説明

重合性デンドリマー及び重合性樹脂組成物

【課題】粘度が低くて取り扱いが容易であり、加工精度に優れた重合性樹脂組成物及びそれに利用可能な重合性デンドリマーを提供する。
【解決手段】本発明の重合性デンドリマーは、重合可能なビニル基を有するアルケニルカルボン酸が末端官能基に結合している。また、本発明の重合性樹脂組成物は、本発明の重合性デンドリマーと、当該重合性デンドリマーと共重合可能な希釈剤と、重合開始剤とを含有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー照射によって硬化する重合性デンドリマー及び重合性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線や電子線等のエネルギー照射によって硬化する樹脂は、様々な産業分野において利用されている。例えば、光照射によって硬化する光硬化性樹脂は、リソグラフィーのための材料として電子デバイス作製等に利用されている。近年、電子デバイスの構造はますます微細化しており、光硬化性樹脂を用いたリソグラフィー技術において、加工精度の更なる向上が求められている。
【0003】
従来、光リソグラフィーに用いられる重合性樹脂組成物としては、光化学反応を起こす高分子樹脂(プレポリマー)と、プレポリマーの希釈剤としての多官能性の低分子(モノマー)と、光化学反応を開始させるための開始剤とから構成されているものがある(例えば特許文献1〜3参照)。
【特許文献1】特開2001−270973号公報
【特許文献2】特開平9−5997号公報
【特許文献3】特開平10−60655号公報
【0004】
プレポリマーには、アクリル酸/1,6−ヘキサンジオール/アクリル酸(下式a)、無水フタル酸/プロピレンオキサイド/アクリル酸(下式b)、トリメリット酸/ジエチレングリコール/アクリル酸(下式c)等の比較的大きな分子量からなるポリエステル系紫外線硬化樹脂がよく用いられている。
【化1】

【0005】
この他、エポキシ基を光重合官能基として用いた重合性樹脂組成物も知られている(例えば特許文献4〜6)
【特許文献4】特開2002−302523号公報
【特許文献5】特開平7−316262号公報
【特許文献6】特開2001−139663号公報
【0006】
プレポリマーは極めて粘度が高く、塗布等の取り扱いが困難なため、プレポリマーと共重合可能な多官能性のモノマーが希釈剤として加えられることが多い。この希釈剤は、プレポリマーよりも低分子量であり、これをプレポリマーに加えることにより、粘度を下げることができる。なお、プレポリマーを溶剤で希釈することによっても粘度を下げることは可能となるが、これでは光照射前に溶剤が揮発して表面に凹凸が生じてしまい、光硬化における加工精度が低下するという問題が生ずる。また、プレポリマーを溶剤で希釈した場合、溶剤の揮発によって粘度が変化してしまい、取り扱いも困難となる。
【0007】
一方、本発明に関連する技術として、デンドリマーの末端に光重合性の官能基を導入し、これを重合性樹脂組成物のプレポリマーとして用いることが報告されている(特許文献7)。デンドリマーは色素との相溶性が良好であるため、色素が溶解した光硬化性樹脂とすることができる。そして、この光硬化性樹脂は多光子吸収反応を用いた多光子リソグラフィーが可能となり、このため、光硬化における加工精度が向上する。しかしながら、デンドリマーを重合性樹脂組成物のプレポリマーとして用いた場合における、デンドリマーの構造と粘度との関係については、何ら記載されていない。
【特許文献7】特開2003−327645号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1〜3に記載されているような従来の重合性樹脂組成物では、プレポリマーの粘度が大きいことによる取り扱いの困難性を緩和するため、プレポリマーと共重合可能な低分子量の希釈剤を用いて粘度を下げているものの、やはり粘度は高く、取り扱いが困難であった。また、光重合によって得られるポリマーは動きやすい長鎖状の分子構造をなすため、加工精度に劣るという欠点もあった。
【0009】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、粘度が低くて取り扱いが容易であり、加工精度に優れた重合性樹脂組成物及びそれに利用可能な重合性デンドリマーを提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、特異な分岐構造を有するデンドリマーが大きな分子量を有する割には粘度が小さいという性質に注目し、鋭意研究を行った結果、重合可能なビニル基を有するアルケニルカルボン酸がデンドリマーの末端官能基に結合した新規なデンドリマーをプレポリマーとして用いることにより、粘度が低くて取り扱いが容易であり、加工精度に優れた重合性樹脂組成物となることを見出し、本発明をなすに至った。
【0011】
すなわち、本発明の重合性デンドリマーは、重合可能なビニル基を有するアルケニルカルボン酸がデンドリマーの末端官能基に結合していることを特徴とする。
【0012】
アルケニルカルボン酸としては重合可能なビニル基を有するアルケニルカルボン酸であれば特に限定はないが、例えば下記カルボン酸(1)〜(3)が挙げられる。この他、メタクリル酸等も挙げられる。
【化2】

【0013】
本発明においてデンドリマーとは、高度に分岐した規則性の高い多分岐化合物をいい、規則性の低いハイパーブランチ(hyper -branched)化合物は含まない概念である。かかるデンドリマーの種類については、その末端に官能基を有するものであれば特に限定はない。入手の容易なデンドリマーとして、(1)コア分子としてのジカルボン酸のカルボキシル基を起点としてトリオールとジカルボン酸とが交互にエステル結合を形成して分岐状となったエステル型デンドリマー(例えば下記化合物(4)等)、(2)コア分子としてのジアミンのアミノ基を起点としてアミド結合と3級アミンとが交互に形成されて分岐状となったアミド・アミン型デンドリマー(例えば下記化合物(5)等)、(3)コア分子としてのジアミンのアミノ基を起点として3級アミンが形成されて分岐状となったイミン型デンドリマー(例えば下記化合物(6)等)等が挙げられる。
【化3】

【化4】

【化5】

【0014】
一般に規則性の正しいデンドリマーの場合、コア分子と呼ばれる分子構造の中心となる多官能化合物から、基本単位となる枝分かれ分子構造が繰り返し結合した分岐構造を有する。基本単位となる枝分かれ分子構造の規則的な繰り返しの数は世代(ジェネレーション)という概念用語で表される。この世代の数え方について一般的に広く認められた定義はないが、ここではコア分子を中心として基本単位となる枝分かれ分子構造がn回結合したデンドリマーを(n−1)世代のデンドリマーと定義する。デンドリマーの世代数が大きくなると、デンドリマーの合成経路が多工程になって複雑化するため、製造コストが高くなる。また、発明者らはデンドリマーの世代数が0世代であっても光照射によって充分硬くなり、重合性樹脂組成物のプレポリマーとして用いることができることを確かめている。このため、世代数は第0世代〜第4世代が好ましく、第0世代〜第2世代がさらに好ましい。
【0015】
本発明の重合性デンドリマーとして、下記一般式(7)で表わされる化合物(式中Rはビニル基を有するアルキル基)は、重合性樹脂組成物に利用した場合、粘度が低くて取り扱いが容易であり、加工精度に優れているため特に好適である。
【化6】

【0016】
本発明の重合性デンドリマーをプレポリマーとすることにより、重合性樹脂組成物を構成することができる。すなわち、本発明の重合性樹脂組成物は、重合可能なプレポリマーと、該プレポリマーと共重合可能な希釈剤と、重合開始剤とを含有する重合性樹脂組成物において、前記プレポリマーには、少なくとも請求項1乃至4のいずれか1項に記載の重合性デンドリマーが含まれていることを特徴とする。
【0017】
上述したように、本発明の重合性デンドリマーは粘度が小さいため、これをプレポリマーとし、プレポリマーと共重合可能な希釈剤と重合開始剤とを混合して重合性樹脂組成物とすれば、粘度が低くて取り扱いが容易となる。また、発明者らの試験結果によれば、加工精度にも優れている。これは、重合性デンドリマーが高分子量である割にはコンパクトにまとまった形状をしているため、存在位置の動きが長鎖の化合物よりも少ないことによるものと推定される。
【0018】
プレポリマーと希釈剤との配合割合は質量比で5:95〜50:50とされていることが好ましく、更に好ましいのは10:90〜40:60であり、最も好ましいのは15:85〜35:65である。プレポリマーの配合割合が少ないと光照射によって重合したポリマーの硬度が低下する。また、プレポリマーの配合割合があまり多くなると、粘度が高くなり、取り扱いが困難となる。
【0019】
希釈剤としては、アクリレート基等、重合可能な官能基を1〜3個有する重合性化合物であることが好ましく、さらには低粘度で、溶解性が良好であり、低揮発性のものが好ましい。重合可能な官能基を複数有する多官能性の希釈剤は、架橋性が大きく反応後に硬化物の構造の一部となるため、特に好ましい。上記希釈剤として、具体的には、2−エチルヘキシルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリロイルフォスフェート、テトラヒドロフルフリールアクリレート、ジシクロペンテニルオキシアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、1,3−ビス(3'−アクリルオキシエトキシ−2'−ヒドロキシプロピル)−5,5−ジメチルヒダントイン、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートなどを挙げることができる。
【0020】
これらの中でも、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレートが特に好ましい。
【0021】
重合開始剤はビニル基を光重合させるために一般的に用いられているラジカル重合開始剤を用いることができる。こうしたラジカル重合開始剤としては、紫外線を効率よく吸収してラジカル反応を開始しやすく、また、上記プレポリマーおよび上記希釈剤への溶解性が高く、腐食性および変色性が低いものが好ましい。上記ラジカル開始剤として、具体的には、4,4'−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4'−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4−(ジ−n−ブチルアミノ)−4'−(ジエチルアミノ)スチルベン、ビアセチル、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、テトラメチルチウラムスルフィド、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキサイドなどを挙げることができる。また、下記化学式(8)及び化学式(9)のラジカル重合開始剤を用いることも好ましい。これらのラジカル開始剤は、強度の弱い光に対しても効率よくラジカルを発生するため、高感度の重合性樹脂組成物とすることができる。なお、ラジカル重合開始剤は重合開始のためのきっかけとなるラジカルを発生させるものであり、触媒的に少量配合される。
【化7】

【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
<重合性デンドリマーの合成>
(実施例1)
実施例1では、cis-1,3-O-Benzylideneglycerol(10)を出発物質とし、下記反応式に従って重合性デンドリマー(13)を合成した。以下その合成方法を詳述する。
【化8】

【0023】
cis-1,3-O-Benzylideneglycerol(10)(5.0g,27.7mmol)とコハク酸(1.55g,13.1mmol)と4-ジメチルアミノピリジン(0.36g,2.9mmol)を60mLのジクロロメタンにマグネティックスターラーにて撹拌しながら溶解し、更に1-Ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide Hydrochloride(5.8g,30.3mmol)を加え、反応容器を窒素置換した。0℃(氷冷)で3時間撹拌した後、室温で一晩撹拌した。反応液を1/20Nの塩酸で3回洗浄し、次いで飽和炭酸ナトリウム水溶液100mLで2回洗浄し、さらに水100mLで1回洗浄した後、有機溶媒相を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。その後、デカンテーションで硫酸ナトリウムを除去し、減圧下で溶媒を留去させた。こうして得られた白色固体をクロロホルム/メタノール混合溶液にて再結晶精製した。析出した白色結晶を吸引濾過で取り出し、真空乾燥し、第一晶を得た。さらに濾液を溶媒留去し、得られた白色固体を繰り返し同様に再結晶精製し、第二晶〜第四晶を得た。こうして第一晶〜第四晶までの合計5.05gの白色結晶を収率90%で得た。このものの1H−NMRは次の通りであり、ベンジリデン保護テトラヒドロキシ化合物(11)の構造を有すると同定された。
1H-NMR (CDCl3) δ(ppm)
2.81(s,4H,-CH2-CH2-) , 4.06〜4.14(m,4H,-CH2-CH-CH2-),
4.24〜4.30(m,4H,-CH2-CH-CH2-) , 4.70〜4.73(m,2H,-CH2-CH-CH2-),
5.53(s,2H,O-CH-O) , 7.30〜7.40(m,6H,Ph) , 7.47〜7.52(m,4H,Ph)
【0024】
さらに、吸引栓を備えたナス型フラスコに、上記ベンジリデン保護テトラヒドロキシ化合物(11)を0.75g(1.70mmol)入れ、脱水テトラヒドロフラン12mLを加えて溶解した。次いでこの溶液に10%Pd/Cを0.15g加え、さらに、濃塩酸50μLをメタノール2mLに溶解させた溶液を20μL加えた。そして、窒素を満たしたバルーンを三方コックを介してナス型フラスコに接続し、三方コックの残った口をアスピレーターに接続した。アスピレーターでフラスコ内を減圧した後、窒素を導入する操作を3回繰り返し、フラスコ内を窒素で置換した。次に窒素バルーンを水素で満たしたバルーンと交換し、同様の操作によってフラスコ内を水素で置換した。その後、室温下、マグネティックスターラーで溶液を1.5時間激しく撹拌した。その後、吸引濾過によってPd/Cを除去し、濾液の溶媒を減圧下留去し、真空ポンプで乾燥させることにより、無色粘性液体のテトラヒドロキシ化合物(12)を得た。このものの1H−NMRは次の通りである。
1H-NMR(CD3OD)δ(ppm)
2.69(s,4H,-CH2-CH2-), 3.61〜3.73(m,8H,-CH2-CH-CH2-) ,
4.85〜4.94(m,2H,-CH2-CH-CH2-)
【0025】
そして、上記テトラヒドロキシ化合物(12)(0.19g,0.71mmol)、アクリル酸(0.22g,3.1mmol)及び4−ジメチルアミノピリジン(0.04g,0.32mmol)を30mLのジクロロメタン中に入れ、マグネティックスターラーで撹拌し、更に1-Ethyl-3-(3-dimethyl
aminopropyl)carbodiimide Hydrochloride(0.64g,3.3mmol)を加え、反応容器内を窒素置換した。0℃で2時間撹拌した後、室温で12時間撹拌し、反応液を1/20Nの塩酸で3回洗浄し、次いで飽和炭酸ナトリウム水溶液100mLで2回洗浄した後、有機相を硫酸ナトリウムで乾燥させた。デカンテーションで硫酸ナトリウムを除去し、減圧下で溶媒留去し、無色液体の.12g得た。このものの1H−NMRは次の通りであり、ビニル基を有する重合性デンドリマー(13)の構造を有すると同定された。
1H-NMR(CDCl3)δ(ppm)
2.67(s,4H,-CO-CH2-CH2-CO-) , 4.22-4.33(m,4H,-CH2-CH-CH2-) ,
4.33-4.47(m,4H, -CH2-CH-CH2-), 5.29-5.42(m,2H, -CH2-CH-CH2-) ,
5.85-5.93(m,4H,-CH=CH2)6.07-6.21(m,4H,-CH=CH2),
6.38-6.50(m,4H,-CH=CH2
【0026】
(実施例2)
実施例2では、下記反応式に従い、上記実施例1における中間原料であるテトラヒドロキシ化合物(12)に4−ペンテン酸をエステル結合させて重合性デンドリマー(4)を合成した。
【化9】

【0027】
すなわち、まず実施例1と同じ方法でテトラヒドロキシ化合物(12)を得る。そして、テトラヒドロキシ化合物(12)(0.48g,1.8mmol)、4−ペンテン酸(0.74g,7.4mmol)及び4−ジメチルアミノピリジン(0.09g,0.74mmol)を20mLのジクロロメタンに入れ、マグネティックスターラーで撹拌し、更に1-Ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide Hydrochloride(1.5g,8.1mmol)を加え、反応容器内を窒素置換した。0℃で3時間撹拌した後、室温で12時間撹拌し、反応液を1/20Nの塩酸で3回洗浄し、次いで飽和炭酸ナトリウム水溶液100mLで2回洗浄した後、有機相を硫酸ナトリウムで乾燥させた。デカンテーションで硫酸ナトリウムを除去し、減圧下で溶媒留去し、無色液体を0.95g得た。このものの1H−NMRは次の通りであり、ビニル基を有する重合性デンドリマー(4)の構造を有すると同定された。
1H-NMR(CDCl3)δ(ppm)
2.33-2.48(m,16H,-CO-CH2-CH2-CH=), 2.65(s,4H,-CO-CH2-CH2-CO-),
4.13-4.21(m,4H,-CH2-CH-CH2-), 4.27-4.36(m,4H, -CH2-CH-CH2-)
4.98-5.11(m,8H,-CH=CH2), 5.22-5.30(m,2H, -CH2-CH-CH2-),
5.74-5.89(m,4H,-CH=CH2)
【0028】
<光重合性樹脂組成物の製造>
上記実施例2の重合性デンドリマー(4)を用い、以下のようにして光重合性樹脂組成物を製造した。
【0029】
(実施例3)
実施例3では、上記実施例2で合成した重合性デンドリマー(4)及び希釈剤としてのトリメチロールプロパントリアクリレート(以下「TPA」と略す)を25:75(重量比)で混合し、重合開始剤として4,4'−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンを0.5重量%加え、光重合性樹脂組成物を調製した。
【0030】
(比較例1〜3)
比較例1〜3では、プレポリマーとして重合性の官能基の数が3以上である東亜合成株式会社製のポリアクリレート(比較例1ではアロニックスM-7100、比較例2ではアロニックスM-8030、比較例3ではアロニックスM-8060)とTPAとを質量比25:75で混合し、さらに重合開始剤として4,4'−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンを0.5重量%加えたものを光重合性樹脂組成物とした。
【0031】
(比較例4〜6)
比較例4〜6では、プレポリマーとして東亜合成株式会社製の重合性ポリアクリレート(比較例4ではアロニックスM-7100、比較例5ではアロニックスM-8030、比較例6ではアロニックスM-8060)を用い、重合開始剤として4,4'−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンを0.5重量%加えたものを光重合性樹脂組成物とし、希釈剤は添加しなかった。
【0032】
(比較例7)
比較例7では、TPAに重合開始剤として4,4'−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンを0.5重量%加えたものを光重合性樹脂組成物とし、プレポリマーは添加しなかった。
【0033】
(比較例8)
比較例8では、プレポリマーとして実施例2の重合性デンドリマー(4)を用い、重合開始剤として4,4'−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンを0.5重量%加えたものを光重合性樹脂組成物とし、希釈剤は添加しなかった。
【0034】
上記実施例3及び比較例1〜8の光重合性樹脂組成物の粘度を測定した。粘度の測定は振動式粘度計(山一電機製 ビスコメイトVM-100A)を用いた。結果を表1に示す。
【表1】

【0035】
表1から、プレポリマーとして重合性デンドリマー(4)を用いた実施例3の光重合性樹脂組成物の粘度は、プレポリマーとして重合性ポリアクリレートを用いた比較例1〜6の光重合性樹脂組成物の粘度よりもはるかに低く、取り扱いが容易で塗布しやすいことが分かる。
【0036】
<光重合性樹脂組成物の光硬化試験>
上記実施例3及び比較例1〜8の光重合性樹脂組成物について、Brian H. Cumpston et al,Nature, vol.,Nature,vol.398,51-54頁(1999)及び特開2003−327645号公報段落0049〜0052に記載された方法に基づき、図1に示す光学装置を用い2光子吸収反応による光造形を実施した。この光学装置は、光源より近赤外フェムト秒レーザー(波長700nm、周波数80MHz、パルス幅<100フェムト秒)を矢印A方向にミラー1に向けて照射する。2光子リソグラフィーにおいては、2光子吸収過程で700nmの波長を有する光子を同時に2個吸収するため、半波長である350nmの紫外線領域の波長の吸収を励起できる。ミラー1に照射されたレーザーは、レンズ2を通過した後、ピンホール3内を通過する。続いて、上記レーザーはレンズ4を通過し、ビームスプリッター5によって分光される。分光された一部のレーザーは対物レンズ6(倍率80〜100倍、開口数NA=0.9)へ向けて照射される。対物レンズ6は、図中矢印B方向に上下移動することによって、レーザーの集光点を調節する。集光点が調節されたレーザーは、光重合性樹脂組成物8が塗布されたスライドガラス7へ照射される。スライドガラス7は図中の矢印x・y・z方向にそれぞれ移動することが可能であるため、光重合性樹脂組成物8に対して、3次元的な照射を行い、硬化反応を進めることもできるが、ここではビームを2次元で動かし、線間隔5μm、長さ100μm、線幅0.35μm以下のパターンを形成した。なお、ビームスプリッター5を介したスライドガラス7の反対側には、レンズ9およびCCDカメラ10が配置されており、光重合性樹脂組成物8に対する硬化反応の様子を観察しながら、対物レンズ6およびスライドガラス7を移動させることができる。
【0037】
上記光学装置を用い、実施例3の光重合性樹脂組成物をスライドグラスとカバーグラスとの間に挟んだ試料に対し、レーザー光を照射してパターン形成を行った。結果を図2に示す。この図から分かるように、2光子リソグラフィーによって線間隔5μmのパターンを明瞭に形成することができた。また、レーザー強度を4.2mW〜10.2mWの範囲で行ったところ、レーザー強度が小さいほど線幅が細くなることが分かった。一方、比較例1〜3の光重合性樹脂組成物を用いた場合には、粘度が高いためにスライドグラスとカバーグラスとの間に均一な光重合性樹脂組成物の皮膜を形成することが困難であり、パターンの形成も不明瞭なものとなった。また、比較例4〜6の光重合性樹脂組成物は極めて粘度が高いため、光照射を行うべき試料の作製自体が極めて困難であった。さらに、比較例7はプレポリマーが含まれていないため、光照射による硬化が不充分となった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は光リソグラフィーのための材料として電子デバイス作製等に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】2光子リソグラフィーに用いた光学装置の模式図である。
【図2】2光子リソグラフィーを行った表面の光学顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0040】
1…ミラー
2…レンズ
3…ピンホール
4…レンズ
5…ビームスプリッター
6…対物レンズ
7…スライドガラス
8…光重合性樹脂組成物
9…レンズ
10…CCDカメラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合可能なビニル基を有するアルケニルカルボン酸がデンドリマーの末端官能基に結合していることを特徴とする重合性デンドリマー。
【請求項2】
前記アルケニルカルボン酸におけるアルケニル基の炭素数は2〜4であることを特徴とする請求項1記載の重合性デンドリマー。
【請求項3】
重合性デンドリマーの繰り返しの分子構造の数を示す世代数は第0世代〜第4世代であることを特徴とする請求項1又は2記載の重合性デンドリマー。
【請求項4】
下記一般式(1)で表わされる化合物(式中Rはビニル基を有するアルケニル基)であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の重合性デンドリマー。
【化1】

【請求項5】
重合可能なプレポリマーと、該プレポリマーと共重合可能な希釈剤と、重合開始剤とを含有する重合性樹脂組成物において、
前記プレポリマーには、少なくとも請求項1乃至4のいずれか1項に記載の重合性デンドリマーが含まれていることを特徴とする重合性樹脂組成物。
【請求項6】
プレポリマーと希釈剤との配合割合は質量比で5:95〜50:50とされていることを特徴とする請求項5記載の重合性樹脂組成物。
【請求項7】
前記希釈剤は重合可能な官能基を1〜3個有する重合性化合物であることを特徴とする請求項5又は6記載の重合性樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−16154(P2007−16154A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−199853(P2005−199853)
【出願日】平成17年7月8日(2005.7.8)
【出願人】(000234166)伯東株式会社 (135)
【出願人】(301022471)独立行政法人情報通信研究機構 (1,071)
【Fターム(参考)】