醸造酒用タンパク質除去剤
【課題】品質を劣化させることなく醸造酒(清酒原酒等)の中のタンパク質を迅速に吸着除去できる醸造酒用タンパク質除去剤を提供する。
【解決手段】ヒドロキシアパタイト類を原料とする醸造酒用タンパク質除去剤。該ヒドロキシアパタイト類はCa源とリン酸源とを反応させて調製するに際して、アルカリの代わりに炭酸アルカリ塩を加えることにより製造する。品質を劣化させることなく、清酒中のタンパク質を迅速に吸着除去させることができ、使用済みのタンパク質除去剤は、穏和な条件で吸着タンパク質を脱離させることができるので、除去剤を低コストに再生できるとともに、吸着したタンパク質を回収して有効利用を図ることができる。
【解決手段】ヒドロキシアパタイト類を原料とする醸造酒用タンパク質除去剤。該ヒドロキシアパタイト類はCa源とリン酸源とを反応させて調製するに際して、アルカリの代わりに炭酸アルカリ塩を加えることにより製造する。品質を劣化させることなく、清酒中のタンパク質を迅速に吸着除去させることができ、使用済みのタンパク質除去剤は、穏和な条件で吸着タンパク質を脱離させることができるので、除去剤を低コストに再生できるとともに、吸着したタンパク質を回収して有効利用を図ることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、醸造酒中のタンパク質の吸着除去処理に使用される新規なタンパク質除去剤及びそれを簡易に製造できるタンパク質除去剤の製造方法に関する。さらに詳しくは、品質を劣化させずに清酒等の醸造酒のオリ(澱・滓)形成タンパク質や品質劣化に関与する酵素タンパク質を除去することを目的とした、タンパク質吸着能に特に優れたタンパク質除去剤の新規な製造方法及び新規なタンパク質除去剤に係るものである。
【0002】
ここでは、醸造酒として清酒を例に採り説明する。本発明のタンパク質除去剤は、他の醸造酒、例えば、ぶどう酒、ビール、紹興酒等にも適用できる。
【0003】
なお、特許請求の範囲等における数値限定の各数値は、「約」を付していないが、本発明における効果をより確実に奏する範囲を規定するもので、臨界的ではなく概数である。
【背景技術】
【0004】
清酒では、その保存中にオリやオリに起因する白濁が発生して製品の評価を下げることがある。
【0005】
原因として、タンパク質の凝集によるもの(白ぼけ:白濁)と、火落菌の生育によるもの(火落ち)がある。保存中のオリや白濁の発生を防ぐため、清酒等の醸造酒においては、「オリ下げ(オリ引き)」、「濾過助剤の添加による濾過」及び「火入れ(酵素失活や加熱殺菌)」の各工程を含んで、オリ(主成分はタンパク質)を除去することが行われてきた。
【0006】
しかし、使用後の濾過助剤は産業廃棄物となり、また、火入れ工程は熱エネルギーを多大に消費する。このため、製造コストの増大につながるとともに、環境への負荷も少なくない。また、複数回の火入れや過度な火入れは、製品の品質劣化をもたらす。
【0007】
また、非加熱タイプの生酒では、時間の経過とともに「甘ダレ」、「老香」を引き起こすことがある。酵素(タンパク質)の活性が残存しているためである。
【0008】
このように、清酒中に存在するタンパク質は清酒の潜在的な品質劣化要因となる。このため、品質を劣化させずにタンパク質を除去できることが望ましい。
【0009】
従来、非加熱でオリ(澱)形成タンパク質を除去する方法として、(1)プロテアーゼ、(2)限外ろ過膜、又は(3)タンパク質吸着剤(タンパク質除去剤)を用いる方法等が提案されている。しかし、それらの方法は、下記のような問題点がある。
【0010】
(1)プロテアーゼを用いる方法では、処理に時間がかかる上に、タンパク質であるプロテアーゼを除去する工程が別途必要となる。
【0011】
(2)限外ろ過膜を用いる方法は、分子の大きさにより分離するものである。
【0012】
この方法では、a)時間経過とともに、ろ過膜が目詰まりしてろ過速度が低下する、b)タンパク質以外の低分子成分まで除去することがあって、清酒の品質を変化させてしまう。さらに、ろ過膜の設定排除分子量以上のタンパク質であっても、タンパク質の形状によってはろ過膜を素通りしてしまい、十分なタンパク質除去ができない。
【0013】
(3)タンパク質吸着剤としては、シリカ、活性炭、粘土系セラミックスなどの無機多孔体がよく用いられている(特許文献1〜3)。
【0014】
これらの無機多孔体の場合、その細孔内に入るサイズのタンパク質類は吸着されるが、それより大きいタンパク質類は吸着除去できず、残存する。また分子間力に基づいた吸着原理(分子間力による物理的吸着)のため、タンパク質のような巨大分子の場合、吸着力が弱い。
【0015】
このため、静電気による強い吸着力が期待できるヒドロキシアパタイト(HA:水酸化リン酸カルシウム)類をタンパク質除去剤の原料として使用することが考えられる。
【0016】
しかし、HA類を、清酒等の醸造酒中のタンパク質除去に積極的に用いた例は寡聞にして知らない。
【0017】
HA類は、中性付近のリン酸緩衝液中における特異的なタンパク質吸着特性が特徴であり、溶液pHが中性からはずれており且つ広範な分子量に亘る各種タンパク質を含む清酒のタンパク質除去には不適であるというのが、当業者常識であったためと推定される。
【0018】
即ち、HA類は、主として、液体クロマトグラフィーの固定相として用いる等して、タンパク質の分離精製の分野で主として用いられてきたものである(特許文献4〜7)。
【0019】
なお、特許文献4の段落0008には、下記の如く記載されている。
【0020】
「ハイドロアパタイトによる蛋白質類の分離機構は、・・・、イオンの電荷による吸着であるため、特定の蛋白質類に対し強度の吸着分離特性を有する。また、表面の吸着サイトの立体構造による選択性があるため、蛋白質類の表面の官能基の差異に対し敏感であり、蛋白質類の種類による吸着分離特性が良好となるなどの特性が期待される。」
【0021】
また、特許文献5〜7に記載されたHA類は、焼結体として使用することを予定している。焼結体として、強度が増大するとともに、特定の結晶粒が生長して特定タンパク質除去能が増大することが期待できるためである。
【特許文献1】特開2000−106863号公報(「オリ下げ方法」;特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開平9−25114号公報(「濾過剤用シリカゲル」:特許請求の範囲等)
【特許文献3】特開平5−97421号公報(「ビール安定化処理用シリカゲルの製造法」;特許請求の範囲等)
【特許文献4】特開平9−169794号公報(「蛋白質類の分離方法」;特許請求の範囲等)
【特許文献5】特開平8−333387号公報(「タンパク質分離精製法」;特許請求の範囲等)
【特許文献6】特開2003−126248号公報(「血液浄化用吸着剤及びその製造法」;特許請求の範囲等)
【特許文献7】特開2005−313150公報(「リン酸カルシウム系吸着剤及びその製造法」;特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明は、清酒等の醸造酒のオリや白濁の原因となるタンパク質や品質劣化に関与する酵素タンパク質を迅速、高効率に吸着除去することができる新規な醸造酒用タンパク質除去剤の製造方法及び醸造酒用タンパク質除去剤を提供し、さらに、当該タンパク質除去剤を用いて、火入れを含む従来法で処理されたものと同等以上の品質の醸造酒(清酒等)を製造することを目的(課題)とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記課題を解決するため、要求されるべきタンパク質除去剤の特徴として、吸着剤が人に対して安全であること、安価であること、さらには、醸造酒の品質を劣化させない等があげられる。
【0024】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意開発に努力をする過程で、Ca源とリン酸源(以下「P源」という。)とを反応させて得られるヒドロキシアパタイト(HA)類からなる又は該HA類を含むものに、清酒等の醸造酒に対して、火入れ不要となる乃至火入れ回数を低減できるレベルのタンパク質除去能を示す特異性(特性)を有するものがあることを知見して、本発明の醸造酒用タンパク質除去剤に想到した。
【0025】
上記火入れ不要となるレベルの優れたタンパク質除去能とは、例えば、原酒(例えば清酒)に5質量%添加して12h×室温×攪拌接触させた後の醸造酒中の相対タンパク質除去率(原酒比:Bradford法によるタンパク質定量に基づく)において、70%以上(望ましくは75%以上)の特性を示すもののことである。
【0026】
タンパク質除去能に優れる理由は、XRDによるピーク性状がブロード、すなわち結晶化度が低いため、特定のタンパク質ばかりでなく分子量の異なる多様なタンパク質が吸着されるためと推定される。
【0027】
上記特性は、HA類が、カルシウム欠損ヒドロキシアパタイト(CDHA:calcium-deficient hydroxyapatite)Ca10-x(HPO4)x(PO4)6-x(OH)2-x(H2O)(但し、x>0)を含有するものの中に多く見られる。
【0028】
さらに、上記特性に加えて、酸度低下が小さい、即ち、原酒に5質量%添加して12h×室温×攪拌接触させた後の酸度低下量が0.5%未満を示す特性を有するものもあることも知見した。
【0029】
そして、上記各特性乃至HA類組成の全てを有するタンパク質除去剤の場合は、例えば、Ca源と、炭酸アルカリ塩(以下「C源」という。)を添加したP源とからなる反応原料を、25〜60℃(望ましくは30〜50℃)の範囲の設定温度で熟成させることにより、HA類の調製を行なうことができる。
【0030】
上記HA類の調製に際して、前記Ca源に対するリン酸源の添加、及び、前記炭酸アルカリ塩の添加をそれぞれ、一回的又は間欠的に行なうことが好ましい。
【0031】
上記HA類の調製に際して、Ca源/P源(mol比)=10/2.5〜10/12(さらには10/5〜10/8)としたときにおいて、Ca源/C源(mol比)=10/0.5〜10/9(さらには10/1.5〜10/6)とすることが好ましい。タンパク質除去能がさらに向上する。
【0032】
上記HA類の調製に際して、前記Ca源をCaCl2、前記P源をNa2HPO4、前記C源をNaHCO3とすることが好ましい。
【0033】
また、酸度低下量が小さい特性を要求されないタンパク質除去剤の場合は、HA類の調製を、例えば、Ca源と、適宜C源を添加したP源とからなる反応原料を、熟成後pH10以上となるような量のアルカリ源を使用して、25〜65℃(望ましくは30〜50℃)の設定温度でアルカリ熟成させることにより、HA類の調製を行なうことができる。
【0034】
さらに、酸度変化量が小さい特性が要求されず、且つ、HA類がCDHAを含有しない組成(HAのみの組成)の場合は、例えば、Ca源とP源とからなる反応原料を、熟成後pH10以上となるような量のアルカリ源を使用して、35〜70℃(望ましくは40〜60℃)の温度条件でアルカリ熟成させることにより、行なえばよい。
【0035】
また、本発明の醸造酒用タンパク質除去剤の製造は、通常、反応終了後の反応液の固液分離により得られた固形物を、約80〜300℃の温度で乾燥させて調製する。乾燥温度が高すぎると、結晶粒生長や多形転移に起因して、本発明の作用「分子量の異なる各種タンパク質の除去」を安定して得難くなるおそれがある。
【0036】
そして、本発明の各醸造酒用タンパク質除去剤は、原酒に接触させて、原酒中のタンパク質の吸着除去処理を行うタンパク質除去操作を経て、品質を劣化させることなくタンパク質が除去された火入れが不要な醸造酒(清酒)を製造できる。
【発明の効果】
【0037】
HA類は、骨や歯の構成成分であり、生体親和性も高いことから安全性が高い。本発明の製法に基づいたHA類をタンパク質除去剤の原料として用いれば、醸造酒(例えば清酒)中のタンパク質を容易かつ迅速に除去できる。このとき、滓下げ剤の添加や火入れ(加熱殺菌)が不要であり、製品品質(香り、色等)を劣化させずに製造コストを低減できる。タンパク質を吸着除去した除去剤中のHA類は、高濃度の塩溶液(例えば、リン酸カリウム)と接触させることにより容易に再生できるので、環境に優しく、製品の製造コストの削減にもつながる。また、本タンパク質除去剤の製造工程において有害な薬品を用いず、焼結工程も含まないので、製造工程においても低コストで環境負荷を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明の醸造酒用タンパク質除去剤の製法について、詳細に説明する。
【0039】
以下の説明で、リン酸水素カルシウムを、モネタイト(Monetite)(CaHPO4)、ブラッシュ石(Brushite)(CaHPO4・H2O)と称することがある。
【0040】
また、ヒドロキシアパタイト類とは、ヒドロキシアパタイト(hydroxyapatite)(HA)に加えて、下記一般式で示されるCa欠損HA(CDHA:calcium-deficient hydroxyapatite)を含むものである。
【0041】
Ca10−x(HPO4)x(PO4)6−x(OH)2−x(H2O)
(但し:x>0)
本発明の醸造酒用タンパク質除去剤の原料とするHA類は、Ca源と、炭酸アルカリ塩(C源)を添加したリン酸源(P源)とを、微温(25〜60℃、望ましくは30〜50℃)の範囲の設定温度で熟成(反応)させて、アルカリ源を使用せずに前記HA類を調製する(生成させる)ことが、最も望ましい。
【0042】
本発明の製法で調製したHA類は、xが異なる各種のものが含まれると考えられる。
【0043】
上記HA類の調製は、通常、湿式法による。湿式法を用いれば、簡便かつ安価に製造でき、スケールアップも容易である。
【0044】
上記Ca源としては、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム、塩化カルシウム(CaCl2)など水に溶解性を有するカルシウム塩であれば特に限定されない。これらの内で、CaCl2が好ましい。また、湿式法で行なう場合の水溶液中のカルシウム塩の濃度は、0.1〜1 mol/Lであることが好ましい。
【0045】
上記P源(リン酸源)としては、リン酸及びリン酸塩を使用できる。リン酸塩としては、リン酸二アンモニウム、リン酸一アンモニウム、リン酸二ナトリウム、リン酸一ナトリウムなど、水に溶解性を有するものを好適に使用でき、特に限定されない。
【0046】
これらの内で、リン酸一・二ナトリウム、特にリン酸二ナトリウムが好ましい。また、湿式法で行なう場合の水溶液中のリン酸源の濃度は、前記Ca源に対して、モル比でCa源/P源=10/2.5〜10/12、更には、10/5〜10/8となる量とすることが好ましい。
【0047】
そして、Ca源に対するP源の添加は、一回的乃至間欠的に行なうことが望ましい。一気に添加することにより、結晶が十分生長しないために、多様な結晶形態を持つ微結晶が得やすい。
【0048】
上記C源(炭酸アルカリ塩)としては、炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウムカリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなど、水に溶解性を有するものであれば特に限定されない。これらの内で、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等の炭酸アルカリ塩が好ましい。この炭酸アルカリ塩の添加量は、前記Ca源に対して、Ca/C(mol比)≒10/0.5〜10/9、更には、10/1.5〜10/6となる量とすることが好ましい。
【0049】
添加剤である炭酸アルカリ塩を添加しても、調製後(熟成終了後、反応終了後)のpHは中性以下、通常、微酸性(pH7未満pH4以上)となる。適宜、NaOH等のアルカリ源を二次反応の添加剤として少量添加することもできるが、その場合も、調製後pHが塩基性側へ振れないようにすることが望ましい。
【0050】
塩基性側で熟成させたものは、タンパク質吸着性能が劣ったり、醸造酒の酸度を低下させる場合がある。
【0051】
Ca源にC源を混合したP源を添加後、攪拌を継続して熟成させることにより、炭酸を発泡させてその揮散を促進させるとともに反応を終了させる。この熟成時間は、数時間〜30時間とする。反応終了(熟成)後の反応液(スラリー)は、遠心分離やろ過などにより固液分離し、精製水で十分洗浄した後、乾燥粉砕して粉末にしたり、造粒したりして本発明の醸造酒用タンパク質除去剤とする。
【0052】
造粒方法は、特に限定されず、例えば、転動造粒、攪拌造粒、噴霧造粒、破砕造粒等などを好適に用いることができる。
【0053】
なお、HA類の調製時や吸着剤の造粒時に、シリカゲルや活性炭を添加して、添着タイプやハイブリッドタイプのタンパク質除去剤とすることもできる。
【0054】
上記乾燥温度は、約80〜300℃、望ましくは約90〜200℃、更に望ましくは100℃前後の範囲とする。温度が低すぎては乾燥時間が長くなって生産性の見地から望ましくない。また、温度が高すぎると、タンパク質除去剤中のHA類の結晶粒の生長や結晶構造の変化が発生して、多様なタンパク質を除去する性能を得難くなるおそれがあるとともに、省エネルギーの見地から望ましくない。
【0055】
このようにして製造したHA類からなる又はHA類を含むタンパク質除去剤は、バッチ式またはカラム式で、醸造酒に接触させてタンパク質の除去を行なう。
【0056】
即ち、タンパク質除去剤を醸造酒に接触させて、該醸造酒中のタンパク質の吸着除去処理を行うタンパク質除去操作を経て、バッチ処理の場合は、更に固液分離操作を経て醸造酒を製造する。
【0057】
ここで、醸造酒(被処理液)としては、非加熱醸造酒(原酒)を用いるが、火入れによるタンパク質の除去が不十分な加熱済み醸造酒に対しても本発明のタンパク質除去剤を適用することによって醸造酒の品質向上を図ることができる。この場合、火入れ温度を下げたり、火入れ回数を低減できる。
【0058】
バッチ式の場合、処理条件は、例えば、添加濃度約0.05〜10質量%(望ましくは1〜7質量%)、処理(攪拌)時間0.5〜24時間(望ましくは1〜5時間)とする。
【0059】
カラム式の場合、処理条件は、例えば、カラム(内径:15mm、長さ:289mm)に吸着剤(HA類)41.8gを充填した場合、流速約0.5〜1.0mL/minとする。
【0060】
使用後のタンパク質除去剤中のHA類は、高濃度の塩水溶液処理により除去剤からタンパク質を脱離させて再生させることができるので、タンパク質除去剤は繰り返し使用することができる。高濃度の塩水溶液とは、例えば、1Mリン酸カリウム水溶液を挙げることができる。
【0061】
また、脱離させたタンパク質は、精製することにより、機能性タンパク質、ペプチド材料等の用途への展開が期待できる。
【実施例】
【0062】
以下、本発明の効果を確認するために、比較例とともに行った実施例について説明する。
【0063】
A.製造例
様々な調製法(方法1〜5)により11種類のHA類(但し、CAP−3、10はリン酸水素カルシウム)を調製した。表1に調製条件の概略を示す。なお、CAP−11が、本発明の典型例である。各原料の混合比(mol比)は、Ca源/P源=10/6を基準とした。下記方法1〜3で使用した実験装置の概略図を図1に示す。また、方法4、5の攪拌も、マグネティックスターラにより行なった。
【0064】
【表1】
【0065】
<方法1>
1) CAP-1
恒温槽温度50℃に設定下、1M Ca(NO3)2水溶液 0.3Lを丸底フラスコに入れて溶液を攪拌しながら、0.3M(NH4)2HPO4水溶液 0.6Lを徐々に滴下(0.9L/min)後、60分攪拌した。続いて、丸底フラスコ内の溶液を攪拌しながら、2M NH4OH 水溶液300mLを徐々に滴下(0.18L/min)後、さらに24時間撹拌熟成を継続して調製。
【0066】
2) CAP-2
上記1)において、恒温槽設定温度を「95℃」に変更し、「2M NH4OH水溶液」を「5M NH4OH水溶液」に変更した以外は、同様にして調製。
【0067】
<方法2>
1) CAP-3
恒温槽温度50℃の設定下、1M CaCl2水溶液 0.3Lを丸底フラスコに入れて溶液を攪拌しながら、0.3M Na2HPO4水溶液 0.6Lを徐々に滴下(0.9L/min)後、30分攪拌熟成した。続いて、丸底フラスコ内の溶液を攪拌しながら、1M NaOH水溶液 27mLを徐々に滴下(0.18L/min)後、24時間撹拌熟成を継続して調製。
【0068】
2) CAP-4
上記1)において、後段の「1M NaOH水溶液 27mL」を「2M NaOH水溶液 300mL」に変更した以外は、同様にして調製。
【0069】
3) CAP-5
上記2)において、恒温槽設定温度を「95℃」に変更した以外は、同様にして調製。
【0070】
<方法3>
尿素均一沈殿法にて調製。
【0071】
1)CAP-6
恒温槽温度95℃に設定下、「1M Ca(NO3)2 +1.5M尿素」混合水溶液 0.3Lと、0.3M Na2HPO4水溶液(HNO3にてpH3に調整したもの;試薬混合時の沈殿を防ぐため。) 0.6Lとを、一回的に丸底フラスコに入れて24時間撹拌熟成を継続して調製。
【0072】
2) CAP-7
上記1)において、「1M Ca(NO3)2」を「1M CaCl2」に、「HNO3にてpH3に調製」を「HClにてpH3に調整」に変更した以外は、同様にして調製。
【0073】
<方法4>
アルカリ無添加で調製する方法である。
【0074】
1) CAP-10
恒温槽温度35℃に設定下、1M CaCl2水溶液0.3Lを三角フラスコ(2L)に入れて、攪拌しながら0.3M Na2HPO4水溶液 0.6Lを35℃にて一気に注いだ後、24時間撹拌熟成を継続して調製。
【0075】
(注:CAP-3と似ているが、CaとPを一気に混ぜること、温度が低く、アルカリ無添加の点が違う。混ぜた時点、やや微酸性。)
【0076】
2) CAP-11
上記1)において、「0.3M Na2HPO4水溶液 0.6L」を「0.3M Na2HPO4 0.6Lと0.4M NaHCO3水溶液0.3Lとの混合液」と変更した以外は、同様にして調製。
【0077】
(注:CAP-10に対し、炭酸塩有り。)
【0078】
<方法5>
前記<方法4>において、アルカリを添加する方法である。
【0079】
1)CAP-1
恒温槽温度35℃に設定下、1M CaCl2水溶液 0.3L を丸底フラスコ(3L)に入れて、攪拌しながら0.3M NaH2PO4水溶液 0.6Lを一気に注いだ。続いて、2M NaOH水溶液 300mLを徐々に滴下(0.18L/min)後、24時間撹拌熟成を継続して調製。
【0080】
2)CAP-13
上記1)の前段操作において、「0.3M NaH2PO4水溶液0.6L」を「0.3M NaH2PO40.6Lと0.4M NaHCO3 0.3Lとの混合液」に変更する以外は、同様にして調製。
【0081】
(注:CAP-12に対し、炭酸塩有り。)
【0082】
上記でそれぞれ調製したHA類は、いずれも、終了後1〜2Lの水に懸濁してはNo.2濾紙にて吸引ろ過を3回以上繰り返し、pH中性も確認して100℃前後にて一晩から一日乾燥し、乾燥後、乳鉢にて粉砕して、吸着剤(タンパク質除去剤)として、デシケータにて常温保存した。
B.特性測定結果
上記で調製したHA類及び市販のHA類(以下「試料」という。)について、下記各特性分析を行なった。なお、市販HA類は、カラムクロマトグラフ用のナカライ製ヒドロキシアパタイト(HAp−N)と和光純薬製ヒドロキシアパタイト(HAp−W)を用いた。
【0083】
(1)走査電子顕微鏡(SEM)による観察
各試料について走査電子顕微鏡(SEM)で観察した。その結果を表2に収率とともに示し、更に、いくつかのSEM写真を図2に示す。
【0084】
製法の違いにより、不定形(CAP−5、CAP−11、HAp−W)、針状(CAP−6)、板状(CAP−13、HAp−N)のように様々な大きさや形状のものが得られることが確認できた。
【0085】
【表2】
(2)粉末X線回折装置(XRD)による測定
各試料についてXRDを用いて測定(解析)を行なった。XRD測定から求めた同定結果及びCa/P組成比を表3に示すとともに、いくつかのXRD測定グラフ図を図3に示す。
【0086】
それらの結果から、CAP−3、CAP−10を除く何れの試料もHA相を含んでいることが分かった。そして、HA相を含む試料のうち、ピーク形状が非常にシャープなもの、すなわち結晶性がよいものと、ピーク形状がブロードなもの、すなわち結晶性のあまりよくないものがあることが分かった。
【0087】
即ち、本発明の製造方法で調製したCAP−4、CAP−11、12、13及びHAp−N(市販品)、さらには、CAP−5は、結晶化度が他の試料であるCAP−1、2、6、7及びHAp−Wに比して低いことが確認できた。
【0088】
また、発明例である結晶粒の構成化合物は、CDHA(カルシウム欠損ヒドロキシアパタイト)が主体であることが確認できた。
【0089】
【表3】
C.適用例
<清酒タンパク質の除去試験>
(1)各種HA類のタンパク質除去性能の検討
図4に示した方法によりHA類のタンパク質除去性能を評価した。すなわち、各試料(HA類)からなるタンパク質除去剤を、清酒原酒に対して5質量%添加して、一晩攪拌接触させた(12時間処理)。以下の実験における攪拌は、全てマグネティックスターラにより行なった。
【0090】
処理後の試料をろ紙(アドバンテック、No.5C)にてろ過し、得られたろ液を非吸着画分として下記SDS-PAGE解析に供した。更に、ろ液のタンパク質濃度を下記Bradford法で定量した。
【0091】
a)SDS-PAGE解析によるタンパク質検出
上記ろ液を、透析膜(分画分子量3500Da)を使用して蒸留水に対して一晩5℃で透析した。透析内液を凍結乾燥し、これに所定量の蒸留水を加えて溶解し、50倍濃縮液とした。濃縮液にSDS−PAGE用サンプル緩衝液を加え、沸騰水中で10分間加熱したものをSDS−PAGEに供した。SDS−PAGEは、4〜12%濃度勾配ゲルを使用し、20mA、120分間泳動した。CBB-R250で30分染色後、酢酸/メタノール溶液で2時間脱色して、タンパク質を検出した。結果を図5に示す。
【0092】
処理前の原酒中には28kDa、49kDa付近、及び50kDa以上の広い分子量範囲のタンパク質が含まれている。この原酒を様々なタンパク質除去剤に接触させたところ、各タンパク質除去剤により吸着除去されるタンパク質が異なった。CAP−4及びCAP−11、12、13を除く大部分のタンパク質除去剤は50kDa以上の高分子領域のタンパク質を除去できないが、CAP−4及びCAP−11、12、13は低分子量から高分子量まで広い範囲に亘って原酒中のタンパク質をほぼ完全に除去できた。
【0093】
b)Bradford法(プロテインアッセイ法)によるタンパク質濃度測定
スタンダードとサンプル(サンプル量100μL)を分注し、5倍希釈の発色液(5mL)をそれぞれに添加して、攪拌後、室温で5分以上保持して、1時間以内に測定した。なお、発色液にはBIORAD社製のものを使用し、スタンダードには、BSA(牛血清アルブミン)を使用して、測定波長は、595nmとした。
【0094】
その結果を図6に示す。タンパク質濃度とともに、原酒を100としたときの相対タンパク質濃度を図内に表示した。その結果は、図5のSDS-PAGE解析の結果と良く一致していることが確認できた。すなわち、CAP−4及びCAP−11、12、13さらには市販のHAp−Nは、原酒に5質量%添加して12h×室温×攪拌接触させた後の醸造酒中の相対タンパク質除去率(原酒比:Bradford法によるタンパク質定量に基づく)において、70%乃至75%以上を示した。
【0095】
この結果、本発明の各タンパク質除去剤(HA類)(CAP−4及びCAP−11、12、13)は、火入れ不要乃至火入れ回数を低減できるレベルであることが確認できた。
【0096】
(2) 試料の成分分析
表4に各試料の分析値を示す。全窒素、ホルモール窒素、アミノ酸度、アルコール、吸光度(OD)については何れのHA系のタンパク質除去剤で処理した場合でも原酒との差はあまり認められなかったが、酸度に関しては異なるものも見られた。
【0097】
SDS-PAGE解析及びBradford法の結果からタンパク質除去性能の良好であったCAP−4とCAP−11、12、13のうち、CAP−4、12、13では酸度が大きく低下したが、CAP−11では原酒との差はほとんど無かった。CAP−11で処理した清酒を官能検査したところ、7人のパネラーのうち3人が原酒との差が認められないとし、残りは原酒に比べてすっきりした味であるとの評価が得られた。
【0098】
【表4】
(3)タンパク質除去剤添加量の検討
CAP−11を原酒に対して、10、5、1又は0.1質量%添加して、1時間攪拌接触させた後、遠心分離して得られた上澄み液を非吸着画分とした(図4参照)。該非吸着画分について、上記(1)と同様の方法でSDS-PAGE解析およびBradford法によるタンパク質定量を行った。
【0099】
Bradford法による結果を図7に示す。なお、図内の各棒表示の頭に付した数字は、原酒中のタンパク質濃度を100としたときの相対タンパク質濃度である(図8〜12において同じ)。
【0100】
CAP−11の添加量が5%であれば、タンパク質を90%以上除去でき十分であることが確認できた。
【0101】
SDS-PAGE解析の結果でも、CAP−11の添加量が5%で殆どの分子量に亘るタンパク質が上澄から除去されていた。
【0102】
(4)タンパク質除去剤接触時間の検討
CAP−11を原酒に対して、5質量%添加して、1時間、2時間、4時間及び12時間、攪拌接触させた後、遠心分離し得た上澄(非吸着画分)について、上記(1)と同様の方法でSDS-PAGE解析およびBradford法によるタンパク質定量を行った。
【0103】
Bradford法による結果を図8に示す。CAP−11の添加量が5%であれば、接触時間が1時間でも90%以上除去でき、接触時間4時間では95%以上除去できたことから、長時間(10時間以上)接触させることが不要であることが確認できた。即ち、接触時間は、生産性に応じて、0.5〜5hで十分であることが確認できた。
【0104】
なお、SDS-PAGE解析の結果でも、1時間以上で、殆どの分子量に亘るタンパク質が除去されていた。
【0105】
(5)タンパク質除去剤製造時のCa源/P源比の検討
CAP−11を基本として、Ca源/P源比(mol)=10/3〜10/10の範囲で変えて調製した実施例のタンパク質除去剤(HA類)を原酒に対して10質量%添加して、12時間接触させて試料を調製した。各試料について、上記(1)と同様の方法でSDS−PAGE解析およびBradford法によるタンパク質定量を行った。
【0106】
Bradford法による結果を図9に示す。なお、棒表示の頭部の()内数字は、上澄pHである(図10において同じ。)。
【0107】
実験室下、70℃で1時間火入れした従来法ではタンパク質が約50%残存した。なお、従来法は、原酒に対して、出願人の一人が従来行なっている滓下げろ過、火入れ(加熱殺菌)条件にて実験室で行なったものであるが、現場で従来法を行なった場合は、設定時間以上の長時間に亘って、原酒が火入れ温度に保持されるため、タンパク質除去率は、約90%以上となる。
【0108】
一方、Ca源/P源比が10/6では90%近くタンパク質除去ができた。Ca源/P源比が10/3又は10/10でも80%以上清酒タンパク質を除去でき、本発明の効果を奏することが確認できた。すなわち、本発明のタンパク質除去剤は、火入れ不要なレベル乃至火入れ回数を低減できるレベルのタンパク質除去能を有することが確認できた。なお、Ca源/P源比が高い10/3では、処理済み清酒のpHが上昇する。このため、Ca源/P源=10/5〜10/8が望ましい。
【0109】
SDS-PAGE解析の結果でも、全てのCa源/P源比の範囲内で、殆どの分子量に亘るタンパク質が上澄から除去されていた。
【0110】
また、同時に各実施例について、XRD測定により求めた同定結果及びCa/P組成比を、調製後溶液pHとともに表5に示す。
【0111】
いずれも、CDHAを含有していることが分かる。また、調製後pHも弱酸性(pH4〜6)であることが分かる。
【0112】
【表5】
【0113】
(6)タンパク質除去剤製造時のCa源/C源比の検討
CAP−11を基本として、Ca源/C源比(mol)=10/0〜10/8の範囲で変えて調製した実施例のタンパク質除去剤(HA類)を原酒に対して10質量%添加して、12時間攪拌接触させ、上記と同様にて遠心分離後の非吸着画分について、SDS−PAGE解析およびBradford法によるタンパク質定量を行った。
【0114】
結果を図10に示す。従来法(実験室下)では、タンパク質が約50%残存するのに対し、Ca源/C源比=10/1.5〜10/6の範囲では約90%の清酒タンパク質を除去でき、タンパク質除去率が特に高いことが確認できた。
【0115】
SDS-PAGE解析の結果でも、Ca源/C源比=10/1.5〜10/6の範囲で、殆どの分子量に亘るタンパク質が上澄から除去されていた。
【0116】
また、同時に各実施例について、XRD測定により求めた同定結果及びCa/P組成比を、調製後溶液pHとともに表6に示す。
【0117】
いずれも、Ca源/C=10/0の場合を除いてCDHAを含有していることが分かる。また、調製後pHも、Ca源/C源=10/8を除いて弱酸性(pH4〜6)であることが分かる。
【0118】
なお、XRD及び赤外分光の測定結果から、C源比率が高いCa源/C源=10/8でも炭酸基は検出されなかった。
【0119】
【表6】
【0120】
なお、前記条件のカラムにCAP−11を充填して、流速:0.7mL/minで36min通液して、原酒400mLを処理した清酒について、非吸着画分のタンパク質濃度をBradford法で定量するとともにpH測定を行なった。その結果、非吸着画分のタンパク質濃度(相対値)が10.1%、pH4.99とバッチ処理と同等の良質な非熱処理清酒が得られた。
【0121】
<バッチ式タンパク質除去操作における除去剤再生試験>
原酒100mLにCAP−11を10g添加して、CAP−11が沈殿しないように1時間攪拌を行って、タンパク質除去操作を行なった。
【0122】
CAP−11を固液分離して調製した上澄について、SDS-PAGE分析を行なうとともに、タンパク質濃度をBradford法により定量した。
【0123】
そして、固液分離後のCAP−11:10gに対して1Mリン酸カリウム、蒸留水100mLの順で添加・懸濁・遠心分離をする操作を2回繰り返して、再生処理を行った。
【0124】
こうして調製した再生CAP−11を用いて、上記と同様、タンパク質除去操作を行なった。
【0125】
再生CAP−11を固液分離して調製した上澄について、SDS-PAGE分析を行なうとともに、タンパク質濃度をBradford法により定量した。
【0126】
これらのタンパク質除去剤再生/再生材によるタンパク質除去操作を、4回繰り返したが、図11に示す如く、4回再生使用しても、タンパク質除去能は低下しなかった。
【0127】
SDS-PAGE解析の結果でも、再生回数が4回まで、殆どの分子量に亘るタンパク質が上澄から除去されていた。
【0128】
<カラム式タンパク質除去操作における除去剤再生試験>
前記条件でカラム式タンパク質除去操作に使用したCAP−11をカラムに充填したまま、1Mリン酸カリウムを、流速:1.0mL/minで60min通液して再生した。清酒を再生CAP−11充填カラムに通液して得られた溶出液について、SDS-PAGE分析を行なうとともに、タンパク質濃度をBradford法により定量した。
【0129】
これらのカラムの再生及び再生カラムを用いたタンパク質除去操作を4回繰り返したが、図12に示す如く、再生3度使用でも、タンパク質除去能は低下しなかった。
【0130】
SDS-PAGE解析の結果でも、再生回数3度まで、殆どの分子量に亘るタンパク質が上澄から除去されていた。
【0131】
以上の如く、本発明のタンパク質除去剤は、再生処理が容易であるとともに、再生性も良好であることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】実験例(実施例)において各種HA類を調製するのに用いた実験装置の概略図である。
【図2】実験例で調製したHA類及び市販HA類のタンパク質除去剤のいくつかのSEM写真である。
【図3】同じくHA類のいくつかについて粉末XRD装置を用いて測定した結果を示すグラフ図である。
【図4】SDS−PAGE解析及びタンパク質濃度測定(Bradford法)に供する試料(非吸着画分)の調製方法を示す流れ図である。
【図5】実験例で調製したHA類及び市販HA類をタンパク質除去剤として用いて原酒を12時間処理して製造した清酒の非吸着画分のSDS−PAGE像である。
【図6】同じく各HA類をタンパク質除去剤として用いて原酒を12時間処理して製造した清酒の非吸着画分のタンパク質濃度結果を示す棒グラフである。
【図7】実施例(CAP−11)であるタンパク質除去剤を各所定濃度となるように原酒に添加して1時間処理後の非吸着画分のBradford法から得たタンパク質濃度結果を示す棒グラフである。
【図8】実施例(CAP−11)であるタンパク質除去剤を5%濃度となるように原酒に添加して各所定時間処理後の非吸着画分のBradford法から得たタンパク質濃度結果を示す棒グラフである。
【図9】CAP−11(Ca源/P源=10/6)を基準としてCa源/P源のmol比を上下に振って調製した各実施例のタンパク質除去剤を10%濃度となるように原酒に添加して12時間処理後の非吸着画分のBradford法から得たタンパク質濃度の結果を示す棒グラフである。
【図10】CAP−11(Ca源/C源=10/4)を基準としてCa源/C源のmol比を上下に振って調製した各実施例のタンパク質除去剤を10%濃度となるように原酒に添加して12時間処理後の非吸着画分のBradford法から得たタンパク質濃度の結果の棒グラフである。
【図11】バッチ式タンパク質除去操作に使用したCAP−11の再生材のタンパク質除去能の確認試験結果であるBradford法から得たタンパク質濃度結果を示す棒グラフである。
【図12】カラム式タンパク質除去操作に使用したCAP−11の再生材のタンパク質除去能の確認試験結果であるBradford法から得たタンパク質濃度結果を示す棒グラフである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、醸造酒中のタンパク質の吸着除去処理に使用される新規なタンパク質除去剤及びそれを簡易に製造できるタンパク質除去剤の製造方法に関する。さらに詳しくは、品質を劣化させずに清酒等の醸造酒のオリ(澱・滓)形成タンパク質や品質劣化に関与する酵素タンパク質を除去することを目的とした、タンパク質吸着能に特に優れたタンパク質除去剤の新規な製造方法及び新規なタンパク質除去剤に係るものである。
【0002】
ここでは、醸造酒として清酒を例に採り説明する。本発明のタンパク質除去剤は、他の醸造酒、例えば、ぶどう酒、ビール、紹興酒等にも適用できる。
【0003】
なお、特許請求の範囲等における数値限定の各数値は、「約」を付していないが、本発明における効果をより確実に奏する範囲を規定するもので、臨界的ではなく概数である。
【背景技術】
【0004】
清酒では、その保存中にオリやオリに起因する白濁が発生して製品の評価を下げることがある。
【0005】
原因として、タンパク質の凝集によるもの(白ぼけ:白濁)と、火落菌の生育によるもの(火落ち)がある。保存中のオリや白濁の発生を防ぐため、清酒等の醸造酒においては、「オリ下げ(オリ引き)」、「濾過助剤の添加による濾過」及び「火入れ(酵素失活や加熱殺菌)」の各工程を含んで、オリ(主成分はタンパク質)を除去することが行われてきた。
【0006】
しかし、使用後の濾過助剤は産業廃棄物となり、また、火入れ工程は熱エネルギーを多大に消費する。このため、製造コストの増大につながるとともに、環境への負荷も少なくない。また、複数回の火入れや過度な火入れは、製品の品質劣化をもたらす。
【0007】
また、非加熱タイプの生酒では、時間の経過とともに「甘ダレ」、「老香」を引き起こすことがある。酵素(タンパク質)の活性が残存しているためである。
【0008】
このように、清酒中に存在するタンパク質は清酒の潜在的な品質劣化要因となる。このため、品質を劣化させずにタンパク質を除去できることが望ましい。
【0009】
従来、非加熱でオリ(澱)形成タンパク質を除去する方法として、(1)プロテアーゼ、(2)限外ろ過膜、又は(3)タンパク質吸着剤(タンパク質除去剤)を用いる方法等が提案されている。しかし、それらの方法は、下記のような問題点がある。
【0010】
(1)プロテアーゼを用いる方法では、処理に時間がかかる上に、タンパク質であるプロテアーゼを除去する工程が別途必要となる。
【0011】
(2)限外ろ過膜を用いる方法は、分子の大きさにより分離するものである。
【0012】
この方法では、a)時間経過とともに、ろ過膜が目詰まりしてろ過速度が低下する、b)タンパク質以外の低分子成分まで除去することがあって、清酒の品質を変化させてしまう。さらに、ろ過膜の設定排除分子量以上のタンパク質であっても、タンパク質の形状によってはろ過膜を素通りしてしまい、十分なタンパク質除去ができない。
【0013】
(3)タンパク質吸着剤としては、シリカ、活性炭、粘土系セラミックスなどの無機多孔体がよく用いられている(特許文献1〜3)。
【0014】
これらの無機多孔体の場合、その細孔内に入るサイズのタンパク質類は吸着されるが、それより大きいタンパク質類は吸着除去できず、残存する。また分子間力に基づいた吸着原理(分子間力による物理的吸着)のため、タンパク質のような巨大分子の場合、吸着力が弱い。
【0015】
このため、静電気による強い吸着力が期待できるヒドロキシアパタイト(HA:水酸化リン酸カルシウム)類をタンパク質除去剤の原料として使用することが考えられる。
【0016】
しかし、HA類を、清酒等の醸造酒中のタンパク質除去に積極的に用いた例は寡聞にして知らない。
【0017】
HA類は、中性付近のリン酸緩衝液中における特異的なタンパク質吸着特性が特徴であり、溶液pHが中性からはずれており且つ広範な分子量に亘る各種タンパク質を含む清酒のタンパク質除去には不適であるというのが、当業者常識であったためと推定される。
【0018】
即ち、HA類は、主として、液体クロマトグラフィーの固定相として用いる等して、タンパク質の分離精製の分野で主として用いられてきたものである(特許文献4〜7)。
【0019】
なお、特許文献4の段落0008には、下記の如く記載されている。
【0020】
「ハイドロアパタイトによる蛋白質類の分離機構は、・・・、イオンの電荷による吸着であるため、特定の蛋白質類に対し強度の吸着分離特性を有する。また、表面の吸着サイトの立体構造による選択性があるため、蛋白質類の表面の官能基の差異に対し敏感であり、蛋白質類の種類による吸着分離特性が良好となるなどの特性が期待される。」
【0021】
また、特許文献5〜7に記載されたHA類は、焼結体として使用することを予定している。焼結体として、強度が増大するとともに、特定の結晶粒が生長して特定タンパク質除去能が増大することが期待できるためである。
【特許文献1】特開2000−106863号公報(「オリ下げ方法」;特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開平9−25114号公報(「濾過剤用シリカゲル」:特許請求の範囲等)
【特許文献3】特開平5−97421号公報(「ビール安定化処理用シリカゲルの製造法」;特許請求の範囲等)
【特許文献4】特開平9−169794号公報(「蛋白質類の分離方法」;特許請求の範囲等)
【特許文献5】特開平8−333387号公報(「タンパク質分離精製法」;特許請求の範囲等)
【特許文献6】特開2003−126248号公報(「血液浄化用吸着剤及びその製造法」;特許請求の範囲等)
【特許文献7】特開2005−313150公報(「リン酸カルシウム系吸着剤及びその製造法」;特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明は、清酒等の醸造酒のオリや白濁の原因となるタンパク質や品質劣化に関与する酵素タンパク質を迅速、高効率に吸着除去することができる新規な醸造酒用タンパク質除去剤の製造方法及び醸造酒用タンパク質除去剤を提供し、さらに、当該タンパク質除去剤を用いて、火入れを含む従来法で処理されたものと同等以上の品質の醸造酒(清酒等)を製造することを目的(課題)とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記課題を解決するため、要求されるべきタンパク質除去剤の特徴として、吸着剤が人に対して安全であること、安価であること、さらには、醸造酒の品質を劣化させない等があげられる。
【0024】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意開発に努力をする過程で、Ca源とリン酸源(以下「P源」という。)とを反応させて得られるヒドロキシアパタイト(HA)類からなる又は該HA類を含むものに、清酒等の醸造酒に対して、火入れ不要となる乃至火入れ回数を低減できるレベルのタンパク質除去能を示す特異性(特性)を有するものがあることを知見して、本発明の醸造酒用タンパク質除去剤に想到した。
【0025】
上記火入れ不要となるレベルの優れたタンパク質除去能とは、例えば、原酒(例えば清酒)に5質量%添加して12h×室温×攪拌接触させた後の醸造酒中の相対タンパク質除去率(原酒比:Bradford法によるタンパク質定量に基づく)において、70%以上(望ましくは75%以上)の特性を示すもののことである。
【0026】
タンパク質除去能に優れる理由は、XRDによるピーク性状がブロード、すなわち結晶化度が低いため、特定のタンパク質ばかりでなく分子量の異なる多様なタンパク質が吸着されるためと推定される。
【0027】
上記特性は、HA類が、カルシウム欠損ヒドロキシアパタイト(CDHA:calcium-deficient hydroxyapatite)Ca10-x(HPO4)x(PO4)6-x(OH)2-x(H2O)(但し、x>0)を含有するものの中に多く見られる。
【0028】
さらに、上記特性に加えて、酸度低下が小さい、即ち、原酒に5質量%添加して12h×室温×攪拌接触させた後の酸度低下量が0.5%未満を示す特性を有するものもあることも知見した。
【0029】
そして、上記各特性乃至HA類組成の全てを有するタンパク質除去剤の場合は、例えば、Ca源と、炭酸アルカリ塩(以下「C源」という。)を添加したP源とからなる反応原料を、25〜60℃(望ましくは30〜50℃)の範囲の設定温度で熟成させることにより、HA類の調製を行なうことができる。
【0030】
上記HA類の調製に際して、前記Ca源に対するリン酸源の添加、及び、前記炭酸アルカリ塩の添加をそれぞれ、一回的又は間欠的に行なうことが好ましい。
【0031】
上記HA類の調製に際して、Ca源/P源(mol比)=10/2.5〜10/12(さらには10/5〜10/8)としたときにおいて、Ca源/C源(mol比)=10/0.5〜10/9(さらには10/1.5〜10/6)とすることが好ましい。タンパク質除去能がさらに向上する。
【0032】
上記HA類の調製に際して、前記Ca源をCaCl2、前記P源をNa2HPO4、前記C源をNaHCO3とすることが好ましい。
【0033】
また、酸度低下量が小さい特性を要求されないタンパク質除去剤の場合は、HA類の調製を、例えば、Ca源と、適宜C源を添加したP源とからなる反応原料を、熟成後pH10以上となるような量のアルカリ源を使用して、25〜65℃(望ましくは30〜50℃)の設定温度でアルカリ熟成させることにより、HA類の調製を行なうことができる。
【0034】
さらに、酸度変化量が小さい特性が要求されず、且つ、HA類がCDHAを含有しない組成(HAのみの組成)の場合は、例えば、Ca源とP源とからなる反応原料を、熟成後pH10以上となるような量のアルカリ源を使用して、35〜70℃(望ましくは40〜60℃)の温度条件でアルカリ熟成させることにより、行なえばよい。
【0035】
また、本発明の醸造酒用タンパク質除去剤の製造は、通常、反応終了後の反応液の固液分離により得られた固形物を、約80〜300℃の温度で乾燥させて調製する。乾燥温度が高すぎると、結晶粒生長や多形転移に起因して、本発明の作用「分子量の異なる各種タンパク質の除去」を安定して得難くなるおそれがある。
【0036】
そして、本発明の各醸造酒用タンパク質除去剤は、原酒に接触させて、原酒中のタンパク質の吸着除去処理を行うタンパク質除去操作を経て、品質を劣化させることなくタンパク質が除去された火入れが不要な醸造酒(清酒)を製造できる。
【発明の効果】
【0037】
HA類は、骨や歯の構成成分であり、生体親和性も高いことから安全性が高い。本発明の製法に基づいたHA類をタンパク質除去剤の原料として用いれば、醸造酒(例えば清酒)中のタンパク質を容易かつ迅速に除去できる。このとき、滓下げ剤の添加や火入れ(加熱殺菌)が不要であり、製品品質(香り、色等)を劣化させずに製造コストを低減できる。タンパク質を吸着除去した除去剤中のHA類は、高濃度の塩溶液(例えば、リン酸カリウム)と接触させることにより容易に再生できるので、環境に優しく、製品の製造コストの削減にもつながる。また、本タンパク質除去剤の製造工程において有害な薬品を用いず、焼結工程も含まないので、製造工程においても低コストで環境負荷を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明の醸造酒用タンパク質除去剤の製法について、詳細に説明する。
【0039】
以下の説明で、リン酸水素カルシウムを、モネタイト(Monetite)(CaHPO4)、ブラッシュ石(Brushite)(CaHPO4・H2O)と称することがある。
【0040】
また、ヒドロキシアパタイト類とは、ヒドロキシアパタイト(hydroxyapatite)(HA)に加えて、下記一般式で示されるCa欠損HA(CDHA:calcium-deficient hydroxyapatite)を含むものである。
【0041】
Ca10−x(HPO4)x(PO4)6−x(OH)2−x(H2O)
(但し:x>0)
本発明の醸造酒用タンパク質除去剤の原料とするHA類は、Ca源と、炭酸アルカリ塩(C源)を添加したリン酸源(P源)とを、微温(25〜60℃、望ましくは30〜50℃)の範囲の設定温度で熟成(反応)させて、アルカリ源を使用せずに前記HA類を調製する(生成させる)ことが、最も望ましい。
【0042】
本発明の製法で調製したHA類は、xが異なる各種のものが含まれると考えられる。
【0043】
上記HA類の調製は、通常、湿式法による。湿式法を用いれば、簡便かつ安価に製造でき、スケールアップも容易である。
【0044】
上記Ca源としては、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム、塩化カルシウム(CaCl2)など水に溶解性を有するカルシウム塩であれば特に限定されない。これらの内で、CaCl2が好ましい。また、湿式法で行なう場合の水溶液中のカルシウム塩の濃度は、0.1〜1 mol/Lであることが好ましい。
【0045】
上記P源(リン酸源)としては、リン酸及びリン酸塩を使用できる。リン酸塩としては、リン酸二アンモニウム、リン酸一アンモニウム、リン酸二ナトリウム、リン酸一ナトリウムなど、水に溶解性を有するものを好適に使用でき、特に限定されない。
【0046】
これらの内で、リン酸一・二ナトリウム、特にリン酸二ナトリウムが好ましい。また、湿式法で行なう場合の水溶液中のリン酸源の濃度は、前記Ca源に対して、モル比でCa源/P源=10/2.5〜10/12、更には、10/5〜10/8となる量とすることが好ましい。
【0047】
そして、Ca源に対するP源の添加は、一回的乃至間欠的に行なうことが望ましい。一気に添加することにより、結晶が十分生長しないために、多様な結晶形態を持つ微結晶が得やすい。
【0048】
上記C源(炭酸アルカリ塩)としては、炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウムカリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなど、水に溶解性を有するものであれば特に限定されない。これらの内で、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等の炭酸アルカリ塩が好ましい。この炭酸アルカリ塩の添加量は、前記Ca源に対して、Ca/C(mol比)≒10/0.5〜10/9、更には、10/1.5〜10/6となる量とすることが好ましい。
【0049】
添加剤である炭酸アルカリ塩を添加しても、調製後(熟成終了後、反応終了後)のpHは中性以下、通常、微酸性(pH7未満pH4以上)となる。適宜、NaOH等のアルカリ源を二次反応の添加剤として少量添加することもできるが、その場合も、調製後pHが塩基性側へ振れないようにすることが望ましい。
【0050】
塩基性側で熟成させたものは、タンパク質吸着性能が劣ったり、醸造酒の酸度を低下させる場合がある。
【0051】
Ca源にC源を混合したP源を添加後、攪拌を継続して熟成させることにより、炭酸を発泡させてその揮散を促進させるとともに反応を終了させる。この熟成時間は、数時間〜30時間とする。反応終了(熟成)後の反応液(スラリー)は、遠心分離やろ過などにより固液分離し、精製水で十分洗浄した後、乾燥粉砕して粉末にしたり、造粒したりして本発明の醸造酒用タンパク質除去剤とする。
【0052】
造粒方法は、特に限定されず、例えば、転動造粒、攪拌造粒、噴霧造粒、破砕造粒等などを好適に用いることができる。
【0053】
なお、HA類の調製時や吸着剤の造粒時に、シリカゲルや活性炭を添加して、添着タイプやハイブリッドタイプのタンパク質除去剤とすることもできる。
【0054】
上記乾燥温度は、約80〜300℃、望ましくは約90〜200℃、更に望ましくは100℃前後の範囲とする。温度が低すぎては乾燥時間が長くなって生産性の見地から望ましくない。また、温度が高すぎると、タンパク質除去剤中のHA類の結晶粒の生長や結晶構造の変化が発生して、多様なタンパク質を除去する性能を得難くなるおそれがあるとともに、省エネルギーの見地から望ましくない。
【0055】
このようにして製造したHA類からなる又はHA類を含むタンパク質除去剤は、バッチ式またはカラム式で、醸造酒に接触させてタンパク質の除去を行なう。
【0056】
即ち、タンパク質除去剤を醸造酒に接触させて、該醸造酒中のタンパク質の吸着除去処理を行うタンパク質除去操作を経て、バッチ処理の場合は、更に固液分離操作を経て醸造酒を製造する。
【0057】
ここで、醸造酒(被処理液)としては、非加熱醸造酒(原酒)を用いるが、火入れによるタンパク質の除去が不十分な加熱済み醸造酒に対しても本発明のタンパク質除去剤を適用することによって醸造酒の品質向上を図ることができる。この場合、火入れ温度を下げたり、火入れ回数を低減できる。
【0058】
バッチ式の場合、処理条件は、例えば、添加濃度約0.05〜10質量%(望ましくは1〜7質量%)、処理(攪拌)時間0.5〜24時間(望ましくは1〜5時間)とする。
【0059】
カラム式の場合、処理条件は、例えば、カラム(内径:15mm、長さ:289mm)に吸着剤(HA類)41.8gを充填した場合、流速約0.5〜1.0mL/minとする。
【0060】
使用後のタンパク質除去剤中のHA類は、高濃度の塩水溶液処理により除去剤からタンパク質を脱離させて再生させることができるので、タンパク質除去剤は繰り返し使用することができる。高濃度の塩水溶液とは、例えば、1Mリン酸カリウム水溶液を挙げることができる。
【0061】
また、脱離させたタンパク質は、精製することにより、機能性タンパク質、ペプチド材料等の用途への展開が期待できる。
【実施例】
【0062】
以下、本発明の効果を確認するために、比較例とともに行った実施例について説明する。
【0063】
A.製造例
様々な調製法(方法1〜5)により11種類のHA類(但し、CAP−3、10はリン酸水素カルシウム)を調製した。表1に調製条件の概略を示す。なお、CAP−11が、本発明の典型例である。各原料の混合比(mol比)は、Ca源/P源=10/6を基準とした。下記方法1〜3で使用した実験装置の概略図を図1に示す。また、方法4、5の攪拌も、マグネティックスターラにより行なった。
【0064】
【表1】
【0065】
<方法1>
1) CAP-1
恒温槽温度50℃に設定下、1M Ca(NO3)2水溶液 0.3Lを丸底フラスコに入れて溶液を攪拌しながら、0.3M(NH4)2HPO4水溶液 0.6Lを徐々に滴下(0.9L/min)後、60分攪拌した。続いて、丸底フラスコ内の溶液を攪拌しながら、2M NH4OH 水溶液300mLを徐々に滴下(0.18L/min)後、さらに24時間撹拌熟成を継続して調製。
【0066】
2) CAP-2
上記1)において、恒温槽設定温度を「95℃」に変更し、「2M NH4OH水溶液」を「5M NH4OH水溶液」に変更した以外は、同様にして調製。
【0067】
<方法2>
1) CAP-3
恒温槽温度50℃の設定下、1M CaCl2水溶液 0.3Lを丸底フラスコに入れて溶液を攪拌しながら、0.3M Na2HPO4水溶液 0.6Lを徐々に滴下(0.9L/min)後、30分攪拌熟成した。続いて、丸底フラスコ内の溶液を攪拌しながら、1M NaOH水溶液 27mLを徐々に滴下(0.18L/min)後、24時間撹拌熟成を継続して調製。
【0068】
2) CAP-4
上記1)において、後段の「1M NaOH水溶液 27mL」を「2M NaOH水溶液 300mL」に変更した以外は、同様にして調製。
【0069】
3) CAP-5
上記2)において、恒温槽設定温度を「95℃」に変更した以外は、同様にして調製。
【0070】
<方法3>
尿素均一沈殿法にて調製。
【0071】
1)CAP-6
恒温槽温度95℃に設定下、「1M Ca(NO3)2 +1.5M尿素」混合水溶液 0.3Lと、0.3M Na2HPO4水溶液(HNO3にてpH3に調整したもの;試薬混合時の沈殿を防ぐため。) 0.6Lとを、一回的に丸底フラスコに入れて24時間撹拌熟成を継続して調製。
【0072】
2) CAP-7
上記1)において、「1M Ca(NO3)2」を「1M CaCl2」に、「HNO3にてpH3に調製」を「HClにてpH3に調整」に変更した以外は、同様にして調製。
【0073】
<方法4>
アルカリ無添加で調製する方法である。
【0074】
1) CAP-10
恒温槽温度35℃に設定下、1M CaCl2水溶液0.3Lを三角フラスコ(2L)に入れて、攪拌しながら0.3M Na2HPO4水溶液 0.6Lを35℃にて一気に注いだ後、24時間撹拌熟成を継続して調製。
【0075】
(注:CAP-3と似ているが、CaとPを一気に混ぜること、温度が低く、アルカリ無添加の点が違う。混ぜた時点、やや微酸性。)
【0076】
2) CAP-11
上記1)において、「0.3M Na2HPO4水溶液 0.6L」を「0.3M Na2HPO4 0.6Lと0.4M NaHCO3水溶液0.3Lとの混合液」と変更した以外は、同様にして調製。
【0077】
(注:CAP-10に対し、炭酸塩有り。)
【0078】
<方法5>
前記<方法4>において、アルカリを添加する方法である。
【0079】
1)CAP-1
恒温槽温度35℃に設定下、1M CaCl2水溶液 0.3L を丸底フラスコ(3L)に入れて、攪拌しながら0.3M NaH2PO4水溶液 0.6Lを一気に注いだ。続いて、2M NaOH水溶液 300mLを徐々に滴下(0.18L/min)後、24時間撹拌熟成を継続して調製。
【0080】
2)CAP-13
上記1)の前段操作において、「0.3M NaH2PO4水溶液0.6L」を「0.3M NaH2PO40.6Lと0.4M NaHCO3 0.3Lとの混合液」に変更する以外は、同様にして調製。
【0081】
(注:CAP-12に対し、炭酸塩有り。)
【0082】
上記でそれぞれ調製したHA類は、いずれも、終了後1〜2Lの水に懸濁してはNo.2濾紙にて吸引ろ過を3回以上繰り返し、pH中性も確認して100℃前後にて一晩から一日乾燥し、乾燥後、乳鉢にて粉砕して、吸着剤(タンパク質除去剤)として、デシケータにて常温保存した。
B.特性測定結果
上記で調製したHA類及び市販のHA類(以下「試料」という。)について、下記各特性分析を行なった。なお、市販HA類は、カラムクロマトグラフ用のナカライ製ヒドロキシアパタイト(HAp−N)と和光純薬製ヒドロキシアパタイト(HAp−W)を用いた。
【0083】
(1)走査電子顕微鏡(SEM)による観察
各試料について走査電子顕微鏡(SEM)で観察した。その結果を表2に収率とともに示し、更に、いくつかのSEM写真を図2に示す。
【0084】
製法の違いにより、不定形(CAP−5、CAP−11、HAp−W)、針状(CAP−6)、板状(CAP−13、HAp−N)のように様々な大きさや形状のものが得られることが確認できた。
【0085】
【表2】
(2)粉末X線回折装置(XRD)による測定
各試料についてXRDを用いて測定(解析)を行なった。XRD測定から求めた同定結果及びCa/P組成比を表3に示すとともに、いくつかのXRD測定グラフ図を図3に示す。
【0086】
それらの結果から、CAP−3、CAP−10を除く何れの試料もHA相を含んでいることが分かった。そして、HA相を含む試料のうち、ピーク形状が非常にシャープなもの、すなわち結晶性がよいものと、ピーク形状がブロードなもの、すなわち結晶性のあまりよくないものがあることが分かった。
【0087】
即ち、本発明の製造方法で調製したCAP−4、CAP−11、12、13及びHAp−N(市販品)、さらには、CAP−5は、結晶化度が他の試料であるCAP−1、2、6、7及びHAp−Wに比して低いことが確認できた。
【0088】
また、発明例である結晶粒の構成化合物は、CDHA(カルシウム欠損ヒドロキシアパタイト)が主体であることが確認できた。
【0089】
【表3】
C.適用例
<清酒タンパク質の除去試験>
(1)各種HA類のタンパク質除去性能の検討
図4に示した方法によりHA類のタンパク質除去性能を評価した。すなわち、各試料(HA類)からなるタンパク質除去剤を、清酒原酒に対して5質量%添加して、一晩攪拌接触させた(12時間処理)。以下の実験における攪拌は、全てマグネティックスターラにより行なった。
【0090】
処理後の試料をろ紙(アドバンテック、No.5C)にてろ過し、得られたろ液を非吸着画分として下記SDS-PAGE解析に供した。更に、ろ液のタンパク質濃度を下記Bradford法で定量した。
【0091】
a)SDS-PAGE解析によるタンパク質検出
上記ろ液を、透析膜(分画分子量3500Da)を使用して蒸留水に対して一晩5℃で透析した。透析内液を凍結乾燥し、これに所定量の蒸留水を加えて溶解し、50倍濃縮液とした。濃縮液にSDS−PAGE用サンプル緩衝液を加え、沸騰水中で10分間加熱したものをSDS−PAGEに供した。SDS−PAGEは、4〜12%濃度勾配ゲルを使用し、20mA、120分間泳動した。CBB-R250で30分染色後、酢酸/メタノール溶液で2時間脱色して、タンパク質を検出した。結果を図5に示す。
【0092】
処理前の原酒中には28kDa、49kDa付近、及び50kDa以上の広い分子量範囲のタンパク質が含まれている。この原酒を様々なタンパク質除去剤に接触させたところ、各タンパク質除去剤により吸着除去されるタンパク質が異なった。CAP−4及びCAP−11、12、13を除く大部分のタンパク質除去剤は50kDa以上の高分子領域のタンパク質を除去できないが、CAP−4及びCAP−11、12、13は低分子量から高分子量まで広い範囲に亘って原酒中のタンパク質をほぼ完全に除去できた。
【0093】
b)Bradford法(プロテインアッセイ法)によるタンパク質濃度測定
スタンダードとサンプル(サンプル量100μL)を分注し、5倍希釈の発色液(5mL)をそれぞれに添加して、攪拌後、室温で5分以上保持して、1時間以内に測定した。なお、発色液にはBIORAD社製のものを使用し、スタンダードには、BSA(牛血清アルブミン)を使用して、測定波長は、595nmとした。
【0094】
その結果を図6に示す。タンパク質濃度とともに、原酒を100としたときの相対タンパク質濃度を図内に表示した。その結果は、図5のSDS-PAGE解析の結果と良く一致していることが確認できた。すなわち、CAP−4及びCAP−11、12、13さらには市販のHAp−Nは、原酒に5質量%添加して12h×室温×攪拌接触させた後の醸造酒中の相対タンパク質除去率(原酒比:Bradford法によるタンパク質定量に基づく)において、70%乃至75%以上を示した。
【0095】
この結果、本発明の各タンパク質除去剤(HA類)(CAP−4及びCAP−11、12、13)は、火入れ不要乃至火入れ回数を低減できるレベルであることが確認できた。
【0096】
(2) 試料の成分分析
表4に各試料の分析値を示す。全窒素、ホルモール窒素、アミノ酸度、アルコール、吸光度(OD)については何れのHA系のタンパク質除去剤で処理した場合でも原酒との差はあまり認められなかったが、酸度に関しては異なるものも見られた。
【0097】
SDS-PAGE解析及びBradford法の結果からタンパク質除去性能の良好であったCAP−4とCAP−11、12、13のうち、CAP−4、12、13では酸度が大きく低下したが、CAP−11では原酒との差はほとんど無かった。CAP−11で処理した清酒を官能検査したところ、7人のパネラーのうち3人が原酒との差が認められないとし、残りは原酒に比べてすっきりした味であるとの評価が得られた。
【0098】
【表4】
(3)タンパク質除去剤添加量の検討
CAP−11を原酒に対して、10、5、1又は0.1質量%添加して、1時間攪拌接触させた後、遠心分離して得られた上澄み液を非吸着画分とした(図4参照)。該非吸着画分について、上記(1)と同様の方法でSDS-PAGE解析およびBradford法によるタンパク質定量を行った。
【0099】
Bradford法による結果を図7に示す。なお、図内の各棒表示の頭に付した数字は、原酒中のタンパク質濃度を100としたときの相対タンパク質濃度である(図8〜12において同じ)。
【0100】
CAP−11の添加量が5%であれば、タンパク質を90%以上除去でき十分であることが確認できた。
【0101】
SDS-PAGE解析の結果でも、CAP−11の添加量が5%で殆どの分子量に亘るタンパク質が上澄から除去されていた。
【0102】
(4)タンパク質除去剤接触時間の検討
CAP−11を原酒に対して、5質量%添加して、1時間、2時間、4時間及び12時間、攪拌接触させた後、遠心分離し得た上澄(非吸着画分)について、上記(1)と同様の方法でSDS-PAGE解析およびBradford法によるタンパク質定量を行った。
【0103】
Bradford法による結果を図8に示す。CAP−11の添加量が5%であれば、接触時間が1時間でも90%以上除去でき、接触時間4時間では95%以上除去できたことから、長時間(10時間以上)接触させることが不要であることが確認できた。即ち、接触時間は、生産性に応じて、0.5〜5hで十分であることが確認できた。
【0104】
なお、SDS-PAGE解析の結果でも、1時間以上で、殆どの分子量に亘るタンパク質が除去されていた。
【0105】
(5)タンパク質除去剤製造時のCa源/P源比の検討
CAP−11を基本として、Ca源/P源比(mol)=10/3〜10/10の範囲で変えて調製した実施例のタンパク質除去剤(HA類)を原酒に対して10質量%添加して、12時間接触させて試料を調製した。各試料について、上記(1)と同様の方法でSDS−PAGE解析およびBradford法によるタンパク質定量を行った。
【0106】
Bradford法による結果を図9に示す。なお、棒表示の頭部の()内数字は、上澄pHである(図10において同じ。)。
【0107】
実験室下、70℃で1時間火入れした従来法ではタンパク質が約50%残存した。なお、従来法は、原酒に対して、出願人の一人が従来行なっている滓下げろ過、火入れ(加熱殺菌)条件にて実験室で行なったものであるが、現場で従来法を行なった場合は、設定時間以上の長時間に亘って、原酒が火入れ温度に保持されるため、タンパク質除去率は、約90%以上となる。
【0108】
一方、Ca源/P源比が10/6では90%近くタンパク質除去ができた。Ca源/P源比が10/3又は10/10でも80%以上清酒タンパク質を除去でき、本発明の効果を奏することが確認できた。すなわち、本発明のタンパク質除去剤は、火入れ不要なレベル乃至火入れ回数を低減できるレベルのタンパク質除去能を有することが確認できた。なお、Ca源/P源比が高い10/3では、処理済み清酒のpHが上昇する。このため、Ca源/P源=10/5〜10/8が望ましい。
【0109】
SDS-PAGE解析の結果でも、全てのCa源/P源比の範囲内で、殆どの分子量に亘るタンパク質が上澄から除去されていた。
【0110】
また、同時に各実施例について、XRD測定により求めた同定結果及びCa/P組成比を、調製後溶液pHとともに表5に示す。
【0111】
いずれも、CDHAを含有していることが分かる。また、調製後pHも弱酸性(pH4〜6)であることが分かる。
【0112】
【表5】
【0113】
(6)タンパク質除去剤製造時のCa源/C源比の検討
CAP−11を基本として、Ca源/C源比(mol)=10/0〜10/8の範囲で変えて調製した実施例のタンパク質除去剤(HA類)を原酒に対して10質量%添加して、12時間攪拌接触させ、上記と同様にて遠心分離後の非吸着画分について、SDS−PAGE解析およびBradford法によるタンパク質定量を行った。
【0114】
結果を図10に示す。従来法(実験室下)では、タンパク質が約50%残存するのに対し、Ca源/C源比=10/1.5〜10/6の範囲では約90%の清酒タンパク質を除去でき、タンパク質除去率が特に高いことが確認できた。
【0115】
SDS-PAGE解析の結果でも、Ca源/C源比=10/1.5〜10/6の範囲で、殆どの分子量に亘るタンパク質が上澄から除去されていた。
【0116】
また、同時に各実施例について、XRD測定により求めた同定結果及びCa/P組成比を、調製後溶液pHとともに表6に示す。
【0117】
いずれも、Ca源/C=10/0の場合を除いてCDHAを含有していることが分かる。また、調製後pHも、Ca源/C源=10/8を除いて弱酸性(pH4〜6)であることが分かる。
【0118】
なお、XRD及び赤外分光の測定結果から、C源比率が高いCa源/C源=10/8でも炭酸基は検出されなかった。
【0119】
【表6】
【0120】
なお、前記条件のカラムにCAP−11を充填して、流速:0.7mL/minで36min通液して、原酒400mLを処理した清酒について、非吸着画分のタンパク質濃度をBradford法で定量するとともにpH測定を行なった。その結果、非吸着画分のタンパク質濃度(相対値)が10.1%、pH4.99とバッチ処理と同等の良質な非熱処理清酒が得られた。
【0121】
<バッチ式タンパク質除去操作における除去剤再生試験>
原酒100mLにCAP−11を10g添加して、CAP−11が沈殿しないように1時間攪拌を行って、タンパク質除去操作を行なった。
【0122】
CAP−11を固液分離して調製した上澄について、SDS-PAGE分析を行なうとともに、タンパク質濃度をBradford法により定量した。
【0123】
そして、固液分離後のCAP−11:10gに対して1Mリン酸カリウム、蒸留水100mLの順で添加・懸濁・遠心分離をする操作を2回繰り返して、再生処理を行った。
【0124】
こうして調製した再生CAP−11を用いて、上記と同様、タンパク質除去操作を行なった。
【0125】
再生CAP−11を固液分離して調製した上澄について、SDS-PAGE分析を行なうとともに、タンパク質濃度をBradford法により定量した。
【0126】
これらのタンパク質除去剤再生/再生材によるタンパク質除去操作を、4回繰り返したが、図11に示す如く、4回再生使用しても、タンパク質除去能は低下しなかった。
【0127】
SDS-PAGE解析の結果でも、再生回数が4回まで、殆どの分子量に亘るタンパク質が上澄から除去されていた。
【0128】
<カラム式タンパク質除去操作における除去剤再生試験>
前記条件でカラム式タンパク質除去操作に使用したCAP−11をカラムに充填したまま、1Mリン酸カリウムを、流速:1.0mL/minで60min通液して再生した。清酒を再生CAP−11充填カラムに通液して得られた溶出液について、SDS-PAGE分析を行なうとともに、タンパク質濃度をBradford法により定量した。
【0129】
これらのカラムの再生及び再生カラムを用いたタンパク質除去操作を4回繰り返したが、図12に示す如く、再生3度使用でも、タンパク質除去能は低下しなかった。
【0130】
SDS-PAGE解析の結果でも、再生回数3度まで、殆どの分子量に亘るタンパク質が上澄から除去されていた。
【0131】
以上の如く、本発明のタンパク質除去剤は、再生処理が容易であるとともに、再生性も良好であることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】実験例(実施例)において各種HA類を調製するのに用いた実験装置の概略図である。
【図2】実験例で調製したHA類及び市販HA類のタンパク質除去剤のいくつかのSEM写真である。
【図3】同じくHA類のいくつかについて粉末XRD装置を用いて測定した結果を示すグラフ図である。
【図4】SDS−PAGE解析及びタンパク質濃度測定(Bradford法)に供する試料(非吸着画分)の調製方法を示す流れ図である。
【図5】実験例で調製したHA類及び市販HA類をタンパク質除去剤として用いて原酒を12時間処理して製造した清酒の非吸着画分のSDS−PAGE像である。
【図6】同じく各HA類をタンパク質除去剤として用いて原酒を12時間処理して製造した清酒の非吸着画分のタンパク質濃度結果を示す棒グラフである。
【図7】実施例(CAP−11)であるタンパク質除去剤を各所定濃度となるように原酒に添加して1時間処理後の非吸着画分のBradford法から得たタンパク質濃度結果を示す棒グラフである。
【図8】実施例(CAP−11)であるタンパク質除去剤を5%濃度となるように原酒に添加して各所定時間処理後の非吸着画分のBradford法から得たタンパク質濃度結果を示す棒グラフである。
【図9】CAP−11(Ca源/P源=10/6)を基準としてCa源/P源のmol比を上下に振って調製した各実施例のタンパク質除去剤を10%濃度となるように原酒に添加して12時間処理後の非吸着画分のBradford法から得たタンパク質濃度の結果を示す棒グラフである。
【図10】CAP−11(Ca源/C源=10/4)を基準としてCa源/C源のmol比を上下に振って調製した各実施例のタンパク質除去剤を10%濃度となるように原酒に添加して12時間処理後の非吸着画分のBradford法から得たタンパク質濃度の結果の棒グラフである。
【図11】バッチ式タンパク質除去操作に使用したCAP−11の再生材のタンパク質除去能の確認試験結果であるBradford法から得たタンパク質濃度結果を示す棒グラフである。
【図12】カラム式タンパク質除去操作に使用したCAP−11の再生材のタンパク質除去能の確認試験結果であるBradford法から得たタンパク質濃度結果を示す棒グラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
醸造酒中のタンパク質の吸着除去処理に使用されるタンパク質除去剤において、Ca源とリン酸源(以下「P源」という。)とを反応させて得られるヒドロキシアパタイト(HA)類からなる又は該HA類を含み、清酒等の醸造酒に対して火入れ不要となる乃至火入れ回数を低減できるレベルのタンパク質除去能を有することを特徴とする醸造酒用タンパク質除去剤。
【請求項2】
原酒に5質量%添加して12h×室温×攪拌接触させた後の醸造酒中の相対タンパク質除去率(原酒比:Bradford法によるタンパク質定量に基づく)において、70%以上を示すものであることを特徴とする請求項1記載の醸造酒用タンパク質除去剤。
【請求項3】
前記HA類が、カルシウム欠損ヒドロキシアパタイト(CDHA:calcium-deficienct hydroxyapatite、Ca10-x(HPO4)x(PO4)6-x(OH)2-x(H2O))(但し、x>0)を含有することを特徴とする請求項1又は2記載の醸造酒用タンパク質除去剤。
【請求項4】
原酒に5質量%添加して12h×室温×攪拌接触させた後の酸度低下量が酸度で0.5%未満を示すものであることを特徴とする請求項1、2又は3記載の醸造酒用タンパク質除去剤。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか一記載の醸造酒用タンパク質除去剤を製造する方法であって、
Ca源と、炭酸アルカリ塩(以下「C源」という。)を添加したP源とからなる反応原料を、25〜60℃の範囲の設定温度で熟成させることにより、前記HA類の調製を行なうことを特徴とする醸造酒用タンパク質除去剤の製造方法。
【請求項6】
前記HA類の調製に際して、Ca源/P源(mol比)=10/2.5〜10/12としたときにおいて、Ca源/C源(mol比)=10/0.5〜10/9とすることを特徴とする請求項5記載の醸造酒用タンパク質除去剤の製造方法。
【請求項7】
前記HA類の調製に際して、前記Ca源をCaCl2、前記P源をNa2HPO4、前記C源をNaHCO3とすることを特徴とする請求項5又は6記載の醸造酒用タンパク質除去剤の製造方法。
【請求項8】
請求項1、2又は3記載の醸造酒用タンパク質除去剤を製造する方法であって、
Ca源と、適宜、C源を添加したP源とからなる反応原料を、熟成後pH10以上となるような量のアルカリ源を使用して、25〜60℃の設定温度でアルカリ熟成させることにより、前記HA類の調製を行なうことを特徴とする醸造酒用タンパク質除去剤の製造方法。
【請求項9】
前記HA類の調製に際して、前記Ca源をCaCl2、前記P源をNaH2PO4、前記C源をNaHCO3とし、前記アルカリ源をNaOH又はKOHとすることを特徴とする請求項8記載の醸造酒用タンパク質除去剤の製造方法。
【請求項10】
請求項1又は2記載のタンパク質除去剤を製造する方法であって、
Ca源とP源とからなる反応原料を、熟成後pH10以上となるような量のアルカリ源を使用して、35〜70℃の温度条件でアルカリ熟成させることにより、前記HA類の調製を行なうことを特徴とする醸造酒用タンパク質除去剤の製造方法。
【請求項11】
前記HA類の調製に際して、前記Ca源をCaCl2、前記P源をNa2HPO4、前記アルカリ源をNaOH又はKOHとすることを特徴とする請求項10記載の醸造酒用タンパク質除去剤の製造方法。
【請求項12】
前記HA類の調製に際して、反応終了後の反応液の固液分離により得られた固形物の乾燥を、80〜300℃で行うことを特徴とする請求項5〜11のいずれか一記載の醸造酒用タンパク質除去剤の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜4のいずれか一記載のタンパク質除去剤を原酒に接触させて、該原酒中のタンパク質の吸着除去処理を行うタンパク質除去操作を経て醸造酒を製造することを特徴とする醸造酒の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜4のいずれか一記載のタンパク質除去剤を原酒に接触させて、該原酒中のタンパク質の吸着除去処理を行うタンパク質除去操作を経て清酒を製造することを特徴とする清酒の製造方法。
【請求項1】
醸造酒中のタンパク質の吸着除去処理に使用されるタンパク質除去剤において、Ca源とリン酸源(以下「P源」という。)とを反応させて得られるヒドロキシアパタイト(HA)類からなる又は該HA類を含み、清酒等の醸造酒に対して火入れ不要となる乃至火入れ回数を低減できるレベルのタンパク質除去能を有することを特徴とする醸造酒用タンパク質除去剤。
【請求項2】
原酒に5質量%添加して12h×室温×攪拌接触させた後の醸造酒中の相対タンパク質除去率(原酒比:Bradford法によるタンパク質定量に基づく)において、70%以上を示すものであることを特徴とする請求項1記載の醸造酒用タンパク質除去剤。
【請求項3】
前記HA類が、カルシウム欠損ヒドロキシアパタイト(CDHA:calcium-deficienct hydroxyapatite、Ca10-x(HPO4)x(PO4)6-x(OH)2-x(H2O))(但し、x>0)を含有することを特徴とする請求項1又は2記載の醸造酒用タンパク質除去剤。
【請求項4】
原酒に5質量%添加して12h×室温×攪拌接触させた後の酸度低下量が酸度で0.5%未満を示すものであることを特徴とする請求項1、2又は3記載の醸造酒用タンパク質除去剤。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか一記載の醸造酒用タンパク質除去剤を製造する方法であって、
Ca源と、炭酸アルカリ塩(以下「C源」という。)を添加したP源とからなる反応原料を、25〜60℃の範囲の設定温度で熟成させることにより、前記HA類の調製を行なうことを特徴とする醸造酒用タンパク質除去剤の製造方法。
【請求項6】
前記HA類の調製に際して、Ca源/P源(mol比)=10/2.5〜10/12としたときにおいて、Ca源/C源(mol比)=10/0.5〜10/9とすることを特徴とする請求項5記載の醸造酒用タンパク質除去剤の製造方法。
【請求項7】
前記HA類の調製に際して、前記Ca源をCaCl2、前記P源をNa2HPO4、前記C源をNaHCO3とすることを特徴とする請求項5又は6記載の醸造酒用タンパク質除去剤の製造方法。
【請求項8】
請求項1、2又は3記載の醸造酒用タンパク質除去剤を製造する方法であって、
Ca源と、適宜、C源を添加したP源とからなる反応原料を、熟成後pH10以上となるような量のアルカリ源を使用して、25〜60℃の設定温度でアルカリ熟成させることにより、前記HA類の調製を行なうことを特徴とする醸造酒用タンパク質除去剤の製造方法。
【請求項9】
前記HA類の調製に際して、前記Ca源をCaCl2、前記P源をNaH2PO4、前記C源をNaHCO3とし、前記アルカリ源をNaOH又はKOHとすることを特徴とする請求項8記載の醸造酒用タンパク質除去剤の製造方法。
【請求項10】
請求項1又は2記載のタンパク質除去剤を製造する方法であって、
Ca源とP源とからなる反応原料を、熟成後pH10以上となるような量のアルカリ源を使用して、35〜70℃の温度条件でアルカリ熟成させることにより、前記HA類の調製を行なうことを特徴とする醸造酒用タンパク質除去剤の製造方法。
【請求項11】
前記HA類の調製に際して、前記Ca源をCaCl2、前記P源をNa2HPO4、前記アルカリ源をNaOH又はKOHとすることを特徴とする請求項10記載の醸造酒用タンパク質除去剤の製造方法。
【請求項12】
前記HA類の調製に際して、反応終了後の反応液の固液分離により得られた固形物の乾燥を、80〜300℃で行うことを特徴とする請求項5〜11のいずれか一記載の醸造酒用タンパク質除去剤の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜4のいずれか一記載のタンパク質除去剤を原酒に接触させて、該原酒中のタンパク質の吸着除去処理を行うタンパク質除去操作を経て醸造酒を製造することを特徴とする醸造酒の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜4のいずれか一記載のタンパク質除去剤を原酒に接触させて、該原酒中のタンパク質の吸着除去処理を行うタンパク質除去操作を経て清酒を製造することを特徴とする清酒の製造方法。
【図1】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図5】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図5】
【公開番号】特開2010−154777(P2010−154777A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−333949(P2008−333949)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18,19年度、経済産業省、地域新生コンソーシアム研究開発事業(機能性セラミックスを利用した液状食品の新規製造システムの開発)、産業強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000116622)愛知県 (99)
【出願人】(305057844)盛田株式会社 (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18,19年度、経済産業省、地域新生コンソーシアム研究開発事業(機能性セラミックスを利用した液状食品の新規製造システムの開発)、産業強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000116622)愛知県 (99)
【出願人】(305057844)盛田株式会社 (1)
【Fターム(参考)】
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