説明

重合体組成物および研磨パッド

【課題】 優れたスラリー保持性を有し、しかも、高い硬度を有する研磨パッドを得ることのできる重合体組成物を提供すること。研磨速度が高く、しかも、被処理物に対して、平坦性の高い表面を形成することができる研磨パッドを提供すること。
【解決手段】 本発明の重合体組成物は、ショアーD硬度が35以上である非水溶性の熱可塑性重合体中に、5〜60体積%の水溶性物質が分散されてなり、当該水溶性物質の平均粒径が0.1〜500μmであることを特徴とする。本発明の研磨パッドは、上記の重合体組成物よりなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば半導体ウエハなどの表面を研磨するための研磨パッドの材料として好適に用いられる重合体組成物および当該重合体組成物よりなる研磨パッドに関する。
【0002】
【従来の技術】例えば半導体ウエハにおいては、その表面が高い平坦性を有し、かつ、高度の鏡面を有するものであることが要求される。このような表面を形成するための研磨方法として、CMP(Chemical Mechanical Polishing)プロセスが注目されている。このCMPプロセスは、例えばSiO2 よりなる砥粒がアルカリ水溶液などの化学試薬中に分散されてなるスラリーを用い、表面にスラリー保持用のポアが形成された研磨パッド(ポリッシャ)によって、半導体ウエハなどの被処理物の表面を研磨する方法である。このようなCMPプロセスにおいては、従来、研磨パッドの材質として発泡ポリウレタンなどの多孔体が使用されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、発泡ポリウレタンなどの多孔体よりなる研磨パッドは、硬度が低いものであるため、被処理物に対して、平坦性が十分に高い表面を形成することが困難である。また、硬度の高い研磨パッドを得るために、当該研磨パッドの材質として、空孔率の低い多孔体を使用したり、或いは無孔体を使用したりすることも考えられるが、このような研磨パッドでは、十分なスラリー保持性が得られないため、研磨速度が低下したり、或いは研磨速度にバラツキが生じたりする、という問題がある。
【0004】本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであって、その目的は、優れたスラリー保持性を有し、しかも、高い硬度を有する研磨パッドを得ることのできる重合体組成物を提供することにある。本発明の他の目的は、研磨速度が高く、被処理物に対して平坦性の高い表面を形成することのできる研磨パッドを提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明の重合体組成物は、ショアーD硬度が35以上である非水溶性の熱可塑性重合体中に、5〜60体積%の水溶性物質が分散されてなり、当該水溶性物質の平均粒径が0.1〜500μmであることを特徴とする。本発明の研磨パッドは、ショアーD硬度が35以上である非水溶性の熱可塑性重合体中に、5〜60体積%の水溶性物質が分散されてなり、当該水溶性物質の平均粒径が0.1〜500μmであることを特徴とする。
【0006】
【作用】本発明の重合体組成物によれば、その表面に露出した粒子状の水溶性物質がスラリー等の水によって溶出することにより、当該表面に微細なポアが形成されると共に、その内部において、水溶性物質が残存して充填材として作用することにより、当該内部に空孔が形成されることがないため、優れたスラリー保持性を有し、しかも、高い硬度を有する研磨パッドが得られる。
【0007】
【発明の実施の形態】以下、本発明の重合体組成物および研磨パッドについて詳細に説明する。本発明の重合体組成物は、非水溶性の熱可塑性重合体中に、水溶性物質が分散されてなるものである。
【0008】本発明の重合体組成物に用いられる熱可塑性重合体としては、ショアーD硬度が35以上、好ましくは40以上、より好ましくは50以上の非水溶性のものであれば種々のものを用いることができる。ショアーD硬度が35未満である場合には、高い硬度を有する研磨パッドを得ることが困難となる。このような熱可塑性重合体の具体例としては、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリブテン−1、ポリメチルペンテン、エチレン−ビニルアルコール系共重合体(EVOH)、エチレン−アクリル酸共重合体等のオレフィン系樹脂、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS)、アクリロニトリル−αメチルスチレン共重合体、ABS樹脂等のスチレン系樹脂、SBSブロックコポリマー、SEBSブロックコポリマー等のスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリアクリル酸エステル等の(メタ)アクリレート系樹脂、6ナイロン、6,6ナイロン、熱可塑性ポリアミドエラストマー(TPA)等のポリアミド系重合体、ポリカーボネート(PC)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリアセタール(POM)、熱可塑性ポリオレフィンエラストマー(TPO)、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)、熱可塑性ポリエステルエラストマー(TPEE)、1,2ポリブタジエン等の熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。これらは、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0009】上記熱可塑性重合体のうち好ましいものとしては、オレフィン系重合体、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、スチレン系樹脂が挙げられる。また、上記熱可塑性重合体は、後述する水溶性物質やスラリーとの親和性を向上させることなどを目的として、酸無水物基、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基、アミノ基などによって変性されたものであってもよい。
【0010】本発明の重合体組成物に用いられる水溶性物質は、上記の重合体中に分散し得るものであれば、種々のものを用いることができる。ここで、「水溶性」とは、水に完全に溶解するもののみならず、水に膨潤してゲル状となることによって重合体から遊離するものを含むものとする。
【0011】このような水溶性物質としては、有機系水溶性物質および無機系水溶性物質を用いることができる。有機系水溶性物質の具体例としては、デキストリン、シクロデキストリン、マンニット、乳糖などの糖類、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース等のセルロース類、でんぷん、蛋白質、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルスルホン酸、ポリアクリル酸、ポリエチレンオキサイド、感光性樹脂、スルフォン化ポリイソプレンやその共重合体等の水溶性高分子物質、吸水性樹脂などが挙げられる。無機系水溶性物質の具体例としては、酢酸カリウム、硝酸カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、リン酸カリウムなどの無機塩などが挙げられる。これらの水溶性物質は、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0012】本発明の重合体組成物において、水溶性物質は、マトリックス重合体中に分散された状態で含有されるが、その粒径は0.1〜500μmとされ、好ましくは0.5〜100μmとされる。この粒径が0.1μm未満である場合には、表面に露出する水溶性物質が溶出することによって形成されるポアのサイズが、CMPプロセスに用いられるスラリー中の砥粒の粒径より小さくなるため、優れたスラリー保持性を有する研磨パッドが得られない。一方、この粒径が500μmを超える場合には、形成されるポアのサイズが過大であるため、得られる研磨パッドは、強度や研磨速度が低いものとなる。
【0013】水溶性物質の含有割合は、全体の5〜60体積%とされ、好ましくは15〜55体積%とされる。この割合が5体積%未満である場合には、得られる研磨パッドに、スラリーを保持するためのポアを十分に形成することが困難となる。一方、この割合が60体積%を超える場合には、表面に露出した水溶性物質のみならず、内部に存在する水溶性物質も溶出するため、硬度およびその他の機械的強度が低いものとなり、また、重合体の割合が過小であるため、成形加工性が低下する。
【0014】本発明の重合体組成物においては、重合体と水溶性物質との親和性や、重合体に対する水溶性物質の分散性を向上するために、相溶化剤が含有されていてもよい。このような相溶化剤としては、酸無水物基、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基、オキサゾリン基、アミノ基などによって変性された重合体、ブロック共重合体およびランダム共重合体、種々のノニオン系界面活性剤、カップリング剤などを用いることができる。また、硬度を調整すること或いは靱性を付与することを目的として、ゴムなどの改質剤が含有されていてもよい。
【0015】また、本発明の重合体組成物においては、必要に応じて、充填剤、軟化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、可塑剤などの各種の添加剤を含有させることができる。充填剤としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、タルク、クレー等の剛性を向上させる補強剤、シリカ、アルミナ、セリア、ジルコニア、酸化チタン、酸化ジルコニウム、二酸化マンガン、三酸化二マンガン、炭酸バリウム等の研磨効果を有する充填剤などを用いることができる。
【0016】本発明の重合体組成物を製造する方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の混練機などによって混練する方法を利用することができる。例えば、ロール、ニーダー、バンバリーミキサー、押し出し機(単軸、多軸)等の混練機によって、重合体、水溶性物質および必要に応じて用いられる添加剤を溶融混練することにより、本発明の重合体組成物が得られる。このようにして得られる重合体組成物を、プレス成形法、押し出し成形法、射出成形法等によって所要の形状に形成することにより、或いはシート状、ブロック状若しくはフィルム状に成形した後、所要の形状に切削することにより、研磨パッドが得られる。
【0017】
【実施例】以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下において、「ショアーD硬度」の値は、ASTM D2240に準拠して測定した値を示す。
【0018】〈実施例1〜10〉下記表1の処方に従い、各成分を、熱可塑性重合体の加工が可能な温度に加熱された混練機によって混練することによって、本発明の重合体組成物を調製し、この重合体組成物をモールドプレスすることにより、当該重合体組成物よりなる厚さ2mmのシートを製造した。
【0019】〈比較例1〜2〉下記表1の処方に従って熱可塑性重合体および水溶性物質を用いたこと以外は、実施例1〜10と同様にして厚さ2mmのシートを製造した。
【0020】〈比較例3〉ウレタンプレポリマーとして「ハイプレンL−315」(三井化学社製)を、発泡材として水を、触媒として「Dabco」(三井エアプロダクツ社製)を用い、これらと変性シリコーンオイルとを均一に混合した。得られた混合物に更に3,3−ジクロロ−4,4−ジアミノジフェニルメタンを添加して急速に混合した後、当該混合物を金型内に注入して発泡させ、その後、100℃で9時間の熱処理を行うことにより、ウレタン発泡体を作製した。このウレタン発泡体を切り出して厚さ2mmのシートを製造した。
【0021】
【表1】


【0022】上記表1において、熱可塑性重合体、水溶性物質および相溶化剤の詳細は以下の通りである。
〔熱可塑性重合体〕
[1] エチレン−ビニルアルコール共重合体:「エバール G110」(クラレ社製),ショアーD硬度:88,[2] 直鎖型低密度ポリエチレン:「ノバテックLL YF30」(日本ポリケム社製),ショアーD硬度:53,[3] ポリプロピレン:「ノバテックPP MA1」(日本ポリケム社製),ショアーD硬度:75,[4] 熱可塑性ポリウレタンエラストマー:「エラストランE690−50」(武田バーディッシュウレタン工業社製),ショアーD硬度:52,[5] ポリメチルメタクリレート:「スミペレックスLG6」(住友化学社製),ショアーD硬度:90,[6] ポリカーボネート樹脂:「ノバレックス7020A」(三菱エンジニアリングプラスチック社製),ショアーD硬度:88,[7] アクリロニトリル−スチレン共重合体:「テクノAS 270NP」(テクノポリマー社製),ショアーD硬度:88
【0023】〔水溶性物質〕
[1] ポリビニルアルコール:「ポバール CP1000」(クラレ社製),[2] ヒドロキシプロピルセルロース:「HPC−L」(日本曹達社製),[3] β−シクロデキストリン:「リングデックス−B」(横浜国際バイオ研究所社製」,[4] 吸水性樹脂:「アクアキープ10SH−NF20」(住友精化社製),[5] 炭酸カリウム:「無水炭酸カリウム」(和光純薬社製),
【0024】〔相溶化剤〕
[1] 変性ポリエチレン:「ユーメックス2000」(三洋化成工業社製),[2] 変性ポリプロピレン:「ユーメックス1001」(三洋化成工業社製),[3] 変性アクリロニトリル−スチレン共重合体:「モディパーA8400」(日本油脂社製)
[4] シランカップリング剤:「TSL8331」(東芝シリコーン社製)
【0025】〈組成物の評価〉実施例1〜10および比較例1〜3で得られたシートに対して、硬度および水溶性物質の粒径を測定すると共に、これらのシートを研磨パッドとして使用した場合の研磨速度および被処理物の平坦性について評価を行った。その結果を表2に示す。硬度および水溶性物質の測定方法、並びに被処理物の平坦性の評価方法は以下の通りである。
硬度:ASTM D2240に準拠し、ショアーD硬度を測定した。
粒径:シート状の重合体組成物を水中に15時間浸漬した後、表面を走査型電子顕微鏡により観察し、水溶性物質が溶出して形成されたポアの径を水溶性物質の粒径とみなし、これを20個以上測定し、その平均値を求めた。
被処理物の平坦性:実施例1〜10および比較例1〜3で得られたシートを研磨パッドとして用い、当該研磨パッドを研磨機「ラップマスター LM−15」(SFT社製)の定盤上に装着し、この研磨機によって、定盤回転数30rpm、スラリー流量100cc/分の条件で、シリコンウエハの表面の研磨処理を行った。その後、シリコンウエハの表面を目視で観察し、表面全体にわたって均一に鏡面が形成されている場合を○、部分的に鏡面が形成されていない個所が認められる場合を△、表面全体にわたって均一な鏡面が形成されていない場合を×として、平坦性を評価した。
【0026】
【表2】


【0027】表2から明らかなように、実施例1〜10に係る重合体組成物は、硬度が高く、研磨パッドとして使用した場合には、研磨速度が高く、被処理物における平坦性も良好であった。以上の結果から、本発明によれば、水溶性物質が水に溶出することにより、表面に微細なポアが形成されるため、スラリー保持性に優れ、しかも、被処理物に対して、平坦性が十分に高い表面を形成することができる研磨パッドが得られることが確認された。これに対し、比較例1においては、水溶性物質が含有されていないことにより、表面にポアが形成されないため、得られる研磨パッドは、スラリー保持性に劣り研磨速度が低く、また、被処理物に対しても、平坦性が高い表面を形成することが困難であった。比較例2においては、水溶性物質の割合が過大であるため、水中に浸漬すると、表面に露出した水溶性物質のみならず、内部に存在する水溶性物質も溶出してしまい、その結果、形状を維持することとができなかった。比較例3においては、発泡ポリウレタンにより構成されているため、硬度が不十分であることから、研磨レートが安定せず、かつ被処理物の平坦性も不十分であった。
【0028】
【発明の効果】本発明の重合体組成物によれば、その表面に露出した粒子状の水溶性物質がスラリー等の水によって溶出することにより、当該表面に微細なポアが形成されると共に、その内部において、水溶性物質が残存して充填材として作用することにより、当該内部に空孔が形成されることがないため、優れたスラリー保持性を有し、しかも、高い硬度を有する研磨パッドが得られる。そして、本発明の研磨パッドによれば、多孔体よりなる研磨パッドと同等の研磨速度が得られ、しかも、被処理物に対して、平坦性が高い表面を形成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ショアーD硬度が35以上である非水溶性の熱可塑性重合体中に、5〜60体積%の水溶性物質が分散されてなり、当該水溶性物質の平均粒径が0.1〜500μmであることを特徴とする重合体組成物。
【請求項2】 ショアーD硬度が35以上である非水溶性の熱可塑性重合体中に、5〜60体積%の水溶性物質が分散されてなり、当該水溶性物質の平均粒径が0.1〜500μmであることを特徴とする研磨パッド。