説明

醸造酢含有ドレッシング

【課題】全体として、旨味、コク、キレ等、香味のバランスに優れ、しかも香味が相応に深い醸造酢を含有するドレッシングの提供。
【解決手段】原料を酵素処理した後、アルコール発酵し、更に酢酸発酵することにより製造される醸造酢であって、原料としてコーンスターチとモルトとを、乾物換算でコーンスターチ100質量部当たりモルト5〜180質量部となる割合で用いて製造したことを特徴とする醸造酢を含有するドレッシング。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は醸造酢を含有するドレッシングに関する。より詳細には、本発明は、全体として香味のバランスに優れ、しかも香味が相応に深い醸造酢を含有するドレッシングに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、穀類、果実類、野菜類等、各種の原料の特性を活かした様々な醸造酢が製造され、使用されている。これらの醸造酢は、多くの場合、その香味や色調等に原料由来の何らかの特徴を有している。しかし近年では、際立った或は偏った特徴はないけれども、全体として、旨味、コク、キレ等、香味のバランスに優れ、しかも香味が相応に深い醸造酢が求められるようになっている。なかでも、ドレッシングに使用される醸造酢には、その傾向が強い。
【0003】
醸造酢は一般に、原料を酵素を用いて液化処理及び糖化処理した後、酵母や麹を用いてアルコール発酵し、更に酢酸菌や種酢を用いて酢酸発酵することにより製造されている(例えば、特許文献1〜4参照)。これらの醸造酢には、原料としてコーンスターチを用いたもの、原料としてモルトを用いたもの、原料として醸造アルコールを用いたもの等も知られており、いずれも何らかの形で原料由来の特徴を有するものとなっている。しかし、その反面でこれらの醸造酢には、香味のバランスに欠け、或は/また香味の深さに欠けるという問題がある。例えば、原料としてコーンスターチを用いた醸造酢は、香味にキレはあるものの、旨味やコク、更には深さに劣り、また原料としてモルトを用いた醸造酢は、香味に旨味やコク、更には深さはあるものの、キレに著しく劣り、鈍重な感じが強いのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1−257475号公報
【特許文献2】特開平10−248551号公報
【特許文献3】特開2003−310242号公報
【特許文献4】特開2008−148615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、全体として、旨味、コク、キレ等、香味のバランスに優れ、しかも香味が相応に深い醸造酢を含有するドレッシングを提供する処にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち、本発明は以下の通りである。
【0007】
[1]原料を酵素処理した後、アルコール発酵し、更に酢酸発酵することにより製造される醸造酢であって、原料としてコーンスターチとモルトとを、乾物換算でコーンスターチ100質量部当たりモルト5〜180質量部となる割合で用いて製造したことを特徴とする醸造酢を含有するドレッシング。
[2]酵素処理が液化処理及び糖化処理であって、コーンスターチを液化処理し、更にモルトを加えて糖化処理する、上記[1]記載のドレッシング。
[3]乾物換算でコーンスターチ100質量部当たりモルト10〜120質量部となる割合で用いる、上記[1]又は[2]記載のドレッシング。
[4]酵素処理液のホルモール法によるアミノ酸度が0.50〜3.00となるよう糖化処理する、上記[1]〜[3]のいずれかに記載のドレッシング。
[5]中和滴定法による酢酸換算濃度を5容量%にしたときの酢酸発酵液のホルモール法によるアミノ酸度が0.08〜0.65となるよう酢酸発酵する、上記[1]〜[4]のいずれかに記載のドレッシング。
[6]醸造酢は、中和滴定法による酢酸換算濃度を5容量%にしたとき、ホルモール法によるアミノ酸度が0.05〜0.70であり、且つ、コハク酸、乳酸及びグルコン酸の3種の有機酸濃度がそれぞれ0.01〜0.10質量%である、上記[1]〜[5]のいずれかに記載のドレッシング。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、全体として、旨味、コク、キレ等、香味のバランスに優れ、しかも香味が相応に深い醸造酢を含有するドレッシングを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
先ず、本発明のドレッシングが含有する醸造酢(以下、単に「本発明の醸造酢」と略記する場合がある)について説明する。本発明の醸造酢も、従来の一般的な醸造酢と同様、原料を酵素を用いて処理した後、酵母を用いてアルコール発酵し、更に酢酸菌や種酢を用いて酢酸発酵することにより製造される。
【0010】
本発明の醸造酢は、原料としてコーンスターチとモルトとを、乾物換算でコーンスターチ100質量部当たりモルト5〜180質量部となる割合で用いる。特に、乾物換算でコーンスターチ100質量部当たりモルト10〜120質量部となる割合で用いることが好ましい。コーンスターチとモルトとを、かかる割合の範囲内で用いることにより初めて、全体として香味のバランスに優れ、しかも香味が相応に深い所期の通りの醸造酢を得ることができる。より優れた醸造酢を得るためには、コーンスターチとモルトとを乾物換算でコーンスターチ100質量部当たりモルト25〜70質量部となる割合で用いるのが好ましい。コーンスターチやモルトは市販品を使用できるが、モルトとしては醸造用の麦芽全粒粉砕物を用いるのが好ましく、大麦の麦芽全粒粉砕物を用いるのがより好ましい。
【0011】
本発明の醸造酢の製造方法では、前記の原料を用いて、酵素処理を行なう。酵素処理は通常、液化処理及び糖化処理である。液化処理及び糖化処理に用いる酵素としては市販品を使用できる。ここで用いる酵素には、主に液化を行なうもの(例、液化作用を主作用とするαアミラーゼ等)、主に糖化を行なうもの(例、グルコアミラーゼ等)、液化と糖化を同時に行なうもの(例、液化作用および糖化作用を有するαアミラーゼ等)等、各種があるが、主に液化を行なうもの及び主に糖化を行なうものを用いることが好ましい。本発明の製造方法では、モルトは、コーンスターチを液化処理する前に加えてもよく、あるいは、コーンスターチを液化処理した後に加えてもよいが、モルトが本来的に持っている糖化酵素を活用してより優れた香味バランスの醸造酢を得るため、先ずコーンスターチを液化処理し、次にモルトを加えて糖化処理するのが好ましい。この場合、通常は、液化処理は45〜55℃で1〜3時間行なった後、更に85〜95℃で1〜5時間行ない、また糖化処理は45〜65℃で15〜25時間行なう。なかでも糖化処理は、糖化処理後のBxが18.0〜28.0質量%となるように行なうのが好ましく、糖化処理液のBxが19.0〜23.0質量%となるように行なうのがより好ましい。ここで「Bx」とは、ブリックス糖度を表し、液温20℃のとき屈折計を用いて測定した値をいう。また糖化処理は、糖化処理液のホルモール法によるアミノ酸度が0.50〜3.00となるように行なうのが好ましく、かかるアミノ酸度が0.80〜1.50となるように行なうのがより好ましい。
【0012】
コーンスターチを液化処理する場合、酵素と一緒に無機塩類を加えることが好ましい。無機塩類を加えることにより、コーンスターチや水に含まれる塩濃度が補われ、酵素の安定性が向上して酵素が十分に能力を発揮し得るようになる。無機塩類としては、例えば、食塩、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム等が挙げられ、水への溶解度が比較的高く、安価であるという観点から、特に、食塩、塩化カルシウムが好ましい。無機塩類の配合量は、コーンスターチ100質量部当たり、通常0.01〜0.30質量部であり、好ましくは0.05〜0.20質量部である。
【0013】
本発明の醸造酢の製造方法では、前記のように原料を酵素処理した後、アルコール発酵し、更に酢酸発酵して醸造酢を得る。アルコール発酵や酢酸発酵それ自体は、従来と同様の方法で行なうことができる。通常、アルコール発酵は、例えばサッカロマイセス・セレビシエを主とする酵母を用いて、10〜30℃で7〜30日間行ない、また酢酸発酵は、例えばアセトバクター・アセチを主とする酢酸菌やこれを培養した種酢を用いて、20〜35℃で3〜30日間行なう。なかでも酢酸発酵は、中和滴定法による酢酸換算濃度を5容量%にしたときの酢酸発酵液のホルモール法によるアミノ酸度が0.08〜0.65となるように行なうのが好ましく、かかるアミノ酸度が0.15〜0.40となるように行なうのがより好ましい。また酢酸発酵は、中和滴定法による酢酸換算濃度を5容量%にしたときの酢酸発酵液に含まれるコハク酸、乳酸及びグルコン酸の3種の有機酸濃度がそれぞれ0.01〜0.10質量%となるように行なうのが好ましい。
【0014】
本発明の醸造酢は、以上説明したような製造方法によって得られ、全体として、旨味、コク、キレ等、香味のバランスに優れ、しかも香味が相応に深い醸造酢である。原料としてモルトを用いずにコーンスターチのみを用いてその他は同様に製造した所謂コーン酢と、原料としてコーンスターチを用いずにモルトのみを用いてその他は同様に製造した所謂モルト酢とを単に混ぜ合わせるだけでは、本発明のような醸造酢は得られない。
【0015】
本発明の醸造酢は、中和滴定法による酢酸換算濃度を5容量%に調整したとき、ホルモール法によるアミノ酸度が通常0.05〜0.70(好ましくは0.08〜0.65)であり、且つ、高速液体クロマトグラフィーによるコハク酸、乳酸、及び酵素法によるグルコン酸の3種の有機酸濃度がそれぞれ0.01〜0.10質量%である。かかるアミノ酸度及び酢酸以外の有機酸濃度が、いずれも上記の範囲内であると、マイルドで雑味の少ない醸造酢となる。
【0016】
本発明の醸造酢は、少なくとも1種以上のその他の食酢と混合してもよい(以下、本発明の醸造酢と少なくとも1種以上のその他の食酢との混合液を「本発明のブレンド酢」と略記する場合がある)。かかるその他の食酢としては、食用に供し得るものであれば特に制限されないが、例えば、純米酢、玄米酢、コーン酢、モルト酢、ハトムギ酢、粕酢、麹酢、黒酢、野菜酢、果実酢、リンゴ酢、ブドウ酢、柿酢、デーツ酢、スピリットビネガー、合成酢、バルサミコ酢等が挙げられ、中でも本発明の醸造酢との相性の観点から、モルト酢、ブドウ酢、スピリットビネガー、純米酢、玄米酢、粕酢、リンゴ酢が好ましく、特にモルト酢、ブドウ酢、スピリットビネガーが好ましい。
【0017】
本発明の醸造酢とその他の食酢との混合割合は、所望する呈味等を考慮して適宜決定すればよいが、本発明の醸造酢及びその他の食酢の合計量に対する本発明の醸造酢の量は、通常5〜95重量%であり、好ましくは10〜90重量%であり、特に好ましくは、20〜80重量%である。かかる割合で混合することにより、酸味がまろやかで、後味の好ましいブレンド酢となる。
【0018】
その他の食酢がスピリットビネガーを含む場合、本発明の醸造酢及びその他の食酢の合計量に対する本発明の醸造酢の量は、通常5〜95重量%であり、好ましくは30〜70重量%である。かかる割合で混合することにより、酸味がまろやかで、後味の好ましいブレンド酢となる。
【0019】
その他の食酢がスピリットビネガーを含み、更にスピリットビネガー以外のその他の食酢(例えば、モルト酢、ブドウ酢、純米酢、玄米酢、粕酢、リンゴ酢等)を少なくとも1種以上含む場合、本発明の醸造酢及びその他の食酢の合計量に対する本発明の醸造酢の量は、通常5〜60重量%であり、好ましくは10〜50重量%である。かかる割合で混合することにより、酸味がまろやかで、後味の好ましいブレンド酢となる。
【0020】
本発明のブレンド酢は、本発明の醸造酢及びその他の食酢のほかに、必要に応じて、一般にブレンド酢に用いられる添加剤を含有してもよいが、本発明のブレンド酢における本発明の醸造酢及びその他の食酢の含有量の合計は、通常、ブレンド酢全量に対して95重量%以上であり、好ましくは100重量%である。一般にブレンド酢に用いられる添加剤としては、例えば、穀類、果実、野菜、その他農産物、はちみつ、アルコール、砂糖類、食塩、アミノ酸液や、食品添加物表示ポケットブック(日本食品添加物協会、平成22年6月2日発行)に記載されている添加剤(例、調味料、酸味料、着色料等)等が挙げられる。
【0021】
本発明のブレンド酢の製造には、自体公知のブレンド酢の製造方法が使用される。
【0022】
本発明において「ドレッシング」とは、通常のドレッシングの他に、ソース、だし、つゆ、たれ等を含む概念であるが、中でもドレッシング、ソース等が好ましく、ドレッシングが特に好ましい。本発明のドレッシングの種類は、本発明の醸造酢又はブレンド酢を含有し得るものであれば特に制限されないが、例えば、マヨネーズ、サラダクリーミードレッシング、半固体状ドレッシング、タルタルソース、サラダドレッシング、フレンチドレッシング、サンドイッチスプレッド、チーズドレッシング、サウザンアイランドドレッシング、イタリアンドレッシング、セパレートドレッシング、中華ドレッシング、シーザーサラダドレッシング、ノンオイルドレッシング、和風ドレッシング、ごまドレッシング等が挙げられ、中でもマヨネーズ、サラダクリーミードレッシング、半固体状ドレッシング等が好ましい。また、本発明のドレッシングの形態は摂取しやすい形態であれば特に制限されず、液状、乳化状(例、O/W型、W/O/W型等)、分離状、半固形状、クリーム状、ペースト状、ゲル状、スラリー状等のいずれであってもよい。
【0023】
本発明のドレッシングにおける本発明の醸造酢の含有量は、ドレッシングの種類や形態等を考慮して適宜決定すればよく、特に制限されないが、本発明の醸造酢を中和滴定法による酢酸換算濃度で5容量%に調整した場合、ドレッシングの全重量に対して、通常0.01〜40重量%、好ましくは5〜15重量%である。
【0024】
本発明のドレッシングは、本発明の醸造酢又はブレンド酢のほかに、必要に応じて、一般にドレッシングに用いられる食品素材や他の食品添加剤を含有してもよい。一般にドレッシングに用いられる食品素材としては、例えば、食用植物油脂、卵黄、卵白、かんきつ類の果汁、でん粉、たん白加水分解物、食塩、砂糖類、はちみつ、香辛料、糊料、香辛料抽出物、穀類、果実、野菜、その他農産物、アルコール等が挙げられ、また、他の食品添加剤としては、例えば、食品添加物表示ポケットブック(日本食品添加物協会、平成22年6月2日発行)に記載されている添加剤(例、甘味料、着色料、保存料、増粘安定剤、酸化防止剤、発色剤、漂白剤、防かび剤、ガムベース、苦味料、酵素、光沢剤、酸味料、調味料、乳化剤、強化剤、製造用剤、香料等)が挙げられる。
【0025】
本発明のドレッシングの製造には、自体公知のドレッシングの製造方法が使用される。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の構成及び効果をより明らかにするため、実施例及び比較例を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下のこれらの例において、特に記載しない限り、部は質量部であり、%は質量%である。またアミノ酸度はホルモール法による測定値であり、酢酸濃度は中和滴定法による酢酸換算の測定値であって、有機酸濃度は高速液体クロマトグラフィーによる測定値であり、Bxは、液温20℃のとき屈折計を用いて測定した値である。
【0027】
試験区分1
実施例1
コーンスターチ1000kgを50℃の温水4430Lに投入し、撹拌下に溶解した。液化酵素としてデンプン分解酵素(ノボエンザイム社製の商品名「ターマミル120L」)1.5kg及びタンパク分解酵素(ノボエンザイム社製の商品名「ニュートラーゼ0.8L」)1.0kgを加え、また無機塩類として食塩0.5kg及び塩化カルシウム0.04kgを加えて、撹拌下に50℃で1時間保持し、更に93℃で3.5時間保持して液化処理を行なった。液化処理液を58℃に冷却した後、モルトの粉砕物(アサヒビールモルト社製の商品名「醸造用麦芽粉砕物」)200kgを加え(乾物換算でコーンスターチ100部当たりモルトの粉砕物20部)、また糖化酵素(ノボエンザイム社製の商品名「AGM300L」)1.5kgを加えて、撹拌下に58℃で18時間保持し、糖化処理を行なった。糖化処理液のBxは18.5%、アミノ酸度は0.55であった。糖化処理液を加圧濾過し、濾液にサッカロマイセス・セレビシエを主とする酵母500gを加え、20℃で15日間、静置によりアルコール発酵を行なった。アルコール発酵液に水を加え、種酢を加えて、濾過し、アルコール発酵による菌体を除去した後、更にアセトバクター・アセチを主とする酢酸菌により、30℃で20日間、通気により酢酸発酵を行なった。酢酸発酵液から濾過により菌体を除去して、実施例1の醸造酢(コーンモルト酢)を得た。
【0028】
比較例1
コーンスターチ1000kgを50℃の温水4430Lに投入し、撹拌下に溶解した。液化酵素として実施例1と同じデンプン分解酵素(ノボエンザイム社製の商品名「ターマミル120L」)1.5kg及びタンパク分解酵素(ノボエンザイム社製の商品名「ニュートラーゼ0.8L」)1.0kgを加え、また無機塩類として食塩0.5kg及び塩化カルシウム0.04kgを加えて、撹拌下に50℃で1時間保持し、更に93℃で3.5時間保持して液化処理を行なった。液化処理液を58℃に冷却した後、実施例1と同じ糖化酵素(ノボエンザイム社製の商品名「AGM300L」)1.5kgを加えて、撹拌下に58℃で18時間保持し、糖化処理を行なった。糖化処理液のBxは17.3%、アミノ酸度は0.03であった。糖化処理液を加圧濾過し、濾液に実施例1と同じサッカロマイセス・セレビシエを主とする酵母500gを加え、20℃で15日間、静置によりアルコール発酵を行なった。アルコール発酵液に水を加え、種酢を加えて、濾過し、アルコール発酵による菌体を除去した後、更にアセトバクター・アセチを主とする酢酸菌により、30℃で20日間、通気により酢酸発酵を行なった。酢酸発酵液から濾過により菌体を除去して、比較例1の醸造酢(コーン酢)を得た。
【0029】
実施例2〜4及び比較例2
コーンスターチを1000kg、水を4430Lとし、コーンスターチとモルトとの乾物換算の割合を、コーンスターチ100部当たり、モルトの粉砕物を30部(実施例2)、60部(実施例3)、100部(実施例4)、200部(比較例2)としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2〜4及び比較例2の醸造酢(コーンモルト酢)を得た。
【0030】
比較例3
実施例1と同じモルトの粉砕物(アサヒビールモルト社製の商品名「醸造用麦芽粉砕物」)1000kgを50℃の温水4430Lに投入し、無機塩類として食塩0.5kg及び塩化カルシウム0.04kgを加え、更に糖化酵素(ノボエンザイム社製の商品名「AMG300L」)1.5kgを加えて、撹拌下に58℃で18時間保持し、糖化処理を行なった。糖化処理液のBxは12.9%、アミノ酸度は2.55であった。糖化処理液を加圧濾過し、濾液に実施例1と同じサッカロマイセス・セレビシエを主とする酵母500gを加え、20℃で15日間、静置によりアルコール発酵を行なった。アルコール発酵液に水を加え、種酢を加えて、濾過し、アルコール発酵による菌体を除去した後、更にアセトバクター・アセチを主とする酢酸菌により、30℃で20日間、通気により酢酸発酵を行なった。酢酸発酵液から濾過により菌体を除去して、比較例3の醸造酢(モルト酢)を得た。
【0031】
以上の各例について、糖化処理液のBx及びアミノ酸度、並びに醸造酢の酢酸濃度を5容量%となるよう水希釈したときのアミノ酸度を表1にまとめて示した。
【0032】
【表1】

【0033】
試験区分2
比較例4及び5
精米又は玄米2000kgを水5000Lに投入し、撹拌下に、液化酵素として実施例1と同じデンプン分解酵素(ノボエンザイム社製の商品名「ターマミル120L」)2.0kg及びタンパク分解酵素(ノボエンザイム社製の商品名「ニュートラーゼ0.8L」)1.0kgを加え、また無機塩類として食塩0.5kg及び塩化カルシウム0.04kgを加えて、撹拌下に50℃で1時間保持し、更に93℃で3.5時間保持して液化処理を行なった。液化処理液を15℃に冷却した後、撹拌下に米麹500kgを加えて糖化処理を開始した。更に実施例1と同じサッカロマイセス・セレビシエを主とする酵母500gを加え、15℃で15日間、静置により糖化処理及びアルコール発酵を行なった。アルコール発酵液に水を加え、種酢を加えて、加圧濾過し、アルコール発酵による菌体を除去した後、更にアセトバクター・アセチを主とする酢酸菌により、30℃で20日間、通気により酢酸発酵を行なった。酢酸発酵液から濾過により菌体を除去して、比較例4の醸造酢(純米酢)と比較例5の醸造酢(玄米酢)を得た。
【0034】
比較例6
酒粕1500kgを水8000Lに投入し、撹拌下に18時間保持した。処理液を加圧濾過し、濾液に変性アルコール2000L及び種酢を加えて、30℃で20日間、通気により酢酸発酵を行なった。酢酸発酵液から濾過により菌体を除去して、比較例6の醸造酢(粕酢)を得た。
【0035】
比較例7
アルコール発酵液として市販の醸造アルコールに種酢を加えた変性アルコールを用い、以降の酢酸発酵等は比較例1と同様にして、醸造酢を得た。
【0036】
試験区分1の実施例3、比較例1及び3、並びに試験区分2の比較例4〜7について、醸造酢の酢酸濃度を5%となるよう水希釈したときのアミノ酸度及び有機酸濃度を表2にまとめて示した。
【0037】
【表2】

【0038】
試験区分3
試験区分1の比較例1の醸造酢(コーン酢)、実施例1の醸造酢(コーンモルト酢)及び比較例3の醸造酢(モルト酢)の3点について、男性6人及び女性6人の合計12人の評価員により官能評価した。官能評価は、3点の醸造酢を酢酸濃度5%となるよう水希釈したものについて、コク、キレ、旨味、深み、酸臭のまろやかさ及び甘味の各程度を3点順位法(1位を3点、2位を2点、3位を1点)で行なった。また実施例1の醸造酢(コーンモルト酢)に代えて、実施例2〜4及び比較例2の醸造酢(コーンモルト酢)を用いたこと以外は上記と同様にして官能評価を行なった。結果を表3にまとめて示した。表3中、比較例1の醸造酢(コーン酢)及び比較例3の醸造酢(モルト酢)についての評価は、5回の官能評価の平均点で示した。
【0039】
【表3】

【0040】
試験区分4
試験区分1の各例の醸造酢を用いて、男性8人及び女性8人の合計16人の評価員により官能評価した。官能評価は、各例の醸造酢を酢酸濃度5容量%となるよう水希釈したものを用いて、コーンモルト酢と、そのコーンモルト酢と原料配分が同じ割合となるようコーン酢とモルト酢とを混合したものとの2点比較法で行ない、どちらの醸造酢が全体の香味バランス及び香味の深さを考慮して好ましいかを選択させた。例えば、実施例1の醸造酢(コーンモルト酢)を評価する場合は、それを酢酸濃度5容量%となるよう水希釈したものと、比較例1の醸造酢(コーン酢)を酢酸濃度5容量%となるよう水希釈したもの100部に対して比較例3の醸造酢(モルト酢)を酢酸濃度5容量%となるよう水希釈したもの20部の割合で混合したものとを2点比較した。好ましいと選択した人数を表4にまとめて示した。表4中、*印は危険率5%で有意であることを示しており、また**印は危険率0.1%で有意であることを示している。
【0041】
【表4】

【0042】
表1〜表4の結果からも明らかなように、各実施例の醸造酢(コーンモルト酢)、なかでも実施例2及び3の醸造酢(コーンモルト酢)は、比較例1の醸造酢(コーン酢)や比較例3の醸造酢(モルト酢)と比べ、全体として旨味、コク、キレ等、香味のバランスに優れ、しかも香味が相応に深い。また各実施例の醸造酢(コーンモルト酢)は、単に比較例1の醸造酢(コーン酢)と比較例3の醸造酢(モルト酢)とを混合したものよりもはるかに優れたものとなっている。これらの各実施例の醸造酢(コーンモルト酢)を得るためには、酵素処理に供する原料としてコーンスターチとモルトとを前記したような割合で用いることが肝要であり、またアミノ酸度が前記したような範囲となるように糖化処理し、酢酸発酵することが好ましく、かくしてコハク酸、乳酸及びグルコン酸を前記したようにそれぞれ0.01〜0.10質量%含有するものとすることが好ましい。
【0043】
試験区分5
(ブレンド酢の調製)
製造例1
実施例3の醸造酢とスピリットビネガー(内堀醸造社製)とを、実施例3の醸造酢:スピリットビネガー=50:50の割合(重量比)で混合し、製造例1のブレンド酢を調製した。
【0044】
製造例2
実施例3の醸造酢に代えて、コーン酢(内堀醸造社製)を使用した以外は製造例1と同様にして、製造例2のブレンド酢を調製した。
【0045】
製造例3
実施例3の醸造酢に代えて、モルト酢(内堀醸造社製)を使用した以外は製造例1と同様にして、製造例3のブレンド酢を調製した。
【0046】
製造例4
コーン酢(内堀醸造社製)、モルト酢(内堀醸造社製)及びスピリットビネガー(内堀醸造社製)を、コーン酢:モルト酢:スピリットビネガー=25:25:50の割合(重量比)で混合し、製造例4のブレンド酢を調製した。
【0047】
製造例5
実施例3の醸造酢とスピリットビネガー(内堀醸造社製)とを、実施例3の醸造酢:スピリットビネガー=20:80の割合(重量比)で混合し、製造例5のブレンド酢を調製した。
【0048】
製造例6
実施例3の醸造酢とスピリットビネガー(内堀醸造社製)とを、実施例3の醸造酢:スピリットビネガー=40:60の割合(重量比)で混合し、製造例6のブレンド酢を調製した。
【0049】
製造例7
実施例3の醸造酢とスピリットビネガー(内堀醸造社製)とを、実施例3の醸造酢:スピリットビネガー=60:40の割合(重量比)で混合し、製造例7のブレンド酢を調製した。
【0050】
製造例8
実施例3の醸造酢とスピリットビネガー(内堀醸造社製)とを、実施例3の醸造酢:スピリットビネガー=80:20の割合(重量比)で混合し、製造例8のブレンド酢を調製した。
【0051】
製造例9
実施例3の醸造酢、スピリットビネガー(内堀醸造社製)、モルト酢(内堀醸造社製)及びブドウ酢(内堀醸造社製)を、実施例3の醸造酢:スピリットビネガー:モルト酢:ブドウ酢=20:70:5:5の割合(重量比)で混合し、製造例9のブレンド酢を調製した。
【0052】
製造例10
実施例3の醸造酢、スピリットビネガー(内堀醸造社製)、モルト酢(内堀醸造社製)及びブドウ酢(内堀醸造社製)を、実施例3の醸造酢:スピリットビネガー:モルト酢:ブドウ酢=40:50:5:5の割合(重量比)で混合し、製造例9のブレンド酢を調製した。
【0053】
試験区分6
(マヨネーズの調製)
実施例5
水相原料として、中和滴定法による酢酸換算濃度を5容量%に調整した製造例1のブレンド酢10.0部、卵黄5.0部、水7.4部、食塩2.0部、グラニュー糖0.2部、グルタミン酸ナトリウム0.4部を混合・溶解して水相を調製した。調製された水相に油相原料として食用植物油(J−オイルミルズ社製の菜種油)75.0部を加え、ホモミクサー(プライミクス社製)にて、回転数7,000rpmにて予備乳化した。次いで、回転数12,000rpmにて、仕上げ乳化を行って、実施例5のマヨネーズを調製した。
【0054】
実施例6
実施例5において、製造例1のブレンド酢の代わりに、製造例5のブレンド酢を用いたこと以外は実施例5と同様にして、実施例6のマヨネーズを調製した。
【0055】
実施例7
実施例5において、製造例1のブレンド酢の代わりに、製造例6のブレンド酢を用いたこと以外は実施例5と同様にして、実施例7のマヨネーズを調製した。
【0056】
実施例8
実施例5において、製造例1のブレンド酢の代わりに、製造例7のブレンド酢を用いたこと以外は実施例5と同様にして、実施例8のマヨネーズを調製した。
【0057】
実施例9
実施例5において、製造例1のブレンド酢の代わりに、製造例8のブレンド酢を用いたこと以外は実施例5と同様にして、実施例9のマヨネーズを調製した。
【0058】
実施例10
実施例5において、製造例1のブレンド酢の代わりに、実施例3の醸造酢を用いたこと以外は実施例5と同様にして、実施例10のマヨネーズを調製した。
【0059】
実施例11
実施例5において、製造例1のブレンド酢の代わりに、製造例9のブレンド酢を用いたこと以外は実施例5と同様にして、実施例11のマヨネーズを調製した。
【0060】
実施例12
実施例5において、製造例1のブレンド酢の代わりに、製造例10のブレンド酢を用いたこと以外は実施例5と同様にして、実施例12のマヨネーズを調製した。
【0061】
比較例8
実施例5において、製造例1のブレンド酢の代わりに、スピリットビネガー(内堀醸造社製)を用いたこと以外は実施例5と同様にして、比較例8のマヨネーズを調製した。
【0062】
比較例9〜11
実施例5において、製造例1のブレンド酢の代わりに、製造例2〜4のブレンド酢をそれぞれ用いたこと以外は実施例5と同様にして、比較例9〜11のマヨネーズをそれぞれ調製した。
【0063】
試験区分7
(マヨネーズの官能評価1)
4名の専門パネルで、実施例5、比較例8〜11のマヨネーズについて官能評価を実施した。官能評価は、コク、酸味のまろやかさ、後味の好ましさ、総合評価の各評価項目について、下記のとおりに、1〜5点の5段階評価を行った。結果を表5に示す。
【0064】
[コク]
5点:コクが強い
4点:コクがやや強い
3点:普通
2点:コクがやや弱い
1点:コクが弱い
【0065】
[酸味のまろやかさ]
5点:酸味がまろやか
4点:酸味がややまろやか
3点:普通
2点:酸味がややまろやかでない
1点:酸味がまろやかでない
【0066】
[後味の好ましさ]
5点:後味が好ましい
4点:後味がやや好ましい
3点:普通
2点:後味がやや好ましくない
1点:後味が好ましくない
【0067】
[総合評価]
5点:とてもおいしい
4点:ややおいしい
3点:普通
2点:ややおいしくない
1点:全然おいしくない
【0068】
【表5】

【0069】
表5の結果から明らかなとおり、コーンモルト酢とスピリットビネガーのブレンド酢を使用した実施例5のマヨネーズは、コーンモルト酢を使用しない比較例8〜11のマヨネーズに比べ、コクがあり、酸味がまろやかで、後味が好ましく、おいしいと感じられた。
【0070】
試験区分8
(マヨネーズの官能評価2)
4名の専門パネルで、実施例6〜10、比較例8のマヨネーズについて官能評価を実施した。官能評価は、上記と同様に行った。結果を表6に示す。
【0071】
【表6】

【0072】
表6の結果から明らかなとおり、スピリットビネガーとの混合割合として好ましいと感じられたのは、コーンモルト酢の混合割合が20〜100重量%のときであった。また、特に好ましいと感じられたのは、40重量%及び60重量%のときであった。
【0073】
試験区分9
(マヨネーズの官能評価3)
4名の専門パネルで、実施例11、12のマヨネーズについて官能評価を実施した。官能評価は、上記と同様に行った。結果を表7に示す。
【0074】
【表7】

【0075】
表7の結果から明らかなとおり、コーンモルト酢にその他の食酢を適度に配合することにより、さらに味が向上することが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料を酵素処理した後、アルコール発酵し、更に酢酸発酵することにより製造される醸造酢であって、原料としてコーンスターチとモルトとを、乾物換算でコーンスターチ100質量部当たりモルト5〜180質量部となる割合で用いて製造したことを特徴とする醸造酢を含有するドレッシング。
【請求項2】
酵素処理が液化処理及び糖化処理であって、コーンスターチを液化処理し、更にモルトを加えて糖化処理する、請求項1記載のドレッシング。
【請求項3】
乾物換算でコーンスターチ100質量部当たりモルト10〜120質量部となる割合で用いる、請求項1又は2記載のドレッシング。
【請求項4】
酵素処理液のホルモール法によるアミノ酸度が0.50〜3.00となるよう糖化処理する、請求項1〜3のいずれか一項に記載のドレッシング。
【請求項5】
中和滴定法による酢酸換算濃度を5容量%にしたときの酢酸発酵液のホルモール法によるアミノ酸度が0.08〜0.65となるよう酢酸発酵する、請求項1〜4のいずれか一項に記載のドレッシング。
【請求項6】
醸造酢は、中和滴定法による酢酸換算濃度を5容量%にしたとき、ホルモール法によるアミノ酸度が0.05〜0.70であり、且つ、コハク酸、乳酸及びグルコン酸の3種の有機酸濃度がそれぞれ0.01〜0.10質量%である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のドレッシング。