説明

酸素検知剤および酸素検知溶液

【課題】耐熱性が高く、常温での保管が可能であると共に、雰囲気温度によらず優れた酸素検知能を維持することのできる酸素検知剤用の酸素検知溶液、酸素検知剤および酸素検知剤の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】この目的を達成するため、還元性物質と、塩基性物質と、還元性物質によって還元される酸化還元性色素とを含む酸素検知溶液を担体に担持させた酸素検知剤であって、当該酸素検知溶液中の塩基性物質濃度は、0.5質量%〜3.0質量%であり、当該還元性物質として、還元性糖類と、アスコルビン酸とを用いることを特徴とする酸素検知剤を提供する。また、当該酸素検知剤の製造に好適な製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、雰囲気中の酸素量の変化を色調の変化によって視認可能とする酸素検知剤および酸素検知剤用の酸素検知溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
食品や医薬品等の保存に際し、雰囲気中の酸素は食品や医薬品等を酸化させ、食品や医薬品等の品質を低下させる。そこで、保存時の品質低下を防止するために、食品や医薬品等を脱酸素剤と共に包装容器(但し、包装用袋を含む)内に入れて密閉包装し、脱酸素剤等により包装容器内の酸素を吸収させて、無酸素状態(例えば、酸素濃度0.1%以下)で食品や医薬品を保存することが行われている。
【0003】
近年、包装容器内に脱酸素剤と共に酸素検知剤を封入し、酸素検知剤により包装容器内の酸素の有無を検知することが行われている。酸素検知剤は、色調の変化によって、密閉包装容器内の酸素の有無を視認可能としたものである。ユーザーは、酸素検知剤が呈する色調に基づき、食品や医薬品等が無酸素状態で保存されているか否かを容易に確認することができる。
【0004】
この種の酸素検知剤は、一般に、還元性糖類と、塩基性物質と、酸化状態と還元状態とでは呈色の異なる酸化還元性色素とを含んで構成されている(例えば、「特許文献1」、「特許文献2」参照)。還元性糖類は、雰囲気が無酸素状態のときに酸化還元性色素を還元状態に保持するために用いられる。この様に、酸素検知剤は、還元状態に保持された酸化還元性色素が雰囲気中の酸素によって酸化されて色調が変化する仕組みを利用して、酸素を検知するものである。従って、酸素検知剤には、雰囲気中の酸素量の変化に伴う鮮明な色調変化と迅速な変色応答性とが要求される。そこで、上記特許文献1では、還元性糖類によって還元されない食紅等の色素を用いて、還元状態と酸化状態とにおける酸化検知剤が呈する色調の変化をより鮮明にすることが行われている。
【0005】
また、酸素検知剤は、還元性糖類と、塩基性物質と、酸化還元性色素とを含む酸素検知剤用の酸素インジケーター水溶液(酸素検知溶液)を調製し、この酸素インジケーター水溶液をシート状、錠剤等の種々の担体に担持させることにより製造されている。還元性糖類は、塩基性物質により塩基性に調製された酸素インジケーター水溶液中で開環し、還元基(アルデヒド基やケトン基)を有する鎖状構造となり、酸化還元性色素に対する還元作用を及ぼす。従来、この様な還元性糖類として、主として、還元力の大きいD−グルコース等の単糖類が用いられてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2580157号公報
【特許文献2】特開2007−3259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来、酸素検知剤は耐熱性が低く、高温(例えば、常温以上の温度、35℃等)で保管すると、酸素検知能が低下し、雰囲気中の酸素量が変化した場合に迅速な変色応答性が得られなくなると共に、色調変化が不鮮明になるという課題があった。
【0008】
高温保管時の酸素検知能の低下の一因として、還元性糖類の褐変がある。還元性糖類の褐変は、水溶液中で鎖状構造となった還元性糖類が塩基性物質と反応して、その還元基を有する末端から分解されることに起因する。雰囲気温度が高くなるほど、この還元性糖類の褐変は生じやすい。特に、単糖類は還元力が大きく反応性に富むため、褐変が生じやすい。酸素インジケーター水溶液中で還元性糖類が褐変した場合、酸素検知剤の呈色も褐色化することから、色調変化が不鮮明になる。また、塩基性物質との反応が進行することにより、還元基が消費されると、無酸素状態において酸化還元性色素を還元状態に保持するのが困難となり、一部が酸化型の構造を示す様になる場合がある。この場合、酸素検知能が低下し、酸素を検知した場合でも色調変化が不鮮明なものとなったり、変色応答性が得られなくなる場合がある。このため、従来、出荷前にあっては酸素検知剤を低温(例えば、10℃以下)で保管することにより、還元性糖類の褐変を防止して、酸素検知剤の酸素検知能の劣化を防止していた。
【0009】
そこで、本件発明は、還元性糖類の褐変を防止し、常温での保管が可能であると共に、雰囲気温度によらず優れた酸素検知能を維持することのできる酸素検知剤および酸素検知剤用の酸素検知溶液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本件発明者等は、鋭意研究を行った結果、以下の酸素検知剤および酸素検知剤の製造方法を採用することで上記目的を達成するに到った。
【0011】
本件発明に係る酸素検知剤は、還元性物質と、塩基性物質と、還元性物質によって還元される酸化還元性色素とを含む酸素検知溶液を担体に担持させた酸素検知剤であって、当該酸素検知溶液中の塩基性物質濃度を0.5質量%〜3.0質量%とし、当該還元性物質として、還元性糖類と、アスコルビン酸とを用いることを特徴とする。
【0012】
本件発明に係る酸素検知剤において、前記酸素検知溶液に含まれる還元性糖類の全質量を100質量部とした場合、当該酸素検知溶液中に前記アスコルビン酸を0.1質量部〜10質量部の範囲で含むことが好ましい。
【0013】
本件発明に係る酸素検知剤において、前記担体および当該担体に担持させた酸素検知溶液の全質量を100質量部とした場合に、還元性糖類を20質量部〜50質量部、アスコルビン酸を0.1質量部〜10質量部、前記塩基性物質を0.5質量部〜3.0質量部、前記酸化還元性色素を0.01質量部〜0.1質量部含むことが好ましい。
【0014】
本件発明に係る酸素検知剤において、アスコルビン酸の酸化分解反応を抑制する安定化物質を更に含むことが好ましい。
【0015】
本件発明に係る酸素検知剤において、前記安定化物質として、ルチン及び/ルチン誘導体を用いることが好ましい。
【0016】
本件発明に係る酸素検知時亜において、前記酸素検知溶液中のアスコルビン酸の含有量を100質量部とした場合に、ルチン及び/又はルチン誘導体を2質量部〜10質量部の範囲で用いることが好ましい。
【0017】
本件発明に係る酸素検知剤において、前記還元性糖類によって還元されない色素を更に含むことが好ましい。
【0018】
本件発明に係る酸素検知溶液は、還元性物質と、塩基性物質と、還元性物質によって還元される酸化還元性色素とを含む酸素検知剤用の酸素検知溶液であって、当該酸素検知溶液中の塩基性物質濃度を、0.5質量%〜3.0質量%とし、当該還元性物質として、還元性糖類と、アスコルビン酸とを用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本件発明に係る酸素検知剤および酸素検知溶液によれば、還元性物質として、還元性糖類と共にアスコルビン酸を用い、酸素検知溶液中の塩基性物質濃度を0.5質量%〜3.0質量%とすることにより、還元性糖類の褐変を防止すると共に、酸化還元性色素に対する還元力を保持することができる。また、アスコルビン酸は酸化還元性色素に対する還元作用を有し、還元性糖類と共に、酸素検知溶液中の酸化還元性色素を還元状態に保持することに寄与する。これらによって、本件発明に係る酸素検知剤の耐熱性を高くすることができ、常温での保管を可能にすることができる。また、本件発明に係る酸素検知剤は、耐熱性が高いため、雰囲気温度によらず優れた酸素検知能を維持することができる。さらに、常温での保管が可能であるため、出荷前の製品保管コストを低減することができる。従って、本件発明によれば、夏季等の高温雰囲気下で使用される場合にも、雰囲気中の酸素量の変化に応じて鮮やかな色調変化と、迅速な変色応答性を示す酸素検知剤の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本件発明に係る酸素検知剤と、比較例の酸素検知剤の耐熱性評価に関するグラフである。
【図2】本件発明に係る酸素検知剤の耐熱性評価に関する他のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本件発明に係る酸素検知剤用の酸素検知溶液および酸素検知剤を実施するための形態について説明する。
【0022】
[本件発明に係る酸素検知剤の形態]
本件発明に係る酸素検知剤は、酸素検知溶液を担体に担持させたものであり、雰囲気中の酸素量の変化に応じて色調を変化することにより雰囲気中の酸素量の変化を視認可能とするものである。
【0023】
1.酸素検知溶液
まず、酸素検知溶液について説明する。本件発明に係る酸素検知溶液は、還元性物質と、塩基性物質と、還元性物質によって還元される酸化還元性色素とを含む溶液である。本件発明では、当該酸素検知溶液中の塩基性物質濃度を0.5質量%〜3.0質量%とし、還元性物質として、還元性糖類とアスコルビン酸とを用いたことに特徴がある。以下、酸素検知溶液の構成成分について説明する。
【0024】
(1)塩基性物質
本件発明において、塩基性物質は酸素検知溶液をアルカリ性に調整するために用いられる。還元性糖類はアルカリ性溶液中で開環し、還元基を有さない環状構造からアルデヒド基やケトン基等の還元基を有する鎖状構造に変化する。このとき、酸化還元性色素に対する還元作用を示す。
【0025】
本件発明において、塩基性物質として、例えば、アルカリ金属化合物を用いることができる。アルカリ金属化合物として、具体的には、ナトリウム、カリウム等の水酸化物、炭酸塩等を挙げることができる。ここで、水酸化ナトリウム自体又は水酸化ナトリウムを5%を超えて含む製剤は、毒物及び劇物取締法において劇物に指定されている。塩基性物質として水酸化ナトリウムを用いた場合であっても、酸素検知剤中の水酸化ナトリウムの含有量は3%程度であり、5%を超えることはない。しかしながら、酸素検知剤は食品等の経口物と共に保存されることを考慮すると、水酸化ナトリウムの使用は極力低減することが好ましい。当該観点から、塩基性物質としては、上記列挙した物質のうち、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムを用いることがより好ましい。
【0026】
酸素検知溶液において、上述した通り、塩基性物質濃度は0.5質量%〜3.0質量%の範囲内となるように調製される。塩基性物質濃度が0.5質量%未満である場合、還元性糖類の褐変は防止できるものの、酸化還元性色素に対する還元性糖類の還元力が著しく低下し、アスコルビン酸を併用する量にもよるが、酸化還元性色素を還元状態に保持することが困難になる。また、雰囲気中の酸素量が変化したときの酸素検知剤の変色速度が低下する。一方、塩基性物質濃度が3.0質量%を超えると、酸化還元性色素に対する還元力は大きくなるが、還元性糖類の還元基と塩基性物質との反応が起こる機会も増加し、その結果、褐変が生じやすくなる。酸素検知溶液における塩基性物質濃度を0.5質量%〜3.0質量%とすることにより、還元性糖類の還元力を維持した状態で、還元性糖類の褐変を抑制することができる。還元性糖類の還元基と塩基性物質との反応の起こる機会を抑制すると共に、酸化還元性色素の還元状態を保持するという観点から、塩基性物質濃度を1.3質量%以下とすることがより好ましく、1.2質量%以下にすることが更に好ましい。
【0027】
また、本件発明において、酸素検知溶液中のpHを調整し、且つ、酸素検知溶液にpH緩衝性を持たせるために、水酸化マグネシウム等のpH調整剤を添加してもよい。なお、水酸化マグネシウムは酸化還元性色素が呈する色調を調整する色調調整剤としても用いることができ、且つ、酸素検知溶液をpH変動の少ない安定なアルカリ溶液として保持することができる。
【0028】
(2)還元性物質
次に、還元性物質について説明する。本件発明では、還元性物質として還元性糖類とアスコルビン酸とを用いる。
【0029】
還元性糖類: ここで、還元性糖類として、例えば、D−マンノース、D−グルコース、D−フラクトース、D−エリスロースおよびD−アルトロース等の単糖類、マルトース、ラクトース等の還元性二糖類、マルトトリオース、セロトリオース、マンニノトリオースおよびバノース等の還元性三糖類を用いることができる。これらの中でも、特に、還元力の高さという観点から、還元性二糖類及び還元性三糖類に比して単糖類を用いることが好ましい。また、単糖類の中でも、D−グルコースをより好ましく用いることができる。D−グルコースは還元力が高く、且つ、純度の高いD−グルコースを安価に容易に入手することができるためである。
【0030】
アスコルビン酸: アスコルビン酸には、L体とD体とがあるが、本件発明では、主として、L体のL−アスコルビン酸を用いる。L−アスコルビン酸は、食品添加物(酸化防止剤等)としても広く用いられており、食品等と共に包装容器内に封入される酸素検知剤の成分として、安全に使用することができる。アスコルビン酸は、高い還元力を有する物質であり、アスコルビン酸を少量添加することにより、還元性糖類と共に、酸化還元性色素を還元状態に保持することに寄与する。また、上記塩基性物質濃度範囲内において、還元性糖類を使用する場合、アスコルビン酸を少量添加することにより、アスコルビン酸を添加しなかった場合と比較して、酸素検知剤の耐熱性を向上することができる。また、変色速度を増加させ、迅速な変色応答性を得ることができる。更に、アスコルビン酸を添加することにより、無酸素状態で還元性糖類と共に酸化還元性色素を還元状態に保持することができるため、雰囲気中の酸素量の変化に伴う色調変化を鮮明なものとすることができる。
【0031】
配合割合: ここで、本件発明では、還元性物質として、還元性糖類とアスコルビン酸とを用いるが、還元性糖類を主剤とし、アスコルビン酸を補助剤として用いることが好ましい。具体的には、酸素検知溶液に含まれる還元性糖類の全質量を100質量部とした場合、当該酸素検知溶液中にアスコルビン酸を0.1質量部〜10質量部の範囲で含むことが好ましい。上記塩基性物質濃度を調整することにより、アスコルビン酸の含有量が還元性糖類100質量部に対して、0.1質量部未満であっても、常温下において還元性糖類の褐変を防止することは可能である。しかしながら、この場合、雰囲気中の酸素量の変化を検出したときに、使用上、十分な変色速度(迅速な変色応答性)が得られない場合がある。また、酸素量の変化を検出したときの色調変化が不鮮明になる場合がある。一方、より高温雰囲気下において、還元性糖類の褐変を有効に防止し、より迅速な変色速度を得るという観点から、アスコルビン酸の含有量は、還元性糖類100質量部に対して2質量部以上用いることがより好ましく、3質量部以上であることが更に好ましい。このような範囲でアスコルビン酸を用いることにより、高温(例えば、45℃)雰囲気下においても還元性糖類の褐変を抑制することができ、変色速度を増加させることができ、更に色調変化もより鮮明なものとすることができる。
【0032】
しかしながら、上述の範囲内においてアスコルビン酸の含有量に比例して、高温雰囲気下における還元性糖類の褐変抑制効果及び変色速度が向上する訳ではない。このため、10質量部を超えてアスコルビン酸を用いても、当該効果は既に飽和しており、アスコルビン酸を無駄に消費することになり好ましくない。当該観点から、アスコルビン酸の含有量は還元性糖類100質量部に対して7質量部以下であることがより好ましく、5質量部以下であることが更に好ましい。
【0033】
(3)安定化物質
ここで、酸素検知溶液を調製する際には、アスコルビン酸の酸化分解反応を抑制するための安定化物質を添加してもよい。安定化物質を添加することにより、アスコルビン酸の酸化分解反応を抑制することができ、高温環境下においても酸素検知溶液中のアスコルビン酸を安定に保持することができる。安定化物質としては、アスコルビン酸の酸化分解反応を抑制することができれば特に限定されるものではないが、例えば、ルチン及び/又はルチン誘導体を好適に用いることができる。ルチン及び/又はルチン誘導体は、柑橘フラボノイドの一種であり、健康食品等として用いられることもある物質である。従って、食品や医薬品等の経口品を保管する際に用いられる酸素検知剤の構成成分として非常に好ましい。また、ルチン及び/又はルチン誘導体は、アスコルビン酸の酸化分解反応を有効に抑制すると共に、酸素検知溶液の発色性を向上する効果も有している。従って、ルチン又はルチン誘導体を添加することにより、酸素検知溶液中でアスコルビン酸を安定に保持すると共に、酸素検知溶液の発色性を向上することができて、好ましい。
【0034】
例えば、ルチン又はルチン誘導体を用いる場合、酸素検知溶液中のアスコルビン酸の含有量を100質量部とした場合に、2質量部〜10質量部の範囲で酸素検知溶液に添加することが好ましく、4質量部〜7質量部の範囲で添加することがより好ましく、5質量部前後(4.5質量部〜5.5質量部)の範囲で添加することが更に好ましい。酸素検知溶液中のアスコルビン酸の含有量を100質量部とした場合に、ルチン及び/又はルチン誘導体の添加量が2質量部未満であると、アスコルビン酸の含有量に対して安定化物質の含有量が少なく、アスコルビン酸の十分な安定化効果が得られず好ましくない。一方、アスコルビン酸の酸化分解抑制効果は、ルチン及び/又はルチン誘導体の添加量に比して、高くなる訳ではない。このため、アスコルビン酸100質量部に対して、ルチン及び/又はルチン誘導体を10質量部を超えて添加しても、アスコルビン酸の酸化分解抑制効果が高くなる訳ではなく、ルチン及び/またはルチン誘導体を無駄に消費することになり好ましくない。更に、本件発明者の鋭意研究の下、アスコルビン酸の含有量を100質量部にした場合に、5質量部前後に酸素検知溶液中のアスコルビン酸の酸化分解抑制効果のピークが見られることが判明した。従って、アスコルビン酸100質量部に対して、ルチン及び/又はルチン誘導体は、4質量部〜7質量部の範囲で添加することがより好ましく、5質量部前後の範囲で添加することが更に好ましい。
【0035】
(4)酸化還元性色素
上記酸化還元性色素は、上記還元性物質により還元される色素であって、酸化状態と還元状態とで呈色を可逆的に変化させる色素である。この様な色素として、メチレンブルー、ニューメチレンブルー、フェノサフラニン、ラウスバイオレット、メチレングリーン等があげられる。
【0036】
(5)還元性物質によって還元されない色素
また、酸化還元性色素として、メチレンブルー、フェノサフラニン等の還元状態で無色を呈する色素を用いる場合、雰囲気中の酸素の有無を肉眼でより判定しやすくするために還元性物質によって還元されない色素を用いることが好ましい。例えば、メチレンブルー等の酸化状態で青色を呈する酸化還元性色素を用いる場合は、当該還元性物質によって還元されない色素として、例えば、食紅等の赤色の色素を挙げることができる。食紅は雰囲気中の酸素の有無によらず赤色を呈する色素である。一方、フェノサフラニン等の酸化状態で赤色を呈する酸化還元性色素を用いる場合は、当該還元性物質によって還元されない色素として、青又は緑を呈する色素を用いることが好ましい。
【0037】
例えば、上述のメチレンブルーと共にこれらの色素を用いた場合、酸素検知溶液は、雰囲気ガスの酸素の有無によって、次の様に色調を変化させる。まず、無酸素状態の場合、メチレンブルーは還元性物質によって還元状態に保持されているため、無色(ロイコメチレンブルー)となる。このとき、酸素検知溶液は上記赤色の色素により赤色を呈する。一方、有酸素状態の場合、メチレンブルーは酸化されて青く発色する。このとき、酸素検知溶液は紫色〜青色を呈する。この様に、還元状態において無色となる酸化還元性色素を用いる場合、還元性物質によっては還元されない色素を酸素検知溶液に加えることによって、酸素量の変化に伴う酸素検知剤の色調の変化をより鮮明にして、肉眼による酸素の有無を判定しやすくすることができる。
【0038】
2.酸素検知剤
次に、本件発明に係る酸素検知剤について説明する。本件発明に係る酸素検知剤は、上述した酸素検知溶液を担体に担持させたものである。
【0039】
担体: 本件発明において、担体を構成する材料は、特に限定されるものではなく、液体である酸素検知溶液を含浸可能な吸収体であればよい。この様な担体を構成する材料として、例えば、有機高分子材料、アルカリ土類金属、二酸化ケイ素等を用いることができる。本件発明では、担体を構成する材料として、酸素検知溶液の吸収性、安定性等を考慮すると、特に、有機高分子材料であることが好ましい。有機高分子材料として、特に、イオン交換樹脂又はセルロース材料であることが好ましい。ここで、イオン交換樹脂とは、イオン交換を行うことのできる酸性基又は塩基性基を持つ不溶性で多孔質の合成樹脂である。また、セルロース材料としては、サラシクラフト紙であることが好ましい。サラシクラフト紙からなる担体であれば、酸素検知溶液を酸素検知剤として好ましい状態で保持可能である。また、サラシクラフト紙は漂白された紙であるので、酸化還元性色素等の酸素検知溶液に含まれる色素の着色が鮮明となる。これにより、雰囲気中の酸素量の変化に伴い、酸素検知剤が呈色する色調変化をより鮮明なものとすることができる。
【0040】
また、本件発明において、担体の形状についても、特に限定されるものではなく、担体を構成する材料に応じて、シート状、タブレット状、パウダー状等の種々の形状とすることができる。特に、体積に比して十分な表面積を持つ形態であることが好ましく、取り扱い性に優れた形態であることが好ましい。この様な観点から、本件発明において、担体の形状はシート状であることがより好ましい。担体が体積に比して十分な表面積を有することにより、雰囲気ガスと酸素検知溶液との接触面積を増加することができ、酸素検知剤を小型化した場合でも十分な酸素検知能を発揮させることができる。
【0041】
担体の厚みは200μm以上であることが好ましく、より好ましくは200μm〜500μmである。担体の厚みを200μmよりも薄くすると、酸素検知溶液の含浸量が少なくなるため、酸素検知剤の酸素検知能が低下する。また、担体の厚みが500μmを超える場合、このシート状の担体を被包材により包装する際の、包装の確実性を損なう場合がある。
【0042】
水分量: 本件発明に係る酸素検知剤では、担体に酸素検知溶液を担持させた後、水分量が所定の量となるように乾燥される。酸素検知剤の水分含有量は特に制限されるものではく、使用条件に応じて適宜変更可能である。しかしながら、担体に担持可能な水分量であるとともに、酸化還元性色素の酸化還元反応が円滑に行われる程度の濃度となるような水分量であることが好ましい。すなわち、担体に担持された酸素検知溶液の酸化還元性色素の濃度が、所定量に調整された他の成分の存在下において、酸化還元性色素の酸化還元反応が円滑に行われる程度の濃度となるように水分量を調整することが好ましい。酸化還元反応が円滑に行われることにより、迅速な変色応答性および鮮明な色調変化を担保することができ、雰囲気中の酸素量が変化した場合、直ちにこれを検知することが可能になる。
【0043】
この様な水分量として、例えば、塩基性物質100質量部に対して、450質量部〜1050質量部であることが好ましく、特に好ましくは550質量部〜950質量部である。水分含有量が450質量部〜1050質量部である場合、上述の通り、担体に担持可能な水分量であるとともに、他の成分の存在下において、酸化還元性色素の酸化還元反応を円滑に行わせることができる。特に水分含有量が550質量部〜950質量部である場合、酸化還元性色素の酸化反応に適切な濃度の酸素検知溶液を、担体を良好な状態で担体に担持することができ、酸素検知時に迅速な変色応答性と鮮明な色調変化を得ることができる。
【0044】
以上の様にして製造された酸素検知剤において、全体の質量を100質量部とした場合、還元性糖類を20質量部〜50質量部、アスコルビン酸を0.1質量部〜10質量部、前記塩基性物質を0.5質量部〜3.0質量部、前記酸化還元性色素を0.01質量部〜0.1質量部含むことが好ましい。酸素検知剤が各固形成分としての還元性糖類、アスコルビン酸、塩基性物質、及び酸化還元性色素を上記範囲内で含むことにより、還元性糖類及びアスコルビン酸の存在下において、酸化還元性色素の酸化還元反応を円滑に行うことができ、酸素検知時に迅速な変色応答性と鮮明な色調変化を得ることができる。但し、上記「全体」の質量とは「担体」の質量と、担体に担持させた「酸素検知溶液」の質量とを合わせた全質量を指し、次に説明する透明フィルム等の担体を覆う被包材や、脱酸素剤を含むものではない。
【0045】
包装材: 本件発明の酸素検知剤は、酸素検知溶液を担持した担体の少なくとも表面が透明フィルム(包装材)によって被覆される構成とすることが好ましい。担体の表面を透明フィルムで被覆することによって、食品等の被保存物質に触れても酸素検知溶液が食品等に接触することがなく、衛生的だからである。
【0046】
ここに用いられる透明フィルムは、一定の強度を有するものであれば、いかなるものでも使用することができ、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、セルロースアセテート、セロハン等からなるフィルムが使用できる。
【0047】
また、本件発明の酸素検知剤は、酸素検知溶液を担持した担体を、透明フィルムからなる扁平状酸素検知剤袋内に密封封入する構成としてもよい。このように、酸素検知溶液を担持した担体を透明フィルムからなる扁平状酸素検知剤袋内に密封封入することによって、食品等の被保存物質の成分により酸素検知機能が損なわれるのを防止することができる。すなわち、酸素検知溶液を担持した担体が外部に露出しているか、一部露出している場合には、食品等の水分、油分、アルコール等が存在すると、これらが露出部から担体に侵入し、酸素検知溶液の色が変色し、酸素検知機能が損なわれる。酸素検知溶液を担持した担体を透明フィルムからなる扁平状酸素検知剤袋内に密封封入して、酸素検知剤を構成することにより、このような問題が生じることがない。
【0048】
ここで用いられる透明フィルムは、酸素透過性を有し、かつ水、油、アルコール等の液不透過性であることが必要である。このような透明フィルムとしてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド等からなるフィルム用いることができるが、酸素の透過量の少ないポリエステル、ポリアミド等からなるフィルムについては水分、アルコール、油分等の影響を受けにくい程度のごく微小のピンホールを開けて用いることが好ましい。より具体的には、ポリエチレンとしては低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)、ポリプロピレンとしては無延伸ポリプロピレン(OPP)、二軸延伸ポリプロピレン(CPP)等が好ましく用いられる。これらの合成樹脂フィルムは単層フィルムのみならず、異なる材質のフィルムを積層した積層フィルムとしても用いられる。これらの積層フィルムとしては、OPP/CPP、OPP/LDPE、PET/LDPE、PET/CPP等の二層フィルム、LDPE/OPP/LDPE、LDPE/CPP/LDPE、CPP/OPP/LDPE等の三層以上のフィルムが挙げられる。
【0049】
本件発明に係る酸素検知剤は、酸素検知剤単体で用いてもよいが、脱酸素剤と一体化して複合脱酸素剤として用いてもよい。シート状の担体を用いたシート状の酸素検知剤では、脱酸素剤と一体化させることによって、食品等の包装容器(但し、包装用袋を含む。)内に封入する際に、脱酸素剤と酸素検知剤とを別々に封入する必要がなく、脱酸素剤と酸素検知剤とを同時に封入することができ、取り扱いの煩雑さが解消される。また、いずれか一方の封入漏れを防止することができる。
【0050】
本件発明に係る酸素検知剤と、一体化して用いられる脱酸素剤は、特に制限されるものではなく、脱酸素剤として良好に機能するものであれば、有機系脱酸素剤であってもよいし、鉄粉系の無機系脱酸素剤であってもよい。
【0051】
酸素検知剤と脱酸素剤とを一体化する手法として、例えば、脱酸素剤を封入した脱酸素剤袋の所望の位置に、適切な貼付手段により、酸素検知剤を貼付することが考えられる。貼付手段は特に制限されるものではなく、例えば、両面粘着テープ、接着剤、糊料等が好適に使用される。
【0052】
3.酸素検知剤の製造方法
次に、本件発明に係る酸素検知剤の製造方法について説明する。酸素検知剤は、上述の酸素検知溶液を調製し、この酸素検知溶液を担持させることにより製造される。
【0053】
(1)酸素検知溶液の調製方法
まず、酸素検知溶液の調製例について説明する。酸素検知溶液を調製する際には、まず、還元性糖類を所定の濃度で含む還元性糖類溶液、アスコルビン酸を所定の濃度で含むアスコルビン酸溶液、塩基性物質を所定の濃度で含む塩基性物質溶液、酸化還元性色素を所定の濃度で含む酸化還元性色素溶液をそれぞれ調整する。また、酸素検知溶液を還元性物質によって還元されない色素を含む構成とする場合には、当該色素を所定の濃度で含む溶液を調製する。また、アスコルビン酸の酸化分解反応を抑制するために、安定化物質を添加する場合は、安定化物質を所定の濃度で含む安定化物質溶液を調製する。なお、これらの溶液の溶媒としては水を好適に用いることができる。また、安定化物質として、上記例示したルチンを用いる場合、ルチンは水に対する溶解性が低いため、0.2質量%〜0.8質量%程度の濃度の水酸化ナトリウム水溶液又は水酸化カリウム水溶液等のアルカリ性水溶液を用いることが好ましい。このような濃度のアルカリ性水溶液を用いることにより、ルチンを常温(20℃±15℃ JIS Z 8703)下でルチンを溶解させることができる。
【0054】
そして、これらの溶液を順に所定量混合することで酸素検知溶液を調製することができる。また、酸素検知溶液を水酸化マグネシウム等のpH調整剤を含む構成とする場合には、適宜、所定の段階でpH調整剤を添加する。但し、各溶液の混合量は、酸素検知剤における各成分の含有量がそれぞれ上述した好ましい範囲内となるように調製される。
【0055】
(2)酸素検知剤の製造
上記のようにして調製した酸素検知溶液を担体に担持させて、水分量が上述した範囲内となるように適宜乾燥することにより、本件発明に係る酸素検知剤が得られる。なお、乾燥に際しては、自然乾燥により行ってもよいが、生産性を向上させるという観点からは、加熱乾燥又は真空乾燥により行うことが好ましい。
【0056】
以下、実施例および比較例を示して本件発明を具体的に説明するが、本件発明は以下の実施例に制限されるものではない。また、以下に説明する実施例では、アスコルビン酸含有量の異なる酸素検知溶液を調製し、比較例ではアスコルビン酸を含有しない酸素検知溶液を調製した。そして、これらの実施例及び比較例に基づき、アスコルビン酸の含有の有無及びアスコルビン酸の含有量の相違により、酸素検知剤の変色速度、耐熱性に対する影響の有無を評価した。
【実施例1】
【0057】
実施例1では、まず、50質量%のグルコース水溶液(還元性糖類水溶液)(A)、24質量%のアスコルビン酸水溶液(B)、11質量%の炭酸ナトリウム水溶液(C)、0.4質量%の食紅水溶液(D)、0.8質量%のメチレンブルー水溶液(酸化還元性色素水溶液)(E)を調整した。そして、49gのグルコース水溶液(A)に、pH調整剤としての水酸化マグネシウムを1g混合した。この溶液に、1g〜5gの範囲でアスコルビン酸水溶液(B)を混合し、続いて、炭酸ナトリウム水溶液(C)、食紅水溶液(D)、メチレンブルー水溶液(E)を順にそれぞれ10gずつ混合した。当該酸素検知溶液を構成する各成分の配合量は下記の通りである。
【0058】
水 55質量部
グルコース(還元性糖類) 24.5質量部
アスコルビン酸 0.24質量部〜1.2質量部
炭酸ナトリウム 1.1質量部
食紅 0.04質量部
【0059】
そして、上記の工程により調製した酸素検知溶液を幅15mm、長さ50mmの濾紙に含浸し、35℃で3時間乾燥させて酸素検知剤を作製した。
【0060】
[試料1−1]
上記酸素検知溶液において、24質量%アスコルビン酸水溶液(B)を1g添加して、作製した酸素検知剤を試料1−1とする。なお、試料1−1を作製するために用いた酸素検知溶液中のグルコース含有量を100質量部とした場合、アスコルビン酸の含有量は1質量部である。
【0061】
[試料1−2]
上記酸素検知溶液において、24質量%のアスコルビン酸水溶液(B)を2g用いた以外は試料1−1と同様にして作製した酸素検知剤を試料1−2とする。ここで、試料1−2を作製するために用いた当該酸素検知溶液中のアスコルビン酸の配合量は、0.48質量部である。また、当該酸素検知溶液中のグルコース含有量を100質量部とした場合、アスコルビン酸の含有量は2質量部である。なお、当該酸素検知溶液では、試料1−1を作製する際に用いた酸素検知溶液に比して、アスコルビン酸水溶液(B)の使用量が1g増加するため、酸素検知溶液中の水分量も微増する。しかしながら、酸素検知剤を製造する際の乾燥工程を経る結果、担体に担持される水分量は試料1−1と誤差レベルの差となり、他の成分の配合量及び濃度は試料1−1と同一であるとみなすことができる。以下の試料においても同じである。
【0062】
[試料1−3]
上記酸素検知溶液において、24質量%のアスコルビン酸水溶液(B)を3g用いた以外は試料1−1と同様にして作製した酸素検知剤を試料1−3とする。ここで、試料1−3を作製するために用いた当該酸素検知溶液中のアスコルビン酸の配合量は、0.72質量部である。また、酸素検知溶液中のグルコース含有量を100質量部とした場合、アスコルビン酸の含有量は3質量部である。
【0063】
[試料1−4]
上記酸素検知溶液において、24質量%のアスコルビン酸水溶液(B)を4g用いた以外は試料1−1と同様にして作製した酸素検知剤を試料1−4とする。ここで、試料1−4を作製するために用いた当該酸素検知溶液中のアスコルビン酸の配合量は、0.96質量部である。また、酸素検知溶液中のグルコース含有量を100質量部とした場合、アスコルビン酸の含有量は4質量部である。
【0064】
[試料1−5]
上記酸素検知溶液において、24質量%のアスコルビン酸水溶液(B)を5g用いた以外は試料1−1と同様にして作製した酸素検知剤を試料1−5とする。ここで、試料1−5を作製するために用いた当該酸素検知溶液中のアスコルビン酸の配合量は、1.2gである。また、酸素検知溶液中のグルコース含有量を100質量部とした場合、アスコルビン酸の含有量は5質量部である。
【実施例2】
【0065】
次に、実施例2として、上記酸素検知溶液において、24質量%のアスコルビン酸水溶液(B)の含有量を4gとし、11質量%の炭酸ナトリウム水溶液(C)を8g、9g、10g、11g、12gと含有量を変化させて、実施例1と同様にして酸素検知剤を作製し、それぞれ試料2−1、試料2−2、試料2−3、試料2−4、試料2−5とした。但し、試料1−4と、試料2−3を作製するために用いた酸素検知溶液中の各成分の配合量は同じである。各酸素検知溶液中の炭酸ナトリウムの濃度は1.1質量%、1.2質量%、1.3質量%、1.4質量%、1.6質量%となる。
【比較例】
【0066】
比較例では、アスコルビン酸水溶液(B)を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして酸素検知溶液を調製した。そして、この酸素検知溶液を用いた以外は実施例1と同様にして酸素検知剤を作製した。
【0067】
[評価]
まず、以上のようにして作製した実施例1の試料1−1〜試料1−5の酸素検知剤、実施例2の試料2−1〜2−5の酸素検知剤と、比較例の酸素検知剤とを用いて、(1)色調変化及び変色速度に対する評価と、(2)耐熱性に対する評価を行った。以下、評価方法、評価結果の順に説明する。
【0068】
1.評価方法
(1)色調変化及び変色速度に関する評価
色調変化及び変色速度に関する評価では、各酸素検知剤を酸素透過度が10ml/m・日のKNY/PE袋に脱酸素剤とともに密封し、28℃〜30℃で保管した。そして、保管を開始してから、1時間経過する毎に東レエンジニアリング製酸素計で各袋内の酸素濃度を測定した。これと同時に、各酸素検知剤の呈色をDIC株式会社製の色見本と比較しながら、目視にて判定した。
【0069】
(2)耐熱性に対する評価
まず、保管温度による色調の変化に関する評価を行った。当該評価を行うに際して、まず、試料1−1〜試料1−5、試料2−1〜試料2−5及び比較例で作製した酸素検知剤を無酸素雰囲気下で保管し、酸化還元性色素を還元性物質の作用の元、還元状態とした。具体的には、次の通りである。まず、酸素透過度が10ml/m・日のKNY(ビニリデンコートナイロン)/PE袋に脱酸素剤と共に酸素検知剤密封した。そして、25℃の恒温槽中に保管し、脱酸素剤により各酸素検知剤の雰囲気を無酸素状態とした。24時間経過後に、各酸素検知剤の呈色を視認したところ、いずれも赤色〜赤紅色を呈した。
【0070】
次に、各酸素検知剤を45℃の恒温槽中に保管し、3日後、6日後、7日後の色調を日本電色工業製測色色差計ZE−2000で測定し、保管開始前の各酸素検知剤の色調を基準とした色差値(ΔE)を求めた。
【0071】
2.評価結果
(1)色調変化及び変色速度に関する評価
表1に、実施例1及び比較例で作製した各酸素検知剤の各時間毎の色調を判定した判定結果を、雰囲気酸素濃度と共に示す。表1から分かる様に、比較例の酸素検知剤に比して、実施例1の試料1−1〜試料1−5の酸素検知剤は色調の変化が早い時点から開始し、変色速度も速かった。特に、試料1−4及び試料1−5の酸素検知剤が最も早く色調の変化が始まり、目視判定による色調変化も鮮やかであった。ここで、試料1−1〜試料1−5で用いた酸素検知溶液は、グルコース100質量部に対してアスコルビン酸を1質量部〜5質量部の範囲で含む。試料1−1〜試料1−5の酸素検知剤は、アスコルビン酸含有量が増加するにつれて、変色速度も早くなり、色調変化も鮮やかになった。しかしながら、試料1−4の酸素検知剤と試料1−5の酸素検知剤とは同等程度の変色速度を示し、色調変化については試料1−4の酸素検知剤の方が鮮明であった。
【0072】
【表1】

【0073】
次に、表2に、実施例2で作製した各酸素検知剤の各時間毎の色調を判定した判定結果を、雰囲気酸素濃度と共に示す。ここで、試料2−3を作製する際に用いた酸素検知溶液は、上記試料1−4と同じ配合割合で各成分を含む。試料2−3を作製する際に用いた酸素検知溶液中の炭酸ナトリウム(塩基性物質)濃度は1.3質量%である。試料2−1〜試料2−5で用いた酸素検知溶液中の炭酸ナトリウム濃度は1.1質量%〜1.6質量%の範囲内である。表2を参照すると、グルコース100質量部に対してアスコルビン酸を4質量部含有する酸素検知溶液においては、試料2−3及び試料2−4は同程度の変色速度を示した。一方、試料2−1、試料2−2及び試料2−5は、試料2−3及び試料2−4と比較すると、変色速度がより速くなることが確認された。また、試料2−1、試料2−2及び試料2−5は、酸化状態において青色又は青紫色を呈し、酸化状態と還元状態とにおける色調変化がより鮮やかであることが確認された。当該観点から、酸素検知溶液中の塩基性物質濃度を調製することにより、変色速度がより速く、且つ、色調変化のより鮮やかな酸素検知剤を得ることが可能であることが確認された。なお、実施例1及び比較例で作製した酸素検知剤についての評価試験と、実施例2で作製した酸素検知剤の評価試験とは異なる日程で行ったため、試料1−4と、試料2−3とは一部異なる結果を示している。
【0074】
【表2】

【0075】
(2)耐熱性に対する評価
次に、無酸素状態で45℃で実施例1及び比較例で作製した各酸素検知剤を保管したときの、保管開始時からの色差値の変化を表3及び図1に示す。表3及び図1に示すように、試料1−1〜試料1−5の酸素検知剤は、比較例で作製した酸素検知剤と比較すると、45℃で保管した場合の色差値の変化が少ないことが分かる。これは、還元性物質として、グルコースと共にアスコルビン酸を少量用いることにより、還元性糖類の褐変を抑制することができたためであると考えられる。還元性糖類の褐変を抑制することにより、酸素検知剤の呈色が褐色化するのを防止することができ、且つ、酸素検知水溶液中有の酸化還元性色素が酸化型構造に変化するのを抑制することができる。その結果、酸素検知剤の色調が無酸素状態において変化するのを抑制できたと考えられる。また、試料1−1〜試料1−4の酸素検知剤では、アスコルビン酸含有量が増加するにつれて、色差値の変化が少なくなることが分かる。試料1−4の酸素検知剤と、試料1−5の酸素検知剤とを比較した場合、6日経過後までの間は試料1−5の酸素検知剤の方が色差値は小さいが、7日経過後では試料1−4の酸素検知剤の方が色差値が小さくなっている。
【0076】
【表3】

【0077】
次に、無酸素状態で45℃の雰囲気温度下で実施例2で作製した各酸素検知剤を保管したときの、保管開始時からの色差値の変化を表4及び図2に示す。上述したとおり、試料2−3は、上記試料1−4と同じ配合割合で各成分を含む酸素検知溶液を用いて作製したものである。ここで、試料2−1〜試料2−5の酸素検知剤についての評価試験は、実施例1及び比較例で作製した酸素検知剤についての評価試験とは異なる日に行ったものであるため、直接対比することはできない。しかしながら、試料1−4よりも試料2−3の方が色差値の変化がやや低いことを考慮しても、試料2−1〜試料2−5の酸素検知剤はいずれも45℃で保管した場合の色差値の変化が比較例で作製した酸素検知剤と比較すると少ないことが分かる。また、試料2−3よりも炭酸ナトリウム濃度の低い試料2−1及び試料2−2の方がより色差値の変化が少ない。一方、試料2−3及び試料2−4は同程度の変化を示し、試料2−5は試料2−3及び試料2−4と比較すると、色差値の変化がやや大きいことが分かる。従って、耐熱性を考慮すると、酸素検知溶液中の炭酸ナトリウム濃度、すなわち酸素検知溶液中の塩基性物質濃度は、1.3質量%以下であることが好ましく、1.2質量%以下であることがより好ましいことが分かる。
【0078】
【表4】

【0079】
以上の評価結果から、還元性物質として還元性糖類と、アスコルビン酸とを用いることにより、雰囲気中の酸素量が変化したときの色調変化を鮮明なものにすると共に、変色速度を速くすることができる。また、還元性糖類の褐変を防止して、耐熱性の高い酸素検知剤を得ることができることが確認された。また、還元性糖類100質量部に対して、アスコルビン酸の含有量は4質量部〜5質量部程度で、高い効果が得られることも確認された。更に、還元性糖類100質量部に対して、アスコルビン酸の含有量は4質量部〜5質量部程度とした場合に、塩基性物質である炭酸ナトリウム濃度は上記範囲内では低いことが好ましく、1.3質量%以下であることが好ましいことが確認された。
【0080】
なお、上記実施例に挙げることは省略したが、実施例1の試料1−4及び試料1−5及び実施例2の酸素検知剤を作製する際に、用いた酸素検知溶液に、それぞれルチンを当該酸素検知溶液中のアスコルビン酸の含有量100質量部に対して、ルチンを5質量部の割合で添加して、参考例としての酸素検知剤を製造した。これらの酸素検知剤についても、上記と同様の評価を行ったところ、耐熱性がより向上し、更に発色性の優れた酸素検知剤が得られることが判明した。また、発色に優れることから色調変化及び変色速度についても良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本件発明に係る酸素検知剤および酸素検知溶液によれば、還元性物質として、還元性糖類と共にアスコルビン酸を用い、酸素検知溶液中の塩基性物質濃度を0.5質量%〜3.0質量%とすることにより、還元性糖類の褐変を防止すると共に、酸化還元性色素に対する還元力を保持することができる。また、アスコルビン酸は酸化還元性色素に対する還元作用を有し、還元性糖類と共に、酸素検知溶液中の酸化還元性色素を還元状態に保持することに寄与する。これらによって、本件発明に係る酸素検知剤の耐熱性を高くすることができ、常温での保管を可能にすることができる。また、本件発明に係る酸素検知剤は、耐熱性が高いため、雰囲気温度によらず優れた酸素検知能を維持することができる。さらに、常温での保管が可能であるため、出荷前の製品保管コストを低減することができる。従って、本件発明によれば、夏季等の高温雰囲気下で使用される場合にも、雰囲気中の酸素量の変化に応じて鮮やかな色調変化と、迅速な変色応答性を示す酸素検知剤の提供が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元性物質と、塩基性物質と、還元性物質によって還元される酸化還元性色素とを含む酸素検知溶液を担体に担持させた酸素検知剤であって、
当該酸素検知溶液中の塩基性物質濃度を、0.5質量%〜3.0質量%とし、
当該還元性物質として、還元性糖類と、アスコルビン酸とを用いること、
を特徴とする酸素検知剤。
【請求項2】
前記酸素検知溶液に含まれる還元性糖類の全質量を100質量部とした場合、当該酸素検知溶液中に前記アスコルビン酸を0.1質量部〜10質量部の範囲で含む請求項1に記載の酸素検知剤。
【請求項3】
前記塩基性物質として、水酸化マグネシウム及び/又は炭酸ナトリウムを用いる請求項1又は請求項2に記載の酸素検知剤。
【請求項4】
前記担体および当該担体に担持させた酸素検知溶液の全質量を100質量部とした場合に、還元性糖類を20質量部〜50質量部、アスコルビン酸を0.1質量部〜10質量部、前記塩基性物質を0.5質量部〜3.0質量部、前記酸化還元性色素を0.01質量部〜0.1質量部含む請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の酸素検知剤。
【請求項5】
アスコルビン酸の酸化分解反応を抑制する安定化物質を更に含む請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の酸素検知剤。
【請求項6】
前記安定化物質として、ルチン及び/ルチン誘導体を用いる請求項5に記載の酸素検知剤。
【請求項7】
前記酸素検知溶液中のアスコルビン酸の含有量を100質量部とした場合に、ルチン及び/又はルチン誘導体を2質量部〜10質量部の範囲で用いる請求項6に記載の酸素検知剤。
【請求項8】
前記還元性糖類によって還元されない色素を更に含む請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載の酸素検知剤。
【請求項9】
還元性物質と、塩基性物質と、還元性物質によって還元される酸化還元性色素とを含む酸素検知剤用の酸素検知溶液であって、
当該酸素検知溶液中の塩基性物質濃度を、0.5質量%〜3.0質量%とし、
当該還元性物質として、還元性糖類と、アスコルビン酸とを用いること、
を特徴とする酸素検知溶液。

【図1】
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【図2】
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