説明

酸素消費電極の電気化学セルにおける取り付け法および電気化学セル

【課題】酸素消費電極(OCE)における製造または使用により生じた任意のクラックまたは穴を封止する方法を含む、重複の領域、折り目の付いた領域または取り付けにより生じた酸素消費電極(OCE)上の損傷領域を封止するための新規な方法を提供する。
【解決手段】酸素消費電極(OCE)1、1aの重複領域8または損傷領域(クラック領域6など)を、酸化銀、疎水性ポリマー成分およびパーフッ素化または部分的にフッ素化された溶媒を含むペースト9で被覆する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素消費電極を電解装置に取り付ける方法、および特にクロルアルカリ電解における使用のための、損傷領域が特定の封止ペーストで封止された電解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
酸素消費電極を電解セル中において工業規模で操作するための種々の提案が知られている。基本的な概念は、電解(例えばクロルアルカリ電解中)の水素発生カソードを、酸素消費電極(カソード)に交換することである。可能性のあるセル設計および解決策の概説は、Moussallem等による出版物、「Chlor−Alkali Electrolysis with Oxygen Depolarized Cathodes: History, Present Status and Future Prospects」、J.Appl.Electrochem、第38巻、2008年、第1177〜1194頁に見出し得る。
【0003】
酸素消費電極(以下、OCEとも称する)は、工業的電解槽における使用のために一連の要件を充足しなければならない。従って、触媒および用いる全ての他の材料が、約32重量%の濃度を有する水酸化ナトリウム溶液について、および典型的には80〜90℃の温度において純酸素について化学的安定性でなければならない。また、高度の機械的安定性が、通常、2m(工業規模)を越える面積の大きさを有する電解槽中に取り付られ、および操作される電極に要求される。
【0004】
酸素消費電極のための更なる所望の特性としては、次のものが挙げられる:高い電気伝導性、小さい層厚み、大きい内部表面積および電解触媒の高い電気化学活性。また、適当な疎水性および親水性細孔およびガスおよび電解液を導くための適切な細孔構造が、ガス空間および液体空間が互いに分離された状態を維持し、漏れがないように必要である。長期安定性および低い製造コストは、工業的に使用可能な酸素消費電極のための更なる要件である。
【0005】
さらに、OCEは、電解装置に取り付けられ、簡単な方法により交換可能であるべきである。種々の方法が、取り付けのために記載されている。
【0006】
例えば米国特許第7404878号は、2つのOCEの隣接する端を、パーフルオロカルボン酸、パーフルオロスルホニルフルオライドまたはアルキルパーフルオロカルボキシレートを含有する層を用いて接合することを記載する。次に、該層を、熱処理によりOCEへ接合する必要がある。該方法は、OCEが熱処理中に損傷を受け得るので用いることが困難である。更なる欠点は、OCEが、得られる被覆された電気化学不活性端および重複領域において作動しないことである。従って、これが起こる場合、残存領域は、より高い電流密度にて操作され、電圧の上昇、従ってより高いエネルギー消費が生じる。
【0007】
DE4444114A1は、電気化学反応装置の基本構造と、クランプ接触の形成により接触させることによるOCEの取り付けを記載する。しかしながら、クランプまたはプレス接触を用いる場合、その電気接触抵抗は、配置の操作の過程の間、悪化することが多く、これは、電気エネルギーの消費の望ましくない増加を生じさせる。更なる欠点は、クランプバーの領域は、電気化学的に不活性であり、従ってOCE面積が減少することである。
【0008】
電極と電気化学反応装置との間のより電気的に耐久性のある接続は、EP1041176A1に記載の通り、溶接法により得られる。無孔円周金属縁を有するガス拡散電極を用いる場合、直接溶接を、電極の基本構造について行うことができる。しかしながら、EP−1041176A1に記載の電極基本構造の連続端は、支持体構造として穿孔または溝付き金属板を必要とする。従って、一体化される電極は、全領域にわたって開孔した金属的伝導性基本構造から構成されることが多く、その窪みに、電気化学活性組成物(以下、被覆物と称する)が組み込まれる。被覆電極を溶接する試みにより、被覆組成物の分解が通常、高い接合温度にて起こることが見出された。定性的に欠陥のない接合を得るために、被覆組成物を、溶接領域中に存在させてはならない。従って、電極の開孔基本構造は、被覆組成物をこの領域に含有しない。これは、電極の2つの側に存在する媒体を、封止作用を得るための手段を伴わない操作中の電気化学反応装置において混合させる。
【0009】
媒体の混合を防止するために、数時間後に固化し、および開孔構造をこの場所において適用時に封止する液体またはペースト状物質を、未被覆溶接域に供給する。封止材料の固化は、例えば液状またはペースト状適用物質の化学硬化により行うことができる。電気化学反応装置において一般的である、通常極めて化学的攻撃的な条件のため、このようにして製造された既知の封止の操作寿命は、極めて短いことが見出された。従って、操作寿命は、数週間〜数ヶ月に変化し、これにより、電気化学反応装置の効率的な長期間の使用が妨げられる。
【0010】
さらに、加熱し、および冷却により再び固化することにより可塑性となる組成物の封止材料としての使用は、文献(EP1029946A2)に記載されている。PTFEのような化学的不活性物質をここで用いることができるが、該物質と基本構造との永続的な接合を得るために高い温度を用いる必要があり、記載された特許の教示によれば、この方法を行うには複雑な装置/機械が必要である。
【0011】
DE10152792A1は、ガス拡散電極と電気化学反応装置の基本構造との間の接続を製造する方法を記載する。この方法の使用中に、電極の前および後に存在する媒体の分離は、電極の縁と該縁に適合する円周枠の金属折り畳み状配置との間の電気的に低いオーム接合、および円周枠の電気化学反応装置の基本構造への電気的に低いオーム接続を製造することにより確保することができる。
【0012】
DE10152792A1による方法は、枠の折り畳まれた部分が、端領域において斜め接合のために断裁され、およびレーザー溶接法または他の溶接法またははんだ付け法により互いに接合されるプロファイルから作られることを特徴とする。該方法の全体的な欠点は、取り付け法が極めて複雑であり、費用がかかることである。同様に、OCEの交換も極めて複雑であり、適切な作業場および工具を用いずに行うことができない。性能に影響を与える更なる欠点は、折り畳まれた領域/断面が電気化学的に不活性であり、従って活性OCE面積が失われることである。この結果、OCEは、対電極(アノード)より高い電流密度にて操作され、これは、電解電圧の上昇および経済的な悪化を生じさせる。
【0013】
EP1029946A2は、反応性層およびガス拡散層およびコレクター板、例えば銀メッシュから構成されるガス拡散電極を記載する。被覆物は、コレクター板を完全に覆わないが、被覆物を含まない縁を残す。好ましくは銀の薄い枠状金属板が、金属枠が電気化学活性被覆物の極めて小さい領域を覆い、および封止作用も得られるようにガス拡散電極へ適用される。OCEを越えて突出する枠は、OCEを電解装置へ、例えば溶接により接合する働きをする。この接触は、複雑であり、OCEの面積の一部を覆う。その結果、OCE面積の局部的電流密度は、上昇し、電解槽の性能は、より高い電解圧のため低下する。さらに、複雑な取り付けは、電解槽についての高い製造費用および/またはOCEを交換するための高い費用を生じさせる。
【0014】
DE10330232A1は、OCEと電解装置との間の電気接触の製造およびガス空間と電解質空間との間の封止の確立が、1つの操作において行われるOCEの取り付けを記載する。ここで、金属ストリップが、OCEの被覆物不含縁上およびOCEの触媒被覆領域上のいずれにも取り付けられ、電解装置の支持体構造へ、レーザー溶接により接続される。この方法は、金属ストリップの領域および溶接が電気化学的に不活性である欠点を有する。この方法は、極めて複雑である。
【0015】
OCEは、1つだけのOCEが各電解槽装置中に取り付けられなければならない寸法において利用することができないので、複数のOCEを、各電解装置中に取り付けられなければならない。取り付けは、OCEの僅かな重複により、または取り付け中に隣接することにより影響を受け得る。電解装置当たり1つのOCEを取り付けることができるように大きいOCEを利用できた場合でさえ、OCEに折り目が付く領域または封止される必要のある触媒活性成分における欠陥が、取り付けにより形成される。同様に、触媒活性層における損傷箇所が、不適当な処理により存在する。ガス空間および電解質空間の間の分離、従って問題のない操作は、損傷箇所では確保されない。
【0016】
先行技術の制限および製造またはOCEにおける使用により引き起こされた任意のクラックまたは穴を封止するための方法がないことを考慮すれば、酸素消費電極の電解装置における取り付けの方法が必要である。さらに、特にクロルアルカリ電解における使用のための、気密であることについて重要であり得る領域が特定のペーストで封止された電解装置が必要である。本発明は、以下の概要に記載の通り、先行技術の制限に取り組み、および他の関連する優位性を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】米国特許第7404878号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第4444114号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第1041176号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第1029946号明細書
【特許文献5】独国特許出願公開第10152792号明細書
【特許文献6】欧州特許出願公開第1029946号明細書
【特許文献7】独国特許出願公開第10330232号明細書
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Moussallem、「Chlor−Alkali Electrolysis with Oxygen Depolarized Cathodes: History, Present Status and Future Prospects」、J.Appl.Electrochem、第38巻、2008年、第1177〜1194頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、OCEにおける製造または使用により生じた任意のクラックまたは穴を封止する方法を含む、重複の領域、折り目の付いた領域または取り付けにより生じたOCE上の損傷領域を封止するための新規な方法を提供する。
【0020】
電解装置の構築に応じて、OCEは、場合により、OCE上で作用し、これによりリークを生じさせる、深刻な機械応力を生じさせる角の周囲で伝導させる必要がある。上記の通り、リークは、電解質空間からガス空間中へ移動することができる電解質、またはガス空間から電解質中へ移動することができるガスを生じさせる。
【0021】
さらに、OCEの、ガス空間が電解質空間から分離される電解装置中における取り付けは、ガスがガス空間から電解質空間へ移動することができないように、および電解質が電解質空間からガス空間へ移動することができないように行うべきである。OCEは、1〜170ミリバール(hPa)のガス空間および液体空間の間の圧力差においてリークフリーとなるべきである。本発明では、リークフリーは、観測される電解質空間中への気泡の視覚的流出がないことと定義する。さらに、液密は、OCEを通過する10g/(h×cm)以下の液体量と定義する(ここで、gは、液体の質量、hは、時間および時間、およびcmは幾何学的電極表面積である)。
【0022】
しかしながら、あまりに多い液体がOCEを通過する場合、液体は、ガス側に面する側のみを下流として流れることができる。これは、OCEへのガスの侵入を妨げる液体皮膜を形成し得る。この皮膜は、OCEの性能について極めて悪影響(酸素の供給不足)を有する。あまりに多いガスが電解質空間に移動する場合、気泡は、電解室空間から取り出すことが可能である必要がある。任意の場合において、気泡は、電極および膜表面を覆い、これは、電流密度のシフト、従って、セルの定電流操作において、電流密度の部分的上昇およびセルを越えるセル電圧の望ましくない上昇を生じさせる。
【0023】
さらに、ガス拡散電極の極めて僅かな電気化学活性面積だけが、取り付けにより損なわれることとなる。取り付けは、技術的により簡単な方法に行われることとなる。このような1つの方法は、OCEの重複領域または損傷領域を、酸化銀、疎水性ポリマー成分およびパーフッ素化または部分的にフッ素化された溶媒を含むペーストで被覆することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
従って、本発明は、酸素消費電極の折り目の付いた領域および/またはクラック領域、および/または酸素消費電極が半セルのガス室の枠を並列に置く場合に生じる隣接する酸素消費電極の重複領域をペーストで封止することを特徴とする、電気化学半セルにおける1以上の接合酸素消費電極の気密取り付けのための方法を提供する。該ペーストは、以下、封止ペースト、例えば酸化銀、疎水性ポリマー成分および部分フッ素化またはパーフッ素化溶媒に基づく封止ペースト等と称する。
【0025】
新規な方法は、特に、銀および/または酸化銀を触媒活性成分として含有するガス拡散電極へ適用することができる。本発明は、好ましくはガス空間を電解質空間から分離する電解装置におけるガス拡散電極、特に銀に基づくOCEの取り付けに関する。銀系OCEの製造の例は、例えばDE3710168A1またはEP115845A1に記載される。これらの参照はまた、銀の形態で存在する触媒活性成分種の使用を記載する。銀が炭素上で担持される触媒に基づくOCEを用いることも可能である。
【0026】
封止ペーストおよび/または酸素消費電極は、好ましくは、互いに独立して、フッ素化ポリマー、特にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、および銀含有触媒活性物質に基づく。
【0027】
新規な方法の他の変法では、触媒活性成分は、封止ペースト中においておよび/または酸素消費電極中において、独立して、銀、酸化銀(I)もしくは酸化銀(II)または銀の混合物および酸化銀を含む。
【0028】
新規な方法を行う場合、重複および/または折り目の付いた領域および/または損傷領域は、特に、および好ましくは電解装置が組立後にペーストで被覆された領域上に機械力を与える電解装置における場所に存在する。
【0029】
図では、参照番号を以下の通り定義する:
1、1a 酸素消費電極(OCE)
2 電気化学半セル
3 枠
4 ガス室
5 折り目の付いた領域
6 クラック領域
7 アノード
8 重複領域
9 封止ペースト
10 アノード7を有するアノード半シェル
11 イオン交換膜
12 スペーサー
13 支持体構造
14 封止プロファイル
【0030】
本発明の多くの他の特徴および優位性は、図面以下の詳細な説明を、付随する図面と併せて読むことにより明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、半開放状態における電気化学セルによる概略断面を示し、重複領域を描写する。
【図2】図2は、封止ペーストによる重複領域における2つの酸素消費電極のカバーおよび酸素消費電極における封止ペーストによるクラックのカバーの概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
詳細に図面を参照すると、図1および図2は、酸素消費電極(OCE)1、1aを有する電気化学セルを示す。特に、図1は、電気化学半セル2、10の断面図を、それぞれカソードを有するカソード半セル2およびアノード7を有するアノード半セル10として示す。また、イオン交換膜11およびスペーサー12は、これらの2つの半セルの間に位置し得る。議論した通り、OCEは、銀ベースにより製造され得るか、または触媒から誘導され得る。この構造では、電力は、以下の実施例に更に記載するように、OCE1、1aへ、支持体構造13より供給され得る。1つの半セルはまた、ガス室4を定義する。
【0033】
OCE1、1aは、重複領域8により定義される通り、重複配置において示される。OCEは、図1に示されるように、枠のプロファイル端に位置する封止プロファイル14を含み得る枠3へ更に固定され得る。折り目の付いた領域5(図1)、クラック領域6(図2)または他の損傷領域はOCE上にある。これらの種類の領域は、導入、製造または使用中に引き起こされ得る。
【0034】
封止ペースト9は、損傷領域および/または重複領域8上で、これらの領域8、9が完全にカバーされるように適用され、および分配される。封止ペースト9の損傷領域および/または重複領域8の適用および分配は、以下の実施例に更に記載の通り、OCE1、1aの折り目の付いた領域5およびクラック領域6の封止を可能にする。
【0035】
新規な方法に適した封止ペースト好ましい形態の説明:
封止ペーストを製造するために、以下の平均直径:D50:0.5〜50μm、好ましくは1〜30μmを有する酸化銀を用いるが、より粗いまたはより微細な粉末を原理上用いることもできる。用いる疎水性ポリマーは、OCEを用いる条件下で化学的に安定性であるべきである。例えば、クロルアルカリ電解では、ポリマーは、32重量%濃度NaOHについて、90℃にて純粋酸素の存在下で安定性であるべきである。例えばフッ素化または部分フッ素化ポリマー、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシ(PFA)、パーフルオロエチレンプロピレン(FEP)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)またはポリビニリデンフルオライド(PVDF)等を用いることができる。さらに、ポリマーはまた、酸化銀の酸化作用について、特に封止ペーストを製造する条件下で、極めて安定性であるべきである。
【0036】
封止ペーストのポリマー成分は、好ましくはPTFEを含む。封止ペーストは、酸化銀粉末、PTFE粉末、好ましくはPTFEおよびパーフッ素化炭化水素化合物、例えばパーフッ素化アルカンまたはアミン、例えばパーフルオロオクタンまたはパーフルオロトリエチルアミン、または部分フッ素化溶媒、例えばパーフルオロポリエーテル等からなる群から選択されるフッ素化溶媒から構成することができる。
【0037】
酸化銀、PTFEおよびフッ素化/部分フッ素化溶媒の混合は、手動で、ニーダーまたはミキサー中で好ましく行うことができる。同様に、まず、PTFEを、フッ素化/部分フッ素化溶媒と混合し、次いで、酸化銀を、得られる混合物に添加することができる。最初に酸化銀をPTFEと混合し、フッ素化/部分フッ素化溶媒を、初期混合工程後に添加することもできる。
【0038】
封止ペーストの場合には、ポリマー成分の酸化銀との混合物中における割合は、好ましくは、酸化銀の封止ペーストにおける電気化学還元が、電解装置におけるOCEの操作の条件下で起こることができるように選択する。
【0039】
好ましい方法では、酸化銀の封止ペーストにおける割合は、ペーストの全重量を基準として少なくとも10重量部、特に好ましくは少なくとも20重量部である。ポリマーのために、特に好ましいのは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を用いることである。とりわけ、疎水性ポリマー成分の割合は、好ましくは、ペーストの全重量を基準として60重量%以下、好ましくは40重量%以下である。
【0040】
フッ素化/部分フッ素化溶媒は、パーフッ素化、パーフルオロポリエーテルからなる群から選択され得、またはこれらの溶媒の混合物を該混合物に添加する。さらに、フッ素化/部分フッ素化溶媒は、好ましくは200℃未満の沸点を有するべきである。
【0041】
フッ素化/部分フッ素化溶媒の割合は、好ましくは80重量%以下、特に好ましくは60重量未満である。しかしながら、フッ素化/部分フッ素化溶媒の量は、十分に広がることができる組成物を形成するような量である。本発明では、十分に広がることができるとは、封止ペーストが、OCEの表面、すなわち、電解質側に面するOCEの側またガス側に面する側に塗布することができることを意味する。溶媒の割合があまりに低い場合、封止ペーストは、完全な面積にわたり塗布することができない。反対に、溶媒の割合があまりに小さい場合、封止ペーストは、親水性となり、その結果、OCE表面へ、または後ろ側へ十分に付着することができない。
【0042】
酸化銀を、フィラーのようにポリマー成分中へ組み込むことも可能である。例えば多孔質フィルムを製造するペースト押出により作られたEP951500によるPTFEは、引き続いて粉砕して再び粉末を形成することができる。これは、例えば衝撃を与える道具を素早く動かしながらミキサー中での処理により行うことができる。次いで、得られる粉末は、フッ素化/部分フッ素化溶媒と混合して本発明によるペーストを調製することができる。
【0043】
さらに、ポリマーは、DE2941774の混合工程と同様の方法により酸化銀と処理することができ、次いで得られる粉末を、フッ素化溶媒と混合することができる。フッ素化/部分フッ素化溶媒の組み込みは、混合工程を継続することにより行うことができる。
【0044】
シーリングペーストの使用:
封止ペーストを、好ましくはOCEの重複領域を封止するために、特に、該ペーストを、0.1〜1000μmの範囲の厚みに、OCRの封止すべき領域の片側または両側へ塗布することにより用いることができる。次いで、封止ペーストで被覆された領域を、互いに重ねて置く。次いで、酸化銀の還元を、例えば電解装置中における操作条件下で作用させることができる。更なる封止作用が重複領域にもたらされる。
【0045】
同様に、銀含有触媒活性層または酸化銀含有触媒活性層における欠陥箇所を、修復および封止することもできる。このように修復された領域の優位性は、該領域が電気化学酸素還元について部分的に活性な状態を維持することである。その結果、OCE面積は、あまり減少しない。
【0046】
封止ペーストを有さない酸素消費電極の層厚みは、典型的には0.1〜0.8mm、好ましくは0.2〜0.7mmの範囲である。
【0047】
本発明は、電気化学半セルを更に提供する。ある実施態様では、半セルは、酸素消費電極が、折り目の付いた領域および/または酸素消費電極のクラック領域および/または隣接酸素消費電極の重複領域を有することを特徴とする、1以上の隣接酸素消費電極を有する。該領域は、半セルのガス室の枠上での取り付けにより生じ得る。さらに、これらの領域は、少なくとも酸化銀および疎水性ポリマー成分およびフッ素化溶媒に基づく封止ペーストで封止される。
【0048】
好ましい電気化学半セルは、フルオロ化ポリマー、特にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を、酸素消費電極のガス拡散層中に含有することを特徴とする。
【0049】
さらに好ましいのは、上記新規方法の1つに従う酸素消費電極の取り付けにより得られる電気化学半セルの変形である。
【0050】
本発明はまた、新規な電気化学セルのクロルアルカリ電解、特にNaClの電解における使用に関する。
【0051】
本発明の実施態様は、図1および図2を用いて、実施例を用いて以下に更に説明する。しかしながら、これらの実施例は、本発明の制限を構成するものではない。
【実施例】
【0052】
20gのPTFE(種類 TF2053 Dyneonから)および40gのパーフッ素化ポリエーテル(種類 Galden SV90、製造業者:Solvay Solexis)および20gの酸化銀(平均粒子直径 D50:8μm)を、ガラス棒を用いて均質な封止ペーストが形成されるまで混合した。封止ペーストを、酸素消費電極(OCE)の表面およびOCEの後側へ、酸素消費電極1、1aの重複領域8において塗布した。酸素消費電極1、1aは、EP115845A1に記載の通り製造された銀系OCEであった。代替法として、銀を炭素上で担持させた触媒に基づくOCEを同様に用いた。酸素消費電極(1)および(1a)の重複領域8は、8mmであった。さらに、封止ペーストを重複領域8に塗布し、封止ペースト9の厚みは約1mmであった。
【0053】
封止作用を、電気化学セルにおいて試験した。カソード半セル2において、電力をカソード1、1aへ、支持体構造13より供給した(図1参照)。この目的のために、2つの酸化銀系酸素消費カソード1および1a(OCE)を、これらが重複し、および封止プロファイル14により枠3のプロファイル端において固定されるように共に置いた(図1)。上記酸化銀ペースト9を、封止ペースト9が重複領域8を完全に覆うように重複領域8上で分配した。
【0054】
図2は、図1に対応する概略側面図において、ペースト9の位置およびOCE1および1aの位置を重複領域8において示す。アノード半セル10は、Denoraからの新規な酸化金属含有DSA被覆物による拡張チタン金属製のアノード7を有した。電解質およびガスの流入および放出は、断面図の平面の外側にあるので図に示されない。電解セルは、流下膜式セルとして操作したので、カソード注入口は、半セルの上部に位置し、排出口は、スペーサー12の下部端に位置する。次いで、電気化学セルを組立て、始動させた。セルの下部端でのアルカリ圧は、20ミリバールであった。ガス空間4におけるガス圧(酸素)は60ミリバールであった。210g/Lの塩化ナトリウム含有量を有する塩化ナトリウム含有溶液は陽極液として働き、および30%濃度水酸化ナトリウム溶液は、陰極液として用いた。電解の温度は、約85℃であり、電流密度は4kA/mであった。
【0055】
イオン交換膜(種類 Nafion N982WX、製造業者 DuPont)11と銀系酸素消費電極1;1aとの間の距離を一定な3mmに維持するスペーサー12を、重複領域8に沿って配した。始動後、増加ガスまたは液体突破は観測されなかった。セルのセル電圧は、予期された領域にあり、1つだけの重複領域8を有さない連続酸素消費カソードを有するセルと比べて上昇しなかった。
【0056】
また、ペースト9は、図2に示される半セル2のガス室4の枠3において起こる酸素消費電極1、1aの折り目の付いた領域5またはクラック領域6を、上記と同様の方法により、封止することを可能とする。
【0057】
本発明の実施態様および実施例を示し、および記載したが、さらに多くの変更が、本発明の概念から逸脱することなく可能であることは当業者に明らかである。さらに、本明細書において議論した実施例は制限を構成するものではない。このように、本発明は、次の特許請求の範囲の精神を除いて制限されない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素消費電極を電気化学セルに取り付ける方法であって、
1以上の酸素消費電極を、損傷領域および/または重複領域を有する電気化学半セルにおいて、封止ペーストを塗布することにより封止する工程を含み、該封止ペーストは、酸化銀、疎水性ポリマー成分およびパーフッ素化または部分フッ素化溶媒を含む、前記方法。
【請求項2】
酸化銀は、0.5〜50μmの測定平均直径を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
酸化銀は、1〜30μmの測定平均直径を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
封止ペーストは、フッ素化または部分フッ素化ポリマーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
封止ペーストは、ポリテトラフルオロエチレンおよび銀含有触媒活性物質を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
触媒活性物質は、銀、酸化銀(I)もしくは酸化銀(II)または銀および酸化銀の混合物を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
触媒活性物質は、封止ペーストの全重量を基準として少なくとも10重量%の酸化銀を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
触媒活性物質は、封止ペーストの全重量を基準として少なくとも20重量%の酸化銀を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
1以上の酸素消費電極は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)および銀含有触媒活性物質を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
封止ペーストは、70重量%〜95重量%の酸化銀を有する触媒活性成分を含有する混合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
封止ペーストは、0重量%〜15重量%の銀金属粉末を有する触媒活性成分を含有する混合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
封止ペーストは、3重量%〜15重量%の銀金属粉末を有する触媒活性成分を含有する混合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
フッ素化ポリマーは、ポリテトラフルオロエチレンである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
1以上の酸素消費電極は、ポリテトラフルオロエチレンおよび銀含有触媒活性物質を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
触媒活性物質は、銀、酸化銀(I)もしくは酸化銀(II)または銀および酸化銀の混合物を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
触媒活性物質は、封止ペーストの全重量を基準として少なくとも10重量%の酸化銀を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
触媒活性物質は、封止ペーストの全重量を基準として少なくとも20重量%の酸化銀を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
1以上の酸素消費電極は、70〜95重量%の酸化銀を有する触媒活性成分を含有する混合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
1以上の酸素消費電極は、0〜15重量%の銀金属粉末を有する触媒活性成分を含有する混合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
1以上の酸素消費電極は、3〜15重量%のフッ素化ポリマーを有する触媒活性成分を含有する混合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
フッ素化ポリマーは、ポリテトラフルオロエチレンである、請求項12に記載の方法。
【請求項22】
封止ペーストと酸素消費電極を共に、封止ペーストの塗布後にプレスする工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
封止ペーストは、パーフッ素化炭化水素、パーフルオロオクタン、パーフルオロトリエチルアミンパーフルオロポリエーテル、およびパーフッ素化炭化水素およびパーフルオロポリエーテルの混合物からなる群から選択される溶媒を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
封止ペーストは、封止ペーストの全重量を基準として60重量%以下の疎水性ポリマー成分の割合を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
封止ペーストは、封止ペーストの全重量を基準として40重量%以下の疎水性ポリマー成分の割合を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
封止ペーストは、封止ペーストの全重量を基準として80重量%以下の部分的またはパーフッ素化溶媒の割合を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
封止ペーストは、封止ペーストの全重量を基準として60重量%以下の部分的またはパーフッ素化溶媒の割合を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
封止ペーストを、0.1〜1000μmの厚みで封止すべき領域の片側または両側へ塗布する、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
封止ペーストで封止された損傷領域および/または重複領域を有する1以上の隣接酸素消費電極を含み、該封止ペーストは、酸化銀、疎水性ポリマー成分およびフッ素化溶媒を含む、電気化学セル。
【請求項30】
電気化学半セルは、クロルアルカリ電解に用いられる、請求項29に記載の電気化学セル。
【請求項31】
電気化学半セルは、NaClの電解に用いられる、請求項29に記載の電気化学セル。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−126997(P2012−126997A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−269754(P2011−269754)
【出願日】平成23年12月9日(2011.12.9)
【出願人】(504037346)バイエル・マテリアルサイエンス・アクチェンゲゼルシャフト (728)
【氏名又は名称原語表記】Bayer MaterialScience AG
【Fターム(参考)】