説明

重合反応中の非常に速い開始剤の連続的配量

【課題】重合反応の熱ピークの不十分な制御、反応器の関連した最適とは言えない使用、かなり小さい開始剤効率、製造された樹脂中の高い残留パーオキサイドレベル、特にパーオキシジカーボネートのレベル、および/または樹脂中の望ましくないフィッシュアイの改良。
【解決手段】パーオキサイドが重合混合物に配量される方法に関し、ここで、重合プロセスで使用される有機パーオキサイドの本質的に全てが重合温度で0.05〜1.0時間の半減期を有する。かかるパーオキサイドの配量は、重合速度の正確な制御を可能にし、該方法は、低い残留パーオキサイドレベルを有するポリマーを与え開始剤に対する高いポリマー収率、重合後の樹脂中の非常に低い残留パーオキサイドレベル、樹脂中の低いフィッシュアイレベル、および低い反応器付着物を生じる重合反応を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1以上の有機パーオキサイドを反応温度の重合混合物に配量することにより1以上のモノマーを重合させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
そのような方法は、ドイツ特許出願公開1570963から公知である。そこには、開始剤が、水の流れを介して重合される組成物に、所望により溶媒と混合されて、配量されることが開示されている。この特許出願に例示されている有機パーオキサイドは、パーオキシジカーボネートおよびアセチル−シクロヘキシル−スルホニル−パーオキサイド(ACSP)である。それらは54℃の温度で使用される。54℃でのパーオキシジカーボネートの半減期は、使用されるパーオキシジカーボネートの型に応じて、約3.5時間から4.5時間まで様々であることが知られている。
【0003】
ドイツ特許出願公開1570963のこの方法は、産業における多くの問題を解決することが分かった。しかし、その方法には、重合反応の熱ピークの不十分な制御、反応器の関連した最適とは言えない使用、かなり小さい開始剤効率、製造された樹脂中の高い残留パーオキサイドレベル、特にパーオキシジカーボネートのレベル、および/または樹脂中の望ましくないフィッシュアイを特にもたらすことが知られているACSPなどの望ましくない開始剤の使用という欠点がまだある。高い残留パーオキサイド濃度、特にACSPの濃度は、それを含む樹脂の低い熱安定性と相関し、それは次いで、更なる処理の後の樹脂の変色と関連すると考えられる。従って、これらの欠点のない異なる方法が望ましい。
【0004】
同様に、欧州特許出願0096365は、パーオキサイドが重合中に3回に分けて添加される方法が開示されている。ここでも、その後に生じる熱の制御が困難であることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】ドイツ特許出願公開1570963
【特許文献2】欧州特許出願0096365
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、これらの問題が十分に解決された新規方法に関する。特に、適切な有機パーオキサイドおよび適切な配量条件を選択することにより、重合熱が経時的に本質的に一定であり、最適な反応器時空収率(reactor space-time yield)、非常に効率的なパーオキサイド使用を可能にし、その結果、開始剤に対する高いポリマー収率、重合後の樹脂中の非常に低い残留パーオキサイドレベル、樹脂中の低いフィッシュアイレベル、および低い反応器付着物を生じる重合反応を得ることが可能であることが分かった。従って、改善された熱安定性および低いフィッシュアイレベルを有する樹脂が得られ、一方、重合時間を短縮することができた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
新規方法は、重合法で使用される有機パーオキサイドの本質的に全てが、重合温度で0.05時間〜1.0時間の半減期を有することを特徴とする。これは、パーオキサイドの配量速度を制御することにより重合速度および関連する重合熱生成の正確な制御を可能にし、一方、低レベルの残留パーオキサイドおよび低いフィッシュアイを有する樹脂を高収率で得ることをも可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明に係る方法は、塩化ビニルモノマー(VCM)を含むモノマー混合物の重合に極めて適する。好ましくは、本発明に係る方法は、全モノマーの重量に基づいて少なくとも50重量%のVCMを含むモノマー混合物の重合を含む。
【0009】
使用され得るコモノマーは、通常の型のものであり、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、エチレン、プロピレン、アクリロニトリル、スチレンおよび(メタ)アクリレートを包含する。より好ましくは、重合されるモノマーの少なくとも80重量%がVCMから成り、最も好ましい方法では、モノマーが本質的にVCMから成る。従来公知であるように、そのような方法の重合温度は、得られる樹脂の分子量を大いに決定する。
【0010】
本発明に係る方法では、使用される本質的に全てのパーオキサイドが半減期要件を満たす限り、1以上のパーオキサイドが使用され得る。なお、特開平07−82304号公報でも、重合温度で0.05〜1.0時間の範囲内の半減期を有するパーオキサイドが配量される。しかし、この公報によれば、別のさらに安定なパーオキサイドが重合の開始から使用される。このより安定なパーオキサイドは、特定された半減期要件を満たしていない。そして、得られる樹脂はこのパーオキサイドの許容されないほど高い残渣を有し、従って、低い熱安定性という欠点があることが認められた。低い熱安定性は、典型的には、樹脂の更なる処理中に変色の形で認められる。
【0011】
本発明に係る方法で使用されるべきパーオキサイドの好ましい例は以下の通りである。
【0012】
1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシメトキシアセテート(35〜50℃、好ましくは40〜45℃での重合反応の場合)
ジイソブタノイルパーオキサイド、ビス(t−ブチルパーオキシ)オキサレートまたは2,2−ビス(2,2−ジメチルプロパノイルパーオキシ)−4−メチルペンタン(40〜65℃、好ましくは45〜60℃での重合反応の場合)
α−クミルパーオキシネオデカノエート、2−(2,2−ジメチルプロパノイルパーオキシ)−2−(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)−4−メチルペンタンまたは2,4,4−トリメチルペンチル−2−パーオキシネオデカノエート(53〜79℃、好ましくは60〜75℃の重合温度の場合)および
t−アミル、t−ブチルパーオキシネオデカノエートまたはパーオキシジカーボネート(58〜87℃、好ましくは75〜80℃の重合温度の場合)
【0013】
他のパーオキサイドも使用することができる。それらは、従来周知(例えば、Akzo Nobelから入手可能なパンフレット「高ポリマーのための開始剤」(コード10737)を参照)の通常の熱分解研究によって決定される0.05〜1.0時間の半減期に基づいて、上記したカテゴリーのいずれかに分類することができる。上記したように、本発明に係る方法は、本質的に全てのパーオキサイドが、パーオキサイドの半減期が0.05〜1.0時間であるところの重合温度で使用されることを必要とする。特に、使用される本質的に全てのパーオキサイドは、重合温度で、0.05〜0.8時間、より好ましくは0.08〜0.5時間、最も好ましくは0.08〜0.35時間の半減期を有する。
【0014】
好ましい実施態様では、本発明は、重合混合物が反応(重合)温度より下の温度で配合され、次いで上記の望ましい反応温度に達するように加熱される方法に関する。そのような低温出発法では、重合中に使用されるパーオキサイドの総重量に基づいて好ましくは少なくとも10重量%、より好ましくは20〜40重量%のパーオキサイドが昇温段階の開始時に存在し、一方、残部は、重合時間に応じて、少なくとも1時間、好ましくは2時間、より好ましくは2〜4時間にわたって配量される。より好ましくは、パーオキサイドの残部は、反応混合物の温度が所望の反応温度で制御されるときから配量される。出発時から少量のパーオキサイドを使用すると、速い昇温および重合開始が可能である。なぜならば、重合混合物の加熱中にこのパーオキサイドがすでに(部分的に)分解するからである。重合混合物が重合温度に達すると、パーオキサイドの残部が混合物に配量されて更なる重合速度の制御を行うことができる。好ましくは、配量は連続的である。こうすると、重合速度の最も正確な制御および一定の重合熱出力が可能であり、最も高い効率および樹脂品質が確実に得られるからである。1〜6時間の配量時間が開始剤の非常に効率的な使用を可能にする。そのような配量時間の使用によって、高品質ポリマーが高い収率で得られる。
【0015】
別の好ましい実施態様では、反応混合物が、重合温度またはその付近で配合される。この方法(以降、温出発法と言う)では、出発時に或る量のパーオキサイドを添加する必要がなく、一方、残部は、時間の経過と共に配量される。しかし、この温出発法でも、反応混合物の配合直後に全パーオキサイドの20重量%までを添加し、残部を時間の経過と共に配量すると有益であり得る。また、この温出発法では、好ましくは、反応混合物が所望の反応(重合)温度に達する瞬間から全パーオキサイドの少なくとも10重量%が存在する。この手法が使用される場合、本発明に係るパーオキサイドは好ましくは最後の成分として添加される。この手法は、ある量の重合抑制剤(ラジカル捕獲種)が反応混合物に存在する場合に特に好ましい。そのようなラジカルスカベンジャーが存在する場合、例えばそれは、典型的には、安定剤として使用されるモノマーと共に導入されるので、最初に配量されたパーオキサイドが該スカベンジャーと反応し、従って、重合反応の遅延された開始が防止される。
【0016】
本発明に係る方法で使用されるべきパーオキサイドの量は、重合法で通常使用される範囲内である。典型的には、重合されるべきモノマーの重量に基づいて0.01〜1重量%のパーオキサイド、特に0.01〜0.5重量%が使用される。
【0017】
パーオキサイドは、純粋な形態で、または好ましくは希溶液または分散物の形態で反応器に配量される。パーオキサイドを希釈するために1以上の適する溶媒を使用することができる。好ましくは、そのような溶媒は、重合プロセスの後にポリマーを処理する工程中に容易に除去され、あるいは、該溶媒が、残渣として最終ポリマー中に残るために許容され得るような性質を有する。さらに、かかる溶媒は好ましくは、その中に溶解されたパーオキサイドの熱安定性に悪影響を及ぼさない。これは、該溶媒中でのパーオキサイドの半減期温度を分析することにより確認され得る。適する溶媒の例は、イソドデカンである。パーオキサイド分散物が配量される場合、分散物は、パーオキサイド自体であるか、またはパーオキサイドの溶液、好ましくは上記の適する溶媒中の溶液であり得る。好ましくは、分散物は、水性分散物である。好ましくは、パーオキサイドは1〜50重量%、より好ましくは1.5〜25重量%、最も好ましくは2〜10重量%の濃度で配量される。より希釈されたパーオキサイド溶液または分散物は、パーオキサイドおよび重合混合物の迅速な混合を確実にし、その結果、パーオキサイドのより効率的な使用をもたらす。
【0018】
重合法は、反応混合物が主としてモノマーである塊状法として、または反応混合物が典型的には水中のモノマーの懸濁物である懸濁法として、またはモノマーが典型的には水中で乳化されているエマルジョン法またはミクロエマルジョン法として行われ得る。これらの方法では、通常の添加剤が使用されるに違いない。例えば、モノマーが水中の懸濁物の形状で存在する場合、界面活性剤、保護コロイド、防汚剤、pH緩衝剤などの通常の添加剤が存在し得る。望ましいポリマーの種類に応じて、上記方法の各々が好ましくあり得る。本発明に係る方法は、塊状法および懸濁法に特に適する。
【0019】
重合後、得られる(コ)ポリマー(または樹脂)は、その技術分野で通常であるように処理される。本発明に従って懸濁重合によって得られたポリマーは、例えば、通常の乾燥および篩い分け工程にかけられる。得られた樹脂は好ましくは、60℃で1時間の乾燥および篩い分けの直後に50ppm未満の残留パーオキサイド、より好ましくは40ppm未満、最も好ましくは25ppm未満のパーオキサイドを含むことを特徴とする。樹脂は、ISO 182−2(1990E)法に従ってMetrastat(商標)PSD260試験オーブンで測定されるとき、優れた熱安定性を示すことが分かった。改善された熱安定性は、例えば成形された製品を作るために溶融処理工程にかけたとき、樹脂がほとんど変色しないことを示した。
【実施例】
【0020】
実施例
標準的懸濁重合実験において、1個のバッフル、3羽根攪拌機、圧力変換機、VCM供給ライン、窒素パージラインおよび気相からサンプルを採取するためのサンプリングラインを備えた、温度制御される5リットルのステンレス製Buchi反応器に、2600gの脱イオン水、1gのNa2HPO4および1gのNaH2PO4緩衝液(Baker製)を充填し、窒素を使用して15bargに加圧した。リークが観察されないならば、反応器を排気し、窒素を用いて5bargまで3回加圧して本質的に全ての空気を排出した。全てのパーオキサイドが配量されるわけではないならば、所望量のパーオキサイドを添加する。次に、反応器を排気し、675gのVCM(Akzo Nobel Salt & Basics製)および3.4gのn−ブタン(Praxair製)(最初にVCMと混合される)を充填し、次いで、1時間後に反応混合物が所望の重合温度になるように反応器を昇温した。加熱を開始して10分後、100gの脱イオン水中の1.0125gのGohsenol KP−08(Nippon Gohsei製)の溶液を反応混合物に添加した。従来公知であるように、この瞬間から反応器の気相を分析することにより転化をモニターした。どちらがより短くても、反応器の圧力が低下した後、または7.5時間の反応時間の後、重合をさらに30分間続け、次いで反応器を20〜25℃に冷却し、本質的に全ての残留VCMを除去した。濾過、洗浄および乾燥(流動床を使用して60℃で1時間)後にポリマーを得た。
【0021】
使用されたパーオキサイド、配量された量、および重合結果を以下の表I〜VIIに示す。熱ピーク高さは転化/時間曲線の最大の傾きと相関する。熱ピークが高いほど、ある一定時間に発生する熱がより多く、かつ反応混合物の温度を制御することがより困難である。熱ピークが低いと共にポリマー収率が高いことが好ましい。なぜならば、反応器の時空収率において最適が得られ得るからである。特に断らない限り、パーオキサイドは、昇温の開始から配量される。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【0024】
【表3】

【0025】
【表4】

【0026】
【表5】

【0027】
明らかに、配量時間の適切な選択は、得られ得る収率に影響を及ぼす。さらに、特に反応器壁の高い温度故に反応器表面の付着物が典型的には認められうるこれらの試行において、パーオキサイドが2時間または4時間で配量される実験では、付着物が少ないことが認められた。
【0028】
【表6】

【0029】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニルモノマーおよび任意的な別のモノマーを1以上の有機パーオキサイドを使用して重合する方法であって、ここで、パーオキサイドの少なくとも一部が反応温度の重合混合物に配量される方法において、重合法で使用される有機パーオキサイドの本質的に全てが重合温度で0.05〜1.0時間の半減期を有することを特徴とする方法。
【請求項2】
反応温度で配量されるパーオキサイドが連続的に配量される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
重合反応の開始時、すなわち低温出発法におけるように反応混合物が所望の反応温度に昇温される前、または温出発法におけるように反応混合物の温度が該反応温度にあるときに、開始剤の総量の少なくとも10重量%が存在する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
重合法の開始時に、パーオキサイドの総量の10〜40重量%、より好ましくは20〜40重量%が存在する、請求項3記載の方法。
【請求項5】
パーオキサイドまたはパーオキサイドの残部が、反応温度で、1時間、好ましくは2時間、より好ましくは4時間の間に配量される、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
(コ)ポリマーの重合および60℃で1時間の乾燥の直後に測定したとき、100万重量部の(コ)ポリマーに対して50重量部未満の残留パーオキサイドを有する、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法によって得られる、塩化ビニルをベースとする(コ)ポリマー。
【請求項7】
(コ)ポリマーをその融点より上に加熱することを含む成形法において請求項6に記載の塩化ビニル(コ)ポリマーを使用する方法。

【公開番号】特開2012−52134(P2012−52134A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247473(P2011−247473)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【分割の表示】特願2000−574152(P2000−574152)の分割
【原出願日】平成11年9月10日(1999.9.10)
【出願人】(390009612)アクゾ ノーベル ナムローゼ フェンノートシャップ (132)
【氏名又は名称原語表記】Akzo Nobel N.V.
【Fターム(参考)】