説明

重合前のスチレンモノマー供給原料の精製法

【課題】 スチレンモノマー供給原料中のフェニルアセチレンの効率的な除去。
【解決手段】 スチレンモノマー供給物流中のフェニルアセチレン量を減少させる方法が開示され、その方法はフェニルアセチレン還元反応器の直ぐ上流でスチレンモノマー供給物流中に注入された、ヒドロキシルアミンのような通常のスチレン重合禁止剤添加物を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はモノビニル芳香族化合物の精製および重合の分野に関し、より具体的にはスチレンのポリスチレンへの重合の前に粗スチレン供給原料中のフェニルアセチレン汚染物の還元方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
今日製造されるすべての熱可塑性樹脂のなかで、もっとも用途の広い、もっとも広範に利用される材料の群は恐らくポリスチレン、重合アルファ−メチルスチレン、および環−置換スチレンのポリマーのような重合モノビニル芳香族化合物である。
【0003】
これらの化合物(ひとまとめにして、しばしば「スチレン」もしくは「ポリスチレン」と呼称される)のもっとも一般的な用途の幾つかは食品および飲料の容器、食品包装材並びに幼児の玩具の製造に対するものである。ポリスチレンのこれらの使用に伴なう一つの欠点はポリマー中の残留モノマーおよび他の汚染物であり、それらは異味、臭い、褪色およびポリマーの品質の他の不純化もしくは劣化の原因になることがある。
【0004】
ポリスチレンにおけるこれらの望ましくない特性を伴なう、特に不快な汚染物は未反応のビニル芳香族モノマー、通常スチレンモノマーである。未反応モノマーの原因の一つは重合反応器システム中に侵入するスチレン供給原料中のフェニルアセチレンの存在に直接関連する。
【0005】
モノビニル芳香族ポリマー化合物の製造において、そしてより具体的にはポリスチレン(PS)の製造において、ベンゼンがエチレンと反応してエチルベンゼン(EB)を生成する。次に、この分子化合物がEB脱水素、もしくは「デヒドロ」ユニット中で脱水素して、粗スチレン生成物を生成する。次に、粗スチレン生成物を精製して、スチレンモノマー生成物を製造する。次にスチレンモノマーを通常、重合開始剤もしくは触媒の存在下で重合させて、最終的ポリスチレン原料を生成させる。
【0006】
不幸なことには、EBが1段階向うまで脱水素されると、EBデヒドロユニットの望ましくない副産物の一つのフェニルアセチレンが生成する。その結果、デヒドロユニットからの生成物流はスチレン、EBおよび痕跡のフェニルアセチレンを含有する。EBは通常の蒸留のような慣用の方法により容易に除去されて、スチレンモノマーおよびフェニルアセチレンが残る。フェニルアセチレンの除去は蒸留のような簡単なもしくは慣用の方法により達成することができず、これまで困難な、非常に経費のかかる方法であった。
【0007】
スチレンモノマー中のフェニルアセチレンの存在は利用された重合法がアニオン重合又はフリーラジカル重合であるかにかかわらず、望ましくない結果を有する。アニオン重合時には、僅かに酸性のフェニルアセチレンが化学量論的量の、ブチルリチウムのような触媒を消費し、ここで1分子のブチルリチウムがフェニルアセチレン1分子により重合工程から除去される。触媒のこのロスは経費を上昇させ、触媒濃度の制御を困難にさせる。これが順次、ポリスチレンの分子量を制御困難にさせ、低分子量ポリマーの濃度増加をもたらし、ポリスチレン中に未反応スチレンを残留させることさえある。
【0008】
フリーラジカル重合時には、フェニルアセチレンの存在はそれが弱い連鎖移動剤であるので、鎖長および重合率に悪影響を有することがある。その結果、膨脹ポリスチレン(EPS)もしくは「発泡」ポリスチレンを製造するために使用されるポリスチレンビーズの製造において、有意な量の残留スチレンがビーズ中に残留する。スチレンはポリマー中に
ごく僅かな量で存在する時ですら、望ましくない味、色および臭いを生成する。
【0009】
従って、スチレンモノマー中のフェニルアセチレンの存在は価格、重合工程の制御および生成するポリスチレンの純度に悪影響を有する。ポリスチレン中のフェニルアセチレンの存在はまた、ポリマー主鎖にオレフィン結合をもたらし、それは架橋を増加し、ポリマーのより早急な酸化を誘起させることがあり、それら双方ともポリマーを著しく劣化させる。
【0010】
スチレンのフリーラジカル重合においては、重合工程中にスチレン濃度が減少するに従って、フェニルアセチレンの相対的濃度が当然上昇する。フェニルアセチレンは重合禁止剤として働くので、重合工程は悪影響を受ける。
【0011】
スチレンモノマー流中のフェニルアセチレン濃度を減少するための触媒による試みは、フェニルアセチレンをスチレンに還元するために、モノマー中に高濃度の水素ガスの注入を伴なった。化学量論的に過剰なフェニルアセチレンが存在する流れ中に添加されたあらゆる水素は有意な量のスチレンをエチルベンゼンに転化させ、スチレン濃度および転化率を低下させる。フェニルアセチレンの有意な減少はスチレンのEBへの転化率およびそれに従うスチレン生産のロスの犠牲においてのみ達成された。
【0012】
フェニルアセチレン還元(PAR)のための水素ガスの使用に関連した一つの特許は1992年、10月20日にButler等に許可された特許文献1であり、それは多段階水素注入を伴なう触媒床の使用、窒素、二酸化炭素および一酸化炭素のような希釈剤による水素の希釈、水素および希釈剤組み合わせ物を供給するためにEB換気ガスを使用すること並びに複数の触媒床反応器もしくは水素化を達成するための複数の反応器を使用すること、に基づいたPAR法を教示している。その記載された説明および図面が、引用することにより本明細書中にそれらの全体が包含されるこの特許において、脱水素反応に好ましい触媒はアルミナ担体上のパラジウムであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第5,156,816号
【特許文献2】米国特許第5,282,957号
【特許文献3】米国特許第5,396,004号
【特許文献4】米国特許第5,426,257号
【特許文献5】米国特許第6,024,904号
【特許文献6】欧州特許第0 594341 A1号
【特許文献7】欧州特許第0 240297 A1号
【特許文献8】米国特許第5,221,498号
【特許文献9】米国特許第5,221,461号
【特許文献10】米国特許第4,929,778号
【特許文献11】米国特許第5,221,764号
【特許文献12】欧州特許出願第594431号
【特許文献13】欧州特許出願第87302765号
【特許文献14】カナダ特許第2063293号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
前記の、包含されたPAR法による一つの問題はフェニルアセチレンを脱水素するためにPAR反応器中に使用されたPd/Al触媒が、PAのスチレンへの転化率が許容できない程度に低下して、触媒を除去して新規の触媒と交換しなければならなくなるまで、ア
ルミナ担体からパラジウムを連続的に喪失するであろうことである。PAのスチレンへの転化率を増加させ、スチレンを転化することからPAを転化することに触媒の選択性を増加させるための様々な添加剤を使用する試みはごく最低の成功を見たのみであり、パラジウムストリッピングの問題は解決していない。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、通常のPARシステムに添加した時に、PA転化率のレベルを増加するのみならずまた、触媒を安定化し、アルミナ基材からのパラジウムのストリッピングを防止する添加剤を提供することにより先行技術の問題点を解決する。添加剤はヒドロキシルアミンから成る禁止剤の群のなかで、スチレン重合禁止剤として通常使用されるであろうもの、ならびにフェニレンジアミンおよびオキシム化合物とヒドロキシルアミンとの組み合わせである。
【0016】
本発明は図面の説明と関連して考察されるとより明快に理解することができる。図面には通常のスチレンの精製および重合工程が開示されている。この工程はButler等に対する、前記の包含された特許に開示され、完全に記載されたものに基本的に類似している。図中で、エチルベンゼンの脱水素から製造された粗スチレンが弁V1で供給され、そこから粗製物貯蔵タンクCST中に流入する。貯蔵タンクから粗スチレンはスチレンの温度を上昇させるために換気ガス熱交換器VGHEをとおってフローラインF1を通過し、そこから、任意の予熱器PH中に流入する。予熱器から、粗スチレンはフェニルアセチレン還元システムPARS中に流入し、そこから、包含されたButler等の特許中により具体的に記載されたように、水素ガスの存在下でそれをパラジウム/アルミナ触媒上を流すことにより粗スチレン中のフェニルアセチレンが許容量まで減少する。
【0017】
本工程の通常の適用においては通常、予熱器PHの後方で、そしてBTカラムの直前でスチレン重合禁止剤SPIがスチレン供給物に添加されるであろう。これは図面でSPIと記載の供給ラインに示されている。添加剤は通常スチレン重合禁止剤として知られているので、BTカラムの前のいかなる地点でもこのような物質を添加することは実際的もしくは正常であるとは考えられないであろう。例えば、この種の禁止剤は水溶性であるので、大部分の添加剤は粗スチレンタンクCST中のスチレンモノマーから通常分離される水中に溶解するであろうため、弁V1のような早期にシステムにそれを添加することは禁止剤物質の浪費となるであろう。通常のシステムに添加されるスチレン重合禁止剤の通常の量は約50〜500ppmの範囲内である。
【0018】
しかし、本発明においては、PACで表わしたフェニルアセチレン触媒フローラインを通り、フェニルアセチレン還元反応器の直前のスチレン重合システムに特定のスチレン重合禁止剤を添加することにより、このようなシステムの化学につきこれまで知られたいかなる物によっても予期することができない、通常と異る、有利な結果が得られることが予期されずに発見された。実際、スチレン重合システムのいかなる部分においてもスチレン重合禁止剤の使用によりフェニルアセチレン還元に関与する結果を得ることはだれも期待しなかったであろう。通常は重合禁止剤と関連しない地点で、フローラインPACを通りスチレン禁止剤を添加することにより得られた予期しない結果はフェニルアセチレン転化率の増加およびPAR触媒上のパラジウムの安定化である。
【0019】
PARSの直前の供給物流中に挿入するために特に有利な添加剤は4636Somerton Road,Trevose,PA 19053に存在するBetzDearborn社により市販されているヒドロキシルアミン禁止剤のStyrex310である。この禁止剤はより具体的には、特許文献2、特許文献3、特許文献4および特許文献5、特許文献6および特許文献7に記載されている。禁止剤に関連するその他の特許は特許文献8、特許文献9、特許文献10、特許文献11、特許文献12および特許文献13並びに
特許文献14である。
【0020】
本発明の一態様において、本禁止剤は約100PPMの量でPARSの直前にスチレン供給物流に添加され、通常の工程より33%のPA転化率の増加および、添加剤を使用しない通常の工程に伴なうロスの25%未満への、触媒からのパラジウムストリッピングの減少をもたらした。以下の実施例は通常と異る方法でスチレン流中に注入された前記の添加剤を使用することにより伴なった利点を示す。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図はパラジウム/アルミナ触媒を有するフェニルアセチレン還元システムを利用し、本明細書に開示され、請求された本発明の工程を包含している典型的なスチレン精製および重合工程の概略図から成る。
【実施例】
【0022】
以下のパラメーターを使用して、実験室規模の反応器システム中で実験を実施した。

モード 逆流(up flow)
圧力 125PSI
触媒 0.3重量%Al上Pd
触媒容量 20ml、全押し出し物
反応器 1”OD、9/16”ID、1/4”サーモウェル
水素速度 16/1モル水素/PA13sccm
新規供給物 60:40 Styrene:EB
新規供給物速度 18ml/分
供給物組成 全反応器供給物中200PPMのPA
添加剤 Styrex310、活性物質として100PPM
温度 華氏150度(摂氏65.5度)
【0023】
前記の実験室規模の反応器を使用する反応器実験は各添加剤に対するPAR触媒からのパラジウムのロスを決定するために様々な添加剤を用いて実施した。多数の実験室の実験を実施して、スチレンモノマー中のフェニルアセチレンの量を減少させ、触媒上パラジウムを安定化させる点における異る禁止剤の有効性を決定した。以下の表はそれらの実験の結果を示す。

添加剤 濃度(活性物質のPPM)14日後の%PDロス PA転化率重量%
なし 0 19.6 60〜65
TBC 7 18.0
TBC 20 21.2
TBC 100 53.3
4−Oxo−
TEMPO 100 68.0
フェニレンジアミン 100 54.1
ニトロキシドラジカル 100 59.6
DNBP 100 34.9
フェニルキノンメチド 100 42.7
Styrex310 100 4.8 77〜84

TBCはtert−ブチルカテコールであり、
DNBPは2−sec−ブチル−4,6−ジニトトフェノールである
【0024】
前記の表から好ましい添加剤はスチレン中のフェニルアセチレンの極めて高い転化を与えるのみならずさらに、他の添加剤によるよりもはるかに低い、触媒からのパラジウムロスをもたらすことが明白である。PAR反応器の前に添加剤を全く注入しない時には、通常のロスレベルの25%未満までパラジウムロスを減少さえさせる。これは明らかに、得ることができるポリスチレン製品のより高い品質並びにさらに触媒再生および交換の必要性の減少による節約における著しい利益により、著しく有意な利点である。前記の表において、パラジウムロスはヒドロキシルアミン(Styrex310)以外のすべての添加剤においては許容できないほど高かったので、それらに対する転化値は記されていない。しかし、添加剤を含まないフェニルアセチレンの転化率は僅か60〜65重量パーセントの範囲内にあり、他方ヒドロキシルアミンの実験の転化率は77〜84重量パーセントの範囲内にあり、本発明を使用しない通常の率に対して、本発明を使用すると、約30パーセントのPA転化率の平均増加であったことを表から認めることができる。
【0025】
本発明の特に好ましい態様は前記の詳細な説明および図面に説明されたが、それらは制限するよりむしろ、説明する為であると認められるべきであるので、その説明は本明細書中に開示された具体的な形もしくは態様に本発明を限定することを意図されず、本発明がそのように限定されないことは当業者に明白であろう。例えば、本発明中に使用のために特定のフェニレンジアミン/ヒドロキシルアミン添加剤が開示されているが、同様な成分を使用している他の類似の添加剤および類似体を使用することは容易であろう。従って、本発明は本発明の精神および範囲からの逸脱を形成しない、説明の目的のために本明細書中に開示された、本発明の具体的な実施例のすべての変更および変形を保護することが宣言される。
【0026】
発明の効果
本発明によれば、粗スチレン原料中に存在するフェニルアセチレン等の汚染物を効率良く除去することができる。
【0027】
本発明の特徴および態様を以下に示す。
1. スチレン流がその流れ中のフェニルアセチレンを水素化することにより還元するためにフェニルアセチレン反応器システムを通して処理されるスチレン精製工程において、前記フェニルアセチレン反応器システムへ入いる直前にスチレン流に添加剤を添加する段階を含んで成る改良方法であって、ここで、前記添加剤がスチレン重合禁止剤化合物を含んで成る方法。
2. 前記添加剤がヒドロキシルアミンを含んで成る、第1項の方法。
3. 前記添加剤がフェニルアミンジアミン/ヒドロキシルアミン組み合わせ物を含んで成る、第1項の方法。
4. 前記添加剤が約1〜約300ppmの量で添加される第1項の方法。
5. 前記添加剤が約1〜約300ppmの量で添加される第2項の方法。
6. 前記添加剤がヒドロキシルアミン/オキシム組み合わせ物を含んで成る第1項の方法。
7. 前記添加剤が約1〜約300ppmの量で添加される第2項の方法。
8. フェニルアセチレンをスチレンに還元するために水素注入を利用する、フェニルアセチレン還元反応器を有するスチレン製造システム中で使用するためのフェニルアセチレン還元方法であって、前記フェニルアセチレン還元反応器の直ぐ上流で前記製造システム中に有効量のスチレン重合禁止剤を注入することを含んで成る還元方法。
9. 前記と禁止剤がヒドロキシルアミン並びにオキシムおよびフェニレンジアミンとのヒドロキシルアミンの組み合わせ物から成る群から選択された化合物を含んで成る、第8項のフェニルアセチレン還元方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン流がフェニルアセチレン反応器システムを通して処理されるスチレン精製方法であって、前記反応器システム内でスチレン流のフェニルアセチレンがパラジウム触媒を用いた水素化により還元されてスチレンに転化され、前記反応器システムへ入る直前にスチレン流に添加剤を添加する段階を含んで成り、ここで、前記添加剤がヒドロキシルアミン、並びにヒドロキシルアミンとフェニレンジアミンの組合わせ、及びヒドロキシルアミンとオキシム化合物の組合わせ、からなる群のなかのスチレン重合禁止剤、を含んでなることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記添加剤が1〜300ppmの量で添加される請求項1記載の方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のフェニルアセチレン還元反応器を有するスチレン製造システム中で使用するためのフェニルアセチレン還元方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−270149(P2010−270149A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−186009(P2010−186009)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【分割の表示】特願2003−28319(P2003−28319)の分割
【原出願日】平成15年2月5日(2003.2.5)
【出願人】(391024559)フイナ・テクノロジー・インコーポレーテツド (98)
【氏名又は名称原語表記】FINA TECHNOLOGY, INCORPORATED
【Fターム(参考)】