説明

重合体スケールの除去方法

【課題】シラン化合物を含む単量体混合物を重合器内で水系重合をした際に発生する重合体スケールを容易に除去する方法の提供。
【解決手段】重合器内壁面にpHが4以下の酸性溶液又はpHが11以上のアルカリ性溶液で分解可能な被膜を形成した後、当該重合器内において水性媒体中でシラン化合物を含む単量体混合物を重合させ、重合後に当該重合器内に発生した重合体スケールを、pHが4以下の酸性溶液又はpHが11以上のアルカリ性溶液により被膜ごと除去する重合体スケールの除去方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、重合器内で、シラン化合物を含む単量体混合物を水系重合をさせた際に発生する重合体スケールを除去する方法に関するものであり、水系重合の技術分野で賞用され得るものでる。
【0002】
【従来の技術】シラン化合物を含む水性重合体は、種々の用途に使用されており、特に無溶剤系の水性塗料やシーラー等として使用されている。当該重合体は、重合器内でシラン化合物を含む単量体混合物を水性媒体中で重合させて製造するが、この場合、シラン化合物が、無機化合物と有機化合物とを結合させてしまう効果、いわゆるシランカップリング効果を有するため、反応後に重合器内壁面に付着する重合体スケールが、壁面に著しく強固に密着してしまう。そのため、重合器内壁面に付着した重合体スケールの除去には、重合体スケールの除去方法として通常行われる様な、有機溶剤等による除去方法では容易に除去することができず、鋭利な刃物等を使用して人力により除去せねばならない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】前記した刃物等を使用する重合体スケールの除去方法は、多大な労力と時間がかかるため、作業員に多大な負荷を与えていた。又、重合器内壁面等に付着した多くのスケールを除去せずに次の重合を行うと、得られる重合体の収率の低下や、重合器の冷却能力の低下といった、生産効率が低下してしまう上、得られる製品の品質までも低下してしまう。本発明者らは、シラン化合物を含む単量体混合物を重合器内で水系重合をした際に発生する重合体スケールを容易に除去する方法を見出すため鋭意検討を行ったのだる。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題を解決するため種々の研究を行った結果、予め重合器内壁面に特定pHで分解可能な被膜を形成した後、当該重合器内において水性媒体中でシラン化合物を含む単量体混合物を重合させ、重合後に当該重合器内に発生した重合体スケールを特定pHの溶液により、重合体スケールを被膜ごと除去する方法が有効であることを見出し、本発明を完成した。以下、本発明を詳細に説明する。尚、本明細書においては、アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルを(メタ)アクリル酸エステルといい、アクリロイル基又はメタクリロイル基を(メタ)アクリロイル基という。
【0005】
【発明の実施の形態】1.重合器内壁への被膜形成本発明においては、重合前に重合器内壁面にpHが4以下の酸性溶液又はpHが11以上のアルカリ性溶液(以下被膜剥離液という)で分解・剥離可能な被膜を形成する。被膜がpH4超過から11未満の溶液で分解可能なものの場合、後記する水性媒体中の重合において、被膜が溶解したり、剥げたり、又は重合が良好に進行しない場合がある。
【0006】本発明で使用される重合器としては、通常の水系の重合反応で使用されるものでれば種々のものが使用可能であり、ステンレス製重合器及び重合器内壁をガラスライニングしたステンレス製重合器が使用でき、被膜剥離液によりガラスライニングのガラスが分解することがあるため、ステンレス製重合器を使用することが好ましい。
【0007】被膜を形成するために使用されるコーティング剤としては、その被膜が被膜剥離液により分解・剥離できるものであれば種々のものが使用できる。コーティング剤としては、シリコーン系重合体を含有するコーティング剤が好ましい。当該コーティング剤によれば、得られる被膜が反応器との密着性に優れる上、撥水性にも優れ、反応時には水性重合を阻害することなく良好に進行させ、さらに重合反応後には、被膜剥離液によりシロキサン結合が容易に分解され、反応器から容易に分解・剥離することができる。当該コーティング剤としては、加水分解性シリル基を有するシリコーン系重合体を含有するものが好ましい。加水分解性基としては、アルコキシ基、ヒドロキシル基及びハロゲン基等が挙げられる。さらに、得られる被膜を強固にすることができる点で、加水分解性シラン化合物等のシランカップリング剤を配合したコーティング剤が好ましい。
【0008】当該シリコーン系重合体を含むコーティング剤は市販されており、具体的には、東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製の商品名、SH804、SH805、SH806A、SH840、SR2306、SR2309、SR2310、SR2316、SR2400、SR2402、SR2405、SR2406、SR2410、SR2411、SR2416、SR2420、SR2107、SR2115、SR2145、SD8000、 SH8011、SR2404及びSR620等が挙げられ、耐熱性、耐溶剤性及びステンレス重合容器への密着性に優れる点で特にSR2410が好ましい。
【0009】2.重合反応本発明では、前記被膜形成後の重合器内において水性媒体中でシラン化合物を含む単量体混合物を重合させる。以下、各成分について説明する。
【0010】2-1.シラン化合物本発明におけるシラン化合物としては種々の化合物が使用でき、加水分解性基を有するシラン化合物、環状シラン、並びにシロキサン化合物等を挙げることができる。
【0011】加水分解性基を有するシラン化合物としては、下記一般式(1)で示される化合物が挙げられる。
【0012】
【化1】
(R)n−Si−(X)4-n ・・・・(1)
【0013】(式中nは0〜3の整数であり。Rは、水素原子、疎水基又は/及び反応性基である。Xは加水分解性基である。Siに結合するR及びXがそれぞれ2個以上の場合、それらは同一であっても異なっていても良い。)
【0014】Rが疎水基の場合、具体例としては、アルキル基、環状アルキル基及びアリール基等が挙げられ、炭素数1〜16の直鎖状又は分岐状アルキル基、炭素数5〜6の環状アルキル基及び炭素数5〜10のアリール基等が好ましい。Rが反応性基の場合、具体例としては、ラジカル重合性基、エポキシ基及びメルカプト基等が挙げられる。ラジカル重合性基としては、ビニル基及び(メタ)アクリロイル基が好ましい。Xの加水分解性基としては、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、炭素数1〜8のアルコキシル基、炭素数1〜8のアシロキシ基、アミノキシ基、フェノキシ基、チオアルコキシ基及びアミノ基等が挙げられる。
【0015】本発明は、これら化合物の中でも、上記式(1)においてXがアルコキシ基の化合物、即ちアルコキシ基を有するシラン化合物(以下アルコキシシランという)に好ましく適用できる。アルコキシシランとしては、アルキル基又はアリール基を有するもの、ラジカル重合性基を有するもの、エポキシ基を有するもの、メルカプト基を有するもの及びアミノ基を有するもの等が挙げられる。
【0016】アルキル基又はアリール基を有するアルコキシシランの具体例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジブチルジメトキシシラン、ジブチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、トリエチルエトキシシラン及びトリフェニルメトキシシラン等が挙げられる。
【0017】ラジカル重合性基を有するアルコキシシランの具体例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン及びγ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
【0018】エポキシ基を有するアルコキシシランの具体例としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン及びγ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0019】メルカプト基を有するアルコキシシランの具体例としては、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン及びγ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0020】アミノ基を有するアルコキシシランの具体例としては、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン及びN−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリエトキシシランが挙げられる。
【0021】環状シラン化合物としては、オクタメチルシクロテトラシロキサン、オクタフェニルシクロシロキサン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン及びテトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン等が挙げられる。
【0022】シロキサン化合物としては、下記一般式(2)、(3)及び(4)に示す化合物が挙げられる。
【0023】
【化2】


【0024】
【化3】


【0025】
【化4】


【0026】〔式(2)〜(4)において、R1は水素原子、炭素数1〜16の脂肪族炭化水素基、炭素数5〜10のアリール基、炭素数5〜6のシクロアルキル基、ビニル基又は炭素数1〜10の(メタ)アクリル酸アルキル基である。R2は、炭素数1〜8のアルコキシ基、炭素数1〜8のアシロキシ基、水酸基又はエポキシ基である。nは1〜999の正の整数を示す。〕
【0027】単量体混合物中のシラン化合物の割合としては、単量体100重量部に対して0.1重量部以上が好ましい。
【0028】2-2.単量体本発明で使用される単量体は、ビニル基及び(メタ)アクリロイル基等のラジカル重合性基を有する化合物等が挙げられる。単量体は、複数種類混合して使用してもよい。
【0029】好ましい単量体としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、ビニルエーテル、ビニルエステル、スチレン等の芳香族ラジカル重合性単量体、エチレン、プロピレン及びイソブチレン等のα−オレフィン、並びに塩化ビニル及び塩化ビニリデン等のクロロエチレン等が挙げられる。
【0030】(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピルエステル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸s−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ネオペンチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸トリシクロデシニル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸クロロエチルエステル、(メタ)アクリル酸トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸パーフルオロアルキル、グリシジル(メタ)アクリレート及び(メタ)アクリル酸N,N−ジエチルアミノエチル等が挙げられる。
【0031】ビニルエーテルの具体例としては、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、n−ペンチルビニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル、n−オクチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、クロロメチルビニルエーテル、クロロエチルビニルエーテル、シクロペンチルビニルエーテル及びシクロヘキシルビニルエーテル等が挙げられる。
【0032】ビニルエステルとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、カプロン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、ヴェオバー9(シェル化学製)、ヴェオバー10(シェル化学製)、シクロヘキサンカルボン酸ビニル及び安息香酸ビニル等が挙げられる。
【0033】又、分子の片末端にラジカル重合性基を有する平均縮合度が3以上のポリエステル又はポリアルキレンオキシド(以下これらをそれぞれポリエステル単量体及びポリアルキレンオキシド単量体という)を使用することも可能である。ポリエステル単量体のポリエステル部分を形成する好ましい単量体単位は、オキシカルボン酸及びラクトンであり、該ポリエステル部分の好ましい平均縮合度は3〜100であり、さらに好ましくは3〜8である。又、ポリアルキレンオキシド単量体におけるポリアルキレンオキシドを形成する好ましい単量体単位は、エチレンオキシド及びプロピレンオキシドであり、該ポリアルキレンオキシドの好ましい平均縮合度は3〜200である。
【0034】これらの中で好ましいものは、下記(5)及び(6)で表される平均縮合度が3〜8のポリカプロラクトンからなるポリエステル単量体である。
【0035】
【化5】


【0036】
【化6】


【0037】かかるポリエステル単量体としては、市販品を使用しても良く、例えばダイセル化学工業(株)製のプラクセルFM3(上記(5)で表されるn=3の物質)、プラクセルFA3(上記(6)で表されるn=3の物質)、プラクセルFM6(上記(5)で表されるn=6の物質)、プラクセルFA6(上記(6)で表されるn=6の物質)、プラクセルFM8(上記(5)で表されるn=8の物質)、プラクセルFA8(上記(6)で表されるn=8の物質)等が挙げられる。
【0038】ポリアルキレンオキシド単量体の具体例としては、日本油脂(株)製のブレンマーPP−1000(片末端にメタクリロイル基が結合した縮合度5〜6のポリプロピレンオキシド)、PP−500(片末端にメタクリロイル基が結合した縮合度9のポリプロピレンオキシド)、PP−800(片末端にメタクリロイル基が結合した縮合度12のポリプロピレンオキシド)、PE−200(片末端にメタクリロイル基が結合した縮合度4〜5のポリエチレンオキシド)、及びPE−350(片末端にメタクリロイル基が結合した縮合度7〜9のポリエチレンオキシド)等が挙げられる。
【0039】本発明は、シラン化合物としてラジカル重合性シラン化合物、単量体として(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体混合物を使用した、アクリルシリコンエマルションの製造に好ましく適用されるものである。
【0040】2-3.重合方法本発明が適用される、シラン化合物を含む単量体混合物の水性媒体中の重合方法としては、乳化重合、懸濁重合、ミクロ懸濁重合及び水溶液重合等が挙げられる。
【0041】この場合に使用される重合開始剤としては、重合方法及び重合条件により選択すれば良い。アクリルシリコンエマルションを製造する場合には、水溶性又は油溶性の過酸化物及びアゾ系化合物等を使用することが好ましい。過酸化物の例としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム及び過酸化水素等の無機過酸化物、並びにt−ブチルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物等が挙げられる。アゾ系化合物としては、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジハイドロクロライド、1−アゾビス−1−シクロヘキサンカルボニトリル、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート、ラウロイルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、シクロヘキサノンパーオキシドジ−n−プロピルパーオキシジカルボネート及びt−ブチルパーオキシピバレート等が挙げられる。
【0042】水性重合を乳化重合、懸濁重合等により行う場合には、界面活性剤を使用する。界面活性剤は、重合方法及び重合条件により好ましいものを選択すれば良い。例えば、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩及びアルキルベンゼンスルホン酸塩等の陰イオン界面活性剤、並びにポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル等の非イオン性界面活性剤等が挙げられる。本発明をアクリルシリコンエマルションの製造に適用する場合には、得られるエマルションの貯蔵安定性、該エマルションから得られる塗膜の耐候性を著しく向上できる点で、前記単量体と共重合し得るラジカル重合性界面活性剤が好ましい。下記一般式(7)で表されるラジカル重合性界面活性剤(以下重合性界面活性剤という)がより好ましい。
【0043】
【化7】Z−(AO)n−Y ・・・・(7)
【0044】(式中、Zはラジカル重合性二重結合を有する有機基、AOはオキシアルキレン基、nは2以上の整数、Yはイオン解離性基を示す。)
【0045】重合性界面活性剤における好ましいZは、芳香族炭化水素基、アルキル置換芳香族炭化水素基、高級アルキル基又は脂環式炭化水素基等の疎水性基とラジカル重合性二重結合とが組み合わされた有機基である。Zにおけるラジカル重合性二重結合としては、(メタ)アリル基、プロペニル基又はブテニル基等が好ましい。重合性界面活性剤の好ましいイオン性はアニオンであり、Yとしては、当該アニオン性の基にカチオンがイオン結合した塩が好ましい。好ましいYの具体例としては、−SO3Na、−SO3NH4、−COONa、−COONH4、−PO3Na2及び−PO3(NH42等が挙げられ、さらに好ましくは−SO3Na又は−SO3NH4である。基(AO)nにおけるnは1以上の整数である。好ましいnとしては300以下であり、さらに好ましくは5〜50である。基(AO)nにおける単位A、すなわちアルキレン基としては、エチレン基又はプロピレン基が好ましい。
【0046】重合性界面活性剤の好ましい具体例としては、例えば下記式(8)〜(10)で表される化合物が挙げられる。式(8)及び(9)におけるR1及びR2としては、炭素数6〜18の直鎖状又は分岐状のアルキル基が好ましい。式(10)におけるR3としては、水素原子又はメチル基であり、R4としては、炭素数8〜24のアルキル基が好ましい。又、式(8)〜(10)において、A1、A2及びA3はアルキレン基を示し、いずれの化合物においてもnは2以上の整数である。又、式(8)〜(10)において、Y1、Y2及びY3はイオン性解離基を示し、その具体例としては、前記Yと同様のものを挙げることができる。
【0047】
【化8】


【0048】
【化9】


【0049】
【化10】


【0050】3.重合体スケールの除去方法本発明では、前記重合後に当該重合器内に発生した重合体スケールを、pHが4以下の酸性溶液又はpHが11以上のアルカリ性溶液である被膜剥離液により被膜ごと除去する。
【0051】pHが4より大きい溶液、又は11より小さい溶液では、被膜を溶解又は剥離することができず、特にコーティング剤としてシリコーン系重合体を含有するものを使用する場合、シロキサン結合を分解し難しい。好ましくは、pHが2以下の酸性溶液又はpHが13以上のアルカリ性溶液である。
【0052】被膜剥離液としては、前記pHを満たすものであれば、有機溶剤溶液、水溶液及び有機溶剤と水の混合液のいずれも使用できる。本発明では、pH11以上のアルカリ性溶液を使用することが好ましく、具体的には、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等の水溶液、又はこれらの水溶液にメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール及びブタノール等のアルコールを混合した溶液、並びにナトリウムメトキシド及びナトリウムエトキシド等のナトリウムアルコキシドを溶解させた水溶液が挙げられる。
【0053】本発明において、被膜剥離液により重合体スケールを被膜ごと除去する際の温度としては、30℃以上で溶液の沸点以下の温度が好ましい。30℃未満の温度では、除去に多大な時間を要する場合があり、溶液の沸点を超える温度では、熱エネルギーの浪費されるのみで、さらに剥離効果が向上することがない。特に好ましい温度は、50〜90℃である。
【0054】
【実施例】以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。尚、各例における成分量を表すは、すべて重量部を意味する。又、実施例で使用された界面活性剤アクアロンHS10〔第一工業製薬(株)製〕は、下記式(11)(但しポリオキシエチレン基の縮合度nは10である)で示される化合物である。
【0055】
【化11】


【0056】○実施例11)重合器への被膜形成攪拌機、温度計及び冷却器を備えたステンレス製の重合器の内壁に、シリコーン系重合体を含有するコーティング剤である東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製のSR2410を塗布した後、100℃で1時間乾燥することにより、重合器内壁面上に被膜を形成した。
2)重合工程下記表1に記載した単量体に、重合開始剤を溶解させて得られる液を、界面活性剤アクアロンHS10及び炭酸水素ナトリウムを溶解した水溶液に加えた。上記の方法で得られた混合物をまずホモミキサーで混合し、さらにホモジナイザー(ゴーリン社製)で乳化分散させて、pH8.5の水性乳化分散体を調整した。
【0057】
【表1】


【0058】前記被膜を形成した重合器に、水性媒体として脱イオン水40部を仕込み、液温を85℃に昇温したのち、水性媒体を高速で攪拌しながら上記の水性乳化分散体を2時間かけて滴下した。滴下終了後、85℃の温度に2時間保持して重合を継続させた後、室温まで冷却した。得られたアクリルシリコンエマルションを下記に従い評価した。それらの結果を、表2に示す。
【0059】
【表2】


【0060】3)スケール除去工程重合後、重合器内のエマルションを取り出し、重合器内壁に付着した重合体スケールを刃物等で削り落とすことなく、重合器内壁面を水で濯いでから、重合体スケールの付着状況を確認した。この時の結果を、重合終了時におけるスケール付着の結果とした。2Nの水酸化ナトリウム水溶液とメタノールを、重量比で1:1に混合したpH13の溶液を調整した。これを被膜剥離液として使用した。重合器に当該被膜剥離液を注ぎ込み、80℃に昇温して2時間攪拌したところ、重合体スケールが付着した被膜が除去された。スケール除去の後の重合器内壁面を水で濯いでから、重合体スケールの付着状況を確認した。この時の結果を、重合体スケール除去操作後におけるスケール付着の結果とした。スケール付着状況を下記に従い評価した。それらの結果を表3に示す。
【0061】
【表3】


【0062】尚、表3における取れ易さに示したは、スケールがほとんど付着していないために、取れ易さを確認する試験にまで至らなかったことを意味する。
【0063】4)評価方法(1)エマルションの評価得られたエマルションの平均粒径と粒径分布を、(株)堀場製作所製のレーザ回折/散乱式粒度分布測定装置(LA−910)を用いて測定した。粒径分布の評価は、得られたエマルションにおいて、0.5μm以上のエマルションが存在する場合を不良とし、存在しない場合を良好とした。
【0064】得られた水性エマルションを使用し、下記の方法に従い水性塗料組成物を製造した。まず、水10部に酸化チタン〔CR97、石原産業(株)製〕30部、顔料分散剤〔BYK−190、ビックケミー(株)製〕1部及び消泡剤〔BYK−022、ビックケミー(株)製〕0.2部を混合し、これに平均粒径約1mmのガラスビーズを混合した後、高速回転式混合機を使用して約3000rpmの条件で30分混合し顔料を分散した。得られた混合物から、ガラスビーズを除去した。これを顔料分散ペーストという。該顔料分散ペーストに、得られた水性エマルション100部、造膜助剤のトリプロピレングリコール−n−ブチルエーテル5部(以下TPNBという)及び増粘剤〔プライマルRM−8W、日本アクリル(株)製〕0.5部を混合し、水性塗料組成物を得た。得られた組成物を使用し、バーコーターを用いてクロメート処理アルミニウム板上に膜厚16μmの塗膜を作製した。塗装板を23℃、40%RHで2週間養生後、得られた塗膜について光沢を測定した。光沢は、日本電色工業(株)製Σ−80とGLOSS METERを用いて測定した。尚、ここでの光沢値は60°の時の値である。
【0065】(2)スケール付着状況の評価方法・重合器内壁に付着したスケールの量目視により、下記基準により評価した。
○:ほとんどスケールが付着していない。重合器内壁面の全面を見ることが可能である。
△:重合体スケールが重合器内壁面を50%程度覆っている。
×:非常に多くのスケールが付着しており、スケール下に存在する重合器内壁面をほとんど見ることができない。
【0066】・スケールの取れ易さスケールが付着した1部分を指等で擦り、下記基準で評価した。
○:指の腹で軽く触れるだけで、重合器内壁面から重合体スケールを除去することが可能である。
△:指の腹で強く擦ると、重合器内壁面から重合体スケールを除去することが可能である。
×:爪や鋭利な金属片で擦ると、重合器内壁面から重合体スケールを除去することが可能である。
【0067】○実施例2実施例1の重合工程において、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランをメチルトリエトキシシランに代えること以外は、すべて実施例1と同一条件で、重合器内壁面の被膜形成、重合及び重合体スケールの除去操作を行った。得られたエマルション及びスケール除去状況について、実施例1と同様にして評価を行った。それらの結果を表2及び同3に示す。
【0068】○実施例3実施例1の重合工程において、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランを、ビニルトリエトキシシラン5部とメチルトリエトキシシラン5部に代えること以外は、すべて実施例1と同一条件で、重合器内壁面の被膜形成、重合及び重合体スケールの除去操作を行った。得られたエマルション及びスケール除去状況について、実施例1と同様にして評価を行った。それらの結果を表2及び同3に示す。
【0069】○実施例4実施例1のスケール除去工程において、使用する被膜剥離液を2Nのナトリウムエトキシド水溶液(pH=13以上)に代えること以外は、すべて実施例1と同一条件で、重合器内壁面の被膜形成、重合及び重合体スケールの除去操作を行った。得られたエマルション及びスケール除去状況について、実施例1と同様にして評価を行った。それらの結果を表2及び同3に示す。
【0070】○実施例5実施例1のスケール除去工程において、使用する被膜剥離液を2Nの塩酸とメタノールを重量比で1:1の割合で混合した溶液(pH=1)に代えること以外は、すべて実施例1と同一条件で、重合器内壁面の被膜形成、重合及び重合体スケールの除去操作を行った。得られたエマルション及びスケール除去状況について、実施例1と同様にして評価を行った。それらの結果を表2及び同3に示す。
【0071】○比較例1実施例1において、重合器内壁に被膜を形成ないこと以外は、すべて実施例1と同一条件で、重合及び重合体スケールの除去操作を行った。得られたエマルション及びスケール除去状況について、実施例1と同様にして評価を行った。それらの結果を表2及び同3に示す。
【0072】○比較例2実施例1のスケール除去工程において、使用する被膜剥離液を水に代えること以外は、すべて実施例1と同一条件で、重合器内壁面の被膜形成、重合及び重合体スケールの除去操作を行った。得られたエマルション及びスケール除去状況について、実施例1と同様にして評価を行った。それらの結果を表2及び同3に示す。
【0073】
【発明の効果】本発明によれば、シラン化合物を含有する単量体を水性重合した際に発生する重合体スケールを極めて容易に除去することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】重合器内壁面にpHが4以下の酸性溶液又はpHが11以上のアルカリ性溶液で分解可能な被膜を形成した後、当該重合器内において水性媒体中でシラン化合物を含む単量体混合物を重合させ、重合後に当該重合器内に発生した重合体スケールを、pHが4以下の酸性溶液又はpHが11以上のアルカリ性溶液により被膜ごと除去する重合体スケールの除去方法。
【請求項2】重合体スケールを、pHが4以下の酸性溶液又はpHが11以上のアルカリ性溶液により被膜ごと除去する工程を、30℃以上で前記溶液の沸点以下の温度で行うことを特徴とする請求項1記載の重合体スケールの除去方法。
【請求項3】シラン化合物を含む単量体混合物が、シラン化合物と(メタ)アクリル酸エステルからなる混合物であることを特徴とする請求項1又は同2記載の重合体スケールの除去方法。
【請求項4】前記被膜を、シリコーン系重合体含有するコーティング剤により形成することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の重合体スケールの除去方法。

【公開番号】特開2001−106702(P2001−106702A)
【公開日】平成13年4月17日(2001.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−289424
【出願日】平成11年10月12日(1999.10.12)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】