説明

醗酵生成物の製造方法および醗酵生成物

【課題】 強力な抗酸化性を示し活性酸素由来の疾病に対して有効に働く醗酵生成物とその製造方法を提供する。
【解決手段】 多年生イネ科植物の葉茎(イネワラ、葦、ムギワラ等)を、卵白、卵黄、米糠および水またはこれらにキシラーゼを添加して構成される発酵培地と混合して該イネ科植物の葉茎を分解し、乳酸醗酵させた後、発酵槽内物を乾燥してできる乾燥発酵物を水抽出により抽出した抽出物をろ過を経て濃縮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多年生イネ科植物性繊維を出発原料とし、これを微生物を用いて乳酸醗酵させる醗酵生成物の製造方法および醗酵生成物に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者は先に、B型肝炎の治療に有効な水溶性多糖体とその製造方法を特許文献1及び特許文献2として提案している。
斯かる特許文献1及び特許文献2では、イネ科植物性繊維をアンモニア性窒素、硝酸性窒素、可溶性リン酸、及び可溶性加里を含む培養液中に浸漬し、イネ科植物に付着している醗酵菌によって醗酵させ、培養液のpH値が7〜9.2に到達したときに醗酵を停止することで、主成分の分子量がデキストランに換算して70×103 以上で且つ第2級アミン成分を含有する多糖体を得ることが開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開昭59−143598号公報
【特許文献2】特開平05−310802号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1及び特許文献2に記載された方法は、培養液を予め調製することが必須となっている。しかしながら培養液の調製に手間がかかる。
また、上記調製培養液を用いた醗酵では発酵生成物の収量(発酵生成物/全体重量)が少なく採算がとれないという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明に係る発酵生成物の製造方法は、出発原料として多年生イネ科植物の葉茎、例えばイネワラ、葦、ムギワラ等を用い、醗酵培地として卵白、卵黄、米糠および水またはこれらにキシラーゼを添加したものを用い、前記醗酵培地に多年生イネ科植物の葉茎を混ぜて葉茎を分解し、乳酸醗酵させた後、発酵槽内物を乾燥してできる乾燥発酵物を水抽出により抽出した抽出物をろ過を経て濃縮するようにした。
【0006】
また上記の方法によって得られる発酵生成物は、主成分の分子量がデキストランに換算して約70×103 多糖体、約500×103 多糖体、単糖体としてグルコース及びフラクトースを含有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によって得られる発酵生成物(多糖体+単糖体)は、特許文献1、2で検証されたB型肝炎に対する治療効果が認められるだけでなく、抗酸化性が認められ、活性酸素由来の疾病に対して有効である。
【0008】
特許文献1、2に開示された発酵生成物には第2アミンが含有されていたが、本発明に係る発酵生成物には第2アミンは認められず、またクロマトグラフィーの波形も比較的ブロードであった。尚、特許文献1、2に開示された発酵生成物が抗酸化性を有していたか否かは不明である。
【0009】
即ち、本発明によって得られる発酵生成物は、生体内で最も多いとされるスーパーオキシドラジカルを不均化して消去すると共に最も毒性の強いヒドロキシラジカルを消去することができるので極めて効率の良い抗酸化物であり、しかも天然物由来の発酵生成物であるので安全であり毒性がない。ここで、スーパーオキシドラジカルは酸素分子の1電子還元により生成される活性酸素の一種であり、ヒドロキシラジカルは酸素分子の3電子還元により生成される活性酸素の一種である。
【0010】
特に、醗酵培地としての卵白、卵黄および米糠には自然醗酵に必要なアミノ酸、脂質およびミネラルを豊富に含んでおり、また多年生イネ科植物の葉茎の基質はキシロースを含むリグニンおよびヘミセルロースからなり分解するのに長時間を要するが、キシロース分解酵素であるキシラーゼを添加することで発酵分解効率を高めることができる。
更に、発酵は自然の太陽光により行うことができるので環境にやさしくエネルギーコストが安価である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
実施例1
幅60cm×長さ100cm×高さ20cmの培養槽に水40Lを入れ、米糠200gと鶏卵(卵白および卵黄)4個を良く攪拌混合して培養液を調整した。
調製された培養液に3cmに裁断した稲わらを入れ培養液と混合してよく馴染ませた。採光可能な蓋をして太陽光を満遍なく当てるようにして乳酸発酵を経てから2日おきに攪拌して発酵を促進させた。
【0012】
乳酸発酵を行う醗酵菌には、ラクトバシラス属 (Lactobacillus)、ビフィドバクテリウム属 (Bifidobacterium)、 ラクトコッカス属 (Lactococcus)、 ペディオコッカス属(Pediococcus)、 リューコノストック属 (Leuconostoc)があるが、これらのうちの複数が稲わらに付着していると考えられる。
【0013】
乳酸発酵による酸性領域からアルカリ領域に移行して培養液が濃茶色に変化した時点で除々に蒸発させて乾燥状態とする。乾燥した発酵生成物を水抽出により抽出した水溶性成分を含む溶液をろ過する。濾液を加熱濃縮して水分70%程度にしたものを乾燥器内の温度130℃にて水分50%〜60%にしてペースト状とする。
【0014】
次いで上記ペースト状の醗酵生成物を95%エチルアルコールで凝固させる。醗酵生成物は水溶性であるがアルコールには不溶である。
【0015】
更に、エチルアルコールで凝固させた後濾過して固体状濾過物を得る。この固体状濾過物を80℃で乾燥してエチルアルコールを完全に蒸発させた後、水分1%以下の固体状発酵物を得た。
【0016】
稲わらおよび培地の固形分全体の重量は1940gであり、得られた固体状発酵物の収量は平均で380gであった。特許文献1、2の方法の場合には、得られた固体状発酵物の収量は平均170gであった。単純に得られた固体状発酵物の収量のみを比較した場合には、2倍以上収量が向上している。
【0017】
このようにして得た固体状発酵物を逆浸透膜および脱イオン処理した純水に溶解した0.1%濃度のサンプルをヒポキサンチンーキサンチンオキダーゼ系により生成したスーパーオキシドラジカルおよびフェントン反応により生成したヒドロキシラジカルの消去能を電子スピン共鳴法(ESR)によって調べた。
【0018】
図1はヒポキサンチンーキサンチンオキシダーゼにより生成したスーパーオキシドラジカルのESRの強度を示すシグナルであり、図2はサンプルにより消去されたESRのシグナルである。これら図1、2に示すように本発明によって得られた醗酵生成物はフリーラジカルに対して強い消去能を示した。
【0019】
また図3は過酸化水素と硫酸第一鉄によって生成されるヒドロキシラジカルの強度を示すシグナルであり、図4はサンプルによりヒドロキシラジカルが消去された強度を示すシグナルである。これら図3、4に示すように本発明によって得られた醗酵生成物はヒドロキシラジカルに対して強い消去能を示した。
【0020】
実施例1で得られた醗酵生成物の分子量を高速液クロマトグラフィー(日立635型)を用いて下記条件で測定した。
Colum Shodex lonpak: s'800p+s'804+s'801
Sampl :10μl
Detector:RI4k×10−5 RLUFS'
Pressure:25kg/cm2
Eluent:H20
Flow Rate:1.0 ml/min
Chart speed:5 mm/min
Colom temp:60℃RT
【0021】
高速液クロマトグラフィーによって測定すると、全体の形状は特許文献1,2に開示されている形状に比べてブロードになったが似ており、分子量70×103 のデキストラン及び分子量500×103 のデキストランの各ピークが発現する位置に、主たるピークが発現する。更に単糖類としてグルコースとフラクトースも検出された。
【0022】
得られた固体状を発酵物3mgを取り100mlの純水に溶解させたものをサンプルとして株式会社同仁化学研究所製のSOD Assay Kit-WSTを用いて450nmの波長の吸光度測定を株式会社コロナ電気社製のマイクロプレートリーダーを用いて行った。その結果スーパーオキシドラジカルの阻止率は20.6%であった。
【0023】
実施例2
幅60cm×長さ100cm×高さ20cmの培養槽に水40Lを入れ、米糠200gと鶏卵4個およびおよびキシラーゼ15gを良く攪拌混合して培養液を調整した。
調製された培養液に3cmに裁断した稲わらを入れ培養液と混合してよく馴染ませた。採光可能な蓋をして太陽光を満遍なく当てるようにして乳酸発酵を経てから2日おきに攪拌して発酵を促進させた。
【0024】
この後実施例1と同様にして、水分1%以下の固体状発酵物を得た。収量は平均で450gであり、キシラーゼを添加することで更に収量が向上することが判明した。
この固体状発酵物を実施例1と同様に、スーパーオキシドラジカルおよびヒドロキシラジカルの消去能を電子スピン共鳴法(ESR)によって調べたところ、醗酵生成物はフリーラジカルに対して強い消去能を示した。
【0025】
また、実施例1と同様にしてスーパーオキシドラジカルの阻止率を検証したところ、25.4%であった。実施例1と比較すると、繊維分解酵素の一つであるキシラーゼを添加することで無添加の発酵物に比べ23.3%SOD様活性が向上することが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】ヒポキサンチンーキサンチンオキシダーゼにより生成したスーパーオキシドラジカルのESRの強度を示すグラフ
【図2】本発明に係る醗酵生成物により消去されたスーパーオキシドラジカルのESRの強度を示すグラフ
【図3】過酸化水素と硫酸第一鉄によって生成されるヒドロキシラジカルのESRの強度を示すグラフ
【図4】本発明に係る醗酵生成物により消去されたヒドロキシラジカルのESRの強度を示すグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多年生イネ科植物の葉茎を卵白、卵黄、米糠および水から構成される発酵培地と混合して該イネ科植物の葉茎を分解し、乳酸醗酵させた後、発酵槽内物を乾燥してできる乾燥発酵物を水抽出により抽出した抽出物をろ過を経て濃縮することを特徴とする抗酸化機能を有する発酵生成物の製造方法。
【請求項2】
多年生イネ科植物の葉茎を卵白、卵黄、米糠、キシラーゼおよび水から構成される発酵培地と混合して該イネ科植物の葉茎を分解し、乳酸醗酵させた後、発酵槽内物を乾燥してできる乾燥発酵物を水抽出により抽出した抽出物をろ過を経て濃縮することを特徴とする抗酸化機能を有する発酵生成物の製造方法。
【請求項3】
多年生イネ科植物の葉茎を卵白、卵黄、米糠および水から構成される発酵培地と混合し、乳酸発酵させて得られる発酵生成物であって、主成分の分子量がデキストランに換算して約70×103 の多糖体、約500×103の多糖体、グルコース及びフラクトースを含有することを特徴とする発酵生成物。
【請求項4】
多年生イネ科植物の葉茎を卵白、卵黄、米糠、キシラーゼおよび水から構成される発酵培地と混合し、乳酸発酵させて得られる発酵生成物であって、主成分の分子量がデキストランに換算して約70×103 の多糖体、約500×103の多糖体、グルコース及びフラクトースを含有することを特徴とする発酵生成物。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−254254(P2009−254254A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−105458(P2008−105458)
【出願日】平成20年4月15日(2008.4.15)
【特許番号】特許第4180108号(P4180108)
【特許公報発行日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【出願人】(508115303)株式会社インテリジェントアセットマネジメント (4)
【Fターム(参考)】