説明

重合体の製造方法

【課題】有機溶媒(B)を含む重合体溶液中のイオン性不純物を除去するために、該溶液を極性溶媒(A)及びイオン交換樹脂と接触させる際に、イオン交換樹脂の触媒作用による極性溶媒(A)と有機溶媒(B)との反応を抑制する方法を提供すること。
【解決手段】極性溶媒(A)とイオン交換樹脂を用いて、イオン交換樹脂との接触により極性溶媒(A)と反応する有機溶媒(B)を含む重合体溶液中のイオン性不純物を除去する工程を含む重合体の製造方法において、該工程を行う前に、極性溶媒(A)と有機溶媒(B)とを混合した液をイオン交換樹脂と接触させる工程を含むことを特徴とする重合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合体の製造方法に係り、さらに詳しくは重合体反応有機溶媒溶液中のイオン性不純物を除去するために、該反応有機溶媒溶液をイオン交換樹脂と接触させた際に、該イオン交換樹脂の触媒作用により有機溶媒が分解されるのを抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、重合体反応有機溶媒溶液中のイオン性不純物を除去する工程において、有機溶媒を用いる非水系の場合にはイオン交換樹脂の交換能が著しく低下してしまうなどの問題があった。
有機溶媒を用いる非水系の場合のイオン交換樹脂の交換能を改善するために、特許文献1では原子移動ラジカル重合法によって得られた重合体溶液から触媒である金属錯体を除去するために、重合体のシクロヘキサン又はトルエン溶液にメタノールを添加した後、陽イオン交換樹脂と接触させることにより、金属錯体濃度を4〜6ppmまで下げることが可能であることが記載されている。
しかし、上記のような場合、メタノール等の極性溶媒存在下、有機溶媒として例えばエステル系有機溶媒を使用した場合、陽イオン交換樹脂又は陰イオン交換樹脂の酸性触媒又は塩基性触媒作用によってエステル交換反応により新たなエステル類とアルコール類が生成していた。また反応系に水分がある場合にはエステル系有機溶媒のエステル結合が加水分解し、カルボン酸類およびアルコール類が生成し、コンタミネーションの大きな要因となっていた。
【0003】
この問題を解決するため、特許文献2ではカチオン交換樹脂を含む機能性濾材に20℃の比較的低温で有機溶媒溶液を通液させて、有機溶媒の分解を抑制している。また特許文献3では固体酸性の低い有機溶媒分散剤を使用して有機溶媒の分解を抑制している。
しかしながら、イオン交換樹脂に有機溶媒を比較的高温で通液しなければならない場合や、イオン交換樹脂の酸性度を選択できない場合などにはこれらの方法を適用できず、また比較的低温下で有機溶媒をイオン交換樹脂に通液させたとしても、大なり小なり有機溶媒の分解が生じてしまい、温度条件やイオン交換樹脂の選択によらない、溶媒の分解を抑制する新たな方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−211079号公報
【特許文献2】特開2001−89661号公報
【特許文献3】特開2007−63117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、有機溶媒(B)を含む重合体溶液中のイオン性不純物を除去するために、該溶液を極性溶媒(A)とイオン交換樹脂と接触させる際に、イオン交換樹脂の触媒作用による極性溶媒(A)と有機溶媒(B)との反応を抑制する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記問題を解決すべく鋭意研究した結果、極性溶媒(A)とイオン交換樹脂を用いて、イオン交換樹脂との接触により極性溶媒(A)と反応する有機溶媒(B)を含む重合体溶液中のイオン性不純物を除去する工程の前に、極性溶媒(A)と有機溶媒(B)とを混合した液をイオン交換樹脂とあらかじめ接触させておけば、有機溶媒(B)の極性溶媒(A)との反応が飛躍的に低下して有機溶媒の反応生成物が認められなくなることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
[1]極性溶媒(A)とイオン交換樹脂を用いて、イオン交換樹脂との接触により極性溶媒(A)と反応する有機溶媒(B)を含む重合体溶液中のイオン性不純物を除去する工程を含む重合体の製造方法において、該工程を行う前に、極性溶媒(A)と有機溶媒(B)とを混合した液をイオン交換樹脂と接触させる工程を含むことを特徴とする重合体の製造方法や、
[2]極性溶媒(A)と有機溶媒(B)とを混合した液をイオン交換樹脂と接触させる工程において、極性溶媒(A)と有機溶媒(B)の反応が起こらなくなるまでイオン交換樹脂と接触させることを特徴とする前記[1]の重合体の製造方法や、
[3]有機溶媒(B)がエステル系有機溶媒であることを特徴とする前記[1]又は[2]に記載の重合体の製造方法、
[4]極性溶媒(A)が、イオン交換樹脂との接触により有機溶媒(B)とエステル交換する有機溶媒、又は水であることを特徴とする前記[1]〜[3]に記載の重合体の製造方法に関する。
【0008】
また、本発明は、
[5]イオン交換樹脂との接触により有機溶媒(B)とエステル交換する有機溶媒がアルコール類の中から選ばれる少なくとも一種を含む溶媒であることを特徴とする前記[4]の重合体の製造方法、
[6]イオン交換樹脂との接触により起こる極性溶媒(A)と有機溶媒(B)との反応が、加水分解反応、又はエステル交換反応であることを特徴とする前記[1]〜[5]の重合体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
従来、エステル系有機溶媒に溶解したイオン性不純物を除去する際、除去能を上げるために添加した極性溶媒によってエステル系有機溶媒の加水分解反応やエステル交換反応が生じ、新たに生成したエステル類、アルコール類によるコンタミネーションが大きな問題となっていた。副生するエステル類、アルコール類には沸点が高いものもあり、これらを濃縮等で除く際には大きな障害となっていた。
本発明の重合体の製造方法を用いれば、イオン性不純物を効果的に除去でき、さらに副生するエステル類、アルコール類のコンタミネーションを抑制することが可能であり、工業的に極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明で用いられる重合体は、極性溶媒(A)と有機溶媒(B)とを混合した液に容易に可溶であれば特に限定されない。例えば、分子内に水酸基を1個以上有する脂肪族又は芳香族アルコール系重合体等が挙げられる。
【0011】
分子内に水酸基を1個以上有する脂肪族又は芳香族アルコール系化合物としては、脂肪族アルコール、芳香族アルコール、糖類等が挙げられる。
【0012】
分子内に水酸基を1個以上有する脂肪族アルコール系重合体としては、ポリビニルアルコール系重合体等が挙げられる。例えば、α−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸重合体や、α−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸とエチレン性不飽和カルボン酸及びエチレン性不飽和カルボン酸エステルの中から選ばれる少なくとも1種のモノマーとの共重合体などが挙げられる。
【0013】
分子内に水酸基を1個以上有する芳香族アルコール系重合体としては、水酸基を有するスチレン系重合体が挙げられる。例えば、アルケニルフェノール系重合体、またはアルケニルフェノール系モノマーと他のビニル系モノマーとの共重合体やノボラック樹脂等が挙げられる。具体的には、o−ヒドロキシスチレン、m−ヒドロキシスチレン、p−ヒドロキシスチレン、2−(o−ヒドロキシフェニル)プロペン、2−(m−ヒドロキシフェニル)プロペン、2−(p−ヒドロキシフェニル)プロペンなどのヒドロキシスチレン類の単独または2種以上をラジカル重合開始剤、アニオン重合開始剤、またはカチオン重合開始剤の存在下で重合した樹脂が用いられる。重合後、樹脂の吸光度を下げるために水素添加を行ったものを用いてもよい。また、アルケニルフェノール系モノマーと他のビニル系モノマーとの共重合体としては、上述のアルケニルフェノール系モノマーとアクリル酸、ビニルアルコール、またはこれらの誘導体等のビニル系モノマーとの共重合体が挙げられる。ノボラック樹脂としては、具体的には、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、3−エチルフェノール、2,5−キシレノール、3,5−キシレノール、フェニルフェノール等のアルキル基またはアリール基で置換されていてもよいフェノール類;2−メトキシフェノール、4−メトキシフェノール、4−フェノキシフェノール等のアルコキシまたはアリールオキシフェノール類;α−ナフトール、β−ナフトール、3−メチル−α−ナフトール等のアルキル基で置換されていてもよいナフトール類;1,3−ジヒドロキシベンゼン、1,3−ジヒドロキシ−2−メチルベンゼン、1,2,3−トリヒドロキシベンゼン、1,2,3−トリヒドロキシ−5−メチルベンゼン、1,3,5−トリヒドロキシベンゼン等のアルキル基で置換されていてもよいポリヒドロキシベンゼン類等のヒドロキシ芳香族化合物とホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド等の脂肪族アルデヒド類、ベンズアルデヒド、ヒドロキシベンズアルデヒド等の芳香族アルデヒド類、アセトン等のアルキルケトン類等のカルボニル化合物とを、例えば、塩酸、硫酸、しゅう酸等の酸触媒の存在下、加熱し、重縮合させることにより製造されたものが挙げられる。なお、上記ヒドロキシ芳香族化合物は本発明に悪影響を与えない限りハロゲン原子、ニトロ基、エステル基等の置換基を有していてもよい。また、これらの樹脂は必要に応じ、さらに、水素等により還元し、短波長領域の吸光度を低くしたものを用いてもよい。本発明では、芳香族アルコール系重合体としてのアルケニルフェノール系重合体であるポリヒドロキシスチレン類が好ましく、特にポリ(p−ヒドロキシスチレン)が好ましい。
【0014】
本発明で用いられる有機溶媒(B)は、イオン交換樹脂が触媒として作用して、極性溶媒(A)と反応するものであれば特に限定されない。具体的には、エステル系有機溶媒、酸無水物系有機溶媒、カーボネート系有機溶媒、アミド系有機溶媒、スルホオキシド系有機溶媒などが挙げられる。上記各溶媒は、以下のものを例示することができる。
エステル系有機溶媒:酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、ブタン酸メチル、ブタン酸エチル、ブタン酸プロピル、ペンタン酸メチル、ペンタン酸エチル、ペンタン酸プロピル、乳酸メチル、乳酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、ピルビン酸プロピル、2−メトキシエチルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等。
酸無水物系有機溶媒:無水酢酸、無水プロピオン酸、無水ブタン酸等。
カーボネート系有機溶媒:炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸ジプロピル等。
アミド系有機溶媒:N−メチルピロリドン(NMP)、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等。
スルホオキシド系有機溶媒:ジメチルスルホオキシド、スルホラン等。
これ等の中でも、高い反応性を示すエステル系有機溶媒が好ましく、これらを単独あるいは混合して使用することができる。
【0015】
本発明のイオン性不純物としては、重合反応の際の触媒、又は触媒反応の停止剤が挙げられ、例えば触媒としては酸触媒や塩基性触媒が挙げられるがこれらに限定されるものではない。本発明で用いられる酸触媒として具体的には、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、臭化水素酸等の無機酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、しゅう酸等の有機酸、硫酸ピリジン塩、メタンスルホン酸ピリジン塩、p−トルエンスルホン酸ピリジン塩等の強酸弱塩基の塩、オキシ塩化リン等のルイス酸、アンバーリスト15等の酸性イオン交換樹脂、ポリリン酸、固体酸を生じるゼオライト、トリフェニルスルホニウムトリフルオロメタンスルホネート、ジフェニルヨードニウムトリフルオロメタンスルホネート等の光照射により酸を発生する化合物(光酸発生剤)等が挙げられる。本発明では、無機酸、有機酸、及び強酸弱塩基の塩が好ましく、特に塩酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸ピリジン塩、p−トルエンスルホン酸ピリジン塩が好ましい。また、反応液中における酸触媒の濃度は、本発明の効果を達成しうるものであれば特に限定されないが、通常、水酸基を有する化合物1モルに対して0.00001〜0.01モルが好ましい。
【0016】
本発明で用いられる塩基性触媒としては、トリエチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、トリブチルアミン、トリ−n−オクチルアミン、ジメチルベンジルアミン、ピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン等の3級アミン、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムブロミド、テトラエチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムブロミド等の4級アンモニウム塩、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン等のリン化合物が挙げられる。
【0017】
本発明で酸触媒を用いた場合に、反応を停止するために用いる塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、アンモニア水等の無機アルカリ類、エチルアミン、n−プロピルアミンなどの第1級アミン類、ジエチルアミン、ジ−n−プロピルアミン等の第2級アミン類、トリエチルアミン、N,N−ジエチルメチルアミン等の第3級アミン類、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルヒドロキシエチルアンモニウムヒドロキシド等の第4級アンモニウム塩等が挙げられる。本発明では、トリエチルアミン等の第3級アミンが好ましく、添加量は酸触媒に対して、1〜20倍当量が好ましい。
【0018】
本発明で塩基性触媒を用いた場合に、反応を停止するために用いる酸としては、塩酸、硫酸、燐酸、ホウ酸などの無機酸類、しゅう酸、酢酸、安息香酸、パラトルエンスルホン酸などの有機酸類が挙げられる。
【0019】
本発明で用いられる極性溶媒(A)としては、イオン交換樹脂との接触により有機溶媒(B)とエステル交換する有機溶媒、又は水が挙げられる。水としては、イオン交換水、蒸留水などの純水又は水道水を使用できる。重合体がレジストなど電子材料として製造される場合には純水がより好ましい。
【0020】
イオン交換樹脂との接触により有機溶媒(B)とエステル交換する有機溶媒としてはアルコール類が挙げられる。
アルコール類としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−n−プロポキシエタノール、2−n−ブトキシエタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル等の一価アルコール、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等の二価アルコール、1,2,4−ブタントリオール、グリセリン等の三価アルコールあるいはこれらの2種以上の混合物が挙げられる。本発明では、アルコール類として炭素数C1〜C3のアルコールが好ましく、特に炭素数C1〜C2のメタノール、エタノールがより好ましい。本発明においてアルコール類の添加量は、化合物が析出しない量が好ましく、より好ましくは溶液全体の1〜50重量%である。
【0021】
前記極性溶媒(A)としてアルコール類を使用する場合には、有機溶媒(B)に制限はないが、水を使用する場合には、有機溶媒(B)としては、1重量%以上の水溶解性を有するテトラヒドロフラン等のエーテル系有機溶媒、酢酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、乳酸エチル等のエステル系有機溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系有機溶媒、メチルエチルケトン等のケト系有機溶媒が含まれている有機溶媒系を使用することが好ましい。さらに好ましくは、エステル系有機溶媒の単独又は混合溶媒が使用される。
極性溶媒(A)と有機溶媒(B)との混合比は、該有機溶媒(B)が極性溶媒(A)に対して過剰であることが好ましい。具体的には、該有機溶媒(B)が50重量%以上の混合比であることが好ましく、70重量%以上がより好ましく、90重量%以上がさらに好ましい。極性溶媒(A)として水を使用する場合には、少なくとも水が1重量%以上混合していることが好ましい。
【0022】
本発明で用いられるイオン交換樹脂としては、陰イオン交換能を有する官能基が導入された陰イオン交換樹脂、陽イオン交換能を有する官能基が導入された陽イオン交換樹脂、さらには両性イオン交換樹脂が挙げられる。陰イオン交換樹脂や陽イオン交換樹脂は、それぞれ官能基の酸性、塩基性の強さによって、四級アミン等を官能基として持つ強塩基性陰イオン交換樹脂、三級アミン等を官能基として持つ弱塩基性陰イオン交換樹脂、スルホン酸基等を官能基として持つ強酸性陽イオン交換樹脂、カルボキシル基等を官能基として持つ弱酸性陽イオン交換樹脂に分けられる。両性イオン交換樹脂はイオン交換能を有する官能基としてアミノ基、イミノ基、アンモニウム基などの塩基性基と、フェノール性ヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホ基などの酸性基の双方を有するものである。イオン交換樹脂の樹脂母体の構造にはスチレン系、アクリル系、メタクリル系等が挙げられる。また、イオン交換樹脂には、架橋度や多孔性等、高分子基体構造の違いによって、ゲル型またはマクロポーラス型のものがある。本発明において用いることができるイオン交換樹脂は特に限定されるものではなく、一般的なイオン交換樹脂に用いられているイオン交換樹脂の種類、イオン交換能を有する官能基、樹脂母体、高分子基体構造のものを使用できる。
【0023】
本発明でのイオン交換樹脂の使用方法は、陰イオン交換樹脂、陽イオン交換樹脂、両性イオン交換樹脂のそれぞれ単独での使用、あるいはこれら2種以上を組み合わせた使用が挙げられる。陰イオン交換樹脂、陽イオン交換樹脂、両性イオン交換樹脂の2種以上を組み合わせて使用する場合には、それら2種以上の混合物を同時に使用する方法、またはそれらを別々に使用する方法が挙げられる。陰イオン交換樹脂、陽イオン交換樹脂、両性イオン交換樹脂の2種以上を別々に使用する方法には、例えば、水酸基を有する重合体を酸触媒で水酸基を保護化させて、その反応を塩基性化合物で停止させる場合、極性溶媒の存在下、最初に陰イオン交換樹脂で酸成分を除去した後、陽イオン交換樹脂で塩基性イオン交換樹脂除去する方法が挙げられる。
【0024】
本発明において好適に用いられるイオン交換樹脂およびその使用方法は、弱酸性陽イオン交換樹脂および強塩基性陰イオン交換樹脂の混合物であり、混合重量比は弱酸性陽イオン交換樹脂1に対して強塩基性陰イオン交換樹脂0.5〜10が好ましい。
【0025】
保護された水酸基を有する重合体溶液を、イオン交換樹脂と接触させる方法として、代表的なものではバッチ法とカラム法が挙げられる。バッチ法とは、保護された水酸基を有する重合体溶液中に直接イオン交換樹脂を投入し、攪拌機で攪拌しながらイオン交換樹脂を接触させる方法である。カラム法とは、所定のサイズを持つカラムにイオン交換樹脂を充填し、保護された水酸基を有する重合体溶液をカラム中に通液または循環させることによりイオン交換樹脂と接触させる方法である。
本発明では、バッチ法またはカラム法とも好適に用いられる。なお、保護された水酸基を有する重合体溶液をイオン交換樹脂と接触させるイオン交換樹脂処理の液温は10℃〜60℃が好ましい。より好ましくは20℃〜50℃である。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例によって限定されるものではない。なお実施例において、PGMEAはプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを示す。
【0027】
[実施例1]
1)保護化重合体溶液の調整
反応槽に35重量%濃度のポリp−ヒドロキシスチレンのPGMEA溶液1320.88gを仕込み、酢酸エチル689.09gおよび1重量%濃度のメタンスルホン酸PGMEA溶液4.45gを添加した。内温を9〜10℃に冷却後、エチルビニルエーテル70.91gを滴下して反応させたのち、10重量%濃度のトリエチルアミンPGMEA溶液0.95gを添加して反応を停止させ、メタノール574.75g添加して20重量%濃度の保護化重合体溶液を得た。
2)イオン交換樹脂によるイオン性不純物の除去
強塩基性陰イオン交換樹脂(オルガノ(株)社製 商品名:オルライトDS−5:スチレン系、マクロポーラス型)24.0gおよび弱酸性陽イオン樹脂(オルガノ(株)社製 商品名:アンバーライトIRC76:アクリル系、マクロポーラス型)6.0gを混合して液温40℃に保持したイオン交換樹脂カラムにPGMEA/メタノール/酢酸エチル(40/28/32)溶液を3.5L通液し、溶媒のエステル交換処理を行い、安定状態とした。このカラムに、実施例1の1)で調整した保護化重合体溶液を通液し、サンプル分取を開始した。3.5Lのサンプルを分取したところ、有機溶媒が分解して生成した極性溶媒、エステル類が認められなかった。メタンスルホン酸の濃度をイオンクロマト法により測定したところ、いずれのサンプルにおいても0.5ppm以下であった。
【0028】
[実施例2]
1)保護化重合体溶液の調整
反応槽に35重量%濃度のポリp−ヒドロキシスチレンのPGMEA溶液1250.39gを仕込み、酢酸エチル652.39gを入れて、内温を9〜10℃に冷却した。この溶液に、エチルビニルエーテル52.32gを滴下した後、1重量%濃度のメタンスルホン酸PGMEA溶液5.1g添加して反応を開始した。エチルビニルエーテル14.26gを滴下して反応をさせた後、10重量%濃度のトリエチルアミンPGMEA溶液0.89gを添加して反応を停止させ、テトラヒドロフラン/水(2/1)混合液563.11g添加して20重量%濃度の保護化重合体溶液を得た。
2)イオン交換樹脂によるイオン性不純物の除去
強塩基性陰イオン交換樹脂(オルガノ(株)社製 商品名:オルライトDS−5:スチレン系、マクロポーラス型)24.1gおよび弱酸性陽イオン樹脂(オルガノ(株)社製 商品名:アンバーライトIRC76:アクリル系、マクロポーラス型)6.1gを混合して液温40℃に保持したイオン交換樹脂カラムにPGMEA/テトラヒドロフラン/水/酢酸エチル混合溶媒を通液させ、安定状態とした。このカラムに、実施例2の1)で調整した保護化重合体溶液を3.5L通液し、溶媒の加水分解、エステル交換処理を行った後、サンプル分取を行った。3.5Lのサンプルを分取したところ、有機溶媒が分解して生成した極性溶媒、エステル類が認められなかった。メタンスルホン酸の濃度をイオンクロマト法により測定したところ、いずれのサンプルにおいても0.5ppm以下であった。
【0029】
[実施例3]
1)保護化重合体溶液の調整
反応槽に30重量%濃度のポリp−ヒドロキシスチレンのPGMEA溶液2078.31gを仕込み、PGMEA1589.08gおよび1重量%濃度のメタンスルホン酸PGMEA溶液6.00gを添加した。内温を9〜10℃に冷却後、エチルビニルエーテル157.02gを滴下して反応させたのち、5重量%濃度のトリエチルアミンPGMEA溶液2.52gを添加して反応を停止させ、水154.07g添加して20重量%濃度の保護化重合体溶液を得た。
2)イオン交換樹脂によるイオン性不純物の除去
強塩基性陰イオン交換樹脂(オルガノ(株)社製 商品名:オルライトDS−5:スチレン系、マクロポーラス型)24.0gおよび弱酸性陽イオン樹脂(オルガノ(株)社製 商品名:アンバーライトIRC76:アクリル系、マクロポーラス型)6.0gを混合して液温40℃に保持したイオン交換樹脂カラムにPGMEA/水(9/1)を通液させ、溶媒の加水分解、エステル交換処理を行い、安定状態とした。このカラムに、実施例3の1)で調整した保護化重合体溶液を3.5L通液し、サンプル分取を行った。26.5Lのサンプルを分取したところ、有機溶媒が分解して生成した極性溶媒、エステル類が認められなかった。メタンスルホン酸の濃度をイオンクロマト法により測定したところ、いずれのサンプルにおいても0.5ppm以下であった。
【0030】
[比較例]
強塩基性陰イオン交換樹脂(オルガノ(株)社製 商品名:オルライトDS−2:スチレン系、ゲル型)24.0gおよび弱酸性陽イオン樹脂(オルガノ(株)社製 商品名:アンバーライトIRA96SB:スチレン系、マクロポーラス型)6.0gを混合して液温40℃に保持したイオン交換樹脂カラムにPGMEAを通液させ、安定状態とした。このカラムに、実施例1の1)で調整した保護化重合体溶液を通液し、0.25L容器でサンプル分取を行い、全量で7.0Lの分取サンプルを得た。得られたサンプル中のメタンスルホン酸の濃度をイオンクロマト法により測定したところ、いずれのサンプルにおいても0.5ppm以下であった。しかし、3.5Lまでは酢酸エチル、PGMEAがエステル交換し、酢酸メチル、PGM(1-メトキシ2-プロパノール)がコンタミネーションした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極性溶媒(A)とイオン交換樹脂を用いて、イオン交換樹脂との接触により極性溶媒(A)と反応する有機溶媒(B)を含む重合体溶液中のイオン性不純物を除去する工程を含む重合体の製造方法において、該工程を行う前に、極性溶媒(A)と有機溶媒(B)とを混合した液をイオン交換樹脂と接触させる工程を含むことを特徴とする重合体の製造方法。
【請求項2】
極性溶媒(A)と有機溶媒(B)とを混合した液をイオン交換樹脂と接触させる工程において、極性溶媒(A)と有機溶媒(B)の反応が起こらなくなるまでイオン交換樹脂と接触させることを特徴とする請求項1に記載の重合体の製造方法。
【請求項3】
有機溶媒(B)がエステル系有機溶媒であることを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載の重合体の製造方法。
【請求項4】
極性溶媒(A)が、イオン交換樹脂との接触により有機溶媒(B)とエステル交換する有機溶媒、又は水であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の重合体の製造方法。
【請求項5】
イオン交換樹脂との接触により有機溶媒(B)とエステル交換する有機溶媒がアルコール類の中から選ばれる少なくとも一種を含む溶媒であることを特徴とする請求項4に記載の重合体の製造方法。
【請求項6】
イオン交換樹脂との接触により起こる極性溶媒(A)と有機溶媒(B)との反応が、加水分解反応、又はエステル交換反応であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の重合体の製造方法。