説明

酸素発生器及び酸素発生方法

【課題】 金属塩触媒を使用することなく、酸素発生剤の有効期間を延ばす。また、携帯性、とくに登山者の必須携帯品として海抜2000メートル以上の高所での携帯に便利で、使用時における作業性及び酸素発生までの迅速性のそれぞれを向上する。
【解決手段】 本発明に係る酸素発生器1は、第一室13及び第二室14を有し、第一室13と第二室14とが隔離された隔離状態と、第一室13と第二室14との隔離が解除された解除状態と、を形成することが可能な袋体11と、隔離状態を形成した袋体11の第一室13に封入された過酸化物40と、隔離状態を形成した袋体11の第二室14に封入された触媒50と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素発生器及び酸素発生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、過酸化物を分解して酸素を発生させる方法が知られている。この方法では、過酸化物の分解反応速度をコントロールするために、二酸化マンガン、あるいは酵素の一種であるカタラーゼ等の触媒が用いられる。
【0003】
また、これまでに過酸化物を分解して酸素を発生させる方法として、酸素発生剤を水中に投入することによって酸素を発生させる方法が知られている(特許文献1参照)。特許文献1に記載された方法では、酸素発生剤が、過酸化物粒子の表面に水溶性皮膜を施してマイクロカプセル化するとともに、その表面にカタラーゼを付着させて構成されている。
【0004】
これにより、酸素発生剤を水中に投入すると、水溶性皮膜が溶解された後に、過酸化物が水に溶解されて酸素を発生させる。したがって、特許文献1に記載された方法によれば、過酸化物と触媒とを別個に用意する必要がなくなり、酸素発生剤を水中に投入するだけの簡単な作業で、長時間にわたり安定した酸素供給が可能となる。
【0005】
また、過酸化物を分解して酸素を発生させる他の方法として、過酸化物及び触媒を封入した不織布袋体を水中に投入することによって酸素を発生させる方法も知られている(特許文献2参照)。特許文献2に記載された方法では、不織布袋体が、水溶性の材料で構成されている。これにより、不織布袋体を水中に投入すると、不織布袋体が溶解された後に、過酸化物が水に溶解されて酸素を発生させる。
【0006】
したがって、特許文献2に記載された方法によれば、過酸化物と触媒とを別々に保管する必要がなくなり、薬剤の取り扱いが容易となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−107401号公報
【特許文献2】特開2003−95619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1、2に記載された方法では、吸湿、化学反応等により、酸素発生剤(過酸化物及び触媒)が変質する恐れがある。したがって、特許文献1、2に記載された方法では、酸素発生剤の有効期間が1年程度と短く、緊急時の使用を目的とした、酸素発生剤の長期間の保存に対応することができない。
【0009】
ここで、緊急時の使用を目的とする場合には、酸素発生器及び酸素発生剤を同梱する作業期間、船便による輸送期間等を考慮すると、酸素発生剤の有効期間として、少なくとも3年以上が必要となる。また、特許文献1、2に記載された方法では、酸素発生剤と酸素発生器とを別々に用意する必要があるため、携帯性の向上に対応することができない。
【0010】
また、特許文献1、2に記載された方法では、まず、水を入れた酸素発生器を用意して、次に、酸素発生剤を酸素発生器に投入する必要があるため、使用時の作業が煩雑となり、緊急時の対応に不向きである。さらに、引用文献1、2に記載された方法では、酸素発生剤が水に溶解するまでに時間を要し、迅速に酸素を発生させることができず、緊急時の対応に不向きであるという問題がある。
【0011】
ここで、触媒として、二酸化マンガン、硫酸マンガンなどの金属塩触媒を用いれば、長期間の保存に対応することができる。しかしながら、金属塩触媒は、反応液に有害物質が残り、これを廃棄により動植物に悪影響を及ぼすため、安全面の理由により、酸素発生剤としては不向きである。
【0012】
本発明の課題は、廃棄による動植物に悪影響をおよぼす金属塩触媒を使用することなく、しかも酸素発生剤の有効期間を延ばすことである。また、本発明の他の課題は、とくに携帯性に優れ、使用時における作業性及び酸素発生までの迅速性のそれぞれを向上するばかりでなく、とくに酸素供給時の取り扱いの簡便性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、第一の発明に係る酸素発生器は、第一室及び第二室を有し、第一室と第二室とが隔離された隔離状態と、前記第一室と前記第二室との隔離が解除された解除状態と、を形成することが可能な袋体と、前記隔離状態を形成した前記袋体の前記第一室に封入された過酸化物と、前記隔離状態を形成した前記袋体の前記第二室に封入された、前記過酸化物を分解するための触媒と、を備えることを特徴とする。
【0014】
また、第五の発明に係る酸素発生方法は、第一室及び第二室を有する袋体において、前記第一室に過酸化物が封入され、前記第二室に前記過酸化物を分解するための触媒が封入され、前記第一室と前記第二室とが隔離された状態を形成する工程と、前記第一室と前記第二室との隔離が解除された状態を形成する工程と、前記第一室と前記第二室との隔離が解除された状態を形成する前記袋体に溶媒を投入する工程と、を有することを特徴とする。
【0015】
第一の発明に係る酸素発生器及び第五の発明に係る酸素発生方法では、過酸化物及び触媒が、互いに隔離された状態で袋体に封入されている。したがって、第一の発明に係る酸素発生器及び第五の発明に係る酸素発生方法によれば、過酸化物及び触媒が、吸湿、化学反応等により変質することが防止され、過酸化物及び触媒の有効期間を延ばすことが可能となる。また、金属塩触媒を使用する必要がないため、安全性を向上することが可能となる。
【0016】
また、第一の発明に係る酸素発生器及び第五の発明に係る酸素発生方法では、第一室と第二室との隔離を解除することによって、過酸化物及び触媒が混合され、この袋体に溶媒を投入するだけですぐに酸素が発生する。したがって、第一の発明に係る酸素発生器及び第五の発明に係る酸素発生方法によれば、使用時における作業性・操作性を向上することが可能となるとともに、酸素発生までの迅速性を向上することが可能となる。
【0017】
また、第一の発明に係る酸素発生器及び第五の発明に係る酸素発生方法では、溶媒が投入される袋体にあらかじめ過酸化物及び触媒が封入されている。したがって、第一の発明に係る酸素発生器及び第五の発明に係る酸素発生方法では、過酸化物及び触媒と酸素発生器とを別々に用意する必要がなく、このため携帯性を著しく向上することが可能となる。
【0018】
さらに、第一の発明に係る酸素発生器及び第五の発明に係る酸素発生方法では、袋体を用いることにより、軽量化を図ることが可能となるとともに、製造コストを抑制することが可能となる。以上のように、第一の発明に係る酸素発生器及び第五の発明に係る酸素発生方法によれば、その用途を、酸欠時の酸素補給、救命等、様々な用途に広げることが可能となる。
【0019】
また、第二の発明に係る酸素発生器は、第一の発明に係る酸素発生器において、前記隔離状態は、前記袋体の所定部分を折り返すことによって形成されることを特徴とする。第二の発明に係る酸素発生器によれば、使用時における作業性をさらに向上することが可能となる。
【0020】
また、第三の発明に係る酸素発生器は、第二の発明に係る酸素発生器において、前記袋体の前記所定部分を挟み込む挟持手段を備えることを特徴とする。第三の発明に係る酸素発生器によれば、使用時における作業性・操作性の低下を抑制しつつ、より確実に、過酸化物及び触媒が互いに隔離・密封された状態を維持することが可能となる。
【0021】
また、第四の発明に係る酸素発生器は、第一乃至第三のうちいずれか一の発明に係る酸素発生器において、前記袋体は、透明又は半透明に形成され、溶媒を投入することが可能な開口部を有し、前記袋体には、投入する前記溶媒の量を示す目印が設けられており、前記過酸化物は、前記溶媒に溶解する固体であることを特徴とする。第四の発明に係る酸素発生器によれば、使用時において、より適切かつ迅速に酸素を発生させることが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、酸素発生剤の有効期間を延ばすことが可能となる。また、本発明によれば、携帯性、使用時における作業性及び酸素発生までの迅速性のそれぞれを向上することが可能となる。とくに海抜2,000メートルを超える高地でのいわゆる山酔いを防止することができ、登山者の荷物の嵩や重量の著しい軽減をはかることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】袋体が隔離解除状態を形成している酸素発生器を正面側から見た状態を示す部分断面図である。
【図2】袋体が隔離状態を形成している酸素発生器を正面側から見た状態を示す部分断面図である。
【図3】図2に示す酸素発生器を側面側から見た状態を示す中央縦断部分断面図である。
【図4】図2に示す酸素発生器の隔離状態を形成する挟持手段を水平方向に移動させて折り曲げ部より少し引き抜いた状態を示す正面側から見た状態の部分断面図である。
【図5】流量調整部の円筒部の正面拡大図である。
【図6】図5に示す円筒部の下面拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1乃至3に示すように、本発明に係る酸素発生器1は、酸素を発生させる本体部10と、本体部10で発生した酸素の流量を調整することが可能な流量調整部20と、流量調整部20により流量が調整された酸素を放出させる酸素吸引部30と、を備えている。また、酸素発生器1内には、あらかじめ本体部10に封入された過酸化物40及び触媒50を備えている。
【0025】
本体部10は、袋体11と、袋体11の上端部に取り付けられた開口部12と、を有している。袋体11は、柔軟性又は弾力性を有する材料により形成される。また、袋体11は、耐薬品性、耐寒性、耐圧性に優れた材料により形成することが好ましい。具体的には、袋体11は、合成ゴム、ナイロン、シリコン等により形成される。
【0026】
袋体11は、2枚一対のシート材11aを互いにそれぞれの外周端縁部を互いに張り合わせることによって、袋状に形成されている。袋体11は、その内部において、第一室13及び第二室14を有している。袋体11は、第一室13と第二室14とが互いに隔離された隔離状態(図2、図3及び図4参照)と、第一室13と第二室14との隔離が解除された解除状態(図1参照)と、を形成することが可能となっている。
【0027】
本実施形態では、袋体11は、略中間の折り曲げ部15において折り返されることによって、隔離状態を形成する。すなわち、袋体11では、折り曲げ部15において、一対のシート材11aの内面が互いに圧着することによって、隔離状態が形成される。また、袋体11は、折り曲げ部(所定部分)15における折り返しが解除されることによって、解除状態を形成する。すなわち、袋体11では、第一室13及び第二室14が互いに連通することによって、解除状態が形成される。
【0028】
また、本実施形態に係る酸素発生器1では、袋体1の折り曲げ部15を挟み込むクリップ(挟持手段)16を備えている。クリップ16は、樹脂等によって形成される。クリップ16は、一対の挟持板16a・16aと、該一対の挟持板16a・16aの基端部を互いに連結する連結板16bと、を有している。
【0029】
そして、クリップ16は、連結板16bの両幅端から起立し、先端部(自由端)を互いに近接させた一対の挟持板16a・16aの先端部によって、隔離状態を形成する袋体11の折り曲げ部15を折り曲げ部15の左右方向(図1に示す左右方向)の一端から他端までの全体を挟み込むことによって、袋体11の隔離状態を確実に維持する。
【0030】
なお袋体11は、透明又は半透明に形成されている。そして、袋体11の表面には、投入する水(溶媒)の量を示す水位線(目印)17が設けられている。また開口部12は、円筒状の樹脂により袋体11に対して一体となるように形成されている。開口部12は、袋体11の内部に連通する連通孔(図示せず)を有している。連通孔は、開口部12の軸に沿って、開口部12を貫通するように設けられている。
【0031】
また、開口部12の外周面には、流量調整部20を取り付けるためのネジ溝(図示せず)が形成されている。流量調整部20は、蓋部21と、蓋部21に一端を取り付けた円筒部22と、円筒部22の内側に遊嵌配設された球体23と、円筒部22の他端に取り付けられた酸素吹き出し部24と、を有している。
【0032】
なお蓋部21は、樹脂により形成されている。蓋部21は、開口部12の上端部を覆うことができるように円筒状に形成され、しかも円筒部22の下端部が挿入される挿入孔21aを有している。また、蓋部21の内周面には、開口部12のネジ溝に螺合するネジ溝(図示せず)が形成されている。
【0033】
円筒部22は、透明又は半透明な樹脂により図4及び図5に示すように円筒状に形成されており、内側に遊嵌配設された球体23を透視して視認することが可能となるように構成されている。円筒部22の下端部には、他の部分と比較して外径が小さく形成された挿入部22aが設けられている。そして、円筒部22は、挿入部22aが蓋部21の挿入孔21aに挿入された状態で、蓋部21に対して一体となるように固定されている。
【0034】
円筒部22は、開口部12の連通孔に連通する内部孔25を有している。内部孔25は、円筒部22の軸に沿って、円筒部22を貫通するように設けられている。内部孔25は、球体23が遊嵌配設される球体移動部25aと、球体移動部25aに連続する酸素流入部25bと、を有している。
【0035】
球体移動部25aの内径は、球体23の直径より大きくなっている。球体移動部25aは、上下方向(図1に示す上下方向)に沿って、球体23を自在に移動させることが可能となるよう球体23を遊嵌させて構成されている。なお酸素流入部25bの内径は、球体移動部25aの内径より小さく設定されている。また、酸素流入部25bの内径は、球体23の直径より小さく設定されている。
【0036】
球体23は、例えば樹脂のような軽量な材料により形成されている。好ましくはフッ素加工等により撥水性を持たせたものがよく、さらに好ましくはフッ素加工を施したテフロン(登録商標)球がよい。球体23の表面には、その回転状況を容易に視認することができるように、複数の色が付されている。複数の色は、球体23の表面に部分的に施したものでもよく、また半球ずつ相互に異色の色彩を施したものなどでもよい。
【0037】
酸素吹き出し部24は、樹脂により形成されている。酸素吹き出し部24は、円筒部22の上端部を覆う被覆部24aと、酸素吸引部30の後述するチューブ32が連結される連結部24bと、を有している。被覆部24aは、円筒部22の上端部を覆うことができるように、円筒状に形成されている。連結部24bは、被覆部24aの上面に突出させて設けられている。
【0038】
連結部24bは、円柱状に形成されている。連結部24bの外径は、チューブ32の内径と略同一に設定されている。そして、酸素吹き出し部24は、被覆部24bが円筒部22の上端部を覆った状態で、円筒部22に対して一体となるように固定されている。
【0039】
酸素吹き出し部24は、円筒部22の内部孔25に連通する酸素吹き出し孔24cを有している。酸素吹き出し孔24cは、酸素吹き出し部24の軸に沿って、酸素吹き出し部24を貫通するように設けられている。ここで、酸素吹き出し孔24cの内径は、0.3mm以上、0.9mm以下に設定することが好ましい。
【0040】
すなわち、酸素発生器1では、酸素吹き出し孔24cの内径が0.3mm未満に設定された場合には、使用時に、袋体11の内圧が高くなり過ぎる。一方、酸素発生器1では、酸素吹き出し孔24cの内径が0.9mmを超える場合には、使用時に、袋体11の内圧が不十分となる。本実施形態では、酸素吹き出し孔24cの内径は、0.5mmに設定されている。
【0041】
流量調整部20は、蓋部21のネジ溝が開口部12のネジ溝に螺合されることによって、開口部22に対して着脱することが可能に取り付けられている。ここで、本実施形態に係る酸素発生器1では、不純物の放出を防止するために開口部12の連通孔と円筒部22の内部孔25との間に、活性炭フィルタ26が配設されている。また酸素吸引部30は、吸引マスク31と、吸引マスク31と流量調整部20とを連結するチューブ32と、を有している。
【0042】
吸引マスク31は、使用者の口及び鼻を覆うことができる形状となっている。吸引マスク31の外面には、チューブ32が連結される連結部31aが設けられている。連結部31aは、円柱状に形成されている。連結部31aの外径は、チューブ32の内径と略同一に設定されている。連結部31aは、酸素流入孔31bを有している。酸素流入孔31bは、連結部31aの軸に沿って、連結部31aを貫通するように設けられている。
【0043】
酸素流入孔31bの内径は、酸素吹き出し孔24cの内径と同一に設定されている。またチューブ32は、樹脂等の柔軟性のある材料により形成されている。チューブ32は、所定の長さで形成される。そして、酸素吸引部30は、チューブ31の一端部が連結部24bの外周面に被せられるとともに、チューブ31の他端部が連結部31aの外周面に被せられることによって、流量調整部20と酸素吸引部30とを連結する。
【0044】
充填する過酸化物40としては、過炭酸ソーダ、過硼酸ソーダ、過酸化カルシウム、過炭酸ナトリウム等を用いることができる。本実施形態に係る酸素発生器1では、過酸化物40として、過炭酸ナトリウムを用いている。そして、過酸化物40の使用量については、本実施例の場合30g未満では酸素発生量が不十分であるために30g以上は必要とし、また50gを超えても酸素供給に無駄を生ずるのみならず本体部10の大きさが余分に大きくなってしまうところから、30g〜50gの範囲内であるのが好ましい。
【0045】
なお本実施例では40gに設定されている。そして、過酸化物40は、隔離状態を形成した袋体11の第一室13に封入される。一方、触媒50としては、カタラーゼ等の過酸化水素分解酵素剤を用いることができる。本実施形態に係る酸素発生器1では、触媒50として、ヨー化カリウムの顆粒あるいは粉末を低温乾燥して、水溶性シートに包んだものを用いている。
【0046】
ここで、ヨウ化カリウムは、水に対する溶解力に優れ、水溶性シートに包んでも溶解スピードが速く、すぐれた触媒能力を発揮する。そして、触媒50の使用量についても、5g未満では過酸化物40の分解速度が遅すぎ、また20gを超えても過酸化物40の分解速度が速すぎるために適当ではない。そのため5g〜20gの範囲内であるのが望ましく、本実施例では10gに設定されている。そして、触媒50は、隔離状態を形成した袋体11の第二室14に封入される。
【0047】
(酸素発生器1の作用)
次に、酸素発生器1の作用を説明する。酸素発生器1の製造時には、流量調整部20が本体部10から取り外された状態で、まず触媒50を、開口部12の連通孔から袋体11の第二室14内に投入する。この際、袋体11は、解除状態を形成している。次に、第二室14に触媒50が投入された袋体11について、折り曲げ部15において折り返すことによって、隔離状態を形成する。また、隔離状態を形成する袋体11の折り曲げ部15を、クリップ16により挟み込む。
【0048】
クリップ16は、図4にあらわすように隔離状態にした本体部10の折り曲げ部15に対して一対の挟持板16a・16aの両先端部をもって袋体11の折り曲げ部15を挟むように折り曲げ部15の左右方向(矢印方向)の一端から他端方向にスライドさせながら袋体11の折り曲げ部15の全体をある程度強く挟むようにして袋体11の隔離状態を確実に維持する。これにより、袋体11の第二室14において、触媒50が封入される。
【0049】
また、隔離状態を形成した袋体11において、過酸化物40を、開口部12の連通孔から袋体11の第一室13内に投入する。そして、第一室13に過酸化物40が投入された本体部10に、流量調整部20を取り付ける。これにより、袋体11の第一室13において、過酸化物40が封入される。以上によって、酸素発生器1が完成する。
【0050】
また、酸素発生器1の使用時には、まず、図4にあらわしたクリップ16を先程とは逆の矢印方向にスライドさせて袋体11の挟持を解除する。次に、隔離状態を形成している袋体11について、折り曲げ部15における折り返しを図1にあらわしたように解除することによって、解除状態を形成する。これによって、袋体11の内部において、第一室の過酸化物40が第二室の触媒50上に落下して混合される。
【0051】
流量調整部20を本体部10から取り外して、水を、開口部12の連通孔から袋体11の内部に投入する。この際、袋体11の内部における水位が水位線17で示す範囲内となるように、水の投入量を調整する。本実施形態に係る酸素発生器1では、水位線17は、水の投入量が150ccとなるように設定されている。なおこの場合、水位線17は、120cc〜180ccの範囲内となるように設定するのが好ましい。
【0052】
さらに、本体部10に流量調整部20を取り付けて、吸引マスク31を、使用者の口及び鼻を覆うように設置する。袋体11の内部に水が投入されることにより、過酸化物40及び触媒50が水に溶解されて反応する。そして、過炭酸ナトリウム(過酸化物40)の水溶液は、炭酸ナトリウムと過酸化水素とに分解される。さらに、過酸化水素は、水と酸素に分解される。これによって、袋体11の内部において、酸素が発生する。この際、触媒50によって、過酸化物40の分解反応速度がコントロールされる。
【0053】
そして、袋体11の内部において酸素が発生することによって、わずか3〜5分程度で袋体11が完全に膨張する。袋体11の内圧が所定値より高くなると、酸素の圧力によって、円筒部22の球体移動部25aにおいて、酸素流入部25bを塞いでいた球体23が押し上げられる。これによって、袋体11の内部において発生した酸素が、開口部12の連通孔、活性炭フィルタ26、円筒部22の内部孔25、酸素吹き出し部24の酸素吹き出し孔24c、チューブ32、連結部31aの酸素流入孔31bを通過して、吸引マスク31の内側に放出される。
【0054】
ここで、本実施形態に係る酸素発生器1では、袋体11の内圧が1.2気圧以上となった場合に、球体23が押し上げられるように設定されている。そして、押し上げられた球体23は、球体移動部25aにおいて、回転しながら上下方向に遊動する。この際、使用者の呼吸のリズムに合わせて袋体11を手のひらで適宜圧縮することによって、酸素吸入を効果的に行うことが可能となる。なお、酸素欠乏時の人体は、5分間以上の酸素吸入を行うと血中の酸素濃度が飛躍的に改善される。
【0055】
緊急時における救助目的でも5分間以上の酸素吸入により飛躍的に改善される。なお本実施例の場合においては、種々の実験の結果少なくとも15分から30分程度の間、安定した酸素の供給が可能であった。
【0056】
以上のように、酸素発生器1では、過酸化物40及び触媒50が、互いに隔離された状態で袋体に封入されている。したがって、酸素発生器1によれば、過酸化物40及び触媒50が、吸湿、化学反応等により変質することが防止され、過酸化物40及び触媒50の有効期間を延ばすことが可能となる。そればかりでなく特に海抜2000メートル以上の高地における低酸素域での使用に適し、さらに登山者の必需品としても欠かせない存在となることは間違いない。
【0057】
また、金属塩触媒を使用する必要がないため、安全性を向上することが可能となる。さらに、酸素発生器1では、第一室13と第二室14との隔離を解除することによって、過酸化物40及び触媒50が混合され、この袋体11に水を投入するだけで酸素が発生する。したがって、酸素発生器1によれば、使用時における作業性・操作の簡便性を向上することが可能となるとともに、酸素発生までの迅速性を向上することが可能となる。
【0058】
また、酸素発生器1では、水が投入される袋体11に過酸化物40及び触媒50が封入されている。したがって、酸素発生器1によれば、過酸化物40及び触媒50と酸素発生器とを別々に用意する必要がなく、携帯性を向上することが可能となる。また、酸素発生器1では、袋体11を用いることにより、軽量化を図ることが可能となるとともに、製造コストを抑制することが可能となる。
【0059】
また、酸素発生器1では、隔離状態を形成する袋体11の折り曲げ部15を挟み込むクリップ16を備えることによって、使用時における作業性・操作性の低下を抑制しつつ、より確実に、過酸化物40及び触媒50が互いに隔離された状態を維持することが可能となる。さらに酸素発生器1では、袋体11が透明又は半透明に形成されているとともに、袋体11に、投入する水の量を示す水位線17が設けられている。したがって、酸素発生器1によれば、使用時において、より適切に酸素を発生させることが可能となる。
【0060】
さらに、酸素発生器1では、触媒50として、ヨー化カリウムの顆粒あるいは粉末を低温乾燥して、水溶性シートに包んだものを用いている。したがって、酸素発生器1によれば、酸素発生までの迅速性の低下を抑制しつつ、触媒50の有効期間をさらに延ばすことが可能となる。
【0061】
(変形例)
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態では、種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態では、酸素発生器1は、隔離状態を形成する袋体11の折り曲げ部15を挟み込むクリップ16を備えている。しかしながら、クリップ16は、必ずしも備える必要はない。
【0062】
また、上記実施形態では、袋体11は、折り曲げ部15において折り返されることによって、隔離状態を形成する。しかしながら、袋体11を折り返さずに、折り曲げ部15を確実な挟持手段によって挟み込むことによって、一対のシート材11aの内面を互いに接触圧着させて、隔離状態を形成しても構わない。
【符号の説明】
【0063】
1 酸素発生器
10 本体部
11 袋体
11a シート材
12 開口部
13 第一室
14 第二室
15 折り曲げ部
16 クリップ
16a 挟持板
16b 連結板
17 水位線
20 流量調整部
21 蓋部
21a 挿入孔
22 円筒部
22a 挿入部
23 球体
24 酸素吹き出し部
24a 被覆部
24b 連結部
24c 酸素吹き出し孔
25 内部孔
25a 球体移動部
25b 酸素流入部
26 活性炭フィルタ
30 酸素吸引部
31 吸引マスク
31a 連結部
31b 酸素流入孔
32 チューブ
40 過酸化物
50 触媒


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一室及び第二室を有し、第一室と第二室とが隔離された隔離状態と、前記第一室と前記第二室との隔離が解除された解除状態と、を形成することが可能な袋体と、前記隔離状態を形成した前記袋体の前記第一室に封入された過酸化物と、前記隔離状態を形成した前記袋体の前記第二室に封入された、前記過酸化物を分解するための触媒と、を備えることを特徴とする酸素発生器。
【請求項2】
前記隔離状態は、前記袋体の所定部分を折り返すことによって形成されることを特徴とする請求項1に記載の酸素発生器。
【請求項3】
前記袋体の前記所定部分を挟み込む挟持手段を備えることを特徴とする請求項2に記載の酸素発生器。
【請求項4】
前記袋体は、透明又は半透明に形成され、溶媒を投入することが可能な開口部を有し、前記袋体には、投入する前記溶媒の量を示す目印が設けられており、前記過酸化物は、前記溶媒に溶解する固体であることを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一項に記載の酸素発生器。
【請求項5】
第一室及び第二室を有する袋体において、前記第一室に過酸化物が封入され、前記第二室に前記過酸化物を分解するための触媒が封入され、前記第一室と前記第二室とが隔離された状態を形成する工程と、前記第一室と前記第二室との隔離が解除された状態を形成する工程と、前記第一室と前記第二室との隔離が解除された状態を形成する前記袋体に溶媒を投入する工程と、を有することを特徴とする酸素発生方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−131670(P2012−131670A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286347(P2010−286347)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(510338204)株式会社 ジュークス (2)
【Fターム(参考)】