重量%とするのが好ましく、より好ましくは0.1〜10重量%である。
【0031】
酸素吸収性組成物における白金族金属の含有量は、アルミニウム金属単位に対して1000ppm以上300000ppm以下の範囲とするのが好ましい。この範囲で望ましい水素の抑制効果が得られ、酸素吸収の効率も向上し、万一の発火現象が生じにくく安全性が担保されやすくなる。さらに、コスト的にも許容できる範囲となる。より好ましくは、2000ppm以上200000ppm以下であり、さらに好ましくは5000ppm以上150000ppm以下である。
【0032】
次に、酸無水物の単位について説明する。特定の酸無水物は、酸素吸収剤としての使用中において、酸素がほぼ無くなった状態で副反応により発生する水素ガスの蓄積を防止する効果がある。系内の酸素がほぼ無くなった状態では、白金族金属による水素ガスの蓄積を抑制する効果は得られず、一方で副反応による水素ガスの発生は続くため、徐々に水素ガスが蓄積しやすい状態となる。しかし、特定の酸無水物の単位を加えることにより、系内の酸素がほぼ無くなった状態でも水素ガスの蓄積が防止できる。この理由は明確ではないが、酸素吸収や水素発生または白金族金属による水素の酸化等による発熱により、酸無水物が融解または溶解することで反応抑制がなされるのではないかと推測している。
【0033】
酸素吸収性組成物に用いることができる特定の酸無水物としては、23℃での水への溶解度が5%以下のものである。溶解度が5%以下であれば、酸素吸収組成物の使用時に酸無水物がほとんど溶解せず、金属アルミニウムの酸素吸収反応を阻害することがない。さらに特定の酸無水物は、融点または分解点が140℃以下のものである。これは、金属アルミニウムの反応熱で酸無水物が分解することが、水素発生抑制のためには重要と考えられるためである。このような酸無水物としては、無水テルル酸、無水酢酸、無水安息香酸、無水フタル酸、無水桂皮酸等が挙げられ、これらの1種を用いてもよいし2種以上を混合して用いてもよい。好ましくは無水酢酸または無水安息香酸であり、もっとも好ましくは無水安息香酸である。
【0034】
酸素吸収性組成物における特定の酸無水物の含有量は、アルミニウム金属単位に対して5重量%以上40重量%以下の範囲とするのが好ましい。この範囲で、系内の酸素がほぼない状態でも水素ガスの蓄積を抑制する効果が得られ、酸素吸収の効率も向上し、万一の発火現象が生じにくく安全性が担保される。より好ましくは、7重量%以上30重量%以下であり、さらに好ましくは9重量%以上25重量%以下である。
【0035】
酸無水物の単位を添加して酸素吸収組成物とするにあたっては、無水のままで他の単位と混合することが、水素発生抑制の効果が得られるために重要である。そのためには、他の単位との混合する際に、雰囲気温度を室温としても無水のままである酸無水物は、そのまま添加混合すればよい。しかし、室温において分解あるいは融解して水溶液となってしまう酸無水物の場合は、混合時の雰囲気温度を、酸無水物の分解点あるいは融点以下に下げてから、他の単位と添加混合することで、水素発生抑制の効果が得られる。好ましくは分解点或いは融点マイナス10℃以下である。
【0036】
酸素吸収性組成物には、酸素吸収性組成物の用途に合わせて、酸無水物の効果に影響しない範囲内で、金属アルミニウム単位の酸素吸収反応に化学量論的に必要な量の水分をあらかじめ添加するようにしても良い。添加の方法としては、水を直接添加しても良いし、保水剤や担体に担持等させて添加するのが好ましい。
【0037】
保水剤は、親水性で自重より多い水分を保持してゾルやゲルを構成できる公知の増粘剤やゲル化剤であり、例えば、ポリアクリル酸塩のような合成高分子やカラギーナンのような多糖類等を挙げることができ、特に制限されない。また、担体としては、脱脂綿や不織布等の保水性のある繊維製品や、活性炭やゼオライト、珪藻土、活性白土、シリカ、タルク、石膏、ケイ酸カルシウム、塩化カルシウム、黒鉛、カーボンブラック、カーボンナノチューブ等の無機粉末あるいは無機粒状物が挙げられ、特に制限されない。保水剤や担体は一種を用いてもよいし二種以上を併用してもよい。
【0038】
なお、酸素吸収性組成物には必ずしも水分を添加せず、酸素吸収性組成物と一緒に包装される食品等の被包装物から分離した水分や、包装袋の包装時に袋内に残存する空気内の水蒸気や、包装後に包装袋を透過して袋内に侵入してくる水蒸気を利用して、酸素吸収反応させるようにしても良い。
【0039】
酸素吸収性組成物には、本発明の効果を損ねない限りにおいて、電子レンジのスパーク防止剤やその他の添加剤を添加してもよい。
【0040】
酸素吸収性組成物は、上記の各成分を所定の比率で混合し、攪拌して均一化することにより得られる。均一化にあたっては、金属アルミニウム単位やアルミニウム化合物単位等を同時に粉砕しながら攪拌しても良い。混合及び均一化処理は、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスや炭酸ガス等を用いた無酸素雰囲気下で行うことが望ましい。酸素吸収性能の点から特に好ましいのは炭酸ガスである。
【0041】
酸素吸収性組成物は、公知のようにそのまま酸素透過性の紙製小袋に封入して、酸素吸収剤として包装体内に同梱することができる。酸素吸収性組成物は、酸素吸収能が比較的高いため、少ない量で必要な酸素吸収機能を果たすことができる。そのため、その他の形態の酸素吸収剤に加工して使用するのに適している。例えば、紙製造時にバインダーと共に混ぜ込んだり、酸素透過性の樹脂を用いた樹脂ペレットや樹脂シートの製造時に練り込んだりしてもよい。また、紙や樹脂シート間に、バインダーにより加工された酸素吸収性組成物の層を挟み込んで、多層構造のシートやフィルムとすることができ、さらには包装体のトレーや蓋に加工してもよい。この場合、包装体の少なくとも内面部分のシートやフィルムは酸素透過性のものを用いる。包装体の外面部分のシートやフィルムは、酸素が透過しにくいものを用いるのが望ましい。必要によりシートやフィルムを水分透過性または水分不透過性とするのは任意である。
[実施例]
【0042】
以下、本発明について実施例等を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明は、下記実施例の具体的態様に限定されるものではない。実施例等における各種物性の測定方法および評価方法は次の通りである。
(1)酸素濃度及び水素濃度の測定
【0043】
室温(23℃)環境下において、初期容量1000ccの保存密閉容器(本体と蓋の材質はPMMA(アクリル)、蓋パッキンはシリコンで、容器内圧が一定になるように容積可変のもの)を用意した。この容器内に、所定量の酸素吸収性組成物の試料を大気圧下で封入後、23℃雰囲気下に48時間放置した。レコーダー(横川電機株式会社製、DAQSTATION DX200)を使用して、封入時〜測定終了時の容器内の酸素ガス濃度及び水素濃度を記録した。
【0044】
なお、酸素濃度は、酸素モニター(ジコー株式会社製、商品名:JKO−O2LJDII)により測定した。また、水素濃度は、気中・溶存水素測定装置(エイブル株式会社、商品名:DM−10B2)により測定した。
(2)溶解度の測定
【0045】
100ccの純水中に酸無水物を少量ずつ添加し、ガラス棒でよく攪拌した。水中に無水物が全溶する限界を飽和溶液とした。固体状の酸無水物は乳鉢を使用して微粉化し、液状の酸無水物はそのままで添加した。溶解度は以下の式により算出した。
(溶解度[%])=(飽和溶液中の酸無水物添加量[g])÷(飽和溶液重量[g])×100
(3)融点の測定
【0046】
室温(23℃)で固体状(融点が室温以上)の酸無水物の融点を、全自動融点測定装置(ヤマト科学社製、品番:FP62)を使用して測定した。
(4)酸素吸収性能の評価
【0047】
酸素吸収性能の評価を、上記(1)の酸素濃度の測定結果に基づいて、以下の判断基準で行った。
・保存密封容器内の酸素濃度が48時間以内に1%以下になった・・・優れている(記号「◎」で表示)。
・保存密封容器内の酸素濃度が120時間以内に1%以下になった・・・良好である(記号「○」で表示)。
・保存密封容器内の酸素濃度が120時間以内に1%以下にならなかった・・・不良である(記号「×」で表示)。
(5)水素発生抑制効果の評価
【0048】
水素発生抑制効果の評価は、上記(1)の水素濃度の測定結果に基づいて、以下の判断基準で行った。
・保存密封容器内の酸素濃度が1%以下になった後、容器内の水素濃度が20時間以上4%(爆発限界)以下であった・・・優れている(記号「◎」で表示)。
・保存密封容器内の酸素濃度が1%以下になった後、容器内の水素濃度が5時間以上、20時間以内は4%(爆発限界)以下であった・・・良好である(記号「○」で表示)。
・保存密封容器内の酸素濃度が1%以下になった後、容器内の水素濃度が5時間以内に4%(爆発限界)以上になった・・・不良である(記号「×」で表示)。
・保存密封容器内の酸素濃度が1%以下にならなかった・・・測定不能(記号「−」で表示)。
【実施例1】
【0049】
金属アルミニウム単位としてアルミニウム粉末0.5g(エカ・グラニュラージャパン株式会社製、グレード名8F02A、粒度8μm、純度99.7%のもの)と、アルミニウム化合物単位としてベーマイト粉末1.0g(大明化学株式会社製、グレード名AE−001、粒径0.2μm、純度99.9%、分散液pH8.7のもの)と、白金族金属単位として白金アルミナ合金(和光純薬社製、白金含量5重量%で粉末状のもの)0.0024gと、酸無水物として無水安息香酸0.1g(東京化成社製、粉末状。23℃での水への溶解度は0.1%以下で、融点は42℃であった)と、水1.5gとを、雰囲気温度23℃で混合し、茶さじで軽く攪拌して均一な酸素吸収性組成物の試料を作成した。
【0050】
これを用いて、上記(1)の酸素濃度と水素濃度の測定方法に従って酸素濃度と水素濃度とを測定し、上記(4)、(5)の評価基準にて酸素吸収性能と水素発生抑制効果とを評価した。結果を表1に示す。酸素吸収性能と水素発生抑制効果のいずれにも優れていた。
【実施例2】
【0051】
無水安息香酸0.1gを無水酢酸0.05g(和光純薬社製、液体状。23℃での水への溶解度は2.7%で、融点は−73℃以下)に代えた以外は、実施例1と同様にして酸素吸収性組成物の試料を得た。これを用いて実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示した。
[比較例1]
【0052】
無水安息香酸を用いない以外は、実施例1と同様にして試料を得た。これを用いて実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示した。酸素吸収性能は良好であったが、酸素濃度が1%以下となってから水素濃度が徐々に増加する傾向を示して、評価は不良となった。
[比較例2]
【0053】
無水安息香酸を無水マレイン酸(和光純薬社製、液体状。23℃での水への溶解度は44%で、融点は52.8℃以下であった)に代えた以外は、実施例1と同様にして試料を得た。これを用いて実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示した。無水マレイン酸が溶解して酸素吸収反応を阻害したため、酸素吸収性能が不良であり、水素発生抑制効果は測定不能であった。
【0054】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属アルミニウム単位と、アルミニウム化合物単位と、白金族金属単位と、酸無水物の単位とを含有し、前記酸無水物は、23℃での水への溶解度が5%以下で、かつ融点または分解点が140℃以下のものであることを特徴とする酸素吸収性組成物。
【請求項2】
前記の酸無水物が、無水酢酸または無水安息香酸であることを特徴とする請求項1に記載の酸素吸収性組成物。
【請求項3】
前記のアルミニウム化合物が、アルミニウム酸化物であることを特徴とする請求項1または2に記載の酸素吸収性組成物。
【請求項4】
前記のアルミニウム化合物が、γ−アルミナであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の酸素吸収性組成物。
【請求項5】
前記のアルミニウム化合物が、ベーマイトであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の酸素吸収性組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の酸素吸収性組成物を、酸素透過可能に包含してなる酸素吸収剤。

【公開番号】特開2008−18331(P2008−18331A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−191838(P2006−191838)
【出願日】平成18年7月12日(2006.7.12)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】