酸素還元触媒層
酸素還元触媒層及びその製造方法であって、その酸素還元触媒層は、物理蒸着及び熱処理を使用して基材上に配置された触媒物質膜を有する。その触媒物質膜は、白金を実質的に含まない遷移金属を含有する。物理蒸着及び熱処理の少なくとも一方は、窒素含有ガスを含む処理環境内で実施される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー省に授与された協力協定(Cooperative Agreement)DE−FC36−03GO13106の下で米国政府の支援によりなされたものである。米国政府は、本発明において正当な権利を有している。
【0002】
(関連出願に対する相互対照)
本発明は、同日申請の同時係属特許出願11/379518号(代理人整理番号61952US002)「酸素還元触媒層の製造方法」を参照としている。
【0003】
(発明の分野)
本発明は、燃料電池など、電気化学的デバイスで用いる膜電極アセンブリに関する。とりわけ、本発明は、膜電極アセンブリで用いる触媒層に関する。
【背景技術】
【0004】
燃料電池は、水素などの燃料と酸素などの酸化剤との触媒作用を利用した結合によって使用可能な電気を生成する電気化学的デバイスである。例えば、内燃機関発電機などの従来の発電装置とは対照的に、燃料電池は燃焼を利用しない。そのため燃料電池は有害排出物をほとんど発生しない。燃料電池は、水素燃料及び酸素を直接に電気に変換し、内燃機関発電機と比較してより高い効率において稼動することができる。
【0005】
プロトン交換膜(PEM)燃料電池などの燃料電池には典型的に、1対の触媒層間に配置されている電解質膜によって形成されている膜電極アセンブリ(MEA)が備わっており、その触媒層は1対のガス拡散層間に配置されている。前記電解質膜の各側面は、アノード部分及びカソード部分と呼ばれる。典型的なPEM燃料電池において、水素燃料はアノード部分に導入され、そこで水素が反応し、プロトン及び電子に分離する。電解質膜は、プロトンをカソード部分まで運ぶ一方、電子の流れが外部回路を通ってカソード部分まで移動するようにさせて電力を提供する。酸素がカソード部分に導入されてプロトン及び電子と反応し、水及び熱を生じる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
PEM燃料電池を商業的に利用するには一般に、触媒層の性能が障害となる。高額にもかかわらず、白金は現在、触媒層用材料として選ばれている。しかしながら、望ましい動作電圧を得るには、触媒層に大量の白金が必要となり、材料コストを押し上げる。更に、高電圧において、白金は水及び/又は酸素と反応する可能性があり、その結果、酸素還元反応における触媒活性を阻害するオキシド層が生成される。従って、コスト、性能、及び耐久性の面で有益な別の触媒物質を得る必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、熱的に安定な基材、及び前記熱的に安定な基材上に配置された触媒物質膜を有する酸素還元触媒層に関する。触媒物質膜には、炭素、窒素、及び遷移金属が含まれており、前記遷移金属は、鉄、コバルト、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されている。酸素還元触媒層は、良好な触媒活性を示し、耐食性である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1は、本発明の触媒層10の断面図である。触媒層10には基材12及び膜14があり、PEM燃料電池で用いるのに適している(例えば、MEAのカソード触媒層など)。基材12には表面16があり、表面16上には膜14が配置されている。膜14には、構成成分として、白金を実質的に含まない触媒物質が含まれており、後述するように、膜14は、物理蒸着(PVD)処理及び熱処理の併用によって形成させる。その結果、触媒層10は、白金を実質的に含まないが、酸素の還元に良好な触媒活性を示す。白金を実質的に含まないとは、本明細書では、触媒層10中の白金が約5μg/cm2以下であることを意味するものと定義する。
【0009】
図2は、触媒層10の製造方法18のフローチャートであり、工程20〜28が含まれている。方法18では、最初に物理蒸着(PVD)システム内に「第1の処理環境」を生成させる(工程20)。PVDシステムには、炭素ターゲット、及び実質的に白金を含まない遷移金属ターゲットが含まれている。第1の処理環境は、PVDシステムを減圧(例えば、約0.007Pa(1×10−5トール)以下)まで排気した後、動作圧に達するまでガスを導入することにより生成させる。第1の処理環境の適切な動作圧の例は、約0.07Pa(0.5ミリトール)〜約0.67Pa(5ミリトール)である。
【0010】
第1の処理環境に適しているガスの例としては、窒素含有ガス、酸素、水蒸気、水素、アルゴン、及びこれらの混合物が挙げられる。第1の処理環境に特に適しているガスの例としては、窒素含有ガス、例えば、窒素、アンモニア、窒素含有揮発性有機化合物(例えば、ピリジン、アセトニトリル、ピロール、ピロリジン、キノリン)、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0011】
続いて、基材12をPVDシステムに通過させ(工程22)、これによって基材12を第1の処理環境にさらす。基材12に適した物質の例としては、ナノ構造の薄膜基材(例えば、パーソニッジ(Parsonage)らの米国特許第5,338,430号、及びデベ(Debe)の米国特許第4,812,352号及び同5,039,561号に開示の基材)、ミクロ構造の薄膜基材(例えば、スピーワク(Spiewak)らの米国特許第6,136,412号に開示の基材)、炭素含有基材、炭素含有織布、炭素含有不織布、亜酸化チタンセラミックス(例えば、エボネックス社(Ebonex Corp.)(ミシガン州メルビンデール)から「エボネックス(EBONEX)」の商標表記で市販されているセラミックス)、ナノ酸化スズ膜、ナノ酸化チタン膜、非膜系炭素含有粒子及び粉末、炭素含有繊維、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0012】
このような物質は熱的に安定であり、次工程の熱処理の高温に耐えられる。本明細書で使用する時、「熱的に安定な」という用語は、少なくとも約350℃、より望ましくは少なくとも約500℃の温度で、2時間まで実質的に劣化せずに耐えられる物質の性能を意味する。
【0013】
次に、PVDシステムにおいて、第1の処理環境で物理的方法(例えば、スパッタリング及び陰極アーク)により蒸気相中に原子を生成させることで、基材12上に触媒物質を堆積させる(工程24)。例えば、スパッタリング法では、第1の処理環境のガスに電界を印加し、イオン化原子の自立プラズマを生成させる。イオン化原子は炭素ターゲット及び遷移金属ターゲットに衝突し、それによって炭素原子及び遷移金属原子が放出される。次に、放出された原子が基材12に向かって進み、ガス原子とともに凝縮する。これにより、基材12の表面16上に触媒物質の膜14が形成される。別の実施形態では、2つの別個のシステムで炭素及び遷移金属を順次堆積させてもよい。
【0014】
基材12の材料が粉末又は粒子である実施形態では、粉末又は粒子をPVDプロセス中に攪拌して動かしてもよい。適切な攪拌方法の例は、ブレイ(Brey)らの米国特許公開番号2005/0095189号に記載されている。得られた触媒物質被覆粉末又は粒子は更に、本明細書において平面的な基材及び膜について記載されているように活性化させる。
【0015】
上述したように、遷移金属ターゲットは白金を実質的に含まない。更に、ある1つの実施形態では、遷移金属ターゲットは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金、金、及び銀などのいずれの貴金属も実質的に含まない。貴金属は材料コストが高く、望ましい動作電圧及び電流を得るのに多くの量を必要とする。これに対し、遷移金属ターゲットに適切な繊維金属の例としては、鉄、コバルト、及びこれらの混合物が挙げられる。これらの適切な遷移材料は貴金属に比べて低価格なため、製造時の材料コストが抑えられる。
【0016】
膜14は、基材12上に炭素原子、イオン化原子、及び遷移金属原子を凝縮させて形成させるため、触媒物質には構成成分として炭素、遷移金属、及び堆積したガス原子(窒素など)が含まれる。このため、膜14の触媒物質も白金を実質的に含まない(ある1つの実施形態では、いずれの貴金属も含まない)。特に適切な膜14の触媒物質の組成の例は、C1−x−y−Nx−My(x+y<1)の式で表すことができ、式中、Myは、鉄、コバルト、及びこれらの混合物といった白金以外の遷移金属である。
【0017】
膜14の触媒物質における炭素の適切な原子百分率の例は約50.0%〜約99.8%であり、特に適切な炭素の原子百分率は約80.0%〜約95.0%である。膜14の触媒物質における窒素の適切な原子百分率の例は約0.1%〜約45.0%であり、特に適切な炭素の原子百分率は約4.0%〜約20.0%である。膜14の触媒物質における遷移金属の適切な原子百分率の例は約0.01%〜約15.0%であり、特に適切な炭素の原子百分率は約2.0%〜約10.0%である。
【0018】
PVD処理では典型的に、1回の通過で材料の薄い層が堆積する。本発明において、堆積する膜14の厚みは、電力設定、第1の処理環境内のガスの組成及び濃度、基材12のライン速度などのPVDパラメーターによって異なる可能性がある。従って、堆積する膜14の厚みを増やすには、膜14の適切な厚みが得られるまで、基材12を(矢印25で示すように)PVDシステムに複数回通過させてもよい。従って、膜14の適切な厚みの例は、平面に換算して約10ナノメートル〜約5,000ナノメートルであり、特に適切な厚みは約100ナノメートル〜約500ナノメートルである。
【0019】
膜14が基材12上に堆積したら、得られたコーティング基材(本明細書では12’と表す)を熱処理システムに配置し、熱処理システム内に第2の処理環境を生成させる(工程26)。熱処理システムは、適切な加熱システムであれば、対流式オーブンや石英管炉など、いずれの種類であってもよい。後述するように、ある1つの実施形態では、熱処理システムはPVDシステム内に配置されている加熱要素である。この場合、1つの装置で(以下の図4に示すように)PVD処理(工程24)と熱処理(後述の工程28)をほぼ同時に実行できる。
【0020】
第2の処理環境は、熱処理システムに処理ガスを導入して残留ガスをほぼ除去することにより生成させる。第2の処理環境に適切な処理ガス及び特に適切な処理ガスの例としては、上記の第1の処理環境で述べた適切なガス及び特に適切なガスが挙げられる。触媒物質中に窒素原子があると、触媒層10の触媒活性が向上すると考えられる。従って、第1の処理環境及び第2の処理環境の少なくとも一方に窒素含有ガスが含まれている。このため、PVDプロセス又は熱処理のいずれかにおいて、窒素含有ガスを含む処理環境を生成させてもよい。ある1つの実施形態では、PVDプロセス及び熱処理の両方において、窒素含有ガスを含む処理環境が生成される。
【0021】
第2の処理環境の生成後、第2の処理環境で膜14の触媒物質を熱処理する(工程28)。この熱処理は、種々の熱プロフィールを用いてもよく、複数の工程に渡っていてもよい。例えば、温度を処理温度に達するまで一定の割合(例えば、6℃/分)で上昇させた後、処理温度を望ましい時間(例えば、15分間)維持させてもよい。適切な処理温度の例としては、少なくとも約350℃、より好ましくは少なくとも約600℃、更に好ましくは少なくとも約900℃の温度が挙げられる。
【0022】
第2の処理環境で用いるガスの組成物は、2つ又はそれ以上の工程を設けて、熱処理プロセス中に変更してもよい。例えば、第1の熱処理工程(例えば、約350℃〜約600℃の温度に加熱する工程)で、アンモニアと水素の第1のガス組成物を含む処理環境を使用し、第2の熱処理工程(例えば、約600℃に加熱する工程)で、アンモニア及び窒素の第2のガス組成物を使用してもよい。
【0023】
熱処理の完了後、PEM燃料電池で用いるために、得られた触媒層10を熱処理システムから取り出してよい。PVD処理と熱処理を併用することで、触媒層10は酸素の還元に良好な触媒活性を示すことができる。触媒層10に適切な酸素還元触媒活性の例は、可逆水素電極(RHE)に対して0.6ボルトで少なくとも約0.02ミリアンペア/センチメートル2(mA/cm2)であり、特に適切な酸素還元触媒活性は少なくとも約0.05mA/cm2である。
【0024】
更に、膜14の触媒物質に適した上述の原子百分率によって、触媒層10は、酸性環境(例えば、燃料電池)で用いる際に耐食性を示すことができる。本明細書で使用する時、「耐食性」という用語は、触媒層10が0.5モルの硫酸溶液(H2SO4)に少なくとも1週間さらされた後も、少なくとも上記の適切な炭素、窒素、及び遷移金属の原子百分率を維持できる能力を意味する。更に、触媒物質は白金を実質的に含まないとともに、1つの実施形態では貴金属も実質的に含まないため、触媒層10の材料コストが抑えられる。
【0025】
図3A及び3Bは、それぞれPVDシステム30a及び30bの概略図であり、(前出の図2に示す)方法18の工程24に従って触媒物質を基材12上に物理的に蒸着するための代替システムである。図3Aに示すように、PVDシステム30aには、チャンバ32、供給ロール34及び36、支持ホイール38、取り出しロール40及び42、炭素ターゲット44、並びに、遷移金属ターゲット46が備わっている。PVDシステム30aに適したシステムの例としては、セリファーノフ(Selifanov)らの米国特許第5,643,343号及び同5,711,773号に開示されているDCマグネトロンスパッタリングシステム及びパルス陰極アークデバイスが挙げられるが、これらのシステムは炭素ターゲット44及び遷移金属ターゲット46を備えるように改造する。
【0026】
チャンバ32は、(前出の図2に示す)方法18の工程20に従って内部に第1の処理環境を生成させるPVDチャンバである。供給ロール34及び36、支持ホイール38、並びに取り出しロール40及び42は、PVD処理中に基材12のウェブ経路を提供するロールである。炭素ターゲット44及び遷移金属ターゲット46は、基材12が支持ホイール38の周囲を(図3Aでは時計方向に)回転させる際に、それぞれ炭素原子及び遷移金属原子を基材12上に物理的に蒸着するよう、支持ホイール38に隣接して配置されている。
【0027】
更に図3Aに示すように、炭素ターゲット44は遷移金属ターゲット46の上流に配置されている。その結果、炭素ターゲット44により炭素原子が基材12上に堆積し、その後、遷移金属ターゲット46により遷移金属原子が堆積する。基材12が炭素ターゲット44の下を通過すると、放出された炭素原子が基材12に向かって進み、イオン化原子とともに凝縮する。次に、基材12が遷移金属ターゲット46の下を通過すると、放出された遷移金属原子が基材12に向かって進み、先に凝縮した炭素/窒素原子の上面でイオン化窒素原子とともに凝縮する。
【0028】
この2つの工程による堆積プロセスでは一般に、膜14に2つの層をもたらし、基材12の表面16上に位置する下層には一般に炭素原子及びガス原子(窒素など)が含まれ、上層には一般に遷移金属原子及びガス原子(窒素など)が含まれている。ただし、膜14の上下層間で相当量の混合が生じることに注意すべきである。更に、上述したように、2つの工程による堆積プロセスを複数回行って、基材12に堆積させる触媒物質の量を増やしてもよい。PVD処理の後、得られたコーティング基材12’は、熱処理システム(図示なし)に送る目的で、取り出しロール42で受容させる。
【0029】
基材12を炭素粒子、粉末、又は繊維として提供する別の実施形態では、基材12は炭素ターゲットとして機能し得るため、炭素ターゲット44が不要になる。この実施形態では、イオン化ガス原子により基材12から炭素原子が放出され、放出された炭素原子が遷移金属原子及びイオン化ガス原子と表面16上で凝縮し、膜14が形成される。
【0030】
図3Bに示すように、PVDシステム30bは、炭素ターゲット44及び遷移金属ターゲット46を複合カソード48と置き換えた以外は、PVDシステム30aと同じ構成要素を有し、一般に同様に動作する。複合カソード48は、炭素ターゲット及び遷移金属ターゲットを備える単一の構成要素であり、炭素原子及び遷移金属原子を基材12上にほぼ同時に堆積させる。この実施形態では、PVDプロセス中に、放出された炭素原子及び遷移金属原子がほぼ同時に基材12に向かって進み、イオン化窒素原子とともに凝縮する。その結果、膜14は、炭素、窒素、及び遷移金属のほぼ均質な混合物を含む単一の層になる。
【0031】
複合カソード48に適切な装置の例としては、遷移金属のワイヤを挿入するために穴を開けたグラファイト−炭素ターゲットが挙げられる。この実施形態では、遷移金属ターゲットは、実際には遷移金属ワイヤの複数のサブターゲットから構成される。グラファイト−炭素ターゲットと遷移金属ワイヤの相対表面積により、一般に堆積する炭素対遷移金属の割合が決まると思われる。例えば、複合カソード48は、炭素/グラファイト製のシリンダーから形成可能である。次に、シリンダーの断面に穴を開けた後、遷移金属のワイヤを穴に固定する。
【0032】
適切な炭素/グラファイトシリンダーの例としては、ポコ・グラファイト(Poco Graphite)(テキサス州ディケーター)から「フレージSFG2(FRAGE SFG2)」の商標表記で市販されているグラファイトカソードが挙げられる。適切な遷移金属のワイヤの例としては、アルファ−イーザー(Alpha-Aesar)(マサチューセッツ州ウォードヒル)から市販されている鉄ワイヤが挙げられる。複合カソード48の適切な寸法としては、直径が33mmの炭素/グラファイトシリンダーに、それぞれ長さが1cm、直径が1〜2mmの遷移金属ワイヤを多数(例えば、25〜50本)貫入したものが挙げられる。
【0033】
複合カソード48に適切な別の装置の例としては、炭素ターゲットに遷移金属を添加した混合ターゲットが挙げられる。例えば、炭素粒子及び遷移金属粒子を共に高温プレスして混合ターゲットを生成してもよい。これにより、炭素原子及び遷移金属原子がほぼ同時に基材12に向かって進むことができる。
【0034】
図4は、前出の図2に示した方法18に代わる方法50のフローチャートである。図4に示すように、方法50には工程52〜56が含まれ、最初の工程(工程52)において、PVDシステム(例えば、PVDシステム30a及び30b)内に処理環境を生成させる。この処理環境は、(前出の図2に示す)方法18の工程22で第1の処理環境について上述した方法と同様に生成させる。
【0035】
図4に示す実施形態では、PVDシステムには、PVDプロセス中に触媒物質を熱処理するための加熱要素も備わっている(図3A又は3Bには図示なし)。適切な加熱要素の例としては、基材12が上部を通過する(あるいは、不連続のプロセスでは基材12を乗せる)加熱プレートが挙げられる。加熱プレートは基材12を伝導的に加熱し、それにより触媒物質が堆積しているときに熱処理される。加熱要素に適切な処理温度の例としては、少なくとも約350℃、より適切には少なくとも約600℃の温度が挙げられる。
【0036】
処理環境の生成後、基材12をPVDシステムに通過させ(工程54)、これによって基材12を処理環境及び加熱要素にさらす。基材12は、処理温度まで加熱されるように、十分な時間加熱要素にさらすのが望ましい。次に、PVDシステムにより、PVDプロセスを経て基材12上に触媒物質を堆積させる。これは、基材12を処理環境内に配置し、同時に加熱要素によって堆積させた触媒物質を熱処理することによって行う(工程56)。その結果、PVDプロセス及び熱処理が同時に実行され、触媒層10の製造に要する時間が短縮される。
【0037】
一体型のPVDプロセス/熱処理の後、PEM燃料電池で用いるために、触媒層10をPVDシステムから取り出してよい。方法50に従って形成された触媒層も、上述したように、酸素の還元に良好な触媒活性を示し、耐食性で、白金及び/又は貴金属を実質的に含まない。
【0038】
触媒物質を物理的に蒸着させる基材として粒子又は粉末を使用する本発明の実施形態では、当該技術分野において既知の手法により、熱処理及びPVD処理した粒子又は粉末から燃料電池用の触媒層を製造してもよい。例えば、粉末の粒子を水性ナフィオン(Nafion)分散体などの電解質材料と混合し、インクを形成させてもよい。その後、このインクを膜又はガス拡散層(GDL)に付着させる。材料をGDLに付着させた場合、GDLは膜に接触させて配置させる。
【0039】
図5は、外部電気回路60を使用したMEA58の略図であり、MEA58には、本発明の方法(例えば、方法20及び50)に従って形成させた触媒層10が備わっている。MEA58は、PEM燃料電池などの電気化学セルで用いるのに適しており、更にアノード部分62、カソード部分64、電解質膜66、アノード触媒層68、及びガス拡散層70及び72を備えている。アノード部分62及びカソード部分64は一般に、MEA58のアノード側及びカソード側を指す。
【0040】
電解質膜66は、PEMのような、任意の適切なイオン伝導膜であってもよい。電解質膜66に適切な材料の例としては、テトラフルオロエチレンと1つ以上のフッ素化酸官能コモノマーのコポリマーのような酸官能フッ素重合体が挙げられる。適切な市販の材料の例としては、デラウェア州ウィルミントンのデュポンケミカルズ(DuPont Chemicals)から商標表記「ナフィオン(NAFION)」として市販されているフッ素重合体が挙げられる。
【0041】
触媒層10は、電解質膜66とガス拡散層72の間に配置されているカソード触媒層であり、基材12がガス拡散層72に接触し、膜14が電解質膜66に接触している。1つの実施形態では、基材12はガス拡散層72として機能する。MEA50の組み立て時に、基材12がガス拡散層72に接触するように、触媒層10の膜14を電解質膜66に接触させて配置する。これにより、電解質膜66とガス拡散層72の間に導電性の接触がもたらされる。ある1つの実施形態では、触媒層10をMEA50に組み立てる前に酸洗浄し、過剰な金属を除去することで、触媒層10の触媒活性を向上させる。
【0042】
アノード触媒層68は、電解質膜66とガス拡散層70の間に配置されており、ガス拡散層70はMEA58のアノード部分62に位置する。ガス拡散層70及び72はそれぞれ、炭素繊維構造物(例えば、織布及び不織布炭素繊維組織体)など、任意の適切な導電性多孔性基材であってよい。またガス拡散層70及び72は、疎水性を増加又は付与するように処理してもよい。
【0043】
MEA58の動作中、水素燃料(H2)が、アノード部分62でガス拡散層70に導入される。あるいは、MEA58は、メタノール、エタノール、ギ酸及び改質ガス等の他の燃料源を使用できる。燃料は、ガス拡散層70を通過し、アノード触媒層68の上に達する。アノード触媒層68において、燃料は水素イオン(H+)及び電子(e−)に分離される。電解質膜66は、水素イオンのみを通過させて、それを触媒層10及びガス拡散層72に到達させる。電子は、一般に電解質膜66を通過できない。このように、電子は、電流の形で外部電気回路60内を流れる。この電流は、電動モータ等の電気負荷に電力を供給できるか、又は、再充電式電池等のエネルギー貯蔵装置に誘導できる。
【0044】
酸素(O2)は、カソード部分64においてガス拡散層72に導入される。酸素は、ガス拡散層72を通過して触媒層10の上に達する。触媒層10において、酸素、水素イオン、及び電子が結合して、水と熱が生成される。上述したように、触媒層10は酸素の還元に良好な触媒活性を示し、MEA58の効率を高める。更に、触媒層10は耐食性であるため、MEA58内で長期間に渡って機能できる。
【実施例】
【0045】
本発明について以下の実施例でより具体的に説明するが、本発明の範囲内での多数の修正及び変形が当業者には明らかとなるため、以下の実施例は例示のみを目的としたものである。別に言及のない限り、次の実施例で報告されている全ての部、百分率、及び比は、重量基準であり、実施例で用いられている全ての試薬は、下記の化学薬品供給元から得たか若しくは入手できるか、あるいは、従来の技術により合成される可能性がある。
【0046】
実施例1及び比較例A
実施例1のMEAは、以下の手法に従って調製した。触媒層は、炭素不織布基材(フロイデンベルク・ノンウォーバン・テクニカル・ディビジョン(Freudenberg Non-Wovens Technical Division)(マサチューセッツ州ローエル)から製品番号FC−H2315として市販されている)に触媒物質を物理蒸着して調製した。物理蒸着は、セリファーノフ(Selifanov)らの米国特許第5,643,343号及び第5,711,773号に記載されているパルス陰極アークプラズマ発生システムを使用して、窒素ガスを含む処理環境で実施した。このシステムを使用して炭素及び窒素を堆積させる方法は、アンドレイ・スタニセフスキー(Andrei Stanishevsky)の「パルス陰極アーク放電のプラズマから堆積された擬似非晶質炭素及び窒化炭素膜」(カオス、ソリトン、及びフラクタル(Chaos, Solitons and Fractals)、第10巻、2045〜2066ページ、1999年)に記載されている。
【0047】
システムは、炭素ターゲット及び遷移金属(すなわち鉄)ターゲットを有する複合カソードを備えるように改造した。複合カソードには、断面に鉄ワイヤターゲットを留める56個の穴を開けた、直径33mmのグラファイト−炭素ターゲット(ポコ・グラファイト(Poco Graphite)(テキサス州ディケーター)から「グレードSFG2(GRADE SFG2)」の商標表記で市販されている)を搭載した。各鉄ワイヤターゲットは、直径2.0mm、長さ1cmであった(アルファ−イーザー(Alpha-Aesar)(マサチューセッツ州ウォードヒル)から市販されている)。
【0048】
システムを約0.007Pa(1×10−5トール)未満まで排気した後、窒素ガスを導入し、約0.27Pa(2ミリトール)〜0.39Pa(3ミリトール)の動作圧を得た。システムは、主、副、及び点火静電容量をそれぞれ2,200μF、185μF、及び10μF、主、副、及び点火電圧を250V、300V、及び700V、放電周波数を約4Hzで動作させた。炭素不織布基材のウェブは、61cm/分(24インチ/分)のライン速度でシステムに18回通過させた。何度も通過させることで、基材に堆積される単位面積当たりの触媒物質の量を増加させた。PVDプロセス完了後、大気圧になるまでシステムに窒素ガスを導入し、コーティング済みの基材を取り出した。
【0049】
次に、コーティング基材を石英管炉(モジュラー・プロセス・テクノロジ(Modular Process Technology)(カリフォルニア州サンホゼ)から「RTP600S」の商標表記で市販されている)で熱処理した。この炉に窒素ガスを導入し、残留ガスを除去した。残留ガスをほぼ除去した後、熱処理前及び熱処理中に炉にアンモニアガスを導入することで、第2の処理環境を調製した。コーティングされた触媒を炉内に置き、900℃の処理温度に達するまで温度を6℃/分の速度で昇温させた。次に、温度を900℃で15分間維持した。得られた触媒層は、ほぼ室温になるまで炉内に放置した後、取り出した。
【0050】
次に、調製した触媒層(カソード触媒層として機能する)とアノード触媒層の間に1対のPEM(デュポン・ケミカル(DuPont Chemical Co.)(デラウェア州ウィルミントン)から「ナフィオン(NAFION)112」の商標表記で市販されている)を配置した。アノード触媒層には、白金/炭素分散インクをコーティングしたカーボン紙のガス拡散層を搭載した。カーボン紙のガス拡散層は、疎水性処理した炭素繊維紙(バラード・マテリアル・プロダクツ(Ballard Material Products)(マサチューセッツ州ローエル)から「AVCARB P50炭素繊維紙(AVCARB P50 Carbon Fiber Paper)」の商標表記で市販されている)の片面にガス拡散性ミクロ層をコーティングして製造した。アノード触媒の白金添加量は、白金として約0.3mg/cm2〜約0.4mg/cm2であった。得られた実施例1のMEAを、4連サーペンタイン流路(quad-serpentine flow field)を有する50cm2の試験電池付属品(フュール・セル・テクノロジーズ(Fuel Cell Technologies)(ニューメキシコ州アルバカーキ)から入手可能)に約25%〜約30%の圧縮率で組み立てた。
【0051】
比較例AのMEAは、コーティング基材を熱処理しない以外は、上述した実施例1のMEAと同様に調製した。従って、PVDプロセスの後、コーティング基材を1対のPEMとアノード触媒層に直接組み込み、比較例AのMEAを得た。
【0052】
実施例1及び比較例Aの各MEAの触媒活性は、以下の「分極測定法(polarization measurement method)」に従って測定した。この測定法では、ポテンショスタット(ソーラートロン・アナリティカル(Solartron Analytical)(テネシー州オークリッジ)から「ソーラートロン・セルテスト(SOLARTRON CELLTEST)1470」の商標表記で市販されている)及びソフトウェアパッケージ(スクリブナー・アソシエイツ(Scribner Associates, Inc.)(ノースカロライナ州サザンパインズ)から「コルウェア(CORWARE)」の商標表記で市販されている)を使用し、酸素下での分極曲線の記録を伴う。
【0053】
サイクリック・ボルタンモグラムを50、20、10、及び5mV/秒で0.01V〜1.1Vの範囲で実施した。触媒活性の比較には、5mV/秒のスキャン速度を使用し、同じ電圧で比較を行った。電池のアノード側及びカソード側に導入した水素及び酸素の気流は、それぞれ流速が周囲気圧で500立方センチメートル/分(SCCM)であった。測定は、75℃、相対湿度約150%で実施した。
【0054】
図6は、分極測定法に従って測定した実施例1及び比較例AのMEAの分極曲線のグラフである。図に示すように、実施例1のMEAは、比較例AのMEAに比べて高い触媒活性を示した。これは、触媒層の熱処理によるものであると考えられる。従って、PVDプロセス及び熱処理を用いて製造した本発明の触媒層は、燃料電池などの電気化学的デバイスで用いるのに良好な触媒活性を示す。
【0055】
実施例1及び比較例Aの各MEAについて、以下の「交流(AC)インピーダンス測定法」に従ってACインピーダンスを測定し、触媒層の抵抗に加えて触媒層とPEM間の耐干渉性を測定した。ACインピーダンスは、周波数応答分析器(ソーラートロン・アナリティカル(Solartron Analytical)から「ソーラートロン(SOLARTRON)SI1250」の商標表記で市販されている)を備えるポテンショスタット(ソーラートロン・アナリティカル(Solartron Analytical)(テネシー州オークリッジ)から「ソーラートロン・セルテスト(SOLARTRON CELLTEST)1470」の商標表記で市販されている)、及びソフトウェアパッケージ(スクリブナー・アソシエイツ(Scribner Associates, Inc.)(ノースカロライナ州サザンパインズ)から「ZPLOT」の商標表記で市販されている)を使用して測定した。測定は、1Hz〜10kHzの周波数範囲において水素下で開回路電圧で行った。電池のアノード側及びカソード側に導入した水素の気流は、それぞれ流速が500立方センチメートル/分(SCCM)であった。測定は、75℃、相対湿度約150%で実施した。
【0056】
図7は、ACインピーダンス測定法に従って測定した実施例1及び比較例AのMEAのACインピーダンスのグラフである。図に示すように、実施例1のMEAは、比較例AのMEAに比べて低いインピーダンスを示した。これは、触媒活性の場合と同様に、触媒層の熱処理によるものであると考えられる。
【0057】
実施例2〜7及び比較例B
実施例2〜7のMEAは、複合カソードに直径1.2mm、長さ1cmの鉄ワイヤターゲット(同じくアルファ−イーザー(Alpha-Aesar)(マサチューセッツ州ウォードヒル)から市販されている)を45本搭載する以外は、それぞれ上述した実施例1のMEAと同じ手法に従って調製した。また、システムは、主、副、及び点火静電容量がそれぞれ2,200μF、185μF、及び20μFで動作させ、炭素不織布基材のウェブは30.5cm/分(12インチ/分)のライン速度でシステムに10回通過させた。更に、実施例2〜7のコーティング基材は、以下の表1に示すように異なる条件で熱処理した。熱処理後、得られた触媒層を、上述した実施例1のMEAと同様に、MEAに組み込んだ。
【0058】
比較例BのMEAは、コーティング基材を熱処理しない以外は、上述した実施例2〜7のMEAと同様に調製した。実施例2〜7及び比較例BのMEAの触媒活性は、上述した「分極測定法」に従って測定した。表1に、実施例2〜7及び比較例BのMEAの熱処理で用いた処理温度及び処理環境ガス、並びに0.6Vにおける触媒活性の結果を記載する。
【0059】
【表1】
【0060】
表1に示すように、熱処理によりMEAの触媒活性が向上する。従って、本発明の触媒層は、燃料電池などの電気化学的デバイスで用いるのに良好な触媒活性を示す。更に、上述したように、触媒層は白金(及びある1つの実施形態では貴金属)を実質的に含まないため、材料コストを抑えられる。
【0061】
更に表1に示すように、アンモニアでの熱処理(実施例5〜7)は、窒素での熱処理(実施例2〜4)に比べてMEAの触媒活性が高かった。これは、窒素に比べてアンモニアの熱処理時の反応性が高いことに起因すると考えられる。
【0062】
(実施例8及び9)
実施例8及び9のMEAは、以下の手法に従ってそれぞれ調製した。この手法では、PVDプロセスとほぼ同時に熱処理を行った。PVDシステムは、複合カソードに42本の鉄ワイヤターゲットを搭載する以外は、実施例1で上述したものと同じシステムを使用した。更に、ウェブを移動させる代わりに、裏面に加熱要素が配置されているモリブデンプレート(テクトラGmbH(Tectra GmbH)(ドイツ)から「ボラレクトリック(BORALECTRIC)」窒化ホウ素の商標表記で市販されている)の表面上に基材を乗せた。加熱温度は、比例・積分・微分(PID)コントローラ(RKCインストルメント(RKC Instrument Inc.)(インディアナ州サウスベンド)のモデルREX−P300)を用いて制御した。
【0063】
処理環境は、ガス(窒素90容量%及びアンモニア10容量%)を流速250SCCMで導入し、動作圧は約0.13Pa(1ミリトール)で、調製した。システムは、主、副、及び点火静電容量をそれぞれ2,200μF、185μF、及び20μF、主、副、及び点火電圧を250V、350V、及び600V、放電周波数を8.0Hzで動作させた。実施例8では、触媒物質を2,500パルス、基材温度550℃で堆積させた。実施例9では、触媒物質を4,000パルス、基材温度625℃で堆積させた。PVD/熱処理後、得られた実施例8及び9の触媒層を、上述した実施例1のMEAと同様に、MEAに組み込んだ。
【0064】
実施例8及び9並びに比較例BのMEAの触媒活性は、上述した「分極測定法」に従って測定した。図9は、実施例8及び9並びに比較例BのMEAの分極曲線のグラフである。図に示すように、0.5mVにおいて、実施例8のMEAは0.130mA/cm2の触媒活性を示し、実施例9のMEAは0.234mA/cm2の触媒活性を示した。更に、図9に示すように、熱処理により触媒層の触媒活性が向上し、触媒活性は一般に使用した処理温度に比例している。
【0065】
(実施例10)
触媒作用を有するC1−x−yNxFey材料膜を、DCマグネトロンスパッタリングシステムを使用して、触媒物質をディスク(例えば、ガラス状炭素ディスク、シリコンウエファー、ガラススライド、又は石英スライド)上に堆積させて調製した。スパッタリングシステムは、J.R.ダーン(J.R. Dahn)、S.トラッサー(S. Trussler)、T.D.ハチャード(T.D. Hatchard)、A.ボナクダーパー(A. Bonakdarpour)、J.N.ミューラー−ノイハウス(J.N. Meuller-Neuhaus)、K.C.ヒューイット(K.C. Hewitt)、及びM.フレイシャワー(M. Fleischauer)の「線状及び直交する化学量論的変動を有する大規模組成拡散ライブラリを製造するための高効率スパッタリングシステム(Economical sputtering system to produce large-size composition-spread libraries having linear and orthogonal stoichiometry variations)」(材料化学(Chemistry of Materials)、14(8)、3519〜3523、2002年)に概略が記載されている。アルゴン/窒素混合物を含む処理環境は、E.ブラッドリー・イーストン(E. Bradley Easton)、Th.バーメスター(Th. Buhrmester)、及びJ.R.ダーン(J. R. Dahn)の「スパッタリング処理によるFe1−xNx膜の調製及び特性付け(Preparation and Characterization of Sputtered Fe1-xNx Films)」(薄型固体膜(Thin Solid Films)、493、60〜66、2005年)に概略が記載されている。膜は、グラファイトターゲット上で一定マスクを、遷移金属(すなわち鉄又はコバルト)ターゲット上で線状マスクを用いて、調製した。
【0066】
スパッタリングプロセスの完了後、得られた膜を、アルゴンガスの処理環境でモジュラー・プロ・ラピッド・サーマル・プロセッシング(Modular Pro Rapid Thermal Processing)ステーションを用いて熱処理した。処理温度は1000℃であった。ただし、各膜において、処理温度に達するまで温度を5℃/秒の速度で昇温させた。その後、処理温度で1分間維持した。次に、得られたアニーリング膜をアルゴン環境中で室温まで冷却した。
【0067】
膜の「組成分析」は、JEOL USA社(JEOL USA, Inc.)(マサチューセッツ州ピーボディー)から「JXA−8200スーパープローブ(JXA-8200 SUPERPROBE)」電子・プローブ・マイクロアナライザの商標表記で市販されているマイクロアナライザを使用して行った。このマイクロアナライザには、1つのエネルギー分散スペクトロメーター、5つの波長分散(WDS)スペクトロメーター、及び自動移動ステージが備わっていた。窒素標準品として窒化ケイ素を使用し、鉄標準品として磁鉄鉱を使用した。元素組成はWDS検出器を用いて測定し、その予測不確定度(estimated uncertainty)は±0.3%であった。組成はディスクライブラリでポイント毎に測定し、ポイントサイズは5μmであった。ディスクライブラリは厚みが200ナノメートルであり、EDS及びWDSの両方で厚み全体の平均組成を測定した。
【0068】
次に、膜は、「回転リングディスク電極測定(rotating-ring disk electrode measurement)」法を使用して、電解質として0.1モルのHClO4を使用し、1区画のセルでそれぞれ測定した。参照電極には水銀/硫酸水銀を用いた。データは65℃で収集した。サイクリック・ボルタンモグラム(CV)は、5mV/秒において酸素飽和溶液中で行った。図9は、酸素下、65℃における、900RPMでの実施例10の膜の回転ディスク電極測定値を示すグラフである。
【0069】
実施例11及び12、並びに比較例C
触媒作用を有するC1−x−yNxFey材料膜を、上述した実施例10の膜と同様に、それぞれガラス又は石英スライド上で調製した。ただし、比較例Cの膜は熱処理を行わず、実施例11の膜は600℃の処理温度で熱処理し、実施例12の膜は800℃の処理温度で熱処理した。膜はそれ以外の点では組成的に同じであった。
【0070】
次に、実施例11及び12、並びに比較例Cの膜に対して「耐食試験」を行い、各膜を0.5モルの硫酸(H2SO4)溶液中に7日間放置させた。その後、膜を目視で検査し、各膜が溶解した度合を判定した。耐食試験の後、実施例11及び比較例Cの膜の触媒物質は完全に溶解していた。一方、実施例12の膜の触媒物質は、炭素、窒素、及び鉄の原子百分率を上記の適切な原子百分率の範囲内に維持していた。つまり、800℃での熱処理により、実施例12の膜の耐食性が向上した。
【0071】
実施例10の膜の回転リングディスク電極測定の結果、及び実施例12の膜の耐食試験の結果から、触媒作用を有するC1−x−yNxFey材料膜は、良好な触媒活性を示し、酸性環境に対して耐食性であることが例示された。つまり、前記膜は、燃料電池などの電気化学的デバイスの酸性環境での使用に適している。
【0072】
(実施例13a〜13c)
実施例13a〜13cの触媒作用を有するC1−x−yNxCoy材料膜は、鉄ターゲットをコバルトターゲットに置き換えた以外は、それぞれ上述した実施例10の膜と同様に調製した。実施例13a〜12cの膜の原子百分率は、それぞれC0.90N0.04Co0.06、C0.86N0.06Co0.08、及びC0.82N0.10Co0.08であった。膜は、回転リングディスク電極測定法を使用して、室温(すなわち、25℃)で測定した以外は、それぞれ実施例10で上述したように測定した。図10A〜10Cは、それぞれ酸素下、室温における、実施例13a〜13cの膜の回転ディスク電極測定値を示すグラフである。
【0073】
実施例13a〜13cの膜の回転リングディスク電極測定の結果から、触媒作用を有するC1−x−yNxCoy材料膜は適度な触媒活性を示すことが例証された。また、これらの結果から、触媒膜の働きは、触媒物質の原子百分率や熱処理によって異なる可能性があることが示された。
【0074】
(実施例14及び15)
実施例14のMEAには、超微粒子状炭素粒子に鉄を堆積させるPVDによって形成させた触媒を搭載させた。膜は、ブレイ(Brey)らの米国公開特許番号2005/0095189号に記載されているDCマグネトロンスパッタリング法により、鉄ターゲットを使用して調製した。アセチレンブラック(SN2A(フランス)から「Y50A」アセチレンブラックの商標表記で市販されている)の試料30gを130℃の箱型オーブンで12時間乾燥させた。スパッタリングチャンバに、乾燥したアセチレンブラック16.76gを加えた。次に、チャンバを0.007Pa(5×10−5トール)まで排気し、アルゴンガスを約1.33Pa(10ミリトール)の圧力でチャンバに導入した。鉄を堆積させるプロセスとして、最初に99.9%の鉄ターゲット(周囲7.62cm(3インチ)、厚み0.16cm(0.063インチ)、カートJ.レスカー社(Kurt J. Lesker Company)(ペンシルベニア州クレアトン(Clairton))から入手可能)を使用し、カソードに0.1kWの電力を加えた。スパッタリングガスとして34SCCMでアルゴンを導入した。粒子攪拌器のシャフトを10RPMで回転させて、スパッタリング中に炭素粉末を攪拌した。合計0.23kWHの電力量を消費したら、反応を停止させ、チャンバに空気を戻して、反応器から試料を取り出しした。この処理によるターゲットの重量喪失は0.95gであった。
【0075】
鉄処理した膜を溶融石英製ボート型容器に入れ、熱処理用の管炉に置いた。管に窒素を吹き込んで空気を除去し、窒素下で温度を室温から400℃まで6℃/分で昇温させ、窒素/30%アンモニア(NH3)下で4分間400℃に維持し、更に8℃/分で900℃まで昇温させ、窒素/30%アンモニア下で1時間900℃に維持して熱処理を行った。次に、窒素/アンモニア環境を維持しながら、炉を放冷した。
【0076】
冷却後、膜4gを0.54M硫酸300gに一晩浸漬し、膜を酸で洗浄した。試料を濾過により取り出し、脱イオン水で十分に洗浄し、130℃のオーブンで乾燥させた。この乾燥した触媒物質2.0gを水150gに分散させ、得られた分散液を超音波ホーン(ultrasonic horn)(ソニックス・アンド・マテリアルズ社(Sonics and Materials Inc.)(マサチューセッツ州ニュートン)から「ソニックスVCXバイブラセル(Sonics VCX VIBRACELL)」の商標表記で市販されている)で10分間超音波処理した。次に、分散液を130℃で乾燥させ、乾燥した粒子を使用してコーティング分散液を調製した。
【0077】
酸洗浄して超音波処理した触媒粒子1.5gを11.3重量%の水性分散体(E.I.デュポン社(E.I. Du Pont De Nemours Inc.)(デラウェア州ウィルミントン)から「ナフィオン(NAFION)」の商標表記で市販されている)10g及び水10gとビーカーで混合して、触媒粒子の分散液を調製した。混合物を約100℃のホットプレート上で30分間加熱した。冷却後、試料を攪拌した。この触媒インク分散液88mgを、事前に疎水性処理してガス拡散性ミクロ層でコーティングした50cm2のカーボン紙支持体(バラード・マテリアル・プロダクツ(Ballard Material Products)(マサチューセッツ州ローエル)から「AVCARB P50」炭素繊維紙(Carbon Fiber Paper)の商標表記で市販されている)上に手ではけ塗りした。コーティングした試料を真空下(84.7kPa(25インチHg)以下)、110℃で約20分間乾燥させた。この触媒をコーティングした裏材(CCB)をMEAのカソード触媒及びGDL層として使用した。
【0078】
アノード触媒は、実施例1に記載した分散Pt/C触媒層であった。アノード側及びカソード側の両方に25〜30%圧縮用のガスケットを選択した。静圧を用いて、アノード及びカソード触媒を1対のキャスト「ナフィオン(NAFION)」膜(それぞれ厚みが約30μm、1000EW)に132℃(270°F)〜138℃(280°F)及び1,361kg(3,000lb)〜1,814kg(4,000lb)で10分間固着させた。得られたMEAを、4連サーペンタイン流路(quad serpentine flow field)を有する標準的な50cm2の燃料電池試験付属品(フュール・セル・テクノロジーズ(Fuel Cell Technologies))に配置した。
【0079】
実施例15のMEAには、超微粒子状炭素粒子にコバルトを堆積させるPVDによって形成させた触媒を搭載するとともに、上述した実施例14と同様に調製した。ただし、鉄ターゲットの代わりに周囲が7.62cm(3インチ)、厚みが0.64cm(0.25インチ)のコバルトターゲットを使用し、0.3kWhでコバルトをスパッタリングした以外は、実施例10で記載したようにコバルトナノ粒子を炭素粉末にスパッタリングした。ターゲットの重量喪失は1.35gであった。スパッタリング装置から試料を取り出す際に試料を空気にさらし、その後、コバルト処理した試料を強熱した。試料の周囲に窒素を当て、空気にさらされないようにして、加熱を和らげた。次に、得られたコバルト−炭素触媒粒子を、実施例10で記載したようにアンモニア中で熱処理し、分散させ、カーボン紙上に担持させた。ただし、コーティング布地の調製に使用した試料分散液は87mgであった。
【0080】
実施例14及び15の各MEAの触媒活性は、上記の「分極測定法」で記載した方法と同様に、酸素下で分極曲線を記録することによって測定した。ただし、電池の温度は80°であり、水素及び酸素の気流を電池のアノード側及びカソード側にそれぞれ流量180sccm及び335sccmで導入した。出口ガス圧は、アノード側で0.21MPa(30psig)(3バール絶対圧力以下)、カソード側で0.34MPa(50psig)(4.5バール絶対圧力以下)であった。ガス流の湿度は約100%RHに維持した。図11は、実施例14及び15のMEAの分極曲線のグラフである。これらの結果から、炭素粒子の基材を有する触媒層も適度な触媒活性を示すことが分かった。
【0081】
好ましい実施形態を参照しながら本発明を説明してきたが、本発明の精神及び範囲から逸脱しない形態及び詳細の変更を行えることが、当業者であれば理解できるであろう。
【0082】
図面は本発明のいくつかの実施形態を説明するが、考察において記載したように、他の実施形態もまた想到される。すべての場合において、本開示は、代表例によって本発明を表しており、限定を意味するものではない。多数の他の修正例及び実施形態が当業者によって考案でき、それらは本発明の原理の範囲及び趣旨の範囲内にあると理解すべきである。図面は縮尺通りに描かれていない場合がある。図面全体を通して、類似の部分を表すために類似の参照番号が使用されている。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の酸素還元触媒層の断面図。
【図2】本発明の酸素還元触媒層の製造方法のフローチャート。
【図3A】本発明の酸素還元触媒層の製造方法で用いるのに適している物理蒸着システムの模式図。
【図3B】本発明の酸素還元触媒層の製造方法で用いるのに適している別の物理蒸着システムの模式図。
【図4】本発明の酸素還元触媒層の別の製造方法のフローチャート。
【図5】外部電気回路とともに用いた状態の、本発明の酸素還元触媒層を備えるMEAの概略図。
【図6】本発明の酸素還元触媒層を備えるMEAと比較MEAの分極曲線のグラフ。
【図7】本発明の酸素還元触媒層を備えるMEAと比較MEAのACインピーダンスのグラフ。
【図8】物理蒸着と熱処理をほぼ同時に実行して形成させた本発明の酸素還元触媒層を備えるMEAと比較MEAの分極曲線のグラフ。
【図9】本発明の酸素還元触媒層の回転ディスク電極測定値を示すグラフ。
【図10A】本発明の別の酸素還元触媒層の回転ディスク電極測定値を示すグラフ。
【図10B】本発明の別の酸素還元触媒層の回転ディスク電極測定値を示すグラフ。
【図10C】本発明の別の酸素還元触媒層の回転ディスク電極測定値を示すグラフ。
【図11】本発明の別の酸素還元触媒層を備えるMEAの分極曲線のグラフ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー省に授与された協力協定(Cooperative Agreement)DE−FC36−03GO13106の下で米国政府の支援によりなされたものである。米国政府は、本発明において正当な権利を有している。
【0002】
(関連出願に対する相互対照)
本発明は、同日申請の同時係属特許出願11/379518号(代理人整理番号61952US002)「酸素還元触媒層の製造方法」を参照としている。
【0003】
(発明の分野)
本発明は、燃料電池など、電気化学的デバイスで用いる膜電極アセンブリに関する。とりわけ、本発明は、膜電極アセンブリで用いる触媒層に関する。
【背景技術】
【0004】
燃料電池は、水素などの燃料と酸素などの酸化剤との触媒作用を利用した結合によって使用可能な電気を生成する電気化学的デバイスである。例えば、内燃機関発電機などの従来の発電装置とは対照的に、燃料電池は燃焼を利用しない。そのため燃料電池は有害排出物をほとんど発生しない。燃料電池は、水素燃料及び酸素を直接に電気に変換し、内燃機関発電機と比較してより高い効率において稼動することができる。
【0005】
プロトン交換膜(PEM)燃料電池などの燃料電池には典型的に、1対の触媒層間に配置されている電解質膜によって形成されている膜電極アセンブリ(MEA)が備わっており、その触媒層は1対のガス拡散層間に配置されている。前記電解質膜の各側面は、アノード部分及びカソード部分と呼ばれる。典型的なPEM燃料電池において、水素燃料はアノード部分に導入され、そこで水素が反応し、プロトン及び電子に分離する。電解質膜は、プロトンをカソード部分まで運ぶ一方、電子の流れが外部回路を通ってカソード部分まで移動するようにさせて電力を提供する。酸素がカソード部分に導入されてプロトン及び電子と反応し、水及び熱を生じる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
PEM燃料電池を商業的に利用するには一般に、触媒層の性能が障害となる。高額にもかかわらず、白金は現在、触媒層用材料として選ばれている。しかしながら、望ましい動作電圧を得るには、触媒層に大量の白金が必要となり、材料コストを押し上げる。更に、高電圧において、白金は水及び/又は酸素と反応する可能性があり、その結果、酸素還元反応における触媒活性を阻害するオキシド層が生成される。従って、コスト、性能、及び耐久性の面で有益な別の触媒物質を得る必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、熱的に安定な基材、及び前記熱的に安定な基材上に配置された触媒物質膜を有する酸素還元触媒層に関する。触媒物質膜には、炭素、窒素、及び遷移金属が含まれており、前記遷移金属は、鉄、コバルト、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されている。酸素還元触媒層は、良好な触媒活性を示し、耐食性である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1は、本発明の触媒層10の断面図である。触媒層10には基材12及び膜14があり、PEM燃料電池で用いるのに適している(例えば、MEAのカソード触媒層など)。基材12には表面16があり、表面16上には膜14が配置されている。膜14には、構成成分として、白金を実質的に含まない触媒物質が含まれており、後述するように、膜14は、物理蒸着(PVD)処理及び熱処理の併用によって形成させる。その結果、触媒層10は、白金を実質的に含まないが、酸素の還元に良好な触媒活性を示す。白金を実質的に含まないとは、本明細書では、触媒層10中の白金が約5μg/cm2以下であることを意味するものと定義する。
【0009】
図2は、触媒層10の製造方法18のフローチャートであり、工程20〜28が含まれている。方法18では、最初に物理蒸着(PVD)システム内に「第1の処理環境」を生成させる(工程20)。PVDシステムには、炭素ターゲット、及び実質的に白金を含まない遷移金属ターゲットが含まれている。第1の処理環境は、PVDシステムを減圧(例えば、約0.007Pa(1×10−5トール)以下)まで排気した後、動作圧に達するまでガスを導入することにより生成させる。第1の処理環境の適切な動作圧の例は、約0.07Pa(0.5ミリトール)〜約0.67Pa(5ミリトール)である。
【0010】
第1の処理環境に適しているガスの例としては、窒素含有ガス、酸素、水蒸気、水素、アルゴン、及びこれらの混合物が挙げられる。第1の処理環境に特に適しているガスの例としては、窒素含有ガス、例えば、窒素、アンモニア、窒素含有揮発性有機化合物(例えば、ピリジン、アセトニトリル、ピロール、ピロリジン、キノリン)、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0011】
続いて、基材12をPVDシステムに通過させ(工程22)、これによって基材12を第1の処理環境にさらす。基材12に適した物質の例としては、ナノ構造の薄膜基材(例えば、パーソニッジ(Parsonage)らの米国特許第5,338,430号、及びデベ(Debe)の米国特許第4,812,352号及び同5,039,561号に開示の基材)、ミクロ構造の薄膜基材(例えば、スピーワク(Spiewak)らの米国特許第6,136,412号に開示の基材)、炭素含有基材、炭素含有織布、炭素含有不織布、亜酸化チタンセラミックス(例えば、エボネックス社(Ebonex Corp.)(ミシガン州メルビンデール)から「エボネックス(EBONEX)」の商標表記で市販されているセラミックス)、ナノ酸化スズ膜、ナノ酸化チタン膜、非膜系炭素含有粒子及び粉末、炭素含有繊維、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0012】
このような物質は熱的に安定であり、次工程の熱処理の高温に耐えられる。本明細書で使用する時、「熱的に安定な」という用語は、少なくとも約350℃、より望ましくは少なくとも約500℃の温度で、2時間まで実質的に劣化せずに耐えられる物質の性能を意味する。
【0013】
次に、PVDシステムにおいて、第1の処理環境で物理的方法(例えば、スパッタリング及び陰極アーク)により蒸気相中に原子を生成させることで、基材12上に触媒物質を堆積させる(工程24)。例えば、スパッタリング法では、第1の処理環境のガスに電界を印加し、イオン化原子の自立プラズマを生成させる。イオン化原子は炭素ターゲット及び遷移金属ターゲットに衝突し、それによって炭素原子及び遷移金属原子が放出される。次に、放出された原子が基材12に向かって進み、ガス原子とともに凝縮する。これにより、基材12の表面16上に触媒物質の膜14が形成される。別の実施形態では、2つの別個のシステムで炭素及び遷移金属を順次堆積させてもよい。
【0014】
基材12の材料が粉末又は粒子である実施形態では、粉末又は粒子をPVDプロセス中に攪拌して動かしてもよい。適切な攪拌方法の例は、ブレイ(Brey)らの米国特許公開番号2005/0095189号に記載されている。得られた触媒物質被覆粉末又は粒子は更に、本明細書において平面的な基材及び膜について記載されているように活性化させる。
【0015】
上述したように、遷移金属ターゲットは白金を実質的に含まない。更に、ある1つの実施形態では、遷移金属ターゲットは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金、金、及び銀などのいずれの貴金属も実質的に含まない。貴金属は材料コストが高く、望ましい動作電圧及び電流を得るのに多くの量を必要とする。これに対し、遷移金属ターゲットに適切な繊維金属の例としては、鉄、コバルト、及びこれらの混合物が挙げられる。これらの適切な遷移材料は貴金属に比べて低価格なため、製造時の材料コストが抑えられる。
【0016】
膜14は、基材12上に炭素原子、イオン化原子、及び遷移金属原子を凝縮させて形成させるため、触媒物質には構成成分として炭素、遷移金属、及び堆積したガス原子(窒素など)が含まれる。このため、膜14の触媒物質も白金を実質的に含まない(ある1つの実施形態では、いずれの貴金属も含まない)。特に適切な膜14の触媒物質の組成の例は、C1−x−y−Nx−My(x+y<1)の式で表すことができ、式中、Myは、鉄、コバルト、及びこれらの混合物といった白金以外の遷移金属である。
【0017】
膜14の触媒物質における炭素の適切な原子百分率の例は約50.0%〜約99.8%であり、特に適切な炭素の原子百分率は約80.0%〜約95.0%である。膜14の触媒物質における窒素の適切な原子百分率の例は約0.1%〜約45.0%であり、特に適切な炭素の原子百分率は約4.0%〜約20.0%である。膜14の触媒物質における遷移金属の適切な原子百分率の例は約0.01%〜約15.0%であり、特に適切な炭素の原子百分率は約2.0%〜約10.0%である。
【0018】
PVD処理では典型的に、1回の通過で材料の薄い層が堆積する。本発明において、堆積する膜14の厚みは、電力設定、第1の処理環境内のガスの組成及び濃度、基材12のライン速度などのPVDパラメーターによって異なる可能性がある。従って、堆積する膜14の厚みを増やすには、膜14の適切な厚みが得られるまで、基材12を(矢印25で示すように)PVDシステムに複数回通過させてもよい。従って、膜14の適切な厚みの例は、平面に換算して約10ナノメートル〜約5,000ナノメートルであり、特に適切な厚みは約100ナノメートル〜約500ナノメートルである。
【0019】
膜14が基材12上に堆積したら、得られたコーティング基材(本明細書では12’と表す)を熱処理システムに配置し、熱処理システム内に第2の処理環境を生成させる(工程26)。熱処理システムは、適切な加熱システムであれば、対流式オーブンや石英管炉など、いずれの種類であってもよい。後述するように、ある1つの実施形態では、熱処理システムはPVDシステム内に配置されている加熱要素である。この場合、1つの装置で(以下の図4に示すように)PVD処理(工程24)と熱処理(後述の工程28)をほぼ同時に実行できる。
【0020】
第2の処理環境は、熱処理システムに処理ガスを導入して残留ガスをほぼ除去することにより生成させる。第2の処理環境に適切な処理ガス及び特に適切な処理ガスの例としては、上記の第1の処理環境で述べた適切なガス及び特に適切なガスが挙げられる。触媒物質中に窒素原子があると、触媒層10の触媒活性が向上すると考えられる。従って、第1の処理環境及び第2の処理環境の少なくとも一方に窒素含有ガスが含まれている。このため、PVDプロセス又は熱処理のいずれかにおいて、窒素含有ガスを含む処理環境を生成させてもよい。ある1つの実施形態では、PVDプロセス及び熱処理の両方において、窒素含有ガスを含む処理環境が生成される。
【0021】
第2の処理環境の生成後、第2の処理環境で膜14の触媒物質を熱処理する(工程28)。この熱処理は、種々の熱プロフィールを用いてもよく、複数の工程に渡っていてもよい。例えば、温度を処理温度に達するまで一定の割合(例えば、6℃/分)で上昇させた後、処理温度を望ましい時間(例えば、15分間)維持させてもよい。適切な処理温度の例としては、少なくとも約350℃、より好ましくは少なくとも約600℃、更に好ましくは少なくとも約900℃の温度が挙げられる。
【0022】
第2の処理環境で用いるガスの組成物は、2つ又はそれ以上の工程を設けて、熱処理プロセス中に変更してもよい。例えば、第1の熱処理工程(例えば、約350℃〜約600℃の温度に加熱する工程)で、アンモニアと水素の第1のガス組成物を含む処理環境を使用し、第2の熱処理工程(例えば、約600℃に加熱する工程)で、アンモニア及び窒素の第2のガス組成物を使用してもよい。
【0023】
熱処理の完了後、PEM燃料電池で用いるために、得られた触媒層10を熱処理システムから取り出してよい。PVD処理と熱処理を併用することで、触媒層10は酸素の還元に良好な触媒活性を示すことができる。触媒層10に適切な酸素還元触媒活性の例は、可逆水素電極(RHE)に対して0.6ボルトで少なくとも約0.02ミリアンペア/センチメートル2(mA/cm2)であり、特に適切な酸素還元触媒活性は少なくとも約0.05mA/cm2である。
【0024】
更に、膜14の触媒物質に適した上述の原子百分率によって、触媒層10は、酸性環境(例えば、燃料電池)で用いる際に耐食性を示すことができる。本明細書で使用する時、「耐食性」という用語は、触媒層10が0.5モルの硫酸溶液(H2SO4)に少なくとも1週間さらされた後も、少なくとも上記の適切な炭素、窒素、及び遷移金属の原子百分率を維持できる能力を意味する。更に、触媒物質は白金を実質的に含まないとともに、1つの実施形態では貴金属も実質的に含まないため、触媒層10の材料コストが抑えられる。
【0025】
図3A及び3Bは、それぞれPVDシステム30a及び30bの概略図であり、(前出の図2に示す)方法18の工程24に従って触媒物質を基材12上に物理的に蒸着するための代替システムである。図3Aに示すように、PVDシステム30aには、チャンバ32、供給ロール34及び36、支持ホイール38、取り出しロール40及び42、炭素ターゲット44、並びに、遷移金属ターゲット46が備わっている。PVDシステム30aに適したシステムの例としては、セリファーノフ(Selifanov)らの米国特許第5,643,343号及び同5,711,773号に開示されているDCマグネトロンスパッタリングシステム及びパルス陰極アークデバイスが挙げられるが、これらのシステムは炭素ターゲット44及び遷移金属ターゲット46を備えるように改造する。
【0026】
チャンバ32は、(前出の図2に示す)方法18の工程20に従って内部に第1の処理環境を生成させるPVDチャンバである。供給ロール34及び36、支持ホイール38、並びに取り出しロール40及び42は、PVD処理中に基材12のウェブ経路を提供するロールである。炭素ターゲット44及び遷移金属ターゲット46は、基材12が支持ホイール38の周囲を(図3Aでは時計方向に)回転させる際に、それぞれ炭素原子及び遷移金属原子を基材12上に物理的に蒸着するよう、支持ホイール38に隣接して配置されている。
【0027】
更に図3Aに示すように、炭素ターゲット44は遷移金属ターゲット46の上流に配置されている。その結果、炭素ターゲット44により炭素原子が基材12上に堆積し、その後、遷移金属ターゲット46により遷移金属原子が堆積する。基材12が炭素ターゲット44の下を通過すると、放出された炭素原子が基材12に向かって進み、イオン化原子とともに凝縮する。次に、基材12が遷移金属ターゲット46の下を通過すると、放出された遷移金属原子が基材12に向かって進み、先に凝縮した炭素/窒素原子の上面でイオン化窒素原子とともに凝縮する。
【0028】
この2つの工程による堆積プロセスでは一般に、膜14に2つの層をもたらし、基材12の表面16上に位置する下層には一般に炭素原子及びガス原子(窒素など)が含まれ、上層には一般に遷移金属原子及びガス原子(窒素など)が含まれている。ただし、膜14の上下層間で相当量の混合が生じることに注意すべきである。更に、上述したように、2つの工程による堆積プロセスを複数回行って、基材12に堆積させる触媒物質の量を増やしてもよい。PVD処理の後、得られたコーティング基材12’は、熱処理システム(図示なし)に送る目的で、取り出しロール42で受容させる。
【0029】
基材12を炭素粒子、粉末、又は繊維として提供する別の実施形態では、基材12は炭素ターゲットとして機能し得るため、炭素ターゲット44が不要になる。この実施形態では、イオン化ガス原子により基材12から炭素原子が放出され、放出された炭素原子が遷移金属原子及びイオン化ガス原子と表面16上で凝縮し、膜14が形成される。
【0030】
図3Bに示すように、PVDシステム30bは、炭素ターゲット44及び遷移金属ターゲット46を複合カソード48と置き換えた以外は、PVDシステム30aと同じ構成要素を有し、一般に同様に動作する。複合カソード48は、炭素ターゲット及び遷移金属ターゲットを備える単一の構成要素であり、炭素原子及び遷移金属原子を基材12上にほぼ同時に堆積させる。この実施形態では、PVDプロセス中に、放出された炭素原子及び遷移金属原子がほぼ同時に基材12に向かって進み、イオン化窒素原子とともに凝縮する。その結果、膜14は、炭素、窒素、及び遷移金属のほぼ均質な混合物を含む単一の層になる。
【0031】
複合カソード48に適切な装置の例としては、遷移金属のワイヤを挿入するために穴を開けたグラファイト−炭素ターゲットが挙げられる。この実施形態では、遷移金属ターゲットは、実際には遷移金属ワイヤの複数のサブターゲットから構成される。グラファイト−炭素ターゲットと遷移金属ワイヤの相対表面積により、一般に堆積する炭素対遷移金属の割合が決まると思われる。例えば、複合カソード48は、炭素/グラファイト製のシリンダーから形成可能である。次に、シリンダーの断面に穴を開けた後、遷移金属のワイヤを穴に固定する。
【0032】
適切な炭素/グラファイトシリンダーの例としては、ポコ・グラファイト(Poco Graphite)(テキサス州ディケーター)から「フレージSFG2(FRAGE SFG2)」の商標表記で市販されているグラファイトカソードが挙げられる。適切な遷移金属のワイヤの例としては、アルファ−イーザー(Alpha-Aesar)(マサチューセッツ州ウォードヒル)から市販されている鉄ワイヤが挙げられる。複合カソード48の適切な寸法としては、直径が33mmの炭素/グラファイトシリンダーに、それぞれ長さが1cm、直径が1〜2mmの遷移金属ワイヤを多数(例えば、25〜50本)貫入したものが挙げられる。
【0033】
複合カソード48に適切な別の装置の例としては、炭素ターゲットに遷移金属を添加した混合ターゲットが挙げられる。例えば、炭素粒子及び遷移金属粒子を共に高温プレスして混合ターゲットを生成してもよい。これにより、炭素原子及び遷移金属原子がほぼ同時に基材12に向かって進むことができる。
【0034】
図4は、前出の図2に示した方法18に代わる方法50のフローチャートである。図4に示すように、方法50には工程52〜56が含まれ、最初の工程(工程52)において、PVDシステム(例えば、PVDシステム30a及び30b)内に処理環境を生成させる。この処理環境は、(前出の図2に示す)方法18の工程22で第1の処理環境について上述した方法と同様に生成させる。
【0035】
図4に示す実施形態では、PVDシステムには、PVDプロセス中に触媒物質を熱処理するための加熱要素も備わっている(図3A又は3Bには図示なし)。適切な加熱要素の例としては、基材12が上部を通過する(あるいは、不連続のプロセスでは基材12を乗せる)加熱プレートが挙げられる。加熱プレートは基材12を伝導的に加熱し、それにより触媒物質が堆積しているときに熱処理される。加熱要素に適切な処理温度の例としては、少なくとも約350℃、より適切には少なくとも約600℃の温度が挙げられる。
【0036】
処理環境の生成後、基材12をPVDシステムに通過させ(工程54)、これによって基材12を処理環境及び加熱要素にさらす。基材12は、処理温度まで加熱されるように、十分な時間加熱要素にさらすのが望ましい。次に、PVDシステムにより、PVDプロセスを経て基材12上に触媒物質を堆積させる。これは、基材12を処理環境内に配置し、同時に加熱要素によって堆積させた触媒物質を熱処理することによって行う(工程56)。その結果、PVDプロセス及び熱処理が同時に実行され、触媒層10の製造に要する時間が短縮される。
【0037】
一体型のPVDプロセス/熱処理の後、PEM燃料電池で用いるために、触媒層10をPVDシステムから取り出してよい。方法50に従って形成された触媒層も、上述したように、酸素の還元に良好な触媒活性を示し、耐食性で、白金及び/又は貴金属を実質的に含まない。
【0038】
触媒物質を物理的に蒸着させる基材として粒子又は粉末を使用する本発明の実施形態では、当該技術分野において既知の手法により、熱処理及びPVD処理した粒子又は粉末から燃料電池用の触媒層を製造してもよい。例えば、粉末の粒子を水性ナフィオン(Nafion)分散体などの電解質材料と混合し、インクを形成させてもよい。その後、このインクを膜又はガス拡散層(GDL)に付着させる。材料をGDLに付着させた場合、GDLは膜に接触させて配置させる。
【0039】
図5は、外部電気回路60を使用したMEA58の略図であり、MEA58には、本発明の方法(例えば、方法20及び50)に従って形成させた触媒層10が備わっている。MEA58は、PEM燃料電池などの電気化学セルで用いるのに適しており、更にアノード部分62、カソード部分64、電解質膜66、アノード触媒層68、及びガス拡散層70及び72を備えている。アノード部分62及びカソード部分64は一般に、MEA58のアノード側及びカソード側を指す。
【0040】
電解質膜66は、PEMのような、任意の適切なイオン伝導膜であってもよい。電解質膜66に適切な材料の例としては、テトラフルオロエチレンと1つ以上のフッ素化酸官能コモノマーのコポリマーのような酸官能フッ素重合体が挙げられる。適切な市販の材料の例としては、デラウェア州ウィルミントンのデュポンケミカルズ(DuPont Chemicals)から商標表記「ナフィオン(NAFION)」として市販されているフッ素重合体が挙げられる。
【0041】
触媒層10は、電解質膜66とガス拡散層72の間に配置されているカソード触媒層であり、基材12がガス拡散層72に接触し、膜14が電解質膜66に接触している。1つの実施形態では、基材12はガス拡散層72として機能する。MEA50の組み立て時に、基材12がガス拡散層72に接触するように、触媒層10の膜14を電解質膜66に接触させて配置する。これにより、電解質膜66とガス拡散層72の間に導電性の接触がもたらされる。ある1つの実施形態では、触媒層10をMEA50に組み立てる前に酸洗浄し、過剰な金属を除去することで、触媒層10の触媒活性を向上させる。
【0042】
アノード触媒層68は、電解質膜66とガス拡散層70の間に配置されており、ガス拡散層70はMEA58のアノード部分62に位置する。ガス拡散層70及び72はそれぞれ、炭素繊維構造物(例えば、織布及び不織布炭素繊維組織体)など、任意の適切な導電性多孔性基材であってよい。またガス拡散層70及び72は、疎水性を増加又は付与するように処理してもよい。
【0043】
MEA58の動作中、水素燃料(H2)が、アノード部分62でガス拡散層70に導入される。あるいは、MEA58は、メタノール、エタノール、ギ酸及び改質ガス等の他の燃料源を使用できる。燃料は、ガス拡散層70を通過し、アノード触媒層68の上に達する。アノード触媒層68において、燃料は水素イオン(H+)及び電子(e−)に分離される。電解質膜66は、水素イオンのみを通過させて、それを触媒層10及びガス拡散層72に到達させる。電子は、一般に電解質膜66を通過できない。このように、電子は、電流の形で外部電気回路60内を流れる。この電流は、電動モータ等の電気負荷に電力を供給できるか、又は、再充電式電池等のエネルギー貯蔵装置に誘導できる。
【0044】
酸素(O2)は、カソード部分64においてガス拡散層72に導入される。酸素は、ガス拡散層72を通過して触媒層10の上に達する。触媒層10において、酸素、水素イオン、及び電子が結合して、水と熱が生成される。上述したように、触媒層10は酸素の還元に良好な触媒活性を示し、MEA58の効率を高める。更に、触媒層10は耐食性であるため、MEA58内で長期間に渡って機能できる。
【実施例】
【0045】
本発明について以下の実施例でより具体的に説明するが、本発明の範囲内での多数の修正及び変形が当業者には明らかとなるため、以下の実施例は例示のみを目的としたものである。別に言及のない限り、次の実施例で報告されている全ての部、百分率、及び比は、重量基準であり、実施例で用いられている全ての試薬は、下記の化学薬品供給元から得たか若しくは入手できるか、あるいは、従来の技術により合成される可能性がある。
【0046】
実施例1及び比較例A
実施例1のMEAは、以下の手法に従って調製した。触媒層は、炭素不織布基材(フロイデンベルク・ノンウォーバン・テクニカル・ディビジョン(Freudenberg Non-Wovens Technical Division)(マサチューセッツ州ローエル)から製品番号FC−H2315として市販されている)に触媒物質を物理蒸着して調製した。物理蒸着は、セリファーノフ(Selifanov)らの米国特許第5,643,343号及び第5,711,773号に記載されているパルス陰極アークプラズマ発生システムを使用して、窒素ガスを含む処理環境で実施した。このシステムを使用して炭素及び窒素を堆積させる方法は、アンドレイ・スタニセフスキー(Andrei Stanishevsky)の「パルス陰極アーク放電のプラズマから堆積された擬似非晶質炭素及び窒化炭素膜」(カオス、ソリトン、及びフラクタル(Chaos, Solitons and Fractals)、第10巻、2045〜2066ページ、1999年)に記載されている。
【0047】
システムは、炭素ターゲット及び遷移金属(すなわち鉄)ターゲットを有する複合カソードを備えるように改造した。複合カソードには、断面に鉄ワイヤターゲットを留める56個の穴を開けた、直径33mmのグラファイト−炭素ターゲット(ポコ・グラファイト(Poco Graphite)(テキサス州ディケーター)から「グレードSFG2(GRADE SFG2)」の商標表記で市販されている)を搭載した。各鉄ワイヤターゲットは、直径2.0mm、長さ1cmであった(アルファ−イーザー(Alpha-Aesar)(マサチューセッツ州ウォードヒル)から市販されている)。
【0048】
システムを約0.007Pa(1×10−5トール)未満まで排気した後、窒素ガスを導入し、約0.27Pa(2ミリトール)〜0.39Pa(3ミリトール)の動作圧を得た。システムは、主、副、及び点火静電容量をそれぞれ2,200μF、185μF、及び10μF、主、副、及び点火電圧を250V、300V、及び700V、放電周波数を約4Hzで動作させた。炭素不織布基材のウェブは、61cm/分(24インチ/分)のライン速度でシステムに18回通過させた。何度も通過させることで、基材に堆積される単位面積当たりの触媒物質の量を増加させた。PVDプロセス完了後、大気圧になるまでシステムに窒素ガスを導入し、コーティング済みの基材を取り出した。
【0049】
次に、コーティング基材を石英管炉(モジュラー・プロセス・テクノロジ(Modular Process Technology)(カリフォルニア州サンホゼ)から「RTP600S」の商標表記で市販されている)で熱処理した。この炉に窒素ガスを導入し、残留ガスを除去した。残留ガスをほぼ除去した後、熱処理前及び熱処理中に炉にアンモニアガスを導入することで、第2の処理環境を調製した。コーティングされた触媒を炉内に置き、900℃の処理温度に達するまで温度を6℃/分の速度で昇温させた。次に、温度を900℃で15分間維持した。得られた触媒層は、ほぼ室温になるまで炉内に放置した後、取り出した。
【0050】
次に、調製した触媒層(カソード触媒層として機能する)とアノード触媒層の間に1対のPEM(デュポン・ケミカル(DuPont Chemical Co.)(デラウェア州ウィルミントン)から「ナフィオン(NAFION)112」の商標表記で市販されている)を配置した。アノード触媒層には、白金/炭素分散インクをコーティングしたカーボン紙のガス拡散層を搭載した。カーボン紙のガス拡散層は、疎水性処理した炭素繊維紙(バラード・マテリアル・プロダクツ(Ballard Material Products)(マサチューセッツ州ローエル)から「AVCARB P50炭素繊維紙(AVCARB P50 Carbon Fiber Paper)」の商標表記で市販されている)の片面にガス拡散性ミクロ層をコーティングして製造した。アノード触媒の白金添加量は、白金として約0.3mg/cm2〜約0.4mg/cm2であった。得られた実施例1のMEAを、4連サーペンタイン流路(quad-serpentine flow field)を有する50cm2の試験電池付属品(フュール・セル・テクノロジーズ(Fuel Cell Technologies)(ニューメキシコ州アルバカーキ)から入手可能)に約25%〜約30%の圧縮率で組み立てた。
【0051】
比較例AのMEAは、コーティング基材を熱処理しない以外は、上述した実施例1のMEAと同様に調製した。従って、PVDプロセスの後、コーティング基材を1対のPEMとアノード触媒層に直接組み込み、比較例AのMEAを得た。
【0052】
実施例1及び比較例Aの各MEAの触媒活性は、以下の「分極測定法(polarization measurement method)」に従って測定した。この測定法では、ポテンショスタット(ソーラートロン・アナリティカル(Solartron Analytical)(テネシー州オークリッジ)から「ソーラートロン・セルテスト(SOLARTRON CELLTEST)1470」の商標表記で市販されている)及びソフトウェアパッケージ(スクリブナー・アソシエイツ(Scribner Associates, Inc.)(ノースカロライナ州サザンパインズ)から「コルウェア(CORWARE)」の商標表記で市販されている)を使用し、酸素下での分極曲線の記録を伴う。
【0053】
サイクリック・ボルタンモグラムを50、20、10、及び5mV/秒で0.01V〜1.1Vの範囲で実施した。触媒活性の比較には、5mV/秒のスキャン速度を使用し、同じ電圧で比較を行った。電池のアノード側及びカソード側に導入した水素及び酸素の気流は、それぞれ流速が周囲気圧で500立方センチメートル/分(SCCM)であった。測定は、75℃、相対湿度約150%で実施した。
【0054】
図6は、分極測定法に従って測定した実施例1及び比較例AのMEAの分極曲線のグラフである。図に示すように、実施例1のMEAは、比較例AのMEAに比べて高い触媒活性を示した。これは、触媒層の熱処理によるものであると考えられる。従って、PVDプロセス及び熱処理を用いて製造した本発明の触媒層は、燃料電池などの電気化学的デバイスで用いるのに良好な触媒活性を示す。
【0055】
実施例1及び比較例Aの各MEAについて、以下の「交流(AC)インピーダンス測定法」に従ってACインピーダンスを測定し、触媒層の抵抗に加えて触媒層とPEM間の耐干渉性を測定した。ACインピーダンスは、周波数応答分析器(ソーラートロン・アナリティカル(Solartron Analytical)から「ソーラートロン(SOLARTRON)SI1250」の商標表記で市販されている)を備えるポテンショスタット(ソーラートロン・アナリティカル(Solartron Analytical)(テネシー州オークリッジ)から「ソーラートロン・セルテスト(SOLARTRON CELLTEST)1470」の商標表記で市販されている)、及びソフトウェアパッケージ(スクリブナー・アソシエイツ(Scribner Associates, Inc.)(ノースカロライナ州サザンパインズ)から「ZPLOT」の商標表記で市販されている)を使用して測定した。測定は、1Hz〜10kHzの周波数範囲において水素下で開回路電圧で行った。電池のアノード側及びカソード側に導入した水素の気流は、それぞれ流速が500立方センチメートル/分(SCCM)であった。測定は、75℃、相対湿度約150%で実施した。
【0056】
図7は、ACインピーダンス測定法に従って測定した実施例1及び比較例AのMEAのACインピーダンスのグラフである。図に示すように、実施例1のMEAは、比較例AのMEAに比べて低いインピーダンスを示した。これは、触媒活性の場合と同様に、触媒層の熱処理によるものであると考えられる。
【0057】
実施例2〜7及び比較例B
実施例2〜7のMEAは、複合カソードに直径1.2mm、長さ1cmの鉄ワイヤターゲット(同じくアルファ−イーザー(Alpha-Aesar)(マサチューセッツ州ウォードヒル)から市販されている)を45本搭載する以外は、それぞれ上述した実施例1のMEAと同じ手法に従って調製した。また、システムは、主、副、及び点火静電容量がそれぞれ2,200μF、185μF、及び20μFで動作させ、炭素不織布基材のウェブは30.5cm/分(12インチ/分)のライン速度でシステムに10回通過させた。更に、実施例2〜7のコーティング基材は、以下の表1に示すように異なる条件で熱処理した。熱処理後、得られた触媒層を、上述した実施例1のMEAと同様に、MEAに組み込んだ。
【0058】
比較例BのMEAは、コーティング基材を熱処理しない以外は、上述した実施例2〜7のMEAと同様に調製した。実施例2〜7及び比較例BのMEAの触媒活性は、上述した「分極測定法」に従って測定した。表1に、実施例2〜7及び比較例BのMEAの熱処理で用いた処理温度及び処理環境ガス、並びに0.6Vにおける触媒活性の結果を記載する。
【0059】
【表1】
【0060】
表1に示すように、熱処理によりMEAの触媒活性が向上する。従って、本発明の触媒層は、燃料電池などの電気化学的デバイスで用いるのに良好な触媒活性を示す。更に、上述したように、触媒層は白金(及びある1つの実施形態では貴金属)を実質的に含まないため、材料コストを抑えられる。
【0061】
更に表1に示すように、アンモニアでの熱処理(実施例5〜7)は、窒素での熱処理(実施例2〜4)に比べてMEAの触媒活性が高かった。これは、窒素に比べてアンモニアの熱処理時の反応性が高いことに起因すると考えられる。
【0062】
(実施例8及び9)
実施例8及び9のMEAは、以下の手法に従ってそれぞれ調製した。この手法では、PVDプロセスとほぼ同時に熱処理を行った。PVDシステムは、複合カソードに42本の鉄ワイヤターゲットを搭載する以外は、実施例1で上述したものと同じシステムを使用した。更に、ウェブを移動させる代わりに、裏面に加熱要素が配置されているモリブデンプレート(テクトラGmbH(Tectra GmbH)(ドイツ)から「ボラレクトリック(BORALECTRIC)」窒化ホウ素の商標表記で市販されている)の表面上に基材を乗せた。加熱温度は、比例・積分・微分(PID)コントローラ(RKCインストルメント(RKC Instrument Inc.)(インディアナ州サウスベンド)のモデルREX−P300)を用いて制御した。
【0063】
処理環境は、ガス(窒素90容量%及びアンモニア10容量%)を流速250SCCMで導入し、動作圧は約0.13Pa(1ミリトール)で、調製した。システムは、主、副、及び点火静電容量をそれぞれ2,200μF、185μF、及び20μF、主、副、及び点火電圧を250V、350V、及び600V、放電周波数を8.0Hzで動作させた。実施例8では、触媒物質を2,500パルス、基材温度550℃で堆積させた。実施例9では、触媒物質を4,000パルス、基材温度625℃で堆積させた。PVD/熱処理後、得られた実施例8及び9の触媒層を、上述した実施例1のMEAと同様に、MEAに組み込んだ。
【0064】
実施例8及び9並びに比較例BのMEAの触媒活性は、上述した「分極測定法」に従って測定した。図9は、実施例8及び9並びに比較例BのMEAの分極曲線のグラフである。図に示すように、0.5mVにおいて、実施例8のMEAは0.130mA/cm2の触媒活性を示し、実施例9のMEAは0.234mA/cm2の触媒活性を示した。更に、図9に示すように、熱処理により触媒層の触媒活性が向上し、触媒活性は一般に使用した処理温度に比例している。
【0065】
(実施例10)
触媒作用を有するC1−x−yNxFey材料膜を、DCマグネトロンスパッタリングシステムを使用して、触媒物質をディスク(例えば、ガラス状炭素ディスク、シリコンウエファー、ガラススライド、又は石英スライド)上に堆積させて調製した。スパッタリングシステムは、J.R.ダーン(J.R. Dahn)、S.トラッサー(S. Trussler)、T.D.ハチャード(T.D. Hatchard)、A.ボナクダーパー(A. Bonakdarpour)、J.N.ミューラー−ノイハウス(J.N. Meuller-Neuhaus)、K.C.ヒューイット(K.C. Hewitt)、及びM.フレイシャワー(M. Fleischauer)の「線状及び直交する化学量論的変動を有する大規模組成拡散ライブラリを製造するための高効率スパッタリングシステム(Economical sputtering system to produce large-size composition-spread libraries having linear and orthogonal stoichiometry variations)」(材料化学(Chemistry of Materials)、14(8)、3519〜3523、2002年)に概略が記載されている。アルゴン/窒素混合物を含む処理環境は、E.ブラッドリー・イーストン(E. Bradley Easton)、Th.バーメスター(Th. Buhrmester)、及びJ.R.ダーン(J. R. Dahn)の「スパッタリング処理によるFe1−xNx膜の調製及び特性付け(Preparation and Characterization of Sputtered Fe1-xNx Films)」(薄型固体膜(Thin Solid Films)、493、60〜66、2005年)に概略が記載されている。膜は、グラファイトターゲット上で一定マスクを、遷移金属(すなわち鉄又はコバルト)ターゲット上で線状マスクを用いて、調製した。
【0066】
スパッタリングプロセスの完了後、得られた膜を、アルゴンガスの処理環境でモジュラー・プロ・ラピッド・サーマル・プロセッシング(Modular Pro Rapid Thermal Processing)ステーションを用いて熱処理した。処理温度は1000℃であった。ただし、各膜において、処理温度に達するまで温度を5℃/秒の速度で昇温させた。その後、処理温度で1分間維持した。次に、得られたアニーリング膜をアルゴン環境中で室温まで冷却した。
【0067】
膜の「組成分析」は、JEOL USA社(JEOL USA, Inc.)(マサチューセッツ州ピーボディー)から「JXA−8200スーパープローブ(JXA-8200 SUPERPROBE)」電子・プローブ・マイクロアナライザの商標表記で市販されているマイクロアナライザを使用して行った。このマイクロアナライザには、1つのエネルギー分散スペクトロメーター、5つの波長分散(WDS)スペクトロメーター、及び自動移動ステージが備わっていた。窒素標準品として窒化ケイ素を使用し、鉄標準品として磁鉄鉱を使用した。元素組成はWDS検出器を用いて測定し、その予測不確定度(estimated uncertainty)は±0.3%であった。組成はディスクライブラリでポイント毎に測定し、ポイントサイズは5μmであった。ディスクライブラリは厚みが200ナノメートルであり、EDS及びWDSの両方で厚み全体の平均組成を測定した。
【0068】
次に、膜は、「回転リングディスク電極測定(rotating-ring disk electrode measurement)」法を使用して、電解質として0.1モルのHClO4を使用し、1区画のセルでそれぞれ測定した。参照電極には水銀/硫酸水銀を用いた。データは65℃で収集した。サイクリック・ボルタンモグラム(CV)は、5mV/秒において酸素飽和溶液中で行った。図9は、酸素下、65℃における、900RPMでの実施例10の膜の回転ディスク電極測定値を示すグラフである。
【0069】
実施例11及び12、並びに比較例C
触媒作用を有するC1−x−yNxFey材料膜を、上述した実施例10の膜と同様に、それぞれガラス又は石英スライド上で調製した。ただし、比較例Cの膜は熱処理を行わず、実施例11の膜は600℃の処理温度で熱処理し、実施例12の膜は800℃の処理温度で熱処理した。膜はそれ以外の点では組成的に同じであった。
【0070】
次に、実施例11及び12、並びに比較例Cの膜に対して「耐食試験」を行い、各膜を0.5モルの硫酸(H2SO4)溶液中に7日間放置させた。その後、膜を目視で検査し、各膜が溶解した度合を判定した。耐食試験の後、実施例11及び比較例Cの膜の触媒物質は完全に溶解していた。一方、実施例12の膜の触媒物質は、炭素、窒素、及び鉄の原子百分率を上記の適切な原子百分率の範囲内に維持していた。つまり、800℃での熱処理により、実施例12の膜の耐食性が向上した。
【0071】
実施例10の膜の回転リングディスク電極測定の結果、及び実施例12の膜の耐食試験の結果から、触媒作用を有するC1−x−yNxFey材料膜は、良好な触媒活性を示し、酸性環境に対して耐食性であることが例示された。つまり、前記膜は、燃料電池などの電気化学的デバイスの酸性環境での使用に適している。
【0072】
(実施例13a〜13c)
実施例13a〜13cの触媒作用を有するC1−x−yNxCoy材料膜は、鉄ターゲットをコバルトターゲットに置き換えた以外は、それぞれ上述した実施例10の膜と同様に調製した。実施例13a〜12cの膜の原子百分率は、それぞれC0.90N0.04Co0.06、C0.86N0.06Co0.08、及びC0.82N0.10Co0.08であった。膜は、回転リングディスク電極測定法を使用して、室温(すなわち、25℃)で測定した以外は、それぞれ実施例10で上述したように測定した。図10A〜10Cは、それぞれ酸素下、室温における、実施例13a〜13cの膜の回転ディスク電極測定値を示すグラフである。
【0073】
実施例13a〜13cの膜の回転リングディスク電極測定の結果から、触媒作用を有するC1−x−yNxCoy材料膜は適度な触媒活性を示すことが例証された。また、これらの結果から、触媒膜の働きは、触媒物質の原子百分率や熱処理によって異なる可能性があることが示された。
【0074】
(実施例14及び15)
実施例14のMEAには、超微粒子状炭素粒子に鉄を堆積させるPVDによって形成させた触媒を搭載させた。膜は、ブレイ(Brey)らの米国公開特許番号2005/0095189号に記載されているDCマグネトロンスパッタリング法により、鉄ターゲットを使用して調製した。アセチレンブラック(SN2A(フランス)から「Y50A」アセチレンブラックの商標表記で市販されている)の試料30gを130℃の箱型オーブンで12時間乾燥させた。スパッタリングチャンバに、乾燥したアセチレンブラック16.76gを加えた。次に、チャンバを0.007Pa(5×10−5トール)まで排気し、アルゴンガスを約1.33Pa(10ミリトール)の圧力でチャンバに導入した。鉄を堆積させるプロセスとして、最初に99.9%の鉄ターゲット(周囲7.62cm(3インチ)、厚み0.16cm(0.063インチ)、カートJ.レスカー社(Kurt J. Lesker Company)(ペンシルベニア州クレアトン(Clairton))から入手可能)を使用し、カソードに0.1kWの電力を加えた。スパッタリングガスとして34SCCMでアルゴンを導入した。粒子攪拌器のシャフトを10RPMで回転させて、スパッタリング中に炭素粉末を攪拌した。合計0.23kWHの電力量を消費したら、反応を停止させ、チャンバに空気を戻して、反応器から試料を取り出しした。この処理によるターゲットの重量喪失は0.95gであった。
【0075】
鉄処理した膜を溶融石英製ボート型容器に入れ、熱処理用の管炉に置いた。管に窒素を吹き込んで空気を除去し、窒素下で温度を室温から400℃まで6℃/分で昇温させ、窒素/30%アンモニア(NH3)下で4分間400℃に維持し、更に8℃/分で900℃まで昇温させ、窒素/30%アンモニア下で1時間900℃に維持して熱処理を行った。次に、窒素/アンモニア環境を維持しながら、炉を放冷した。
【0076】
冷却後、膜4gを0.54M硫酸300gに一晩浸漬し、膜を酸で洗浄した。試料を濾過により取り出し、脱イオン水で十分に洗浄し、130℃のオーブンで乾燥させた。この乾燥した触媒物質2.0gを水150gに分散させ、得られた分散液を超音波ホーン(ultrasonic horn)(ソニックス・アンド・マテリアルズ社(Sonics and Materials Inc.)(マサチューセッツ州ニュートン)から「ソニックスVCXバイブラセル(Sonics VCX VIBRACELL)」の商標表記で市販されている)で10分間超音波処理した。次に、分散液を130℃で乾燥させ、乾燥した粒子を使用してコーティング分散液を調製した。
【0077】
酸洗浄して超音波処理した触媒粒子1.5gを11.3重量%の水性分散体(E.I.デュポン社(E.I. Du Pont De Nemours Inc.)(デラウェア州ウィルミントン)から「ナフィオン(NAFION)」の商標表記で市販されている)10g及び水10gとビーカーで混合して、触媒粒子の分散液を調製した。混合物を約100℃のホットプレート上で30分間加熱した。冷却後、試料を攪拌した。この触媒インク分散液88mgを、事前に疎水性処理してガス拡散性ミクロ層でコーティングした50cm2のカーボン紙支持体(バラード・マテリアル・プロダクツ(Ballard Material Products)(マサチューセッツ州ローエル)から「AVCARB P50」炭素繊維紙(Carbon Fiber Paper)の商標表記で市販されている)上に手ではけ塗りした。コーティングした試料を真空下(84.7kPa(25インチHg)以下)、110℃で約20分間乾燥させた。この触媒をコーティングした裏材(CCB)をMEAのカソード触媒及びGDL層として使用した。
【0078】
アノード触媒は、実施例1に記載した分散Pt/C触媒層であった。アノード側及びカソード側の両方に25〜30%圧縮用のガスケットを選択した。静圧を用いて、アノード及びカソード触媒を1対のキャスト「ナフィオン(NAFION)」膜(それぞれ厚みが約30μm、1000EW)に132℃(270°F)〜138℃(280°F)及び1,361kg(3,000lb)〜1,814kg(4,000lb)で10分間固着させた。得られたMEAを、4連サーペンタイン流路(quad serpentine flow field)を有する標準的な50cm2の燃料電池試験付属品(フュール・セル・テクノロジーズ(Fuel Cell Technologies))に配置した。
【0079】
実施例15のMEAには、超微粒子状炭素粒子にコバルトを堆積させるPVDによって形成させた触媒を搭載するとともに、上述した実施例14と同様に調製した。ただし、鉄ターゲットの代わりに周囲が7.62cm(3インチ)、厚みが0.64cm(0.25インチ)のコバルトターゲットを使用し、0.3kWhでコバルトをスパッタリングした以外は、実施例10で記載したようにコバルトナノ粒子を炭素粉末にスパッタリングした。ターゲットの重量喪失は1.35gであった。スパッタリング装置から試料を取り出す際に試料を空気にさらし、その後、コバルト処理した試料を強熱した。試料の周囲に窒素を当て、空気にさらされないようにして、加熱を和らげた。次に、得られたコバルト−炭素触媒粒子を、実施例10で記載したようにアンモニア中で熱処理し、分散させ、カーボン紙上に担持させた。ただし、コーティング布地の調製に使用した試料分散液は87mgであった。
【0080】
実施例14及び15の各MEAの触媒活性は、上記の「分極測定法」で記載した方法と同様に、酸素下で分極曲線を記録することによって測定した。ただし、電池の温度は80°であり、水素及び酸素の気流を電池のアノード側及びカソード側にそれぞれ流量180sccm及び335sccmで導入した。出口ガス圧は、アノード側で0.21MPa(30psig)(3バール絶対圧力以下)、カソード側で0.34MPa(50psig)(4.5バール絶対圧力以下)であった。ガス流の湿度は約100%RHに維持した。図11は、実施例14及び15のMEAの分極曲線のグラフである。これらの結果から、炭素粒子の基材を有する触媒層も適度な触媒活性を示すことが分かった。
【0081】
好ましい実施形態を参照しながら本発明を説明してきたが、本発明の精神及び範囲から逸脱しない形態及び詳細の変更を行えることが、当業者であれば理解できるであろう。
【0082】
図面は本発明のいくつかの実施形態を説明するが、考察において記載したように、他の実施形態もまた想到される。すべての場合において、本開示は、代表例によって本発明を表しており、限定を意味するものではない。多数の他の修正例及び実施形態が当業者によって考案でき、それらは本発明の原理の範囲及び趣旨の範囲内にあると理解すべきである。図面は縮尺通りに描かれていない場合がある。図面全体を通して、類似の部分を表すために類似の参照番号が使用されている。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の酸素還元触媒層の断面図。
【図2】本発明の酸素還元触媒層の製造方法のフローチャート。
【図3A】本発明の酸素還元触媒層の製造方法で用いるのに適している物理蒸着システムの模式図。
【図3B】本発明の酸素還元触媒層の製造方法で用いるのに適している別の物理蒸着システムの模式図。
【図4】本発明の酸素還元触媒層の別の製造方法のフローチャート。
【図5】外部電気回路とともに用いた状態の、本発明の酸素還元触媒層を備えるMEAの概略図。
【図6】本発明の酸素還元触媒層を備えるMEAと比較MEAの分極曲線のグラフ。
【図7】本発明の酸素還元触媒層を備えるMEAと比較MEAのACインピーダンスのグラフ。
【図8】物理蒸着と熱処理をほぼ同時に実行して形成させた本発明の酸素還元触媒層を備えるMEAと比較MEAの分極曲線のグラフ。
【図9】本発明の酸素還元触媒層の回転ディスク電極測定値を示すグラフ。
【図10A】本発明の別の酸素還元触媒層の回転ディスク電極測定値を示すグラフ。
【図10B】本発明の別の酸素還元触媒層の回転ディスク電極測定値を示すグラフ。
【図10C】本発明の別の酸素還元触媒層の回転ディスク電極測定値を示すグラフ。
【図11】本発明の別の酸素還元触媒層を備えるMEAの分極曲線のグラフ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱的に安定な基材と、
前記熱的に安定な基材上に配置された触媒物質膜と、を含む酸素還元触媒層であって、前記触媒物質膜が炭素、窒素、及び遷移金属を含み、前記遷移金属が鉄、コバルト、及びこれらの混合物からなる群から選択され、
前記酸素還元触媒層が可逆水素電極に対して0.6Vで少なくとも約0.02mA/cm2の触媒活性を示し、耐食性である、酸素還元触媒層。
【請求項2】
前記触媒物質膜が物理蒸着膜を含む、請求項1に記載の酸素還元触媒層。
【請求項3】
前記触媒物質膜が、原子組成として約50.0%〜約99.8%の炭素、約0.1%〜約45.0%の窒素、及び約0.1%〜約15.0%の遷移金属を有する、請求項1に記載の酸素還元触媒層。
【請求項4】
前記原子組成の炭素が約80.0%〜約95.0%である、請求項3に記載の酸素還元触媒層。
【請求項5】
前記原子組成の窒素が約4.0%〜約20.0%である、請求項3に記載の酸素還元触媒層。
【請求項6】
前記原子組成の遷移金属が約2.0%〜約10.0%である、請求項3に記載の酸素還元触媒層。
【請求項7】
前記触媒物質膜が実質的に白金を含まない、請求項1に記載の酸素還元触媒層。
【請求項8】
前記触媒物質膜が実質的に貴金属を含まない、請求項7に記載の酸素還元触媒層。
【請求項9】
前記熱的に安定な基材が、ナノ構造の薄膜基材、ミクロ構造の薄膜基材、炭素含有基材、炭素不織布、亜酸化チタンセラミック膜、ナノ酸化スズ膜(fin)、ナノ酸化チタン膜、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の酸素還元触媒層。
【請求項10】
前記触媒物質が熱処理されている、請求項1に記載の酸素還元触媒層。
【請求項11】
熱的に安定な基材と、
前記熱的に安定な基材上に配置された触媒物質膜と、を含む酸素還元触媒層であって、
前記触媒物質膜が、原子組成として約50.0%〜約99.8%の炭素、約0.1%〜約45.0%の窒素、及び約0.1%〜約15.0%の遷移金属を有し、前記遷移金属が鉄、コバルト、及びこれらの混合物からなる群から選択される、酸素還元触媒層。
【請求項12】
前記触媒物質膜が物理蒸着膜を含む、請求項11に記載の酸素還元触媒層。
【請求項13】
前記原子組成の炭素が約80.0%〜約95.0%である、請求項11に記載の酸素還元触媒層。
【請求項14】
前記原子組成の窒素が約4.0%〜約20.0%である、請求項11に記載の酸素還元触媒層。
【請求項15】
前記原子組成の遷移金属が約2.0%〜約10.0%である、請求項11に記載の酸素還元触媒層。
【請求項16】
前記触媒物質膜が実質的に白金を含まない、請求項11に記載の酸素還元触媒層。
【請求項17】
前記触媒物質膜が実質的に貴金属を含まない、請求項16に記載の酸素還元触媒層。
【請求項18】
前記熱的に安定な基材が、ナノ構造の薄膜基材、ミクロ構造の薄膜基材、炭素含有基材、炭素不織布、亜酸化チタンセラミック膜、ナノ酸化スズ膜(fin)、ナノ酸化チタン膜、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項11に記載の酸素還元触媒層。
【請求項19】
第1の面を有するプロトン交換膜と、
前記プロトン交換膜の第1の面に隣接して配置される酸素還元触媒層とを有する、膜電極アセンブリであって、
前記酸素還元触媒層が、
熱的に安定な基材、及び
前記熱的に安定な基材上に配置された触媒物質膜を含み、前記触媒物質膜が、原子組成として約50.0%〜約99.8%の炭素、約0.1%〜約45.0%の窒素、及び約0.1%〜約15.0%の遷移金属を有し、前記遷移金属が鉄、コバルト、及びこれらの混合物からなる群から選択される、膜電極アセンブリ。
【請求項20】
前記触媒物質膜が物理蒸着膜を含む、請求項19に記載の酸素還元触媒層。
【請求項21】
前記触媒物質膜が熱処理される、請求項19に記載の膜電極アセンブリ。
【請求項22】
前記触媒物質膜が実質的に白金を含まない、請求項19に記載の酸素還元触媒層。
【請求項23】
前記触媒物質膜が実質的に貴金属を含まない、請求項22に記載の酸素還元触媒層。
【請求項24】
前記熱的に安定な基材が、ナノ構造の薄膜基材、ミクロ構造の薄膜基材、炭素含有基材、炭素不織布、亜酸化チタンセラミック膜、ナノ酸化スズ膜(fin)、ナノ酸化チタン膜、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項19に記載の膜電極アセンブリ。
【請求項1】
熱的に安定な基材と、
前記熱的に安定な基材上に配置された触媒物質膜と、を含む酸素還元触媒層であって、前記触媒物質膜が炭素、窒素、及び遷移金属を含み、前記遷移金属が鉄、コバルト、及びこれらの混合物からなる群から選択され、
前記酸素還元触媒層が可逆水素電極に対して0.6Vで少なくとも約0.02mA/cm2の触媒活性を示し、耐食性である、酸素還元触媒層。
【請求項2】
前記触媒物質膜が物理蒸着膜を含む、請求項1に記載の酸素還元触媒層。
【請求項3】
前記触媒物質膜が、原子組成として約50.0%〜約99.8%の炭素、約0.1%〜約45.0%の窒素、及び約0.1%〜約15.0%の遷移金属を有する、請求項1に記載の酸素還元触媒層。
【請求項4】
前記原子組成の炭素が約80.0%〜約95.0%である、請求項3に記載の酸素還元触媒層。
【請求項5】
前記原子組成の窒素が約4.0%〜約20.0%である、請求項3に記載の酸素還元触媒層。
【請求項6】
前記原子組成の遷移金属が約2.0%〜約10.0%である、請求項3に記載の酸素還元触媒層。
【請求項7】
前記触媒物質膜が実質的に白金を含まない、請求項1に記載の酸素還元触媒層。
【請求項8】
前記触媒物質膜が実質的に貴金属を含まない、請求項7に記載の酸素還元触媒層。
【請求項9】
前記熱的に安定な基材が、ナノ構造の薄膜基材、ミクロ構造の薄膜基材、炭素含有基材、炭素不織布、亜酸化チタンセラミック膜、ナノ酸化スズ膜(fin)、ナノ酸化チタン膜、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の酸素還元触媒層。
【請求項10】
前記触媒物質が熱処理されている、請求項1に記載の酸素還元触媒層。
【請求項11】
熱的に安定な基材と、
前記熱的に安定な基材上に配置された触媒物質膜と、を含む酸素還元触媒層であって、
前記触媒物質膜が、原子組成として約50.0%〜約99.8%の炭素、約0.1%〜約45.0%の窒素、及び約0.1%〜約15.0%の遷移金属を有し、前記遷移金属が鉄、コバルト、及びこれらの混合物からなる群から選択される、酸素還元触媒層。
【請求項12】
前記触媒物質膜が物理蒸着膜を含む、請求項11に記載の酸素還元触媒層。
【請求項13】
前記原子組成の炭素が約80.0%〜約95.0%である、請求項11に記載の酸素還元触媒層。
【請求項14】
前記原子組成の窒素が約4.0%〜約20.0%である、請求項11に記載の酸素還元触媒層。
【請求項15】
前記原子組成の遷移金属が約2.0%〜約10.0%である、請求項11に記載の酸素還元触媒層。
【請求項16】
前記触媒物質膜が実質的に白金を含まない、請求項11に記載の酸素還元触媒層。
【請求項17】
前記触媒物質膜が実質的に貴金属を含まない、請求項16に記載の酸素還元触媒層。
【請求項18】
前記熱的に安定な基材が、ナノ構造の薄膜基材、ミクロ構造の薄膜基材、炭素含有基材、炭素不織布、亜酸化チタンセラミック膜、ナノ酸化スズ膜(fin)、ナノ酸化チタン膜、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項11に記載の酸素還元触媒層。
【請求項19】
第1の面を有するプロトン交換膜と、
前記プロトン交換膜の第1の面に隣接して配置される酸素還元触媒層とを有する、膜電極アセンブリであって、
前記酸素還元触媒層が、
熱的に安定な基材、及び
前記熱的に安定な基材上に配置された触媒物質膜を含み、前記触媒物質膜が、原子組成として約50.0%〜約99.8%の炭素、約0.1%〜約45.0%の窒素、及び約0.1%〜約15.0%の遷移金属を有し、前記遷移金属が鉄、コバルト、及びこれらの混合物からなる群から選択される、膜電極アセンブリ。
【請求項20】
前記触媒物質膜が物理蒸着膜を含む、請求項19に記載の酸素還元触媒層。
【請求項21】
前記触媒物質膜が熱処理される、請求項19に記載の膜電極アセンブリ。
【請求項22】
前記触媒物質膜が実質的に白金を含まない、請求項19に記載の酸素還元触媒層。
【請求項23】
前記触媒物質膜が実質的に貴金属を含まない、請求項22に記載の酸素還元触媒層。
【請求項24】
前記熱的に安定な基材が、ナノ構造の薄膜基材、ミクロ構造の薄膜基材、炭素含有基材、炭素不織布、亜酸化チタンセラミック膜、ナノ酸化スズ膜(fin)、ナノ酸化チタン膜、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項19に記載の膜電極アセンブリ。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図11】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図11】
【公表番号】特表2009−534175(P2009−534175A)
【公表日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−506651(P2009−506651)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【国際出願番号】PCT/US2007/062653
【国際公開番号】WO2007/124200
【国際公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【国際出願番号】PCT/US2007/062653
【国際公開番号】WO2007/124200
【国際公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】
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