説明

酸素吸収樹脂組成物の製造方法

【課題】酸素吸収性能、樹脂強度、樹脂加工性に優れた酸素吸収樹脂組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】ポリオレフィン樹脂及び遷移金属触媒を含むマスターバッチと、ポリアミド樹脂とを溶融混練して酸素吸収樹脂組成物を製造する方法であって、遷移金属の含有量がポリオレフィン樹脂に対して200〜5000ppmであり、ポリアミド樹脂が芳香族ジアミン及びジカルボン酸の重縮合によって得られるものであり、ポリアミド樹脂の末端アミノ基濃度が30μeq/g以下であり、ポリアミド樹脂の含有量が酸素吸収樹脂組成物の総量に対して15〜60重量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた酸素吸収性能を示し、且つ、樹脂の酸化劣化による強度低下、臭気発生がなく、加工性に優れた酸素吸収樹脂組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、包装容器としては、金属缶、ガラス瓶、各種プラスチック包装等の容器が知られていたが、包装容器内の酸素による品質劣化が問題となっていた。このため、近年、脱酸素包装技術の一つとして、熱可塑性樹脂に鉄系脱酸素剤等を配合した酸素吸収樹脂組成物からなる酸素吸収層を配した多層材料で容器を構成し、容器のガスバリア性の向上を図ると共に、容器自体に酸素吸収機能を付与した包装容器の開発が行われている。例えば、酸素吸収性多層フィルムは、ヒートシール層及びガスバリア層を積層してなる従来のガスバリア性多層フィルムの間に、場合により熱可塑性樹脂からなる中間層を介して酸素吸収剤を分散した熱可塑性樹脂層である酸素吸収層を加え、外部からの酸素透過を防ぐ機能に容器内の酸素を吸収する機能を付与したものとして利用され、押し出しラミネートや共押し出しラミネート、ドライラミネート等の従来公知の製造方法を利用して製造されている(特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、鉄系脱酸素剤を用いるものは、食品等の異物検知に使用される金属探知機に検知される、不透明性の問題により内部視認性が不足する、さらに、鉄粉の混入により風味が損なわれるアルコール等の飲料への使用ができない、といった課題を有していた。また、鉄粉の酸化反応を利用しているため、被保存物が高水分系であるものでしか、酸素吸収の効果を発現することができなかった。
【0004】
一方、ポリマーからなり、酸素捕捉特性を有する組成物では、酸化可能有機成分としてポリアミド、特にキシリレン基含有ポリアミドと遷移金属からなる樹脂組成物が知られており、酸素捕捉機能を有する樹脂組成物やその樹脂組成物を成形して得られる酸素吸収剤、包装材料、包装用多層積層フィルムの例示もある(特許文献2〜6参照)。
【0005】
しかしながら、遷移金属触媒を含有させ、ポリアミド樹脂等を酸化させ酸素吸収機能を発現させる樹脂組成物は、ポリアミド樹脂が酸化するため、樹脂の酸化劣化による強度低下が発生し、包装容器そのものの強度が低下するという問題を有している。
【0006】
さらに、ポリアミド樹脂と遷移金属触媒にて酸化反応を示すものとして、メタキシリレンジアミンとアジピン酸との重縮合によって得られるポリアミドであるMXD6の例示があるが、MXD6に遷移金属を混合した系では、酸素吸収樹脂組成物として使用し、被保存物を良好に保存するには、酸素吸収能力が低い場合がある。また、遷移金属を混合した際にMXD6の酸化分解による粘度低下があり、加工性低下の問題があった。また、MXD6に遷移金属を混合した系は、通常、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと表記する)等のポリエステル樹脂やナイロン6等の比較的高融点の樹脂とのブレンドが使用されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−234832号公報
【特許文献2】特開平5−140555号公報
【特許文献3】特開2001−252560号公報
【特許文献4】特開2003−341747号公報
【特許文献5】特開2005−119693号公報
【特許文献6】特開2001−179090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記課題を解決した、酸素吸収性能、樹脂強度、樹脂加工性に優れた酸素吸収樹脂組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ポリオレフィン樹脂と遷移金属触媒の少なくとも2成分からなるマスターバッチと、特定のポリアミド樹脂を溶融混練することにより、酸素吸収性能に優れ、保存後の樹脂強度が保たれ、さらに、加工性に優れた酸素吸収樹脂組成物の製造方法を得ることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、「ポリオレフィン樹脂及び遷移金属触媒を含むマスターバッチと、ポリアミド樹脂とを溶融混練して酸素吸収樹脂組成物を製造する方法であって、遷移金属の含有量がポリオレフィン樹脂に対して200〜5000ppmであり、ポリアミド樹脂が芳香族ジアミン及びジカルボン酸の重縮合によって得られるものであり、ポリアミド樹脂の末端アミノ基濃度が30μeq/g以下であり、ポリアミド樹脂の含有量が酸素吸収樹脂組成物の総量に対して15〜60重量%であることを特徴とする酸素吸収樹脂組成物の製造方法。」に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、高い酸素吸収性能を有し、ポリアミド樹脂の酸化による強度劣化もほとんどみられない加工性良好な酸素吸収樹脂組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の製造方法により得られる酸素吸収樹脂組成物は、芳香族ジアミンとジカルボン酸との重縮合によって得られる末端アミノ基濃度が30μeq/g以下のポリアミド樹脂(以下、当該ポリアミド樹脂を特に「ポリアミド樹脂A」と称する)、遷移金属触媒及びポリオレフィン樹脂を含有する樹脂組成物である。これら各成分について、詳細を説明する。
【0013】
酸素吸収樹脂組成物の酸素吸収性能は、酸素吸収能を有するポリアミド樹脂Aが多い方が良好と考えられるが、驚くべきことに、ポリアミド樹脂Aをポリオレフィン樹脂と一定の比率で混合した際に高い酸素吸収能力を示すことを見出した。
【0014】
ポリアミド樹脂Aを得る際の芳香族ジアミンとしては、オルソキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、メタキシリレンジアミンが挙げられるが、酸素吸収性能の観点からパラキシリレンジアミン、メタキシリレンジアミン又はこれらの混合物が好ましく用いられ、メタキシリレンジアミンが特に好ましく用いられる。また、性能に影響しない範囲で、各種脂肪族ジアミンや芳香族ジアミンを共重合成分として組み込んでもよい。
ポリアミド樹脂Aを得る際のジカルボン酸としては、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンニ酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マロン酸等が挙げられる。これらの中でも、酸素吸収性能の観点でアジピン酸、セバシン酸、イソフタル酸又はこれらの混合物が好ましく用いられる。また、性能に影響しない程度で、各種脂肪族ジカルボン酸や芳香族ジカルボン酸を共重合成分として組み込んでもよい。
【0015】
ポリアミド樹脂Aを得る際の芳香族ジアミンとジカルボン酸の組合せとしては、芳香族ジアミンとして、パラキシリレンジアミン、メタキシリレンジアミン又はこれらの混合物を用い、ジカルボン酸として、アジピン酸及びセバシン酸の混合物又はアジピン酸及びイソフタル酸の混合物を用いることが好ましい。上記ジアミンとアジピン酸とセバシン酸とを重縮合する場合のモル比は、上記ジアミン:セバシン酸:アジピン酸=0.985〜0.997:0.3〜0.7:0.7〜0.3が好ましく、0.988〜0.995:0.4〜0.6:0.6〜0.4が特に好ましい。また、上記ジアミンとアジピン酸とイソフタル酸とを重縮合する場合のモル比は、上記ジアミン:アジピン酸:イソフタル酸=0.985〜0.997:0.7〜0.97:0.3〜0.03が好ましく、0.988〜0.995:0.8〜0.95:0.2〜0.05が特に好ましい。
【0016】
ポリアミド樹脂Aは、芳香族ジアミンとジカルボン酸を溶融状態で重合させる溶融重合や、ポリアミド樹脂のペレットなどを減圧下で加熱する固相重合などにより、合成することができる。特に、溶融重合を行った後に、固相重合を行う方法で合成することが好ましい。ポリアミド樹脂Aの数平均分子量は、18000〜27000が好ましく、20000〜26000が特に好ましい。
【0017】
本発明におけるポリアミド樹脂Aの末端アミノ基濃度は30μeq/g以下であるが、末端アミノ基濃度が25μeq/g以下であると酸素吸収性能が向上するため好ましく、20μeq/g以下であると酸素吸収性能がさらに向上するため、より好ましい。このように酸素吸収性能は、末端アミノ基濃度の低下に伴って向上する傾向があり、出来るだけ当該濃度を低下させることが好ましいが、経済合理性を考慮するとその下限値は5μeq/g以上とすることが好ましい。なお、末端アミノ基濃度が30μeq/gより高いと、良好な酸素吸収性能を得ることができない。
【0018】
ポリアミド樹脂の末端アミノ基濃度を30μeq/g以下にするためには、
1)芳香族ジアミンとジカルボン酸のモル比を調整して重縮合を実施する方法
2)ポリアミド樹脂をカルボン酸と反応させて末端アミノ基を封止する方法
3)ポリアミド樹脂を固相重合する方法
等の方法を実施することが好ましく、これらの方法は、単独で若しくは組み合わせて実施することができる。特に、1)と3)、2)と3)の方法を組み合わせて実施すると、酸素吸収性能や多層体作製時の成形性がより優れたポリアミド樹脂が得られるため、好ましい。以下、これらの方法について説明する。
【0019】
1)芳香族ジアミンとジカルボン酸のモル比を調整して重縮合を実施する方法においては、ジカルボン酸を芳香族ジアミンに対して過剰に用いることとし、具体的には、芳香族ジアミンとジカルボン酸のモル比(芳香族ジアミン/ジカルボン酸)を0.985〜0.997とすることが好ましく、特に0.988〜0.995とすることが好ましい。該モル比が0.985を下回ると、ポリアミド樹脂の重合度が上昇しづらくなるため、好ましくない。
【0020】
2)ポリアミド樹脂をカルボン酸と反応させて末端アミノ基を封止する方法においては、ポリアミド樹脂の末端アミノ基とカルボン酸を反応させて、末端アミノ基濃度を調整する。用いるカルボン酸には特に制限がないが、カルボン酸無水物が好ましく、具体的には無水フタル酸、無水マレイン酸、無水安息香酸、無水グルタル酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水酢酸、無水酪酸、無水イソ酪酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、などが例示できる。また、ポリアミド樹脂とカルボン酸の反応方法としては、例えば、ポリアミド樹脂の溶融重合時にカルボン酸を添加する方法や、溶融重合によって得られたポリアミド樹脂に対してカルボン酸を添加して溶融混練する方法によって反応させることが出来、ポリアミド樹脂の重合度を上げるためには溶融混練が好ましい。
【0021】
3)ポリアミド樹脂を固相重合する方法においては、溶融重合によって得られたポリアミド樹脂をさらに固相重合反応に供することによって、末端アミノ基濃度を調整する。固相重合はポリアミド樹脂のペレットを減圧下で加熱することによって進行する。固相重合時の圧力は、100torr以下とすることが好ましく、30torr以下とすることがより好ましい。また、固相重合時の温度は、130℃以上必要で、150℃以上がより好ましく、且つポリアミド樹脂の融点より10℃以上低くすることが好ましく、15℃以上低くすることがより好ましい。固相重合時間は、3時間以上とすることが好ましい。固相重合を実施することによって、ポリアミド樹脂の末端アミノ基濃度が低下する他、分子量が上昇し、また、粘度を調整することができる。
【0022】
本発明のポリアミド樹脂Aには、結晶性の低いものが好ましく用いられる。具体的には、半結晶化時間が150秒以上の結晶性の低いものや、DSCでの融点測定時に融点ピークが見られないものが好ましい。ポリアミド樹脂Aの半結晶化時間が150秒以上であると、より高い酸素吸収性能が得られる。
【0023】
また、ポリアミド樹脂Aは、ポリオレフィン樹脂との加工性や酸素吸収性能を考慮すると、融点やガラス転移温度(以下、Tgと表記する)が低いものが好ましく用いられる。ポリアミド樹脂Aの融点は、200℃以下が好ましく、さらに190℃以下又は融点を持たないものが特に好ましい。Tgは、90℃以下が好ましく、80℃以下が特に好ましい。
【0024】
ポリオレフィン樹脂及び遷移金属触媒を含むマスターバッチと、ポリアミド樹脂Aとを溶融混練する際の加工性を考慮すると、ポリアミド樹脂Aのメルトフローレート(以下、MFRと表記する)は、200℃で、3〜20g/10分、240℃で、4〜25g/10分のものが好ましく用いられる。この場合、ポリオレフィン樹脂のMFRとポリアミド樹脂AのMFRの差が±20g/10分、好ましくは±10g/10分を示す温度にて、溶融混練すると混練状態が良好となり、フィルム又はシートとした場合、外観に問題のない加工品を得ることができる。ポリアミド樹脂AのMFRは、例えば分子量を調節して調整できる。分子量を調節する方法としては、重合進行剤としてリン系化合物を添加する方法や、ポリアミド樹脂Aを溶融重合後、固相重合する方法が、好適な方法として例示できる。なお、本明細書におけるMFRは、特に断りがない限り、JIS K7210に準拠した装置を用いて、特定の温度において、荷重2160gの条件下で測定した当該樹脂のMFRであり、「g/10分」の単位で測定温度と共に表記される。
【0025】
本発明で得られたポリアミド樹脂Aに安定化剤等を適宜添加してもよい。特に、リン化合物は、安定化剤として好ましく用いられ、具体的には、ジ亜リン酸塩が好ましい。リン化合物の添加量は、ポリアミド樹脂Aを安定させ、かつ酸素吸収性能を低下させない為には、200ppm以下が好ましく、特に100ppm以下が好ましい。
【0026】
本発明のポリオレフィン樹脂とは、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、メタロセン触媒によるポリエチレン等の各種ポリエチレン類、ポリスチレン、ポリメチルペンテン、プロピレンホモポリマー、プロピレン−エチレンブロック共重合体、プロピレン−エチレンランダム共重合体等のポリプロピレン類を、単独で、又は組み合わせて使用することができる。これら、ポリオレフィン樹脂の中でも、酸素吸収性能の観点では、酸素透過係数が80〜200cc・mm/(m・日・atm)(23℃・60%RH)であること好ましく、この範囲の酸素透過係数を有するポリオレフィン樹脂を使用すると、良好な酸素吸収性能が得られる。酸素吸収性能やフィルム加工性から、ポリオレフィン樹脂としては、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、メタロセン触媒によるポリエチレン等の各種ポリエチレン類やプロピレン−エチレンブロック共重合体、プロピレン−エチレンランダム共重合体等の各種ポリプロピレン類が特に好ましく用いられる。これらポリオレフィン樹脂には、必要に応じて、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、熱可塑性エラストマーを添加してもよい。
【0027】
また、ポリアミド樹脂Aとの混合性を考慮すると、ポリオレフィン樹脂に無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂を添加することが特に好ましい。無水マレイン酸変性ポリオレフィンの添加量は、ポリオレフィン樹脂に対し、1〜30wt%が好ましく、3〜15wt%が特に好ましい。
【0028】
また、本発明のポリオレフィン樹脂には、酸化チタン等の着色顔料、酸化防止剤、スリップ剤、帯電防止剤、安定剤等の添加剤、炭酸カルシウム、クレー、マイカ、シリカ等の充填剤、消臭剤等を添加しても良い。特に、製造中に発生した端材をリサイクルし、再加工するためには、酸化防止剤を添加することが好ましい。
【0029】
本発明において使用される遷移金属触媒としては、第一遷移元素、例えばFe、Mn、Co、Cu、の化合物が挙げられる。また、遷移金属の有機酸塩、塩化物、燐酸塩、亜燐酸塩、次亜燐酸塩、硝酸塩などの単独、又は、それらの混合物等も遷移金属触媒の一例として挙げられる。有機酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、オクタノイック酸、ラウリン酸、ステアリン酸などC2〜C22の脂肪族アルキル酸の塩、あるいは、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ヘキサハイドロフタル酸、など2塩基酸の塩、ブタンテトラカルボン酸の塩、安息香酸、トルイック酸、o-フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメシン酸など芳香族カルボン酸塩の単独、又は、混合物が挙げられる。遷移金属触媒の中でも、Coの有機酸塩が酸素吸収性の観点から、好ましく、安全性や加工性からステアリン酸コバルトが特に好ましい。
【0030】
本発明では、遷移金属触媒をポリオレフィン樹脂に混練してマスターバッチを製造し、その後、マスターバッチとポリアミド樹脂Aとを溶融混練し、酸素吸収樹脂組成物とする。遷移金属触媒は、ポリオレフィン樹脂に対する該触媒中の全遷移金属の濃度が、200ppm〜5000ppm、好ましくは300ppm〜3000ppmとなるように添加することが好ましい。この場合、添加量が上記の範囲を外れる場合と比較して、ポリアミド樹脂Aの酸素吸収性能を高めることができる。また、5000ppmを超える場合、マスターバッチを製造することが困難となる場合があったり、均一な性状を有するものを製造できなくなる場合がある。遷移金属触媒をポリアミド樹脂Aに添加した場合には、ポリアミド樹脂Aの粘度低下による樹脂加工性の悪化が生じるが、本発明の方法では粘度低下が起こらない為に加工性に優れた酸素吸収樹脂組成物が得られる。
【0031】
ポリアミド樹脂Aの含有量は、酸素吸収樹脂組成物の総量に対して15〜60重量%が好ましく、20〜50重量%が特に好ましい。ポリアミド樹脂Aの含有量が、15重量%より下回ったり、60重量%を超えた場合は、酸素吸収能力が低くなる。また、60重量%を超えると、ポリアミド樹脂Aの酸化による樹脂劣化が生じ、強度低下等の問題が発生する。
【0032】
本発明のマスターバッチとポリアミド樹脂Aを溶融混練する際に、ポリオレフィン樹脂を同時に加えることで、ポリアミド樹脂Aの含有量及び遷移金属濃度を調整することもできる。
【0033】
本発明の酸素吸収樹脂組成物は、酸素吸収剤材料として用いることができる。すなわち、ペレット状又はシート状の酸素吸収樹脂組成物を通気性包装材料に充填し、小袋状脱酸素剤と使用しても良い。ペレット状とする際は、酸素との接触を保つため粉砕して表面積を大きくすることが好ましい。また、シート状とする際は、延伸して、ポリアミド樹脂Aとポリオレフィン樹脂の海島状の層間に空隙を設けることが好ましい。延伸する際のポリオレフィン樹脂としては、高密度ポリエチレンが好ましく用いられる。
【0034】
また、本発明の酸素吸収樹脂組成物は、フィルム状又はシート状として、ポリオレフィン樹脂を含有するシーラント層、酸素吸収樹脂組成物を含有する酸素吸収層及びガスバリア性物質を含有するガスバリア層の少なくとも3層を積層してなる酸素吸収多層体として用いることが好ましい。
【0035】
この場合、ポリオレフィン樹脂を含有するシーラント層は、相溶性を考慮して、酸素吸収樹脂組成物に用いたポリオレフィン樹脂と同様のものを用いることが好ましい。ガスバリア性物質としては、シリカ、アルミナ、アルミ等の各種蒸着フィルム、エチレン−ビニルアルコール共重合体、MXD6、ポリ塩化ビニリデン、アミン−エポキシ硬化剤等のガスバリア性樹脂、アルミ箔等の金属箔等、公知のガスバリア性物質が用いられる。
【0036】
酸素吸収層として使用する際の酸素吸収樹脂組成物の厚みは、特に制限はないが、5〜100μmが好ましく、10〜50μmが特に好ましい。この場合、厚みが上記範囲を外れる場合に比べて、酸素吸収樹脂組成物が酸素を吸収する性能をより高めることができるとともに加工性や経済性が損なわれることを防止することができる。また、シーラント層の厚みは、シーラント層が酸素吸収樹脂組成物を含有する層との隔離層となるため、少ない方が好ましいが、2〜50μmが好ましく、5〜30μmが特に好ましい。この場合、厚みが上記範囲を外れる場合に比べて、酸素吸収樹脂組成物の酸素を吸収する速度をより高めることができるとともに加工性が損なわれることを防止することができる。フィルム、シートに加工する際、加工性を考慮すると、シーラント層と酸素吸収層の厚み比が、1:0.5〜1:3にあることが好ましく、1:1〜1:2.5が特に好ましい。
【0037】
また、多層体とする際、加工性を考慮すると、ガスバリア性物質を含有するガスバリア層と酸素吸収樹脂組成物を含有する酸素吸収層間にポリオレフィン樹脂を含有する中間層を介在させることが好ましい。この中間層の厚みは、加工性から、シーラント層厚みとほぼ同一とすることが好ましい。この場合、加工によるバラツキを考慮すると、厚み比が±10%以内であれば、同一とする。
【0038】
得られた酸素吸収多層体は、ガスバリア層の外層に紙基材を積層して、酸素吸収紙容器として用いることができる。紙容器の加工性を考慮すると、ガスバリア層より内側にある層の厚みを60μm以下とすることが好ましく、50μm以下が特に好ましい。ガスバリア層より内側にある層の厚みが大きくなると、紙基材を積層し容器形状に成形する際、容器への加工性に問題が生じる。
【0039】
得られた酸素吸収多層体は、フィルムとして作製し、袋状、蓋材に加工して用いることができる。また、得られた酸素吸収多層体は、シートとして作製し、トレイ、カップに成形することができる。また、得られた袋状容器やカップ状容器は、80〜100℃のボイル処理、100〜135℃のセミレトルト、レトルト、ハイレトルト処理を行うことができる。また、袋状容器に食品等の内容物を充填し、開封口を設け、電子レンジ加熱調理時にその開封口から蒸気を放出する、電子レンジ調理対応の易通蒸口付パウチに好ましく用いることができる。
【0040】
本酸素吸収樹脂組成物は、被保存物の水分の有無によらず、酸素吸収することができるため、粉末調味料、粉末コーヒー、コーヒー豆、米、茶、豆、おかき、せんべい等の乾燥食品や医薬品、ビタミン剤等の健康食品の保存に好適に使用することができる。その他、本発明で得られた酸素吸収樹脂組成物は、従来の鉄粉を使用した酸素吸収樹脂組成物と異なり、鉄の存在による風味低下等の問題も起こらないので、アルコール飲料や炭酸飲料の保存にも好適に用いることができる。
【0041】
さらに、被保存物としては、精米、米飯、赤飯、もち等の米加工類、スープ、シチュー、カレー等の調理食品、フルーツ、羊羹、プリン、ケーキ、饅頭等の菓子類、ツナ、魚貝等の水産加工製品、チーズ、バター等の乳加工品、肉、サラミ、ソーセージ、ハム等の畜肉加工品、にんじん、じゃがいも、アスパラ、しいたけ等の野菜類、卵、を挙げることができる。
【実施例】
【0042】
以下に実施例と比較例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。尚、本実施例及び比較例において、各種物性値は以下の測定方法及び測定装置により測定した。
(Tgの測定方法)
Tgは、JIS K7122に準拠して測定した。測定装置は(株)島津製作所製「DSC−60」を使用した。
(融点の測定方法)
融点は、ISO11357に準拠して、DSC融解ピーク温度を測定した。測定装置は(株)島津製作所製「DSC−60」を使用した。
(数平均分子量の測定方法)
数平均分子量は、GPC−LALLSにて測定した。測定装置は昭和電工(株)製「Shodex GPC−2001」を使用した。
(MFRの測定方法)
各樹脂のMFRは、JIS K7210に準拠した装置((株)東洋精機製作所製「メルトインデックサ」)を用いて、特定の温度において、荷重2160gの条件下で測定し、温度と共にその値を記載した(単位:「g/10分」)。なお、JIS K7210に準拠してMFRを測定した場合はその旨、特に記載した。
(末端アミノ基濃度の測定方法)
試料0.5gを30mLのフェノール/エタノール=4/1(体積比)に溶解させ、メタノール5mL加え、滴定液として0.01規定の塩酸にて自動滴定装置(平沼製作所製「COM−2000」)にて滴定した。試料を加えず滴定した同様の操作をブランクとし、下記式より末端アミノ基濃度を算出した。
【0043】
末端アミノ基濃度(μeq/g)=(A−B)×f×10/C
(A;滴定量(mL)、B;ブランク滴定量(mL)、f;規定液のファクター、C;試料量(g))。
(末端カルボキシル基濃度の測定方法)
試料0.5gを30mLのベンジルアルコールに溶解させ、メタノール10mL加え、滴定液として0.01規定の水酸化ナトリウム溶液にて自動滴定装置(平沼製作所製「COM−2000」)にて滴定した。試料を加えず滴定した同様の操作をブランクとし、下記式より末端カルボキシル基濃度を算出した。
【0044】
末端カルボキシル基濃度(μeq/g)=(A−B)×f×10/C
(A;滴定量(mL)、B;ブランク滴定量(mL)、f;規定液のファクター、C;試料量(g))。
(半結晶化時間の測定方法)
各温度にて、ペレットを溶融させ、各温度にて樹脂を結晶化させた場合、すべてが結晶化する時間を結晶化時間といい、結晶化50%到達時間を半結晶化時間という。半結晶化時間の測定は、脱偏光強度法により行った。即ち、溶融したサンプルペレットに光を照射し、サンプルペレットの結晶化とともに、光の透過量が減少して安定した時点を結晶化とし、その時間を結晶化時間とし、光の透過量が50%に到達した時間を半結晶化時間とした。なお、結晶化時間及び半結晶化時間は、測定温度で異なるが、以下の記載においては、各温度の半結晶化時間の内、最も半結晶化時間の短いものを「半結晶化時間」として記載した。また、結晶化時間及び半結晶化時間の測定にはコタキ製「ポリマー結晶化速度測定装置MK−701型」を使用した。
(ポリアミド樹脂の溶融重合による合成条件)
反応缶内でジカルボン酸を170℃にて加熱し、溶融した後、内容物を攪拌しながら、芳香族ジアミンを徐々に連続的に滴下し、かつ温度を240℃まで上昇させた。滴下終了後、260℃に昇温し、反応を継続した。反応終了後、反応缶内を窒素にて微加圧し、穴を有するダイヘッドからストランドを押出し、ペレタイザーでペレット化した。
(ポリアミド樹脂の固相重合による合成条件)
上記の方法で溶融重合して得られたペレットを加熱装置付き回転式タンブラーに仕込み、回転させながらタンブラー内を1torr以下まで減圧した後、窒素で常圧にする操作を3回行った。その後、タンブラーを回転させながら装置内を30torr以下としながら加熱し、装置内が150℃以上になるよう調整し、その温度で所定時間、反応させた。その後、60℃まで冷却し、ポリアミド樹脂を得た。
(実施例1)
メタキシリレンジアミン:セバシン酸:アジピン酸を0.993:0.4:0.6の割合のモル比で使用し、前記合成条件にて溶融重合及び固相重合を行ってポリアミド樹脂を合成した(以下、当該ポリアミド樹脂をポリアミド1と表記する)。なお、滴下時間は2時間、溶融重合の反応時間は1時間、固相重合時の装置内圧力は1torr以下、重合温度は160℃、重合時間は5時間とした。ポリアミド1は、Tg73℃、融点184℃、半結晶化時間2000秒以上、末端アミノ基濃度15.6μeq/g、末端カルボキシル基濃度64.3μeq/g、数平均分子量は25000、240℃のMFRが10.6g/10分であった。これらの結果を表1に示した。
【0045】
続いて、直鎖状低密度ポリエチレン(製品名;宇部丸善ポリエチレン(株)製「ユメリット4040F」、MFR4.0g/10分(JIS K7210に準拠して測定)、240℃のMFR7.9g/10分、250℃のMFR8.7g/10分、以下LLDPE1と表記する)と、遷移金属触媒としてステアリン酸コバルトをコバルト濃度1000ppmとなるよう二軸押出機にて、溶融したLLDPE1にサイドフィードにて添加し、マスターバッチ1を得た。このときLLDPE1の粘度の低下を認めなかった。
【0046】
このマスターバッチ1とポリアミド1を、マスターバッチ1:ポリアミド1=75:25の重量比で、240℃にて溶融混練し、酸素吸収樹脂組成物を得た。次いで、該酸素吸収樹脂組成物を用いて厚さ50μmの単層の酸素吸収樹脂組成物からなるフィルムを得、フィルムの外観を観察したところ、そのフィルムの外観は良好であった。そのフィルムを10mm×10mmの2枚のフィルムとし、該フィルムを袋内の湿度が30%、及び100%のアルミ箔積層フィルムからなるガスバリア袋に、空気300ccとともに充填密封し、23℃下に保管して、密封後7日間に吸収した酸素の総量を測定した。また、一方で、40℃下、湿度100%で1ヶ月間保管した後のフィルムの伸び率を測定した。これらの結果を表2に示した。
(実施例2)
溶融混練時の重量比を、マスターバッチ1:ポリアミド1=85:15とした以外は実施例1と同様にフィルムを製造して、該フィルムの酸素吸収量の測定・伸び率の測定・外観の観察を行った。これらの結果を表2に示した。
(実施例3)
溶融混練時の重量比を、マスターバッチ1:ポリアミド1=45:55とした以外は実施例1と同様にフィルムを製造して、該フィルムの酸素吸収量の測定・伸び率の測定・外観の観察を行った。これらの結果を表2に示した。
(実施例4)
LLDPE1にステアリン酸コバルトをコバルト濃度が400ppmとなるよう添加し、マスターバッチ2を得た。このときLLDPE1の粘度の低下を認めなかった。次いで、このマスターバッチ2とポリアミド1を、マスターバッチ2:ポリアミド1=75:25の重量比で溶融混練し、実施例1と同様にフィルムを製造して、該フィルムの酸素吸収量の測定・伸び率の測定・外観の観察を行った。これらの結果を表2に示した。
(実施例5)
LLDPE1にステアリン酸コバルトをコバルト濃度が2000ppmとなるよう添加し、マスターバッチ3を得た。このときLLDPE1の粘度の低下を認めなかった。次いで、このマスターバッチ3とポリアミド1を、マスターバッチ3:ポリアミド1=75:25の重量比で溶融混練し、実施例1と同様にフィルムを製造して、該フィルムの酸素吸収量の測定・伸び率の測定・外観の観察を行った。これらの結果を表2に示した。
(実施例6)
メタキシリレンジアミン:アジピン酸:イソフタル酸を、0.991:0.85:0.15の割合のモル比で使用し、前記合成条件にて溶融重合及び固相重合を行ってポリアミド樹脂を合成した(以下、当該ポリアミド樹脂をポリアミド2と表記する)。なお、滴下時間は2時間、溶融重合の反応時間は1時間、固相重合時の装置内圧力は1torr以下、重合温度は205℃、重合時間は5時間とした。このポリアミド2は、Tg94℃、融点226℃、半結晶化時間770秒、末端アミノ基濃度11.1μeq/g、末端カルボキシル基濃度70.1μeq/g、数平均分子量は24600であった。240℃では、融点付近であるため、MFRが測定できず、250℃のMFRを測定し、250℃におけるMFRは、14.5g/10分であった。これらの結果を表1に示した。
【0047】
以後、溶融混練温度を250℃とした以外は、実施例1と同様にして、フィルムを製造し、該フィルムの酸素吸収量の測定・伸び率の測定・外観の観察を行った。これらの結果を表2に示した。
(実施例7)
メタキシリレンジアミン:アジピン酸を0.993:1の割合のモル比で使用し、前記合成条件にて溶融重合及び固相重合を行ってポリアミド樹脂を合成した(以下、当該ポリアミド樹脂をポリアミド3と表記する)。なお、滴下時間は2時間、溶融重合の反応時間は1時間、固相重合時の装置内圧力は1torr以下、重合温度は205℃、重合時間は5時間とした。このポリアミド3は、Tg84℃、融点237℃、半結晶化時間は25秒、末端アミノ基濃度12.2μeq/g、末端カルボキシル基濃度68.5μeq/g、数平均分子量は24800であった。また、240℃では、融点付近であるため、MFRが測定できず、250℃のMFRを測定し、250℃におけるMFRは、13.4g/10分であった。これらの結果を表1に示した。
【0048】
以後、溶融混練温度を250℃とした以外は、実施例1と同様にして、フィルムを製造し、該フィルムの酸素吸収量の測定・伸び率の測定・外観の観察を行った。これらの結果を表2に示した。
(実施例8)
メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンを85:15で混合し、これらのジアミンとアジピン酸を1:1の割合のモル比で使用し、前記合成条件にて溶融重合のみを行ってポリアミド樹脂を合成した後、無水フタル酸を0.2wt%添加し、二軸押出機にて270℃で溶融混練し、末端アミノ基を封止した(以下、当該ポリアミド樹脂をポリアミド4と表記する)。ただし、滴下時間は2時間、溶融重合においてジアミン混合物滴下終了後の重合温度は270℃とし、反応時間は30分とした。このポリアミド4は、Tg83℃、融点254℃、半結晶化時間24秒、末端アミノ基濃度22.2μeq/g、末端カルボキシル基濃度69.2μeq/g、数平均分子量は19000であった。また、260℃では、融点付近であるため、MFRが測定できず、270℃のMFRを測定し、270℃におけるMFRは、34.6g/10分であった。これらの結果を表1に示した。
【0049】
以後、溶融混練温度を270℃とした以外は、実施例1と同様にして、フィルムを製造し、該フィルムの酸素吸収量の測定・伸び率の測定・外観の観察を行った。これらの結果を表2に示した。
(比較例1)
溶融混練時の重量比を、マスターバッチ1:ポリアミド1=90:10とした以外は実施例1と同様にフィルムを製造して、該フィルムの酸素吸収量の測定・伸び率の測定・外観の観察を行った。これらの結果を表2に示した。
(比較例2)
溶融混練時の重量比を、マスターバッチ1:ポリアミド1=10:90とした以外は実施例1と同様にフィルムを製造して、該フィルムの酸素吸収量の測定・伸び率の測定・外観の観察を行った。これらの結果を表2に示した。
(比較例3)
LLDPE1にステアリン酸コバルトをコバルト濃度が100ppmとなるよう添加し、マスターバッチ4を得た。このときLLDPE1の粘度の低下を認めなかった。次いで、このマスターバッチ4とポリアミド1を、マスターバッチ4:ポリアミド1=75:25の重量比で溶融混練し、実施例1と同様にフィルムを製造して、該フィルムの酸素吸収量の測定・伸び率の測定・外観の観察を行った。これらの結果を表2に示した。
(比較例4)
ポリアミド1にステアリン酸コバルトが1000ppmとなるよう添加し、ステアリン酸コバルト含有ポリアミド1を得た。このときポリアミド1の240℃のMFRが、10.6g/10分が36.8g/10分に増加し、溶融粘度が低下した。次いで、LLDPE1とステアリン酸コバルト含有ポリアミド1の重量比を、LLDPE1:ステアリン酸コバルト含有ポリアミド1=75:25となるよう溶融混練し、実施例1と同様にフィルムを製造して、該フィルムの酸素吸収量の測定・伸び率の測定・外観の観察を行った。これらの結果を表2に示した。
(比較例5)
メタキシリレンジアミン:アジピン酸を1:1の割合のモル比で使用した以外は、実施例7と同様にしてポリアミド樹脂を合成した(以下、当該ポリアミド樹脂をポリアミド5と表記する)。このポリアミド5は、Tg84℃、融点237℃、半結晶化時間25秒、末端アミノ基濃度38.9μeq/g、末端カルボキシル基濃度40.8μeq/g、数平均分子量は25100であった。また、240℃では、融点付近であるため、MFRが測定できず、250℃のMFRを測定し、250℃におけるMFRは、12.8g/10分であった。これらの結果を表1に示した。
【0050】
以後、実施例7と同様にして、マスターバッチ1と溶融混練した後、フィルムを製造し、該フィルムの酸素吸収量の測定・伸び率の測定・外観の観察を行った。これらの結果を表2に示した。
(比較例6)
メタキシリレンジアミン:アジピン酸を0.993:1の割合のモル比で使用し、固相重合の重合時間を2時間とした以外は実施例7と同様にして、ポリアミド樹脂を合成した(以下、当該ポリアミド樹脂をポリアミド6と表記する)。このポリアミド6は、Tg84℃、融点237℃、半結晶化時間25秒、末端アミノ基濃度31.1μeq/g、末端カルボキシル基濃度84.1μeq/g、数平均分子量は17400であった。また、240℃では、融点付近であるため、MFRが測定できず、250℃のMFRを測定し、250℃におけるMFRは、39.2g/10分であった。これらの結果を表1に示した。
【0051】
以後、実施例7と同様にして、マスターバッチ1と溶融混練した後、フィルムを製造し、該フィルムの酸素吸収量の測定・伸び率の測定・外観の観察を行った。これらの結果を表2に示した。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
実施例1〜8から明らかなように、本発明の製造法により得られた酸素吸収樹脂組成物は、高湿度下、低湿度下いずれにおいても良好な酸素吸収性能を示し、かつ酸素吸収後のフィルム弾性を保持した樹脂組成物であった。
【0055】
これに対し、樹脂組成物中のポリアミド樹脂Aの含有量が15重量%未満であった比較例1、及び60重量%を超過した比較例2においては、酸素吸収性能が不十分であった。また比較例2ではフィルム弾性が悪化した。また、実施例1と比較例4との比較から、マスターバッチを使用した際に加工性良好であり、外観が良好なフィルムが得られた。
【0056】
一方、実施例7と比較して、アジピン酸に対するメタキシリレンジアミンのモル比を大きくした比較例5や、固相重合時間を短縮した比較例6においては、得られたポリアミド樹脂の末端アミノ基濃度が30μeq/gを超過し、良好な酸素吸収性能を得られなかった。また、比較例6においてはフィルムの外観も悪化した。
(実施例9)
実施例1で得られた酸素吸収樹脂組成物をコア層とし、スキン層を直鎖状低密度ポリエチレン(製品名;ダウケミカル社製「ELITE 5220G」、MFR3.5g/10分(JIS K7210に準拠して測定)、240℃のMFR8.4g/10分、250℃のMFR9.1g/10分、以下LLDPE2と表記する)とした2種3層フィルム(厚み;15μm/30μm/15μm)を、幅800mmで、100m/分で、片面を
コロナ放電処理して、作製した。得られたフィルムロールにコブ等の偏肉はなく、外観は良好で、HAZEは20%であった。コロナ放電処理面側にウレタン系ドライラミネート用接着剤(製品名;東洋モートン(株)製「AD−817/CAT−RT86L−60」)を用いて、シリカ蒸着PETフィルム(製品名;三菱樹脂(株)製「テックバリアT」、12)/接着剤(3)/ナイロンフィルム(製品名;東洋紡績(株)製「N1202」、15)/接着剤(3)/LLDPE2(15)/酸素吸収樹脂(30)/LLDPE2(15)の酸素吸収多層フィルムを得た。尚、括弧内の数字は各層の厚さ(単位:μm)を意味する。
【0057】
次いで、LLDPE2側を内面にして3cm×5cmの三方シール袋を作製し、水分活性0.35のビタミンCの粉末を15g充填し、密封後、23℃下に保存した。2ヶ月保存後の袋内酸素濃度及び外観を袋外部から調査したところ、袋内酸素濃度は0.1%以下であり、ビタミンC粉末の外観は良好に保持されていた。
(実施例10)
LLDPE1に替えて、エチレン−プロピレンブロック共重合体(製品名;日本ポリプロ(株)製「ノバテックPP BC3HF」、230℃のMFR8.5g/10分、240℃のMFR10.8g/10分、250℃のMFR12.1g/10分、以下PPと表記する)を使用した以外は実施例1と同様に酸素吸収樹脂組成物を得た。次いで、スキン層をLLDPE2に替えてPPとした以外は実施例9と同様にして、2種3層フィルム(厚み;20μm/30μm/20μm)を作製した。得られたフィルムの外観は良好で、HAZEは80%であった。コロナ放電処理面側にウレタン系ドライラミネート用接着剤(製品名;東洋モートン(株)製「TM251/CAT−RT88」)を用いて、アルミナ蒸着PETフィルム(製品名;凸版印刷(株)製「GL−ARH−F」、12)/接着剤(3)/ナイロンフィルム(15)/接着剤(3)/PP(20)/酸素吸収樹脂(30)/PP(20)の酸素吸収多層フィルムを得た。
【0058】
次いで、PP側を内面にして、13cm×18cmの三方シール袋を作製し、その袋に、ニンジン、じゃがいも、たまねぎ、肉を含んだカレーを充填し、127℃・30分のレトルト処理をし、23℃下に保存した。6ヵ月保存後の内容物の色調を袋外部から調査したところ、外観は良好に保持されていた。開封し、カレーの風味を調査したところ、風味は良好に保持されていた。
(比較例7)
平均粒径20μmの鉄粉と塩化カルシウムを100:1の割合で混合し、PPと30:70の重量比で混練して、鉄粉系酸素吸収樹脂組成物を得た。この鉄粉系酸素吸収樹脂組成物をコア層とし、実施例10と同様に2種3層フィルムを作製しようとしたが、フィルム表面に鉄粉の凹凸が発生し、良好なフィルムが得られなかった。そのため、厚さ40μmのPPに、酸素吸収層として鉄粉系酸素吸収樹脂組成物を厚さ20μmで押出ラミネートし、酸素吸収層面をコロナ放電処理したラミネートフィルムを得た。以下、実施例と同様に、アルミナ蒸着PETフィルム(12)/接着剤(3)/ナイロンフィルム(15)/接着剤(3)/鉄粉系酸素吸収樹脂(30)/PP(50)の酸素吸収多層フィルムを得た。得られた酸素吸収多層フィルムを用いて、実施例10と同様の試験をした結果、風味は良好に保持されていたが、内容物は袋外部から確認できなかった。
【0059】
実施例9、10から明らかなように、本発明の酸素吸収樹脂組成物は内容物視認性を有し、低湿度、高湿度いずれにおいても酸素吸収性能に優れていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン樹脂及び遷移金属触媒を含むマスターバッチと、ポリアミド樹脂とを溶融混練して酸素吸収樹脂組成物を製造する方法であって、遷移金属の含有量がポリオレフィン樹脂に対して200〜5000ppmであり、ポリアミド樹脂が芳香族ジアミン及びジカルボン酸の重縮合によって得られるものであり、ポリアミド樹脂の末端アミノ基濃度が30μeq/g以下であり、ポリアミド樹脂の含有量が酸素吸収樹脂組成物の総量に対して15〜60重量%であることを特徴とする酸素吸収樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
上記ジカルボン酸に、アジピン酸、セバシン酸、イソフタル酸又はこれらの混合物を用いることを特徴とする請求項1記載の酸素吸収樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
上記芳香族ジアミンに、パラキシリレンジアミン、メタキシリレンジアミン又はこれらの混合物を用いることを特徴とする請求項1又は2記載の酸素吸収樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
上記遷移金属触媒がステアリン酸コバルトであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の酸素吸収樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
上記ポリアミド樹脂を得る際のモル比を、芳香族ジアミン:セバシン酸:アジピン酸=0.985〜0.997:0.3〜0.7:0.7〜0.3とすることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の酸素吸収樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
上記ポリアミド樹脂を得る際のモル比を、芳香族ジアミン:アジピン酸:イソフタル酸=0.985〜0.997:0.7〜0.97:0.3〜0.03とすることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の酸素吸収樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2011−236285(P2011−236285A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107212(P2010−107212)
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】