説明

酸素消費電極

【課題】先行技術の欠点を解消する、特に塩化アルカリの電気分解に使用するための、酸素消費電極を提供する。
【解決手段】シート様構造物状の支持体、並びにガス拡散層および触媒活性成分を含んでなる被膜を含んでなる酸素消費電極であって、支持体が溶解、分解、溶融および/または蒸発によって少なくとも部分的に除去できる材料に基づく酸素消費電極。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、シート様構造物状の支持体を含んでなる酸素消費電極であって、シート様構造物が可溶性材料に基づく酸素消費電極に関する。本発明の分野は更に、酸素消費電極の製造方法、並びに塩化アルカリの電気分解または燃料電池技術における酸素消費電極の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、ガス拡散電極として構成された、導電性支持体および触媒活性成分含有ガス拡散層を通常含んでなる、それ自体知られている酸素消費電極から出発している。
【0003】
工業規模の電解槽において酸素消費電極を運転するための様々な提案が、先行技術から基本的に知られている。基本的な考え方は、酸素消費電極(陰極)によって、電気分解(例えば塩化アルカリの電気分解)における水素発生陰極を置き換えることである。可能な電解槽の設計および解決法の概説は、Moussallemらによる出版物 “Chlor-Alkali Electrolysis with Oxygen Depolarized Cathodes: History, Present Status and Future Prospects”, J. Appl. Electrochem. 38 (2008) 1177-1194に見ることができる。
【0004】
以下において略してOCEとも称される酸素消費電極は、工業用電解槽において使用できるようにするために、多くの要求を満たさなければならない。例えば、使用する触媒をはじめ全ての材料は、典型的には80〜90℃の温度で、約32重量%の濃度を有する水酸化ナトリウム溶液および純酸素に対して安定でなければならない。電極は、通常面積2mを超える寸法(工業規模)を有する電解槽に設置され、運転されるので、高い機械的安定度も同様に必要とされる。別の性質は、高い導電性、小さい層厚さ、大きい内部表面積、および電解触媒の高い電気化学活性である。気体空間および液体空間が互いに分離されたままでいられるよう不透過性であるように、気体および電解液の通過に適当な疎水性孔および親水性孔並びに適当な孔構造もまた必要である。長期安定性および安価な製造コストは、工業的に使用できる酸素消費電極が満たさなければならない更なる特有の要求である。
【0005】
塩化アルカリの電気分解におけるOCE技術の使用に対する別の開発方向は、水酸化ナトリウムギャップがOCEに直接隣接しないようにして、電解槽において陽極空間を陰極空間から分離するイオン交換膜である。この配置は、先行技術において、ゼロギャップ配置とも称されている。この配置は通常、燃料電池技術においても使用されている。その場合の欠点は、生じた水酸化ナトリウムがOCEによって気体サイドに移され、次いでOCEで下流に流れなければならないことである。ここでは、水酸化ナトリウム溶液によるOCEにおける孔の閉塞または孔における水酸化ナトリウムの結晶化は、生じてはならない。非常に高い水酸化ナトリウム濃度が生じる場合もあり、イオン交換膜は、そのような高濃度に対して長期間安定ではないことが見出された(Lippら、J. Appl. Electrochem. 35 (2005)1015 - Los Alamos National Laboratory "Peroxide formation during chloralkali electrolysis with carbon-based ODC")。
【0006】
常套の酸素消費電極は典型的には、触媒活性成分含有ガス拡散層が適用された導電性支持体要素を含んでなる。疎水性成分として、例えば、触媒のためのポリマーバインダーとしても作用するポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を使用する。貴金属触媒を有する電極の場合、貴金属は親水性成分として作用する。
【0007】
金属、金属化合物、非金属化合物、金属化合物または非金属化合物の混合物が一般に、触媒として作用する。しかしながら、炭素支持体に適用された金属(特に白金族の金属)もまた知られている。
【0008】
先行技術の支持体要素は一般に、導電性材料の織網、例えば、ニッケル線、銀線または銀被覆ニッケル線の織網である。
【0009】
先行技術の支持体要素のために、炭素も様々な形態で使用されており、その例は、炭素繊維で作られた織布または紙材である。導電性を高めるため、例えば、金属を炭素上に被覆することによって、または炭素繊維と金属繊維およびフィラメントで作られた混合織物によって、炭素を金属成分と組み合わせることができる。
【0010】
先行技術では、支持体要素は、2つの重要な機能を有する:支持体要素は第一に、電極の製造中および製造後に触媒含有層のための機械的支持として作用し、第二に、反応部位への電流の分布を確実にする。
【0011】
先行技術で知られている支持体要素の欠点は、それらが触媒的にほとんど不活性であり、酸素消費電極の単位体積当たりの活性を低減することである。加えて、支持体要素は、酸素消費電極による物質移動に利用可能な自由領域を減少させる。このことは、物質移動を阻害し、従って、酸素消費電極の性能を低減する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Moussallemら、“Chlor-Alkali Electrolysis with Oxygen Depolarized Cathodes: History, Present Status and Future Prospects”, J. Appl. Electrochem. 38 (2008) 1177-1194
【非特許文献2】Lippら、J. Appl. Electrochem. 35 (2005)1015 - Los Alamos National Laboratory "Peroxide formation during chloralkali electrolysis with carbon-based ODC"
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って本発明は、前記欠点を解消する、特に塩化アルカリの電気分解に使用するための、酸素消費電極を提供する。
【0014】
本明細書では、用語および/または文脈が別途明確に記載していない限り、単数形のための用語「a」および「the」は、「1以上」および「少なくとも1」と同義であり、互いに置き換えて使用することができる。従って、例えば、明細書または特許請求の範囲における「a coating」は、「1つの被膜」または「1つ以上の被膜」に言及し得る。また、数値の全ては、特に記載のない限り、用語「約」によって修飾されていると理解すべきである。
【0015】
本発明は、既知の支持体要素に起因する欠点を解消する、特に支持体要素による物質移動の阻害を回避する、酸素消費電極を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記のことは、溶解、分解、溶融および/または蒸発によって少なくとも部分的に除去できる材料からなる支持体要素に基づき、支持体要素を溶解または分解することによって酸素消費電極を機能させる、酸素消費電極によって達成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の態様は、
シート様構造物状の支持体、並びに
ガス拡散層および触媒活性成分を含んでなる被膜
を含んでなる酸素消費電極であって、支持体が溶解、分解、溶融および/または蒸発によって少なくとも部分的に除去できる材料に基づく酸素消費電極を提供する。
【0018】
従って、触媒成分の適用およびガス拡散層の製造のために初期には必要とされた支持体は、得られる空隙を(例えば触媒活性成分への電解質の)より容易な物質移動に利用するために、完成電極から少なくとも部分的に除去することができる。
【0019】
本発明の態様は、支持体の機械的性質に代わるものとして、ガス拡散層の自己支持性を利用している。
【0020】
本明細書に記載したように製造された酸素消費電極は、十分機械的に安定であり、意外なことに常套の酸素電極より良好な特性を示す。
【0021】
支持体に適した材料は基本的に、ポリマー、鉱物繊維および金属から選択される。本発明の態様では、支持体材料は、水または水溶液(特に酸性溶液または塩基性溶液)によって電極から溶解されるかまたは分解される。好ましい水溶性材料の例は、ポリビニルアルコールおよびポリビニルピロリドンである。
【0022】
支持体の除去は、溶解、溶融、蒸発または分解によって実施できる。分解/溶解に適した媒体は、水、アルカリ、酸、有機溶媒である。分解は、付加的な加熱または照射によって、或いは加熱および/または照射によって補うことができる。
【0023】
アルカリ性媒体に溶解するため、各々の場合において、各支持体材料を溶解させる試薬を使用することができる。
【0024】
酸素消費電極の1つの実施態様は、支持体材料が、少なくとも9のpHを有する塩基性水溶液によって、好ましくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウムからなる群から選択される苛性アルカリ(好適には水酸化ナトリウム)の作用によって、電極から溶解されるかまたは分解されることを特徴とする。
【0025】
特に、アルカリに対して不安定な金属、例えばアルミニウム、錫、亜鉛、ベリリウムを使用することができる。
【0026】
従って、塩基によって攻撃され得る支持体材料もまた好ましい。そのような支持体材料は特に、ポリエステル、とりわけポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートおよびそれらのコポリマー、ポリフッ化ビニリデン;アルミニウム;鉱物繊維、とりわけEガラス、Rガラス、Sガラス、Aガラス、Cガラス、Dガラスで作られた繊維からなる群から選択される。
【0027】
酸性媒体に溶解するため、各々の場合において、各支持体材料を溶解させる試薬を使用することができる。鉱酸および有機酸の両方を使用できる。触媒に対して悪影響を及ぼすアニオンによる汚染が懸念されない酸が好ましい。従って、好ましい酸は硫酸である。
【0028】
支持体材料は好ましくは、5以下のpHを有する酸性水溶液によって、特に好ましくは鉱酸の作用によって、とりわけ好ましくは硫酸によって、電極から溶解されるかまたは分解される。
【0029】
特に、酸に対して不安定な金属、例えばアルミニウム、亜鉛または鉄を使用できる。
【0030】
支持体材料がアルミニウム、亜鉛およびそれらの合金並びにポリアミドからなる群からの材料に基づく、酸素消費電極の態様が特に好ましい。
【0031】
溶媒によって溶解するため、各々の場合において、各支持体材料を溶解させる試薬を使用できる。例えば、ポリスチレンまたはポリカーボネートマトリックスの溶解にトルエンまたは塩化メチレンを、或いはポリアクリロニトリルマトリックスの溶解にエチレンカーボネートを使用できる。各材料に適した溶媒は、当業者に基本的に知られている。
【0032】
酸素消費電極の別の実施態様は、支持材材料が有機溶媒によって電極から溶解されるかまたは分解される材料であることを特徴とする。
【0033】
従って、有機溶媒によって攻撃される支持体材料もまた好ましい。そのような支持体材料は特に、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネートおよびポリスチレンからなる群から選択される。適当なポリマーは例えば、水溶性ポリマー、例としてポリビニルアルコールまたはポリビニルピロリドン、およびポリアクリロニトリル、ポリアミド6、ポリアミド6.6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリカーボネート、ポリスチレン、およびABS、SAN、ASAのようなコポリマー、ポリフェニレンオキシド、ポリウレタン、ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートおよびポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリブチレン、酢酸セルロース、ポリラクチド、並びに前記ポリマーのコポリマーおよび混合物である。
【0034】
適当な鉱物繊維は、ガラス繊維、好ましくはEガラス、Rガラス、Sガラス、Aガラス、Cガラス、Dガラスで作られた繊維である。
【0035】
しかしながら、別の態様として、セルロース系天然材料、例えば綿またはサイザル、或いはウールを支持体材料として使用することもできる。
【0036】
前記材料の組み合わせを使用することもできる。
【0037】
融点の低い金属合金、例えば、ビスマス/錫、或いはビスマスと錫、鉛、カドミウムおよび/または別の成分との他の合金も同様に適している。
【0038】
前記材料の組み合わせを使用することもできる。
【0039】
水および/またはアルカリ性水溶液において分解および/または溶解する材料が好ましい。アルカリ性水溶液において分解および/または溶解する材料が特に好ましい。
【0040】
支持体は、織布/織網、編物、不織布、穿孔フィルム、フォームまたは他の透過性シート様構造物の形状で使用することができる。多層構造物、例えば2層以上の、織布/織網、編物、不織布、穿孔フィルム、フォームまたは他の透過性シート様構造物を使用することもできる。層は、異なった厚さおよび異なった網目または穿孔の大きさを有することができる。支持体またはその前駆体を、サイズ剤または他の添加剤で処理して、加工性を改善することができる。
【0041】
本発明の幾つかの態様では、支持体のシート様構造物は、織布/織網、編物、不織布、穿孔フィルム、フォームの形状で、好ましくは織布/織網として存在し、特に複数の層からなる。
【0042】
酸素消費電極の好ましい形態は、ガス拡散層がフッ素化ポリマー(特にポリテトラフルオロエチレン)および更に場合により触媒活性材料に基づくことを特徴とする。
【0043】
幾つかの態様では、触媒活性成分は、銀、酸化銀(I)、酸化銀(II)およびそれらの混合物(特に銀と酸化銀(I)との混合物)からなる群から選択される。
【0044】
支持体の被覆は、それ自体知られている常套の技術を用いて実施することができる。
【0045】
銀触媒は、酸素消費陰極を用いたアルカリ金属塩化物の電気分解に特に有用であることが見出された。
【0046】
銀触媒を有するOCEの製造では、好ましいことに、少なくとも部分的に酸化銀(I)または酸化銀(II)として銀を導入し、次いで金属銀に還元することができる。還元は、銀化合物の還元条件下にある電気分解の初期段階において、或いは電極を機能させる前に当業者に知られている電気化学的方法、化学的方法または他の方法による独立した工程において実施する。銀化合物の還元では、微結晶配列の変化、特に個々の銀粒子間のブリッジ形成も起こる。これによって全体的に、構造が強化される。
【0047】
酸素消費電極の製造は基本的に、乾燥製造方法と湿潤製造方法に分類することができる。
【0048】
乾燥製造方法では、触媒およびポリマー成分の混合物を微粒子に粉砕し、次いで、支持体要素上に分布させ、室温でプレスする。そのような方法は、例えばEP 1728896 A2に記載されている。
【0049】
本発明において使用するための好ましい触媒は、銀、酸化銀(I)、酸化銀(II)またはそれらの混合物であり、好ましい支持体は、直径0.1〜0.3mmのポリマー糸または金属線で作られ、網目の大きさが0.2〜1.2mmの網である。
【0050】
湿潤製造方法では、触媒およびポリマー成分のペーストまたは懸濁液のいずれかを使用する。ペーストまたは懸濁液の調製において、懸濁液の安定性を高めるために、界面活性物質を添加することができる。ペーストは、スクリーン印刷またはカレンダリングによって支持体要素に適用する。一方、粘性のより低い懸濁液は、通常、支持体要素に噴霧する。ペーストまたは懸濁液は、乳化剤を濯ぎ落とした後に穏やかな条件下で乾燥し、次いで、ポリマーの融点付近の温度で焼結する。そのような方法は、例えばUS 20060175195 A1に記載されている。
【0051】
先行文献は、第一工程で、触媒およびポリマーの混合物を圧縮してシート様構造物(ロールドシート)を形成し、次いで、この構造物を支持体要素にプレスする方法も開示している。そのような方法の例は、DE 10148599 A1またはEP 0115845 B1に記載されている。これらのシート様構造物は低い機械的安定度を有するので、これらの方法は工業的にはほとんど実施されないことが分かっている。従って、まず触媒およびポリマーの混合物で支持体要素を被覆し、別の工程で圧縮および強化を実施する方法が好ましい。
【0052】
このように、前記可溶性または分解性材料で作られた支持体は、前記乾燥製造方法において使用することができる。支持体用材料として、本発明では、例えばPETモノフィラメントで作られた織布を挙げることができるが、それに限定されない。PETモノフィラメント織布は、十分に寸法安定であり、前記技術を用いて被覆することができる。触媒活性構成物は熱の導入を伴わずに強化されるので、支持体要素の構造および強度は、この製造工程で保持される。これにより、別の工程で支持体が除去される電極を得る。
【0053】
強化工程後、濃水酸化ナトリウム溶液を電極に作用させることによって、独立した工程で除去を実施することができる。PETの分解後、電極を別のアルカリ溶液および任意に水で濯ぎ、テレフタレートおよびエチレングリコールの残留物を除去する。これにより、装置に設置でき、例えば水酸化ナトリウムを製造するために、使用できる酸素消費電極を得る。
【0054】
しかしながら、1つの実施態様では、電極は、アルカリ金属塩化物溶液の電気分解に使用する電気分解装置に、触媒活性層の圧縮後に設置することもできる。初期段階において、陰極は、分離されたまま、テレフタレートおよびエチレングリコールによる汚染によって阻害されない使用に移される、汚染されたアルカリ溶液を生じる。この初期段階の後、仕様通りのアルカリ金属水酸化物を生成できる高性能OCEを得る。
【0055】
別の態様として、ポリカーボネートモノフィラメントで作られた織布を、前記乾燥製造方法で使用することができる。次いで、触媒活性層の圧縮後、モノフィラメントを塩化メチレンまたは別の溶媒によって溶解し、続いて、塩化メチレンで濯ぎ、溶媒残留物を蒸発させ、機能性酸素消費電極を得る。
【0056】
同様に、前記可溶性または分解性材料で作られた支持体は、前記湿潤製造方法において使用できる。本発明では、融点が焼結温度より高い材料が好ましい。支持体用材料として、例えば、アルミニウム線の織網を挙げることができるが、それに限定されない。アルミニウム線の織網は、ニッケル線または銀線の常套の織網と同様に、記載した技術によって被覆することができる。次いで、既知の技術を用いて、触媒活性層を圧縮し、焼結する。これにより、別の工程で支持体が除去される電極を得る。
【0057】
アルカリ金属水酸化物溶液によるアルミニウム線網の除去は、好ましくは、生じた水素を安全に排出するための対策を講じた独立した装置で実施する。アルミニウム支持体の分解後、水酸化アルミニウムの残留物を除去するため、電極を別のアルカリおよび任意に水で濯ぐ。これにより、装置に設置でき、例えば水酸化ナトリウムを製造するために使用できる酸素消費電極を得る。
【0058】
別の態様として、ガラス繊維の織布/織網を、前記湿潤製造方法において使用することができる。1つの実施態様では、被覆、圧縮および焼結の後、電極を、アルカリ金属塩化物溶液の電気分解に使用する陰極素子に設置する。初期段階において、この陰極は、分離されたまま、汚染によって阻害されない使用に移される、シリケートおよび他の成分で汚染されたアルカリ溶液を生じる。この初期段階の後、仕様通りのアルカリ金属水酸化物を生成できる高性能OCEを得る。
【0059】
酸素消費電極は、特にアルカリ金属塩化物(好適には塩化ナトリウムまたは塩化カリウム、とりわけ好適には塩化ナトリウム)を電気分解するための電解槽において、陰極として接続することが好ましい。
【0060】
本発明の別の態様は更に、膜電解槽において陰極としての前記酸素消費電極および陽極を用いた、特に塩化アルカリの電気分解のための、電気分解法であって、酸素消費電極を機能させる前に支持体材料を少なくとも部分的に除去し、酸素消費電極を陰極として機能させることを特徴とする電気分解法を提供する。
【0061】
別の態様として、酸素消費電極は好ましくは、燃料電池における陽極として接続することができる。
【0062】
本発明の態様はまた、アルカリ型燃料電池において陽極として前記酸素消費電極を用いた発電方法であって、酸素消費電極を機能させる前に支持体材料を少なくとも部分的に除去し、酸素消費電極を陽極として機能させることを特徴とする発電方法を提供する。
【0063】
従って、本発明の態様は更に、前記酸素消費電極の、アルカリ性媒体において(特にアルカリ型燃料電池において)酸素を還元するための、または金属/空気電池における電極としての使用、或いは例えば次亜塩素酸ナトリウムを製造するための、幹線の水処理における使用、或いは塩化アルカリの電気分解(特にLiCl、KClまたはNaClの電気分解)における使用を提供する。
【0064】
OCEは特に好ましくは、塩化アルカリの電気分解で使用され、本発明ではとりわけ塩化ナトリウム(NaCl)の電気分解で使用される。
【0065】
本発明の態様は更に、酸素消費陰極として前記酸素消費電極を有する、特に塩化アルカリを電気分解するための、電気分解装置を提供する。
【0066】
広範な本発明の概念から逸脱することなく前記態様を変更できることは、当業者に理解されるであろう。従って、本発明が前記した特定の態様に限定されることはなく、特許請求の範囲に規定された本発明の意図および範囲を超えない変更をカバーすることが意図されていると理解される。
先に記載した引用文献の全ては、有用な目的全てのために、それらの全内容を引用してここに組み込む。
【実施例】
【0067】
実施例1
7重量%のPTFE粉末、88重量%の酸化銀(I)および5重量%の銀粉末(Ferro社製グレード331)を含有する粉末混合物3.5kgを、粉末混合物の温度が55℃を超えないようにして、混合装置としての星形スピナーを備えたEirich model R02ミキサーにより、6000rpmの撹拌速度で混合した。温度が55℃を超えないことは、混合操作を中断し、混合物を冷却室で冷却することによって達成した。混合は、合計3回実施した。混合後、1.0mmの網目の大きさを有する、目の細かい篩によって、粉末混合物を篩過した。
【0068】
次いで、篩過した粉末混合物を、網目の大きさ0.5mmを有する、直径0.25mmのアルミニウム線で作った網に適用した。粉末を、網目の大きさ0.1mmの篩によって適用しながら、2mm厚のテンプレートを用いて適用を実施した。テンプレートの厚さを超えたと見られる過剰の粉末を、スクレーパーによって除去した。テンプレートを取り除いた後、ローラープレスによって0.5kN/cmの押圧で、適用した粉末混合物と一緒に支持体をプレスした。
【0069】
このようにして得たガス拡散電極を、32%濃度の水酸化ナトリウム溶液を含む槽に移した。水素ガスが発生し、強い空気流に放出した。18時間後、水酸化ナトリウム槽から電極を取り出し、蒸留水で濯いだ。
【0070】
4kA/mおよび80℃での半電池における電気化学的インピーダンス分光法によって、可逆水素電極(Gaskatel社製HydroFlex(登録商標))に対して0.764Vの電位が、電極について測定された。
【0071】
実施例2(比較例)
アルミニウム線に代えて銀被覆ニッケル線で作られているが、同じ寸法を有する網を用い、実施例1に記載の方法によって、ガス電極を製造した。従って、支持体構造物の溶解は実施しなかった。
【0072】
4kA/mおよび80℃での半電池における電気化学的インピーダンス分光法によって、可逆水素電極(Gaskatel社製HydroFlex(登録商標))に対して0.752Vの電位が、電極について測定された。測定装置の電位損失に対して電位を補正した。
【0073】
本発明の電極を、常套の電極と比較すると、12mV高い電位を有することがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート様構造物状の支持体、並びに
ガス拡散層および触媒活性成分を含んでなる被膜
を含んでなる酸素消費電極であって、支持体が溶解、分解、溶融および/または蒸発によって少なくとも部分的に除去できる材料に基づく酸素消費電極。
【請求項2】
支持体材料が、水または水溶液によって電極から溶解されるかまたは分解される、請求項1に記載の酸素消費電極。
【請求項3】
水溶液が酸性溶液または塩基性溶液を含んでなる、請求項2に記載の酸素消費電極。
【請求項4】
支持体材料が、5以下のpHを有する酸性水溶液によって電極から溶解されるかまたは分解される、請求項1に記載の酸素消費電極。
【請求項5】
酸性水溶液が鉱酸を含んでなる、請求項4に記載の酸素消費電極。
【請求項6】
酸性水溶液が硫酸を含んでなる、請求項4に記載の酸素消費電極。
【請求項7】
支持体が、アルミニウム、亜鉛、アルミニウム合金、亜鉛合金およびポリアミドからなる群から選択される材料に基づく、請求項1に記載の酸素消費電極。
【請求項8】
支持体材料が、少なくとも9のpHを有する塩基性水溶液によって電極から溶解されるかまたは分解される、請求項1に記載の酸素消費電極。
【請求項9】
塩基性水溶液が、水酸化ナトリウム溶液および水酸化カリウム溶液からなる群から選択されるアルカリ金属水酸化物溶液を含んでなる、請求項8に記載の酸素消費電極。
【請求項10】
支持体材料が、ポリエステル、ポリブチレンテレフタレートおよびそれらのコポリマー、ポリフッ化ビニリデン、アルミニウムおよび鉱物繊維からなる群から選択される、請求項1に記載の酸素消費電極。
【請求項11】
支持体材料がポリエチレンテレフタレートを含んでなる、請求項10に記載の酸素消費電極。
【請求項12】
支持体材料が、Eガラス、Rガラス、Sガラス、Aガラス、CガラスまたはDガラスで作られた繊維を含んでなる、請求項10に記載の酸素消費電極。
【請求項13】
支持体材料が、有機溶媒よって電極から溶解されるかまたは分解される、請求項1に記載の酸素消費電極。
【請求項14】
支持体材料が、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネートおよびポリスチレンからなる群から選択される、請求項1に記載の酸素消費電極。
【請求項15】
支持体材料が、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネートおよびポリスチレンからなる群から選択される、請求項13に記載の酸素消費電極。
【請求項16】
支持体材料が、ポリビニルアルコールまたはポリビニルピロリドンを含んでなる、請求項1に記載の酸素消費電極。
【請求項17】
支持体のシート様構造物が、織布/織網、編物、不織布、穿孔フィルム、またはフォームの形状で存在する、請求項1に記載の酸素消費電極。
【請求項18】
支持体のシート様構造物が、織布/織網の形状で存在する、請求項1に記載の酸素消費電極。
【請求項19】
支持体が複数の層を含んでなる、請求項1に記載の酸素消費電極。
【請求項20】
ガス拡散層がフッ素化ポリマーを含んでなる、請求項1に記載の酸素消費電極。
【請求項21】
ガス拡散層がポリテトラフルオロエチレンを含んでなる、請求項1に記載の酸素消費電極。
【請求項22】
ガス拡散層が触媒活性材料を更に含んでなる、請求項20に記載の酸素消費電極。
【請求項23】
触媒活性成分が、銀、酸化銀(I)、酸化銀(II)およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の酸素消費電極。
【請求項24】
触媒活性材料が、銀、酸化銀(I)、酸化銀(II)およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項22に記載の酸素消費電極。
【請求項25】
触媒活性成分が銀と酸化銀(I)との混合物を含んでなる、請求項1に記載の酸素消費電極。
【請求項26】
陰極としての請求項1に記載の酸素消費電極および陽極を含んでなる膜電解槽を供給する工程、
酸素消費電極を機能させる前に支持体材料を少なくとも部分的に除去する工程、および
陰極としての酸素消費電極を有する膜電解槽を稼働する工程
を含む、特に塩化アルカリの電気分解のための、電気分解法。
【請求項27】
陽極としての請求項1に記載の酸素消費電極および陰極を含んでなるアルカリ型燃料電池を供給する工程、
酸素消費電極を機能させる前に支持体材料を少なくとも部分的に除去する工程、および
陽極としての酸素消費電極を有するアルカリ型燃料電池を稼働する工程
を含む、発電方法。
【請求項28】
請求項1に記載の酸素消費電極を含んでなる、アルカリ型燃料電池または金属/空気電池。
【請求項29】
酸素消費陰極としての請求項1に記載の酸素消費電極を含んでなる電気分解装置。

【公開番号】特開2012−107326(P2012−107326A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−230353(P2011−230353)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(504037346)バイエル・マテリアルサイエンス・アクチェンゲゼルシャフト (728)
【氏名又は名称原語表記】Bayer MaterialScience AG
【Fターム(参考)】