説明

酸素富化眼用製剤及びその製造方法

【課題】安全且つ簡易に製造することができ、製剤中の溶存酸素濃度を長期間維持することのできる酸素富化眼用製剤、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】(1)酸素未置換の眼用製剤を酸素透過性樹脂容器内に注入・密封する工程と、(2)前記工程によって眼用製剤が収容された酸素透過性樹脂容器を、酸素不透過性又は低透過性樹脂包装体により包囲し、該樹脂容器と該樹脂包装体との間に形成される空間内の酸素濃度が30〜60(v/v)%となるように該空間内へと酸素を置換し、該包装体を密封する工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸素富化眼用製剤及びその製造方法、特に安全性が高く、且つ簡易に製造することのできる酸素富化眼用製剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの角膜には血管が存在しないため、通常、涙液から酸素が供給される。このため、疲れや起床時などで涙液が不足すると、角膜は低酸素状態となってしまい、様々な障害あるいは疾患が引き起こされる恐れがある。特に、近年では、長時間のコンピュータの使用、あるいはコンタクトレンズの装用等によって、涙液が減少し、角膜への酸素供給が不十分になりやすいという問題が生じている。
【0003】
角膜への涙液補充のため、従来、点眼剤や洗眼剤といった眼用製剤が市販されている。しかしながら、通常の点眼剤や人工涙液においては、大気中の酸素分圧に応じた濃度で酸素が含まれているに過ぎず、特に低酸素状態になった角膜に対しては、酸素供給量が十分なものとは言えなかった。これに対して、従来、酸素含有量を高めた酸素富化眼用製剤を使用することが提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0004】
従来の酸素富化眼用製剤においては、通常、高濃度酸素ガスを液中にバブリングする等の方法で酸素を液中に過剰に溶存させることによって、眼用製剤溶液中の溶存酸素濃度が高められている。しかしながら、酸素ガスのバブリングを行うためには特別な装置が必要であるとともに、高濃度酸素ガスを取り扱うために危険性が高く、また、装置内外の酸素濃度が著しく上昇するため、安全性の点でも問題があった。
【0005】
さらに、酸素富化製剤においては、酸素不透過性又は低透過性の樹脂フィルムによって包装し、包装体内の空間を高濃度酸素によって置換し、製剤中の酸素の流出を防ぐことも行なわれているものの、長期間保存した場合には、樹脂フィルムにおけるクラック発生等によりバリア性能が低下して、酸素が流出してしまい、製剤中の溶存酸素濃度を十分に維持することができないという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開WO02/000228号公報
【特許文献2】特表2010−508087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記従来技術の課題に鑑みて行なわれたものであり、その解決すべき課題は、安全且つ簡易に製造することができ、製剤中の溶存酸素濃度を長期間維持することのできる酸素富化眼用製剤、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記従来技術の課題を解決するため、本発明者らが鋭意検討を行なった結果、酸素未置換の眼用製剤を酸素透過性樹脂容器に注入・密封し、該樹脂容器を酸素不透過性又は酸素低透過性樹脂包装体により包囲し、該樹脂容器と該樹脂包装体と間の空間内酸素濃度が30〜60(v/v)%となるように酸素を置換することによって、経時で該空間から酸素透過性樹脂容器を介して眼用製剤液中へと酸素が置換され、この結果、高濃度酸素ガスによるバブリング等を行なうことなく、安全且つ簡易に溶存酸素濃度の高められた酸素富化眼用製剤を製造することができ、さらに、得られた酸素富化眼用製剤中の酸素濃度が長期間にわたって維持されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明にかかる酸素富化眼用製剤の製造方法は、(1)酸素未置換の眼用製剤を酸素透過性樹脂容器内に注入・密封する工程と、(2)前記工程によって眼用製剤が収容された酸素透過性樹脂容器を、酸素不透過性又は低透過性樹脂包装体により包囲し、該樹脂容器と該樹脂包装体との間に形成される空間内の酸素濃度が30〜60(v/v)%となるように該空間内へと酸素を置換し、該包装体を密封する工程とを備えることを特徴とするものである。
【0010】
また、前記酸素富化眼用製剤の製造方法において、前記樹脂容器と前記樹脂包装体との間に形成される空間内の酸素濃度が40〜50(v/v)%となるように該空間内へと酸素を置換することが好適である。
また、前記酸素富化眼用製剤の製造方法において、前記樹脂包装体を密封した後、14日間以上放置することが好適である。
【0011】
また、前記酸素富化眼用製剤の製造方法において、前記樹脂包装体を密封した後、14日間経過後の眼用製剤中の酸素溶存濃度が10ppm以上であることが好適である。
また、前記酸素富化眼用製剤の製造方法において、前記酸素透過性樹脂容器の酸素透過度が2000〜8000mL/m・day・atm・25.4μmであり、前記酸素不透過性又は低透過性樹脂包装体の酸素透過率が1.8mL/m・day・atm未満であることが好適である。
【0012】
また、本発明にかかる酸素富化眼用製剤は、酸素未置換の眼用製剤が収容された酸素透過性樹脂容器と、前記酸素透過性樹脂容器を包囲する酸素不透過性又は低透過性樹脂包装体とにより構成され、前記樹脂容器と前記樹脂包装体との間に形成される空間内の酸素濃度が30〜60(v/v)%であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高濃度酸素ガスによるバブリング等を行なうことなく、安全且つ簡易に溶存酸素濃度の高められた酸素富化眼用製剤を製造することができ、さらに、得られた酸素富化眼用製剤中の酸素濃度を長期間にわたって維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1により製造した眼用製剤における包装体内空間酸素濃度と液剤中の溶存酸素濃度の経時変化を示した図である。
【図2】包装体内置換酸素濃度に対する3年経過時後の液剤中溶存酸素濃度を示した図である。
【図3】包装体内置換酸素濃度に対する3年経過時後の包装体体積変化率を示した図である。
【図4】本発明の製造方法の一実施例において行なわれるブローフィル工程の模式図を示す。
【図5】本発明の製造方法の一実施例において用いられるガス充填包装装置の模式図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
まず最初に、20℃,常圧での水中の飽和溶存酸素濃度は8.8ppmであり、使用時における酸素の脱離も考慮すると、酸素富化眼用製剤としての溶存酸素濃度は、少なくとも10ppm以上が必要であると考えられる。このことから、本発明者らは、少なくとも10ppm以上の溶存酸素濃度を有する眼用製剤の製造について検討を行なった。
【0016】
この結果、本発明者らは、(1)酸素未置換の眼用製剤を酸素透過性樹脂容器内に注入・密封する工程と、(2)前記工程によって眼用製剤が収容された酸素透過性樹脂容器を、酸素不透過性又は低透過性樹脂包装体により包囲し、該樹脂容器と該樹脂包装体との間に形成される空間内の酸素濃度が30〜60(v/v)%となるように該空間内へと酸素を置換し、該包装体を密封する工程とを行なうことによって、従来行なわれていた高濃度酸素ガスによるバブリング等を行なうことなく、安全且つ簡易に溶存酸素濃度10ppm以上の酸素富化眼用製剤を製造できることを見出した。
【0017】
以下、(1)工程と(2)工程とに分けて説明を行なう。
(1)工程
まず最初に、(1)工程として、酸素未置換の眼用製剤を酸素透過性樹脂容器内に注入・密封する。
眼用製剤は、薬用の点眼剤、人工涙液、あるいは洗眼剤等であってもよく、特に酸素富化製剤であることから洗眼剤として有用である。なお、洗眼剤においては、例えば、適当な形状の容器中に洗眼剤を収容し、当該洗眼剤液中に眼を浸した状態で瞬きする等することで、眼を洗浄する。眼用製剤中には、酸素以外に適当な薬剤を含んでいてもよい。
なお、(1)工程に使用する眼用製剤は酸素未置換である必要がある。すなわち、眼用製剤は、高濃度酸素ガスバブリング等の酸素置換操作が全く行われていない状態であって、通常の場合、約8.8ppm以下の濃度(20℃,常圧での水中の飽和溶存酸素濃度)で酸素を含有している。
【0018】
酸素透過性樹脂容器としては、一般に酸素透過性樹脂として使用される素材からなる容器であれば特に限定されるものではないが、通常、酸素透過度は2000〜8000mL/m・day・atm・25.4μmであり、特に4000〜8000mL/m・day・atm・25.4μmであることが好ましい。酸素透過性の樹脂素材としては、例えば、ポリエチレン(高密度ポリエチレン,低密度ポリエチレンを含む)、ポリプロピレン、環状オレフィン等のオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリカーボネート等が挙げられる。
【0019】
酸素透過性樹脂容器の成型方法、及び眼用製剤の注入・密封方法については、特に限定されるものではないが、以上の工程を一連の操作で無菌状態で行なうことができるため、ブローフィルを行なうことが特に好ましい。図4にブローフィル工程の模式図を示す。ブローフィル工程においては、(i)まず最初に、酸素透過性樹脂が押し出し機10から押し出されてチューブ状の予備成形体(パリソン)12が形成される。(ii)パリソン12が所定の長さに達したところで、容器の外面形状を内側に形成させた二つ割りの胴部金型14が閉じられ、パリソン12を挟み込んだ状態で圧縮空気が内部に吹き込まれ、ボトル状に成形される。(iii)次いで、パリソン12の上部がピンチ16で固定され、(iv)カッター18で切断される。(v)切断されたパリソン12の開口部から充填ノズル20が挿入され、眼用製剤22が注入される。(vi)眼用製剤22の注入が完了すると、充填ノズル20が外されて、口部金型24が閉じ、パリソン12が眼用製剤22が収容された状態で密封される。(vii)最後に、眼用製剤22を収容した容器26が金型から出され、必要に応じて余分な樹脂(バリ)が切断される。
【0020】
眼用製剤の容器中への注入量は、特に限定されるものではないが、通常のブローフィルの場合、製剤の注入量は容器内容積の70〜95%(v/v)程度である。なお、製剤が95%を超えて注入されると、容器内のヘッドスペース容積が非常に小さくなってしまい、後述する容器外からの酸素置換に際し、置換効率が著しく低下してしまうため、望ましくない場合がある。なお、(1)工程においては、眼用製剤の注入された容器のヘッドスペースについても、酸素置換は行なわずに密封する。
【0021】
(2)工程
つづく(2)工程においては、前記(1)工程により眼用製剤が収容された酸素透過性樹脂容器を、酸素不透過性又は低透過性樹脂包装体により包囲し、該樹脂容器と該樹脂包装体との間に形成される空間内の酸素濃度が30〜60(v/v)%となるように該空間内へと酸素を置換し、該包装体を密封する。
酸素不透過性又は低透過性樹脂包装体としては、特に限定されるものではないが、通常、酸素透過度は1.8mL/m・day・atm未満であり、特に0.8mL/m・day・atm未満であることが好ましい。このような樹脂包装体としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、延伸ポリアミド、延伸ポリプロピレン、あるいはポリビニルアルコール等の樹脂素材に、アルミナ等の酸化金属やシリカ、あるいは金属アルミニウム等の無機化合物を蒸着コートした無機蒸着フィルム等が挙げられる。なお、これらの無機化合物を蒸着したフィルム(フィルム厚10〜1000μm)は、ガスバリア性能が高いことが知られているものの、後述するように、フィルムの折れ曲がり等によって表面の無機化合物コーティングにクラックが生じてしまうことが知られている。
【0022】
樹脂包装体内への酸素の置換・密封方法としては、従来公知のガス充填包装法を用いればよく、特に限定されるものではないが、具体的には、ノズル式,チャンバー式、フラッシュ式のガス充填法が挙げられる。ノズル式ガス充填法では、簡易型の充填方式で、充填ガスノズルを包装体内に差し込み、スポンジ状のもので包装体の口部を押さえて脱気した後、さらにノズルから包装体内へとガスを送り込み、ノズルを抜いて速やかに包装体を密封する。また、チャンバー式ガス充填法では、チャンバー内に複数の包装体をセットし、チャンバー内全体を脱気した後、そのままの状態でチャンバー内にガスを送り込み、包装体を密封する。なお、一般には、各包装体の口部にノズルを差し込み、ガスが十分に包装体内に送り込まれるようにする。また、フラッシュ式ガス充填法では、ピロータイプ包装機の中にガスフラッシュ装置がセットされ、センターシールされた筒状の包装体の内部に内容品が送り込まれ、同時にガスを吹き付けて筒内の空気を追い出してガスを充填した状態で、カットシールする。なお、ガスを予め所定の酸素濃度に調整しておくことで、既存の包装設備からの製造ラインの改造を最低限に抑えられる。
【0023】
図5にガス充填包装装置の一例を示す。なお、同装置は、公知の逆ピロー包装装置において、包装体中にガスを送り込むガス充填ノズルを設けた装置である。容器30はコンベヤによって包装機内へと運ばれ、他方、包装機においては、ロール状のガスバリアフィルム32が巻き取られて、製袋器34によって筒状に丸められる。この筒状に丸められたフィルム内に容器30が導入され、次いで、センターシール部36によってフィルム上方の中央部分が固着されて筒状となり、容器30が包囲される。ここで、ガス充填ノズル38により所定濃度の酸素ガスが筒状フィルム内部へと送り込まれる。そして、筒状フィルム内部に酸素が置換された状態で、所定個数の容器ごとにトップシール部40によって水平方向に切断・固着され、包装体42が製造される。
【0024】
ここで、密封された包装体内部の容器と包装体との間の空間において、酸素濃度が30〜60(v/v)%となるように、該空間内へと酸素が置換される。当該酸素置換工程において、包装体内の空間へと送り込まれる気体の酸素濃度は、30(v/v)%以上であれば該空間を所定の酸素濃度へと調整することは可能であるものの、目的とする空間内酸素濃度と同程度の酸素濃度30〜60(v/v)%の気体を使用することが望ましい。
【0025】
上記酸素置換工程において、樹脂容器内部への酸素の置換効率のみを考慮したとすれば、当然、前記空間内が高酸素濃度(例えば、80(v/v)%以上)となるように置換した方が望ましい。しかしながら、長期間、例えば、3年間以上の保存を考慮すると、包装体内部と外気との酸素分圧差により、包装体内部空間の酸素は酸素不透過性又は低透過性樹脂包装体を通じて徐々に外部へと流出する。ここで、通常、ガスバリア材料におけるガスの透過度は、酸素よりも窒素の方が低いため、包装体内部から外部へと流出する酸素量と比較して、外部から包装体内部へと流入する窒素の量は少ない。このため、包装体内に高濃度酸素を置換した場合、長期間の保存により包装体内体積が縮小してしまうことになる。また、一般的な酸素不透過性又は低透過性樹脂包装体材料は、フィルムが折れ曲がることによって表面の無機化合物コーティングにクラックが生じ、バリア性能が著しく低下してしまうことが知られている。そして、樹脂包装材料のバリア性能が低下した場合には、包装体内の酸素濃度も著しく低下し、これに伴って、容器中の眼用製剤に含まれる酸素が分圧差によって再度外部へと流出してしまう恐れがある。
【0026】
したがって、包装体内を高濃度酸素で置換した場合、長期間保存後に包装内体積が縮小し、包装体にクラックが発生してバリア性能が低下してしまうため、眼用製剤中の酸素含有量を維持することができない。より具体的には、包装体内を60(v/v)%を超える酸素濃度へと置換した場合、例えば、酸素透過度0.5mL/m・day・atmの包装体材料を使用し、3年経過後の包装体内体積変化率が約30%以上となり、包装体材料のバリア性能低下、及びこれに伴う眼用製剤中の酸素濃度低下が引き起こされる。このため、本発明の方法において、包装体内へと置換する酸素濃度の上限は60(v/v)%である。さらに、より高い酸素透過度の包装体材料の使用を考慮すると、包装体内の置換酸素濃度は50(v/v)%以下であることが好ましい。一方で、前記包装体内の置換酸素濃度の下限は30(v/v)%であり、酸素置換濃度が30(v/v)%未満の場合、上記方法によっても、眼用製剤中の酸素溶存濃度を10ppm以上に高めることができない。また、眼用製剤中の溶存酸素濃度を高めるという点では、包装体内の置換酸素濃度を40(v/v)%以上とすることがより望ましい。
【0027】
上記(2)工程において、包装体を密封した直後は、容器内の眼用製剤中への酸素置換は未だ生じておらず、眼用製剤は酸素未置換の状態である。すなわち、前記密封後の包装体は、その後適当な時間放置することによって、包装体内空間の酸素が徐々に容器内の眼用製剤中へと移動し、眼用製剤中の酸素溶存濃度は経時で上昇することになる。一般的な使いきり製剤の包装体体積、容器内容量及び眼用製剤量の場合、眼用製剤中の溶存酸素濃度は、14日間経過後におおよそ平衡に達すると考えられる。このため、本発明においては、上記(2)工程において包装体を密封した後、14日間以上放置することが望ましい。また、このようにして包装体を密封して14日間放置した後の眼用製剤中の酸素溶存濃度が、10ppm以上であることが望ましく、より望ましくは15ppm以上である。
【0028】
包装体及び容器の大きさは、特に限定されるものではないが、酸素富化眼用製剤という性質上、使い切りの製剤が好ましく、使い切りの眼用製剤としては、通常、容器の内容量が5〜15ml,包装体の体積が20〜50ml程度である。なお、包装体と容積との間で形成される空間が小さすぎると、眼用製剤内への酸素置換が十分に進行しない場合があるため、包装体体積は少なくとも容器内容量の2〜5倍程度であることが望ましい。また、同一の包装体内へと収容される容器の個数は、複数であっても構わないが、使い切りの眼用製剤の場合、一度の使用で使い切る個数であることが好ましく、通常、1〜2個程度である。
【実施例1】
【0029】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
最初に本実施例において用いた試験材料および試験方法について説明する。
〈試験材料〉
・酸素透過性樹脂(容器):低密度ポリエチレン82質量%と高密度ポリエチレン18質量%とをブレンドした混合樹脂,酸素透過度7000mL/m・day・atm・25.4μm
・酸素低透過性樹脂フィルム(包装体):透明蒸着PETフィルム(IB−PET−PUB:大日本印刷株式会社製),酸素透過度0.3mL/m・day・atm
・液剤:溶存酸素濃度8.8ppm(20℃,常圧での水中の飽和溶存酸素濃度)の液体
【0030】
〈試験方法〉
(1)ブローフィル法によって、上記酸素透過性樹脂を用いて容器を成形し、該容器内に上記液剤(酸素未置換)を注入、密封した。なお、液剤の注入量は12mL,容器内の空間(ヘッドスペース)体積は2.8mLとした。
(2)ピロー包装機にて、上記酸素低透過性樹脂フィルムを用いて(1)の液剤内包容器を包囲し、酸素濃度46.0(v/v)%の空気を吹き付けて包装体内の空気を置換し、カットして密封した。包装体は縦70mm,横40mm、包装体と容器との間の空間体積は40mLとした。
【0031】
以上で得られた包装体を20℃,常圧で保管し、日数の経過毎に包装体内空間の酸素濃度と液剤中の溶存酸素濃度とを測定した。結果を下記表1及び図1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
上記表1及び図1に示すように、包装体と容器との空間が酸素濃度46.0v/v%となるように酸素を置換することによって、当初8.8ppmであった液剤中の溶存酸素濃度が経時で上昇することが明らかとなった。対照的に、包装体内空間の酸素濃度は経時で減少しており、このことから、包装体内空間の酸素が容器(酸素透過性樹脂)を通じて、液剤内へと移動していることが理解される。なお、液剤中の溶存酸素濃度は経過時間に応じて上昇していくものの、14日間の経過後にはほぼ平衡状態に達しており、液剤中の溶存酸素濃度は18.3ppmまで上昇することが確認された。
【実施例2】
【0034】
つづいて、長期間保存後の製剤を想定し、上記製法における包装体内への好適な置換酸素濃度について詳しく検討するため、包装体内への置換酸素濃度及び包装体材料の酸素透過度を適宜変化させた条件で、(i)製造から3年経過時後の液剤中溶存酸素濃度、及び(ii)製造から3年経過時後の包装体の体積変化率について解析を行なった。結果を下記表2,3及び図2,3に示す。
【0035】
(解析条件)
・容器寸法:21mm×18mm×50mm
・液剤量:10mL
・ヘッドスペース:2.5mL
・容器表面積:4.278×10−3
・容器材料:低密度ポリエチレン(7900mL/m・25.4μm・day・atm)
・容器隔壁厚み:0.65mm
・包装体寸法:120mm×55mm
・包装体−容器空間体積:25mL
・包装体材料:酸素透過度0.1〜0.8mL/m・day・atm
【0036】
【表2】

【0037】
【表3】

【0038】
上記表2及び図2に示すように、包装体内の置換酸素濃度が高くなるにつれて3年後の液剤中酸素濃度も高くなることがわかる。また、液剤中の溶存酸素濃度は、包装体材料の酸素透過度にも依存していることが確認される。ここで、例えば、包装体内の置換酸素濃度を100%とした場合、酸素溶存濃度40%程度の非常に高い酸素濃度の製剤が得られるものの、目的とする製剤中の溶存酸素濃度を10ppmとすれば、包装体内の置換酸素濃度は30v/v%程度でも製造可能であることが理解される。
【0039】
一方で、表3及び図3に示すように、包装体内の置換酸素濃度が高くなるにつれて3年後の包装体体積変化率も上昇する傾向にある。この結果は、包装体材料におけるガス透過度が酸素よりも窒素の方が低いことから、包装体内から外部へと流出する酸素量と比較して外部から包装体内へと流入する窒素の量が少なくなることによるものであり、このために、包装体内の置換酸素濃度が高ければ高いほど包装体体積が縮小してしまっているものと考えられる。なお、包装体の体積が変化することによって、クラック発生等によるバリア性能の低下、及びこれに伴う製剤中溶存酸素濃度の低下が懸念され、実使用時において許容可能な包装体体積変化率は30%程度までと考えられる。
【0040】
以上の解析結果について、(a)液剤中の溶存酸素濃度が10ppm以上、(b)包装体体積変化率が30%未満の各条件について、(a),(b)両方の条件を満たすものを○;(a),(b)いずれかあるいは両方の条件を満たさないものを×として判定した結果を、下記表4に示す。
【0041】
【表4】

【0042】
上記表4に示すように、酸素透過度の非常に小さい包装体(0.3mL/m・day・atm以下)を使用した場合には、いずれの場合にも(a)液剤中溶存酸素濃度10ppm以上、(b)包装体体積変化率30%以下の各条件を満たしている。
しかしながら、例えば、包装体材料の酸素透過度が0.5mL/m・day・atm以上になると、包装体内の酸素置換濃度が70v/v%の場合に包装体体積変化率が30%以上になってしまい、(b)の条件を満たさなくなる。例えば、ガスバリア性樹脂として公知であるエチレン−ポリビニルアルコール共重合体の酸素透過度が、常温で0.2〜1.3mL/m・20μm・day・atm程度であり、酸素透過度0.5mL/m・day・atmの包装体材料の使用が十分に想定されることからすると、包装体内の置換酸素濃度を70v/v%以上とすることは適切でないと考えられる。このため、本発明の製造方法においては、包装体内の置換酸素濃度を30〜60v/v%に調整する必要がある。
【0043】
さらに、酸素透過度0.7mL/m・day・atm以上の包装体材料の使用まで想定すると、包装体内の置換酸素濃度が30v/v%であると、(a)液剤中の溶存酸素濃度を10ppm以上に高めることができなくなってしまい、一方で、包装体内の置換酸素濃度が60v/v%以上であると、(b)包装体体積変化率が30%を超えてしまうことになる。このため、本発明の製造方法において、包装体内の置換酸素濃度は、40〜50v/v%の範囲に調整することが最も好適であると考えられる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)酸素未置換の眼用製剤を酸素透過性樹脂容器内に注入・密封する工程と、
(2)前記工程によって眼用製剤が収容された酸素透過性樹脂容器を、酸素不透過性又は低透過性樹脂包装体により包囲し、該樹脂容器と該樹脂包装体との間に形成される空間内の酸素濃度が30〜60(v/v)%となるように該空間内へと酸素を置換し、該包装体を密封する工程と
を備えることを特徴とする酸素富化眼用製剤の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、前記樹脂容器と前記樹脂包装体との間に形成される空間内の酸素濃度が40〜50(v/v)%となるように該空間内へと酸素を置換することを特徴とする酸素富化眼用製剤の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の方法において、前記樹脂包装体を密封した後、14日間以上放置することを特徴とする酸素富化眼用製剤の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法において、前記樹脂包装体を密封した後、14日間経過後の眼用製剤中の酸素溶存濃度が10ppm以上であることを特徴とする酸素富化眼用製剤の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の方法において、前記酸素透過性樹脂容器の酸素透過度が2000〜8000mL/m・day・atmであり、前記酸素不透過性又は低透過性樹脂包装体の酸素透過率が1.8mL/m・day・atm未満であることを特徴とする酸素富化眼用製剤の製造方法。
【請求項6】
酸素未置換の眼用製剤が収容された酸素透過性樹脂容器と、前記酸素透過性樹脂容器を包囲する酸素不透過性又は低透過性樹脂包装体とにより構成され、前記樹脂容器と前記樹脂包装体との間に形成される空間内の酸素濃度が30〜60(v/v)%であることを特徴とする酸素富化眼用製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−205821(P2012−205821A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74724(P2011−74724)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000208455)大和製罐株式会社 (309)
【出願人】(000115991)ロート製薬株式会社 (366)
【Fターム(参考)】