説明

重ねすみ肉継手における接合界面の引張強度評価方法及びそのための試験片

【課題】ヤング率の異なる二つの板状母材からなる片面重ねすみ肉継手における接合界面の強度を、厳格に且つ確実に評価し得る方法、並びにそのための試験片を提供すること。
【解決手段】第一の母材12とそれとはヤング率の異なる第二の母材14とを重ねすみ肉溶接して得られる重ねすみ肉継手にて構成され、かかる継手のビード形成部位16の幅方向両側の中間部が、長手方向に平行な直線部20とされ、その両端部が、所定の曲率半径の湾曲部22,24が形成された狭幅化凹所18とされ、且つ第二の母材14側部位の狭幅化凹所18の湾曲部24の湾曲開始端Qが、ビード形成部位におけるビード止端部TB に位置するように構成した試験片10を準備し、この試験片10の第一の母材12側部位と第二の母材14側部位とを把持して、相互に離隔されるように引張することにより、接合界面の引張強度を評価するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重ねすみ肉継手における接合界面の引張強度評価方法及びそのための試験片に係り、特に、ヤング率の異なる二つの板状母材を重ねすみ肉溶接して得られる片面重ねすみ肉継手における接合界面の引張強度をより厳格に評価することの出来る方法と、そのような評価方法に好適に用いられる試験片に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ヤング率の異なる二つの金属板材を接合してなる金属継手乃至は接合体が、各種の構造体等の用途に用いられて来ている。そして、そのような接合体を、目的とする用途に適用すべく、かかる接合体の各種の特性が測定され、評価されており、その中で、引張強度もその一つとされ、例えば、引張剪断試験による重ね継手の強度試験、突合せ継手の引張試験、ピール試験等、接合継手の強度評価方法が普及しているが、そのような接合継手における接合界面自体の強度に関して、その簡便な相対評価方法は、未だ見出されていない。従来では、単純に引張試験を行なって、その破断位置を調べたり、破断強度を測定したりしているのみであったのである。
【0003】
因みに、金属材料の引張試験方法は、JIS(日本工業規格)にも規定されているところであり(非特許文献1)、そこでは、被試験金属材料が、板状材料の場合にあっては、それから所定幅の板状試験片を切り出し、それを引張試験機にて引張することによって、引張強さ(強度)等の物性が測定されているのであるが、そのような引張試験方法にあっては、測定に供した板状試験片全体の引張強度が単に測定されることとなるところから、そのまま、ヤング率の異なる金属継手に適用して、その接合界面の強さを評価するには、問題のあるものであった。
【0004】
また、JISには、かかる金属材料の引張試験方法を用いて、突合せ溶接継手の引張試験方法も規定されており(非特許文献2)、そこでは、板(母材)の突合せ溶接継手試験の試験片として、長手方向の中央部両側を切除して、狭幅部と為し、その狭幅部の長手方向に平行な部位が、溶接部(余盛乃至はビード)以上の長さとされて、かかる溶接部の両側に、母材からなる所定長さの平行部がそれぞれ存在せしめられてなる構造のもの(1号試験片)が用いられて、上記した非特許文献1に従って、引張試験が行なわれている。
【0005】
しかしながら、この突合せ溶接継手を対象とする非特許文献2と同様にして、ヤング率の異なる二つの板状金属材料を重ねすみ肉溶接して得られる金属継手から、1号試験片を切り出して、前記した非特許文献1の手法に従って引張試験を行なっても、その接合界面の強さを、厳密に、また確実に評価することは困難なことであった。即ち、そのような金属継手から切り出された1号試験片の引張試験において、母材破断が生じた場合においても、そのような金属継手においては、接合界面の強さについての厳格な評価が為されていないところから、その接合界面で剥離する問題があったのであり、そのために、そのような接合界面に対する、更に厳格な、また有効な引張試験の手法の確立が要請されている。特に、異種金属の接合の場合において、その接合界面には、両方の金属を含む脆い接合層が形成され易いために、かかる接合界面の強さを厳密に評価することが望ましいのである。
【0006】
【非特許文献1】JIS Z 2241(1998)
【非特許文献2】JIS Z 3121(1961)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、ヤング率の異なる二つの板状の母材を重ねすみ肉溶接して得られる片面重ねすみ肉継手における接合界面の強度を、厳格に且つ確実に評価することの出来る方法、並びにそのための試験片を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そして、本発明にあっては、かかる課題の解決のために、板状の第一の母材と該第一の母材とはヤング率の異なる板状の第二の母材とを重ね合せ、該第一の母材の端部とそれが位置する第二の母材の一方の板面とを重ねすみ肉溶接して得られる片面重ねすみ肉継手にして、そのビード形成部位を間にして、前記第一の母材側及び前記第二の母材側にそれぞれ一定幅で延びる長手の継手にて構成される一方、該継手の前記ビード形成部位の幅方向両側に、それぞれ、中間部が該継手の長手方向に平行な直線部とされると共に、該長手方向における両端部に、それぞれ所定の曲率半径の湾曲部が形成されてなる、該継手を狭幅化する狭幅化凹所が形成され、且つ該継手の第二の母材側部位における該狭幅化凹所の湾曲部の湾曲開始端が、前記ビード形成部位におけるビード止端部に位置するように構成した試験片を準備し、この試験片の前記第一の母材側部位と前記第二の母材側部位とを把持して、相互に離隔されるように引張せしめることにより、該試験片の前記ビード形成部位の接合界面の引張強度を評価するようにしたことを特徴とする重ねすみ肉継手における接合界面の引張強度評価方法を、その要旨とするものである。
【0009】
なお、このような本発明に従う引張強度評価方法の望ましい態様の一つによれば、前記狭幅化凹所における前記第一の母材側の湾曲部の湾曲開始端が、該第一の母材の前記重ねすみ肉溶接が施される端部の端面位置又はそれよりも前記第二の母材側の湾曲部の湾曲開始端側に配置せしめられている。
【0010】
また、本発明の他の望ましい態様によれば、前記第一の母材がアルミニウム板材である一方、前記第二の母材が鋼板材である構成が採用される。
【0011】
さらに、本発明の別の望ましい態様によれば、前記第一の母材の非溶接側の板面に前記第二の母材と同一の厚さを有する第一の当て板を重ね合わせる一方、前記第二の母材の溶接側の板面に前記第一の母材と同一の厚さを有する第二の当て板を重ね合わせて、それら第一及び第二の母材をそれぞれの当て板と共に把持した状態下で、前記引張操作が実施される。
【0012】
加えて、本発明にあっては、板状の第一の母材と該第一の母材とはヤング率の異なる板状の第二の母材とを重ね合せ、該第一の母材の端部とそれが位置する第二の母材の一方の板面とを重ねすみ肉溶接して得られる片面重ねすみ肉継手にして、そのビード形成部位を間にして、前記第一の母材側及び前記第二の母材側にそれぞれ一定幅で延びる長手の継手にて構成される一方、該継手の前記ビード形成部位の幅方向両側に、それぞれ、中間部が該継手の長手方向に平行な直線部とされると共に、該長手方向における両端部に、それぞれ所定の曲率半径の湾曲部が形成されてなる、該継手を狭幅化する狭幅化凹所が形成され、且つ該継手の第二の母材側部位における該狭幅化凹所の湾曲部の湾曲開始端が、前記ビード形成部位におけるビード止端部に位置するように構成したことを特徴とする重ねすみ肉継手における接合界面の引張強度評価のための試験片をも、その要旨とするものである。
【0013】
なお、かくの如き本発明に従う試験片の望ましい態様によれば、前記狭幅化凹所における前記第一の母材側の湾曲部の湾曲開始端が、該第一の母材の前記重ねすみ肉溶接が施される端部の端面位置又はそれよりも前記第二の母材側の湾曲部の湾曲開始端側に配置せしめられている。
【0014】
また、かかる本発明に従う試験片の他の望ましい態様によれば、前記第一の母材がアルミニウム板材である一方、前記第二の母材が鋼板材である構成が採用される。
【発明の効果】
【0015】
従って、このような本発明によれば、ヤング率の異なる第一及び第二の母材を重ね合わせて、重ねすみ肉溶接して得られる片面重ねすみ肉継手であって、その重ねすみ肉溶接の部位であるビード形成部位を間にして、所定幅の長手形状を呈する継手を用い、そのビード形成部位の幅方向両側に、それぞれ、所定の狭幅化凹所を形成すると共に、そのような狭幅化凹所の第二の母材側部位の湾曲部の湾曲開始端を、ビード形成部位におけるビード止端部に一致せしめてなる構成の試験片を用いて、引張試験を実施するようにしたことにより、引張応力が、第一の母材とはヤング率の異なる第二の母材側に位置する狭幅化凹所の湾曲部の湾曲開始端に位置するビード止端部に対して、効果的に集中的に作用することとなるのであり、以て、ビード形成部位に形成される接合界面に有効に作用して、かかる接合界面の強度(強さ)を、厳格な条件下において、厳密に、また確実に評価し得ることとなったのである。
【0016】
また、このように、本発明にあっては、引張試験に供される試験片に設けられた狭幅化凹所における第二の母材側の湾曲部の湾曲開始端の位置を、ビード止端部に一致させることによって、接合界面の強さの有効な試験が行なわれ得るものであるところから、従来の引張試験方法が、そのまま適用され得、そのために、接合界面の強度に関して、極めて簡便に、相対的に比較評価することが出来る特徴を有しているのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
【0018】
先ず、図1には、本発明に従う引張強度評価方法に用いられる試験片の一例が、示されている。そこにおいて、(a)には、そのような試験片の平面形態が概略的に示されており、また(b)には、(a)におけるI−I断面が、概略的に示されている。
【0019】
そして、かかる図1から明らかなように、試験片10は、板状の第一の母材12と、この第一の母材12とはヤング率の異なる板状の第二の母材14とを重ね合わせ、第一の母材12の端部とそれが位置する第二の母材14の一方の板面(ここでは、上面)とを、MIG溶接の如き適当な溶接手法にて重ねすみ肉溶接して得られる片面重ねすみ肉継手にて、構成されてなるものである。また、そのような重ねすみ肉溶接によって、図1(b)に示される如く、第一の母材12側の溶け込み幅がLA であり、第二の母材14側の溶け込み幅がLB である、長さがLS (=LA +LB )であるビード16が形成され、このビード16の形成部位を間にして、第一の母材12側及び第二の母材14側に、それぞれ一定幅で延びる長手の継手にて、試験片10が構成されるようになっている。
【0020】
なお、ここで対象とされるヤング率の異なる第一及び第二の母材12,14の材質としては、公知の各種の金属材質の組合せがあり、特に異種材質の組合せ、例えば、純Al若しくはAl合金からなるアルミニウム材質のものと鋼にて代表される鉄材質のものとの組合せや、アルミニウム材質のものと純Cu若しくはCu合金からなる銅材質のものとの組合せ等を挙げることが出来るが、中でも、本発明にあっては、第一の母材12として、上記アルミニウム材質のアルミニウム板材が用いられる一方、第二の母材14としては、鋼板材が用いられて、構成される片面重ねすみ肉継手からなる試験片10において、本発明がより一層有利に適用され、以て、接合界面の引張強度が効果的に評価され得ることとなる。
【0021】
また、そのようなヤング率の異なる第一及び第二の母材12,14の接合体である片面重ねすみ肉継手は、その目的とする構造体等の用途への有効な適用のために、剛性と厚さの関係を整えることが重要であり、その場合において、第一の母材12のヤング率をEA とし、第二の母材14のヤング率をEB とすると共に、第一及び第二の母材12,14の板厚を、それぞれ、tA 及びtB としたとき、次式:EA ×tA 3 =(0.8〜1.2)×EB ×tB 3 を満足するように構成され、そのような継手に対して、本発明が、好適に適用されるのである。また、そこにおいて、第一の母材のヤング率EA 及び第二の母材のヤング率EB の大小は、何等制限されるものではなく、第一の母材のヤング率EA が、第二の母材のヤング率EB に比して大なるものであっても、或いは小なるものであっても何等差支えない。
【0022】
さらに、図1に示される試験片10は、そのビード16形成部位の幅方向両側に、それぞれ、狭幅化凹所18,18が形成されて、かかるビード16形成部位において、狭幅部が形成されてなる構造とされている。そして、そのような両側に形成された狭幅化凹所18,18は、それぞれ、その中間部が、長手方向に平行な直線部20とされると共に、かかる長手方向の両端部に、それぞれ所定の曲率半径RA 、RB の湾曲部22,24が形成されてなる構造とされていると共に、第二の母材14側部位における狭幅化凹所18の湾曲部24の湾曲開始端:Sが、ビード形成部位におけるビード16の止端部:TB 、換言すれば、第二の母材14上の溶接始端位置に一致(位置)するように構成されている。なお、TA は、第一の母材12側のビード止端部となる、第一の母材12上の溶接始端位置を示している。
【0023】
そして、かかる試験片10のビード16形成部位の幅方向両側に設けられた狭幅化凹所18,18によって、第一の母材12の幅:WA が、狭幅部においては、Wa まで狭幅化され、また第二の母材14にあっても、幅:WB から、狭幅部においては、幅:Wb まで狭幅化されている。また、ここでは、狭幅化凹所18における第一の母材12側の湾曲部22の湾曲開始端:Pが、かかる第一の母材12の重ねすみ肉溶接が施される端部の端面位置に実質的に一致するように配置せしめられているのである。
【0024】
ところで、このような構成の試験片10は、その第一の母材12側部位と第二の母材14側部位とを、それぞれ、図2に示される如く、従来から公知の引張試験機におけるクランプ手段(チャック)26,28にてクランプ(把持)して、従来と同様にして、相互に離隔されるように引張せしめられることにより、かかる試験片10のビード16形成部位における接合界面の引張強度が、評価されるのである。
【0025】
また、そのような引張試験における試験片10に対する変形速度は、従来と同様に、JIS−Z−2241(1998)に規定されている引張試験方法に準じて、決定されるものである。また、ここでは、試験片10における第一の母材12の非溶接側(裏側)の板面には、第二の母材14と同一の厚さを有する第一の当て板30が重ね合わされる一方、第二の母材14の溶接側の板面には、第一の母材12と同一の厚さを有する第二の当て板32が重ね合わされ、それら第一及び第二の母材12,14を、それぞれの当て板30,32と共に、クランプ手段26,28にて把持した状態下で引張操作が実施されるようになっており、これによって、把持部の板厚の中心線を一致せしめて、試験片10に曲げモーメントがかからないようにして、接合界面の強さが正確に評価され得るようになっている。
【0026】
そして、かかる図2に示される如くして、試験片10が引張せしめられることにより、試験片10の接合部であるビード16形成部位における挙動が観察されるのであるが、試験片10は、前述せるように、第二の母材14側におけるビード止端部:TB と狭幅化凹所18における第二の母材14側の湾曲部24の湾曲開始端:Sとが一致せしめられているところから、引張応力が、ビード16の止端部:TB に対して、効果的に集中せしめられ得るようになるのであって、これにより、試験片10における第一の母材12と第二の母材14との接合界面に対して、引張応力が効果的に作用せしめられ、以て、かかる接合界面の引張強度が、厳格な条件下において、厳密に且つ確実に評価され得ることとなるのである。
【0027】
なお、そのような引張試験における接合界面の強さの評価には、公知の各種の簡便な相対評価方式が適宜に採用され得るところであり、例えば、接合界面で剥離するか、或いは母材破断が惹起されるかの相対的な評価の他、界面剥離する試験片10の湾曲部24の曲率半径:RB の値、界面剥離するときの最大荷重の値、そのような最大荷重を線分PS×WB で除した値等が、接合界面の強度の指標として用いられ、各種の試験片(10)における接合界面の引張強度の相対的な比較評価が行なわれることとなる。
【0028】
そして、上記した本発明の特徴は、また、図1に示される如き試験片(10)からなる本発明試験片とJIS−Z−3121(1961)に規定される1号試験片に準じた比較試験片について、引張剪断試験を実施した結果からも、容易に理解し得るところである。
【0029】
すなわち、そのような引張剪断試験に供される試験片を与える各種の片面重ねすみ肉継手を、先ず、第一の母材(12)として厚さが1.0mmのアルミニウム板材(A6016P−T4)を用い、また第二の母材(14)として厚さが0.7mmのGA鋼板を用いて、MIG溶接手法によって重ねすみ肉溶接することにより、製造した。なお、溶接ワイヤとしては、1.2mmφのA4043−WY材質のものを用い、入熱パラメータ:Q(ここでは、溶接電流を溶接速度で除したものが、溶接時の入熱と正の相関があると仮定し、溶接電流を溶接速度で除した値とした。)を種々異ならしめて、接合界面の接合状態の異なる片面重ねすみ肉継手を得、そしてそれから各種の試験片が得られるようにした。
【0030】
次いで、かかる得られた各種の片面重ねすみ肉継手から、それぞれ、下記寸法の本発明試験片と比較試験片を切り出した。
(1)本発明試験片の寸法
全長:200mm 幅(WA =WB ):25mm
狭幅部の幅(Wa =Wb ):20mm
狭幅部における直線部(20)の長さ:5mm
湾曲部(22,24)の曲率半径(RA =RB ):10mm
S=TB ビード長さ(LS ):約15mm
(2)比較試験片の寸法
全長:250mm 幅:32mm
狭幅部の幅:40mm
狭幅部における直線部の長さ:22mm
ビード長さ:約10mm
狭幅化凹所の両端湾曲部の曲率半径:50mm
【0031】
そして、このようにして得られた各種の本発明試験片及び比較試験片について、JIS−Z−2241(1998)に従って、引張破断試験を実施し、その結果を、下記表1に示した。
【0032】
【表1】

【0033】
かかる表1の結果から明らかなように、アルミニウム板とGA鋼板とのMIG溶接による重ねすみ肉継手においては、入熱パラメータ:Qの大きさによって、接合界面の引張強度(破断強度)も、種々異なるものとなるところ、比較試験片にあっては、母材破断を示した場合であっても、本発明接合片では、接合界面の破断(剥離)となる継手が存在することが、確認された。そして、このことから、比較試験片よりも、本発明試験片の方が、接合界面に対して引張応力をより効果的に集中させることが出来ることが理解されるのである。
【0034】
以上、本発明の代表的な実施形態について詳述して来たが、それは、あくまでも、例示に過ぎないものであって、本発明は、そのような実施形態に係る具体的な記述によって、何等限定的に解釈されるものではないことが、理解されるべきである。
【0035】
例えば、本発明に従う試験片において、そのビード形成部位の両側に形成される狭幅化凹所18の大きさは、溶接ビード16の大きさや曲率半径:Ra 、Rb の大きさ等によって、適宜に選定されることとなる。
【0036】
また、前記した実施の形態においては、狭幅化凹所18における第一の母材12側の湾曲部22の湾曲開始端:Pが、第一の母材12の重ねすみ肉溶接が施される端部の端面位置、即ち、溶接始端位置Ta に一致するように構成されていたが、そのような湾曲開始端:Pは、かかる端面位置よりも、第二の母材14側の湾曲部24の湾曲開始端:S側に位置するように、配置せしめることも可能であり、そしてそのような配置によって、接合界面への引張応力の集中が、より効果的に行なわれ得ることとなる。
【0037】
さらに、本発明に従う試験片10は、例示の如く、一般に、本発明に規定される片面重ねすみ肉継手から、所定の寸法に切り出されて、採取されるものであるが、これに限定されるものでは決してなく、最終的に、特許請求の範囲に規定される構成を備えたものであれば、何れをも採用可能であり、例えば第一の母材12と第二の母材14の重ねすみ肉溶接を、本発明にて規定される試験片形状を形成するための加工途中において或いはそのような加工の後において実施して、試験片としたものであっても、何等差支えない。
【0038】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基いて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施されるものであり、また、そのような実施の態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、何れも、本発明の範疇に属するものであることは、言うまでもないところである。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に従う試験片の一例を示す説明図であって、(a)は、その平面形態を示す図であり、(b)は、(a)におけるI−I断面説明図である。
【図2】本発明に従う試験片に対する引張試験の一形態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0040】
10 試験片10 12 第一の母材
14 第二の母材 16 ビード
18 狭幅化凹所 20 直線部
22,24 湾曲部 26,28 クランプ手段
30 第一の当て板 32 第二の当て板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の第一の母材と該第一の母材とはヤング率の異なる板状の第二の母材とを重ね合せ、該第一の母材の端部とそれが位置する第二の母材の一方の板面とを重ねすみ肉溶接して得られる片面重ねすみ肉継手にして、そのビード形成部位を間にして、前記第一の母材側及び前記第二の母材側にそれぞれ一定幅で延びる長手の継手にて構成される一方、該継手の前記ビード形成部位の幅方向両側に、それぞれ、中間部が該継手の長手方向に平行な直線部とされると共に、該長手方向における両端部に、それぞれ所定の曲率半径の湾曲部が形成されてなる、該溶接片を狭幅化する狭幅化凹所が形成され、且つ該溶接片の第二の母材側部位における該狭幅化凹所の湾曲部の湾曲開始端が、前記ビード形成部位におけるビード止端部に位置するように構成した試験片を準備し、この試験片の前記第一の母材側部位と前記第二の母材側部位とを把持して、相互に離隔されるように引張せしめることにより、該試験片の前記ビード形成部位の接合界面の引張強度を評価するようにしたことを特徴とする重ねすみ肉継手における接合界面の引張強度評価方法。
【請求項2】
前記狭幅化凹所における前記第一の母材側の湾曲部の湾曲開始端が、該第一の母材の前記重ねすみ肉溶接が施される端部の端面位置又はそれよりも前記第二の母材側の湾曲部の湾曲開始端側に配置せしめられていることを特徴とする請求項1に記載の重ねすみ肉継手における接合界面の引張強度評価方法。
【請求項3】
前記第一の母材がアルミニウム板材である一方、前記第二の母材が鋼板材であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の重ねすみ肉継手における接合界面の引張強度評価方法。
【請求項4】
前記第一の母材の非溶接側の板面に前記第二の母材と同一の厚さを有する第一の当て板を重ね合わせる一方、前記第二の母材の溶接側の板面に前記第一の母材と同一の厚さを有する第二の当て板を重ね合わせて、それら第一及び第二の母材をそれぞれの当て板と共に把持した状態下で、前記引張操作が実施されることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一つに記載の重ねすみ肉継手における接合界面の引張強度評価方法。
【請求項5】
板状の第一の母材と該第一の母材とはヤング率の異なる板状の第二の母材とを重ね合せ、該第一の母材の端部とそれが位置する第二の母材の一方の板面とを重ねすみ肉溶接して得られる片面重ねすみ肉継手にして、そのビード形成部位を間にして、前記第一の母材側及び前記第二の母材側にそれぞれ一定幅で延びる長手の継手にて構成される一方、該継手の前記ビード形成部位の幅方向両側に、それぞれ、中間部が該継手の長手方向に平行な直線部とされると共に、該長手方向における両端部に、それぞれ所定の曲率半径の湾曲部が形成されてなる、該溶接片を狭幅化する狭幅化凹所が形成され、且つ該継手の第二の母材側部位における該狭幅化凹所の湾曲部の湾曲開始端が、前記ビード形成部位におけるビード止端部に位置するように構成したことを特徴とする重ねすみ肉継手における接合界面の引張強度評価のための試験片。
【請求項6】
前記狭幅化凹所における前記第一の母材側の湾曲部の湾曲開始端が、該第一の母材の前記重ねすみ肉溶接が施される端部の端面位置又はそれよりも前記第二の母材側の湾曲部の湾曲開始端側に配置せしめられていることを特徴とする請求項5に記載の重ねすみ肉継手における接合界面の引張強度評価のための試験片。
【請求項7】
前記第一の母材がアルミニウム板材である一方、前記第二の母材が鋼板材であることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の重ねすみ肉継手における接合界面の引張強度評価のための試験片。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−276221(P2009−276221A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−128218(P2008−128218)
【出願日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)
【Fターム(参考)】