説明

重合体水溶液の製造方法

【課題】ヒドロキシエチルアクリレート由来の構成単位を90重量%以上含む構成単位からなる重合体を含有する水溶液を、ゲル状物質の生成なく、安定に製造できる方法を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される単量体由来の構成単位を90重量%以上含む構成単位からなる重合体を含有する水溶液の製造方法であって、式(1)で表される単量体を含有する水溶液を、パーオキシド系開始剤を用いて重合した後、特定の攪拌動力での攪拌下、特定の中和剤を特定条件で用いて中和する、重合体水溶液の製造方法。
2C=CHCOOCH2CH2OH (1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合体を含有する水溶液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水硬性組成物には従来、種々の混和剤が添加されており、例えば、水硬性組成物の流動性を向上させる目的で、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、メラミンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、ポリカルボン酸塩等の高分子化合物が使用されている。これらの高分子化合物は、それぞれ特有の性質を持ち、水硬性組成物の用途などを考慮して適宜使い分けられているが、これら高分子化合物を複数組み合わせて使用することも知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルの重合物とセメント分散剤(ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物等)とを併用したスランプロス防止型セメント分散剤が記載されている。また、特許文献2には、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを用いたポリマーを含有する良好なワーカビリティを有するセメント組成物が記載されており、更にポリスチレンスルホン酸系の減水剤を使用できることが記載されている。
【0004】
また、特許文献3は、アルカリの作用により加水分解可能なセメント硬化遅延成分の単位を有する重合体で構成されているセメント硬化遅延剤が記載されている。この比較例1では、2−ヒドロキシエチルアクリレートのベンゼン溶液に、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを添加してポリヒドロキシエチルアクリレートを製造している。
【0005】
特許文献4に表面にポリヒドロキシエチルアクリレート塗布した高分子材料製の成形品が記載されている。この実施例1では、内側に電極のあるプラズマ重合用の反応器内に減圧下でヒドロキシエチルアクリレートを導入し、蒸発速度を調整し、高周波を照射してポリヒドロキシエチルアクリレートの層を高分子材料の表面に塗布している。この技術では重合の際に溶媒を使用せずポリヒドロキシエチルアクリレートを製造している。
【特許文献1】特開昭60−161365号公報
【特許文献2】米国特許第4792360号明細書
【特許文献3】特開平10−53447号公報
【特許文献4】特開平4−266935号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献3では、2−ヒドロキシエチルアクリレートの重合を有機溶剤系で行っているが、安全性及び廃液処理等の観点から水溶液系での重合が望まれる。
【0007】
また、2−ヒドロキシエチルアクリレートは酸性基を有さないので、重合して得られる重合体は酸性を示さない。しかしながら、重合体を製造する際に、パーオキシド系開始剤を用いると、開始剤のために反応系は酸性になる傾向があり、保存容器の腐食や使用時の安全性の観点から、得られる重合体水溶液を中和することが望ましい。
【0008】
本出願人は、2−ヒドロキシエチルアクリレート由来の構成単位を90重量%以上含む構成単位からなる重合体が、水硬性組成物用の添加剤として有用であることを見出している。また、高分子成形品の表面処理剤(特許文献4)への用途があることも知られている。しかしながら、かかる重合体を含有する水溶液を調製する際に、中和条件によっては、ゲル状物質を生じ易いことが判明した。これは、特定の中和条件で、エステル交換反応が起こり、重合体に架橋が生じるためと推定され、ヒドロキシ基を有するエステル系重合体、例えば本件発明に係るアクリル酸エステルの重合体に固有の問題と考えられる。また、中和の際の中和剤として用いるアルカリの濃度が高くなると局所的に高アルカリになりエステル交換反応が起こり易くなりゲル化し易い考えられる。
【0009】
本発明の課題は、ゲル状物質を生じやすいヒドロキシエチルアクリレート由来の構成単位を高濃度で、即ち90重量%以上含む構成単位からなる重合体を含有する水溶液を、ゲル状物質の生成なく、安定に製造できる方法を提供することである。また、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物と併用する流動保持剤として用いることができる、重合体水溶液を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、下記式(1)で表される単量体〔以下、単量体(1)という〕由来の構成単位を90重量%以上含む構成単位からなる重合体を含有する重合体水溶液の製造方法であって、
前記単量体(1)を単量体総量中90重量%以上含有する単量体の水溶液とパーオキシド系開始剤とを用いて前記単量体を重合させた後、該重合により得られた中間重合体を含有する水溶液を中和剤で中和する際に、前記中間重合体を含有する水溶液を単位体積当たり0.003W/L以上の攪拌動力で攪拌し、且つ、下記(i)〜(iv)のいずれかの条件で中和する、重合体水溶液の製造方法に関する。
2C=CHCOOCH2CH2OH (1)
(i)中和剤としてアミンを用いる
(ii)中間重合体を含有する水溶液中の固形分濃度が1〜38重量%であって、中和剤として水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムを用いる
(iii)中間重合体の重量平均分子量が17000〜22000であって、中和剤として水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムを用い、且つ該中和剤を5〜30重量%の濃度の水溶液として用いる
(iv)中間重合体の重量平均分子量が17000未満であって、中和剤として水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムを用い、且つ該中和剤を濃度が5〜50重量%の濃度の水溶液として用いる
【0011】
また、本発明は、上記本発明の製造方法で得られた重合体水溶液からなるセメント用添加剤に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ゲル状物質を生じやすいヒドロキシエチルアクリレート由来の構成単位を高濃度で、即ち90重量%以上含む構成単位からなる重合体を含有する水溶液を、ゲル状物質の生成なく、安定に製造できる方法が提供される。本発明の製造方法で得られた重合体水溶液はセメント用添加剤として好適である。なかでも、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物と併用する流動保持剤として用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明では、単量体(1)を含有する水溶液〔以下、単量体水溶液という〕を、パーオキシド系開始剤を用いて重合する。単量体水溶液において、単量体総量中、単量体(1)の割合は、90〜100重量%、更に95〜100重量%であることが好ましい。また、単量体水溶液中の単量体(1)の濃度(固形分)は、10〜80重量%、更に20〜60重量%が好ましい。
【0014】
パーオキシド系開始剤としては、ペルオキソ二硫酸塩等の過硫酸塩(塩はアンモニウム塩又はアルカリ金属塩が好ましい。)、過酸化水素、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド等が挙げられる。好ましくはペルオキソ二硫酸塩(アンモニウム塩又はアルカリ金属塩が好ましい。)である。パーオキシド系開始剤は、単量体総量100重量部に対して、0.001〜50重量部の比率で用いられることが好ましい。
【0015】
また、前記パーオキシド系開始剤(酸化性物質)に、亜硫酸ナトリウム、亜リン酸ナトリウム等の還元性物質を組み合わせて、いわゆるレドックス重合を行うこともできる。
【0016】
単量体(1)の重合の際には、さらに必要に応じて分子量調整等の目的で連鎖移動剤を使用してもよい。連鎖移動剤としては、チオール系連鎖移動剤、ハロゲン化炭化水素系連鎖移動剤等が挙げられ、チオール系連鎖移動剤が好ましい。
【0017】
チオール系連鎖移動剤としては、−SH基を有するものが好ましく、特に一般式HS−R−Eg(ただし、式中Rは炭素原子数1〜4の炭化水素由来の基を表し、Eは−OH、−COOM、−COOR’または−SO3M基を表し、Mは水素原子、一価金属、二価金属、アンモニウム基または有機アミン基を表し、R’は炭素原子数1〜10のアルキル基を表わし、gは1〜2の整数を表す。)で表されるものが好ましく、例えば、メルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、チオグリコール酸オクチル、3−メルカプトプロピオン酸オクチル等が挙げられ、単量体1〜3を含む共重合反応での連鎖移動効果の観点から、メルカプトプロピオン酸、メルカプトエタノールが好ましく、メルカプトプロピオン酸が更に好ましい。これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0018】
ハロゲン化炭化水素系連鎖移動剤としては、四塩化炭素、四臭化炭素などが挙げられる。
【0019】
その他の連鎖移動剤としては、α−メチルスチレンダイマー、ターピノーレン、α−テルピネン、γ−テルピネン、ジペンテン、2−アミノプロパン−1−オールなどを挙げることができる。連鎖移動剤は、1種又は2種以上を用いることができる。
【0020】
重合温度については、特に限定されないが、好ましくは重合溶媒である水の沸点までの領域で制御すればよい。重合温度は、好ましくは60〜90℃、より好ましくは65〜85℃である。
【0021】
本発明により製造された重合体は、単量体(1)以外の単量体に由来する構成単位を含有することができる。例えば、(I)(メタ)アクリル酸、クロトン酸等のモノカルボン酸又はそれらの塩(例えばアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、水酸基が置換されていてもよいモノ、ジ、トリアルキル(炭素数2〜8)アンモニウム塩)もしくはそれらのエステル(例えば単量体(1)以外のアクリル酸エステル、あるいはメタクリル酸エステル)が挙げられる。さらに、例えば、(II)マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等のジカルボン酸系単量体、又はその無水物もしくは塩(例えばアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、水酸基が置換されていてもよいモノ、ジ、トリアルキル(炭素数2〜8)アンモニウム塩)もしくはエステルが挙げられる。これらの中でも好ましくは(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、更に好ましくは(メタ)アクリル酸又はこれらのアルカリ金属塩である。なお、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸及び/又はメタクリル酸の意味である(以下同様)。
【0022】
本発明では、単量体水溶液とパーオキシド系開始剤を用いて、単量体(1)を含む単量体を重合した後、中間重合体を含有する水溶液(以下、中間重合体水溶液という)を、下記(i)〜(iv)のいずれかの条件で中和する。本発明において行う中和は、主に開始剤由来の酸に対して行われ、場合によって併用する単量体、その他の酸の中和を目的とする。
(i)中和剤としてアミンを用いる
(ii)中間重合体を含有する水溶液中の固形分濃度が1〜38重量%であって、中和剤として水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムを用いる
(iii)中間重合体の重量平均分子量が17000〜22000であって、中和剤として水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムを用い、且つ該中和剤を5〜30重量%の濃度の水溶液として用いる
(iv)中間重合体の重量平均分子量が17000未満であって、中和剤として水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムを用い、且つ該中和剤を濃度が5〜50重量%の濃度の水溶液として用いる
【0023】
条件(ii)、条件(iii)及び条件(iv)では、中和剤として水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムを用いるが、本発明は、その際の中間重合体の濃度、重量平均分子量、あるいは、中和剤水溶液の濃度がゲル状物質の生成に大きな影響を及ぼすことを見出したものである。
【0024】
条件(i)で用いられるアミンとしては、有機アミンやアンモニア等が挙げられる。具体的には、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン、アルキルアミン等が挙げられる。アミンの使用量は少量で中和できるほど好ましい。条件(i)は、中間重合体の重量平均分子量及び中間重合体水溶液中の中間重合体の濃度にかかわらず選定できる条件である。条件(i)の場合、中間重合体の重量平均分子量は1000〜1000000、更に5000〜100000が好ましく、中間重合体水溶液中の中間重合体の濃度は、5〜90重量%、更に20〜70重量%が好ましい。
【0025】
条件(ii)は、中間重合体の濃度が1〜38重量%の場合に、中和剤として水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムを用いて中和するものである。ゲルの生成防止の観点から水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムの使用量は少ない程好ましく、更には中和剤の濃度は低い方が好ましい。条件(ii)は、中間重合体水溶液中の中間重合体の重量平均分子量にかかわらず選定できる条件である。条件(ii)の場合、中間重合体の重量平均分子量は22000〜1000000、更に30000〜100000が好ましく、中間重合体水溶液中の中間重合体の濃度は、5〜38重量%、更に15〜30重量%が好ましい。
【0026】
条件(iii)は、中間重合体の重量平均分子量が17000〜22000の範囲にある場合に、中和剤として水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムを用い、且つ該中和剤を濃度が30重量%以下の水溶液として用いて中和するものである。水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムの使用量は少ない程好ましく、更には中和剤の濃度は低い方が好ましい。条件(iii)は、中間重合体水溶液中の中間重合体の濃度にかかわらず選定できる条件である。条件(iii)の場合、中間重合体水溶液中の中間重合体の濃度は、5〜90重量%、更に20〜70重量%が好ましい。なお、中間重合体水溶液中の中間重合体の濃度が38重量%以下の場合、中間重合体の重量平均分子量及び中和剤濃度が条件(iii)を満たす場合は条件(iii)に属するものとし、それ以外は条件(ii)に属するものとする。
【0027】
条件(iv)は、中間重合体の重量平均分子量が17000未満の場合に、中和剤として水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムを用い、且つ該中和剤を濃度が50重量%以下の水溶液として用いて中和するものである。水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムの使用量は少ない程好ましく、更には中和剤の濃度は低い方が好ましい。条件(iv)は、中間重合体水溶液中の中間重合体の濃度にかかわらず選定できる条件である。条件(iv)の場合、中間重合体の重量平均分子量は1000以上、17000未満、更に5000以上、17000未満が好ましく、中間重合体水溶液中の中間重合体の濃度は、5〜90重量%、更に20〜70重量%が好ましい。なお、中間重合体水溶液中の中間重合体の濃度が38重量%以下の場合、中間重合体の重量平均分子量及び中和剤濃度が条件(iv)を満たす場合は条件(iv)に属するものとし、それ以外は条件(ii)に属するものとする。
【0028】
中間重合体の重量平均分子量が同じ場合、条件(i)と条件(ii)とでは、条件(i)の方が、得られる重合体水溶液の高濃度化の観点から好ましく、条件(ii)の方が、得られる重合体水溶液の変色の観点から好ましい。条件(i)と条件(iii)又は条件(vi)とでは、条件(i)の方が、白濁やゲル化に対する許容度が広い点で好ましく、条件(iii)又は(iv)の方が、中和剤の添加量を低減できる点で好ましい。
【0029】
また、本発明では、条件(i)〜(iv)の何れにおいても、中和剤を添加する際に、下記の条件で中間重合体水溶液の攪拌を行う。
攪拌条件:単位体積当たり0.003W/L以上、好ましくは0.005W/L以上、より好ましくは0.01W/L以上の攪拌動力で中和剤を添加する中間重合体水溶液を攪拌する。
【0030】
尚、攪拌装置や循環による場合は、この条件に相当する攪拌効率以上で行うことが好ましく、攪拌効率が高いほど好ましい。攪拌羽根を用いて攪拌する場合は、攪拌動力は、攪拌羽根の回転直径(回転軸に垂直な方向の長径)と回転数の積で求める。
【0031】
また、条件(i)〜(iv)の何れにおいても、中和剤を、中和に要する添加量の観点から濃度が5重量%以上、更に10重量%以上、更に20重量%以上、より更に20〜60重量%の濃度の水溶液として用いることが好ましい。ただし、条件(iii)では、濃度が30重量%以下の水溶液、条件(iv)では、濃度が50重量%以下の水溶液、として用いる。
【0032】
中和後の重合体水溶液のpHは、用途等により適宜選定することができるが、セメント用添加剤として用いる場合、20℃で4〜8であることが好ましい。
【0033】
本発明により製造された重合体の重量平均分子量は、セメント用添加剤として用いる場合、1000〜100000、更に5000〜50000が好ましい。この重量平均分子量は、後述の実施例1の方法で測定されたものである。
【0034】
中和を終えた重合体水溶液は、セメント用添加剤、なかでもセメント分散剤、さらには、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物と併用する流動保持剤等として用いることができる。その際、重合体水溶液は、そのまま、あるいは適宜重合体の濃度を調整して用いることができる。
【0035】
例えば、中和を終えた重合体水溶液と、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物とを含有する水硬性組成物用分散剤は、経時的な水硬性組成物の分散性の低下と粘性の増加を抑制して作業性を改善できる。この水硬性組成物用分散剤は、均一透明な1液型の液体組成物(均一溶液)とすることができる。
【0036】
本発明により、下記式(1)で表される単量体〔以下、単量体(1)という〕由来の構成単位を90重量%以上含む構成単位からなる重合体を含有する重合体水溶液からなる水硬性組成物用添加剤(なかでも水硬性組成物用流動保持剤)の製造方法であって、
前記単量体(1)を単量体総量中90重量%以上含有する単量体の水溶液とパーオキシド系開始剤とを用いて前記単量体を重合させた後、該重合により得られた中間重合体を含有する水溶液を中和剤で中和する際に、前記中間重合体を含有する水溶液を、要すれば所望の固形分濃度に調整し、単位体積当たり0.003W/L以上の攪拌動力で攪拌し、且つ、下記(i)〜(iv)のいずれかの条件で中和する、水硬性組成物用添加剤(なかでも水硬性組成物用流動保持剤)の製造方法が提供される。この製造方法についての単量体(1)、条件(i)〜(iv)、攪拌動力等の好適な態様も、前記した本発明の重合体水溶液の製造方法で説明したものと同じである。また、かかる製造方法により得られた水硬性組成物用添加剤は、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物と併用する流動保持剤として好適に用いることができる。
2C=CHCOOCH2CH2OH (1)
(i)中和剤としてアミンを用いる
(ii)中間重合体を含有する水溶液中の固形分濃度が1〜38重量%であって、中和剤として水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムを用いる
(iii)中間重合体の重量平均分子量が17000〜22000であって、中和剤として水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムを用い、且つ該中和剤を5〜30重量%の濃度の水溶液として用いる
(iv)中間重合体の重量平均分子量が17000未満であって、中和剤として水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムを用い、且つ該中和剤を濃度が5〜50重量%の濃度の水溶液として用いる
【実施例】
【0037】
実施例1
反応容器の4つ口フラスコにイオン交換水224.5gを仕込み、脱気後窒素雰囲気下にした。ペルオキソ二硫酸アンモニウム4.4gをイオン交換水90gに溶解し開始剤水溶液(1)を調製した。3−メルカプトプロピオン酸10.2gをイオン交換水80gに溶解した連鎖移動剤水溶液を調製した。反応容器を80℃にしてヒドロキシエチルアクリレート(以下、HEAと表記する)280gの単量体、開始剤水溶液(1)及び前記連鎖移動剤水溶液を同時にそれぞれ90分かけて滴下した。その後、ペルオキソ二硫酸アンモニウム0.6gをイオン交換水10gに溶解した開始剤水溶液(2)を30分掛けて滴下し、更に80℃で60分間反応させた。反応終了後に常温にして固形分42重量%の中間重合体水溶液を得た。この時点の中間重合体の重量平均分子量は14200であった。この製造を複数回行い、中間重合体を中和する際の攪拌条件の影響実験に用いた。なお、重合体の固形分は、アルミニウム箔製のカップに重合体水溶液約3gをいれ、重量を測定し、105℃で2時間乾燥させ後、再度重量を測定し、その重量変化から、重合体水溶液中の固形分濃度を計算した。他の実施例でも同様の方法で行った。
【0038】
上記で得られた中間重合体の水溶液を48重量%水酸化ナトリウム水溶液で中和する際の攪拌条件の影響を調べた。すなわち、中和時の攪拌条件を、攪拌羽の回転数100、75、50、又は10rpmとした場合の濁りの発生を評価した。それぞれ得られた重合体を重合体a−1、a−2、a−3及びa−4とした。その他の条件に関しては以下の通りである。重合体a−1、a−2の中和は、条件(iv)で行ったものに相当する。
中和温度:常温(20℃)
フラスコ:500mL
溶液容量:300mL
攪拌羽:長径6cmの三日月型攪拌羽(アズワン)
中和剤:48重量%水酸化ナトリウム水溶液
【0039】
濁りの発生の評価結果と、前記攪拌条件を単位体積当たりの攪拌動力に換算した値とを表1に示す。
【0040】
なお、本実施例における仕込み単量体の組成比、得られた中間重合体の重量平均分子量、HEAの反応率は以下の通りである。
仕込み単量体組成比:HEA100モル%(100重量%)
中間重合体の重量平均分子量:14200
反応率(HEAを基準にして):96%(HPLC)
【0041】
また、中間重合体の分子量の測定は、以下のサイズ排除クロマトグラフィー(GPC)条件で行った。(他の製造例も同様)
[GPC条件]
標準物質:ポリスチレン換算
カラム:G4000PWXL+G2500PWXL(東ソー)
溶離液:0.2Mリン酸バッファー/アセトニトリル=9/1
流量:1.0mL/min
カラム温度:40℃
検出器:RI
【0042】
反応率は、以下の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)条件で測定を行い、未反応の単量体のピーク面積から計算した。(他の製造例も同様)
[HPLC条件]
装置:LC-2000Plus series (日本分光)
カラム:TSK-GEL ODSA-80TS
溶離液:0.2Mリン酸バッファー/アセトニトリル=9/1
検出器:UV (205nm)
流量:1.0ml/min
サンプル量:20μl
【0043】
【表1】

【0044】
実施例2
反応容器の4つ口フラスコにイオン交換水111.8gを仕込み、脱気後窒素雰囲気下にした。ペルオキソ二硫酸アンモニウム1.89gをイオン交換水30gと混合した開始剤水溶液(1)を調製した。3−メルカプトプロピオン酸1.1gをイオン交換水25gで混合した連鎖移動剤水溶液を調製した。反応容器を80℃にしてHEA120gの単量体、開始剤水溶液(1)及び前記連鎖移動剤水溶液を同時にそれぞれ90分かけて滴下した。その後、ペルオキソ二硫酸アンモニウム0.24gをイオン交換水10gと混合した開始剤水溶液(2)を30分掛けて滴下し、更に60分間更に反応させた。反応終了後に常温にして固形分41.1重量%の中間重合体Aの水溶液を得た。この時点の中間重合体Aの重量平均分子量は32500であった。
【0045】
上記で得られた中間重合体Aの水溶液について、中和を実施例1と同じ攪拌装置を用いて同様に行ったが、その際、条件(i)〜(iii)から選ばれる条件とそれ以外の条件を採用し、中和時のゲル状物質の生成を目視で確認した。中間重合体水溶液は、中和剤を添加する前に予めイオン交換水で所定の固形分濃度を調整した。なお、中和剤を添加する際の単位体積当たりの攪拌動力は0.014W/Lとした。中間重合体A製造時の仕込み量等を表2に、ゲル状物質の生成の評価結果を表3、4に示す。
仕込み単量体組成比:HEA100モル%(100重量%)
中間重合体Aの重量平均分子量:32600
反応率(HEAを基準として):99%(HPLC)
【0046】
実施例3
反応容器の4つ口フラスコにイオン交換水111.2gを仕込み、脱気後窒素雰囲気下にした。ペルオキソ二硫酸アンモニウム1.89gをイオン交換水30gと混合した開始剤水溶液(1)を調製した。3−メルカプトプロピオン酸1.64gをイオン交換水25gで混合した連鎖移動剤溶液を調製した。反応容器を80℃にしてHEA120gの単量体、開始剤水溶液(1)及び前記連鎖移動剤水溶液を同時にそれぞれ90分かけて滴下した。その後、ペルオキソ二硫酸アンモニウム0.24gをイオン交換水10gと混合した開始剤水溶液(2)を30分掛けて滴下し、更に60分間更に反応させた。反応終了後に常温にして固形分41.3重量%の中間重合体Bの水溶液を得た。この時点で中間重合体Bの重量平均分子量は24800であった。
【0047】
上記で得られた中間重合体Bの水溶液について、中和を実施例1と同様に行ったが、その際、条件(i)〜(iii)から選ばれる条件とそれ以外の条件を採用し、中和時のゲル状物質の生成を目視で確認した。なお、中和剤を添加する際の単位体積当たりの攪拌動力は0.014W/Lとした。中間重合体B製造時の仕込み量等を表2に、ゲル状物質の生成の評価結果を表3、4に示す。
単量体仕込み組成比:HEA100モル%(100重量%)
中間重合体の重量平均分子量:24800
反応率(HEAを基準として):反応率99%(HPLC)
【0048】
実施例4
反応容器の4つ口フラスコにイオン交換水110.7gを仕込み、脱気後窒素雰囲気下にした。ペルオキソ二硫酸アンモニウム1.89gをイオン交換水30gと混合した開始剤水溶液(1)を調製した。3−メルカプトプロピオン酸2.19gをイオン交換水25gで混合した連鎖移動剤溶液を調製した。反応容器を80℃にしてHEA120gの単量体、開始剤水溶液(1)及び前記連鎖移動剤水溶液を同時にそれぞれ90分かけて滴下した。その後、ペルオキソ二硫酸アンモニウム0.24gをイオン交換水10gと混合した開始剤水溶液(2)を30分掛けて滴下し、更に60分間更に反応させた。応終了後に常温にして固形分41.4重量%の中間重合体Cの水溶液を得た。この時点で中間重合体Cの重量平均分子量は21000であった。
【0049】
上記で得られた中間重合体Cの水溶液について、中和を実施例1と同様に行ったが、その際、条件(i)〜(iii)から選ばれる条件とそれ以外の条件を採用し、中和時のゲル状物質の生成を目視で確認した。なお、中和剤を添加する際の単位体積当たりの攪拌動力は0.014W/Lとした。中間重合体C製造時の仕込み量等を表2に、ゲル状物質の生成の評価結果を表3、4に示す。
単量体仕込み組成比:HEA100モル%(100重量%)
中間重合体Cの重量平均分子量:21000
反応率(HEAを基準として):反応率99%(HPLC)
【0050】
【表2】

【0051】
【表3】

【0052】
【表4】

【0053】
表3、4の結果から、中間重合体を含有する水溶液を本発明で選定した条件(i)〜(iii)で中和することにより、ゲル状物質が生成しない製造方法を提供できることがわかる。すなわち、条件(i)は重合体の分子量、濃度によらず安定に中和ができる。条件(ii)は、重合体の重量平均分子量が大きくなっても高濃度水溶液を安定に中和できる。また、条件(iii)は重合体の濃度が高い場合でも安定に中和できる。なお、表3、4中、「−」は実施しなかったことを意味する。また、表3、4で中間重合体から得られた各重合体には、便宜的に表中の記号を付した。
【0054】
表3より中間重合体の濃度が低いほど、また中和剤濃度が低いほど、ゲル状物質の生成が無いことがわかる。これは、中間重合体の濃度が高いほどヒドロキシ基を有するエステル系重合体の間にエステル交換反応による架橋が生じ易くなるため、また中和剤の濃度が高いほど局所的に高アルカリになりエステル交換反応が起こり易くなるためと考えられる。また、表4のように中和剤としてトリエタノールアミンを用いた場合は、中間重合体の濃度が40重量%、トリエタノールアミンが48重量%でもゲル状物質の生成が無いことから、これらの濃度以下でも同様にゲル状物質の生成は無いものと考えられる。
【0055】
実施例5
セメント(太平洋セメント製/住友大阪セメント製=1:1(重量比);密度=3.16g/cm3)400gと山砂(城陽産、密度=2.55g/cm3)700gを万能混合攪拌機(型番:5DM-03-r、ダルトン社製)に入れ、低速に設定し10秒間攪拌を行った。その後、実施例1の重合体a−1の水溶液〔48重量%水酸化ナトリウム水溶液を用いて攪拌動力0.014W/Lで中和した固形分42重量%の重合体水溶液〕(重合体重量として0.48g)と、マイテイ150〔ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物系混和剤、花王(株)製〕(重合体重量として1.76g)を混合し、予め調製した分散剤水溶液160gを添加し(接水開始)、低速に設定し90秒間攪拌を行った。攪拌後にモルタルをコーン(下部径100mm、上部径70mm、高さ60mm)に充填し、モルタルフローを測定した(直後)。モルタルフローは214mmであった。また、接水開始から60分後のモルタルフローも同様に測定し、225mmであった。
【0056】
比較例1
実施例1の重合体a−1の水溶液を添加せず、マイテイ150(重合体重量として1.76g)を用いた以外は、実施例5と同様にしてモルタルを調製し、接水開始直後と60分後のモルタルフローを測定した。それぞれのモルタルフロー値は、215mm及び118mmであった。
【0057】
実施例5及び比較例1のモルタル配合を表5に、モルタルフローを表6に示す。
【0058】
【表5】

【0059】
【表6】

【0060】
表6中、添加量は、セメント100重量部に対する重合体重量での重量部である(以下同様)。
【0061】
実施例5と比較例1の結果から、本発明の製造方法で得られた重合体水溶液をナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物系混和剤と併用することにより、モルタルフローが60分後でも低下しておらず、本発明の製造方法で得られた重合体水溶液は、分散保持剤として有用なことがわかる。
【0062】
実施例6
セメント(太平洋セメント製/住友大阪セメント製=1:1(重量比);密度=3.16g/cm3)400gと山砂(城陽産、密度=2.55g/cm3)750gを万能混合攪拌機(型番:5DM-03-r、ダルトン社製)に入れ、低速に設定し10秒間攪拌を行った。その後、表3(b)の重合体B−1の水溶液(20重量%水酸化ナトリウム水溶液で、中間重合体Bの20重量%水溶液を中和した、重合体B−1の濃度が20重量%の重合体水溶液)(重合体重量として0.48g)と、マイテイ150〔ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物系混和剤(NSFとも表記する)、花王(株)製〕(重合体重量として1.76g)とを混合し、予め調製した分散剤水溶液160gを添加し(接水開始)、低速で90秒間攪拌を行った。実施例5と同様に、モルタルフローを測定した。その際、接水開始から30分後のモルタルフローも同様に測定した。
【0063】
実施例7、比較例2及び比較例3
実施例6と同様に、ただし、重合体B−1水溶液の代わりに、実施例7は表1の重合体a−1の水溶液(重合体a−1濃度42重量%)(重合体重量として0.48g)を、比較例2は表3(b)の比較重合体B−1の水溶液(20重量%水酸化ナトリウム水溶液で、中間重合体Bの40重量%水溶液を中和した、比較重合体B−1の濃度が40重量%の重合体水溶液)(重合体重量として0.48g)を用いて、また、比較例3は重合体B−1の水溶液を添加せずに、それぞれモルタルを調製し、実施例6と同様にして、接水開始直後、30分後、及び60分後のモルタルフローを測定した。
【0064】
実施例6、7及び比較例2、3のモルタル配合を表7に、モルタルフローを表8に示す。
【0065】
【表7】

【0066】
【表8】

【0067】
実施例6と比較例2の結果から、中和の際にゲルを生じた比較重合体B−1の水溶液を用いた比較例2は、モルタルフローが60分後でも低下しており、本発明の製造方法で得られた重合体水溶液は、セメント用の分散保持剤として有用なことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される単量体〔以下、単量体(1)という〕由来の構成単位を90重量%以上含む構成単位からなる重合体を含有する重合体水溶液の製造方法であって、
前記単量体(1)を単量体総量中90重量%以上含有する単量体の水溶液とパーオキシド系開始剤とを用いて前記単量体を重合させた後、該重合により得られた中間重合体を含有する水溶液を中和剤で中和する際に、前記中間重合体を含有する水溶液を単位体積当たり0.003W/L以上の攪拌動力で攪拌し、且つ、下記(i)〜(iv)のいずれかの条件で中和する、重合体水溶液の製造方法。
2C=CHCOOCH2CH2OH (1)
(i)中和剤としてアミンを用いる
(ii)中間重合体を含有する水溶液中の固形分濃度が1〜38重量%であって、中和剤として水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムを用いる
(iii)中間重合体の重量平均分子量が17000〜22000であって、中和剤として水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムを用い、且つ該中和剤を5〜30重量%の濃度の水溶液として用いる
(iv)中間重合体の重量平均分子量が17000未満であって、中和剤として水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムを用い、且つ該中和剤を濃度が5〜50重量%の濃度の水溶液として用いる
【請求項2】
前記パーオキシド系開始剤が、過硫酸塩である請求項1記載の重合体水溶液の製造方法。
【請求項3】
中和剤を、20重量%以上の濃度の水溶液として用いる、請求項1又は2記載の重合体水溶液の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか記載の製造方法で得られた重合体水溶液からなるセメント用添加剤。

【公開番号】特開2010−150444(P2010−150444A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−331783(P2008−331783)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】