説明

酸素消費電極およびその製造方法

【課題】先行技術から知られている酸素消費電極(OCE)の欠点が解消された、特に塩素アルカリ電解において使用するための、酸化銀が使用されており、塩素アルカリ電解においてOCEを使用する際に低い作動電圧が可能となるOCE、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】a)アルカリ性溶液の初期導入物に銀塩溶液を計量添加し、次いで、懸濁液の温度を10℃〜50℃の範囲に維持しながら最長10分間にわたって懸濁液を撹拌することによって酸化銀を沈澱させる工程、b)工程a)の沈澱酸化銀を懸濁液から取り出す工程、c)場合により減圧下、80℃〜200℃の範囲の温度で酸化銀を乾燥する工程、d)得られた酸化銀を、導電性支持材料、銀粒子含有触媒および微粉フッ素化ポリマーと共に更に加工し、平板状酸素消費電極を形成する工程を含む、酸素消費電極の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に塩素アルカリ電解において使用するための、銀および微粉酸化銀に基づく新規な触媒被膜を含んでなる酸素消費電極、および電気分解装置に関する。本発明は更に、酸素消費電極の製造方法、および塩素アルカリ電解または燃料電池技術における酸素消費電極の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、ガス拡散電極の形態をとり、典型的には、導電性支持体、および触媒活性成分を含んでなるガス拡散層を含んでなる、自体既知の酸素消費電極から出発している。
【0003】
工業規模で電解セルにおける酸素消費電極を製造および作動させるための様々な試みは、先行技術から基本的に知られている。基本的な考え方は、電気分解(例えば塩素アルカリ電解)における水素発生陰極を酸素消費電極(陰極)に置き換えることである。可能な電解セルの設計および方法の概説は、Moussallemらの文献 "Chlor-Alkali Electrolysis with Oxygen Depolarized Cathodes: History, Present Status and Future Prospects", J. Appl. Electrochem. 38 (2008) 1177-1194に見られる。
【0004】
酸素消費電極(以下、略してOCEとも称する)は、工業的電解セルに用いられるために一連の要件を満たさなければならない。例えば、使用する触媒および全ての他の材料は、典型的には80〜90℃の温度で、約32重量%の水酸化ナトリウム溶液および純酸素に対して化学的に安定でなければならない。それと同時に、電極は通常、2mを越える面積(工業規模)を有する電解セルに組み込んで作動させるので、高度の力学的安定性が要求される。更なる特性は、以下である:高い電気伝導性、小さい層厚さ、大きい内部表面積、および電解触媒の高い電気化学活性。気体空間および液体空間が互いに分離したままとなる程度に非透質であるように、気体および電解液が導通するのに適した疎水性および親水性細孔並びに相応の細孔構造が必要とされる。長期安定性および低い製造コストは、工業的に使用可能な酸素消費電極の更なる特定要件である。
【0005】
酸素消費電極は典型的には、支持体要素(例えば多孔質金属板または金網)および電気化学的活性被膜からなる。電気化学的活性被膜は、微孔性であり、親水性成分および疎水性成分からなる。疎水性成分は、電解液の浸透を困難にし、従って、酸素が触媒活性部位に移動するために相応の細孔を閉塞しないよう維持する。親水性成分は、電解液が触媒活性部位へ浸透することを可能にし、水酸化物イオンが離れることを可能にする。使用する疎水性成分は一般にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のようなフッ素化ポリマーであり、加えて、これは触媒のポリマーバインダーとして役立つ。銀触媒を有する電極の場合、銀は親水性成分として役立つ。炭素担持触媒の場合、使用する担体は親水性細孔を有する炭素であり、液体は親水性細孔を通って移動できる。
【0006】
酸素は、気相、液相および固体触媒が接触している三相領域において還元される。
【0007】
気体は、疎水性マトリックス中の細孔を通って移動する。親水性細孔は液体で満たされ、水は触媒部位に移動し、水酸化物イオンは親水性細孔を通って触媒部位から離れる。酸素は水相にある程度しか溶解しないので、酸素が移動するためには、水を含まない細孔が十分利用可能でなければならない。
【0008】
多数の化合物が、酸素還元用触媒として記載されてきた。
【0009】
例えば、酸素消費電極用触媒として、パラジウム、ルテニウム、金、ニッケル、遷移金属酸化物および硫化物、金属ポルフィリンおよび金属フタロシアニン並びにペロブスカイトを使用する報告が存在する。
【0010】
しかしながら、アルカリ性溶液中で酸素を還元するための触媒として実際に重要なものは、白金および銀のみである。
【0011】
白金は、酸素の還元に対して非常に高い触媒活性を有する。白金は高価なので、もっぱら担持した形態で使用される。既知の実績のある担持材料は炭素である。炭素は白金触媒に電流を流す。炭素粒子の細孔を炭素表面の酸化によって親水化し、水の移動に適するようにしてもよい。しかしながら、おそらくは白金が担持材料の酸化も触媒するので、長期作動における炭素担持白金電極の安定性は不十分である。担持材料の酸化は、電極の力学的安定性の喪失をもたらす。
【0012】
銀も同様に、酸素の還元に対して高い触媒活性を有する。
【0013】
先行技術によれば、銀は担体としての炭素と共に使用してもよいし、微粉金属銀の形態で使用してもよい。
【0014】
炭素担持銀を含んでなるOCEは典型的には、20〜50g/mの銀濃度を有する。炭素担持銀触媒は基本的に、対応する白金触媒より耐久性があるが、塩素アルカリ電解条件下での炭素担持銀触媒の長期安定性はなお限られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Moussallemら、"Chlor-Alkali Electrolysis with Oxygen Depolarized Cathodes: History, Present Status and Future Prospects", J. Appl. Electrochem. 38 (2008) 1177-1194
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、先行技術から知られている酸素消費電極(OCE)の先に記載した欠点が解消された、特に塩素アルカリ電解において使用するための、酸化銀が使用されており、塩素アルカリ電解においてOCEを使用する際に低い作動電圧が可能となるOCE、およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の態様は、
a)アルカリ性溶液の初期導入物に銀塩溶液を計量添加し、次いで、懸濁液の温度を10℃〜50℃の範囲に維持しながら最長10分間にわたって懸濁液を撹拌することによって酸化銀を沈澱させる工程、
b)工程a)の沈澱酸化銀を懸濁液から取り出す工程、
c)場合により減圧下、80℃〜200℃の範囲の温度で酸化銀を乾燥する工程、
d)得られた酸化銀を、導電性支持材料、銀粒子含有触媒および微粉フッ素化ポリマーと共に更に加工し、平板状酸素消費電極を形成する工程
を含む、酸素消費電極の製造方法である。
【0018】
本発明の別の態様は、工程c)における乾燥後、酸化銀が0.4〜0.7m/gの範囲のBET表面積を有する前記方法である。
【0019】
本発明の別の態様は、工程c)における乾燥後、酸化銀が2〜7μmの範囲のd50を有する前記方法である。
【0020】
本発明の別の態様は、更なる加工工程d)において、0.5〜20重量部のフッ素化ポリマー、1〜20重量部の粒子状銀および60〜98.5重量部の粒子状酸化銀を使用する前記方法である。
【0021】
本発明の別の態様は、更なる加工工程d)において乾燥製造法を使用する前記方法である。
【0022】
本発明の別の態様は、工程a)において、アルカリ金属水酸化物溶液中アルカリ金属水酸化物を、銀塩に対してモル過剰で使用する前記方法である。
【0023】
本発明の別の態様は、銀塩に対する、モル過剰量のアルカリ金属水酸化物溶液中アルカリ金属水酸化物の比が少なくとも1.1〜1である前記方法である。
【0024】
本発明の更に別の態様は、前記方法によって製造された、導電性支持体、電気的接触部位、および触媒活性成分を含んでなるガス拡散層を少なくとも含んでなる酸素消費電極であって、ガス拡散層が、少なくとも1種のフッ素化ポリマー、粒子状銀および粒子状酸化銀を含んでなる酸素消費電極である。
【0025】
本発明の別の態様は、13μm未満のd90を有する酸化銀粒子を含んでなる前記酸素消費電極である。
【0026】
本発明の更に別の態様は、前記酸素消費電極を陰極として含んでなる、アルカリ金属塩化物を加水分解するための電解セルである。
【0027】
本発明の別の態様は、銀塩溶液が硝酸銀溶液であり、アルカリ性溶液が水酸化ナトリウム水溶液であり、計量添加時間が10分未満であり、懸濁液を最長5分間にわたって撹拌し、懸濁液の温度を10℃〜50℃の範囲に維持し、1回以上懸濁液を濾過および酸化銀を洗浄することによって工程a)の沈澱酸化銀を懸濁液から取り出す前記方法である。
【0028】
本発明の別の態様は、計量添加時間が1分未満であり、懸濁液の温度を25℃〜30℃の範囲に維持する前記方法である。
【0029】
本発明の別の態様は、工程c)における乾燥後、酸化銀が0.6〜0.65m/gの範囲のBET表面積を有する前記方法である。
【0030】
本発明の別の態様は、工程c)における乾燥後、酸化銀が3〜5μmの範囲のd50を有する前記方法である。
【0031】
本発明の別の態様は、更なる加工工程d)において、2〜10重量部のフッ素化ポリマー、2〜10重量部の粒子状銀および70〜95重量部の粒子状酸化銀を使用する前記方法である。
【0032】
本発明の別の態様は、更なる加工工程d)において、酸化銀、銀粒子含有触媒および微粉フッ素化ポリマーの微粉混合物を導電性支持材料と共にプレスし、平板状酸素消費電極を形成することによる乾燥製造法を使用する前記方法である。
【0033】
本発明の別の態様は、アルカリ金属塩化物が塩化ナトリウム、塩化カリウムまたはそれらの混合物である前記電解セルである。
【0034】
本発明の別の態様は、アルカリ金属塩化物が塩化ナトリウムである前記電解セルである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
意外なことに、塩素アルカリ電解において低いセル電圧をもたらす酸化銀は、例えば以下の工程によって製造された酸化銀であることが見出された:
工程(1):アルカリ性溶液(特に水酸化ナトリウム水溶液)の初期導入物に、銀塩溶液(好ましくは硝酸銀溶液)を計量添加し(計量添加時間は、好ましくは10分未満、より好ましくは1分未満である)、次いで、最高50℃および少なくとも10℃、好ましくは25〜30℃の温度で最長10分間、好ましくは最長5分間にわたって懸濁液を撹拌することによって酸化銀を沈澱させる。
工程(2):懸濁液を濾過し、濾過ケークを洗浄する(この工程は2回以上、少なくとも1回繰り返す。最後の洗浄後、懸濁液をもう一度濾過する。)。
工程(3):酸化銀を乾燥する。その過程において、酸化銀はまず、80〜200℃、好ましくは100〜120℃の範囲の温度で、特に10時間まで、好ましくは最長5時間にわたって乾燥し、次いで凝集物を分離するために機械粉砕し、再び80〜200℃、好ましくは100〜120℃の範囲の温度で、最長2時間、好ましくは最長1時間にわたって乾燥し、その後、生じた酸化銀を、少なくとも導電性支持材料、銀触媒およびフッ素化ポリマーと共に加工してOCEを形成する。
【0036】
従って、本発明は、
a)アルカリ性溶液(特に水酸化ナトリウム水溶液)の初期導入物に銀塩溶液(好ましくは硝酸銀溶液)を計量供給し(計量添加時間は、好ましくは10分未満、より好ましくは1分未満である)、次いで、懸濁液の温度を10℃〜50℃、好ましくは25℃〜30℃の範囲に維持しながら最長10分間、好ましくは最長5分間にわたって懸濁液を撹拌することによって酸化銀を沈澱させる工程、
b)特に1回以上懸濁液を濾過および酸化銀を洗浄することにより、工程a)の沈澱酸化銀を懸濁液から取り出す工程、
c)場合により減圧下、80℃〜200℃の範囲の温度で酸化銀を乾燥する工程、
d)得られた酸化銀を、導電性支持材料、銀粒子含有触媒および微粉フッ素化ポリマーと共に更に加工し、平板状酸素消費電極を形成する工程
を含む、酸素消費電極の製造方法を提供する。
【0037】
工程c)における乾燥後、酸化銀は、好ましくは0.4〜0.7m/gの範囲、特に0.6〜0.65m/gの範囲のBET表面積を有する。
【0038】
工程c)における乾燥後、酸化銀は、2〜7μmの範囲、特に3〜5μmの範囲のd50を有する。
【0039】
工程a)において、アルカリ金属水酸化物溶液中アルカリ金属水酸化物は、銀塩に対してモル過剰で使用する。その比は、より好ましくは少なくとも1.1〜1である。
【0040】
本発明はまた、本発明の方法によって製造された、導電性支持体、電気的接触部位、および触媒活性成分を含んでなるガス拡散層を少なくとも含んでなる酸素消費電極であって、ガス拡散層が、少なくとも1種のフッ素化ポリマー、粒子状銀および粒子状酸化銀を含んでなる酸素消費電極も提供する。本発明において、「d50」とは、粒度分布の全測定粒子の50%がこの値以下である、体積基準粒度分布の直径を意味する。典型的には、粒度分布は、レーザー回折分光計(例えばMS 2000 Hydro S)を用いて測定する。測定中、粉末は典型的には、界面活性剤(例えばTween 80)の添加を伴った水中分散体の形態である。分散工程は典型的には、継続時間15〜300秒の超音波処理によって実施する。
【0041】
また、本発明において、「BET表面積」とは、DIN ISO 9277に従って測定した固体の比表面積(単位:m/g)を意味する。
【0042】
新規な方法の別の特に好ましい態様は、更なる加工工程d)において、0.5〜20重量部、好ましくは2〜10重量部のフッ素化ポリマー、1〜20重量部、好ましくは2〜10重量部の粒子状銀、および60〜98.5重量部、好ましくは70〜95重量部の粒子状酸化銀を使用することを特徴とする。
【0043】
触媒として、非担持銀を使用することが好ましい。非担持金属銀からなる触媒を含んでなるOCEの場合、触媒担体の分解に起因する安定性の問題は当然起こらない。
【0044】
非担持銀触媒を含んでなるOCEの製造方法では、銀は好ましくは、少なくとも部分的に酸化銀形態で導入し、次いで金属銀に還元する。銀化合物の還元は、結晶の配列も変更し、特に個々の銀粒子の間に橋も形成する。これにより、構造が全体的に強化される。
【0045】
銀触媒を含んでなる酸素消費電極の製造方法は基本的に、湿潤製造法と乾燥製造法に分類することができる。
【0046】
乾燥法では、触媒およびポリマー成分(通常PTFE)の混合物を微粒子に粉砕し、次いで、導電性支持体要素上に分布させ、室温でプレスする。そのような方法は、例えばEP 1728896 A2に記載されている。
【0047】
湿潤製造法では、水または他の液体中の触媒およびポリマー成分からなるペーストまたは懸濁液を使用する。懸濁液を調製する過程で、その安定性を高めるために、界面活性物質を添加することができる。次いで、ペーストは、スクリーン印刷またはカレンダリングによって支持体に適用し、粘性のより低い懸濁液は典型的には、支持体に噴霧する。適用したペーストまたは懸濁液を有する支持体を、乾燥および焼結する。焼結は、ポリマーの融点付近の温度で実施する。また、焼結後、OCEは、室温より高い温度(ポリマーの融点、軟化点または分解点まで)で強化してもよい。
【0048】
これらの方法によって製造した電極は、事前に酸化銀を還元せずに、電解セルに組み込む。電解セルを電解液で満たした後、電解電流の作用下、酸化銀を金属銀に還元する。
【0049】
様々な文献が、硝酸銀および水酸化ナトリウム溶液を用いた沈澱に基づく、酸化銀の調製方法を記載している。例えばUS 771872 B2は、ボタン電池のための酸化銀粉末の製造方法および使用を記載している。この製造方法は本質的に4つの工程からなる。硝酸銀水溶液および水酸化ナトリウム溶液を混合し、次いで少なくとも30分間の長い時間(最高の性能が得られた実施例では12時間)撹拌して沈澱させ、この懸濁液を濾過し、その後、減圧下、高温で乾燥する。このようにして製造した粉末は、1〜500μmのd50値および5m/gのBET表面積を有する。この製造方法の欠点は、極端に長い撹拌時間である。これにより、工業規模での製造方法における製造時間はかなり長くなる。別の欠点は、そのような長い撹拌時間内に、個々の粒子が合体し得ることである。これにより大きい直径の粒子が生じる場合があり、例えばDE 10148599に記載されているようなOCEの製造方法における、後の別の加工において不均質な電極構造がもたらされることがある。
【0050】
US 20050050990は、酸化銀微粒子の別の製造方法を記載している。この方法では、沈澱中に分散剤を添加するか、または沈澱のための水酸化ナトリウム溶液および硝酸銀溶液を、水酸化ナトリウム溶液の初期導入物に同時に計量添加する。これらの場合、沈澱、濾過および乾燥後、粉末を湿式粉砕に付す。これにより、3μm未満のd50および8μm未満のd90、並びに0.9m/gより大きいBET表面積を有する酸化銀粒子が生じる。記載されている方法は両方とも、本発明の方法と比べて欠点を有する。第一の方法では、分散剤を付加的に添加し、後に再び除去しなければならない。第二の方法では、2つの溶液を同時に計量添加しなくてはならず、計量添加が複雑である。また、湿式粉砕法は更なる加工工程も含む。
【0051】
本発明の特に有利な態様では、新規な方法は、更なる加工工程d)において、特に酸化銀、銀粒子含有触媒、および微粉フッ素化ポリマーの微粉混合物を導電性支持材料と共にプレスし、平板酸素消費電極を形成することによる、乾燥製造法を用いるように構成される。
【0052】
本発明はまた、先に記載した本発明の新規な方法によって製造された、導電性支持体、電気的接触部位、および触媒活性成分を含んでなるガス拡散層を少なくとも含んでなる酸素消費電極であって、ガス拡散層が、少なくとも1種のフッ素化ポリマー、粒子状銀および粒子状酸化銀を含んでなる酸素消費電極も提供する。
【0053】
被覆剤は好ましくは、0.5〜20重量部、好ましくは2〜10重量部のフッ素化ポリマー、1〜20重量部、好ましくは2〜10重量部の粒子状銀、および60〜98.5重量部、好ましくは70〜95重量部の粒子状酸化銀を含んでなる。
【0054】
酸化銀含有OCEは、例えば、湿潤製造法または乾燥製造法において、自体既知の技術によって製造する。これらは特に、先に記載したように実施する。
【0055】
新規な酸素消費電極は好ましくは、特にアルカリ金属塩化物(好ましくは塩化ナトリウムまたは塩化カリウム、より好ましくは塩化ナトリウム)を加水分解するための電解セルにおける、陰極として接続する。従って、本発明はまた、特に塩素アルカリ電解のための、先に記載した新規な酸素消費電極を酸素消費電極として含んでなる電気分解装置も提供する。
【0056】
別の態様として、酸素消費電極は好ましくは、燃料電池における陽極として接続することもできる。
【0057】
従って、本発明は更に、特にアルカリ型燃料電池において使用するアルカリ性条件下で酸素を還元するための新規な酸素消費電極の使用、例えば次亜塩素酸ナトリウムを調製するための飲用水処理における新規な酸素消費電極の使用、または特にLiCl、KClまたはNaClを電気分解するための塩素アルカリ電解における新規な酸素消費電極の使用を提供する。
【0058】
新規なOCEはより好ましくは、塩素アルカリ電解において、本発明では特に塩化ナトリウム(NaCl)電気分解において使用する。
【0059】
従って、本発明は更に、先に記載した本発明の酸素消費電極を陰極として含んでなることを特徴とする、アルカリ金属塩化物(好ましくは塩化ナトリウムまたは塩化カリウム、より好ましくは塩化ナトリウム)を電気分解するための電解セルも提供する。
【0060】
本発明を、以下の実施例によって詳細に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0061】
先に記載した引用文献の全てを、有用な目的の全てのために、それらの全内容を引用してここに組み込む。
【0062】
本発明を具体的に表す特定の構造物を示し、記載したが、当業者には、本発明の概念の意図および範囲から逸脱することなく、その一部を様々に変更および再構成できること、および本発明がここに示し、記載した特定の態様に限定されないことが明らかであろう。
【実施例】
【0063】
実施例1
・160gの水酸化ナトリウムを脱イオン水に溶解し、希釈して1.3Lの水酸化ナトリウム溶液を得た。次いで、499gの硝酸銀(AGFA、工業用品質、袋詰製品)も同様に脱イオン水で溶解し、1.3Lの硝酸銀溶液に希釈した。5L容のビーカーに室温で水酸化ナトリウム溶液を撹拌しながら(パドルスターラー、VA撹拌翼、150rpm)最初に導入し、250rpmのスターラー速度で20秒以内に硝酸銀溶液を添加した。続いて、更に5分間撹拌した。
・次いで、懸濁液を、磁器製吸引濾過器上の白色バンドフィルターを通して10分間濾過した。濾過ケークを、吸引濾過器上で、毎回0.5Lの脱イオン水を用いて6回以上洗浄した。続いて、濾過ケーク全体を脱イオン水3L中でスラリーにし、新たな白色バンドフィルターで濾過し、吸引濾過器上で、毎回0.5Lの脱イオン水を用いて3回洗浄した。
【0064】
濾過ケークを、減圧乾燥室内で120℃×5時間乾燥した。次いで、大きい凝集物を機械粉砕(破砕)し、濾過ケークを減圧乾燥室内で120℃×1時間再び乾燥した。
【0065】
このように調製した酸化銀(I)について、BET測定法を用いて、BET比表面積0.63m/gが測定された。MS 2000 Hydro Sでレーザー回折を用いて粒度分布を測定することによって、酸化銀(I)試料の水/Tween 80混合物中における300秒間の超音波前処理後、この酸化銀(I)について3.97μmのd50が見出された。
【0066】
Dyneon TF2053ZタイプのPTFE粉末7重量%、先に記載した方法により調製した酸化銀(I)86重量%、およびFerro 331タイプの銀粉末7重量%からなる粉末混合物0.16kgを、IKAミキサーで毎回15秒ずつ4回混合した。操作中、保持されている粉末混合物の温度は50℃未満であった。混合後、粉末混合物を、メッシュ寸法1.0mmのメッシュで篩過した。
【0067】
次いで、篩過した粉末混合物を、ワイヤ太さ0.14mmおよびメッシュ寸法0.5mmのニッケルワイヤメッシュに適用した。適用は厚さ2mmの型板を用いて実施し、メッシュ寸法1mmの篩を用いて粉末を適用した。型板の厚さを超えて投入された過剰の粉末は、スキマーを用いて除去した。型板を取り除いた後、適用した粉末混合物を伴った支持体を、0.26kN/cmの押圧でローラープレスを用いてプレスした。酸素消費電極をローラープレスから取り出した。
【0068】
このように製造した酸素消費電極を、DuPONT N982WXイオン交換膜、およびOCEと膜の間に水酸化ナトリウム溶液を含むギャップ3mmを伴った、塩化ナトリウム溶液(濃度210g/L)の電気分解において使用した。電解液の温度は90℃であり、水酸化ナトリウム溶液の濃度は32重量%であった。99.5%の純度を有する酸素を、水酸化ナトリウム溶液を含むギャップに面していないOCEの側に計量添加した。使用した陽極は、ルテニウム含有混合貴金属酸化物で被覆したエキスパンドチタン金属(製造メーカー:De Nora、LZMタイプ)であった。活性電極ベース領域および膜ベース領域はそれぞれ100cmであった。水酸化ナトリウム溶液流および塩化ナトリウム流はそれぞれ5〜10L/時であり、酸素流は45〜55L/時であった。
【0069】
4kA/mの電流密度で、2.02Vのセル電圧が測定された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)アルカリ性溶液の初期導入物に銀塩溶液を計量添加し、次いで、懸濁液の温度を10℃〜50℃の範囲に維持しながら最長10分間にわたって懸濁液を撹拌することによって酸化銀を沈澱させる工程、
b)工程a)の沈澱酸化銀を懸濁液から取り出す工程、
c)場合により減圧下、80℃〜200℃の範囲の温度で酸化銀を乾燥する工程、
d)得られた酸化銀を、導電性支持材料、銀粒子含有触媒および微粉フッ素化ポリマーと共に更に加工し、平板状酸素消費電極を形成する工程
を含む、酸素消費電極の製造方法。
【請求項2】
工程c)における乾燥後、酸化銀が0.4〜0.7m/gの範囲のBET表面積を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程c)における乾燥後、酸化銀が2〜7μmの範囲のd50を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
更なる加工工程d)において、0.5〜20重量部のフッ素化ポリマー、1〜20重量部の粒子状銀および60〜98.5重量部の粒子状酸化銀を使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
更なる加工工程d)において乾燥製造法を使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
工程a)において、アルカリ金属水酸化物溶液中アルカリ金属水酸化物を、銀塩に対してモル過剰で使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
銀塩に対する、モル過剰量のアルカリ金属水酸化物溶液中アルカリ金属水酸化物の比が少なくとも1.1〜1である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法によって製造された、導電性支持体、電気的接触部位、および触媒活性成分を含んでなるガス拡散層を少なくとも含んでなる酸素消費電極であって、ガス拡散層が、少なくとも1種のフッ素化ポリマー、粒子状銀および粒子状酸化銀を含んでなる酸素消費電極。
【請求項9】
13μm未満のd90を有する酸化銀粒子を含んでなる、請求項8に記載の酸素消費電極。
【請求項10】
請求項8に記載の酸素消費電極を陰極として含んでなる、アルカリ金属塩化物を加水分解するための電解セル。
【請求項11】
銀塩溶液が硝酸銀溶液であり、アルカリ性溶液が水酸化ナトリウム水溶液であり、計量添加時間が10分未満であり、懸濁液を最長5分間にわたって撹拌し、懸濁液の温度を10℃〜50℃の範囲に維持し、1回以上懸濁液を濾過および酸化銀を洗浄することによって工程a)の沈澱酸化銀を懸濁液から取り出す、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
計量添加時間が1分未満であり、懸濁液の温度を25℃〜30℃の範囲に維持する、請求項12に記載の方法。
【請求項13】
工程c)における乾燥後、酸化銀が0.6〜0.65m/gの範囲のBET表面積を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項14】
工程c)における乾燥後、酸化銀が3〜5μmの範囲のd50を有する、請求項3に記載の方法。
【請求項15】
更なる加工工程d)において、2〜10重量部のフッ素化ポリマー、2〜10重量部の粒子状銀および70〜95重量部の粒子状酸化銀を使用する、請求項4に記載の方法。
【請求項16】
更なる加工工程d)において、酸化銀、銀粒子含有触媒および微粉フッ素化ポリマーの微粉混合物を導電性支持材料と共にプレスし、平板状酸素消費電極を形成することによる乾燥製造法を使用する、請求項4に記載の方法。
【請求項17】
アルカリ金属塩化物が塩化ナトリウム、塩化カリウムまたはそれらの混合物である、請求項10に記載の電解セル。
【請求項18】
アルカリ金属塩化物が塩化ナトリウムである、請求項17に記載の電解セル。

【公開番号】特開2013−67860(P2013−67860A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−208585(P2012−208585)
【出願日】平成24年9月21日(2012.9.21)
【出願人】(512137348)バイエル・インテレクチュアル・プロパティ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (91)
【氏名又は名称原語表記】Bayer Intellectual Property GmbH
【Fターム(参考)】