説明

酸素消費電極の操作法

【課題】
酸素消費電極を有する電気分解セルに用いるためのプロセスガスを加熱する方法を提供する。
【解決手段】
電気分解プロセス自体にまたは引き続きの仕上げプロセスに存在する熱を用いて、酸素含有プロセスガスを加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素含有プロセスガスを、ガス拡散電極、特に酸素消費電極を用いる電気化学法により状態調節する方法に関する。本発明では、電気化学法は、特に酸素消費電極を用いるクロルアルカリおよび塩酸電気分解である。
【背景技術】
【0002】
ガス拡散電極の使用は、エネルギーの節約を種々の電気化学法において可能とし、さらに、望ましくないまたは非経済的な副生成物の形成を防止する。
【0003】
ガス拡散電極の1つの例は、酸素消費電極(OCE)である。酸素消費電極は、とりわけクロルアルカリ電気分解、塩酸電気分解、燃料電池技術または金属/空気電池に用いられる。
【0004】
本発明は、ガス核酸電極として構成され、通常、導電性支持体および触媒活性成分を有するガス拡散層を含むそれ自体既知の酸素消費電極に由来する。
【0005】
酸素消費電極を工業規模の電気分解セル中において操作するための種々の提案が、先行技術から知られている。基本的な概念は、電気分解(例えばクロルアルカリ電気分解において)の水素発生カソードを、酸素消費電極(カソード)に置き換えることである。可能性のあるセル設計および解決策の概説は、Moussallem等による出版物、「Chlor−Alkali Electrolysis with Oxygen Depolarized Cathodes: History, Present Status and Future Prospects」、J.Appl.Electrochem、第38巻、2008年、第1177〜1194頁に見出し得る。
【0006】
先行技術による酸素消費電極は、電気化学法における種々の配置において、例えば燃料電池における発電において、または塩化ナトリウムの水溶液からの塩素の電気分解製造において用いられる。酸素消費電極を用いるクロルアルカリ電気分解のより詳細な説明は、Journal of Applied Electrochemistry、第38巻(9)、第1177〜1194頁、2008年に見出し得る。酸素消費電極を有する電気分解セルの例は、文献欧州特許第1033419B1号、独国特許第19622744C1号および国際公開第2008006909A2号に見出し得る。
【0007】
塩化ナトリウムまたは塩酸の電気分解は、100万t/年を越えるまでの能力を有する工場において工業的に行われる。該工場は、電気分解装置だけでなく、塩素および水酸化ナトリウム、およびOCEを用いない従来法による電気分解を操作する場合には水素を仕上げるための施設をも含む。仕上げ工程の説明は、例えばUllmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry、Wiley−VCH Verlag GmbH & Co KG、ワインハイムのオンライン版の節「塩素」および「水酸化ナトリウム」に見出し得る。
【0008】
クロルアルカリ電気分解におけるOCE技術の利用のための更なる発展は、アノード空間をカソード空間から、水酸化ナトリウムギャップをOCE上に直接配置せずに電気分解セルにおいて分離するイオン交換膜である。この配置は、先行技術においてゼロギャップ配置とも称される。この配置は、通常、燃料電池技術に用いられる。ここでの欠点は、形成される水酸化ナトリウムが、OCEよりガス側へ運ばれ、次いでOCE上で下流へ流れる必要があることである。これは、水酸化ナトリウムによるOCEにおける細孔の閉塞、または細孔における水酸化ナトリウムの結晶化を生じさせてはならない。極めて高い水酸化ナトリウム濃度が生じることもあり、イオン交換膜が、長期の間に、これらの高い濃度に安定性ではないことが見出された(Lipp等、J.Appl.Electrochem.第35巻、2005年、第1015頁−Los Alamos National Laboratory、「Los Alamos National Laboratory、「Peroxide formation during chlor−alkali electrolysis with carbon−based ODC」)。
【0009】
電気分解からの未消費酸素を電気分解へ再循環する方法は、独国特許出願第10149779A1号に記載されている。独国特許出願第10149779A1号に記載の方法では、添加される新しい酸素がガスジェットポンプ中で減圧され、および得られる吸引圧が、電気分解セルからの未消費酸素中に引き入れるために用いられる。新しい酸素と再生酸素の十分な混合がノズル中で起こる。
【0010】
原理上、少量の水素が、OCEを用いる全ての電気分解において二次反応により形成されることがあるが、この場合、水素は、過剰の酸素と共に電気分解セルから出る。セルからの水素含有酸素の再循環により、水素が蓄積し、引火性混合物が形成される。水素の危険な蓄積および他の異質ガスの望ましくない蓄積を避けるために、セルから離れるガス流の一部は、回路からのパージ流として除去される。水素の危険な蓄積に対抗するための更なる手段は、独国特許第10342148号に記載の触媒酸化による除去である。
【0011】
独国特許出願第10159372号は、OCEを有する電気化学半セルのための可能な変法としてプロセスガスの加熱および加湿を記載するが、正確な温度条件、濃度および適切な実施態様について更なる情報を開示しない。
【0012】
プロセス技術では、プロセスガスの加熱は、一般に、蒸気のような外部エネルギーにより加熱される熱交換器により行われる。プロセスガスの温度は、適切な調節装置により制御される。調節装置は、更なる投資を必要とし、更なる外部エネルギー源の使用は、同様に資本コストを増加させ、およびプロセスの全エネルギー消費を増加させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】欧州特許第1033419号明細書
【特許文献2】独国特許第19622744号明細書
【特許文献3】国際公開第2008006909号パンフレット
【特許文献4】独国特許出願第10149779号明細書
【特許文献5】独国特許第10342148号明細書
【特許文献6】独国特許出願第10159372号明細書
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Moussallem、「Chlor−Alkali Electrolysis with Oxygen Depolarized Cathodes: History, Present Status and Future Prospects」、J.Appl.Electrochem、第38巻、2008年、第1177〜1194頁
【非特許文献2】Journal of Applied Electrochemistry、第38巻(9)、第1177〜1194頁、2008年
【非特許文献3】「塩素」および「水酸化ナトリウム」、Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry、Wiley−VCH Verlag GmbH & Co KG、ワインハイムのオンライン版
【非特許文献4】Lipp、「Peroxide formation during chlor−alkali electrolysis with carbon−based ODC」、J.Appl.Electrochem.第35巻、2005年、第1015頁、Los Alamos National Laboratory
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、上記欠点を解消する、酸素消費電極を有する電気分解セルに用いるためのプロセスガスを加熱する方法を提供することである。
【0016】
本発明の特定の目的は、酸素含有供給ガスの加熱を、塩素の電気化学製造において、OCEを有する電気分解装置により、装置および計装について最小の費用で、更なるエネルギー入力を伴わずに可能とする方法を提供することである。
【0017】
本発明の特定の目的は、酸素含有供給ガスの加熱および付加的な加湿を、塩素の電気化学調製において、OCEを有する電気分解装置により、装置および計装について最小の費用で、更なるエネルギー入力を伴わずに可能とする方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の目的は、電気分解プロセス自体にまたは引き続きの仕上げプロセスに存在する熱を用いて、酸素含有プロセスガスを加熱することにより達成される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、アノライト回路aおよびカソライト回路bを有するNaCl電気分解セルEA1および輸送装置P1を有するプロセスガス回路cを示す。
【図2】図2は、プロセスガスを更に加湿する更なる実施態様を例として示す。
【図3】図3は、加熱および加湿を1つの装置で行う更なる実施態様を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施態様は、酸素含有プロセスガスを電極へ供給する工程を含み、該酸素含有プロセスガスを、電気分解からの熱源を用いて、酸素消費電極との接触前に、セルにおけるカソード空間の温度以下に対応する、またはセルにおけるカソード空間の温度より50℃未満低い温度に少なくとも部分的に加熱する、酸素消費電極をアルカリ金属塩化物または塩酸の電気分解のためにカソードとして電気化学セルにおいて操作する方法を提供する。
【0021】
本発明の他の実施態様は、酸素含有プロセスガスを、電気分解から得られた選択プロセス流での熱交換により、または電気分解後の仕上げプロセス流での熱交換により少なくとも部分的に加熱する上記方法である。
【0022】
本発明の他の実施態様は、酸素消費電極を、セルにおけるカソード空間の温度以下に対応する、またはセルにおけるカソード空間の温度より20℃未満低い温度に少なくとも部分的に加熱する上記方法である。
【0023】
本発明の他の実施態様は、酸素消費電極を、セルにおけるカソード空間の温度以下に対応する、またはセルにおけるカソード空間の温度より10℃未満低い温度に少なくとも部分的に加熱する上記方法である。
【0024】
本発明の他の実施態様は、電気化学セルのアノード側から取り出された塩素ガスを、酸素含有プロセスガスを加熱するための熱交換のためのプロセス流として用いる上記方法である。
【0025】
本発明の他の実施態様は、セルから出るカソライトおよび/またはアノライトを、酸素含有プロセスガスを加熱するために、熱交換のためのプロセス流として用いる上記方法である。
【0026】
本発明の他の実施態様は、電気分解セルの下流のアルカリ金属水酸化物溶液蒸発装置からの冷却水、凝縮物または2次蒸気を、酸素含有プロセスガスを加熱するために、熱交換のためのプロセス流として用いる上記方法である。
【0027】
本発明の他の実施態様は、酸素含有プロセスガスを、カソライト回路から放出したアルカリ金属水酸化物溶液に酸素含有プロセスガスを通すことにより少なくとも部分的に加熱する上記方法である。
【0028】
本発明の他の実施態様は、電気化学セルの下流のアルカリ金属水酸化物溶液蒸発からの凝縮蒸気を、酸素含有プロセスガスを加熱するためのプロセス流として用い、該酸素含有プロセスガスを、前記凝縮蒸気に該酸素含有プロセスガスを通すことにより加熱する上記方法である。
【0029】
本発明の他の実施態様は、電極へ供給する酸素含有プロセスガスが30〜95体積%の酸素の割合を有する上記方法である。
【0030】
本発明の他の実施態様は、電極へ供給する酸素含有プロセスガスが90〜99体積%の酸素の割合を有する上記方法である。
【0031】
本発明の他の実施態様は、電極へ供給する酸素含有プロセスガスが99体積%を越える酸素の割合を有する上記方法である。
【0032】
本発明の他の実施態様は、電極へ供給する酸素含有プロセスガスが<100ppmのCO含有量を有する上記方法である。
【0033】
本発明の他の実施態様は、電気分解がクロルアルカリ電気分解である上記方法である。
【0034】
本発明の他の実施態様は、電気分解が塩化ナトリウム電気分解である上記方法である。
【0035】
本発明の他の実施態様は、電気分解が塩酸電気分解である上記方法である。
【0036】
本明細書において、単数形の用語「1つの(a)」および「その(the)」は、言葉および/または内容が特に示さない限り同義であって、「1以上の(one or more)」および「少なくとも1つの(at least one)」と互換的に使用する。従って、例えば、本明細書または添付の特許請求の範囲において「1つの熱源(a heat source)」と称することは、単一の流れまたは1より多い流れを指称し得る。さらに、全ての数値は、特記のない限り、用語「約」により修飾されるものとして理解される。
【0037】
本発明は、電極へ供給する酸素含有プロセスガスを、電気分解からの熱源により、特に電気分解から得られる選択プロセス流での熱交換によりまたは電気分解後の仕上げプロセス流により、酸素消費電極との接触前に、セルにおけるカソライトの温度以下に対応する、または該温度より50℃未満、好ましくは20℃未満、特に好ましくは10℃未満低い温度に少なくとも部分的に加熱することを特徴とする、酸素消費電極をアルカリ金属塩化物、またはプロトンと酸素の反応による塩酸の場合には塩酸の電気分解のためにカソードとして、電気化学セルにおける電極において操作する方法を提供する。
【0038】
酸素は、プロセスに関する理由のために、典型的には、過剰に導入し、未消費酸素をセルから再び取り出す。酸素の過剰は、広い範囲にわたり選択することができ、過剰は一般に、反応に必要な量の5〜100%である。セルから取り出された酸素は、新しい酸素と混合し、セルへ戻す。望ましくない異質ガスの蓄積を防止するために、セルから放出した酸素のごく一部、通常0.5〜20%を、パージ流中において回路から取り出す。
【0039】
好ましくは、純粋酸素(>99体積%のO)を新しい酸素の導入のために用いる。しかしながら、より低い酸素濃度(90〜99体積%のO)を有するガスまたは酸素濃度の高い空気(30〜95体積%のO)を用いることも可能である。また、空気の使用は、原理上、OCEを用いるクロルアルカリ電気分解において考慮されるが、この場合、アルカリ金属炭酸塩の形成を避けるために特にCO不含空気を用いるべきである。以下の説明に用いる用語プロセスガスおよび供給ガスは、いずれの場合にも純粋酸素を含む酸素含有ガス混合物である。酸素は、液化および引き続きの分留(低温分離)により、適当な吸収剤での選択吸収/脱離(圧力スイング吸着法、PSA)により空気から工業的に得られる。他のあまり広く用いられない方法は、膜により分離する。低温分離は通常、99.9体積%のOを含有する非常に純粋な酸素を与えるが、圧力スイングまたは膜分離プロセスは通常、90〜95体積%のOを含有する酸素を製造する。上記源からの酸素は通常、水の僅かな痕跡(<1ppm)のみを含有する。
【0040】
電気分解セルに入るプロセスガス流は、可能であれば、セルにおける温度に対応する、または電気分解セルにおける温度よりほんの僅かに低い温度を有するべきである。言い換えれば、温度勾配は、電極の面積にわたり電気分解力および物質の不均一な分布をもたらす電気分解セル内で発生し、これは、性能の低下および膜およびOCEへ損傷を与える長期間をもたらす。
【0041】
電気分解セルに入る酸素の湿気含有量は、可能であれば、少なくとも、補われるべき排出酸素により運ばれる水の量に対して十分に多くあるべきである。パージ流における水は、セルへ戻らないため、少なくともこの部分は再導入しなければならず、供給ガスの再循環を伴わない配置では、取り出される水の量全体を置き換える必要がある。セルをゼロギャップ配置において操作する場合、OCEをイオン交換膜と接触させ、従来法では、膜へ損傷を与えるアルカリ金属水酸化物の過度に高い濃度あるいはアルカリ金属水酸化物の結晶化を避けるために、水の更なる量を電気分解セル中へ酸素流を加湿することにより導入する。セルを、OCEがイオン交換膜と接触しているゼロギャップ配置において操作する場合、従来、膜へ損傷を与えるアルカリ金属水酸化物の過度に高い濃度あるいはアルカリ金属水酸化物の結晶化を避けるために、水の更なる量を電気分解セル中へ酸素流を加湿することにより導入する。酸素を加湿するために、水を気化しなければならず、これはエネルギーの供給を必要とする。
【0042】
とりわけ、加熱は、プロセス中へ新しく導入する酸素含有ガスのみを電気分解からの熱源により加熱するように行うことができる。過剰の酸素の再循環を伴わない配置の場合には、行われる実施態様であるが、酸素含有プロセスガスの再循環の場合に行うこともできる。しかしながら、過剰の酸素を再循環する場合には、加熱は、まず、オフガス流の割合により低下する再生酸素含有プロセスガスを新しく導入した酸素と組み合わせ、組み合わせたガス流を電気分解からの熱源により加熱するように行うこともできる。オフガス流の放出は、酸素含有プロセスガスを再循環させる場合に、水素または不活性ガスのような望ましくない2次成分を有さない酸素含有プロセスガスの濃縮を防止する働きをする。
【0043】
本発明によれば、酸素含有プロセスガスを、電気分解工程および/またはプロセス流の下流仕上げにおいて生じるプロセス熱を用いて加熱する。低エネルギー水準を有するプロセス熱、すなわち、<150℃、好ましくは<120℃、特に好ましくは<100℃の温度を有する熱源を、加熱するために好ましく用いる。2次熱源の利用は、好ましくは、熱交換器における直接熱交換により行う。しかしながら、間接熱交換を、更なる熱交換媒体として中間物として用いて行うこともできる。
【0044】
本発明の好ましい実施態様では、電気化学セルのアノード側から取り出した塩素ガスを、酸素含有プロセスガスを加熱するために熱交換のためのプロセス流として用いる。
【0045】
本発明の他の好ましい実施態様では、セルから出るカソライトおよび/またはアノライトを、酸素含有プロセスガスを加熱するために熱交換のためのプロセス流として用いる。
【0046】
好ましくは、電気分解セルの下流のアルカリ金属水酸化物溶液蒸発装置からの冷却水、凝縮物または2次蒸気を、酸素含有プロセスガスを加熱するために用いる。
【0047】
特に好ましくは、酸素含有プロセスガスの加熱および加湿は、カソライト回路から取り出されたアルカリ金属水酸化物溶液、特に水酸化ナトリウム溶液へプロセスガスを通すことにより行う。
【0048】
特に好ましくは、電気分解セルの下流のアルカリ金属水酸化物、特に水酸化ナトリウム蒸発からの凝縮蒸気を、酸素含有プロセスガスを加熱および加湿するためのプロセス蒸気として用い、熱交換を、特に凝縮蒸気より酸素含有プロセスガスを通過させることにより生じさせる。
【0049】
電気分解プロセスおよび/または引き続きの仕上げにおいて生じるプロセス熱の利用は、同時に、冷却エネルギーの消費を低下させ、該プロセスの経済および環境適合性を更に向上させる。
【0050】
本発明の方法に従って用いる2次熱源は、酸素含有プロセスガスを加熱するためのエネルギーだけでなく、酸素含有プロセスガスの好ましい加湿における水の蒸発のために必要なエネルギーをも供給することができる。酸素含有プロセスガスの加湿は、当業者に既知の方法により、例えば水を供給した水柱または滴下カラムからプロセスガスを通すことにより行う。加湿により導入した水の量は、少なくとも潜在的オフガス流で放出した水を置き換えるように選択する。
【0051】
電気分解プロセスにおけるOCEの操作では、多くの2次熱源を、酸素含有プロセスガスを加熱するために利用する。これらをクロルアルカリ電気分解のために以下により詳細に説明するが、本発明のこれらの例への制限を意味するものではない。
【0052】
このように、電気分解から取り出された塩素ガスを、熱源として用いることができる。電気分解から取り出された塩素は、電気分解セルの温度、従ってセルへのプロセスガスの導入に好ましい温度を有する。電気分解セルから取り出された塩素の仕上げでは、塩素は、典型的には、更なる乾燥および精製前に冷却する(Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry、章「Chlorine」、Wiley−VCH Verlag GmbH & Co KG、ワインハイム参照)。一般に、冷却は、外部冷却媒体、例えば冷却塔水により行う。このようにして、電気分解から取り出された塩素の熱を、プロセスガスを予備加熱するために用いる場合、外部冷却エネルギーを更に節約する。酸素含有プロセスガスおよび塩素の間の熱交換は、熱交換器中で向流において行う。熱交換器は、当業者に既知の方法により構成される。従って、プレート熱交換器、シェルアンドチューブ熱交換器または他の態様を用いることが可能である。可能な材料は、当業者に原理上既知の酸素−および塩素−耐性材料である。好ましい耐性材料は、チタンである。また、本明細書に記載の変法は、温度を調節するための調節装置を必要としないことを特徴とするが、酸素含有プロセスガスの過熱は可能ではない(プロセスガスは、電気分解セルにおいて広がる温度水準とする)。
【0053】
酸素含有プロセスガスを加熱するための更なる熱源は、アノライト回路および/またはカソライト回路からのプロセス流である。電気分解セルにおける電気損失により、アノライトおよびカソライトプロセス流はいずれも、電気分解中に加熱する。これらを加熱する程度は、電流密度の上昇により増加する。電気分解の沸騰を避けるために、プロセス流は、回路において冷却する必要がある。先行技術によれば、冷却は、外部冷却媒体、例えば冷却塔水により行われる。通常の操作におけるアノライト回路および/またはカソライト回路に生じる熱は、OCEのための新しい酸素を必要な温度水準とするのに十分である。セルの立ち上げの間および低電流密度での部分付加運転の間、アノライト回路および/またはカソライト回路からの廃熱だけでなく、酸素を加熱するための更なるエネルギー源をも用いることが必要となることがある。
【0054】
酸素含有プロセスガスを加熱するために、上記熱源の他に、電気分解の下流の電気分解からの生成物のための仕上げプロセスからの更なる2次熱源、例えば塩素の仕上げまたは水酸化ナトリウム溶液の蒸発において生じる廃熱を用いることもできる。従って、それ自体既知の方法では、例えば、水酸化ナトリウム溶液は、蒸留によって、電気分解において達成される約32%の濃度から通常市販の濃度の50%へ凝縮される(Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry、章「水酸化ナトリウム」、Wiley−VCH Verlag GmbH & Co KG、ワインハイム参照)。この蒸発は、冷却により凝縮する必要がある蒸気を生じさせる。凝縮水酸化ナトリウム溶液は、例えば>150℃の温度において最後の蒸発段階から出るが、貯蔵および輸送のために、典型的には<50℃の温度へ冷却する。従って、蒸気の凝縮において放出された熱および熱水酸化ナトリウム溶液の冷却中に放出された熱はいずれも、酸素含有供給ガスを予備加熱するためにそれぞれ好ましく用いることができる。低圧水準を有する蒸気は、例えば150℃を越える温度を有する水酸化ナトリウム溶液の冷却中に、または凝縮物の減圧により生じさせることができるが、酸素含有供給ガスを予備加熱するために用いてもよい。
【0055】
さらに、蒸発装置の加熱において生じる蒸気凝縮液または凝縮物は、とりわけ酸素含有供給ガスを予備加熱するために用いることができる。
【0056】
本発明の方法により用いるべき2次熱源は、酸素含有プロセスガスの水での加湿において水を気化させるために必要なエネルギーを更に供給する。
【0057】
好ましくは、酸素含有プロセスガスの温度以上の温度を有する予備加熱水は、加湿に用いることができる。特に、水の温度は、加湿装置から離れる酸素含有プロセスガスが電気分解セルへの導入を対象とした温度を有するように選択することができる。しかしながら、プロセスガスは、加湿後に更なる熱交換器中で対象とする温度とすることもできる。
【0058】
好ましくは、水の加熱は、蒸気プロセス流の1つを熱源として用いて熱交換器により行う。しかしながら、特に、酸素含有プロセスガスの加湿のために直接、設備に生じる温凝縮物を用いることも可能である。従って、例えばプロセスガスの加湿に直接用いることができる凝縮蒸気は、水酸化ナトリウム溶液の凝縮中に蒸発装置中に得られる。さらに、電気分解から放出した水酸化ナトリウム溶液は、典型的には約32重量%の濃度を有し、酸素含有プロセスガスを加湿するために水の代わり用いることができる。この変法は、水を下流蒸発においてほとんど蒸発させる必要がない優位性を有する。
【0059】
酸素含有プロセスガスの加湿は、冷却水または導入された酸素の温度より低い温度を有する水を用いて行うこともできる。このような方法は、例えばプロセスガスにおける含水量が制限される場合、または装置についての費用を低く維持する場合に優位性を有する。この変法では、プロセスガスは、加湿中に冷却し、次いで再加熱する。上記熱源の1つは、加熱するために用いる。加湿のために用いる水を、熱源の1つにより、例えば水の温度がプロセスガスの対象とする温度より低い場合に予備加熱することは有利であってもよい。これは、とりわけ、飽和限界未満の規定の水分含量を、電気分解セルへ導入したプロセスガスを対象とする場合に有利である。
【0060】
酸素の予備加熱の上記変法は、プロセス工学の観点から有利であると思われる場合には、互いに自由に組み合わせてもよい。
【0061】
更なる実施態様では、例えば蒸発装置において得られる低圧水準を有する蒸気は、酸素含有プロセスガスを加湿および加熱するために用いる。例えば、この蒸気をプロセスガス流へ注入することにより用いる。
【0062】
好ましくは、新規な方法は、酸素含有ガス混合物、例えばセル中の温度より50℃未満、好ましくは20℃未満の温度、特に好ましくは10℃未満低い温度を有する新しい酸素および再生酸素の混合物を、電気分解セル中へ供給して行う。
【0063】
酸素の再循環および混合は、DE10149779A1に記載の方法の通り、ガスジェットポンプを用いて行うことができる。しかしながら、酸素の再循環および混合は、当業者に既知の他の方法により行うこともできる。従って、電気分解セルから取り出された酸素は、ポンプまたは圧縮器を用いて引き出し、圧縮し、次いで混合装置により新しい酸素と混合することができる。混合は、電極空間中への導入中に直接行うこともできる。
【0064】
本発明の方法は、新しく導入した酸素の品質に拘わらず用いることができる。従って、新規な方法は、特に、OCEを用いおよび純粋酸素(>99体積%のO)を供給する電気化学プロセスに好ましく用いることができる。同様に、新規な方法は、OCEを用い、高度に濃縮した酸素(90〜99体積%のO)または濃縮した酸素(30〜95体積%のO)またはCO不含空気(<100ppmのCO)を導入する電気化学法に用いることができる。
【0065】
従って、好ましいのは、電極に供給する酸素含有ガスが、30〜95体積%の酸素の割合、好ましくは90〜99体積%の酸素含有量、特に好ましくは>99体積%の酸素含有量を有することを特徴とする混合物新規な方法の実施態様である。
【0066】
好ましいのは、電極へ供給する酸素含有ガス混合物が、<100ppmのCO含有量を有する方法である。
【0067】
本発明の方法は、セルへ供給した酸素の化学量論的に過剰に拘わらず、および放出したオフガスの割合に拘わらず、用いることができる。とりわけ、本発明の方法は、従来の1.05〜2倍の化学両論的過剰および0.5〜20%の再循環供給ガスのパージガス流で用いることができる。
【0068】
原則として、本発明の方法は、OCEを有する全ての電気化学プロセスに用いることができる。
【0069】
同様に、本発明の方法は、アルカリ性燃料電池の操作において、例えば次亜塩素酸塩の製造のための電気の水処理において、またはクロルアルカリ電気分解において、特にLiCl、KClまたはNaClの電気分解のために用いることができる。
【0070】
本発明の方法は、OCEを、クロルアルカリ電気分解において、ここでは特に塩化ナトリウム(NaCl)の電気分解において、または塩酸電気分解において用いる場合に好ましく使用する。
【0071】
本発明を、記載の実施態様に制限することなく、以下の実施例により説明する。
【実施例】
【0072】
実施例1
図1は、アノライト回路aおよびカソライト回路bを有するNaCl電気分解セルEA1および輸送装置P1を有するプロセスガス回路cを示す。塩素ガスdは、アノードから放出する。副流eを、アノライト回路から取り出し、脱塩素化後に、飽和NaCl溶液e’を製造するために新しい水および固体塩化ナトリウムと共に用いる。次いで該飽和NaCl溶液e’を精製後に回路中へ再導入する。水酸化ナトリウム溶液の副流fを、カソライト回路から取り出す。副流gを、プロセスガス回路cからパージとして取り出し、低温空気分別装置からの新しい酸素hを供給する。電気分解セルの温度は90℃である。アノライトおよびカソライト回路をそれぞれ、熱交換器WA1およびWA2により冷却する。塩素ガスを、熱交換器WA3により約40℃に冷却する。ここで、塩素ガス中に存在する水の一部を凝縮する。
【0073】
本発明の1つの実施態様では、所望の温度へプロセスガスを加熱するために、新たに導入した酸素hを熱交換器WA4により加熱する。ここに示されていない他の実施態様では、熱交換を、好ましくは、WA3に対応するWA4により冷却する塩素ガスに対して行い、酸素を熱塩素ガスとの直接熱交換により加熱し、好ましくは、熱交換を向流において行う。しかしながら、更なる実施態様では、加熱を、伝熱媒体回路により、好ましくは水回路により行ってもよく、WA3において除去される熱を、WA4において酸素を加熱するために移動させる。更なる実施態様では、伝熱媒体回路によりWA1またはWA2から除去された熱は、プロセスガスを加熱するためにWA4において用いる。
【0074】
更なる実施態様では、プロセスガスcは、パージ流gの放出および酸素hの導入後に、熱交換器WA5において必要な温度に加熱する。ここに示されていない変法では、熱交換は、熱交換器WA3に対応する熱交換器WA5により冷却する塩素ガスに対して行い、プロセスガスを熱塩素ガスとの直接熱交換により加熱し、好ましくは、熱交換を向流において行う。しかしながら、加熱は、更なる実施態様において、伝熱媒体回路により、好ましくは水回路により行ってもよく、WA3において除去される熱を、WA5においてプロセスガスを加熱するために移動させる。更なる実施態様では、伝熱媒体回路により熱交換器WA1または熱交換器WA2から除去された熱は、プロセスガスを加熱するためにWA5において用いる。
【0075】
実施例2
図2は、プロセスガスを更に加湿する更なる実施態様を例として示す。
【0076】
1つの実施態様では、新しく導入された酸素hを、熱交換器WA1において加熱し、熱エネルギーを、上記実施態様におけるように、源熱交換器WA3、WA2またはWA1の1つから生じさせる。次いで、酸素蒸気hを、加湿装置KA1に通し、加熱および加湿酸素を、プロセスガス回路c中へ導入する。加湿を行うために、脱イオン化水、凝縮物または水酸化ナトリウム溶液のいずれかである水性媒体iを、加湿装置KA1より運ぶ。
【0077】
更なる実施態様では、プロセスガスcを、パージ流(g)の放出および酸素hの導入後に加湿装置KA2に通し、次いで熱交換器WA5により加熱し、エネルギーを、上記実施態様におけるように、源熱交換器WA3、WA2またはWA1の1つから生じさせる。加湿を行うために、脱イオン化水、凝縮物または水酸化ナトリウム溶液のいずれかである水性媒体i’を、加湿装置KA2より運ぶ。
【0078】
実施例3
図3は、加熱および加湿を1つの装置で行う更なる実施態様を示す。
【0079】
1つの実施態様では、新しく導入された酸素hを、加湿装置KA1において加湿および加熱する。加湿装置KA1に、水酸化ナトリウム溶液蒸発装置からの熱凝縮物、熱水酸化ナトリウム溶液(f)、プロセスからの他の熱水流または熱交換器WA1、WA2またはWA3の1つからの廃熱により加熱された脱イオン化水である熱水性媒体iを供給する。
【0080】
更なる実施態様では、プロセスガスcを、パージ流gの取り出しおよび酸素hの導入後に、加湿装置KA2において加湿および加熱する。加湿装置KA2に、水酸化ナトリウム溶液蒸発装置からの熱凝縮物、熱水酸化ナトリウム溶液f、プロセスからの他の熱水流または熱交換器WA1、WA2またはWA3の1つからの廃熱により加熱された脱イオン化水である熱水性媒体i’を供給する。
【0081】
実施例4
220g/Lの濃度を有するNaCl溶液を、4kA/mの電流密度にて10個の各2.7mのセル要素を有し、およびDupontからのNafion membrane N982(登録商標)およびOCEを有する電気分解装置において電気分解する。33.8標準m/時間の純粋酸素(>99%のO)、すなわち、50%過剰を、カソード空間中へ供給する。
【0082】
導入した酸素は、80℃の温度を有する。該温度は、新しい酸素を、熱交換器により、電気分解装置から放出した塩素ガスに対して向流において、パージガス流により減少した残存ガス流と混合する前に加熱することにより得られる。これは、熱交換器WA3およびWA4を、熱交換媒体としての塩素および新しい酸素が流れる単一熱交換器に置き換えた変更を有する図1に示される実施態様に対応する。
【0083】
広範な本発明の概念から逸脱することなく、上記の実施形態に対して変更を加えることができることは当業者に理解される。従って、本発明は、開示した特定の実施形態に限定されないが、添付の特許請求の範囲により定義されるような本発明の精神および範囲内での変更に及ぶことが意図されることが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素消費電極を、アルカリ金属塩化物または塩酸の電気分解のためにカソードとして電気化学セルにおいて操作する方法であって、酸素含有プロセスガスを電極へ供給する工程を含み、該酸素含有プロセスガスを、電気分解からの熱源を用いて、酸素消費電極との接触前に、セルにおけるカソード空間の温度以下に対応する、またはセルにおけるカソード空間の温度より50℃未満低い温度に少なくとも部分的に加熱する、方法。
【請求項2】
酸素含有プロセスガスを、電気分解から得られた選択プロセス流での熱交換により、または電気分解後の仕上げプロセス流での熱交換により少なくとも部分的に加熱する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
酸素消費電極を、セルにおけるカソード空間の温度以下に対応する、またはセルにおけるカソード空間の温度より20℃未満低い温度に少なくとも部分的に加熱する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
酸素消費電極を、セルにおけるカソード空間の温度以下に対応する、またはセルにおけるカソード空間の温度より10℃未満低い温度に少なくとも部分的に加熱する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
電気化学セルのアノード側から取り出された塩素ガスを、酸素含有プロセスガスを加熱するための熱交換のためのプロセス流として用いる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
セルから出るカソライトおよび/またはアノライトを、熱交換のためのプロセス流として、酸素含有プロセスガスを加熱するために用いる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
電気分解セルの下流のアルカリ金属水酸化物溶液蒸発装置からの冷却水、凝縮物または2次蒸気を、熱交換のためのプロセス流として、酸素含有プロセスガスを加熱するために用いる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
酸素含有プロセスガスを、カソライト回路から放出したアルカリ金属水酸化物溶液に酸素含有プロセスガスを通すことにより少なくとも部分的に加熱する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
電気化学セルの下流のアルカリ金属水酸化物溶液蒸発からの凝縮蒸気を、酸素含有プロセスガスを加熱するためにプロセス流として用い、該酸素含有プロセスガスを、前記凝縮蒸気に該酸素含有プロセスガスを通すことにより加熱する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
電極へ供給する酸素含有プロセスガスは、30〜95体積%の酸素の割合を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
電極へ供給する酸素含有プロセスガスは、90〜99体積%の酸素の割合を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
電極へ供給する酸素含有プロセスガスは、99体積%を越える酸素の割合を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
電極へ供給する酸素含有プロセスガスは、<100ppmのCO含有量を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
電気分解は、クロルアルカリ電気分解である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
電気分解は、塩化ナトリウム電気分解である、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
電気分解は、塩酸電気分解である、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−184507(P2012−184507A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−46587(P2012−46587)
【出願日】平成24年3月2日(2012.3.2)
【出願人】(504037346)バイエル・マテリアルサイエンス・アクチェンゲゼルシャフト (728)
【氏名又は名称原語表記】Bayer MaterialScience AG
【Fターム(参考)】