説明

酸素純度試験用半調合試薬およびこれを用いた酸素純度試験方法

【課題】医療用酸素中の酸性物質またはアルカリ性物質の含有の有無を調べる酸素純度のための試験用試薬を調製する際、化学の専門知識を有する人でなくとも行うことができ、純度試験の都度試験用試薬を準備する必要をなくし、その調製に長時間を要しないようにする
【解決手段】メチルレッド液とブロモチモールブルー液を純水に加えて煮沸し冷却して中間体とし、この中間体を保存して半調合試薬とする。酸素の純度試験の実施に際して、この半調合試薬を3個の容器A、B、Cに分取し、容器Aには塩酸水溶液1容を、容器Bには塩酸水溶液2容を加え、容器Aの溶液に被検体となる酸素を定量通じた後、容器A、容器B、容器Cの溶液の色を比色する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、酸素、特に日本薬局方酸素に酸性物質またはアルカリ性物質が含まれているか否かの純度試験に用いられる半調合試薬およびこの半調合試薬を用いた純度試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本薬局方酸素にあっては、酸素中の酸性物質またはアルカリ性物質の存在の有無を調べる純度試験を製造ロット毎に実施することが日本薬局方によって定められている。
酸素製造業者は、通常酸素を毎日製造するので、毎日1回以上この純度試験を行っている。
この純度試験は、以下の手順によって行うよう定められている。
【0003】
(1)メチルレッド液の調製
メチルレッド0.1gをエタノール100mlに溶かし、必要ならば濾過する。
(2)ブロモチモールブルー液の調製
ブロモチモールブルー0.1gを希エタノール100mlに溶かし、必要であれば濾過する。希エタノールは、エタノール1容量部に対して純水1容量部を加えたものである。
【0004】
(3)試験用試薬の調製
新たに煮沸し冷却した純水400mlにメチルレッド液とブロモチモールブルー液をそれぞれ0.3ml加え、5分間煮沸する。
この水溶液を50mずつ3本のネスラー管A、B、Cに分取する。
さらに、ネスラー管Aには0.01モル/lの塩酸水溶液を0.10ml加え、ネスラー管Bには0.01モル/lの塩酸水溶液を0.20ml加え、ネスラー管Cには何も加えずに、密栓して冷却する。
この3種の水溶液を試験用試薬とする。
【0005】
(4)試験方法
口径1mmのガス導入管をネスラー管Aの試薬中に浸し、ガス導入管の先端をネスラー管Aの管底から2mm離れた位置に保つ。この状態で被検体である酸素1000mlを15分間で通じる。
酸素通気後のネスラー管Aの試薬の色が、ネスラー管Bの試薬の橙赤色より濃くなく、かつネスラー管Cの試薬の黄緑色よりも濃くないときに、合格と判定する。
【0006】
この酸素の純度試験方法において使用される3種の試験用試薬にあっては、ネスラー管Aは、pH4.7で、ネスラー管Bは、pH4.4で、ネスラー管CはpH7.0であり、それぞれ透明な橙黄色、橙赤色、黄緑色を呈している。試験用試薬のpHが少しでも変化すると、試薬の色調が著しく変化して、純度試験が不能になるので、純度試験の実施の都度その調製を行う必要がある。
これは、試薬が空気に触れると空気中の二酸化炭素が溶解し、そのpHが変化すること、保存用容器からの微量溶出物の混入に伴って、pHが変化すること、光による退色が予想されることなどによる。
【0007】
また、この試験用試薬の調製には、正確なpH管理が必要であるため、調製担当者は化学的な専門知識を有する人に限られていた。さらに、1回の純度試験に3種の試薬を用意しなければならないので、調製に長時間を要するなどの不都合があった。
【非特許文献1】日本薬局方 「酸素」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
よって、本発明における課題は、酸素純度の試験用試薬を調製する際、化学の専門知識を有する人でなくとも行うことができ、純度試験の都度試験用試薬を準備する必要をなくし、その調製に長時間を要することがないようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決するため、
請求項1にかかる発明は、メチルレッド液とブロモチモールブルー液とを純水に加えて煮沸した中間体を保存してなる酸素純度試験用半調合試薬である。
請求項2にかかる発明は、メチルレッド液とブロモチモールブルー液とを純水に加えて煮沸した中間体を樹脂容器中に密栓して10℃以下で保存してなる酸素純度試薬である。
【0010】
請求項3にかかる発明は、メチルレッド液とブロモチモールブルー液とを純水に加えて煮沸した中間体を保存して酸素純度試験用半調合試薬とし、
酸素の純度試験の実施に際して、この半調合試薬を3個の容器A、B、Cに分取し、容器Aには塩酸水溶液1容を、容器Bには塩酸水溶液2容を加え、容器Aの溶液に被検体となる酸素を定量通じた後、容器A、容器B、容器Cの溶液の色を比色する酸素の純度試験方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明にあっては、中間体を樹脂容器中に密栓して10℃以下で保存すると、90日以上品質が変わることがなく、このため中間体を多量に作製して保存し半調合試薬としておき、純度試験の実施の際にこれを分取して試験に供することができる。このため、試験用試薬をその都度初めから調製する必要がなく、これに要する時間を短縮することができる。また、化学の専門知識を有しない担当者でもこれの調製にあたることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳しく説明する。
まず、本発明の半調合試薬について説明する。
初めに、メチルレッド1重量部を純エタノール1000容量部に溶解し、必要に応じて濾過し、濃度0.1w/v%のメチルレッド液を作製する。
また、ブロモチモールブルー1重量部を希エタノール1000容量部に溶解し、必要に応じて濾過し、濃度0.1w/v%のブロモチモールブルー液を作製する。希エタノールは、純エタノール1容量部に純水1容量部を加えたものである。
【0013】
次に、予め煮沸して溶存気体を除去し冷却した純水400容量部に対してメチルレッド液とブロムチモールブルー液とをそれぞれ0.3容量部加え、煮沸し、冷却後、密栓付容器に移し、常温まで冷却し、中間体とする。ついで、この中間体を容器中に密栓して保存することにより、本発明の半調合試薬が得られる。
【0014】
この半調合試薬は、黄緑色に着色した透明な水溶液であり、波長435nm付近に吸収ピークを有し、pHがほぼ中性である。
【0015】
また、中間体を酸性物質またはアルカリ性物質の溶出の少なく、黒色などの濃色に着色された遮光性の良好な樹脂容器、好ましくはポリプロピレン製容器に密栓して10℃以下で保存すると、品質の変化がほとんどなく、極めて保存安定性がよく、90日以上変質しないようになる。これは、紫外可視分光スペクトルの経時的な測定によって確認されている。
【0016】
この理由は、中間体のpHが中性であり、pHの低い試験用試薬に比べて容器からの影響を受けにくいこと、またポリプロピレンには、これに含まれる微量成分の溶出が元々少ない特性があるため、保存容器からの中間体を変質させる微量成分の溶出量が少ないためと考えられるためである。
【0017】
この半調合試薬では、中間体を多量に作製し、大型密封容器にまとめて保存してもよいし、また1回の純度試験に用いられる容量;150mlに応じた容量、例えば160〜180mlに小分けして小型密封容器に貯えて冷暗所に保存してもよい。
【0018】
次に、この半調合試薬を用いた純度試験方法について説明する。
純度試験直前に、この半調合試薬を保存庫から取り出し、これを3本のネスラー管A、B、Cに定量、例えば50mlずつ分取する。
さらに、ネスラー管Aには、濃度0.01モル/lの塩酸水溶液を0.10ml添加し、ネスラー管Bには同濃度の塩酸水溶液を0.20ml添加する。ネスラー管Cにはなにも加えない。
これにより3種の試験用試薬が得られることになる。
【0019】
なお、ここで使用される塩酸水溶液についても、予め多量に作製して保存しておき、あるいはこれを1回の純度試験に用いる分量ずつ小分けして保存しておき、用時に使用するようにしてもよく、これにより試験用試薬の調製時間をさらに短縮することができる。
【0020】
塩酸水溶液の添加により、ネスラー管A中の試薬のpHは、4.7に変化し、その色調も橙黄色となる。ネスラー管B中の試薬のpHは、4.4に変化し、その色調は橙赤色に変化する。したがって、3本のネスラー管中の試薬の色調はそれぞれ異なるものとなる。
【0021】
そして、長期間、例えば1ヶ月10℃以下で保存した半調合試薬を3本のネスラー管A、B、Cに分取して、ネスラー管A、ネスラー管Bにそれぞれ塩酸水溶液を添加して得られた3種の試験用試薬の色調は、当日初めから調製した3種の試験用試薬の色調と殆ど変化していないことが紫外・可視分光スペクトルによって確認されている。
【0022】
次に、従来と同様に、口径1mmのガス導入管をネスラー管Aの試験用試薬中に浸し、ガス導入管の先端をネスラー管Aの管底から2mm離れた位置に保つ。この状態で被検体である酸素1000mlを15分間で通じる。
酸素通気後のネスラー管Aの試験用試薬の色が、ネスラー管Bの試験用試薬の橙赤色より濃くなく、かつネスラー管Cの試験用試薬の黄緑色よりも濃くないときに、酸素中の酸性物質またはアルカリ性物質の含有量が規定値以下と判断され、合格と判定される。
【0023】
このような純度試験方法では、保存安定性の良好な中間体を予め多量に調製しておき、これを保存して半調合試薬とし、純度試験の実施毎にこの半調合試薬に塩酸水溶液を添加して使用するようにしているので、純度試験のための試験用試薬の作製に要する時間を短縮でき、実際には数分で完了する。
【0024】
また、純度試験時の試験用試薬時の実作業は、予め作製しておいた0.01モル/lの塩酸水溶液を半調合試薬に添加するだけであるので、特に化学的な専門知識を有する担当者がこれにあたる必要がなくなる。
【0025】
以下、具体例を示す。
市販の0.1w/v%のメチルレッド液と0.1w/v%のブロモチモールブルー液を準備した。予め煮沸して溶存気体を除去し冷却した純水20lに対してメチルレッド液とブロムチモールブルー液をそれぞれ15ml加え、煮沸した。煮沸後密栓付容器に移し、常温まで冷却し、中間体を得た。
【0026】
この中間体を、容量200mlの黒色ポリプロピレン製密栓付容器に約180mlずつ小分けして密封して貯え、約100個の容器を温度10℃の保存庫内に保管し、半調合試薬とした。
【0027】
3ヶ月経過した後、1個の容器を取り出し、容器内の半調合試薬を50mlずつ3本のネスラー管A、B、Cに分取した。ネスラー管Aには、濃度0.01モル/lの塩酸水溶液を0.10ml添加し、ネスラー管Bには同濃度の塩酸水溶液を0.20ml添加した。ネスラー管Cにはなにも加えなかった。これにより3種の試験用試薬を作製した。
【0028】
そして、3本のネスラー管内の3種の試験用試薬は、鮮やかに3色に発色した。この発色は、当日初めから作製した3種の試験用試薬の色調と殆ど変わらず、酸素純度試験用試薬として十分実用できるものであった。
また、3本のネスラー管に対して必要な3種の試験用試薬を用意するのにわずか数分の単純な作業で完了することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチルレッド液とブロモチモールブルー液とを純水に加えて煮沸した中間体を保存してなる酸素純度試験用半調合試薬。
【請求項2】
メチルレッド液とブロモチモールブルー液とを純水に加えて煮沸した中間体を樹脂容器中に密栓して10℃以下で保存してなる酸素純度試験用半調合試薬。
【請求項3】
メチルレッド液とブロモチモールブルー液とを純水に加えて煮沸した中間体を保存して酸素純度試験用半調合試薬とし、
酸素の純度試験の実施に際して、この半調合試薬を3個の容器A、B、Cに分取し、容器Aには塩酸水溶液1容を、容器Bには塩酸水溶液2容を加え、容器Aの溶液に被検体となる酸素を定量通じた後、容器A、容器B、容器Cの溶液の色を比色する酸素の純度試験方法。