説明

重合体の製造方法

【課題】ビニル単量体を30〜50質量%含有する乳化混合物を重合する重合体の製造する場合に、重合時のピーク温度を抑え、カレットの発生を増加させずに、目的とする特定の分子量の重合体を安定に生産性良く製造する。
【解決手段】ビニル単量体を30〜50質量%含有する乳化混合物にラジカル重合開始剤を投入して重合する重合体の製造方法であって、少なくともラジカル重合開始剤の投入後から、ビニル単量体の重合率が2〜50%となるまでの間、乳化混合物中に不活性ガスを導入し、重合反応時に到達するピーク温度を制御する重合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニル単量体を30〜50質量%含有する乳化混合物を重合する重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル系重合体は、塩化ビニル系樹脂用の加工助剤として使用される。塩化ビニル系樹脂は成形性が充分ではないという欠点を有しているが、アクリル系重合体を加工助剤として配合することにより、成形性の改善が可能である。加工助剤としての性能をさらに向上させるため、アクリル系重合体の分子量を特定の範囲に制御することが求められている。
アクリル系重合体の製造方法としては、アクリル系単量体を含むビニル単量体成分を乳化重合する方法がある。具体的には、まず、アクリル系単量体を含むビニル単量体、乳化剤、及び水を反応容器に仕込んで乳化混合物とし、次いで、反応容器内を窒素等の不活性ガスで置換して、重合の阻害物質である酸素を排除する。その後、反応容器内を50℃程度まで昇温してから乳化混合物にラジカル重合開始剤を投入し、所定時間攪拌することにより重合を終了させる(例えば、特許文献1及び2の実施例等参照。)。
【特許文献1】特開2005−281686号公報
【特許文献2】特開2001−31826号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、このような重合方法では、目的とする特定の分子量のアクリル系重合体を安定に生産性良く製造することは非常に困難であった。
例えば、アクリル系重合体をより高い生産性で製造するためには、ビニル単量体の仕込み量を増やし、乳化混合物中のビニル単量体の含有率を高くすることが考えられる。ところが、ビニル単量体の重合は発熱反応であるために、このようにビニル単量体の含有率を高くする(例えば、30質量%以上)と、重合反応による発熱量も大きくなり、重合時のピーク温度(最高温度)が高くなってしまう。このようにピーク温度が高くなると、ラジカル重合開始剤の分解が促進されて多量のラジカルが発生するため、生成するアクリル系重合体の分子量が低下してしまい、目的とする分子量のアクリル系重合体が得られなくなる。
【0004】
重合時のピーク温度を下げるには、より低温で重合を開始する方法が考えられる。しかしながら、低温ではラジカル重合開始剤を投入してから重合が開始するまでの誘導時間(インダクションピリオド)が長くなる。このように、全体の重合時間が長くなれば、重合体の生産性が低下してしまう。
【0005】
誘導時間を短縮して重合体の生産性を高めるには、反応系内の酸素を充分に排除することが必要である。具体的には、重合開始前に反応系内に不活性ガスを充分に導入させ、且つ、重合終了時まで不活性ガスの導入を継続する方法が挙げられる。反応系内から酸素を排除するには、不活性ガスを乳化混合物中へ導入するのが効率的である。
しかしながら、乳化混合物中のビニル単量体の含有率を高くした場合には、不活性ガスを乳化混合物中に導入することによって、重合体の凝集物(カレット)の発生が増加するという問題を有している。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、ビニル単量体を30〜50質量%含有する乳化混合物を重合する重合体の製造方法において、重合時のピーク温度を制御し、カレットの発生を増加させず、目的とする特定の分子量の重合体を安定に生産性良く製造することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、乳化混合物中への不活性ガスの導入を、少なくともラジカル重合開始剤の投入後から、ビニル単量体の重合率が2〜50%となるまでとすることによって、重合時のピーク温度を制御でき、カレットの発生を増加させず、目的とする特定の分子量のアクリル系重合体を安定に生産性良く製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、ビニル単量体を30〜50質量%含有する乳化混合物にラジカル重合開始剤を投入して重合する重合体の製造方法であって、少なくともラジカル重合開始剤の投入後から、ビニル単量体の重合率が2〜50%となるまでの間、乳化混合物中に不活性ガスを導入し、重合反応時に到達するピーク温度を制御する重合体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ビニル単量体を30〜50質量%含有する乳化混合物を重合する重合体の製造方法において、重合時のピーク温度を制御でき、カレットの発生を増加させず、目的とする特定の分子量の重合体を安定に生産性良く製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の重合体の製造方法について、一例を挙げて具体的に説明する。
本発明において、(メタ)アクリルは、アクリル又はメタクリルを意味し、(メタ)アクリレートは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0010】
本発明のビニル単量体としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等のオレフィン系単量体;スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン等の芳香族ビニル単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル単量体等が挙げられる。これらの単量体は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
塩化ビニル系樹脂の加工助剤として用いられるアクリル系重合体を製造する場合には、ビニル単量体として、メチル(メタ)アクリレート50〜95質量%、ブチル(メタ)アクリレート5〜50質量%、及びスチレン0〜30質量%から構成される混合物を使用することが好ましい。
【0011】
本発明で用いる乳化剤としては、例えば、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ジアルキルスルホコハク酸塩等のアニオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等のノニオン性界面活性剤;アルキルアミン塩等のカチオン性界面活性剤等が挙げられる。これらの乳化剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0012】
本発明の乳化混合物は、ビニル単量体、乳化剤、及び水から構成される混合物を乳化したものである。乳化混合物に用いる水としては、不純物を含有せず重合の安定性が向上することから、脱イオン水、蒸留水が好ましい。
乳化混合物中のビニル単量体の含有率は30質量%以上であり、35質量%以上が好ましい。また、50質量%以下であり、45質量%以下が好ましい。ビニル単量体の含有率が30質量%以上であれば、得られる重合体の生産性を向上させることができる。50質量%以下であれば、重合開始温度を下げることで重合時のピーク温度を制御することができる。
【0013】
乳化混合物中の乳化剤の含有量は、ビニル単量体100質量部に対して0.5〜5.0質量部である。
乳化混合物中の水の含有率は50質量%以上であり、55質量%以上が好ましい。また、70質量%以下であり、65質量%以下が好ましい。水の含有率が50質量%以上であれば、重合開始温度を下げることで重合時のピーク温度を制御することができる。70質量%以下であれば、得られる重合体の生産性を向上させることができる。
【0014】
乳化混合物には、必要に応じて、炭酸塩、硫酸塩等の各種助剤を添加してもよい。
【0015】
本発明の乳化混合物は、ビニル単量体、乳化剤、水、及び必要に応じて各種助剤から構成される原料混合物を、公知の方法によって乳化することによって得られる。
乳化の方法としては、例えば、原料混合物を反応容器に仕込み攪拌する方法、高速回転による剪断力で乳化するホモミキサーを用いる方法、高圧発生器による噴出力で乳化するホモジナイザーを用いる方法等が挙げられる。
【0016】
次いで、反応系内(反応容器内)に乳化混合物を仕込み、不活性ガスを導入させる。反応系内への不活性ガスの導入は、反応系内に乳化混合物を仕込んだ後に開始するのでも良いし、予め反応系内に不活性ガスを導入させた状態で乳化混合物を仕込むのでも良い。
また、不活性ガスの導入による乳化混合物の発泡を抑えるために、反応系内に原料混合物を投入した状態で不活性ガスを導入し、反応系内の酸素を排除した後に原料混合物を乳化状態としても良い。
反応系内からの酸素の排除が終了した後は、不活性ガスの導入を停止しても良い。
【0017】
本発明では、反応系内に不活性ガスを導入させるため、反応系内の液相部分、即ち、乳化混合物中に不活性ガスを導入する。本発明における乳化混合物中への不活性ガスの導入は、少なくとも、ラジカル重合開始剤の投入後からビニル単量体の重合率が2〜50%となるまでの間で行う。ここで、乳化混合物中への不活性ガスの導入は、前記の乳化混合物を仕込んだ際の反応系内への不活性ガスの導入を継続して行っていてもよく、一度停止させた後、再開してもよい。一度停止した後に再開する場合には、ラジカル重合開始剤の投入前に再開してもよく、投入と同時に再開してもよい。また、重合が開始するまでの誘導時間を短くして高い生産性が達成できる範囲であれば、ラジカル重合開始剤の投入後としても構わない。
不活性ガスの導入管は、反応容器の底部に設置して液相部に開口させるのでも良いし、反応容器の上部又は側面から導入して液相部に開口させるのでも良い。不活性ガス導入管の開口部には、液相中に不活性ガスを効率良く分散させるために、多孔板等を設けることが好ましい。
【0018】
不活性ガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴン等が使用できる。
不活性ガスを導入する流量は、反応容器の大きさ、乳化混合物の量等に応じて適宜設定できるが、通常、0.1〜200Nm/hrの範囲である。
導入する不活性ガスの総量は、反応容器の大きさ、乳化混合物の量等に応じて適宜設定できるが、例えば、反応容器の容積の0.2〜10倍の量の不活性ガスをトータルで導入させるように条件を設定すればよい。
【0019】
反応容器を所定温度まで昇温した時点で、ラジカル重合開始剤を乳化混合物に投入する。ラジカル重合開始剤としては、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシラウレート、ラウロイルパーオキサイド、コハク酸パーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド等の有機過酸化物;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の無機過酸化物;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル等のアゾ化合物等が挙げられる。
【0020】
ここで投入するラジカル重合開始剤の量は、ビニル単量体100質量部に対して、0.005〜5.0質量部であり、好ましくは0.01〜2.0質量部である。
また、ラジカル重合開始剤として有機過酸化物または無機過酸化物を用いる場合には、還元剤を併用して、レドックス系開始剤としても良い。還元剤としては、硫酸第一鉄/グルコース/ピロリン酸ナトリウム、硫酸第一鉄/デキストロース/ピロリン酸ナトリウム、硫酸第一鉄/ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート/エチレンジエアミン酢酸塩等の混合物等が挙げられる。
【0021】
ラジカル重合開始剤を投入すると、誘導時間が経過した後に重合が開始する。この際、ラジカル重合開始剤の投入した時に、反応容器内へ不活性ガスを導入することによって、不活性ガスを導入しない場合に比べて誘導時間を非常に短くすることができ、重合を速やかに開始させることができる。
一般に、ラジカル重合開始剤や必要に応じて使用される還元剤を反応容器内に投入すると、これに同伴して空気が反応容器内に新たに持ち込まれ、その空気内の酸素による重合阻害のために誘導時間が長くなる傾向にある。しかしながら、上述のように、ラジカル重合開始剤の投入時に反応容器内に不活性ガスを導入することによって、新たに持ち込まれた酸素を排除でき、誘導時間を最小限に短縮することができる。
【0022】
本発明では、重合反応時に到達するピーク温度を制御することが重要であり、例えば、ラジカル重合開始剤を投入する温度を低くすることで重合反応時のピーク温度を低くすることができる。
誘導時間は一般に重合温度に依存し、温度が低くなると長くなる傾向にある。しかし、反応系内に不活性ガスを導入することにより、低温でも最小限の誘導時間で重合を開始させることができるようになる。その結果、重合時のピーク温度を制御して、目的とする特定の分子量の重合体を安定に生産性良く製造できるようになる。
即ち、重合体を高い生産性で製造しようとして、乳化混合物中のビニル単量体の含有率を30〜50質量%とすると、重合反応による発熱量が大きくなり、ピーク温度が高くなってしまう。ピーク温度が高くなると、ラジカル重合開始剤の分解が促進されて多量のラジカルが発生するため、生成する重合体の分子量が低下してしまい、目的とする分子量の重合体が得られなくなる。
【0023】
ピーク温度の高温化を抑制するためには、より低温から重合を開始する方法が考えられるものの、低温ではラジカル重合開始剤を投入してからの誘導時間が長いため、結局、重合体を得るまでに長時間を要し、生産性を維持できない。
しかしながら、不活性ガスを乳化混合物中に導入することにより反応系内に不活性ガスを導入しておき、さらに、少なくとも、ラジカル重合開始剤の投入後からビニル単量体の重合率が2〜50%となる間にも不活性ガスを導入させれば、新たに持ち込まれる酸素を充分に排除できるため、低温でも最小限の誘導時間で速やかに重合を開始させることができるようになる。その結果、ピーク温度を精度よく安定に制御できるようになり、目的とする特定の分子量の重合体を安定に生産性良く得られるようになる。
【0024】
例えば、塩化ビニル系樹脂の加工助剤として用いられるアクリル系重合体を製造する場合、乳化混合物中のビニル単量体の含有率を30〜50質量%の範囲で変動させるとともに、ラジカル重合開始剤の投入温度を30〜50℃の間で変動させたとしても、このように不活性ガスを導入することにより、ピーク温度を70〜105℃程度に制御することができる。よって、アクリル系重合体の分子量を制御することが可能であり、塩化ビニル系樹脂の加工助剤として好適な特定の範囲の分子量を有するアクリル系重合体を、安定に製造することができる。
【0025】
不活性ガスは、ビニル単量体の重合率が2〜50%の時点で反応系内への導入を停止する、即ち、乳化混合物中への導入を停止する。
ビニル単量体の重合率が2%以上で不活性ガスの導入を停止すれば、重合初期の重合速度が上がり、生産性が高くなる。また、ビニル単量体の重合率が50%以下で不活性ガスの導入を停止すれば、カレットが生じず、重合の安定性や、重合体の品質が良好になる。不活性ガスの導入の停止は、ビニル単量体の重合率が5〜30%の時点が好ましく、5〜20%の時点がより好ましい。
不活性ガスの導入を停止した後は、所定時間、反応容器内の攪拌を続けて、重合を終了する。
【0026】
こうして得られた重合体ラテックスは、硫酸、塩酸、燐酸等の酸;塩化アルミニウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、酢酸カルシウム等の塩等の電解質を用い、ラテックスを凝析させて重合体を沈殿させ、さらに濾過、洗浄、乾燥等を行なう方法により、粉末状の重合体として回収することができる。また、その他に、噴霧乾燥法、凍結乾燥法等の公知の回収方法により重合体を回収してもよい。
【0027】
以上説明した方法によれば、低温でラジカル重合開始剤を投入した場合の誘導時間を最小限にできるとともに、重合初期の重合速度を良好に維持することができる。よって、発熱反応である重合反応において乳化混合物中のビニル単量体の含有率を高くした場合でも、ピーク温度を制御でき、目的の分子量の重合体を安定に得ることができ、また、その際に、重合の終了までに長時間を要することもない。
こうして製造される重合体は種々の用途に使用できるが、例えば、塩化ビニル系樹脂の加工助剤として用いられるアクリル系重合体等、分子量が特定の範囲であることが求められる用途で特に好適に使用される。
【実施例】
【0028】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。尚、以下において、「部」及び「%」は、それぞれ「質量部」及び「質量%」を表す。
【0029】
[重合率の測定]
以下の手順により、ビニル単量体の重合率を測定した。
1)アルミ皿を精密天秤に載せ、その質量を0.1mgの単位まで測定する。(A)
2)アルミ皿に重合体ラテックスを約1.0g採取し、その質量を0.1mgの単位まで測定する。(B)
3)重合体ラテックスの入ったアルミ皿を180℃の乾燥機に入れ、1時間乾燥する。
4)重合体ラテックスの入ったアルミ皿を乾燥機から取出し、デシケーターに移して冷却後、質量を0.1mgの単位まで測定する。(C)
5)以下の式にて、重合体ラテックスの固形分を算出する。
(C−A)/(B−A)×100 [%]
6)算出した固形分を、仕込み時の乳化混合物中のビニル単量体の含有率[%]で割り、ビニル単量体の重合率を算出する。
【0030】
[実施例1]
攪拌機を有し、底部に窒素の導入管を有する反応容器に、下記の原料混合物を投入し、攪拌した。
原料混合物:
メタクリル酸メチル 76部
アクリル酸ブチル 24部
無水炭酸ナトリウム(和光純薬工業(株)製) 0.1部
脱イオン水 144部
【0031】
反応容器内の液相部(原料混合物中)に窒素を導入し、流量0.8Nm/hrで2時間バブリングし、反応容器内を窒素で置換した。
窒素置換後に下記の乳化剤混合物を投入し、反応容器内の攪拌を継続することにより、上記の原料混合物を乳化し、乳化混合物を調製した。
乳化剤混合物:
ラウリル硫酸ナトリウム(「エマール2F」:花王(株)製) 1.4部
脱イオン水 5部
【0032】
反応容器内の昇温を開始し、温度が46℃に達した時点で、下記の開始剤混合物を投入した。
開始剤混合物投入後の、乳化混合物中のビニル単量体の含有率は39%である。
開始剤混合物の投入と共に、乳化混合物中への窒素のバブリングを再開した。この際、窒素の流量は0.8Nm/hrとした。
開始剤混合物:
過硫酸カリウム 0.2部
脱イオン水 6部
【0033】
ビニル単量体の重合を開始し、重合率が10%となった時点で、乳化混合物中への窒素の導入を停止し、その後、攪拌を継続して重合を進行させた。重合終了の後、得られた重合体ラテックスは、噴霧乾燥法により粉体状の重合体として回収した。
【0034】
[実施例2]
原料混合物を下記に示す組成に変更し、重合開始温度(開始剤混合物を投入する温度)を47℃とした以外は、実施例1と同様にして重合体を製造した。
開始剤混合物投入後の、乳化混合物中のビニル単量体の含有率は37%である。
原料混合物:
メタクリル酸メチル 76部
アクリル酸ブチル 24部
無水炭酸ナトリウム(和光純薬工業(株)製) 0.1部
脱イオン水 158部
【0035】
[実施例3]
原料混合物を下記に示す組成に変更し、重合開始温度を49℃とした以外は、実施例1と同様にして重合体を製造した。
開始剤混合物投入後の、乳化混合物中のビニル単量体の含有率は35%である。
原料混合物:
メタクリル酸メチル 76部
アクリル酸ブチル 24部
無水炭酸ナトリウム(和光純薬工業(株)製) 0.1部
脱イオン水 173部
【0036】
[比較例1]
原料混合物を下記に示す組成に変更し、重合開始温度を53℃とした以外は、実施例1と同様にして重合体を製造した。
開始剤混合物投入後の、乳化混合物中のビニル単量体の含有率は28%である。
原料混合物:
メタクリル酸メチル 76部
アクリル酸ブチル 24部
無水炭酸ナトリウム(和光純薬工業(株)製) 0.1部
脱イオン水 244部
【0037】
[比較例2]
開始剤混合物の投入と共に再開した乳化混合物中への窒素のバブリングを、重合終了時まで継続したこと以外は、実施例1と同様にして重合体を製造した。
[比較例3]
開始剤混合物の投入時に、乳化混合物中への窒素のバブリングを再開しなかったこと以外は、実施例1と同様にして重合体を製造した。
実施例1〜3及び比較例1〜3の条件及び結果を表1に示す。尚、表1では、窒素の導入の停止については、導入を停止した時点のビニル単量体の重合率を示した。
【0038】
【表1】

【0039】
実施例1〜3では、重合開始温度を46〜49℃と低くすることにより、ビニル単量体の含有率が35〜37質量%である乳化混合物を使用しても、重合反応時のピーク温度を100.2〜100.6℃と低い温度に制御できている。また、ラジカル重合開始剤の投入から重合開始(発熱の開始によって検出する)までの誘導時間は24〜25分と短く、重合体の製造時にカレットは生じておらず、高い生産性で重合体が製造できた。
【0040】
一方、比較例1では、重合反応時のピーク温度は100.5℃、ラジカル重合開始剤の投入から重合開始までの誘導時間は22分であり、重合体の製造時にカレットは生じていないが、乳化混合物中のビニル単量体の含有率が28%と低いため、反応容器1基当たりの生産性が低下した。さらに、得られた重合体ラテックスの固形分が28%と低いため、噴霧乾燥時の水分乾燥エネルギーが大きくなり、乾燥工程での生産効率が低下した。
また、比較例2では、重合反応を終了させるまで窒素の導入を行ったため、得られた重合体ラテックス中にはカレットが発生していた。
また、比較例3では、ビニル単量体の含有量が39質量%である乳化混合物の重合反応において、重合開始温度を46℃にすることにより、重合反応時のピーク温度を100.2℃と制御できた。しかし、ラジカル重合開始剤の投入時に窒素の導入を再開しなかったため、重合開始までの誘導時間が59分と長くなり、重合体の生産性が低下した。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の重合体の製造方法によれば、ビニル単量体を30〜50質量%含有する乳化混合物を重合する場合であっても、重合開始までの誘導時間を短くし、重合反応時のピーク温度を制御することができる。また、カレットの発生を抑えて、目的とする特定の分子量の重合体を安定に生産性良く製造できるため、非常に有効な重合体の製造方法である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニル単量体を30〜50質量%含有する乳化混合物にラジカル重合開始剤を投入して重合する重合体の製造方法であって、
少なくともラジカル重合開始剤の投入後から、ビニル単量体の重合率が2〜50%となるまでの間、乳化混合物中に不活性ガスを導入し、重合反応時に到達するピーク温度を制御する重合体の製造方法。