説明

酸素吸放出材の特性評価方法

【課題】自動車排ガス浄化用の三元触媒などに用いるのに適した酸素吸放出材の特性評価方法を提供する。
【解決手段】酸素吸放出材に酸素を吸収させた後、COを3vol%以上含有する還元性ガス中でCOを放出させ、その際のCO濃度を測定し、該測定値を予め定めた基準値と比較することを特徴とする酸素吸放出材の特性評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素吸放出材料、特に自動車の排ガス浄化用触媒に用いる酸素吸放出材料の特性評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の排ガス浄化用触媒、特に三元触媒には、雰囲気変動を緩和するために、セリア、セリア−ジルコニア固溶体など酸素吸放出能を有する酸素吸放出材が用いられている。例えばセリアは、酸素原子を結晶格子中への取り込みおよび結晶格子外への放出により酸素吸放出能を発現し、酸素過剰のリーン雰囲気中で酸素を吸蔵し、酸素不足のリッチ雰囲気中で吸蔵されていた酸素を放出する。そのため排ガス雰囲気が変動しても雰囲気をストイキ近傍に維持することが可能となり、ストイキ近傍で最大の浄化活性を発現する三元触媒などに用いられている。
【0003】
したがって、三元触媒などに本来の性能を発揮させるためには、酸素吸放出材の特性が重要であり、特性を正しく評価する方法が必須になる。
【0004】
特許文献1には、酸素吸放出材に酸素を吸収させた後、COガスを含む還元ガスの循環系に配置し、COと酸素が反応して生成するCOの濃度変化を測定することにより、酸素吸放出速度と酸素吸放出量を独立して測定する方法が開示されている。
【0005】
しかし、この方法で評価される特性は、必ずしも実際の自動車排ガス浄化用触媒に用いる場合の酸素吸放出特性を正確に表しているとは限らない。すなわち、還元ガス中のCO濃度によっては、測定値と触媒反応とが対応しないことがある。測定値として吸放出能が高いと評価された場合でも、実際の触媒に用いた場合に触媒特性は逆に低いことがある。
【0006】
結局、「触媒反応に必要な」酸素吸放出速度の評価になっておらず、触媒反応のために適した酸素吸放出材を選定できないことになる。つまり、リーンからリッチへ、あるいはリッチからリーンへの過渡反応において、NOx、HC、COに対する十分な浄化特性を得るのに最適な酸素吸放出材を選定することができない、という問題があった。
【0007】
特許文献2〜4には、酸素吸蔵速度を高めたとされる触媒材料が開示されている。しかし、触媒反応に必要とされる酸素吸放出速度の評価法や、その評価法に基づいて選定した材料に関しては記載されていない。したがって、触媒反応に必要な酸素吸放出速度を発揮できるか否か、NOx、HC、COに対して十分な浄化特性を備えているか否かは不明であり、結局、これら材料の特性を評価する方法が別途必要になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−9884号公報
【特許文献2】特開2004−174490号公報
【特許文献3】特開2008−212833号公報
【特許文献4】特表2004−529837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、自動車排ガス浄化用の三元触媒などに用いるのに適した酸素吸放出材の特性評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明によれば、酸素吸放出材に酸素を吸収させた後、COを3vol%以上含有する還元性ガス中でCOを放出させ、その際のCO濃度を測定し、該測定値を予め定めた基準値と比較することを特徴とする酸素吸放出材の特性評価方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
酸素吸放出時の雰囲気ガス中のCO濃度を適正化することにより、触媒性能に対応する酸素吸放出特性の評価ができ、触媒反応に適した酸素吸放出材を選定できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】還元性ガスのCO濃度と、酸素吸放出材からのCO放出量との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明においては、酸素吸放出時の雰囲気ガス中のCO濃度を3%以上とすることで実際の触媒性能と対応する酸素吸放出特性を得ることができる。
【0014】
その理由は、リーンからリッチへ、または、リッチからリーンへ燃料ガス組成が変化する際の瞬間的な排ガス組成の変化に対して、瞬間的に要求される酸素吸放出能が、3%以上のCO濃度で評価した結果得られる酸素吸放出速度(酸素吸放出能)とほぼ等しくなるためであると推定される。
【0015】
測定した酸素吸放出特性を比較する基準値は、予め実際の触媒性能の評価を行って設定することができる。
【0016】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
【実施例】
【0017】
〔実施例1〕
(1)触媒ペレットの作製
セリア−ジルコニア固溶体(CeO30wt%、ZrO60wt%、REM酸化物10wt%)から成る酸素吸放出能を有する触媒担体Aに、触媒貴金属Pd0.1wt%を担持させ、120℃で乾燥した後、500℃で2時間焼成し、酸素吸放出性の触媒ペレットを作製した。
【0018】
(2)酸素の吸収
作製したペレット3gを、マスフローコントローラにより総流量30L/minに制御して、100%N流中で500℃まで昇温し、1%O/Nバランスに切り替えて、2分間照射してOを吸収させた。
【0019】
(3)COの放出
下記の照射CO濃度と照射時間との組み合わせ(3通り)により、COの総照射量を等しくしてCOの放出濃度を測定した。
【0020】
(3-1) 4%CO/Nバランスで30sec照射し、その際の流出ガスのCO濃度を測定した。
【0021】
(3-2) 3%CO/Nバランスで40sec照射し、その際の流出ガスのCO濃度を測定した。
【0022】
(3-3) 2%CO/Nバランスで60sec照射し、その際の流出ガスのCO濃度を測定した。
【0023】
〔実施例2〕
(1)触媒ペレットの作製
実施例1とは組成が異なるセリア−ジルコニア固溶体(CeO60wt%、ZrO30wt%、REM酸化物10wt%)から成る酸素吸放出能を有する触媒担体Bを用いた以外は、実施例1と同様にして、酸素吸放出性の触媒ペレットを作製した。
【0024】
(2)酸素の吸収
実施例1と同様にして、Oを吸収させた。
【0025】
(3)COの放出
実施例1と同様に3通りのCO照射(CO総照射量一定)を行って、それぞれ流出ガスのCO濃度を測定した。
【0026】
<酸素吸放出能の評価>
図1に、実施例1、2で得られた測定結果を、各照射CO濃度(横軸)に対するCO放出量(縦軸)として示す。ただし、CO放出量は、触媒担体A(実施例1)の照射CO濃度2%の際のCO放出量を1としたときの比率で表す。
【0027】
図示したように、照射CO濃度2%の場合は担体A(実施例1)に対して担体B(実施例2)の触媒ペレットの方が高いCO放出量を示したが、照射CO濃度3%で両者は交差し、照射CO濃度が4%に増加すると序列が逆転して担体B(実施例2)よりも担体A(実施例1)の触媒ペレットの方が高いCO放出量を示した。
【0028】
<触媒性能の評価>
実施例1および実施例2の触媒ペレット3gを用いて下記の試験により実際の触媒性能を評価した。
【0029】
マスフローコントローラにより制御して総流量30L/minとし、モデルガス(CO:0.5%、C:3000ppmC、O:0.5%、NO:1000ppm、HO:5%、CO:10%)のストイキ雰囲気中で500℃まで昇温し、雰囲気と温度をそのままに維持して5min保持した後、ストイキ雰囲気に1%Oを120sec添加した。
【0030】
次に、500℃に保持した状態で、ストイキ雰囲気に1%COと0.5%Hを添加して5sec経過後のNOx浄化率(入りガスNOx濃度と出ガスNOx濃度との差)を測定した。
【0031】
その結果、実施例1(触媒担体A)の場合はNOx浄化率が30%であったのに対して、実施例2(触媒担体B)の場合はNOx浄化率が24%であった。すなわち、担体Aを用いた実施例1の触媒の方が担体Bを用いた実施例2の触媒に比べて、触媒性能が約20%高かった。
【0032】
このように、図1に示した照射CO濃度4%(照射時間30sec)の場合の酸素吸放出特性の序列が、触媒性能の序列と対応している。すなわち、本発明により照射CO濃度3%以上の還元性ガスとすることにより、実際の触媒性能の良否と対応する酸素吸放出特性を評価できる。
【0033】
これに対して、照射CO濃度2%(照射時間60sec)とした場合には、実施例1、2の酸素吸放出特性の良否は実際の触媒性能の良否の序列とは逆転しており、触媒として必要な酸素吸放出特性を正確に評価することはできない。
【0034】
以後、測定したCO放出量を比較する基準値としては、ここで実際の触媒性能との対応が明らかになった照射CO濃度4%の場合の実施例1のペレットで得られたCO放出量を用いることができる。すなわち、未知の触媒について、照射CO濃度4%でのCO放出量によって、実施例1の触媒を基準として実際の触媒性能を評価することができる。
【0035】
更に、図1において、実施例1について得られた照射CO濃度3%でのCO放出量のプロットと、照射CO濃度4%でのCO放出量のプロットとを結ぶ線分上で内挿すれば、3%と4%との間の照射CO濃度でCO放出量を測定することにより、実際の触媒性能を評価することができる。
【0036】
あるいは、図1において、実施例1について得られた照射CO濃度3%でのCO放出量のプロットと照射CO濃度4%でのCO放出量のプロットとを結ぶ線分を照射CO濃度が4%を越える高濃度側へ延長して外挿すれば、4%を越える照射CO濃度でCO放出量を測定することにより、実際の触媒性能を評価することができる。
【0037】
このように、照射CO濃度を3%以上とすることで実際の触媒性能と対応する酸素吸放出特性を得ることができる理由は下記のように推察される。
【0038】
すなわち、リーンからリッチ、およびリッチからリーンへ燃料ガス組成が変化する際の瞬間的な排ガス組成の変化に対して、瞬間的に要求される酸素吸放出能が、3%以上の照射CO濃度で評価した結果得られる酸素吸放出速度(酸素吸放出能)とほぼ等しくなるためであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、自動車排ガス浄化用の三元触媒などに用いるのに適した酸素吸放出材の特性評価方法が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素吸放出材に酸素を吸収させた後、COを3vol%以上含有する還元性ガス中でCOを放出させ、その際のCO濃度を測定し、得られた測定値を予め定めた基準値と比較することを特徴とする酸素吸放出材の特性評価方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−223917(P2010−223917A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−74551(P2009−74551)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】