説明

重合体の中和方法および重合体の製造方法

【課題】本発明の課題は、工業用重要な水溶性重合体の中和方法を提供するものであり、各種分野で求められるより高いレベルの性能要求に対応するため、高い生産性を持ちつつ、水溶性重合体を特定の狭いpH範囲に制御する方法を提供することを目的とするものである。
【解決手段】
アルカリ性物質と中和されていない酸基を有する水溶性重合体から、中和および/または部分中和された酸基含有水溶性重合体を製造する方法において、製造時におけるpH値および中和剤の添加量を取得し、予め作成した重合体の中和曲線から、所定のpHに調整するための中和剤の添加量を計算して中和剤の添加量を制御する方法であって、測定値の取得、添加量の計算、制御をコンピュータが行なうことを特徴とする水溶性重合体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合体の中和方法、並びに重合体の製造方法に関する。詳細には、水溶性重合体を水溶液の形態で中和して精度よく特定のpHに調整する為の中和方法、並びに特定の中和方法により水溶性重合体を水溶液の形態で中和する、重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水溶性重合体は、増粘剤、粘着剤、凝集剤、乾燥剤、分散剤、金属イオン捕捉剤等としての優れた基本性能を有するものであり工業上多用されている。例えば、掘削土処理剤やパップ剤用添加剤、塗料の粘度調整剤・製鉄用原料の造粒助剤・製紙用顔料分散剤・洗剤用添加剤・水処理剤・繊維処理剤等として多岐にわたって使用されている(例えば特許文献1)。
【0003】
最近、上述した水溶性重合体に対する品質・性能面での要望が高度化し、特に色調の安定性の向上・剤の使用時の腐食性の低減・分散性能の更なる向上といった特定の要望を満足するために、狭いpH範囲に水溶性重合体を制御する技術が求められるようになった。
【0004】
しかし、中和反応に用いるアルカリ性物質としては、例えば48%水酸化ナトリウム等が、工業的に用いることが出来るが、その濃度の変化が入手時期、ロット等により変動することが判明した。
水溶性重合体のpHを上述の要望に沿うため、例えばpH7.1〜8.2といった特定の狭い範囲に制御するためには、アルカリを少量投入し、pHを測定し、更にアルカリを少量投入しpHを測定するといった操作を何度も手動で繰り返した後に所望のpH範囲に入る水溶性重合体を得ることができるといった多段階の手動操作が必要となり、生産性の大幅な低下をもたらすことが、明らかとなった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−270605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述したとおり、工業上重要な水溶性重合体の中和方法並びに製造方法を提供するものであり、近年要望の高まってきた、各種分野で求められるより高いレベルの性能要求に対応するため、高い生産性を持ちつつ、水溶性重合体を特定の狭いpH範囲に制御する中和方法、および当該工程を含む水溶性重合体の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、上記課題を解決した。
すなわち、本発明の水溶性重合体の製造方法は、アルカリ性物質と中和されていない酸基を有する水溶性重合体から、中和および/または部分中和された酸基含有水溶性重合体を製造する方法において、製造時におけるpH測定値および当該測定値に調整するために使用した中和剤の使用量の測定値と、予め作成した重合体の中和曲線における上記pH測定値に調整するために使用する中和剤の使用量と所望のpHに調整するために更に添加する残りの中和剤の使用量の読み取り値から、残りの中和剤の添加量を計算し、中和剤の添加量を自動制御する製造方法であって、上記計算および自動制御をコンピュータが行なうことを特徴とする水溶性重合体の製造方法である。
【0008】
本発明の他の一つの形態においては、中和されていない酸基を有する水溶性重合体をアルカリ性物質を用いて中和する方法であって、任意の時点のpH測定値および当該測定値に調整するために使用した中和剤の使用量の測定値と、予め作成した重合体の中和曲線における上記pH測定値に調整するために使用する中和剤の使用量と所望のpHに調整するために更に添加する残りの中和剤の使用量を自動制御する中和方法であって、上記計算および自動制御をコンピュータが行なうことを特徴とする水溶性重合体の中和方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、色調の安定性が高く使用する装置への腐食性を抑え、高い分散性能を持つ水溶性重合体を高生産性で得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[水溶性重合体]
本発明の水溶性重合体の製造方法は、未中和の酸基を有する水溶性重合体を正確な濃度が不明のアルカリ性物質で中和することにより製造されることにより好適に実施される、製造方法である。
ここで、未中和の酸基を有する水溶性重合体とは、水溶性重合体が有する酸基の内、少なくとも一部の酸基が未中和であることをいい、未中和の酸基のみを有しても、未中和の酸基と中和された酸基の両方を有しても(部分中和)よい。
【0011】
ここで、「中和された」とは、酸基が塩になっていることを表し、具体的には酸基がナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩;四級アミン塩等である。
また、上記「正確な濃度が不明のアルカリ性物質」とは、全く濃度が不明のアルカリ性物質であっても、大まかな濃度が分かっているアルカリ性物質であってもよい。例えば、大まかな濃度や濃度範囲が表示されて流通しているアルカリ性物質や、表示されている濃度と実際の濃度にずれが生じているアルカリ性物質、個々のロットの濃度表示は正確であるが、ロット間の差がある為に混合して使用すると正確な濃度が不明になるアルカリ性物質等が挙げられる。
【0012】
ここで、アルカリ性物質とは、酸基を中和し得るものであれば良く、液状、溶液状、スラリー状、粉体状、ペレット状等が採用し得るが、中和反応が制御しやすく、高性能の水溶性重合体が得られることから、液状、溶液状が好ましく、水溶液状が特に好ましい。
具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物;アンモニア;エタノールアミン、トリエチルアミン等のアミン類;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム等の炭酸のアルカリ金属等、及びこれらを含む溶液、スラリー、粉体等が例示される。特に好ましくは、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液である。該アルカリ性物質は、1種類のみを用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。
【0013】
本発明の水溶性重合体の中和方法は、未中和の酸基を有する水溶性重合体を正確な濃度が不明のアルカリ性物質で中和することにより好適に実施されるが、「中和された」、「正確な濃度が不明のアルカリ性物質」等の用語の意味や、好ましい形態は特にことわらない限り、「本発明の水溶性重合体の製造方法」と同様である。
【0014】
なお、上記本発明の水溶性重合体の製造方法、本発明の水溶性重合体の中和方法は、「正確な濃度が不明のアルカリ性物質」を使用する場合に、好適に実施できるが、当然に「正確な濃度が既知のアルカリ性物質」についても適用できる。例えば、濃度自体は正確に把握できるが、ポンプ等の添加装置や流量計等の計測装置と実際の添加量とずれが生じる場合、本発明の方法によれば、所望の水溶性重合体の製造等が可能となる。
[中和工程前の水溶性重合体]
本発明の製造方法、中和方法で使用する水溶性重合体について詳細に説明する。
本発明で使用する水溶性重合体は、酸基を含有する水溶性重合体が好ましく、(メタ)アクリル酸および/またはその塩を含む単量体を重合して得られる重合体((メタ)アクリル酸系重合体とも言う)がより好ましい。本発明において「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸および/またはメタクリル酸をいう。上記「その塩」とは、(メタ)アクリル酸の中和塩であれば任意の適切な塩を採用し得る。例えば、カリウム塩、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩、1級〜4級アミン塩等の窒素含有塩;等が挙げられる。
【0015】
なお、本発明における「酸基を含有する水溶性重合体」とは、酸基を有する水溶性の重合体であれば良いが、例えばカルボキシル基含有単量体(ここでは(メタ)アクリル酸および/またはその塩を含む)、スルホ基含有単量体、酸性リン酸エステル基含有単量体等の酸基含有単量体を重合して得られる重合体を言う。
【0016】
(メタ)アクリル酸系重合体を構成するための全単量体中の(メタ)アクリル酸および/またはその塩の合計量の割合が、好ましくは50〜100モル%であり、より好ましくは70〜100モル%であり、さらに好ましくは90〜100モル%であり、特に好ましくは95〜100モル%であり、最も好ましくは98〜100モル%である。上記(メタ)アクリル酸系重合体を構成するための全単量体中の(メタ)アクリル酸および/またはその塩の合計量の割合を上記範囲内とすることにより、(メタ)アクリル酸系重合体を洗剤添加剤として使用したときの泥汚れ洗浄力が向上する。
【0017】
上記(メタ)アクリル酸系重合体を構成するための全単量体中の(メタ)アクリル酸またはその塩以外の単量体(以下、「その他の単量体」と称することがある)は、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な単量体を採用し得る。
【0018】
その他の単量体としては、例えば、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、クロトン酸、アクリルアミドグリコール酸およびこれらの塩等のカルボキシル基含有単量体;ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレート、イソプレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、およびこれらの塩等のスルホ基含有単量体;2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルアシッドホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシ−3−クロロプロピルアシッドホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルホスフェートおよびこれらの塩等の酸性リン酸エステル基含有単量体;ビニルフェノールおよびこれらの塩等の石炭酸系単量体;ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル、ブトキシポリエチレンモノ(メタ)アクリル酸エステル等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリル酸エステル;3−メチル−3−ブテン−1−オールにエチレンオキサイドを付加してなるポリアルキレングリコールモノアルケニルエーテル単量体、アリルアルコールにエチレンオキサイドを付加してなるポリエチレングリコールモノエテニルエーテル単量体、無水マレイン酸にポリエチレングリコールを付加させたマレイン酸ポリエチレングリコールハーフエステル等のポリアルキレングリコール鎖含有単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸(N,N−ジメチルアミノエチル)、(メタ)アクリル酸(N,N−ジエチルアミノエチル)、(メタ)アクリル酸アミノエチル等の、炭素数1〜18の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;
(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミドおよびその誘導体;酢酸ビニル;(メタ)アクリロニトリル;N−ビニル−2−ピロリドン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の塩基含有単量体;N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等の、架橋性を有する(メタ)アクリルアミド系単量体;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、アリルトリエトキシシラン等の、加水分解性を有する基がケイ素原子に直結しているシラン系単量体;グリシジル(メタ)アクリレート、グリシジルエーテル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有単量体;2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−2−オキサゾリン等のオキサゾリン基含有単量体;2−アジリジニルエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルアジリジン等のアジリジン基含有単量体;フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン基含有単量体;(メタ)アクリル酸と、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等の多価アルコールとのエステル化物等の、分子内に不飽和基を複数有する多官能(メタ)アクリル酸エステル;メチレンビス(メタ)アクリルアミド等の、分子内に不飽和基を複数有する多官能(メタ)アクリルアミド;ジアリルフタレート、ジアリルマレエート、ジアリルフマレート等の、分子内に不飽和基を複数有する多官能アリル化合物;アリル(メタ)アクリレート;ジビニルベンゼン;等が挙げられる。その他の単量体は、1種類のみを用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。
【0019】
本発明の中和方法や製造方法に使用される水溶性重合体は、その末端にスルホン酸基、水酸基、ホスホナート基、ホスフィネート基(末端基(A)ともいう)が導入されているものが好ましい。上記水溶性重合体に上記末端基(A)が導入されていることにより、本発明の他の技術的特徴と組み合わせることによって、例えば、製鉄用原料の造粒助剤に使用する場合、製鉄用原料である焼結原料やペレット原料を造粒する際に、焼結原料やペレット原料に含まれる微粉の量を更に低減させることができ、焼結機等の通気性を向上することができ、したがって、焼結鉱やペレット等の製鉄用原料の生産性を向上することができる。上記水溶性重合体の末端に、末端基Aを導入させる為には(メタ)アクリル酸および/またはその塩等を重合する際に連鎖移動剤として、亜硫酸水素塩、過酸化水素、亜りん酸、亜りん酸塩、次亜リン酸、次亜リン酸(塩)を使用する方法が挙げられる。連鎖移動剤の塩としては、ナトリウム、カリウム、アンモニウムが好ましい。
【0020】
上記水溶性重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは500以上100000未満、より好ましくは1000以上50000未満、さらに好ましくは1500以上20000未満、特に好ましくは1800以上10000未満である。上記(メタ)アクリル酸系重合体の数平均分子量(Mn)は、好ましくは500〜50000、より好ましくは500〜30000、さらに好ましくは1000〜15000、特に好ましくは3000〜10000である。上記(メタ)アクリル酸系重合体の重量平均分子量(Mw)あるいは数平均分子量(Mn)が上記範囲内にあれば、本発明の効果をより一層に発揮することができる。
【0021】
上記、水溶性重合体は、任意の適切な方法によって製造し得る。好ましくは、連鎖移動剤の存在下で、(メタ)アクリル酸および/またはその塩を含む単量体組成物を重合することによって製造する。
このような連鎖移動剤としては、任意の適切な連鎖移動剤を採用し得る。
【0022】
上記連鎖移動剤としては、例えば、メルカプトエタノール、メルカプトプロピオン酸、t−ドデシルメルカプタン等のメルカプト基含有化合物;過酸化水素;次亜りん酸、次亜リン酸(塩)、亜りん酸、亜リン酸塩;亜硫酸水素(塩)、四塩化炭素;イソプロピルアルコール;トルエン;等の連鎖移動係数の高い化合物が挙げられる。この中でも上述した理由から、亜硫酸水素塩、過酸化水素、亜りん酸、亜りん酸塩、次亜リン酸、次亜リン酸(塩)(これらを連鎖移動剤(A)ともいう)が好ましい。
【0023】
上記連鎖移動剤(A)の使用量としては、任意の適切な量を採用し得る。好ましくは、上記(メタ)アクリル酸および/またはその塩を含む単量体1モルに対して、好ましくは1〜50gであり、より好ましくは1〜20gであり、さらに好ましくは2〜20gであり、特に好ましくは3〜10gである。連鎖移動剤(A)の使用量を上記範囲内とすることにより、(メタ)アクリル酸系重合体の末端に、上記末端基(A)を導入し得る。
【0024】
上記連鎖移動剤(A)は、好ましくは水に溶解して、水溶液の形態で添加してもよい。連鎖移動剤(A)水溶液として用いる場合の濃度としては、好ましくは10〜50重量%、より好ましくは20〜40重量%、さらに好ましくは30〜40重量%である。ここで、連鎖移動剤(A)水溶液の濃度が10重量%未満の場合には、製品の濃度が低下してしまうおそれがある。連鎖移動剤(A)水溶液の濃度が40重量%を超える場合には、亜硫酸塩が析出するおそれがある。
【0025】
上記重合方法としては、例えば、水中油型乳化重合法、油中水型乳化重合法、懸濁重合法、分散重合法、沈澱重合法、溶液重合法、水溶液重合法、塊状重合法が挙げられる。これらの中でも水溶液重合法が好ましい。重合コスト(生産コスト)を低減できるとともに、安全性が高いからである。水溶液重合法で用いる水溶液には、溶媒、重合開始剤、その他の添加剤を含み得る。
【0026】
上記重合においては、好ましくは重合開始剤を用いる。重合開始剤としては、熱または酸化還元反応によって分解し、ラジカル分子を発生させる化合物であれば、任意の適切な重合開始剤を採用し得る。また、水溶液重合法を採用する場合においては、水溶性を備えた重合開始剤が好ましい。重合開始剤は、1種類のみを用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。重合開始剤の使用量は、単量体の組成や重合条件等に応じて適宜設定すればよい。
【0027】
重合開始剤としては、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;2,2’−アゾビス−(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、4,4’−アゾビス−(4−シアノペンタン酸)等の水溶性アゾ化合物;過酸化水素等の熱分解性開始剤;過酸化水素およびアスコルビン酸、t−ブチルハイドロパーオキサイドおよびロンガリット、過硫酸カリウムおよび金属塩、過硫酸アンモニウムおよび亜硫酸水素ナトリウム、等の組み合わせからなるレドックス系重合開始剤;亜硫酸塩と空気または酸素との組み合わせ;等が挙げられる。これらの中でも、本発明における水溶性重合体を効率良く製造するために、過硫酸塩が好ましい。
【0028】
上記重合開始剤は、好ましくは水に溶解して、水溶液の形態で添加されてもよい。重合開始剤水溶液として用いる場合の濃度としては、好ましくは1〜35重量%、より好ましくは5〜35重量%、さらに好ましくは10〜30重量%である。ここで、重合開始剤水溶液の濃度が1重量%未満の場合には、製品の濃度が低下してしまうおそれがある。重合開始剤水溶液の濃度が35重量%を超える場合には、重合開始剤が析出するおそれがある。
【0029】
上記重合の反応温度は、単量体の組成や重合開始剤の種類等に応じて、任意の適切な温度を設定し得る。好ましくは0〜100℃、より好ましくは50〜100℃、さらに好ましくは60〜100℃、特に好ましくは65〜100℃、最も好ましくは70〜100℃である。ただし、連鎖移動剤として亜硫酸塩を使用する場合は、100℃未満が好ましく、90℃未満がさらに好ましく、88℃未満が特に好ましい。重合温度は、重合中、常に略一定に保持する必要はない。
【0030】
上記重合の方法として水溶液重合法を採用する場合においては、用いられる溶媒は、水、アルコール、グリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール類などの水性の溶媒であることが好ましく、特に好ましくは水である。これらは1種類のみ用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。用いられる溶媒は、その一部または全量は、重合初期に反応容器内に仕込んでおいても良い。また、上記単量体の溶媒への溶解性を向上させるために、各単量体の重合に悪影響を及ぼさない範囲で、任意の適切な有機溶媒を適宜加えてもよい。
【0031】
上記有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノールなどの低級アルコール;ジメチルホルムアルデヒドなどのアミド類;ジエチルエーテル、ジオキサンなどのエーテル類;などが挙げられる。これらは1種類のみを用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。
【0032】
上記重合においては、上記連鎖移動剤(A)と上記過硫酸塩とを併用することが好ましい。この場合、添加比率は、過硫酸塩1重量部に対して、連鎖移動剤(A)が、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.5〜5重量部、さらに好ましくは1〜3重量部である。過硫酸塩1重量部に対して連鎖移動剤(A)が0.1重量部未満であると、連鎖移動剤(A)による効果が十分に発現できないおそれがある。このため、(メタ)アクリル酸系重合体の末端に十分な末端基(A)を導入することができなくなる恐れがある。過硫酸塩1重量部に対して連鎖移動剤(A)が10重量部を超えると、連鎖移動剤(A)による効果が添加比率に伴うほど発現されない状態で、重合反応系において連鎖移動剤(A)が過剰に供給される(無駄に消費される)。このため、過剰な連鎖移動剤(A)が重合反応系で分解され、副生成物が多量に発生する。
【0033】
上記重合に際して、反応系内の圧力は、任意の適切な圧力を採用し得る。例えば、常圧(大気圧)下、減圧下、加圧下の何れの圧力下であっても良い。好ましくは常圧下または加圧下であり、より好ましくは常圧下である。常圧下で重合を行うと、加圧装置や減圧装置を併設する必要がなく、また耐圧性の反応容器や配管を用いる必要がない。このため、製造コストの低減が可能となる。
【0034】
上記重合に際して、反応系内の雰囲気は、空気雰囲気でも良いし、不活性雰囲気でも良い。不活性雰囲気で重合する方法として、具体的には、例えば、重合開始前に系内を窒素などの不活性ガスで置換することが挙げられる。これにより、反応系内の雰囲気ガス(例えば、酸素ガスなど)が液相内に溶解し、重合禁止剤として作用する。その結果、重合開始剤が失活して低減することが防止される。
【0035】
上記重合は、酸性条件下で行うことが好ましい。酸性条件下で行うことによって、重合反応系の粘度の上昇を抑制し、(メタ)アクリル酸系重合体を良好に製造することができる。さらに、高濃度の条件下で重合反応を進行させることができるため、製造効率を大幅に上昇させることができる。このような酸性条件下で重合反応を行うことにより、高濃度かつ1段で重合を行うことが可能となり、濃縮工程を省略することも可能である。それゆえ、(メタ)アクリル酸系重合体の生産性が大幅に向上し、製造コストの上昇も抑制しうる。上記酸性条件として、重合中の反応溶液の25℃でのpHは、好ましくは1〜6、より好ましくは1〜5、さらに好ましくは1〜4である。
【0036】
上記pHを調整するために、pH調整剤を用いても良い。pH調整剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物;アンモニア、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アミンの塩;等が挙げられる。これらは1種類のみで用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。これらの中で、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物が好ましく、水酸化ナトリウムが特に好ましい。
【0037】
重合中の重合体の中和度は、単量体組成、開始剤および連鎖移動剤の種類に応じて決定すればよいが、好ましくは0〜40モル%であり、より好ましくは0〜30モル%であり、さらに好ましくは0〜25モル%であり、特に好ましくは0〜10モル%である。重合中の中和度が上記範囲内であれば、最も良好に重合ないし共重合することが可能である。また、重合反応系の粘度が上昇することを抑制することが可能となる。さらに、高濃度の条件下で重合反応を進行させることができるため、製造効率を大幅に上昇させることができる。ただし、連鎖移動剤として亜硫酸塩を使用する場合は、1モル%以上が好ましく、3モル%以上がさらに好ましい。重合中の中和度は、重合中、常に一定に保持する必要はない。
【0038】
重合時に上記中和度に調整するための中和の方法は、任意の適切な中和剤を用いた中和方法が採用し得る。中和剤としては、例えば、(メタ)アクリル酸ナトリウムなどのアルカリ性の単量体、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水酸化物などが挙げられる。中和剤は、1種類のみを用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。中和剤の添加形態は、固体であってもよいし、適当な溶媒、好ましくは水に溶解した水溶液であってもよい。水溶液を用いる場合の水溶液の濃度は、10〜60重量%、好ましくは20〜55重量%、より好ましくは30〜50重量%である。
【0039】
上記重合は、原料となる単量体の水溶液、連鎖移動剤(A)の水溶液、連鎖移動剤の水溶液、重合開始剤の水溶液等を、別個の滴下ノズルから溶剤(好ましくは水)を仕込んだ反応容器中に滴下して行うことが好ましい。バッチ式で重合を行う場合、総滴下時間は、好ましくは180〜600分、より好ましくは210〜480分、さらに好ましくは240〜420分である。総滴下時間が180分未満の場合には、例えば、連鎖移動剤(A)による効果が発現されにくい場合があり、本発明の効果を十分に発揮できる程度に(メタ)アクリル酸系重合体の末端に末端基(A)が導入されないおそれがある。総滴下時間が600分を越える場合には、(メタ)アクリル酸系重合体の生産性が低下するおそれがある。ここでいう総滴下時間とは、最初の滴下成分(1成分とは限らない)の滴下開始時から最後の滴下成分(1成分とは限らない)を滴下完了するまでの時間をいう。
【0040】
上記重合においては、全ての滴下成分の滴下が終了した後、所定の時間、熟成を行っても良い。熟成時間は、好ましくは1〜120分間、より好ましくは5〜60分間、さらに好ましくは10〜50分間である。熟成時間が1分間未満の場合には、熟成不十分につき単量体成分が残ることがあり、残存モノマーに起因する不純物を形成し性能低下などを招くおそれがある。一方、熟成時間が120分間を超える場合には、重合体溶液の着色の恐れがある。また、熟成中の温度は、一定温度(好ましくは滴下終了時点での温度)で保持してもよいし、熟成中に経時的に温度を変化させてもよい。
【0041】
上記重合が終了した時点での反応溶液中の固形分濃度(すなわち単量体の重合固形分濃度)は、好ましくは35〜80重量%、より好ましくは40〜70重量%、さらに好ましくは40〜60重量%である。重合反応終了時の固形分濃度が35重量%以上であれば、高濃度かつ1段で重合を行うことができ、効率よく(メタ)アクリル酸系重合体を得ることができる。例えば、濃縮工程を省略することができ、製造効率を大幅に上昇させることができる結果、(メタ)アクリル酸系重合体の生産性が大幅に向上し、製造コストの上昇も抑制することが可能となる。重合反応終了時の固形分濃度が35重量%未満の場合には、(メタ)アクリル酸系重合体の生産性を大幅に向上することができない場合がある。例えば、濃縮工程を省略することが困難となるおそれがある。
【0042】
上記重合は、上記のごとく、好ましくは酸性条件下で行われる。そのため、得られる水溶性重合体のpHは、重合が終了した後に、後処理として適当なアルカリ成分(アルカリ性物質ともいう)を添加することによって所定のpH範囲に設定される。上記最終pHは、好ましくは6〜9、より好ましくは6.5〜8.5、最も好ましくは、7.1〜8.2に制御することが求められる。
【0043】
[中和工程、中和反応]
以下に、本発明の水溶性重合体の製造方法の必須工程である中和工程、本発明の水溶性重合体の中和方法について、詳細に説明する。
【0044】
本発明の水溶性重合体の製造方法は、未中和あるいは部分中和の水溶性重合体溶液をアルカリ性物質で中和する中和工程を含むことを特徴としている。
【0045】
本発明の水溶性重合体の製造方法は、上記中和工程に加え、重合工程を含んでも良い。すなわち、(i)(メタ)アクリル酸を含む単量体組成物を水性溶媒を用い、酸性条件下で重合する重合工程と、(ii)該重合工程で得られた未中和あるいは部分中和の水溶性重合体溶液をアルカリ性物質で中和する中和工程を含んでも良い。
【0046】
上記中和工程(あるいは本発明の中和方法)において、目標とするpHに到達させるためのアルカリ性物質の投入はコンピュータ等により制御されたポンプ等の滴下装置にて自動投入されることになる。自動投入量は上記pH測定値と、目標とするpH値、及び予め測定した(メタ)アクリル酸系重合体の中和曲線から、コンピューター等で自動で算出される。また、自動投入量は後述する流量計の測定値(積算投入量)により、コンピューター等により自動制御される。
【0047】
上記コンピュータは、CPUを中心として、ROM,RAM等の記憶装置で構成されるマイクロプロセッサーを有するコントローラーや入出力インターフェースから構成されるが、他にディスプレイを備えていても良い。コンピュータのCPUは、pHメータからの信号や、典型的にはアルカリ性物質の添加量を計測する流量計からの信号を取得したり、アルカリ物質を添加するポンプ等の添加液の供給速度や供給時間等に関する制御信号をポンプの駆動制御装置に出力するようになっている。
上記中和曲線やポンプ等による添加動作を実施するためのプログラムは、コントローラーの記憶装置に記憶されている。
【0048】
(制御方法)
アルカリ性物質の添加制御動作(制御工程とも言う)の一例を便宜上、ポリアクリル酸を約48%水酸化ナトリウム水溶液で中和する反応を例として示す。
制御動作1.CPUは、(1)pHメータからpH測定値、(2)アルカリ性物質の添加経路に設置された流量計から約48%水酸化ナトリウム水溶液の添加量の測定値、を取得する。ここで、上記の通り約48%水酸化ナトリウム水溶液の濃度は変動するため、正確な濃度は不明である。
制御動作2.ついで、CPUは、上記(1)、(2)の実測値、およびRAM等に格納されたポリアクリル酸の中和曲線から、「所定のpHに調整するための残りのアルカリ物質(組成物)の添加量」(ここでは、約48%水酸化ナトリウム水溶液の残りの使用量)の算出を実行する。
すなわち、ある時間における、上記(2)、(1)の実測値をそれぞれa1、P1とすると、CPUは、上記格納されたポリアクリル酸の中和曲線を使用し、P1のときに、中和曲線作成時に添加した約48%水酸化ナトリウム水溶液N(現製造工程で使用する約48%水酸化ナトリウム水溶液とは正確なアルカリ濃度が異なる)の添加量A1と、P1から所定のpHに至る迄に要する約48%水酸化ナトリウム水溶液Nの使用量B1を中和曲線からの読み取る。更に、CPUは、上記値から、以下の式に従って、現製造工程における、所定のpHに調整するための残りの約48%水酸化ナトリウム水溶液の使用量b1を算出する。
b1=a1/A1×B1
なお、所定のpHとは、所望とするpHであるが、所望とするpHが範囲を有する場合には、そのセンター値を所定のpHとしても良い。
制御動作3.ついで、CPUは、残りの約48%水酸化ナトリウム水溶液の使用量b1により、ポンプ等の供給速度や供給時間等を補正して、制御信号をポンプの駆動制御装置に出力してこの処理を終了する。
すなわち、中和時間を一定設定した場合は、CPUはb1を残り時間で添加するように、供給速度を変更する制御信号をポンプの駆動制御装置に出力し、アルカリ性物質(ここでは約48%水酸化ナトリウム水溶液)の添加速度を一定にしたい場合には、CPUはb1を添加するように、供給時間を変更する制御信号をポンプの駆動制御装置に出力する。
なお、上記(2)のアルカリ性物質の添加経路に設置された流量計による約48%水酸化ナトリウム水溶液の添加量の測定値は、例えば、比重や電位差を測定する等の別の方法による測定値を使用しても良い。
上記一連の制御動作(制御工程)は、中和工程中、1度または2度以上実施される。
【0049】
なお、中和工程において、上記制御動作1〜3の前に、CPUが、上記(1)、(2)の実測値を取得し(実測値をそれぞれa0、P0とする)、さらにCPUがpHがP0〜P1に至るまでのアルカリ性物質添加量(ここでは約48%水酸化ナトリウム水溶液)da、中和曲線において、pHがP0〜P1に至るまでのアルカリ性物質添加量(ここでは約48%水酸化ナトリウム水溶液N)dA、およびP1から所定のpHに至る迄に要する約48%水酸化ナトリウム水溶液Nの使用量B1を中和曲線からの読み取り、CPUが、a1、A1にかえてda、dAを使用することにより現製造工程における、所定のpHに調整するための残りの約48%水酸化ナトリウム水溶液の使用量b1を算出しても良い。すなわち、以下の式に従って、現製造工程における、所定のpHに調整するための残りの約48%水酸化ナトリウム水溶液の使用量b1を算出しても良い。
b1=da/dA×B1
なお、中和工程が連続的に行なわれる場合は、以下の通り制御される。特に断りが無い場合、バッチ式と同様である。
制御動作1.CPUは、(1)pHメータからpH測定値、(2)アルカリ性物質の添加経路に設置された流量計から約48%水酸化ナトリウム水溶液の添加量の測定値(質量/h)、(3)中和処理する水溶性重合体溶液の流量(質量/h)、必要に応じて(4)大まかに中和処理した水溶性重合体の流量(質量/h)、を取得する。ここで、上記の通り約48%水酸化ナトリウム水溶液の濃度は変動するため、正確な濃度は不明である。
制御動作2.ついで、CPUは、上記(1)、(2)、(3)、必要に応じて(4)の実測値、およびRAM等に格納されたポリアクリル酸の中和曲線から、「所定のpHに調整するための残りのアルカリ物質(組成物)の添加量」(ここでは、約48%水酸化ナトリウム水溶液の残りの使用量)の算出を実行する。
具体的には、x質量部/hで重合釜等から連続的に抜き出される水溶性重合体溶液の配管にa1質量部/hの48%水酸化ナトリウム水溶液を連続的に添加して、大まかに中和を行なう。中和後の水溶液のpHをP1とすると、CPUは、x質量部/h、a1質量部/h、P1の値を取得すると共に、格納されたポリアクリル酸の中和曲線(中和する水溶性重合体と同様の方法で得られた重合体水溶液X質量部をバッチ式で中和処理することにより得られた中和曲線であって、中和時のアルカリ添加量(質量部)/X(質量部)に対するpH値のデータ)を使用し、P1のときに、中和曲線作成時に添加した約48%水酸化ナトリウム水溶液N(現製造工程で使用する約48%水酸化ナトリウム水溶液とは正確なアルカリ濃度が異なる)の添加量A1/Xと、P1から所定のpHに至る迄に要する約48%水酸化ナトリウム水溶液Nの使用量B1/Xを中和曲線からの読み取る。更に、CPUは、上記値から、以下の式に従って、現製造工程における、所定のpHに調整するための残りの約48%水酸化ナトリウム水溶液の使用量b1(質量部/h)を算出する。
b1(質量部/h)=(a1(質量部/h)/x(質量部))/(A1(質量部)/X(質量部))×B1(質量部)
なお、大まかな中和処理後または中和処理前に、大まかに中和した水溶性重合体水溶液を保持しておく為の中間タンクを具備しても良い。当該中間タンクから、大まかに中和した水溶性重合体水溶液を流出する速度が(x+a1)(質量部/h)のままであれば、残りの中和剤(アルカリ成分)は、上記b1(質量部/h)であるが、大まかに中和した水溶性重合体水溶液を流出する速度を変化させる場合は、それに応じて比例計算する。
制御動作3.ついで、CPUは、残りの約48%水酸化ナトリウム水溶液の使用量b1により、ポンプ等の供給速度や供給時間等を補正して、制御信号をポンプ(最終中和に使用するポンプ)の駆動制御装置に出力してこの処理を終了する。
すなわち、中和時間を一定に設定した場合は、CPUはb1(質量部/h)で添加するように、供給速度を設定・変更する制御信号をポンプの駆動制御装置に出力する。
【0050】
なお、連続的に中和反応を行なう上記の場合において、制御動作2で決定されたb1質量部/hの残りのアルカリ物質(組成物)の添加方法に関して、(I)a1質量部/hのアルカリ性物質を連続的に添加して、大まかに中和を行なった後、制御動作2で決定されたb1質量部/hの残りのアルカリ物質(組成物)を別途添加しても構わないし、(II)大まかに中和する工程において、アルカリ性物質の添加量を(a1+b1)質量部/hに制御することにより、制御動作以降の中和を実施しても構わない。
【0051】
(使用する中和曲線)
上記の通り、本発明では、予め(メタ)アクリル酸系重合体の中和曲線を作成しておくことが必要となる。使用する中和曲線は、製造する重合体と同じ原料組成の重合体のものを使用することが精度良く中和を実施する観点から最も好ましいが、類似した原料組成の重合体のものを使用することも可能であり、メタクリル酸のホモポリマーあるいはアクリル酸のホモポリマーの中和曲線を使用することも可能である。また、使用する中和曲線は、製造する重合体と同じ重量平均分子量のものを使用することが最も好ましいが、近い分子量の重合体のものを使用することも可能である。具体的には、製造する重合体との重量平均分子量の差が0〜5000の重合体を使用すれば良く、0〜3000の重合体を使用することが好ましく、0〜2000の重合体を使用することが更に好ましく、0〜1000の重合体を使用することが特に好ましい。上記の重合体の中和曲線を使用することにより、(メタ)アクリル酸系重合体水溶液のpH調整を精度よく行なうことができる。
使用する中和曲線は、水溶性重合体の濃度が同様になるようにして得られたものが好ましい。例えば中和曲線作成時の重合体濃度と実際の中和反応時の重合体濃度の差が、5質量%であれば好ましい。
使用する中和曲線は、実際の製造と同様の装置で取得することが好ましく、小スケールで取得しても良い。実際と同じ装置で取得することが特に好ましい。
上記中和曲線取得に使用するアルカリ性物質は、製造する重合体の中和に使用するアルカリ物質と同じ種類のアルカリ物質を使用することが好ましい。上記中和曲線取得に使用するアルカリ性物質は、実際の製造に使用するアルカリ性物質と近い濃度(純度)のものを使用することが好ましく、例えば、濃度差(純度の差)が10質量%未満であることが好ましく、5質量%未満であることがより好ましい。ここで、濃度(純度)とは、例えばアルカリ水溶液の場合、アルカリ水溶液全体の質量100質量%に対するアルカリ性物質の質量を表す。
【0052】
(pHを測定するタイミング)
上記制御操作1におけるpHを取得するタイミングとしては、pHの取得を一度だけ行なう場合には、使用するアルカリ性物質濃度のばらつきにもよるが、目標とするpHに到達する上で必要なアルカリ量に対して、通常は、50%から99%のアルカリ量を投入した時点でのpH値を取得することが好ましい。必要なアルカリ量に対して、60%から98%の時点で実施することがより好ましく、80から97%とすることが最終到達pHを制度よく制御するうえで更に好ましい。
pHの取得を二度以上行なう場合には、最後の取得を上記タイミングとすることが好ましい。
【0053】
(中和工程、中和方法において使用する装置、条件)
上記pHメータとしては、(メタ)アクリル酸系重合体水溶液のpH調整を精度よく行なえることから、電位差を測定することによりpHを算出する原理のものを使用することが好ましい。
【0054】
上記自動投入されるアルカリ成分(アルカリ性物質)の添加量は、流量計により測定されることが好ましい。使用可能な流量計としては、容積式流量計、渦式流量計、タービン式流量計、差圧式流量計、電磁式流量計、面積式流量計、超音波式流量計、羽根車式流量計等の、体積流量計;熱式流量計、コリオリ式流量計等の質量流量計;ピトー管式流量計等の流速流量計が挙げられる。(メタ)アクリル酸系重合体水溶液のpH調整を精度よく行なえることから、質量流量計が好ましい。
【0055】
自動投入されるアルカリ成分は、ポンプを介して添加されることが好ましく、使用可能なポンプとしては、渦巻きポンプ、タービンポンプ等の遠心ポンプ;軸流ポンプ等のプロペラポンプ;カスケードポンプ等の摩擦ポンプ;ピストンポンプ、プランジャーポンプ、ダイヤフラムポンプ等の往復動ポンプ;ギヤーポンプ、編心ポンプ、スクリューポンプ等のロータリーポンプが挙げられる。
【0056】
中和時の温度は、好ましくは、30℃〜120℃であり、より好ましくは40℃〜70℃、更に好ましくは50℃〜60℃で行うことが得られる水溶性重合体の色調改善および生産性の向上の目的で好ましい。
【0057】
本発明の中和方法(あるいは中和工程)における中和方法としては、次亜燐酸塩が、対固形分で0.1〜1.0重量%の存在下で行うことが、得られる水溶性重合体の腐食防止効果・色調の安定性・分散性能の向上・残存未反応単量体の低減の目的で、好ましく、0.2〜0.7重量%の存在下がより好ましい。次亜燐酸塩が、対固形分で0.1重量%以下であると得られた水溶性重合体の色調の経時安定性が低下することがある。また鋼板の腐食性が悪化することがある。
【0058】
また、次亜燐酸塩が、対固形分で1.0重量%以上であると得られた水溶性重合体を繊維処理剤に使用した場合、漂白剤等との併用で有効成分を低下させる不具合を生じることがある。
【0059】
[重合工程]
以下に、本発明の製造方法の任意工程である水溶性重合体の重合工程(本重合工程ともいう)の好ましい形態について説明する。本重合工程で得られた重合体(中和工程前の水溶性重合体ともいう)は、本発明の製造方法(若しくは製造方法における中和工程)や本発明の中和方法で好ましく使用される。
本重合工程における水溶性重合体の重合方法は、特定の連続式重合方法で行うことにより、生産性の向上、分子量分布が狭く、分散性能の安定的向上の効果が得られ好ましい。
本発明者等は、水溶性重合体の重合方法について種々検討したところ、タンクと外部に循環するループ型の配管(循環ライン)を有する連続的反応装置が、生産性に優れることに着目し、循環ラインに冷却器を備えた撹拌槽直列連続式反応装置とすると、反応装置内の温度分布を均一なものとすることができるうえに、温度を容易に制御することができるため、高い重合濃度で反応させることができ、残存単量体の濃度を低くすることができることを見いだした。また、熟成工程を必要とせず、短い反応(滞留)時間で、重合反応させることができることから、更に生産性を高くすることができることを見いだした。また、通常は、分子量分布(Mw/Mn)の狭い重合体を得るためには、重合濃度を下げたり、反応時間を長くしたり、時間当たりの生産量が低下することが懸念されるが、上記特性に起因して、単量体の濃度を均一にすることができ、高い生産性を有しつつ、Mw/Mnが狭い水溶性(共)重合体を製造することができることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到した。更に、充分にMw/Mnが狭いため、洗剤ビルダー、スケール防止剤、無機顔料分散剤等の様々な用途に好適に適用することができる。
すなわち本発明の好ましい態様は、タンク及びその外部を循環する配管により構成される循環ラインを有する反応装置に重合性不飽和結合を有する単量体を含む循環液を循環させて水溶性重合体を連続的に製造する工程と、循環液の一部を排出ラインから取り出す工程とを有する水溶性重合体の連続的重合工程であって、上記循環ラインは、少なくとも1箇所に冷却器が備えられたものである連続的重合工程で製造した水溶性重合体を用いた中和方法、若しくは当該水溶性重合体を用いた中和工程を含む水溶性重合体の製造方法である。
【0060】
以下に好ましい連続的重合工程を詳述する。
本発明の好ましい水溶性重合体の重合工程は、タンク及びその外部を循環する配管により構成される循環ラインを有する反応装置に重合性不飽和結合を有する単量体を含む循環液を循環させて水溶性重合体を連続的に製造する工程と、循環液の一部を排出ラインから取り出す工程とを有するものである。すなわち、タンクと循環ラインとを必須として有する反応装置、及び、排出ライン(以降、反応装置と排出ラインとを含めて「製造装置」ともいう。)によって水溶性重合体を製造するものである。
上記タンクの外部を循環する配管により構成される循環ラインは、少なくとも1箇所に冷却器が備えられたものであり、冷却器を備えることにより、重合熱、希釈熱、中和熱、分解熱、溶解熱等からもたらされる反応熱を除去することができ、反応装置内の温度分布を均一なものとすることができるとともに、温度を容易に制御することができるため、Mw/Mnが狭い水溶性重合体を得ることができる。冷却器を備えず、上述した反応熱を充分に除去しない場合、反応が急激に促進し、例えば、沸点に達したり、マイケル付加物が多量に発生したり、連鎖移動剤を用いても、連鎖移動剤として働かなくなったりして、ハンドリングができなくなるおそれがある。本発明においては、例えば、(メタ)アクリル酸やその塩、エステル等、アクリルアミドやそのN−置換体等の重合が速く進む反応に好適に適用できるものであり、この場合、冷却により充分にマイルドな重合反応とすることができる。特にアクリル酸及び/又はその塩の重合反応においては、後述するように、用いる開始剤等の反応条件によっては、30秒で90%以上の原料が水溶性重合体に転換するほど反応が速く、それに伴う反応熱も大きいことから、該反応熱を除去する冷却器を備えることが好ましい。
【0061】
上記冷却器としては、循環ラインに備えることができ、冷却器内を通過する循環液の温度を下げて反応熱の少なくとも数%を除くことができるものであればよく、例えば、発生する反応熱の30%以上を除去できるものであることが好ましい。反応熱の除去が充分でない場合には、得られる水溶性重合体のMw/Mnを充分に狭くできなくなるおそれがある。より好ましくは、50%以上を除去できることであり、更に好ましくは、70%以上を除去できることである。反応熱の除去により、例えば、循環液の反応温度(重合温度)を後述の好適な範囲とすることができる。
上記冷却器としては、また、循環液の体積V[m]と冷却器の伝熱面積S[m]との間の関係が、S/V以上を満たすものであれば好ましい。冷却器がこのような要件をみたすことにより、循環液を充分に冷却することができ、本発明の作用効果を発揮することができる。より好ましくは、6.5以上であり、更に好ましくは、8以上である。
上記冷却器としては、反応熱の除去効率か、S/Vの少なくとも一方が上記要件を満たすものであればよいが、両者をともに満足するものであることが好ましい。
上記冷却器の構造としては、上記作用効果を発揮する限り、形状、形式、設置個数、設置位置等は特に限定されない。冷却器の形状、形式としては、例えば、多管円筒型、二重管式、プレート式、エアクーラー、イリゲーションクーラー、コイル式、渦巻き式、ジャケット等、一般に広く用いられる冷却器・熱交換器のいずれを採用してもよく、単独又は組み合わせて使用することが可能である。また、ジャケット等の場合、配管やタンクに接している長さ等は、特に制限されない。冷却器の設置個数としては、一つであってもよく、複数であってもよい。複数設置する場合は、一ヶ所に複数設置されていてもよく、分散して配置されていてもよいが、冷却効率がよい分散配置が好ましい。例えば、発生する反応熱量が多い場合は、分散して複数設置することが好ましい。また設置位置としては、循環ラインにあればよく、タンクに設置していてもよいが、タンクに設置される場合、温度と濃度に勾配ができ、分子量分布が拡大するおそれがあるため、このような勾配に充分注意して設置する必要がある。
【0062】
なお、例えばジャケットや二重管を備えずに配管長を長くするだけでも放熱が大きくなり循環液温度は低下するが、配管及び装置敷設の建設コスト増大やポンプ能力の強化が必要であるうえに、上記冷却器の能力の条件を満たさない場合もあり、温度勾配が大きな状態が続くため重合体の物性にとっても好ましくない。また滞留時間が長くなるため、単位時間あたりの反応熱量は減少できるが、生産性の面から好ましくない。
上記タンクは、循環液を一時的に留めておくことができるものであればよく、配管に比べて充分な容積を有することが好ましい。上記重合工程においては、反応液がタンクに戻ってきて循環することになることから、当該タンクを循環液タンクという意味でリサイクルタンクともいう。タンク(リサイクルタンクとも言う。)の容積としては、循環ライン全体の10体積%以上であることが好ましい。タンクの容積が10体積%未満である場合、配管が非常に長くなる等の問題があり、それに伴う圧力損失等の観点からも、重合反応が進行する反応器として充分には機能せず、水溶性重合体の生産性を充分には高くできないおそれがある。より好ましくは、30体積%以上である。
【0063】
上記タンクは、循環液を保持・循環するだけでなく、重合反応が進行する反応器として機能することが好ましい。
上記タンクが反応装置の一部を構成していることで、水溶性重合体の生産性を高くすることができ、重合液の濃度や単量体フィード量を高くしても、所望の低分子量の重合体を得ることができる。タンク(リサイクルタンクとも言う。)を有しないループ型反応器(循環ライン)を用いた連続的重合法では、生産性を高めようとして重合液の濃度や単量体フィード量を高くすると、所望の低分子量の重合体を得ることができなくなる。これに対して上記重合工程では、ループ型反応器(反応装置)内にリサイクルタンクを備えているため、重合液の濃度や単量体フィード量を高くしても、所望の低分子量の重合体を得ることができ、生産性よく製造することができる。
このため、タンクは撹拌機及び重合開始剤や重合促進剤、連鎖移動剤等の添加剤を供給するノズルを有することが好ましい。つまり、リサイクルタンク内の循環液を撹拌したり、重合開始剤や重合促進剤、連鎖移動剤を添加して重合を進行させることが好ましい。主に重合反応が進行することが好ましい。リサイクルタンクには、必要に応じて気液分離器を設けて、ガスを抜きながら循環ライン内を循環させてもよい。
本重合工程に使用する製造装置の材質としては、伝熱及び耐食性の点から、SUS製のものが好ましく、具体的には、SUS304、SUS316、SUS316L等が挙げられる。これらの場合にはまた、従来公知のスケール防止剤を塗布したり、これ(従来公知のスケール防止剤)を水性懸濁混合物(循環液)中に添加することも可能である。なお、以下において本発明の製造装置に設置されてもよい各種供給口等においても同様である。
本重合工程において、原料の供給口の設置位置は、特に限定されず、製造装置(タンク、循環ライン及び排出ライン)のどの位置であってもよいが、循環ラインに原料供給口が備えられたものであることが好ましい。循環ラインに原料を供給することで、撹拌が必ずしも必要でなくなり、装置面、コスト面で有利となる。上記原料供給口の設置個数は、特に限定されず、少なくとも1個以上であればよい。このように、上記循環ラインが、少なくとも1箇所に原料供給口が備えられたものである形態は、本重合工程の好ましい形態の一つである。
【0064】
上記重合工程は、循環液の一部を排出ラインから取り出す工程を含むものであるが、排出ラインは、少なくとも1箇所に冷却器が備えられたものであることが好ましい。冷却器を排出ラインに設けることで、得られる生成物を充分に除熱することができ、重合体中の単量体除去や中和等の後工程がある場合、装置を簡略化できる利点がある。上記製造装置においては、循環液の原料の濃度分布を均一にするために、循環液を混合する装置が少なくとも1つ製造装置(タンク、循環ライン及び排出ライン)に設置されていることが好ましい。混合装置としては、例えば、パドル翼、マックスブレンド(登録商標)、アンカー翼等、撹拌翼に代表されるモーター駆動型、シェイカー等に代表される面駆動型、噴射衝突型、超音波分散型、モーションレスミキサー等、液の混合が充分に行えるものであれば形式は問わない。その中でもパドル翼、マックスブレンド、アンカー翼を使用した撹拌装置、モーションレスミキサーが好ましい。より好ましくは、撹拌装置、モーションレスミキサーであり、更に好ましくは、モーションレスミキサーである。
【0065】
上記混合装置の設置位置としては、循環液を混合できる形態であれば特に限定されず、製造装置の中でも、反応装置に設置されていることが好ましい。その設置形態としては、(1)タンク内に通常の撹拌機を設置する形態、(2)循環ラインに、モーションレスミキサーを設置する形態、(3)循環ラインに、撹拌装置を設置する形態(撹拌型反応装置を循環ラインに設置する形態)、(4)循環ライン及びタンクの外部から、超音波等の外力により混合する形態等の1種又は2種以上が好適である。これらの中でも、(1)及び(2)を併用する形態が好ましく、循環液がタンク内及び循環ラインの双方で均一なものとすることができる。上記(2)の形態においては、撹拌能力に優れたモーションレスミキサーを循環ラインに設けることで、循環液、原料、及び、後述する開始剤等がより効率的に混合し、濃度勾配が減少し、循環液がより均一にできる利点がある。このように、循環ラインが、モーションレスミキサーを有する形態は、本重合工程の好ましい形態の一つである。なお、本重合工程においては、特に循環ラインに撹拌装置を設置する場合には、撹拌装置としてモーションレスミキサーが好ましいが、その他の撹拌装置であっても本発明の作用効果を発揮する限り特に限定されず、以下において、モーションレスミキサー以外の撹拌装置をモーションレスミキサーの代わりに、又は、併用して用いてもよい。
【0066】
上記原料供給口は、循環ライン内の循環液の流路方向において冷却器からタンクまでの間に位置していてもよく、タンクから冷却器までの間に位置していてもよく、いずれの形態であっても好ましい。冷却器からタンクまでの間に位置する場合は、原料を冷却器の下流側で供給することにより、配管内が閉塞する等、不測の事態が起こっても復旧が容易であるという利点がある。タンクから冷却器までの間に位置する場合は、著しく反応熱が大である反応系において、好ましくない副反応を抑制できるという利点がある。循環ラインにモーションレスミキサーを有する場合は、原料供給口は、循環ライン内のいずれに置いてもよく、例えば、循環ラインにモーションレスミキサーを設置した揚合、モーションレスミキサー内、循環ライン内の循環液の流路方向において、タンクからモーションレスミキサーまでの間、モーションレスミキサーからタンクまでの間のいずれに置いてもよい。これらの中でも、モーションレスミキサー内、又は、循環ライン内の循環液の流路方向においてタンクからモーションレスミキサーまでの間に位置することが好ましい。原料をモーションレスミキサー内又はその直前で添加することにより、モーションレスミキサーにより直ちに撹拌されることになり、原料の濃度分布が均一になり、Mw/Mnの狭い水溶性重合体を得ることができる。原料供給口としてより好ましくは、循環液の流路方向において冷却器からモーションレスミキサーの間に設置されることである。
【0067】
本重合工程においては、重合開始剤を添加してもよく、その供給位置及び個数としては、本発明の作用効果が発揮される限り特に限定されず、製造装置のどの位置に設置されてもよい。すなわち上記循環ラインは、循環液の流路方向において、(1)冷却器からタンクまでの間に開始剤供給口(重合開始剤供給口)を有してもよく、(2)タンクから冷却器までの間に開始剤供給口を有してもよい。(1)のような位置に開始剤供給口を少なくとも1つ設けることにより、タンクに戻る際に定温としやすく、温度勾配を極めて小さくできるという利点がある。(2)のような位置に開始剤供給口を少なくとも1つ設けることにより、著しく速い反応系において、開始剤濃度が均一となっており、投入口での望まざる暴走反応を抑制できるという利点がある。タンクとその外部を循環する配管により構成される循環ラインを有する反応装置において、その循環ラインに冷却器と、原料供給口と、開始剤供給口とを有する反応装置での水溶性重合体の連続的製造方法もまた、本重合工程の好ましい形態の一つである。
【0068】
なお、上記循環ラインがモーションレスミキサーを有する場合、重合開始剤は、循環ライン内の循環液の流路方向においてモーションレスミキサーからタンクまでの間に供給するか、タンクからモーションレスミキサーまでの間に供給することが好ましい。いずれの場合でも、モーションレスミキサーにより循環液の混合を充分に行うことができる。
上記重合工程においては、排出ラインから循環液の一部を取り出す工程を含むものであり、少なくとも1個の排出ラインを有するものである。排出ラインの設置位置としては、本発明の作用効果を発揮する限り特に限定されず、反応装置(タンク、循環ライン)のいずれの位置であってもよいが、ラインの簡略化によるメンテナンスの容易さ、コストから勘案して、循環ラインに設置されていることが好ましい。より好ましくは、配管経路の単純化、設備の簡略化の観点から、排出ラインは、循環液の流路方向において、タンクから冷却器までの間に位置することであり、タンクから原料供給口までの間に位置することである。循環液の流路方向において、タンク、冷却器、原料供給口がこの順に配置される場合には、タンクから冷却器までの間に位置することが、更に好ましい。また、タンク、原料供給口、冷却器がこの順に配置される場合には、タンクから原料供給口までの間に位置することが、更に好ましい。このような位置に設置することにより、循環液の単量体濃度が循環ライン内で最も低く、重合が最も進んだ溶液を取り出すことができる。
【0069】
本重合工程においては、原料供給口での単量体添加量に対するタンク入口での単量体転化量を示す転化率が、90%以上であることが好ましい。90%未満であると、残存単量体が多く、また生産性が低下するおそれがある。より好ましくは、96%以上であり、更に好ましくは、99%以上である。上記転化率は、例えば、単量体としてアクリル酸ナトリウムを用い、ポリアクリル酸ナトリウム(PSA)を得る場合において開始剤量、移動剤量、促進剤量、温度、滞留時間を種々に変化させ得られた反応速度解析によるシミュレーションの結果から、アレニウスの式に基づいて算出することができる。なお、上記転化率としては、攪拌槽式連続反応装置(continuous stirred tank reactor;CSTR)において、(メタ)アクリル酸(塩)/(メタ)アクリル酸エステル等のコポリマーの場合は、PSA等のホモポリマーの場合と異なる可能性があるが、転化率の好ましい範囲としては、上述のとおりである。上記単量体の詳細については後述する。このように、上記重合工程は、タンク入口での単量体転化率が90%以上である水溶性重合体の連続的重合工程もまた、本重合工程の好ましい形態の一つである。
本重合工程においては、循環ライン内における重合反応を加圧条件下でも行うことができる。循環ライン内における重合反応を加圧下で行うことにより、高温で反応を行うことができ、反応を促進させることで残存単量体が少なく、また生産性の向上も期待できる。循環ライン内における重合反応は、例えば、循環液の流量や温度等を制御することにより加圧下で行うことができる。上記循環ライン内の圧力としては、特に限定されないが、0.1MPa〜3.0MPaが好ましい。より好ましくは、0.12MPa〜1.0MPaである。なお、前記重合反応を加圧下で行うことは、循環ライン内に限定されず、タンク及び/又は循環ライン中における重合反応を加圧下で行うことも可能である。
【0070】
本重合工程で使用される好ましい製造装置は、排出ラインを備えるものであるが、該排出ラインは、モーションレスミキサーを有することが好ましい。このように排出ラインに少なくとも1以上のモーションレスミキサーを設けることで、残存単量体を除くための開始剤の添加や、重合体の中和等、次工程が容易に行える。このように、排出ラインには、アルカリ剤、原料、連鎖移動剤、重合開始剤及び酸化剤からなる群より選ばれる一種以上の剤が供給されてもよい。その他の成分が排出ラインに供給されてもよい。このような供給口は、排出ラインに1箇所又は2箇所以上設けてもよい。
【0071】
本重合工程は、高い重合濃度で反応させることができ、熟成工程を必要としないことから、短い反応(滞留)時間で、重合反応させることができる。滞留時間は、反応液の総量/単位時間あたりの排液量をいう。上記滞留時間としては、240分以下であることが好ましい。このような滞留時間であることにより、Mw/Mnの狭い重合体を高い生産性を保持し、水溶性重合体を効率よく得ることができる。また、得られる水溶性重合体の分子量分布をシャープなものとすることができ、クレイ分散性等の各種特性に優れた水溶性重合体とすることができる。より好ましくは、120分以下であり、更に好ましくは、80分以下であり、特に好ましくは、60分以下である。下限として、3分以上である。このように、本重合工程において、タンク及び循環ラインでの循環液の滞留時間が、240分以下である形態は、本発明の好ましい形態の一つである。このように、滞留時間が短いため、高い生産性が実現できるが、単位時間あたりの反応熱量は大きくなる。したがって本発明では、上述した冷却器を製造装置に有することにより、反応熱を充分に除去し、反応系中の温度勾配を小さくすることができ、該製造方法の特性を最もよく発現することができる。本発明の水溶性重合体の製造方法や中和方法は、上記した好ましい方法(重合工程)で得られた水溶性重合体を用いて、本発明の特定の方法で中和を行うことがより好ましい。
【0072】
本発明においては、狭いMw/Mnの水溶性重合体を用いることが好ましいが、洗剤用ビルダーや分散剤、スケール防止剤等として供される場合、重量平均分子量(Mw)は、1500〜30000であることが好適であり、2000〜20000が好ましく、3500〜15000がより好ましく、4000〜12000が更に好ましい。また、上記水溶性重合体が、(メタ)アクリル酸(塩)のホモポリマーである場合には、重量平均分子量(Mw)は、1500〜30000であることが好適であり、2000〜12000であることが好ましく、2000〜10000であることがより好ましい。この分子量範囲においてMw/Mnが狭くなることにより、同程度の重合度の重合体をより多く得られることとなり、例えば分散剤では分散性の向上等、剤の性能に好ましい影響を与えることとなる。Mw/Mnは、7以下が好ましく、5以下がより好ましく、3.5以下が更に好ましく、3.2以下が特に好ましく、2.7以下が最も好ましい。
上記水溶性重合体のMw/Mnは、重量平均分子量(Mw)が1500〜30000、好ましくは、2000〜20000の場合に、7以下であることが好ましく、3.5以下であることがより好ましい。Mw/Mnがこのような範囲のものであると、洗剤ビルダー、スケール防止剤、無機顔料分散剤等の用途に好適に用いることができる。Mw/Mn、及び、重量平均分子量(Mw)として、Mwが1500〜30000、好ましくは、2000〜15000の場合に、Mw/Mnが6.5以下であることが好ましく、2.9以下であることがより好ましい。また、Mwが2000〜12000の場合に、Mw/Mnが5以下であることが好ましく、2.7以下であることがより好ましい。
このように、上記水溶性重合体のMw/Mnは、重量平均分子量(Mw)が1500〜30000、好ましくは、2000〜20000の場合に、7以下である水溶性重合体が好ましく、水溶性重合体のMw/Mnは、重量平均分子量(Mw)が1500〜30000、好ましくは、2000〜12000の場合に、5以下である水溶性重合体がより好ましい。
【0073】
(水溶性重合体水溶液)
本発明の水溶性重合体水溶液は、水溶性重合体と水を必須成分として含む。本発明の水溶性重合体水溶液における水溶性重合体の含有量は、水溶性重合体水溶液100質量%に対して、1質量%以上、80質量%以下である。水溶性重合体の含有量が80質量%を超えると、水溶液の粘度が増大する等して取り扱いが困難になるおそれがある。本発明の水溶性重合体水溶液における水の含有量は、水溶性重合体水溶液100質量%に対して、20質量%以上、99質量%以下である。
【0074】
本発明の水溶性重合体の製造方法や、水溶性重合体の中和方法は、水溶性重合体水溶液の製造方法や、水溶性重合体水溶液の中和方法(またはpH調整方法)として、好ましく適用できる。すなわち、本発明の水溶性重合体水溶液の製造方法の好ましい態様は、本発明の水溶性重合体の製造方法と同様である。また、本発明の水溶性重合体水溶液の中和方法(またはpH調整方法)の好ましい態様は、本発明の水溶性重合体の中和方法と同様である。
【実施例】
【0075】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。また、実施例における「部」、「%」は重量基準である。
【0076】
<重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)の測定>
(メタ)アクリル酸系重合体の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、共にGPC(ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー)により測定された。測定条件、装置などは以下の通りである。
GPCのカラムとしては、東ソー株式会社製G−3000PWXL(商品名)を用いた。
移動相としては、リン酸水素二ナトリウム12水和物34.5gおよびリン酸二水素ナトリウム2水和物46.2g(いずれも試薬特級)に純水を加えて全量を5000gとし、その後0.45μmのメンブランフィルターでろ過した水溶液を用いた。
検出器としては、ウォーターズ製のモデル481型を用い、検出波長UV:214nmとした。
ポンプとしては、株式会社日立製作所製のL−7110(商品名)を用いた。
移動相の流量は、0.5ml/分とし、温度は35℃とした。検量線は、創和科学製のポリアクリル酸ナトリウム標準サンプルを用いて作成した。
【0077】
〔実施例1〕
還流冷却器、攪拌機、pHセンサー、原料投入ラインを備えた容量2.5リットルのSUS製セパラブルフラスコに、純水140.0gを仕込み(初期仕込み)、攪拌下、90℃まで昇温した。
次いで、攪拌下、約90℃で一定状態の重合反応系中に、80%アクリル酸水溶液(以下、80%AAと略す。)405.0g(4.5mol)、37%アクリル酸ナトリウム水溶液(以下、37%SAと略す。)127.0g(0.5mol)、15%過硫酸ナトリウム水溶液(以下、15%NaPSと略す。)80.0g(対単量体投入量(ここで、単量体投入量とは、単量体の全ての投入量をいう。以下同様とする。)に換算すると2.4g/mol。)、35%重亜硫酸ナトリウム水溶液(以下、35%SBSと略す。)114.3g(対単量体投入量に換算すると8.0g/mol。)をそれぞれ別個の滴下ノズルより滴下した。それぞれの滴下時間は、80%AA、37%SAを240分間、35%SBS、15%NaPSを250分間とした。また、それぞれの滴下時間の間、各成分の滴下速度は一定とし、連続的に滴下した。
滴下終了後、さらに30分間に渡って反応溶液を90℃に保持して熟成し、重合を完結した。重合の完結後、反応溶液を50℃まで冷却し、48%水酸化ナトリウム水溶液(以下、48%NaOHと略す。)333.3g(4.0mol)を、攪拌下、反応溶液に徐々に滴下して中和した。この時点でのpHは、6.0であった。目標pH7.2の設定の下に、あらかじめ同様の中和条件で測定されたpH曲線をもとにして、追加の48%水酸化ナトリウム量が、自動計算により、27.7gと計算され質量流量計と連動したポンプにより、規定量を追加投入し、自動制御の中和方法によりpH7.2の水溶性重合体を得た。投入した48%水酸化ナトリウムの総量は、360.4gであった。このようにして、最終中和度が96.5モル%のポリアクリル酸ナトリウムを含む水溶液(以下、水溶性重合体水溶液(1)とする。)を得た。得られた水溶性重合体水溶液(1)の腐食性試験を及び色調安定性試験を以下の方法で実施した。結果を表1に示した。
【0078】
(腐食性試験)
イオン交換水を用いて水溶性重合体水溶液を30倍に希釈し、その溶液中へSGP鋼管(200mmΦ×40mm)を浸漬し25℃、14日間攪拌下で試験を行いSGP鋼管の重量減少を測定し腐食性(Mdd:mg/day/dm)を算出した。
【0079】
(色調安定性試験)
水溶性重合体水溶液をガラス製容器に入れ、50℃、3週間の条件で保持した後の色調をAPHA基準で測定した。
【0080】
〔実施例2〕
温度計、攪拌機、滴下ロート、pHセンサー、原料投入ライン、窒素導入管及び還流冷却器を備えたガラス製の反応容器に、イオン交換水1520部を仕込み、65℃に昇温した。
続いて、上記反応容器中に、重合開始剤としての30%過酸化水素水溶液32部を投入した。その後、上記反応容器中に、カルボキシル基を有する単量体としてのアクリル酸791.7部(11mol)、共重合性単量体としてのアクリル酸メチル258.3部(3mol)、イオン交換水150.0部を予め混合してなる混合物を3時間かけて攪拌しながら滴下した。また、これと並行して、重合開始剤としてのL−アスコルビン酸9.9部、連鎖移動剤としてのメルカプトプロピオン酸7.4部、イオン交換水232.7部を予め混合してなる混合物を3時間30分かけて滴下した。更に上記反応容器中の反応液を65℃で、1時間攪拌して重合反応を完結させた。滴下終了後、さらに60分間に渡って反応溶液を90℃に保持して熟成し、重合を完結した。重合の完結後、反応溶液を50℃まで冷却し、48%水酸化ナトリウム水溶液(以下、48%NaOHと略す。)825g(9.9mol)を、攪拌下、反応溶液に徐々に滴下して中和した。この時点でのpHは、5.8であった。目標pH7.2の設定の下に、あらかじめ測定されたpH曲線をもとにして、追加の48%水酸化ナトリウム水溶液量が、自動計算により、64.2gと計算され質量流量計と連動したポンプにより、規定量を追加投入し、自動制御の中和方法によりpH7.3の水溶性重合体を得た。投入した48%水酸化ナトリウムの総量は、143.7gであった。
重量平均分子量が64000、不揮発分の濃度が31%であるアクリル酸ナトリウム/アクリル酸メチル共重合体ナトリウム塩の水溶液(以下、水溶性重合体水溶液(2)とする。)を得た。実施例1と同様にして腐食性と色調安定性の評価を行い結果を表1に記載した。
【0081】
〔実施例3〕
還流冷却器、攪拌機、pHセンサー、原料投入ラインを備えた容量2.5リットルのSUS製セパラブルフラスコに、純水140.0gを仕込み(初期仕込み)、攪拌下、90℃まで昇温した。
次いで、攪拌下、約90℃で一定状態の重合反応系中に、80%アクリル酸水溶液(以下、80%AAと略す。)405.0g(4.5mol)、15%過硫酸ナトリウム水溶液(以下、15%NaPSと略す。)90.0g(対単量体投入量(ここで、単量体投入量とは、単量体の全ての投入量をいう。以下同様とする。)に換算すると3.0g/mol。)、30%次亜燐酸ナトリウム水溶液(以下、30%SHPと略す。)22.5g(対単量体投入量に換算すると1.5g/mol。)をそれぞれ別個の滴下ノズルより滴下した。それぞれの滴下時間は、80%AAを240分間、30%SHP、15%NaPSを270分間とした。また、それぞれの滴下時間の間、各成分の滴下速度は一定とし、連続的に滴下した。
滴下終了後、さらに60分間に渡って反応溶液を90℃に保持して熟成し、重合を完結した。重合の完結後、反応溶液を50℃まで冷却し、48%水酸化ナトリウム水溶液(以下、48%NaOHと略す。)337.5g(4.05mol)を、攪拌下、反応溶液に徐々に滴下して中和した。この時点でのpHは、5.9であった。目標pH7.2の設定の下に、あらかじめ測定されたpH曲線をもとにして、追加の48%水酸化ナトリウム量が、自動計算により、24.4gと計算され質量流量計と連動したポンプにより、規定量を追加投入し、自動制御の中和方法によりpH7.2の水溶性重合体を得た。投入した48%水酸化ナトリウムの総量は、361.9gであった。実施例1と同様にして腐食性と色調安定性の評価を行い結果を表1に記載した。
【0082】
〔実施例4〕
2Lのガラス製セパラブルフラスコに反応液抜き出し用のポンプを備え、冷却器、pHセンサー、スタティックミキサー、開度調節が可能な循環ライン、原料供給ライン及び系外抜き出しラインを有するループライン型反応器を準備した。セパラブルフラスコに水720gを予め仕込んでおき、90℃まで加熱した。その条件下で反応液抜き出し用ポンプを起動させ、フラスコ内の温度が90℃を維持するように冷却水温および冷却水量を調整しながら、原料供給ラインからそれぞれ80重量%アクリル酸水溶液(80%AA)900g/hr、48重量%水酸化ナトリウム水溶液(48%NaOH)41.66g/hr、15%過硫酸ナトリウム水溶液(15%NaPS)133g/hr、35重量%亜硫酸水素ナトリウム水溶液(35%SBS)171g/hr、5質量ppmモール塩(硫酸鉄(II)アンモニウム・6水和物)水溶液194.3g/hrをそれぞれ別の投入口より連続的に滴下した。
なお加えたモノマー、開始剤、連鎖移動剤及び触媒水溶液(モール塩水溶液)の合計質量は、1440g/hrであり、滞留時間は30分とした。また、循環比(=循環量/系外抜き出し液量)は10となるように開度を調整した。反応液を連続的に抜き出しつつ48重量%水酸化ナトリウムを連続的に添加して中和し、中間タンクに一時投入した。この時点でのタンク内の反応液のpHは6.8であった。中間タンクへの投入速度と同速度で反応液を抜き出し、抜き出し配管に、残りの水酸化ナトリウム水溶液を連続的に添加した。ここで、残りの水酸化ナトリウム水溶液の添加速度は、あらかじめ測定されたpH曲線(同条件の反応液をバッチで中和して得られたデータ)をもとにして、反応液のpHの測定値と目標pHの7.2との差より追加の48%水酸化ナトリウム量をコンピュータに自動計算させ、抜き出し速度に応じた必要量を連続的に追加で、自動投入を行いpH7.2±0.2の範囲に維持した。8時間の連続重合を行い、最後の3時間の反応液の分取を行い、pHを測定したところ、最終的にpH7.2の水溶性重合体が得られた。実施例1と同様にして腐食性と色調安定性の評価を行い結果を表1に記載した。
【0083】
〔実施例5〕
2Lのガラス製セパラブルフラスコに反応液抜き出し用のポンプを備え、冷却器、pHセンサー、スタティックミキサー、開度調節が可能な循環ライン、原料供給ライン及び系外抜き出しラインを有するループライン型反応器を準備した。セパラブルフラスコに水1440gを予め仕込んでおき、90℃まで加熱した。その条件下で反応液抜き出し用ポンプを起動させ、フラスコ内の温度が90℃を維持するように冷却水温および冷却水量を調整しながら、80重量%アクリル酸水溶液(80%AA)850g/hr、48重量%水酸化ナトリウム水溶液(48%NaOH)41.66g/hr、35重量%次亜燐酸ナトリウム水溶液(35%SHP)80.9g/hr、15%過硫酸ナトリウム水溶液(15%NaPS)188.8g/hr、5質量ppmモール塩(硫酸鉄(II)アンモニウム・6水和物)水溶液278.64g/hrをそれぞれ別の投入口より連続的に滴下した。
なお加えたモノマー、アルカリ剤、開始剤、連鎖移動剤及び触媒水溶液(モール塩水溶液)の合計質量は、1440g/hrであり、滞留時間は60分とした。また、循環比(=循環量/系外抜き出し液量)は10となるように開度を調整した。反応液を連続的に抜き出しつつ48重量%水酸化ナトリウムを連続的に添加して中和し、中間タンクに一時投入した。この時点でのタンク内の反応液のpHは6.8であった。中間タンクへの投入速度と同速度で反応液を抜き出し、抜き出し配管に、残りの水酸化ナトリウム水溶液を連続的に添加した。ここで、残りの水酸化ナトリウム水溶液の添加速度は、あらかじめ測定されたpH曲線(同条件の反応液をバッチで中和して得られたデータ)をもとにして、反応液のpHの測定値と目標pHの7.2との差より追加の48%水酸化ナトリウム量をコンピュータに自動計算させ、抜き出し速度に応じた必要量を連続的に追加で、自動投入を行いpH7.2±0.2の範囲に維持した。8時間の連続重合を行い、最後の3時間の反応液の分取を行い、pHを測定したところ、最終的にpH7.2の水溶性重合体が得られた。実施例1と同様にして腐食性と色調安定性の評価を行い結果を表1に記載した。
【0084】
【表1】

【0085】

〔比較例1〕実施例3において、中和の際に47%水酸化ナトリウム143.7gをpH測定を行わずに投入した以外は、実施例3と同様に実験を行った。得られた水溶性重合体のpHは、6.5であった。実施例1と同様にして腐食性と色調安定性の評価を行い結果を表2に記載した。
【0086】
〔比較例2〕実施例3において、中和の際に49%水酸化ナトリウム143.7gをpH測定を行わずに投入した以外は、実施例3と同様に実験を行った。得られた水溶性重合体のpHは、12.5であった。実施例1と同様にして腐食性と色調安定性の評価を行い結果を表2に記載した。
【0087】
【表2】

【0088】

上記の結果から、本発明の製造方法(あるいは本発明の中和方法)により得られた(メタ)アクリル酸系重合体は、従来の重合体と比較して、良好な腐食性試験と色調安定性試験を両立することができることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ性物質と中和されていない酸基を有する水溶性重合体から、中和および/または部分中和された酸基含有水溶性重合体を製造する方法において、
製造時におけるpH測定値および当該測定値に調整するために使用した中和剤の使用量の測定値と、予め作成した重合体の中和曲線における上記pH測定値に調整するために使用する中和剤の使用量と所望のpHに調整するために更に添加する残りの中和剤の使用量の読み取り値から、残りの中和剤の添加量を計算し、その計算値に中和剤の添加量を制御する製造方法であって、上記残りの中和剤の添加量の計算および添加量の制御をコンピュータが行なうことを特徴とする水溶性重合体の製造方法。
【請求項2】
アルカリ性物質を用いて中和されていない酸基を有する水溶性重合体を中和する方法において、
中和時におけるpH測定値および当該測定値に調整するために使用した中和剤の使用量の測定値と、予め作成した重合体の中和曲線における上記pH測定値に調整するために使用する中和剤の使用量と所望のpHに調整するために更に添加する残りの中和剤の使用量の読み取り値から、残りの中和剤の添加量を計算し、その計算値に中和剤の添加量を制御する中和方法にであって、上記残りの中和剤の添加量の計算および添加量の制御をコンピュータが行なうことを特徴とする水溶性重合体の中和方法
【請求項3】
次亜燐酸塩を0.1〜1.0%(対固形分重量%)含有する状態での重合体水溶液の請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
タンク及びその外部を循環する配管により構成される循環ラインを有する反応装置に重合性不飽和結合を有する単量体を含む循環液を循環させて水溶性重合体を連続的に製造する工程と、循環液の一部を排出ラインから取り出す工程とを有する水溶性重合体の連続的製造方法であって、該循環ラインは、少なくとも1箇所に冷却器が備えられたものであることを特徴とする水溶性重合体を用いる請求項1から2に記載の製造方法。

【公開番号】特開2011−38043(P2011−38043A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−188889(P2009−188889)
【出願日】平成21年8月18日(2009.8.18)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】