説明

重力式構造物の増深工法及び重力式構造物

【課題】既存の重力式構造物から構造物の法線を変えることなく増深化を図る。
【解決手段】基礎地盤12上に捨石マウンド14を構築し、捨石マウンド14上に壁体16を設置し、捨石マウンド14及び壁体16により背後地盤18を支持した重力式構造物10の増深を行う。捨石マウンド14の、壁体16との密着面を含む所定深度の範囲を、部分的に固化して改良体22とし、捨石マウンド14による壁体16の支持耐力を高める。平面視で、壁体16の沖側壁面16aと同一位置若しくはそれよりも沖側の位置にて、壁体16の直下に位置する改良体22を残して、捨石マウンド14を除去することにより、壁体16の直下に位置する改良体22で壁体16を支持する。そして、捨石マウンド14の、壁体16の沖側壁面16aと同一位置若しくはそれよりも沖側の位置に増深部14dを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重力式構造物(岸壁、物揚場、護岸、防波堤等の重力式構造物を含む)の増深工法及び重力式構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
以前より、重力式係船岸等の重力式構造物が広く用いられている。図11に示されるように、この重力式構造物10は、基礎地盤12上に捨石マウンド14を構築し、この捨石マウンド14上に壁体16(ケーソン、L型ブロック、セルラーブロック、ブロック、場所打ちコンクリート、直立消波ブロック等の壁体を含む)を設置して、マウンド14及び壁体16により背後地盤18を支持するものである。
【0003】
ところで、既設の重力式構造物10に対し、より大型の船舶の係留を可能とするための増深化が必要となる場合がある。この重力式構造物の増深化を行うにあたり、既存の重力式構造物10よりも沖側に新たな構造物を設置し、かつ、基礎地盤12を必要な深さまで掘削する、いわゆる「前出し」工法を採ることが一般的である。この場合、既存の重力式構造物10よりも沖側の新たな構造物として、杭、矢板を用いる手法や、桟橋を設ける手法等が用いられる。又、耐震補強対策として、捨石マウンド14の全体を固化して、更にその下層の基礎地盤12に対して地盤改良を行う手法も開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−248527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の前出し工法は、構造物の法線を既存の重力式構造物10よりも沖側にずらすこととなるので、航路の制約から港湾施設によっては採用できない場合もあった。一方、既存の重力式構造物10から構造物の法線を変えることなく増深化を図る手法として、重力式構造物10をグラウンドアンカー工により補強するものや、背後地盤18の軽量化対策を施す手法もあるが、これらの手法は増深深さに制約を受けるものであった。しかも、施工期間は港湾施設の使用が長期にわたって制限され、かつ、工事費用を安価に抑えることも困難であった。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、従来よりも短い工期でありながら、既存の重力式構造物から、構造物の法線を変えることなく増深化を図ることを可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本願発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0007】
(1)基礎地盤上に捨石マウンドを構築し、該捨石マウンド上に壁体を設置し、前記捨石マウンド及び前記壁体により背後地盤を支持した重力式構造物の増深工法であって、
前記捨石マウンドの、前記壁体との密着面を含む所定深度の範囲を、部分的に固化して改良体とし、平面視で、前記壁体の沖側壁面と同一位置若しくはそれよりも沖側の位置にて、前記壁体直下に位置する前記改良体を残して、前記捨石マウンドを除去し、前記捨石マウンドに増深部を形成する重力式構造物の増深工法(請求項1)。
【0008】
本項に記載の重力式構造物の増深工法は、基礎地盤上に捨石マウンドを構築し、捨石マウンド上に壁体を設置し、捨石マウンド及び壁体により背後地盤を支持した重力式構造物の増深を行うものである。そして、捨石マウンドの、壁体との密着面を含む所定深度の範囲を、部分的に固化して改良体とし、この改良体によって、捨石マウンドによる壁体の支持耐力を高める。この際、捨石マウンドの全体を改良体とするのではなく、必要な支持耐力を考慮して、部分的に改良体を形成する。
そして、平面視で、壁体の沖側壁面と同一位置若しくはそれよりも沖側の位置にて、壁体直下に位置する改良体を残して、捨石マウンドを除去することにより、壁体直下に位置する改良体で壁体を支持する。そして、捨石マウンドの、壁体の沖側壁面と同一位置若しくはそれよりも沖側の位置に増深部を形成することで、増深後も捨石マウンドに残る改良体により、必要な耐力を維持するものである。なお、改良体を形成す所定深度は、必要な支持耐力を確保し得る深度となる。
【0009】
(2)上記(1)項において、前記捨石マウンドの、前記壁体との密着面を含む所定深度の範囲を、部分的に固化して改良体とする際に、捨石マウンド内に注入する固化材として、セメント系グラウト材や、水中不分離性モルタル、プレパックドモルタル、セメントベントナイト、超微粒子系特殊スラグ等の薬液型注入材等、及び、これらを適切に組合わせて用いられる重力式構造物の増深工法。
本項に記載の重力式構造物の増深工法は、捨石マウンドを固化して改良体とするための固化材に、セメント系グラウト材、水中不分離性モルタル、プレパックドモルタル、セメントベントナイト、超微粒子系特殊スラグ等の薬液型注入材等、及び、これらを適切に組合わせて用いることで、当該工程に要するコストの高騰を防ぐものである。しかも、改良体を捨石マウンドの全体にではなく、必要な支持耐力を考慮して、部分的に形成することによっても、当該工程に要するコストの高騰を防ぐものである。
【0010】
(3)上記(1)(2)項において、前記改良体を、平面視で、少なくとも前記壁体の沖側壁面からその厚み方向の中央部寄りの所定範囲に形成する重力式構造物の増深工法(請求項2)。
本項に記載の重力式構造物の増深工法は、改良体を、平面視で、少なくとも壁体の沖側壁面からその厚み方向の中央部寄りの所定範囲に形成することで、捨石マウンドによる壁体の支持耐力を高めるものである。そして、壁体の沖側壁面と同一位置若しくはそれよりも沖側の位置にて、捨石マウンドを除去することにより増深部を形成する後においても、必要な支持耐力を維持するものである。従って、改良体を形成する所定範囲は、必要な支持耐力を確保し得る範囲となる(以下同様)。
【0011】
(4)上記(3)項において、前記改良体を、平面視で、前記壁体の沖側壁面よりも沖側の所定範囲に形成する重力式構造物の増深工法(請求項3)。
本項に記載の重力式構造物の増深工法は、改良体を、平面視で、壁体の沖側壁面よりも沖側の所定範囲にも及ぶように形成することで、壁体の安定支持に必要な支持耐力を確保するものである。なお、本項に係る工法の場合、捨石マウンドに形成された改良体自体を部分的に除去することにより、増深部を形成することになる。
【0012】
(5)上記(1)から(4)項において、前記改良体を、平面視で、少なくとも前記壁体の陸側壁面からその厚み方向の中央部寄りの所定範囲に形成する重力式構造物の増深工法(請求項4)。
本項に記載の重力式構造物の増深工法は、改良体を、平面視で、少なくとも壁体の陸側壁面からその厚み方向の中央部寄りの所定範囲に形成することで、捨石マウンドによる壁体の支持耐力を高めるものである。
【0013】
(6)上記(5)項において、前記改良体を、平面視で、前記壁体の陸側壁面よりも陸側の所定範囲に形成する重力式構造物の増深工法(請求項5)。
本項に記載の重力式構造物の増深工法は、改良体を、平面視で、壁体の陸側壁面よりも陸側の所定範囲にも及ぶように形成することで、壁体の安定支持に必要な支持耐力を確保するものである。
【0014】
(7)基礎地盤上に捨石マウンドが構築され、該捨石マウンド上に壁体が設置され、前記捨石マウンド及び前記壁体により背後地盤が支持され、前記捨石マウンドは、前記壁体との密着面を含む所定深度の範囲が、部分的に固化された改良体からなり、 平面視で、前記壁体の沖側壁面と同一位置若しくはそれよりも沖側の位置にて、前記壁体直下に位置する前記改良体を残して、前記捨石マウンドが除去され、前記捨石マウンドに増深部が形成されている重力式構造物(請求項6)。
【0015】
本項に記載の重力式構造物は、基礎地盤上に捨石マウンドが構築され、該捨石マウンド上に壁体が設置され、前記捨石マウンド及び前記壁体により背後地盤が支持された重力式構造物において、捨石マウンドは、壁体との密着面を含む所定深度の範囲が、部分的に固化された改良体からなることで、捨石マウンドによる壁体の支持耐力が高められている。しかも、捨石マウンドの全体が改良体となっているのではなく、必要な支持耐力を考慮して、部分的に改良体が形成されたものである。
そして、平面視で、壁体の沖側壁面と同一位置若しくはそれよりも沖側の位置にて、壁体直下に位置する改良体を残して、捨石マウンドが除去され、捨石マウンドに増深部が形成されていることから、増深後も捨石マウンドに残る改良体により、必要な耐力が維持されるものである。従って、改良体が形成される所定深度は、必要な支持耐力を確保し得る深度となる。
【0016】
(8)上記(7)項において、前記捨石マウンドの、前記壁体との密着面を含む所定深度の範囲を、部分的に固化して改良体とするための、捨石マウンド内に注入する固化材として、セメント系グラウト材、水中不分離性モルタル、プレパックドモルタル、セメントベントナイト、超微粒子系特殊スラグ等の薬液型注入材等、及び、これらを適切に組合わせて用いられている重力式構造物。
本項に記載の重力式構造物は、捨石マウンドを固化して改良体とするための固化材に、セメント系グラウト材、水中不分離性モルタル、プレパックドモルタル、セメントベントナイト、超微粒子系特殊スラグ等の薬液型注入材等、及び、これらを適切に組合わせて用いることで、当該工程に要するコストの高騰を防ぐものである。しかも、改良体を捨石マウンドの全体にではなく、必要な支持耐力を考慮して、部分的に形成することによっても、改良体の形成に要するコストの高騰を防ぐものである。
【0017】
(9)上記(7)(8)項において、前記改良体は、平面視で、少なくとも前記壁体の沖側壁面からその厚み方向の中央部寄りの所定範囲に形成されている重力式構造物(請求項7)。
本項に記載の重力式構造物は、改良体が、平面視で、少なくとも壁体の沖側壁面からその厚み方向の中央部寄りの所定範囲に形成されていることで、捨石マウンドによる壁体の支持耐力が高められている。そして、壁体の沖側壁面と同一位置若しくはそれよりも沖側の位置にて、捨石マウンドを除去することにより増深部が形成された後においても、必要な支持耐力が維持されるものである。従って、改良体が形成される所定範囲は、必要な支持耐力を確保し得る範囲となる(以下同様)
【0018】
(10)上記(9)項において、前記改良体は、平面視で、前記壁体の沖側壁面よりも沖側の所定範囲に形成されている重力式構造物(請求項8)。
本項に記載の重力式構造物は、改良体が、平面視で、壁体の沖側壁面よりも沖側の所定範囲にも及ぶように形成されていることで、壁体の安定支持に必要な支持耐力が確保されるものである。なお、本項に係る工法の場合、捨石マウンドに形成された改良体自体が部分的に除去されることにより、増深部が形成されることになる。
【0019】
(11)上記(7)から(10)項において、前記改良体は、平面視で、少なくとも前記壁体の陸側壁面からその厚み方向の中央部寄りの所定範囲に形成されている重力式構造物(請求項9)。
本項に記載の重力式構造物は、改良体が、平面視で、少なくとも壁体の陸側壁面からその厚み方向の中央部寄りの所定範囲に形成されていることで、捨石マウンドによる壁体の支持耐力が高められるものである。
【0020】
(12)上記(11)項において、前記改良体は、平面視で、前記壁体の陸側壁面よりも陸側の所定範囲に形成されている重力式構造物(請求項10)。
本項に記載の重力式構造物は、改良体が、平面視で、壁体の陸側壁面よりも陸側の所定範囲にも及ぶように形成されていることで、壁体の安定支持に必要な支持耐力が確保されるものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明はこのように構成したので、従来よりも短い工期でありながら、既存の重力式構造物から、構造物の法線を変えることなく増深化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態に係る重力式構造物の増深工法により得られる重力式構造物を模式的に示す断面図であり、(a)〜(d)は、その具体的構造例を示すものである。
【図2】本発明の実施の形態に係る重力式構造物の増深工法のフローチャートである。
【図3】図2に示される、本発明の実施の形態に係る重力式構造物の増深工法の、マウンド改良時の漏洩防止措置工程を示す模式断面図であり、(a)〜(c)は、その具体例を示すものである。
【図4】図2に示される、本発明の実施の形態に係る重力式構造物の増深工法の、SEP台船据付け・張り出し足場等の設置工程を示す模式断面図であり、(a)〜(c)は、その具体例を示すものである。
【図5】図2に示される、本発明の実施の形態に係る重力式構造物の増深工法の、削孔、注入管の建て込み、固化材注入工程を示す模式断面図であり、(a)、(c)は、その具体例を示すものであり、(b)、(d)は(a)、(c)の要部拡大図である。
【図6】図2に示される、本発明の実施の形態に係る重力式構造物の増深工法の、削孔、注入管の建て込み、固化材注入工程の別の具体例を示す模式断面図であり、(a)は断面図(b)は平面図である。
【図7】図2に示される、本発明の実施の形態に係る重力式構造物の増深工法の、削孔、注入管の建て込み、固化材注入工程の別の具体例を示す模式断面図であり、(a)は断面図(b)は平面図である。
【図8】図2に示される、本発明の実施の形態に係る重力式構造物の増深工法の、削孔、注入管の建て込み、固化材注入工程の別例を示す模式断面図であり、(a)は断面図(b)は平面図である。
【図9】図2に示される、本発明の実施の形態に係る重力式構造物の増深工法の、固化材注入工程を示す模式断面図である。
【図10】図2に示される、本発明の実施の形態に係る重力式構造物の増深工法の、増深部掘削工程を示す模式断面図であり、(a)、(b)は、その具体例を示すものである。
【図11】従来の重力式構造物を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面に基づいて説明する。ここで、従来技術と同一部分、若しくは相当する部分については同一符号で示し、詳しい説明を省略する。
図1には、本発明の実施の形態に係る重力式構造物の構造例が示されている。これらの重力式構造物は、何れも、基礎地盤12(図11参照)上に捨石マウンド14を構築し、この捨石マウンド14上に壁体16を設置して、マウンド14及び壁体16により背後地盤18(図11参照)を支持するものである。
【0024】
更に、本発明の実施の形態における特徴部分として、捨石マウンド14の、壁体16との密着面を含む所定深度の範囲を、部分的に固化して改良体22としている。そして、平面視で、壁体16の沖側壁面16aと同一位置にて、壁体16の直下に位置する改良体22を残して、捨石マウンド14を除去し、捨石マウンド14に増深部14dを形成したものである。なお、図1(a)〜(d)のいずれの構造例においても、改良体22を、平面視で、少なくとも壁体16の沖側壁面16aからその厚み方向の中央部寄りの所定範囲(構造上必要な耐力が得られる範囲)に形成している。
【0025】
図1(a)に示される重力式構造物10Aは、改良体22Aを、平面視で、壁体16の沖側壁面16aよりも更に沖側の所定範囲に形成したものである。図示の例では、改良体22Aは、捨石マウンド14の増深部14dをカバーする範囲に形成されている。又、改良体22Aは、壁体16との密着面を含む所定深度の範囲として、壁体16の下面16cから基礎地盤12の上面12aに至る範囲に形成されている。
【0026】
図1(b)に示される重力式構造物10Bについても、改良体22Bを、平面視で、壁体16の沖側壁面16aよりも更に沖側の所定範囲に形成したものである。そして、改良体22Bは、捨石マウンド14の増深部14dをカバーする範囲に形成されている。又、改良体22Bは、壁体16との密着面を含む所定深度の範囲として、壁体16の下面16cから基礎地盤12の上面12aは至らない、中間深さまでの範囲に形成されている。
【0027】
一方、図1(c)に示される重力式構造物10Cは、改良体22Cを、平面視で、壁体16の沖側壁面16aと同一位置に収まるように形成したものである。又、改良体22Cは、壁体16との密着面を含む所定深度の範囲として、壁体16の下面16cから基礎地盤12の上面12aに至る範囲に形成されている。
【0028】
他方、図1(d)に示される重力式構造物10Dについても、改良体22Dを、平面視で、壁体16の沖側壁面16aと同一位置に収まるように形成したものである。そして、改良体22Dは、壁体16との密着面を含む所定深度の範囲として、壁体16の下面16cから基礎地盤12の上面12aは至らない、中間深さまでの範囲に形成されている。
【0029】
なお、図示は省略するが、図1(a)〜(d)のいずれの構造例においても、改良体22を、平面視で、壁体16の陸側壁面16bからその厚み方向の中央部寄りの所定範囲に形成することとしても良く、更に、平面視で、壁体16の陸側壁面16bよりも陸側の所定範囲に形成することとしても良い。具体的には、図1(a)〜(d)に示される改良体22A〜22Dを、壁体16の厚み方向中央部を基準として、対称に形成することとしても良い。
【0030】
続いて、図2から図10を参照しながら、本発明の実施の形態に係る重力式構造物の増深工法の各工程S100〜S200を説明する。
(S100)捨石内調査:既存の重力式構造物10の捨石マウンド14内の状態を調査し、捨石マウンド14による壁体16の所望の支持耐力を得るための、改良体22の形成範囲及び必要強度等を決定する。
(S110)捨石内洗浄:捨石マウンド14の表面堆積物や藻等の生物の除去を、ウォータージェットによる洗浄、エアリフトポンプによる吸い揚げ、ポンプ浚渫等により行う。
(S120)漏洩防止措置:後述する固化材の、捨石マウンド14からの漏洩防止のため、捨石マウンド14の表面に漏洩防止措置を行う。具体例としては、図3(a)に示されるように、捨石マウンド14の表面に遮水シート24を敷設し、押え石26で覆うことにより、遮水シート24を捨石マウンド14の表面に固定する。或いは、遮水シート24を用いることなく、捨石や砕石等を押え石として用いることとしても良い。又、図3(b)に示されるように、捨石マウンド14の表面に布製型枠を設置し、布製型枠内にコンクリートを充填して、捨石マウンド14の表面をコンクリート層28で覆う。若しくは、図3(c)に示されるように、捨石マウンド14の表面から内部へと瞬結性の薬剤やアスファルトマスチックを充填して、捨石マウンド14の表層部に固化層30を形成する、等が挙げられる。
【0031】
(S130)SEP台船据付・張り出し足場等の設置:重力式構造物10に、図4(a)に示されるようにSEP(自己昇降式)台船32を着岸させ、又は、図4(b)に示されるように張り出し足場34を設置する。
(S140)削孔マシン等据付:図4(a)(b)に示されるように、SEP台船32又は張り出し足場34に、削孔マシン36(図4にのみ示す)その他の削孔に必要な機材を据付ける。
【0032】
(S150)削孔:図4(a)(b)に示されるように、削孔マシン36の、ロータリー式、ロータリーパーカッション式或いはダウンザホールハンマー等を用い、平面視で、捨石マウンド14の、壁体16の直下の所定範囲及び沖側壁面16aよりも沖側の所定範囲に、壁体16の長手方向に沿って一列ないし複数列の穿孔を行う。この際、削孔深度の増加に応じて、削孔用ケーシング38を継ぎ足しながら、所定の深度まで削孔を行う。なお、海側からの施工のみでは、地盤改良が困難な場合には、図4(c)に示されるように、壁体16上から削孔マシン36等により壁体16を貫通するように削孔を行うこともある。
(S160)注入管の建て込み:削孔用ケーシング38をガイドとして、図5(c)(d)に示されるように、捨石マウンド14に固化材を注入するための注入用外管40を建て込む。注入用外管40の建て込み完了後、捨石マウンド14から削孔用ケーシング38を引き抜く。
【0033】
(S170)固化材注入:注入用外管40の内部に注入用内管42が挿入された二重管と、パッカー44とを用いて、捨石マウンド14に固化材46(図9中、便宜的に矢印で示す。)を注入する。そして、改良体22を、平面視で、少なくとも壁体16の沖側壁面16aからその厚み方向の中央部寄りの所定範囲に形成する。更に必要に応じ、壁体16の沖側壁面16aよりも沖側の所定範囲にまで形成する。
この際、捨石マウンド14の空隙状況に応じ、図6(a)(b)に示されるように、大きな空隙を充填するための第1次注入用外管401と、小さな空隙を充填するための第2次注入用外管402とを交互に建て込み、大きな空隙を充填した改良体221を形成した後に、小さな空隙を充填した改良体22を形成する手法を採ることも可能である。又、図7(a)(b)に示されるように、瞬結性注入材の注入用外管400を、第1次注入用外管401、第2次注入用外管402の沖側に建て込み、瞬結性注入材の注入用外管400から瞬結性注入材を充填して、改良体22を形成する範囲の沖側境界部分に沖側壁220を形成する。その後に、図6(a)(b)と同様に、大きな空隙を充填した改良体221を形成した後に、小さな空隙を充填した改良体222を形成する手法を採ることも可能である。更に、図8(a)(b)に示されるように、瞬結性注入材の注入用外管400から瞬結性注入材を充填して、改良体22を形成する範囲の沖側境界部分及び底側境界部分に沖側壁220及び底盤220’を形成した後、改良体221、222を形成することとしても良い。
なお、ここで用いられる固化材46は、捨石マウンド14を構成する捨石の状況に応じて適宜選択されるものであり、例えば、セメント系グラウト材や、水中不分離性モルタル、プレパックドモルタル、セメントベントナイト、超微粒子系特殊スラグ等の薬液型注入材等、及びこれらの適切な組み合わせが挙げられる。
(S180)削孔マシン等撤去:SEP台船32又は張り出し足場34から、削孔マシン36(図4にのみ示す)その他の削孔に必要な機材を撤去する。なお、平面視で、壁体16の陸側壁面16bよりも陸側の所定範囲に形成する場合には、上記S140〜S180の工程を、壁体16の陸側壁面16bからも行う。
【0034】
(S190)SEP台船・張り出し足場の撤去:重力式構造物10から、SEP台船32、又は、張り出し足場34を撤去する。
(S200)増深部掘削:図10に示されるように、平面視で、壁体16の沖側壁面16aと同一位置若しくはそれよりも沖側の位置にて、壁体16の直下に位置する改良体22を残して、捨石マウンド14(及び必要に応じて改良体22の一部)を除去し、捨石マウンド14に増深部14dを形成する。この工程では、例えば図10(a)に示されるようにガット船48を用い、又は、図10(b)に示されるように水中バックホウ50を用いて捨石マウンド14の掘削を行う。その他、状況に応じて、潜水士による人力掘削、テレスコ式クラムシェルによる掘削、全周回転オールケーシングによる掘削等も実施される。そして、潜水士による捨石の集積、ガット船48による捨石の除去を行う。以上により、重力式構造物10の増深が完了する。
【0035】
さて、上記構成をなす本発明の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能である。すなわち、本発明の実施の形態では、基礎地盤12上に捨石マウンド14を構築し、捨石マウンド14上に壁体16を設置し、捨石マウンド14及び壁体16により背後地盤18を支持した重力式構造物10の増深を行うものである。そして、捨石マウンド14の、壁体16との密着面を含む所定深度の範囲を、部分的に固化して改良体22とし、この改良体22によって、捨石マウンド14による壁体16の支持耐力を高めるものである。しかもこの際、捨石マウンド14の全体を改良体とするのではなく、必要な支持耐力を考慮して、部分的に改良体22を形成するものである。
【0036】
そして、平面視で、壁体16の沖側壁面16aと同一位置若しくはそれよりも沖側の位置にて、壁体16の直下に位置する改良体22を残して、捨石マウンド14を除去することにより、壁体16の直下に位置する改良体22で壁体16を支持することができる。そして、捨石マウンド14の、壁体16の沖側壁面16aと同一位置若しくはそれよりも沖側の位置に増深部14dを形成することで、増深後も捨石マウンド14に残る改良体22により、必要な耐力を維持することが可能となる。
【0037】
又、捨石マウンド14を固化して改良体とするための固化材46に、セメント系グラウト材、水中不分離性モルタル、プレパックドモルタル、セメントベントナイト、超微粒子系特殊スラグ等の薬液型注入材等、及びこれらを適切に組み合わせて用いることで、当該工程に要するコストの高騰を防ぐことが可能となる。しかも、改良体22を捨石マウンド14の全体にではなく、必要な支持耐力を考慮して、部分的に形成することによっても、当該工程に要するコストの高騰を防ぐことが可能となる。
【0038】
又、改良体22を、平面視で、少なくとも壁体16の沖側壁面16aからその厚み方向の中央部寄りの所定範囲に形成することで、捨石マウンド14による壁体16の支持耐力を高めている。そして、壁体16の沖側壁面16aと同一位置若しくはそれよりも沖側の位置にて、捨石マウンド14を除去することにより増深部14dを形成する後においても、必要な支持耐力を維持するものである。
又、改良体22を、平面視で、壁体16の沖側壁面16aよりも沖側の所定範囲にも及ぶように形成することで、壁体16の安定支持に必要な支持耐力を確保するものである。
【0039】
又、改良体22を、平面視で、少なくとも壁体16の陸側壁面16bからその厚み方向の中央部寄りの所定範囲に形成することで、捨石マウンドによる壁体16の支持耐力を高めることも可能となる。
更に、改良体22を、平面視で、壁体16の陸側壁面16bよりも陸側の所定範囲にも及ぶように形成することで、壁体16の安定支持に必要な支持耐力を確保することが可能となる。
【0040】
そして、本発明の実施の形態によれば、既存の重力式構造物10に対して、2m以上の増深化を施すことが可能となる。又、増深化による耐震性の悪化を来たすことも無く、かつ、耐波性能も増深前と変わらず維持することが可能となる。
なお、重力式構造物10の増深化及び耐震補強には、改良体22を、平面視で、少なくとも壁体16の沖側壁面16aからその厚み方向の中央部寄りの所定範囲に形成することが効果的である。又、重力式構造物10の耐波性能の向上には、更に、改良体22を、平面視で、少なくとも壁体16の陸側壁面16bからその厚み方向の中央部寄りの所定範囲に形成することが望ましい。
【符号の説明】
【0041】
10、10A、10B、10C、10D:重力式構造物、 12:基礎地盤、14:捨石マウンド、14d:増深部、16:壁体、16a:沖側壁面、16b:陸側壁面、18:背後地盤、 22、220、220’、221、222、22A、22B、22C、22D:改良体、46:固化材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎地盤上に捨石マウンドを構築し、該捨石マウンド上に壁体を設置し、前記捨石マウンド及び前記壁体により背後地盤を支持した重力式構造物の増深工法であって、
前記捨石マウンドの、前記壁体との密着面を含む所定深度の範囲を、部分的に固化して改良体とし、
平面視で、前記壁体の沖側壁面と同一位置若しくはそれよりも沖側の位置にて、前記壁体直下に位置する前記改良体を残して、前記捨石マウンドを除去し、前記捨石マウンドに増深部を形成することを特徴とする重力式構造物の増深工法。
【請求項2】
前記改良体を、平面視で、少なくとも前記壁体の沖側壁面からその厚み方向の中央部寄りの所定範囲に形成することを特徴とする請求項1記載の重力式構造物の増深工法。
【請求項3】
前記改良体を、平面視で、前記壁体の沖側壁面よりも沖側の所定範囲に形成することを特徴とする請求項2記載の重力式構造物の増深工法。
【請求項4】
前記改良体を、平面視で、少なくとも前記壁体の陸側壁面からその厚み方向の中央部寄りの所定範囲に形成することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の重力式構造物の増深工法。
【請求項5】
前記改良体を、平面視で、前記壁体の陸側壁面よりも陸側の所定範囲に形成することを特徴とする請求項4記載の重力式構造物の増深工法。
【請求項6】
基礎地盤上に捨石マウンドが構築され、該捨石マウンド上に壁体が設置され、前記捨石マウンド及び前記壁体により背後地盤が支持され、
前記捨石マウンドは、前記壁体との密着面を含む所定深度の範囲が、部分的に固化された改良体からなり、
平面視で、前記壁体の沖側壁面と同一位置若しくはそれよりも沖側の位置にて、前記壁体直下に位置する前記改良体を残して、前記捨石マウンドが除去され、前記捨石マウンドに増深部が形成されていることを特徴とする重力式構造物。
【請求項7】
前記改良体は、平面視で、少なくとも前記壁体の沖側壁面からその厚み方向の中央部寄りの所定範囲に形成されていることを特徴とする請求項6記載の重力式構造物。
【請求項8】
前記改良体は、平面視で、前記壁体の沖側壁面よりも沖側の所定範囲に形成されていることを特徴とする請求項7記載の重力式構造物。
【請求項9】
前記改良体は、平面視で、少なくとも前記壁体の陸側壁面からその厚み方向の中央部寄りの所定範囲に形成されていることを特徴とする請求項6から8のいずれか1項記載の重力式構造物。
【請求項10】
前記改良体は、平面視で、前記壁体の陸側壁面よりも陸側の所定範囲に形成されていることを特徴とする請求項9記載の重力式構造物。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図1】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−96080(P2013−96080A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237300(P2011−237300)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 公益財団法人 地盤工学会,第46回地盤工学研究発表会平成23年度発表講演集(DVD),平成23年6月20日
【出願人】(501241911)独立行政法人港湾空港技術研究所 (84)
【出願人】(591151222)社団法人日本埋立浚渫協会 (2)
【Fターム(参考)】