説明

重合体エマルションの製造方法

【課題】耐水性および耐候性に優れた塗膜を形成する水性被覆材用樹脂分散液を生産性良く製造する手法を提供することを目的とする。
【解決手段】重合体エマルションを製造する方法であってラジカル重合性単量体混合物Aとラジカル重合開始剤を用いて乳化重合する工程1、前記工程1で重合温度のピークトップ温度を確認後、重合温度を前記ラジカル重合開始剤の10時間半減期温度以下まで下げる工程2、前記工程2で得られたエマルション溶液Bに単量体混合物Cを加えた後、乳化重合する工程3とを含む重合体エマルションを製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合体エマルションの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、塗料分野においては、地球環境や塗装作業環境等への配慮から、有機溶剤を媒体とする溶剤系塗料から、水を媒体とする水性塗料への変換が図られている。特に樹脂成分が水に分散したエマルション型水性塗料は、乾燥性に優れ、不揮発成分の濃度を高くしても低粘度化が可能であるため、塗料のみならず、接着剤、粘着剤、紙処理剤および繊維処理剤等に幅広く使用されている。このような水性塗料の急速な用途拡大に伴い、優れた耐候性、耐水性が求められている。
耐候性、耐水性の優れた塗膜を形成する手法として、高分子量化による吸水性の低減や強度の向上などが行われている。たとえば特許文献1には、レドックス系重合開始剤を用いた高分子量の重合体エマルションを得る製法が記載されている。また、特許文献2には、レドックス系重合開始剤を使用した多層構造の、粒子径が均一な分散安定の良好な重合体エマルションを得る製法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−106715号公報
【特許文献2】特開平1−144403号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の製法では、得られる重合体が単層構造の高分子量の重合体エマルションであることから、塗膜の柔軟性が十分ではなかった。
【0005】
また、特許文献2記載の製法は、常に重合温度が高いため、重合体エマルションの分子量が低く耐候性や耐水性が十分ではなかった。
【0006】
本発明の目的は、耐水性および耐候性に優れた塗膜を形成する水性被覆材用の重合体エマルションを安定に重合できる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の要旨は、重合体エマルションを製造する方法であってラジカル重合性単量体混合物Aとラジカル重合開始剤を用いて乳化重合する工程1、前記工程1で重合温度のピークトップ温度を確認後、重合温度を前記ラジカル重合開始剤の10時間半減期温度以下まで下げる工程2、前記工程2で得られたエマルション溶液Bに単量体混合物Cを加えた後、乳化重合する工程3とを含む重合体エマルションを製造する方法にある。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法により、耐水性および耐候性に優れた塗膜を形成する水性被覆材用の重合体エマルションを安定に重合できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の重合体エマルションの製造方法は、ラジカル重合性単量体混合物Aとラジカル重合開始剤を用いて乳化重合する工程1、前記工程1で重合温度のピークトップ温度を確認後、重合温度を前記ラジカル重合開始剤の10時間半減期温度以下まで下げる工程2、前記工程2で得られたエマルション溶液Bに単量体混合物Cを加えた後、乳化重合する工程3とを含む。
【0010】
(工程1)
本発明では、ラジカル重合性単量体混合物Aとラジカル重合開始剤を用いて乳化重合を行う。前記ラジカル重合性単量体混合物Aを全量加えた後に重合することが、単量体混合物を滴下しながら重合する方法に比べ、高分子量の重合体を得ることが可能となり、耐水性および耐候性が向上する点で好ましい。
【0011】
ラジカル重合性単量体混合物Aとしては以下のものが挙げられる。メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等の炭素原子数1〜18のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート類;シクロヘキシルメタクリレート等のシクロアルキル(メタ)アクリレート類;γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン等の加水分解性シリル基含有ラジカル重合性単量体;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸等のラジカル重合性カルボン酸単量体;ヒドロキシポリエチレンオキシドモノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシポリプロピレンオキシドモノ(メタ)アクリレート等の末端ヒドロキシ型ポリアルキレンオキシド基含有ラジカル重合性単量体;メトキシポリエチレンオキシドモノ(メタ)アクリレート等のアルキル基末端型ポリアルキレンオキシド基含有ラジカル重合性単量体;1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル(メタ)アクリレート、2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル(メタ)アクリレート等の光安定化作用を有する(メタ)アクリレート;2−[2´−ヒドロキシ−5´−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニル]−2H−ベンゾトリアゾール等の紫外線吸収性成分を有する(メタ)アクリレート;2−アミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノアルキル(メタ)アクリレート類;(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有ラジカル重合性単量体;ジ(メタ)アクリル酸亜鉛等の金属含有ラジカル重合性単量体;(メタ)アクリロニトリル、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート等のその他の(メタ)アクリル系単量体;スチレン、メチルスチレン等の芳香族ビニル系単量体;1,3−ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン系単量体;酢酸ビニル、塩化ビニル、エチレン等のラジカル重合性単量体。
【0012】
さらに自己架橋性の官能基を有するラジカル重合性単量体を用いると、塗膜の耐ブロッキング性、耐汚染性、耐候性、耐水性、および各種下地に対する密着性が向上するため好ましい。自己架橋性の官能基を有するラジカル重合性単量体とは、得られた重合体中に残存する自己架橋性官能基が、室温で分散液として保管されている間は化学的に安定であり、塗装時の乾燥、加熱又はその他の外的要因によって側鎖の官能基同士で反応して側鎖間に化学結合が形成する単量体をいう。
【0013】
自己架橋性の官能基を有するラジカル重合性単量体としては、グリシジル(メタ)アクリレート等のオキシラン基含有ラジカル重合性単量体、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド等のラジカル重合性アミドのアルキロール又はアルコキシアルキル化合物等が挙げられる。これらは必要に応じて2種以上を使用してもよい。
【0014】
自己架橋性官能基含有ラジカル重合性単量体は、全単量体中に0.2〜10質量%含むことが好ましく、0.5〜8質量%含むことがより好ましい。0.2質量%以上含むことによって塗膜の耐ブロッキング性、耐汚染性等が向上し、10質量%以下であれば、塗膜の耐水性および耐候性の低下を抑制できる。
【0015】
また、ラジカル重合性単量体混合物Aと共に、ポリオルガノシロキサン共重合体を用いると、塗膜の耐候性などの塗膜性能が向上するだけでなく、重合安定性も向上させることができるため好ましい。
【0016】
ポリオルガノシロキサン重合体は、例えば、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン等のジメチルジアルコキシシラン類や、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、テトラデカメチルシクロヘプタシロキサン、ジメチルサイクリックス(ジメチルシロキサン環状オリゴマー3〜7量体混合物)等のジメチルシロキサン環状オリゴマー類や、ジメチルジクロロシラン等を酸性またはアルカリ性条件下で重合して合成することができる。
【0017】
得られる樹脂の熱安定性等の性能やコストに優れる点から、ジメチルシロキサン環状オリゴマーを用いることが好ましい。
【0018】
さらにジメチルシロキサン環状オリゴマーと、加水分解性シリル基含有ラジカル重合性単量体からなるグラフト交叉剤を重合したポリオルガノシロキサン重合体を用いることがより好ましい。ポリオルガノシロキサン重合体とラジカル重合性単量体混合物Aとがグラフト重合することによって、優れた塗膜の耐汚染性、耐候性、耐水性、耐凍害性を発現できるからである。
【0019】
ポリオルガノシロキサン重合体の質量平均分子量は、10,000以上であることが好ましく、50,000以上であることがより好ましい。ポリオルガノシロキサン重合体の質量平均分子量が10,000以上であれば、形成される塗膜に充分な耐久性が得られやすい。
【0020】
ポリオルガノシロキサン重合体はラジカル重合性単量体100質量部に対し、0.5〜25質量部であることが好ましい。0.5質量部未満であると、塗膜の耐侯性、耐水性、柔軟性が低下する傾向にある。より好ましくは1質量部以上である。また、使用量が25質量部を超えると、塗膜の柔軟性、耐候性、耐水性および耐汚染性が低下する傾向にある。より好ましくは、20質量部以下である。さらに好ましくは、2〜15質量部である。
【0021】
乳化重合は公知の方法で行えばよく、ラジカル重合開始剤は、ラジカル重合に使用される公知のものが使用可能である。具体例としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩類;アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2−フェニルアゾ−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル等の油溶性アゾ化合物類や2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシエチル)]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]およびその塩類、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]およびその塩類、2,2’−アゾビス[2−(3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]およびその塩類、2,2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}およびその塩類、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)およびその塩類、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピンアミジン)およびその塩類、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]およびその塩類等の水溶性アゾ化合物;過酸化ベンゾイル、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物類が挙げられる。これらは単独で又は2種類以上の混合物として使用できる。
【0022】
また、使用する開始剤の種類に応じて亜硫酸水素ナトリウム、硫酸第一鉄、アスコルビン酸塩等の還元剤をラジカル重合開始剤と組み合わせてレドックス反応で重合を行っても良い。
【0023】
さらに、重合安定性およびエマルションの貯蔵安定性のため、重合の際に界面活性剤を添加しても良い。界面活性剤はラジカル重合性単量体100質量部に対して、0.1〜10質量部含むことが好ましい。界面活性剤を0.1質量部以上とすることによって、重合安定性およびエマルションの貯蔵安定性が向上する。また、界面活性剤を10質量部以下とすることによって、塗膜の耐水性を損なうことなくエマルションを配合して水性被覆材とする際の配合安定性や、水性被覆材の経時的安定性等を維持することができる。より好ましい含有量は0.5〜8質量部である。
【0024】
使用可能な界面活性剤として、各種のアニオン性、カチオン性、又はノニオン性の界面活性剤、更には高分子乳化剤が挙げられる。また、界面活性剤成分中にラジカル重合性結合を持つ、反応性界面活性剤も使用できる。
【0025】
(工程2)
次に、前記工程1で重合温度のピークトップ温度を確認後、重合温度を前記ラジカル重合開始剤の10時間半減期温度以下まで下げることが必要である。
【0026】
10時間半減期温度以下まで下げることにより、単量体混合物Cを加える際に、耐候性、耐水性の低下の原因となる低分子量の重合体の生成を防ぐことができる。
【0027】
なお、ラジカル重合開始剤の10時間半減期温度とは、ラジカル重合開始剤の50mol%が10時間で熱分解するときの温度であり、下記式(1)と下記式(2)から算出することができる。
X=100×exp(−kdt)・・・(1)
kd=Aexp(−E/RT)・・・(2)
X(%):転化率=50%、kd(1/S):反応速度、t(s):時間=10時間、A(1/S):頻度因子、E(J/mol):活性化エネルギー、R(J/Kmol):気体定数=8.314J/Kmol、T(K):温度
(工程3)
次に、前記工程2で得られたエマルション溶液Bに単量体混合物Cを加えた後、乳化重合を行う。単量体混合物Cを全量加えた後に重合することが、単量体混合物を滴下しながら重合する方法に比べ、高分子量の重合体を得ることが可能となり、耐水性および耐候性が向上する点で好ましい。
【0028】
単量体混合物Cを重合して得られる重合体のFoxの計算式から求められるガラス転移温度と、前記単量体混合物Aを重合して得られる重合体のFoxの計算式から求められるガラス転移温度の差が20℃以上であることが好ましい。より好ましくは50℃以上である。
【0029】
ガラス転移温度差が20℃以上であれば、塗膜表面の硬度と塗膜の柔軟性に優れた重合体エマルションが得られる。
【0030】
Foxの計算式から得られるTgとは、下記(a)式により算出したのものである。単独重合体のTgは、「ポリマーハンドブック第4版(POLYMER HANDBOOK、FOURTH EDITION)、出版、著者等、VI/P193〜253」に記載されている値を用いる。
1/(273+Tg)=Σ(Wi/(273+Tgi))・・・(a)
[式中、Wiはモノマーiの質量分率、TgiはモノマーiのホモポリマーのTg(℃)を示す]
また、ラジカル重合性単量体混合物Cは、特に限定されるものではないが、ラジカル重合性単量体混合物Aに例示した単量体を挙げることができる。ラジカル重合性単量体混合物Aに例示した単量体を挙げることができる。
【0031】
さらにカルボニル基および/又はアルデヒド基含有ラジカル重合性単量体を用いることにより、より優れた塗料物性および塗膜物性を発現できるため好ましい。これらの単量体は必要に応じて2種以上を使用することができる。
【0032】
カルボニル基および/又はアルデヒド基含有ラジカル重合性単量体としては、例えば、アクロレイン、ジアセトンアクリルアミド、ホルミルスチロール、ビニルアルキルケトンが挙げられる。なかでも、炭素数4〜7個のビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルイソブチルケトン、(メタ)アクリルオキシアルキルプロパナールの他、(メタ)アクリルアミド、ピバリンアルデヒド、ジアセトン(メタ)アクリレート、アセトニルアクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレートが好ましく、アクロレイン、ジアセトンアクリルアミド、ビニルメチルケトンがより好ましい。
【0033】
カルボニル基および/又はアルデヒド基含有ラジカル重合性単量体は、全単量体中に0.2〜10質量%含むことが好ましく、0.5〜8質量%であることがより好ましい。
【0034】
さらに、カルボニル基および/又はアルデヒド基含有ラジカル重合性単量体を用いて重合して得られる重合体の分散液中に、分子中に少なくとも2個のヒドラジノ基を有する有機ヒドラジン化合物(以下、「ヒドラジン化合物」という。)を配合すると、塗膜の耐水性、耐候性が向上するため好ましい。この効果は、塗装後、乾燥する工程において、重合体中のカルボニル基と、配合されたヒドラジン化合物のヒドラジノ基との間で架橋反応が進行することによって発現するものと考えられる。
【0035】
ヒドラジン化合物としては、例えば、エチレン−1,2−ジヒドラジン、プロピレン−
1,3−ジヒドラジン、ブチレン−1,4−ジヒドラジン、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド等の炭素数が2〜15のジカルボン酸のジヒドラジドや、1,3−ビス(ヒドラジノカルボエチル)−5−イソプロピルヒダントイン、1,3−ビス(ヒドラジノカルボエチル)−5−(2−メチルメルカプトエチル)ヒダントイン、1−ヒドラジノカルボエチル−3−ヒドラジノカルボイソプロピル−5−(2−メチルメルカプトエチル)ヒダントイン等のヒダントイン骨格を有する化合物が挙げられる。
【0036】
また、カルボニル基および/又はアルデヒド基含有ラジカル重合性単量体とヒドラジン化合物の比率は、ラジカル重合性単量体混合物C中に含まれるカルボニル基および/又はアルデヒド基含有ラジカル重合性単量体のモル数を(P)、重合体の分散液に配合されるヒドラジン化合物のヒドラジノ基のモル数を(Q)としたとき、比率(P)/(Q)を0.1〜10とすることが好ましく、0.8〜2とすることがより好ましい。(P)/(Q)が0.1以上であれば、未反応のヒドラジン化合物による塗膜の耐水性の低下を抑制しやすく、(P)/(Q)が10以下であれば、塗膜の架橋度が高くなり、塗膜の耐水性、耐候性が向上する。
【0037】
乳化重合は、工程1と同様、公知の方法で行えばよい。
【0038】
本製造方法により得られた重合体エマルションは、重合後、塩基性化合物の添加により、分散液のpHを中性領域〜弱アルカリ性、すなわちpH6.5〜11.0程度に調整することが好ましい。これにより、得られた重合体エマルションの安定性が向上する。
【0039】
本製造方法により得られた重合体の粒子径は、粒子の安定性および塗膜性能のバランスを考慮すると30〜300nmであることが好ましい。より好ましくは50〜200nmであり、さらに好ましくは50nm〜130nmである。30nm以上の粒子径であれば、重合中に凝集物が生じにくく、少量の界面活性化剤であっても安定に重合することができ、塗膜の耐水性を維持することができる。また300nm以下では成膜性が向上することから、耐水性および耐候性に優れた塗膜が得られる。
【0040】
本製造方法により得られた重合体エマルションを含む水性被覆材は、必要に応じてさらに各種顔料、消泡剤、顔料分散剤、レベリング剤、たれ防止剤、艶消し剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、耐熱性向上剤、スリップ剤、および防腐剤等を含有してもよい。また、他のエマルション樹脂、水溶性樹脂、粘性制御剤、メラミン類等の硬化剤と混合して使用してもよい。水性被覆材は、主成分である重合体、前記界面活性剤、および添加剤等で固形分を形成し、通常、固形分20〜80質量%の状態で使用される。
【0041】
各種基材の表面に水性被覆材を塗装する方法としては、例えば、噴霧コート法、ローラーコート法、バーコート法、エアナイフコート法、刷毛塗り法、ディッピング法およびフローコート法等の各種の塗装法を選択できる。水性被覆材は、室温乾燥もしくは50〜180℃で加熱乾燥を行うことによって塗膜を得ることができる。
【0042】
本製造方法により得られた水性被覆材は、セメントモルタル、スレート板、石膏ボード、押し出し成形板、発泡性コンクリート、金属、ガラス、磁器タイル、アスファルト、木材、防水ゴム材、プラスチック、および珪酸カルシウム基材等の各種素材の表面仕上げ被覆材として有用であり、特に建築物、土木構造物等の躯体保護用水性被覆材として有用である。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに詳しく説明する。なお、実施例中の「部」は「質量部」を表す。評価は下記方法に従って実施した。
【0044】
(1)耐水性
得られた水性被覆材をリン酸亜鉛処理鋼鈑(ボンデライト#100処理鋼鈑、板厚0.8mm、縦150mm×横70mm)にバーコーター#48にて塗装し、室温で5分間静置した後、130℃で20分間乾燥した。次いで、室温まで放冷し評価用塗板とした。この評価用塗板を50℃の温水に100時間浸漬し、引き上げ直後の塗膜白化度ΔLを日本電色工業(株)製スペクトロカラーメーターSE−2000を用いて測定し、以下の基準に従って評価した。
◎:1以下
○:1より大きく3以下
△:3より大きく5以下
×:5より大きい
(2)耐候性
耐水性の評価に使用したものと同様の評価用塗板を用い、ダイプラ・メタルウエザーKU−R4−W型(ダイプラ・ウィンテス(株)製)にて耐候性試験を行った。試験サイクルは、照射16時間(湿度:70%RH、ブラックパネル温度:65℃)/暗黒2時間(湿度:70%RH、ブラックパネル温度:65℃)/結露4時間(湿度:98%RH、ブラックパネル温度:30℃)、UV強度:63mW/cmの条件で、720時間経過後の60°光沢度の保持率を耐候性の指標とし、下記の基準に従って評価した。
◎:90%以上。
○:80%以上、90%未満。
△:60%以上、80%未満。
×:60%未満
<製造例1> ポリオルガノシロキサン重合体水分散液(SiEm)の調製
下記原料組成物をホモミキサーで予備混合し、圧力式ホモジナイザーを用いて200kg/cmの圧力で強制乳化して、原料プレエマルションを得た。次いで、水(90部)およびドデシルベンゼンスルホン酸(10部)を、攪拌機、還流冷却管、温度制御装置および滴下ポンプを備えたフラスコに仕込み、攪拌下に、フラスコの内温を85℃に保ちながら、前記原料プレエマルションを4時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに1時間重合を進行させ、冷却して、下記水酸化ナトリウム水溶液を加えてポリオルガノシロキサン共重合体水分散液(SiEm)を調製した。固形分は18質量%であった。
原料組成物
環状ジメチルシロキサンオリゴマーの3〜7量体混合物:98部
γ−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン:2部
脱イオン水:310部
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム:0.7部
水酸化ナトリウム水溶液
水酸化ナトリウム:1.5部
脱イオン水:30部
(実施例1)
攪拌機、還流冷却管、温度制御装置、および滴下ポンプを備えたフラスコに下記第1原料混合物を仕込み、フラスコの内温を60℃に昇温した後に、下記開始剤水溶液および第1還元剤水溶液を添加しラジカル重合を開始した。重合発熱によるピークトップ温度を確認後、フラスコの内温を重合開始剤である過硫酸アンモニウムの10時間半減期温度60℃以下の52℃まで冷却した。
第1原料混合物
ポリオルガノシロキサン共重合体(SiEm):8部
ラジカル重合性単量体混合物A
メチルメタクリレート:40部
アデカリアソープSR−1025(商品名、ADEKA(株)製):2.12部
エマルゲン1150−60(商品名、花王(株)製):0.45部
脱イオン水:101部
開始剤水溶液
過硫酸アンモニウム:0.0375部(10時間半減期温度:62℃)
脱イオン水:1部
第1還元剤水溶液
亜硫酸水素ナトリウム:0.0125部
脱イオン水:1部
次いで、第2原料混合物(予め乳化分散させたプレエマルション液)を全量加えた。フラスコの内温を52℃で保持した後、下記還元剤水溶液を添加し、ラジカル重合を開始した。重合発熱によるピークトップ温度を確認後、フラスコの内温を70℃で1時間保持した。
第2原料混合物
ラジカル重合性単量体混合物C
メチルメタクリレート:28.8部
ノルマルブチルメタクリレート:5部
2−エチルヘキシルアクリレート:25.2部
アクリル酸:1部
アデカリアソープSR−1025:1.88部
エマルゲン1150−60:0.38部
脱イオン水:20部
第2還元剤水溶液
亜硫酸水素ナトリウム:0.0125部
脱イオン水:1部
その後、室温まで冷却し、28質量%アンモニア水(0.74部)を添加して水性被覆材を得た。さらに、得られた水性被覆材に造膜助剤としてブチルセロソルブ(5部)とジプロピレングリコールn−ブチルエーテル(5部)を添加して塗料とした。
【0045】
評価結果を表1に示す。
【0046】
(実施例2、3)
SiEm、開始剤水溶液、第1還元剤水溶液、第2還元剤水溶液、を表1に示す通りに変更し、第1原料混合物の重合開始温度を52℃に変更した以外は、実施例1と同様にして水性被覆材および塗料を得た。
【0047】
(実施例4)
攪拌機、還流冷却管、温度制御装置、および滴下ポンプを備えたフラスコに下記第1原料混合物を仕込み、フラスコの内温を52℃に昇温した後に、下記開始剤水溶液および第1還元剤水溶液を添加し、ラジカル重合を開始した。重合発熱によるピークトップ温度を確認後、フラスコの内温を52℃まで冷却した。
第1原料混合物
ポリオルガノシロキサン共重合体(SiEm):5部
メチルメタクリレート:26部
グリシジルメタクリレート:3部
2−ヒドロキシエチルメタクリレート:1部
アデカリアソープSR−1025:3部
脱イオン水:66部
開始剤水溶液
過硫酸アンモニウム:0.075部(10時間半減期温度:62℃)
脱イオン水:1部
第1還元剤水溶液
亜硫酸水素ナトリウム:0.025部
脱イオン水:1部
次いで、第2原料混合物(予め乳化分散させたプレエマルション液)を全量加えた。フラスコの内温を52℃で保持した後、下記還元剤水溶液を添加し、ラジカル重合を開始した。重合発熱によるピークトップ温度を確認後、フラスコの内温を70℃で1時間保持した。
第2原料混合物
メチルメタクリレート:20部
ノルマルブチルメタクリレート:19部
2−エチルヘキシルアクリレート:26部
2−ヒドロキシエチルメタクリレート:2部
アクリル酸:1.5部
ダイアセトンアクリルアミド:1.5部
アデカリアソープSR−1025:3部
脱イオン水:25部
第2還元剤水溶液
亜硫酸水素ナトリウム:0.025部
脱イオン水:1部
その後、室温まで冷却し、28質量%アンモニア水(0.74部)を添加後、下記アジピン酸ジヒドラジド水分散液を添加して水性被覆材を得た。
アジピン酸ジヒドラジド水分散液
アジピン酸ジヒドラジド:0.7部
脱イオン水:1.5部
さらに、得られた水性被覆材に造膜助剤としてブチルセロソルブ(5部)とジプロピレングリコールn−ブチルエーテル(5部)を添加して塗料とした。
【0048】
(比較例1)
攪拌機、還流冷却管、温度制御装置、および滴下ポンプを備えたフラスコに下記第1原料混合物を仕込み、フラスコの内温を52℃に昇温した後に、下記開始剤水溶液および第1還元剤水溶液を添加し、ラジカル重合を開始した。重合発熱によるピークトップ温度を確認後、フラスコの内温を70℃に保持した。
第1原料混合物
ポリオルガノシロキサン共重合体(SiEm):8部
メチルメタクリレート:40部
アデカリアソープSR−1025:2.12部
エマルゲン1150−60:0.45部
脱イオン水:101部
開始剤水溶液
過硫酸アンモニウム:0.0375部(10時間半減期温度:62℃)
脱イオン水:1部
第1還元剤水溶液
亜硫酸水素ナトリウム:0.0125部
脱イオン水:1部
次いで、0.75時間後に、第2原料混合物(予め乳化分散させたプレエマルション液)を1.5時間かけて滴下した。この滴下中はフラスコの内温を70℃に保持し、滴下終了後は70℃で1.5時間保持した。
第2原料混合物
メチルメタクリレート:28.8部
ノルマルブチルメタクリレート:5部
2−エチルヘキシルアクリレート:25.2部
アクリル酸:1部
アデカリアソープSR−1025:1.88部
エマルゲン1150−60:0.38部
脱イオン水:20部
その後、室温まで冷却し、28質量%アンモニア水(0.74部)を添加して水性被覆材を得た。さらに、得られた水性被覆材に造膜助剤としてブチルセロソルブ(5部)とジプロピレングリコールn−ブチルエーテル(5部)を添加して塗料とした。
【0049】
(比較例2)
重合発熱によるピークトップ温度を確認後、フラスコの内温を52℃に保持した。以外は、比較例1と同様にして水性被覆材および塗料を得た。
【0050】
(比較例3)
実施例1と同様に、第1原料混合物を仕込み、フラスコの内温を52℃に昇温した後に、開始剤水溶液および第1還元剤水溶液を添加し、ラジカル重合を開始した。重合発熱によるピークトップ温度を確認後、フラスコの内温を70℃に保持した。
【0051】
次いで、第2原料混合物(予め乳化分散させたプレエマルション液)を全量加えたところ、急激な発熱が生じ、内温が100℃に達し突沸する危険性があったため、急冷し重合を中止した。
【0052】
【表1】

表1中の略号は、以下の化合物を示す。また、表1の単位は全て質量部である。
MMA :メチルメタクリレート
GMA :グリシジルメタクリレート
2−HEMA :2−ヒドロキシエチルメタクリレート
n−BMA :ノルマルブチルメタクリレート
2−EHA :2―エチルヘキシルアクリレート
AA :アクリル酸
DAAm :ダイアセトンアクリルアミド
比較例1は、工程1で重合温度のピークトップ温度を確認後、重合温度をラジカル重合開始剤の10時間半減期温度以下まで下げずに、単量体混合物Cを滴下して重合しているため、耐水性、耐候性が不十分であった。
【0053】
比較例2は、工程1で重合温度のピークトップ温度を確認後、重合温度をラジカル重合開始剤の10時間半減期温度以下まで下げて、単量体混合物Cを滴下して重合しているため、耐水性、耐候性が不十分であった。
【0054】
比較例3は、工程1で重合温度のピークトップ温度を確認後、重合温度をラジカル重合開始剤の10時間半減期温度以下まで下げずに、単量体混合物Cを全量加えたため、急激な発熱が生じ、安定に重合できなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体エマルションを製造する方法であって、ラジカル重合性単量体混合物Aとラジカル重合開始剤を用いて乳化重合する工程1、前記工程1で重合温度のピークトップ温度を確認後、重合温度を前記ラジカル重合開始剤の10時間半減期温度以下まで下げる工程2、前記工程2で得られたエマルション溶液Bに単量体混合物Cを加えた後、乳化重合する工程3とを含む重合体エマルションを製造する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法により得られた重合体エマルション。
【請求項3】
請求項2に記載の重合体エマルションを含む水性被覆剤。
【請求項4】
請求項3に記載の水性被覆剤を塗装した塗装物。

【公開番号】特開2012−251007(P2012−251007A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−122100(P2011−122100)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】