説明

重合可能な大環状ポリエーテルおよび大環状ヘテロ類縁ポリエーテルの歯科材料における使用

【課題】良好な基質接着性、良好な溶解度および良好な機械的特性を有する新規歯科材料を提供すること。
【解決手段】本発明により、歯科材料であって、該歯科材料の全重量に対して少なくとも0.05重量%の、ラジカル重合可能な大環状ポリエーテルまたはラジカル重合可能な大環状ヘテロ類縁ポリエーテルのうちの少なくとも一つを含有する、歯科材料が提供される。さらに、歯科工学における使用のための組成物であって、該組成物は、請求項1〜10のうちの一項で定義される、ラジカル重合可能な、大環状ポリエーテルまたは大環状ヘテロ類縁ポリエーテルを含有する、組成物が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジカル的に、重合可能な大環状ポリエーテルおよび重合可能な大環状ヘテロ類縁ポリエーテルの歯科材料における使用、特に、接着剤、コーティング、セメントまたはコンポジットの調製のための使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ラジカル重合による応用の間に硬化し得る有機モノマーマトリックスに基づく、硬化可能な歯科材料は、公知である。このような歯科材料の例は、接着剤、コーティング、セメントまたはコンポジットである。このような材料を全てについて、象牙質、歯のエナメル質、または他の歯科材料のいずれに対する、良好な基質接着性は、重要な特性であるが、しかし、この性質は、一方である、有機モノマーまたはポリマーと、他方である、基質(例えば、象牙質または歯のエナメル質)との間の乏しい適合性に起因する困難を伴ってのみ、達成され得る。
【0003】
大環状ポリエーテル(クラウンエーテル)および、そのヘテロ類縁化合物(コロナンドまたはコランド)(O原子が部分的に、または全てヘテロ原子(とりわけ、窒素および硫黄)で置き換えられる)は現在の技術水準において公知であり、そして二環性クラウンエーテル(クリプタンド)もまた公知である(例えば、非特許文献1)。クラウンエーテル、およびそのヘテロ類縁化合物の例は、以下:
【0004】
【化1】

の[15]クラウン−5、[18]クラウン−6または1,10−ジアザ−[18]クラウン−6である。
【0005】
簡略化された命名法において、xの環員、およびy個の酸素原子を有するクラウンエーテルは、[x]クラウン−yと呼称される(非特許文献2およびその続きを参照)。追加の置換基は、上記の名称の前に、接頭語として位置する。(例えば、ジベンゾ[18]クラウン−6)。二個の窒素原子を介して架橋される、二環性クラウンエーテル(クリプタンド)の場合、名称において、第一の架橋部位の酸素原子の数、第二の架橋部位の酸素の数、および第三の架橋部位の酸素の数が、全てピリオドで分けられて、クリプタンドという語句の前に位置する。例えば[2.2.2]クリプタンド:
【0006】
【化2】

例えば、重合可能なクラウンエーテルのような重合可能な大環状ポリエーテルもまた公知である。したがって、例えば、4−ビニルベンゾ−[15]クラウン−5(VB15C5)または、4−ビニルベンゾ−[18]クラウン−6(VB18C6)のラジカル重合によりイオン結合性ポリマーが得られる(非特許文献3)。
【0007】
【化3】

特許文献1は、歯のエナメル層に対して、フッ素化する組成物を記載し、この組成物は、フッ化ナトリウムまたはフッ化カリウムおよび例えば、アセトン、アセトニトリルまたは酢酸エチルのような有機溶媒に加えて、好ましくは、クラウンエーテル(例えば、[18]クラウン−6)またはクリプタンド(例えば、[2.2.2]クリプタンド)のような錯化剤を含有する。明示された大環状ポリエーテルは重合可能な化合物ではない。むしろ、使用されたクラウンエーテルは、溶媒和殻を伴わないフッ化物イオンの形成を伴うフッ化物の溶解のみを起こす。十分に溶媒和されないフッ化物イオンは、歯のエナメル質によって、より良好に吸収されると言われいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】中国特許出願公開第631,344号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】C.J.Pedersen,H.K.Frensdorf,Angew.Chem.第84巻(1972年)p.16
【非特許文献2】Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry,第5版,巻(A8),p.91
【非特許文献3】S.Kopolow,T.E.Hogen Esch,J.Smid,Macromolecules第6巻(1973年)p.133
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、良好な基質接着性、良好な溶解度および良好な機械的特性を有する新規歯科材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本目的は、歯科材料の全重量に対して、少なくとも0.05重量%の、ラジカル重合可能な大環状ポリエーテルまたはラジカル重合可能な大環状ヘテロ類縁ポリエーテルのうちの少なくとも一つを含有する歯科材料により達成される。本発明の歯科材料は、好ましくは0.05重量%〜40重量%、特に好ましくは1重量%〜30重量%、特に非常に好ましくは、1重量%〜20重量%の、ラジカル重合可能な、大環状ポリエーテルおよび/または大環状ヘテロ類縁ポリエーテルを含有する。
【0012】
本発明は、さらに、歯科工学および歯科学における、これらのラジカル重合可能な、大環状ポリエーテルおよび大環状ヘテロ類縁ポリエーテルの使用、とりわけ歯科の目的のための接着剤、コーティング材料、セメントおよびコンポジットの調製のための使用に関する。
上記のラジカル重合可能な、大環状ポリエーテルまたは大環状ヘテロ類縁ポリエーテルは、単環式であるか、または多環式であり、好ましくは、単環式化合物(すなわち、クラウンエーテルまたはヘテロ類縁クラウンエーテル)または、二環式化合物(すなわち、クリプタンド)である。ヘテロ類縁ポリエーテルまたはへテロ類縁クラウンエーテルは、本発明のポリエーテルまたはクラウンエーテルであって、O原子が部分的にまたはすべてが、他のヘテロ原子(とりわけ、窒素および/または硫黄)で置き換えられたものという意味の範囲内であることを意味する。
【0013】
本発明は、例えば以下の項目を提供する。
(項目1)
歯科材料であって、該歯科材料の全重量に対して少なくとも0.05重量%の、ラジカル重合可能な大環状ポリエーテルまたはラジカル重合可能な大環状ヘテロ類縁ポリエーテルのうちの少なくとも一つを含有する、歯科材料。
(項目2)
上記項目に記載の歯科材料であって、ここで、前記ラジカル重合可能な、大環状ポリエーテルまたは大環状ヘテロ類縁ポリエーテルが、一般式I MC−(SP−PG)に従い、ここで
MCは、n回置換された
(a)一般式IIa
【0014】
【化21】

のクラウンエーテルまたはへテロ類縁クラウンエーテルの残基
あるいは、
(b)式IIb
【0015】
【化22】

のクリプタンドの残基に対応し、
式中、
xは、各々の場合において、互いに独立して、O、SおよびNRから選択され、ここで、Rは、互いに独立して、H、残基SP−PG、または別の有機残基を意味し;
Yは、互いに独立して、C〜Cアルキレン残基から選択され、
Zは、各々の場合において、互いに独立して、C〜Cアルキレン、C〜C10アリーレンおよびC〜Cシクロアルキレン残基から選択され;
aは、3〜10の整数であり、そして
bは、互いに独立して、1〜3の整数であり;
SPは、互いに独立して、結合基であるか、または省略され、
PGは、ラジカル重合可能な基であり、そして
nは、1〜8の整数であり、
ここで、SP−PGおよび/またはPGは、MCに、少なくとも一つのZ残基を介して結合し、そしてX=NRの場合には、少なくとも一つのN原子を介して、付加的か、または独占的にMCに結合する、歯科材料。
(項目3)
上記項目のうちのいずれか一項に記載の歯科材料であって、ここで、MCが前記式IIaに従い、そして前記X基がO原子またはO原子およびS原子の組み合わせである、歯科材料。
(項目4)
上記項目のうちのいずれか一項に記載の歯科材料であって、ここで、(a+1−n)個のZ残基がエチレン残基であり、そしてn個のZ残基がPG−および/またはSP−PG−置換C〜C10アリーレンおよび/またはC〜Cシクロアルキレン残基、好ましくはPG−および/またはSP−PG−置換フェニレンおよび/またはシクロヘキシレン残基である、歯科材料。
(項目5)
上記項目のうちのいずれか一項に記載の歯科材料であって、ここで、MCが、前記式IIaに従い、そして前記X基が、NR基またはO原子とNR基の組み合わせである、歯科材料。
(項目6)
上記項目のうちのいずれか一項に記載の歯科材料であって、ここで、n個のNR基におけるRが、PGおよび/またはSP−PG残基に対応し、そして全てのZ残基がエチレン残基である、歯科材料。
(項目7)
上記項目のうちのいずれか一項に記載の歯科材料であって、ここで、MCが前記式IIbに従い、前記X基がO原子であり、前記Y残基がエチレン残基であり、(2b+2−n)個のZ残基が、エチレン残基であり、そしてn個のZ残基がPG−および/またはSP−PG−置換C〜Cアルキレン、C〜C10アリーレンおよび/またはC〜Cシクロアルキレン残基であり、好ましくは、PG−および/またはSP−PG−置換フェニレンおよび/またはエチレン残基である、歯科材料。
(項目8)
上記項目のうちのいずれか一項に記載の歯科材料であって、ここで、前記ラジカル重合可能な基PGが、ビニル、アリル、および/または(メタ)アクリロイル基である、歯科材料。
(項目9)
上記項目のうちのいずれか一項に記載の歯科材料であって、ここで、前記結合基SPが、式−R−Z−R−Z−に従い、式中、ZおよびZは同一であるか、異なっており、かつ各々の場合において、−O−、−CO−O−、−O−CO−、−CO−NH−、−NH−CO−、−O−CO−NH−または−NH−CO−O−を意味し、あるいは、ZおよびZのうち一つまたは両方が存在せず、そしてRおよびRが同一であるか、異なっており、かつ、各々の場合において、C〜C10アルキレン残基を意味し、またはRおよびRのうち一つまたは両方が存在しない、歯科材料。
(項目10)
上記項目のうちのいずれか一項に記載の歯科材料であって、該歯科材料が、接着剤、コーティング材料、セメントまたはコンポジットである、歯科材料。
(項目11)
上記項目のうちのいずれか一項に記載の歯科材料であって、該歯科材料が、接着剤またはコーティング材料であり、そして以下:
(i)0.05重量%〜40重量%、好ましくは1重量%〜30重量%、そして、特に好ましくは、1重量%〜20重量%の、ラジカル重合可能な、大環状ポリエーテルおよび/または大環状ヘテロ類縁ポリエーテルのうちの少なくとも一つ
(ii)0.01重量%〜10重量%、好ましくは、0.1重量%〜3.0重量%のラジカル重合のための開始剤
(iii)0重量%〜80重量%、好ましくは、0重量%〜60重量%、そして、特に好ましくは5重量%〜50重量の、少なくとも一つの、成分(i)とは異なるラジカル重合可能なモノマー
(iv)0重量%〜20重量%の充填材、ならびに
(v)0重量%〜95重量%、好ましくは、0重量%〜70重量%、そして、特に好ましくは5重量%〜50重量%の溶媒
を、各々の場合において、該歯科材料の全重量に対して含有する、歯科材料。
(項目12)
上記項目のうちのいずれか一項に記載の歯科材料であって、該歯科材料が、セメントまたはコンポジットであり、そして以下:
(i)0.05重量%〜40重量%、好ましくは1重量%〜30重量%、そして、特に好ましくは、1重量%〜20重量%の、ラジカル重合可能な、大環状ポリエーテルおよび/または大環状ヘテロ類縁ポリエーテルのうちの少なくとも一つ
(ii)0.01重量%〜10重量%、好ましくは、0.1重量%〜3.0重量%のラジカル重合のための開始剤
(iii)0重量%〜80重量%、好ましくは、0重量%〜60重量%、そして、特に好ましくは5重量%〜50重量の、少なくとも一つの、成分(i)とは異なるラジカル重合可能なモノマー、ならびに
(iv)20重量%〜75重量%の充填材、
を、各々の場合において、該歯科材料の全重量に対して含有する、歯科材料。
(項目13)
上記項目のうちのいずれか一項で定義される、ラジカル重合可能な、大環状ポリエーテルまたは大環状ヘテロ類縁ポリエーテルの、歯科材料の調製のための、使用。
(項目14)
上記項目のうちのいずれか一項で定義される、ラジカル重合可能な、大環状ポリエーテルまたは大環状ヘテロ類縁ポリエーテルの、歯科工学における、使用。
(項目15)
歯科学における使用のための、上記項目のうちのいずれか一項で定義される、ラジカル重合可能な、大環状ポリエーテルまたは大環状ヘテロ類縁ポリエーテル。
(項目14A)
歯科工学における使用のための組成物であって、該組成物は、上記項目のうちのいずれか一項で定義される、ラジカル重合可能な、大環状ポリエーテルまたは大環状ヘテロ類縁ポリエーテルを含有する、組成物。
(項目15A)
歯科学における使用のための組成物であって、該組成物は、上記項目のうちのいずれか一項で定義される、ラジカル重合可能な、大環状ポリエーテルまたは大環状ヘテロ類縁ポリエーテルを含有する、組成物。
【0016】
(摘要)
本発明は、ラジカル重合可能な、大環状ポリエーテルまたは大環状ヘテロ類縁ポリエーテル、好ましくはクラウンエーテル、ヘテロ類縁クラウンエーテル、およびクリプタンドの、歯科材料における使用に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によって、良好な基質接着性、良好な溶解度および良好な機械的特性を有する新規歯科材料が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
好ましい実施形態において、上記のラジカル重合可能な、大環状ポリエーテルまたは大環状ヘテロ類縁ポリエーテルは、一般式MC−(SP−PG)(式I)に従い、ここで
MCは、n回置換された
(a)一般式IIa
【0019】
【化4】

のクラウンエーテルまたはへテロ類縁クラウンエーテルの残基
あるいは、
(b)式IIb
【0020】
【化5】

のクリプタンドの残基であり、
式中、
xは、各々の場合において、互いに独立して、O、SおよびNRから選択され、ここで、Rは、互いに独立して、H、残基SP−PG、または別の有機残基を意味し;
Yは、互いに独立して、C〜Cアルキレン残基から選択され、
Zは、各々の場合において、互いに独立して、C〜Cアルキレン、C〜C10アリーレンおよびC〜Cシクロアルキレン残基から選択され;
aは、3〜10の整数であり、好ましくは、3〜6の整数であり、そして
bは、各々の場合において、互いに独立して、1〜3の整数であり、好ましくは、1または2であり;
SPは、互いに独立して、化合物群であるか、または存在せず、
PGは、ラジカル重合可能な基であり、そして
nは、1〜8の整数であり、好ましくは、1〜4の整数であり、特に好ましくは、1、2または4であり;
ここで、SP−PGおよび/またはPGは、MCに、少なくとも一つのZ残基を介して結合し、そしてX=NRの場合には、少なくとも一つのN原子を介して、付加的か、または独占的にMCに結合する(この場合、少なくとも一つのRはPGまたはSP−PGである)。
【0021】
式IIbにおける変数bは、全ての場合において同じ整数を表わすか、または2もしくは3個の異なる数字を意味し得る。好ましくは、式(IIb)においてbが出現するごとに、bが同じ値を有する。ラジカル重合可能な、大環状ポリエーテルまたは大環状ヘテロ類縁ポリエーテルがクラウンエーテルまたはヘテロ類縁クラウンエーテルであるとき、すなわち、MCが式IIaに従うとき、特に好ましくはa=3、4または5である。ラジカル重合可能な大環状ポリエーテルが式IIbに従うクリプタンドであるとき、特に好ましい実施形態において、b=2である。
【0022】
Z残基は、各々の場合において、互いに独立して、C〜Cアルキレン、C〜C10アリーレンおよびC〜Cシクロアルキレン残基から選択され、好ましくは、エチレン、フェニレン(特に好ましくは、1,2−フェニレン=o−フェニレン)およびシクロヘキシレン残基(特に好ましくは、1,2−シクロへキシレン)から選択される。上記の明示された残基は、各々の場合において、有機基により置換され得、ここでPG残基および/またはSP−PG残基による置換が、好ましい。他の適切な置換基の例としては、OHまたはCOOHが挙げられる。
【0023】
クラウンエーテルまたはヘテロ類縁クラウンエーテルが、O原子のみ、またはO原子およびS原子の組み合わせを含むとき、n個のPGおよび/またはSP−PG残基は、n個のZ残基を介して、大員環MCに結合しなければならない。この場合、好ましいのは、a=4または5である、クラウンエーテルまたはヘテロ類縁クラウンエーテル;特にa=4である、クラウンエーテル;a=5である、クラウンエーテル;a=5である、S−類縁クラウンエーテル(ここで2個のO原子がS原子で置き換えられている)である。そこで、n個のZ残基は、互いに独立して、C〜Cアルキレン、C〜C10アリーレンおよびC〜Cシクロアルキレン残基から選択され、好ましくは、C〜C10アリーレンおよびC〜Cシクロアルキレン残基から選択され、そして、特に好ましくは、フェニレンおよびシクロへキシレン残基から選択される。残りの(a+1−n)個のZ残基は、好ましくは、エチレンである。
【0024】
クラウンエーテルまたはヘテロ類縁クラウンエーテルが、N−類縁クラウンエーテル(ここで、O原子は、部分的に、または全てNR基で置き換わっている)であるとき、例えば、a=5であり、X基がO原子およびNR基の組み合わせであるN−類縁クラウンエーテル(例えば、2個のO原子がNR基で置き換わっているN−類縁クラウンエーテル;または、a=3であり、全てのO原子がNR基で置き換わっているN−類縁クラウンエーテルのような)であるとき、PGおよび/またはSP−PG残基は、NR基のN原子を介して、付加的か、または独占的に大員環MCに結合し得る。この場合において、対応するNR基について、RがPGおよび/またはSP−PGであることは事実である。好ましくは、n個のPGおよび/またはSP−PG残基は、N原子を介して、独占的に結合している、すなわち、n個のNR基において、R=PGおよび/またはSP−PGである。そこで、Z残基は、代表的にエチレンである。しかし、N−類縁クラウンエーテルの場合において、全てのPGおよび/またはSP−PG残基またはいくつかのPGおよび/またはSP−PG残基が、Z残基を介して結合していることもまた可能である。n個のPGおよび/またはSP−PG残基が、Z残基を介してのみ結合しているとき、(a+1−n)個のZ残基がエチレン残基であり、そしてn個のZ残基がPG−および/またはSP−PG−置換エチレン残基である実施形態が好ましい。N原子およびZ残基を介する混合した結合もまた、可能である。
【0025】
ラジカル重合可能な大環状ヘテロ類縁ポリエーテルがクリプタンドであるとき、すなわち、MCが式IIbに従うとき、全てのX基は、好ましくはO原子である。
【0026】
クリプタンドの場合において、n個のPGおよび/またはSP−PG残基は、好ましくは、n個のZ残基を介して、大員環MCに結合する。そこで、これらの、n個のZ残基は、互いに独立して、PG−および/またはSP−PG−置換C〜Cアルキレン、PG−および/またはSP−PG−置換C〜C10アリーレンおよびPG−および/またはSP−PG−置換C〜Cシクロアルキレン残基から選択され、好ましくは、n個のZ残基はPG−および/もしくはSP−PG−置換フェニレンならびに/またはエチレンである。残り(2b+2−n)個のZ残基は、好ましくはエチレンである。
【0027】
O原子のみを含むか、または、O原子とS原子もしくはNR基との組み合わせを含むクラウンエーテルまたはヘテロ類縁クラウンエーテルの場合において、好ましくは、n=1または2である。全てのO原子がNR基により置き換わっているN−類縁クラウンエーテルの場合において、好ましくは、n=1であるか、または、特にa=3のとき、n=4である。クリプタンドの場合において、好ましくは、n=1である。
NR基を含み、RはPGまたはSP−PGではないN−類縁クラウンエーテルの場合において、Rは水素または任意の有機残基(たとえば、x=1〜5であり、好ましくは、x=1、そしてRがH、またはC〜Cアルキル(好ましくは、RがH、エチルまたはt−ブチル)である、−(CH−CO−O−R)である。
大員環MCに結合した重合可能な基PGは、任意のラジカル重合可能な基、すなわち、エチレン性不飽和な二重結合を含む基であり得る。MC−(SP−PG)分子の範囲内で、n>1であるとき、n個のPG残基は、同一であっても、異なっていてもよい。好ましい重合可能な基は、ビニル,アリルおよび(メタ)アクリロイル基であり、ここで(メタ)アクリロイル基は、例えば、(メタ)アクリロイルオキシまたは(メタ)アクリロイルアミノ基の一部であり得る。これらの基、特にビニルおよびアリル基は、さらなる有機残基(例えば、C〜Cアルキル(好ましくはメチル)、あるいはR=HまたはC〜Cアルキル(好ましくはR=Hまたはエチル)である、−CO−O−R)により置換され得る。
【0028】
上述で明示された重合可能な基PGは、大員環MCに直接結合するか、または結合基(「スペーサー」)SPを介して結合するか、上述に記載したZ残基もしくはN原子を介して結合し得る。MC−(SP−PG)分子の範囲内で、n>1であるとき、結合基は、同一であっても、異なっていてもよいか、あるいはこれらは全体的または部分的に省略され得る、すなわち、分子の範囲内で、重合可能な基PGは、部分的には直接MCに結合し、そして部分的にスペーサーSPを介して結合することが可能である。
【0029】
結合基SPは、好ましくは、式−R−Z−R−Z−に従い、式中、ZおよびZは同一であるか、異なっており、かつ各々の場合において、−O−、−NH−、−CO−O−、−O−CO−、−CO−NH−、−NH−CO−、−O−CO−NH−または−NH−CO−O−を意味し、あるいは、ZおよびZのうち一つまたは両方が省略され、そしてRおよびRは同一であるか、異なっており、かつ、各々の場合において、C〜C10アルキレン残基を意味するかまたは、RおよびRのうち一つもしくは両方が省略され省略される。重合可能な基PGが結合基SPを介してMCに結合しているMC−(SP−PG)分子は、重合可能な基PGがMCに直接結合している分子よりも、しばしば、より大きな重合能を有することが示されている。
【0030】
直接またはSPを介してZ残基に結合可能なPG残基の例としては、(好ましくは、フェニレンであるZに結合した)ビニル;(好ましくは、フェニレンまたはエチレンであるZに結合した)アリルエーテル;(メタ)アクリロイルオキシアルキル、好ましくは、(好ましくは、フェニレン、シクロヘキシレンまたはエチレンであるZに結合した)(メタ)アクリロイルオキシメチル、ならびに(メタ)アクリロイルアミノアルキル、好ましくは、(好ましくは、フェニレンまたはエチレンであるZに結合した)、(メタ)アクリロイルアミノメチルおよび(メタ)アクリロイルアミノプロピルが挙げられる。直接またはSPを介してN原子に結合可能なPG残基の例としては:大員環のN原子と共に(メタ)アクリルアミドを形成する、(メタ)アクリロイル;カルボキシアリル;アルコキシカルボニルアリル(好ましくは、エトキシカルボニルアリルおよびt−ブトキシカルボニルアリル)、ならびに(メタ)アクリロイルアミノアルカノイル(好ましくは、(メタ)アクリロイルアミノ-ヘキサノイル)が挙げられる。
【0031】
本発明のラジカル重合可能な、大環状ポリエーテルまたは大環状ヘテロ類縁ポリエーテルは公知の合成プロセス(例えば、C.J.Pedersen,H.K.Frensdorf,Angew.Chem.第84巻(1972年)p.16およびその続き;Studies in Organic Chemistry,Vol.45:Crown EthersおよびAnalogous Compounds,編.M.Hiraoka,Elsevier,Amsterdamその他、1992年,p.17およびその続きを参照)によって調製され得る。したがって、例えば、芳香族環を有する重合可能なクラウンエーテル(X=O;a=3〜10;Z残基は、4−位において置換されたo−フェニレン基であり、そして残りのZ残基はエチレンである)は、ジクロライドCl−(CHCHO)CHCH−Cl(xは2〜8)と、p−4−クロロメチルカテコールとを最初に縮合させるような、多段階合成により調製され得る。得られた置換ベンゾ−クラウンエーテルは、その後、対応するメタクリレートへと、メタクリル酸のナトリウム塩を用いて変換される。
【0032】
【化6】

(特定の例)
4−メタクリルオキシメチルベンゾ−18−クラウン−6の合成
【0033】
【化7】

適切な、官能基化されたクラウンエーテルがすでに存在するとき、これらは、有機化学の公知の方法を用いて重合可能な誘導体へと変換され得る。したがって、例えば、テトラ−アザ−大員環のような、N−類縁クラウンエーテルは、アシル化またはアルキル化により、容易に官能基化され得る。
【0034】
【化8】

(x=1〜4,好ましくは、2)。
(特定の例)
【0035】
【化9】

本発明における使用のための、ラジカル重合可能な、大環状ポリエーテルおよび大環状ヘテロ類縁ポリエーテルの例は、以下:
【0036】
【化10】

【0037】
【化11】

【0038】
【化12】

【0039】
【化13】

【0040】
【化14】

である。
【0041】
ラジカル重合可能な、大環状ポリエーテルおよび/または大環状ヘテロ類縁ポリエーテルは、本発明の歯科材料中に、各々の場合において、この歯科材料の全重量に対して、0.05重量%〜40重量%、好ましくは1重量%〜30重量%、特に好ましくは、1重量%〜20重量%の量で、代表的に含有される。一種類のみのラジカル重合可能な、大環状ポリエーテルまたは大環状ヘテロ類縁ポリエーテル、あるいは異なるラジカル重合可能な、大環状ポリエーテルおよび/または大環状ヘテロ類縁ポリエーテルの混合物が含有され得る。
【0042】
本発明の歯科材料は、代表的には、歯科の目的のための接着剤、コーティング材料、セメントまたはコンポジットである。
【0043】
本発明の歯科材料におけるラジカル重合可能な、大環状ポリエーテルまたは大環状ヘテロ類縁ポリエーテルは水または水と極性溶媒(例えば、アセトン、エタノール、もしくはアセトニトリル)との混合物中によく溶解する。これらは、相間移動触媒として、多くの様々な基質上での有機化合物の湿潤または多孔性物質の内側への化合物の拡散を促進する。加えて、ラジカル重合可能な、大環状ポリエーテルおよび大環状ヘテロ類縁ポリエーテルは、例えば、カルシウムイオンのような金属イオンと錯形成し得、したがって、歯のエナメル質および象牙質との接着を媒介するための位置にある。用いられる本発明のモノマーにおいて、大員環は、重合可能な基と、直接的または結合基を介して、共有結合的に結合し、大環状成分が、重合後に、重合成分(polymerizate)へと共有結合的に統合され、このことが、対応する材料の生物適合性を改善するという結果を伴う。
【0044】
本発明の歯科材料は、上記のラジカル重合可能な、大環状ポリエーテルおよび大環状ヘテロ類縁ポリエーテルとは異なる、追加のラジカル重合可能なマトリックスモノマーをさらに含有し得る。異なる追加のモノマーの混合物または1種類のみの追加のモノマーが、存在し得ることが理解される。
【0045】
適切な追加のラジカル重合可能なモノマーの例は、一官能基化または多官能基化(メタ)アクリレート(例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレートおよびイソボルニル(メタ)アクリレート)、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ビス−GMA(メタクリル酸およびビスフェノールAジグリシジルエーテルの付加生成物)、UDMA(2−ヒドロキシエチルメタクリレートおよび2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートの付加生成物)、ジ−、トリ−、またはテトラエチレングリコールジ(メタ)ジアクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート)、ならびにグリセロールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレートおよび1,12−ドデカンジオールジ(メタ)アクリレートである。
【0046】
さらに適切な追加のラジカル重合可能なモノマーは耐加水分解性希釈モノマーであり、例えば、耐加水分解性モノ(メタ)アクリレート(例えば、メシチルメタクリレート)または2−(アルコキシメチル)アクリル酸(例えば、2−(エトキシメチル)アクリル酸,2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸)、N−モノ−置換アクリルアミドおよびジ−置換アクリルアミド(例えば、N−エチルアクリルアミド,N,N−ジメタクリルアミド,N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミドおよびN−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド)またはN−モノ置換メタクリルアミド(例えば、N−エチルメタクリルアミドおよびN−(2−ヒドロキシエチル)メタクリルアミド、加えて、N−ビニルピロリドンならびにアリルエーテルである。
【0047】
本発明の歯科材料においても使用され得る、耐加水分解性の架橋性モノマーの例は、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エステルのウレタン、ならびにジイソシアネート(2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートおよびイソホロンジイソシアネート)、架橋性ピロリドン(例えば、1,6−ビス(3−ビニル−2−ピロリドニル)−ヘキサン)、ならびに市販のビスアクリルアミド(例えば、メチレン−およびエチレンビスアクリルアミド)またはビス(メタ)アクリルアミド(例えば、N,N’−ジエチル−1,3−ビス(アクリルアミド)プロパン、1,3−ビス(メタクリルアミド)プロパン、1,4−ビス(アクリルアミド)ブタン)ならびに(メタ)アクリル酸塩化物を用いて、耐応するジアミンからの反応により合成可能な1,4−ビス(アクリロイル)ピペラジンである。
【0048】
さらに、追加の重合可能なモノマーとしての、公知の低収縮度のモノマー(開環様式でラジカル的に重合可能である)、例えば、一官能基化または多官能基化ビニルシクロプロパンまたは二環式シクロプロパン誘導体(例えば、独国特許発明第196 16 183号または欧州特許出願公開第1 413 569号を参照)または環状アリルスルフィド(米国特許第6,043,361号または米国特許第6,344,556号を参照)が用いられ得、これらに加えて、上に列挙したジ(メタ)アクリレート架橋剤と組み合わせてもまた用いられ得る。開環様式で重合可能な、適切なモノマーは、特に、ビニルシクロプロパン(例えば、1,1−ジ(エトキシカルボニル)および1,1−ジ(メトキシカルボニル)−2−ビニルシクロプロパン)、1−エトキシカルボニルおよび1−メトキシカルボニル−2−ビニルシクロプロパンカルボン酸とエチレングリコール、1,1,1−トリメチルオールプロパン,1,4−シクロヘキサンジオールまたはレゾルシノールとのエステルである。適切な二環式シクロプロパン誘導体は、2−(ビシクロ[3.1.0]ヘキサ−1−イル)アクリル酸のメチルエステルおよびエチルエステルならびにそれらの3位において二置換された生成物(例えば、(3,3−ビス(エトキシカルボニル)ビシクロ[3.1.0]ヘキサ−1−イル)アクリル酸メチルエステルまたはエチルエステル)である。適切な環状アリルスルフィドは、2−(ヒドロキシメチル)−6−メチレン−1,4−ジチエパンまたは7−ヒドロキシ−3−メチレン−1,5−ジチアシクロオクタンと、2,2,4−トリメチル−ヘキサメチレン−1,6−ジイソシアネートとの付加生成物または非対称ヘキサメチレンジイソシアネート三量体(この非対称三量体は、イソシアヌレート構造を有する対称ヘキサメチレンジイソシアネート三量体とは違い、イミノオキサジアジンジオン構造を有する)である。非対称ヘキサメチレンジイソシアネート三量体は、例えば、Bayer AGから、Desmodur(登録商標)VP LS 2294の名称で市販されている。
【0049】
追加のモノマーとして、適切なメタクリルシランから調製され得るラジカル重合可能なポリシロキサン(例えば、3−(メタクリロイルオキシ)プロピルトリメトキシシラン)もまた使用され得、そして、独国特許発明第199 03 177号明細書に記載される。
【0050】
最後に、上述で明示されたモノマーとラジカル重合可能な酸基を含む接着性モノマーとの混合物もまた、追加のラジカル重合可能なマトリックスモノマーとして用いられ得る。適切な、酸基を含むモノマーは、重合可能なカルボン酸(例えば、マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリト酸無水物、10−メタクリロイルオキシデシルマロン酸、N−(2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピル)−N−フェニルグリシンまたは4−ビニル安息香酸)である。適切なホスホン酸モノマーの例は、ビニルホスホン酸、4−ビニルフェニルホスホン酸、4−ビニルベンジルホスホン酸、2−メタクリロイルオキシエチルホスホン酸、2−メタクリルアミドエチルホスホン酸、4−メタクリルアミド−4−メチル−ペンチルホスホン酸、2−[4−(ジヒドロキシホスホリル)−2−オキサ−ブチル]−アクリル酸ならびに2−[2−ジヒドロキシホスホリル)−エトキシメチル]−アクリル酸エチルエステルおよび−2,4,6−トリメチルフェニルエステルである。適切な酸性の重合可能なリン酸エステルの例は、2−メタクリロイルオキシプロピルリン酸一水素エステルおよびリン酸二水素エステル、2−メタクリロイルオキシエチルリン酸一水素エステルおよびリン酸二水素エステル、2−メタクリロイルオキシエチルフェニルリン酸水素エステル、ジペンタエリスリトールペンタメタクリロイルオキシリン酸エステル、10−メタクリロイルオキシデシルリン酸二水素エステル、ジペンタエリスリトール−ペンタメタクリロイルオキシリン酸エステル、リン酸モノ−(1−アクリロイル−ピペリジン−4−イル)−エステル、6−(メタクリルアミド)ヘキシルリン酸二水素エステルならびに1,3−ビス−(N−アクリロイル−N−プロピル−アミノ)−プロパン−2−イルリン酸二水素エステルである。適切な、重合可能なスルホン酸の例は、ビニルスルホン酸、4−ビニルフェニルスルホン酸および3−(メタクリルアミド)プロピルスルホン酸である。
【0051】
本発明の歯科材料は、代表的に、ラジカル重合のための開始剤を含有する。どのような種類の硬化(例えば、放射硬化(光重合)および/または熱硬化および/または室温での硬化)が、本発明の歯科材料に対して望ましいかに依存して、開始剤は選択される。
【0052】
ベンゾフェノン、ベンゾイン、および、その誘導体またはα−ジケトンもしくはその誘導体(例えば、9,10−フェナントレンキノン、1−フェニルプロパン−1,2−ジオン、ジアセチルまたは4,4−ジクロロベンジル)が、ラジカル光重合の開始剤として、例えば、用いられる。好ましくは、カンファーキノンまたは2,2−メトキシ−2−フェニルアセトフェノン、そして、特に好ましくは、α−ジケトンが、アミン(例えば、4−(ジメチルアミノ)安息香酸エステル(例えば、p−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル)、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチル−対称−キシリジンまたはトリエタノールアミン)と組み合わせて、還元剤として用いられる。Norrish I型光開始剤もまた、特に適切であり、とりわけ、アシル−またはビスアシルホスフィンオキシドあるいはモノアシルトリアルキルゲルマニウム化合物またはジアシルジアルキルゲルマニウム化合物(例えば、ベンゾイルトリメチルゲルマニウム、ジベンゾイルジエチルゲルマニウムおよびビス(4−メトキシベンゾイル)ジエチルゲルマニウム)が適切である。異なる光開始剤の混合物(例えば、カンファーキノンおよび4−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステルと組み合わせたジベンゾイルジエチルゲルマニウム)もまた、用いられ得る。
【0053】
熱硬化のための開始剤として適切なものは、例えば、ベンゾピナコールまたは2,2’−ジアルキルベンゾピナコールである。
【0054】
室温で実行される重合のための開始剤として、酸化還元開始剤の組み合わせ(例えば、ベンゾイル過酸化物と、N,N−ジメチル−対称−キシリジンまたはN,N−ジメチル−p−トルイジンとの組み合わせ)が、代表的に用いられる。加えて、過酸化物および還元剤(例えば、アスコルビン酸、バルビツレート、またはスルフィン酸)からなる酸化還元系もまた、特に適切である。
【0055】
開始剤の全量は、各々の場合において、歯科材料の全重量に対して、代表的には、0.01重量%〜10重量%、好ましくは、0.1重量%〜3.0重量%、そして、特に好ましくは0.1〜1.0重量%である。
【0056】
さらに、本発明の歯科材料は、必要に応じて、機械的特性を改善するか、または粘度を調節するために、有機粒子または無機粒子を充填され得る。充填材は、好ましくは、5nm〜2,000μmの粒子サイズ、好ましくは、10nm〜1,000μmの粒子サイズである。好ましい無機粒子充填材は、酸化物(例えば、ZrOならびにTiOまたはSiO、ZrOおよび/もしくはTiOの混合酸化物)をベースとするアモルファスの球形物質、ナノ粒子、またはミクロ微細充填材(例えば、熱分解法ケイ酸および沈殿法ケイ酸)ならびに小充填材(例えば、0.01〜1μmの平均粒子サイズを有する、水晶、ガラスセラミック、およびガラス粉末)ならびにX線不透過充填材(例えば、三フッ化イッテルビウムおよびナノ粒子化タンタル(V)酸化物または硫酸バリウム)である。異なる充填材の混合物もまた、充填材として用いられ得る。本発明の意味の範囲内において、ナノ粒子充填材は5〜10nmの粒子サイズを有する充填材を意味し、ミクロ微細充填材は、10nm〜100nmの粒子サイズを有する充填材を意味し、そして小充填材は10〜1,000nmの粒子サイズを有する充填材を意味する。
【0057】
必要に応じて、上記の歯科材料が、接着剤またはコーティング材料であるときは、好ましくは、本発明の歯科材料は、溶媒または溶媒の混合物を含有し得る。水、エタノールならびに水とアセトンおよび/またはエタノールとの混合物が好ましい。
【0058】
必要に応じて、本発明の歯科材料は、一つ以上のさらなる添加剤(例えば、安定化剤、芳香剤、着色剤、殺菌剤、フッ化物イオン放出添加剤、光学的光沢剤、可塑剤およびUV吸収剤)を含有し得る。
【0059】
ラジカル重合可能な、大環状ポリエーテルおよび大環状ヘテロ類縁ポリエーテルは、例えば、純粋な形態で、歯科用組成物に組み入れられ、あるいはコンポジットまたはセメントの場合において、モノマー中の液剤として組み入れられ、接着剤またはコーティング材料の場合においては、適切な溶媒中の液剤として組み入れられ得る。このような組み入れは、好ましくは、通常の分散法(例えば、撹拌または混練)により実行される。
【0060】
代表的な実施形態において、本発明の歯科材料は以下:
(i)0.05重量%〜40重量%、好ましくは1重量%〜30重量%、そして、特に好ましくは、1重量%〜20重量%のラジカル重合可能な、大環状ポリエーテルおよび/または大環状ヘテロ類縁ポリエーテル
(ii)0.01重量%〜10重量%、特に好ましくは、0.1重量%〜3.0重量%のラジカル重合のための開始剤
(iii)0重量%〜80重量%、好ましくは、0重量%〜60重量%、そして、特に好ましくは5重量%〜50重量の、少なくとも一つの、成分(i)とは異なるラジカル重合可能なモノマー
(iv)0重量%〜75重量%、応用に依存して、好ましくは0重量%〜20重量%(接着剤およびコーティング材料の場合において)または20重量%〜75重量%(セメントおよびコンポジットの場合において)の充填材
(v)0重量%〜95重量%、好ましくは、0重量%〜70重量%、そして、特に好ましくは5重量%〜50重量%の溶媒(接着剤またはコーティング材料の場合において)
を、上記の歯科材料の全重量に対して、各々の場合において、含有する。
【0061】
実施例に対する参照と共に、本発明は、以下に、より詳細に説明される。
【実施例】
【0062】
実施例1:
4−(メタクリロイルオキシメチル)ベンゾ−15−クラウン−5(MA15−C5)の合成
重合可能なクラウンエーテルMA15−C5の合成を文献(A.J.Varma,T.Majewicz,J.Smid,J.Polym.Sci.,Polym.Chem.Ed.,17(1979)1573)に類似して、2段階で実施した。
【0063】
第一段階:4−ヒドロキシメチルベンゾ−15−クラウン−5
【0064】
【化15】

水素化ホウ素ナトリウム(2.49g、65mmol)を、撹拌しながら、4−ホルミルベンゾ−15−クラウン−5(16.24g、54.8mmol)(A.J.Varma,J.Smid,J.Polym.Sci.,A−1,15(1977)1189に従って、調製した)の300ml無水エタノール中の懸濁液に加え、この混合物をさらに24時間反応させた。この反応を300mlの水でクエンチし、そして15mlの25%酢酸で中和した。この水相を、各々の場合において、125mlのクロロホルムを用いて4回抽出し、そして合わせた有機相を無水NaSOで乾燥させ、そしてろ過した。このろ液を、ロータリーエバポレータで濃縮し、そして、高真空下で乾燥した。15.60gの黄色がかった油状物を得、これを、10mlのアセトン中に溶解させ、そして、シリカゲル(シリカゲル60,0.035−0.070 mm,60g,φ 50mm;THF,溶離液 体積: 600ml)で充填したフリットガラスフィルターでろ過した。さらなる濃縮および高真空での乾燥の後、14.88g(49.9mmol、収率91%)の無色の油状物が得られた(徐々に白色固体へと固化した、HPLC純度:95.7%)
HNMR(CDCl,400MHz):δ=2.75(b,1H,OH),3.75(s,8H,CHO(CO)CH),3.87(q,4H,ArOCH),4.09(q,4H,ArOCCH),4.55(s,2H,CHAr),6.79−6.86(m,3H,2,5,6H−Ar)。
【0065】
IR(KBr):3431,2930,2875,1592,1515,1451,1426,1370,1356,1325,1287,1259,1236,1161,1128,1088,1045,960,935,880,844,825,804,784,745cm−1
【0066】
第二段階:4−(メタクリロイルオキシメチル)ベンゾ−15−クラウン−5(MA15−C5)
【0067】
【化16】

4−ヒドロキシメチルベンゾ−15−クラウン−5(7.68g,25.7mmol)、トリエチルアミン(2.61g(25.7mmol)および4−ジメチルアミノピリジン、122mg,1.0mmol)の150mlのジクロロメタン中の溶液を−5℃へと冷却し、そして、その後、30mlのジクロロメタン中のメタクリル酸無水物(3.97g,25.7mmol)およびBHT(ブチル化ヒドロキシトルエン)(10mg)の溶液を、撹拌しながら、10分かけて、滴下した。この透明な、無色の溶液を、−5℃でさらに1時間撹拌し、そして室温で18時間撹拌し、そして、その後、各回100mlの水を用いて3回洗浄した。合わせた水相を、各回50mlのジクロロメタンを用いて2回抽出し、そして合わせた有機相を無水NaSOで乾燥させた。これをろ過し、5mgのBHTを加えた後、ロータリーエバポレータで濃縮し、そして高真空下で乾燥した。
【0068】
8.95gの明るい赤みがかった固体を得た。この固体を10mlのジクロロメタンに溶解し、そしてMPLC(シリカゲル60、0.015−0.040mm、85g、φ40mmx15cm;溶離液:n−ヘキサン/酢酸エチル1:1)により精製した。5.68g(15.5mmol;収率60%)の白色固体(HPLC純度:97.4%)を得た。融点:75.2℃−76.6℃。
【0069】
HNMR(CDCl,400MHz):δ=1.95(s,3H,CH),3.77(s,8H,COCOC),3.91(q,4H,CCHOAr),4.14(q,4H,CHOAr),5.10(s,2H,CHOC=O),5.57および6.12(s,2x1H,=CH),6.83-6.94(m,3H,2,5,6H−Ar)。
【0070】
IR(KBr):2927,2871,1712,1635,1592,1524,1457,1431,1343,1316,1268,1246,1165,1133,1116,1081,1054,1007,979,953,932,896,876,815,798,786,742,639cm-1
【0071】
実施例2:
2−[4,7,10−トリス−(2−tert−ブトキシカルボニルアリル)−1,4,7,10−テトラアザシクロドデカ−1−イルメチル]アクリル酸−tert−ブチルエステル(V−621)の合成
【0072】
【化17】

サイクレン(1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン)(8.6g,0.05mol)を250mlの無水アセトニトリル中に溶解し、炭酸カリウム(27.6g,0.2mol)を加え、そして、その後、125mlの無水アセトニトリル中の2−ブロモメチルアクリル酸tert−ブチルエステル(44.2g,0.2mol)および20mgのBHTの溶液を、撹拌しそして氷浴中で冷却しながら滴下した。この混合物を室温でさらに終夜反応させ、そして、その後、析出した沈殿物を吸引して除去し、250mlの脱イオン水中に懸濁させ、そして1時間激しく撹拌した。吸引により除去をさらに行い、続いて、水で洗浄し、そして真空乾燥オーブン中、50℃で乾燥した。29.0g(収率79%)の白色固体を得た(融点:121−122℃)。
【0073】
HNMR(CDCl,400MHz):δ=1.49(s,36H,CH),2.58(s,16H,CHCH),3.10(s,8H,CHC=),5.97および6.12(s,2x4H,CH=)。
【0074】
IR(KBr):2976,2950,2810,1701,1636,1477,1453,1434,1389,1368,1354,1318,1295,1257,1129,1078,1017,992,975,954,940,922,852,823,761,679,648cm−1
【0075】
実施例3:
1−アクリロイル−4,7,10−トリス(tert−ブトキシカルボニル-メチル)−1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン(MA−439)の合成
【0076】
【化18】

新たに蒸留したアクリル酸塩化物(1.41g,15.6mmol)の10mgのBHTおよび200mlのジクロロメタン(4Åモレキュラーシーブスで乾燥)中の溶液を、1,4,7−トリス(tert−ブトキシカルボニル-メチル)−1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン臭化水素酸塩(8.45g,14.2mmol)、水酸化ナトリウム(1.25g、31.2mmol)および60mlの脱イオン水の懸濁液に、−5℃〜0℃で、90分間かけて、滴下した。滴下の終了後、この反応混合物を0℃で、1時間撹拌し、その後、氷浴を除き、そして、さらに3時間、室温で撹拌した。この水相を10gのNaClを加えて、飽和させ、各場合において、40mlのジクロロメタンを用いて、2回抽出した。合わせた有機相を無水NaSOで乾燥させ、ろ過し、そして、5mgのBHTを加えた後、ロータリーエバポレータで濃縮し、そして、高真空において、さらに乾燥した。8.23gの高粘度の粗生成物を得、これを、最初にアセトンを溶離液として用い、その後、n−ヘキサン/酢酸エチル1:1を溶離液として用いるカラムクロマトグラフィー(シリカゲル60、0.035−0.070mm)で精製した。BHTを添加を伴って、濃縮し、そして50℃で乾燥した後、4.77g(8.4mmol,収率59%)の高粘性の無色油状物を得た(HPLC純度:96%)。
【0077】
H−NMR(CDCl,400MHz):δ=1.44,1.45および1.46(s,3x9H,CH),2.70−2.77(m,8H,O=CCHNCNCHC=O),2.96および3.02(m2x2H,CCHNC=O),3.27,3.30および3.32(s,3x2H,全てのCHC=O),3.61および3.75(t,2x2H,CNC=O),5.60−5.65,6.28−6.35および6.56−6.65(m,3x1H,CH=CH)。
【0078】
IR(ニート):2976,2931,2824,1722,1647,1610,1440,1392,1366,1290,1248,1216,1146,1051,979,950,914,847,795,744cm−1
【0079】
実施例4:
{4,7−ビス−tert−ブトキシカルボニルメチル−10−[6−(2−メチル−アクリロイルアミノ)ヘキサノイル]−1,4,7,10−テトラアザシクロドデカ−1−イル}酢酸tert.−ブチルエステル(MA−442)の合成
【0080】
【化19】

6−(メタクリロイルアミノ)カプロン酸(2.80g,14.0mmol)、1,4,7−トリス(tert−ブトキシカルボニルメチル)−1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン臭化水素酸塩(7.75g,13.0mmol)、N,N−ジメチルアミノピリジン(1.83g,15.0mmol)および5mgのBHTの、60mlのジクロロメタン中の溶液を、−5℃に冷却し、そして、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(2.88g,15.0mmol)を撹拌しながら、数回に分けて加えた。反応を完了させるために、この混合物を−5℃で、2時間撹拌し、そして室温で終夜撹拌した。その後、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(1.00g,6.44mmol)およびN,N−ジメチルアミノピリジン(0.6g,4.9mmol)を各回ごとに2時間おきに、さらに3回加え、そして、最後に、6時間撹拌した。この溶液を、各場合において、50mlの飽和NaCl水溶液で3回洗浄し、無水NaSOで乾燥し、ろ過し、5mgのBHTを加えた後、ロータリーエバポレータで濃縮し、そして、高真空下で、乾燥した。10.3gの黄色がかった油状物を得、これをクロマトグラフィー(シリカゲル60、0.015−0.040mm、アセトン)で2回精製した。このアセトンを、5mgのBHTを加えた後、ロータリーエバポレータで再度留去し、そして生成物を高真空において、乾燥した。6.13g(8.8mmol、収率68%)の黄色の、高粘性油状物を得た(HPLC純度:95%)。
【0081】
H−NMR(CDCl,400MHz):δ=1.31−1.72(m,6H,(CCHN,1.46(s,27H,t−Bu),1.96(s,3H,CHC=),2.32(t,2H,CHCHC=O)2.73,(b,6H,CHN),2.81,2.89および2.98(b,3x2H,CHN),3.27および3.32(b,2x4H,CHN),3.54および3.66(b,2x2H,CHN),5.30および5.69(s,2x1H,CH=),6.19(b,1H,NH)。
【0082】
IR:3320,2970,2931,2860,1724,1619,1530,1455,1392,1366,1305,1216,1147,934,920,846,744cm−1
【0083】
実施例5:
溶液中でのMA15−C5のラジカル単独重合
モノマーMA15−C5(0.05mol/l)をトルエン中で、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN、2.0mol%)を用いて、65℃で重合させた。15時間後、重合を終了し、重合成分を、一定量のn−ヘキサンから10回析出させ、ろ別し、そして、その重量が一定になるまで高真空において乾燥した。白色ポリマーを収率93%で得た。このポリマーの構造は、Hおよび13C−NMR分光法により確定した:
【0084】
【化20】

H−NMR(400MHz,CDCl,δppm):0.73−1.16(H,m,3H),1.78−2.50(H,m,2H),3.71(H,H,H,H,s,8H),3.84(H,H,s,4H),4.07(H,H,s,4H),4.80(H,s,2H),6.80(H,H,H,m,3H)。
13C−NMR(100MHz,CDCl,δppm):16.7+18.9C,45.0C,66.8C,66.9−71.1C−C,113.7C,114.6C,121.8C,128.3C,149.0C+C,177.1C
【0085】
実施例6:
ラジカル重合における反応性を決定するための架橋ラジカル重合
モノマーおよび溶媒(それぞれ、表1において与えられる)および1%のAIBNの均一な混合物をSchlenk容器中で調製し、そして、この混合物にアルゴンを通じることにより、20分間脱気した。その後、この重合バッチを恒温装置中で65℃まで過熱した。3次元の硬いゲルが形成した時間を、ゲル化時間として決定した。
【0086】
【表1】

この実施例は、MA−442(重合可能な基がN−ヘテロ類縁クラウンエーテル環にスペーサーを介して結合している)のラジカル重合能が、MA−439(メタクリロイル基が直接上記の環に共有結合的に結合している)のラジカル重合能より、明らかに、より大きいことを示している。
【0087】
実施例7:
MA15−C5をベースとする象牙質接着剤の調製
ウシの歯の象牙質における象牙質接着性を研究するため、表2に与えられる組成を有する接着剤を調製した。
【0088】
【表2】

ウシの歯を、プラスチック製の円筒に埋め込み、象牙質とプラスチックが同じ水準になるようにした。37%のリン酸を用いる、15秒間のエッチングの後、これらを、水で完全に洗浄した。その後、上記の組成を有する接着剤の層を、マイクロブラシでブラシをかけ、短時間、空気送風機で送風して、溶媒を除去し、そして、40秒間ハロゲンライト(Astralis(登録商標)7, Ivoclar Vivadent AG)で露光した。Tetric(登録商標)Ceram(Ivoclar Vivadent AG)のコンポジットの円筒を、各々1mm〜2mmの二つの層における、接着剤の層上へと重合させた。その後、試験片を37℃で24時間保存し、そして、接着ずれ強度を、ISOガイドライン「ISO 2003−ISO TR 11405: Dental Materials Guidance on Testing of Adhesion to Tooth Structure」に従い、14.8MPa(この数値は、良好な象牙質接着に対応する)で測定した。
【0089】
実施例8:
MA15−C5をベースとするコンポジットセメントの調製
下記に示される表3にしたがって、コンポジット固定セメントを、重合可能なクラウンエーテルMA15−C5(セメントA)とのジメタクリレート混合物、一官能基化ベンジルメタクリレート(セメントB、比較例)とのジメタクリレート混合物、およびMA15−C5とホスホン酸モノマー(セメントC)との混合物とのジメタクリレート混合物をベースとして、そして、各々の場合において、光開始剤としての、カンファーキノンとp−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステルとの混合物もまたベースとして、「Exakt」回転ミル(Exakt Apparatebau, Norderstedt)を用いて、調製した。対応する試験片をこの材料から調製し、歯科用光源(Spectramat(登録商標), Ivoclar Vivadent AG)を用いて3分間の照射を2回行い、そして硬化させた。曲げ強度および曲げE係数は、ISO標準ISO−4049(Dentistry - Polymer−based filling, restorative and luting materials)に従い、測定した。
【0090】
【表3】

【0091】
【表4】

重合可能なクラウンエーテルMA15−C5をベースとするセメントA、およびMA15−C5とホスホン酸モノマーとの混合物をベースとするセメントCが、セメントB(クラウンエーテルおよびホスホン酸モノマーを含まない、慣用的なセメント)と比較して、同等の機械的特性をもたらし、したがって、極性クラウンエーテルモノマーによる減損がないことは、表4から示され得る。
【0092】
実施例9:
MA15−C5をベースとするコンポジットの調製
以下に示される表5に従い、ジメタクリレート混合物を原料にして、重合可能なクラウンエーテルMA15−C5を含有させ(コンポジットA)、または一官能基化ベンジルメタクリレートを含有させ(コンポジットB、比較例)、そして、カンファーキノン(CQ)およびp−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル(EMBO)の混合物を光開始剤として含有させ、LPM 0.1 SP 混練機(Linden, Marienheide)を用いて、コンポジットを調製した。対応する試験片をこの材料から調製し、歯科用光源(Spectramat(登録商標), Ivoclar Vivadent AG)を用いて3分間の照射を2回行い、そして硬化させた。曲げ強度および曲げE係数は、ISO標準ISO−4049(Dentistry - Polymer−based filling, restorative and luting materials)に従い、測定した(表6)。
【0093】
【表5】

【0094】
【表6】

重合可能なクラウンエーテルMA15−C5をベースとするコンポジットAが、コンポジットB(クラウンエーテルを含まない、慣用的なコンポジット)と比較して、同等の機械的特性をもたらし、したがって、極性クラウンエーテルモノマーによる通常のコンポジット特性の減損がないことは、表6から示され得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科材料であって、該歯科材料の全重量に対して少なくとも0.05重量%の、ラジカル重合可能な大環状ポリエーテルまたはラジカル重合可能な大環状ヘテロ類縁ポリエーテルのうちの少なくとも一つを含有する、歯科材料。
【請求項2】
請求項1に記載の歯科材料であって、ここで、前記ラジカル重合可能な、大環状ポリエーテルまたは大環状ヘテロ類縁ポリエーテルは、一般式I MC−(SP−PG)に従い、ここで
MCは、n回置換された
(a)一般式IIa
【化23】

のクラウンエーテルまたはへテロ類縁クラウンエーテルの残基
あるいは、
(b)式IIb
【化24】

のクリプタンドの残基に対応し、
式中、
xは、各々の場合において、互いに独立して、O、SおよびNRから選択され、ここで、Rは、互いに独立して、H、残基SP−PG、または別の有機残基を意味し;
Yは、互いに独立して、C〜Cアルキレン残基から選択され、
Zは、各々の場合において、互いに独立して、C〜Cアルキレン、C〜C10アリーレンおよびC〜Cシクロアルキレン残基から選択され;
aは、3〜10の整数であり、そして
bは、互いに独立して、1〜3の整数であり;
SPは、互いに独立して、結合基であるか、または省略され、
PGは、ラジカル重合可能な基であり、そして
nは、1〜8の整数であり;
ここで、SP−PGおよび/またはPGは、MCに、少なくとも一つのZ残基を介して結合し、そしてX=NRの場合には、少なくとも一つのN原子を介して、付加的か、または独占的にMCに結合する、歯科材料。
【請求項3】
請求項2に記載の歯科材料であって、ここで、MCが前記式IIaに従い、そして前記X基がO原子またはO原子およびS原子の組み合わせである、歯科材料。
【請求項4】
請求項3に記載の歯科材料であって、ここで、(a+1−n)個のZ残基がエチレン残基であり、そしてn個のZ残基がPG−および/またはSP−PG−置換C〜C10アリーレンおよび/またはC〜Cシクロアルキレン残基、好ましくはPG−および/またはSP−PG−置換フェニレンおよび/またはシクロヘキシレン残基である、歯科材料。
【請求項5】
請求項2に記載の歯科材料であって、ここで、MCが、前記式IIaに従い、そして前記X基が、NR基またはO原子とNR基の組み合わせである、歯科材料。
【請求項6】
請求項5に記載の歯科材料であって、ここで、n個のNR基におけるRが、PGおよび/またはSP−PG残基に対応し、そして全てのZ残基がエチレン残基である、歯科材料。
【請求項7】
請求項2に記載の歯科材料であって、ここで、MCが前記式IIbに従い、前記X基がO原子であり、前記Y残基がエチレン残基であり、(2b+2−n)個のZ残基が、エチレン残基であり、そしてn個のZ残基がPG−および/またはSP−PG−置換C〜Cアルキレン、C〜C10アリーレンおよび/またはC〜Cシクロアルキレン残基であり、好ましくは、PG−および/またはSP−PG−置換フェニレンおよび/またはエチレン残基である、歯科材料。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の歯科材料であって、ここで、前記ラジカル重合可能な基PGが、ビニル、アリル、および/または(メタ)アクリロイル基である、歯科材料。
【請求項9】
請求項2〜8のいずれか一項に記載の歯科材料であって、ここで、前記結合基SPが、式−R−Z−R−Z−に従い、式中、ZおよびZは同一であるか、異なっており、かつ各々の場合において、−O−、−CO−O−、−O−CO−、−CO−NH−、−NH−CO−、−O−CO−NH−または−NH−CO−O−を意味し、あるいは、ZおよびZのうち一つまたは両方が存在せず、そしてRおよびRが同一であるか、異なっており、かつ、各々の場合において、C〜C10アルキレン残基を意味し、またはRおよびRのうち一つまたは両方が存在しない、歯科材料。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の歯科材料であって、該歯科材料が、接着剤、コーティング材料、セメントまたはコンポジットである、歯科材料。
【請求項11】
請求項10に記載の歯科材料であって、該歯科材料が、接着剤またはコーティング材料であり、そして以下:
(i)0.05重量%〜40重量%、好ましくは1重量%〜30重量%、そして、特に好ましくは、1重量%〜20重量%の、ラジカル重合可能な、大環状ポリエーテルおよび/または大環状ヘテロ類縁ポリエーテルのうちの少なくとも一つ
(ii)0.01重量%〜10重量%、好ましくは、0.1重量%〜3.0重量%のラジカル重合のための開始剤
(iii)0重量%〜80重量%、好ましくは、0重量%〜60重量%、そして、特に好ましくは5重量%〜50重量の、少なくとも一つの、成分(i)とは異なるラジカル重合可能なモノマー
(iv)0重量%〜20重量%の充填材、ならびに
(v)0重量%〜95重量%、好ましくは、0重量%〜70重量%、そして、特に好ましくは5重量%〜50重量%の溶媒
を、各々の場合において、該歯科材料の全重量に対して含有する、歯科材料。
【請求項12】
請求項10に記載の歯科材料であって、該歯科材料が、セメントまたはコンポジットであり、そして以下:
(i)0.05重量%〜40重量%、好ましくは1重量%〜30重量%、そして、特に好ましくは、1重量%〜20重量%の、ラジカル重合可能な、大環状ポリエーテルおよび/または大環状ヘテロ類縁ポリエーテルのうちの少なくとも一つ
(ii)0.01重量%〜10重量%、好ましくは、0.1重量%〜3.0重量%のラジカル重合のための開始剤
(iii)0重量%〜80重量%、好ましくは、0重量%〜60重量%、そして、特に好ましくは5重量%〜50重量の、少なくとも一つの、成分(i)とは異なるラジカル重合可能なモノマー、および
(iv)20重量%〜75重量%の充填材、
を、各々の場合において、該歯科材料の全重量に対して含有する、歯科材料。
【請求項13】
請求項1〜10のうちの一項で定義される、ラジカル重合可能な、大環状ポリエーテルまたは大環状ヘテロ類縁ポリエーテルの、歯科材料の調製のための、使用。
【請求項14】
歯科工学における使用のための組成物であって、該組成物は、請求項1〜10のうちの一項で定義される、ラジカル重合可能な、大環状ポリエーテルまたは大環状ヘテロ類縁ポリエーテルを含有する、組成物。
【請求項15】
歯科学における使用のための組成物であって、該組成物は、請求項1〜10のうちの一項で定義される、ラジカル重合可能な、大環状ポリエーテルまたは大環状ヘテロ類縁ポリエーテルを含有する、組成物。


【公開番号】特開2011−46704(P2011−46704A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−186692(P2010−186692)
【出願日】平成22年8月23日(2010.8.23)
【出願人】(501151539)イフォクレール ヴィヴァデント アクチェンゲゼルシャフト (54)
【氏名又は名称原語表記】Ivoclar Vivadent AG
【住所又は居所原語表記】Bendererstr.2 FL−9494 Schaan Liechtenstein
【Fターム(参考)】