説明

酸素発生触媒

【課題】触媒活性が高い新規の水の酸化触媒を提供する。
【解決手段】2,2’:6’,2”−ターピリジン誘導体及びジイミンがルテニウム(II)に配位してなる単核ルテニウムモノアコ錯体からなる。ジイミンとしては、ビピリジンが好ましく、2,2’:6’,2”−ターピリジン誘導体としては、2,2’:6’,2”−ターピリジン、4’−エトキシ−2,2’:6’,2”−ターピリジン、4’−メトキシ−2,2’:6’,2”−ターピリジン、4’−クロロ−2,2’:6’,2”−ターピリジンのいずれかが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー変換、水素生成などの分野においてアノード触媒などとして用いられる水の酸化触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギー・環境問題を背景として、化石燃料に依存しないクリーンなエネルギー供給システムの開発が望まれている。人工光合成系は、太陽光により高エネルギー物質を生成するクリーンで安全なエネルギー変換システムであるため、将来のエネルギー源として期待されている。人工光合成系を構築するためには、高活性かつ安定な水の酸化触媒の開発が重要である。
【0003】
しかし、水の酸化触媒能を有する分子触媒は、報告例が少なく数例しか知られていなかった。その上、これまで報告されている水の酸化触媒能を有する分子触媒は、触媒活性が不十分であった(例えば、非特許文献1〜3を参照)。
【0004】
なお、(μ−Cl)架橋を有する二核ルテニウム錯体[(NHRu(μ−Cl)Ru(NH2+が水の酸化触媒として効果的に働くことが報告されている(非特許文献4)。しかし、この触媒においても触媒活性は決して高いとはいえなかった。
【非特許文献1】J. Am. Chem. Soc., 1982, 104, 4029.
【非特許文献2】ibid., 2000, 122, 8464.
【非特許文献3】ibid., 2004, 126, 9786.
【非特許文献4】Langmuir, 1999, 15, 7406.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、触媒活性が高い新規の水の酸化触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1記載の水の酸化触媒は、2,2’:6’,2”−ターピリジン誘導体及びジイミンがルテニウム(II)に配位してなる単核ルテニウムモノアコ錯体からなる。
【0007】
本発明の請求項2記載の水の酸化触媒は、請求項1において、ジイミンが、2,2’−ビピリジンである。
【0008】
本発明の請求項3記載の水の酸化触媒は、請求項1又は2において、2,2’:6’,2”−ターピリジン誘導体が、2,2’:6’,2”−ターピリジン、4’−エトキシ−2,2’:6’,2”−ターピリジン、4’−メトキシ−2,2’:6’,2”−ターピリジン、4’−クロロ−2,2’:6’,2”−ターピリジンのいずれかである。
【0009】
本発明の請求項4記載の水の酸化触媒は、4’−エトキシ−2,2’:6’,2”−ターピリジン及び2,2’−ビピリジンがルテニウム(II)に配位してなる単核ルテニウムモノアコ錯体からなる。
【0010】
本発明の請求項5記載の単核ルテニウムモノアコ錯体は、2,2’:6’,2”−ターピリジン誘導体及びジイミンがルテニウム(II)に配位してなる。
【0011】
本発明の請求項6記載の単核ルテニウムモノアコ錯体は、請求項5において、ジイミンが、2,2’−ビピリジンである。
【0012】
本発明の請求項7記載の単核ルテニウムモノアコ錯体は、請求項5又は6において、2,2’:6’,2”−ターピリジン誘導体が、2,2’:6’,2”−ターピリジン、4’−エトキシ−2,2’:6’,2”−ターピリジン、4’−メトキシ−2,2’:6’,2”−ターピリジン、4’−クロロ−2,2’:6’,2”−ターピリジンのいずれかである。
【0013】
本発明の請求項8記載の単核ルテニウムモノアコ錯体は、4’−エトキシ−2,2’:6’,2”−ターピリジン及び2,2’−ビピリジンがルテニウム(II)に配位してなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、触媒活性が高く安定な新規の水の酸化触媒が提供される。また、本発明の水の酸化触媒は、簡便な手法で合成することができ、さらに、簡単な分子修飾により、容易に活性を制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の水の酸化触媒は、2,2’:6’,2”−ターピリジン誘導体及びジイミンがルテニウム(II)に配位してなる本発明の単核ルテニウムモノアコ錯体からなる。
【0016】
本発明の単核ルテニウムモノアコ錯体の構造を化1に示す。中心の1つのルテニウム(II)原子に、三座配位子である2,2’:6’,2”−ターピリジン誘導体分子と、二座配位子であるジイミン分子、そして水分子が、それぞれ1つずつ配位結合している。なお、化1中、Rは、2,2’:6’,2”−ターピリジンの4’位における水素又は任意の置換基、Lは、任意のジイミンを表し、tpyは、2,2’:6’,2”−ターピリジンを表す。
【0017】
【化1】

【0018】
ここで、ジイミンとしては、特定のものに限定されないが、単核ルテニウムモノアコ錯体の酸化触媒活性の高さから、特に2,2’−ビピリジン(bpy)が好ましい。
【0019】
また、2,2’:6’,2”−ターピリジン誘導体としては、特定のものに限定されないが、単核ルテニウムモノアコ錯体の酸化触媒活性の高さから、2,2’:6’,2”−ターピリジン(tpy)、4’−エトキシ−2,2’:6’,2”−ターピリジン(EtOtpy)、4’−メトキシ−2,2’:6’,2”−ターピリジン(MeOtpy)、4’−クロロ−2,2’:6’,2”−ターピリジン(Cltpy)が好ましい。そして、2,2’:6’,2”−ターピリジン誘導体の種類により、単核ルテニウムモノアコ錯体の酸化触媒活性が異なってくることから、2,2’:6’,2”−ターピリジン誘導体の種類を選択することにより、容易に単核ルテニウムモノアコ錯体の酸化触媒活性を制御することが可能である。なお、2,2’:6’,2”−ターピリジン誘導体を4’−エトキシ−2,2’:6’,2”−ターピリジン、又は4’−メトキシ−2,2’:6’,2”−ターピリジンとしたときに、著しく高い酸化触媒活性が得られる。
【0020】
4’−エトキシ−2,2’:6’,2”−ターピリジン及び2,2’−ビピリジンがルテニウム(II)に配位してなる単核ルテニウムモノアコ錯体の構造を化2に示す。
【0021】
【化2】

【0022】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の思想を逸脱しない範囲で種々の変形実施が可能である。
【0023】
以下、より具体的に、本発明の酸素発生触媒について説明する。
【実施例1】
【0024】
(1)[Ru(Rtpy)LOH2+錯体の合成
[Ru(Rtpy)LOH2+錯体は、ほとんどR及びLに依らず合成できる。[Ru(EtOtpy)(bpy)OH](NO(1a)の場合を例にとって合成法を以下に示す。
【0025】
(i)EtOtpyの合成
100mg(0.37mmol)の4’−クロロ−2,2’:6’,2”−ターピリジンを25質量%のナトリウムエトキシド/エタノール溶液(8.5ml)に加え、窒素下で24時間還流した。室温まで冷まし、不溶物をろ過で取り除いた。黄褐色のろ液に水を加えると白色の沈殿を生じ、これをろ過で取り出し、水で洗い室温で真空乾燥を行った。(94.6mg,収率91%)
【0026】
(ii)Ru(EtOtpy)Clの合成
100mg(0.36mmol)のEtOtpyと97mg(0.47mmol)のRuClを無水エタノール(45ml)に加え、3時間還流した。室温まで冷まし、析出物をろ過で取り出し、無水エタノール、エーテルで洗い室温で真空乾燥を行った。(170mg,収率97%)
【0027】
(iii)[Ru(EtOtpy)(bpy)Cl]Clの合成
90mg(0.186mmol)のRu(EtOtpy)Clと29mg(0.186mmol)の2,2’−ビピリジンを8.1mg(0.192mmol)のLiCl、41ml(29.4mmol)のトリエチルアミンを含んだ75(体積/体積)%エタノール/水(16.3ml)に加え、4時間還流した。熱いうちにろ過し、ろ液を1/4以下に濃縮した。24時間冷蔵庫で冷やし、析出物をろ過処理で取り出し、3M HCl、アセトン、エーテルで洗い室温で真空乾燥を行った。(86.1mg,収率76%)
【0028】
(iv)[Ru(EtOtpy)(bpy)OH](NOの合成
50mg(0.0852mmol)の[Ru(EtOtpy)(bpy)Cl]Clと28.1mg(0.165mmol)のAgNOを75(体積/体積)%アセトン/水(5.7ml)に加え1時間還流した。AgClをろ過で取り除き、ろ液を1/4以下に濃縮した。24時間冷蔵庫で冷やし、析出物をろ過で取り出し、冷水で洗い、60℃で真空乾燥を行った。(38.6mg,収率69%)
【実施例2】
【0029】
[Ru(Rtpy)LOH2+錯体の触媒活性
[Ru(Rtpy)LOH2+水溶液とCe(IV)酸化剤を混合したとき、酸素が発生した。これにより[Ru(Rtpy)LOH2+が水の酸化触媒として働くことが示された。酸素発生量の経時変化の初期の傾きより初期酸素発生速度(vO2/mol・s−1)を算出し、表1にvO2の値をまとめた。1aのvO2(44nmol・s−1)は1(vO2=3.4nmol・s−1)よりも13倍大きくなり、Rにエトキシ基(EtO)を導入することにより活性が著しく増大することが確認された。
【0030】
【表1】

【0031】
条件を最適化して、酸素発生実験を行ったときの1aのターンオーバー速度は1.1x10−1−1であった。これまで、[(NHRu(μ−Cl)Ru(NH2+のターンオーバー速度(5.6x10−2−1)が最高であった(Langmuir, 1999, 15, 7406.)が、1aのターンオーバー速度はこれより2倍程度大きかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,2’:6’,2”−ターピリジン誘導体及びジイミンがルテニウム(II)に配位してなる単核ルテニウムモノアコ錯体からなる水の酸化触媒。
【請求項2】
ジイミンが、2,2’−ビピリジンである請求項1記載の水の酸化触媒。
【請求項3】
2,2’:6’,2”−ターピリジン誘導体が、2,2’:6’,2”−ターピリジン、4’−エトキシ−2,2’:6’,2”−ターピリジン、4’−メトキシ−2,2’:6’,2”−ターピリジン、4’−クロロ−2,2’:6’,2”−ターピリジンのいずれかである請求項1又は2記載の水の酸化触媒。
【請求項4】
4’−エトキシ−2,2’:6’,2”−ターピリジン及び2,2’−ビピリジンがルテニウム(II)に配位してなる単核ルテニウムモノアコ錯体からなる水の酸化触媒。
【請求項5】
2,2’:6’,2”−ターピリジン誘導体及びジイミンがルテニウム(II)に配位してなる単核ルテニウムモノアコ錯体。
【請求項6】
ジイミンが、2,2’−ビピリジンである請求項5記載の単核ルテニウムモノアコ錯体。
【請求項7】
2,2’:6’,2”−ターピリジン誘導体が、2,2’:6’,2”−ターピリジン、4’−エトキシ−2,2’:6’,2”−ターピリジン、4’−メトキシ−2,2’:6’,2”−ターピリジン、4’−クロロ−2,2’:6’,2”−ターピリジンのいずれかである請求項5又は6記載の単核ルテニウムモノアコ錯体。
【請求項8】
4’−エトキシ−2,2’:6’,2”−ターピリジン及び2,2’−ビピリジンがルテニウム(II)に配位してなる単核ルテニウムモノアコ錯体。

【公開番号】特開2010−63986(P2010−63986A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−231647(P2008−231647)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本化学会第88春季年会(2008)講演予稿集CD−ROM 平成20年3月12日 社団法人日本化学会発行
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【Fターム(参考)】